(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は一般的な受動型モードロックレーザ発振器100を詳細に表している。発振器100は、発振器100のレーザキャビティのエンドミラーあるいは反射板となる可飽和吸収体110などの非線形素子110を備える。また、発振器100は、出力カップラミラー120、レーザ利得材130、および小型化のための1以上の折り返しミラー140−1、折り返しミラー140−2などを備える。レーザ利得材130は、1以上のポンピングダイオードによる方式など様々な方式でポンピングされる。ポンピングでは利得材130内の電子をより高いエネルギ準位にまで励起し、続いて低いエネルギ準位への転移が誘起され光子を発し、発振器100のキャビティモードを投入する。用語には、レーザキャビティを特徴づけているエンドミラー110および出力カップラミラー120の用語を使用することが多い。
【0013】
最先端の可飽和吸収体110は、吸収体として量子井戸構造を備えた半導体可飽和吸収体ミラー、あるいはSESAMSである。ここでは非線形素子110が可飽和吸収体であるとして動作原理を説明しているが、他の実施形態では可飽和利得素子など他の非線形素子を使用することもできる。本非線形素子では、増幅材あるいは吸収材を通過して伝搬する光が原子レベル、分子レベル、あるいは半導体バンド構造の密度を変化させ、その材の利得性、吸収性あるいは反射性を変化させる。
【0014】
SESAM110など非線形可飽和吸収体素子110は、低強度の入射光は吸収するが、光強度が飽和フルエンスF
sat,aと呼ばれる閾値に達する時飽和し、閾値を超える高強度の光を吸収する吸収性は失われる。この飽和を、可飽和吸収体110の活性化とも言う。飽和フルエンスは吸収体材の原子特性、分子特性およびスペクトル特性に依存し、数式 F
sat,a=hv/σ
aで求められる。この数式においてhv は光子エネルギであり、σ
aは吸収体材中央の吸収断面積である。一般的なF
sat,a値は、10μJ/cm
2から500μJ/cm
2である。吸収体の飽和エネルギE
sat,aは、吸収体の位置における飽和フルエンスF
sat,aおよび実効モード面積A
eff,aで求められ、E
sat, a=A
eff,a・F
sat,aを満たす。同様に、可飽和利得材についても、利得材の飽和フルエンスF
sat,gと飽和エネルギE
sat,gを結び付け、E
sat,g=A
eff,g・F
sat,gを満たす。この時、F
sat,g= hv/σ
gであり、このσ
gは利得材中央の利得断面積であり、A
eff,gは利得材の位置における実効モード面積である。未飽和の吸収体110は、光強度が飽和閾値未満であれば例えば入射光の1%から10%分を吸収する場合がある。しかし、ビーム強度が飽和閾値を超えれば、吸収体110は飽和し、その吸収率は1%未満にまで落ちる。
【0015】
発振器100およびそのポンピングダイオードが通電されると、キャビティモードとなり、光は可飽和吸収体エンドミラー110と出力カップラミラー120間を往復し始める。利得材130は1往復ごとに1増幅分光を増幅する。ポンピング力が弱くビームフルエンスが低ければ、利得材130の増幅分あるいは利得分は可飽和吸収体110の吸収分より少なく、発振器100はレーザ発振を始動しない。ポンピングし利得が増加したとき、増幅分が吸収分を超え、発振器100はレーザ発振を始動する。ビームフルエンスがF
sat,より充分低い限りにおいては、吸収体は動的作用も非線形作用も動作せず、レーザ発振は連続波モードで動作する。
【0016】
ポンピングし利得がさらに増加すると、ビームフルエンスはF
sat,aへと上昇する。このフルエンスでは、可飽和吸収体110の非線形性が活性化し、動的作用を起こす。この時、発振器100のキャビティモードの位相がランダムに変動する中、偶発的に構造的に同期され、フルエンスが飽和フルエンス閾値F
sat,aを超える高振幅位相同期パルスを生じると、可飽和吸収体110の吸収分は減少し、1往復ごとのこの位相同期パルスは利得材130により他のビームより強く増幅される。モードロックとも呼ばれる位相同期パルスの選択増幅により、レーザ発振器100において連続波モードではなくパルス動作が始動する。
【0017】
出力カップラミラー120は、反射作用中は入射レーザパルスの数パーセント分のみ通過させ、発振器100からレーザパルスを放出するよう設計されている。レーザパルスの反射分は再度往復し、再増幅され出力カップラミラー120に戻り、そこで出力カップラミラー120は再度レーザパルス分を通過させる。このプロセスが1往復ごとに繰り返されるため、レーザ発振器100はレーザパルス列を出力することとなる。このプロセスは、レーザ発振器100におけるモードロック動作の自己始動と言われることが多い。
【0018】
利得材のガラス、結晶などキャビティ内の材は、波長分散能を有し、その材内部を個々の速度で伝搬するパルスのスペクトル成分を生じさせる。この分散は、不所望にパルスを拡張または分散させ、モードロック閾値を高くする。そのため一般的に、分散プリズムペア、チャープミラーなどの補償素子をキャビティに備え、レーザキャビティ内の光分散を制御する。自己始動機構においても補償素子で補助可能である。
【0019】
分散性を数値化する有用な方法に「群遅延分散」、GDDがあり、
【数1】
で定義されることが多い。この時、λは光波長、cは光速度、n(λ)は波長依存性屈折率、Lはキャビティ内の光学経路長さである。光素子110から140のGDDおよび発振器100にある他の光素子のGDDのいずれも、測定などにより特定でき、設計から推測もできる。GDDを把握した上で、分散制御装置は発振器100の光素子の特定されたGDDに略等しい値およびその逆の値をGDDとしてキャビティ内で動作させる。このように設計されたキャビティでは、パルスが往復する間分散は殆どあるいは全く起こらず、上記の問題もなくレーザ発振器としての利用価値が高まる。
【0020】
分散補償では、非線形効果で起こる時変光位相変化によってパルスがさらに分散するのを防ぐ。キャビティが効果的に補償され、分散および非線形効果による時間的パルス分散が最小限に抑えられている時、キャビティ内のレーザパルスはソリトンと呼ばれ、レーザはソリトンモードロック状態で動作していると言う。
【0021】
図2は、可飽和吸収体110の活性化状態の遷移を表す。まず、活性化あるいはオープン状態になり、可飽和吸収体110の吸収率は短時間透明色値近くまで落ち、可飽和吸収体回復時間をかけて光を吸収できるレベルまで回復する。
【0022】
本受動型モードロックレーザ発振器100の設計には、2つの設計要件がある。発振器100は、モードロック動作を自己始動できることと、出力パルスを超短高強度レーザパルス型に成形できることが求められている。これらの要件は相反しかつ競合する。一方で、可飽和吸収体110が充分長い自己始動時間Tssの間オープン状態で、周期が異なる非同期キャビティモードが偶発的に列となり、その列による小変動を強パルスに増幅できれば、発振器は自己始動できる。自己始動に必要な可飽和吸収体回復時間Tssは、複数ある材特性に依存し、広く様々である。曲線(a)は、一般的なTss値が数十フェムト秒(fs)から数十あるいは数百ナノ秒の範囲におよび、例えば10fsから100nsの範囲、時には100fsから10nsの範囲、さらに500fsから10nsの範囲になることを示している。
【0023】
他方、可飽和吸収体110の可飽和吸収体回復時間が長くなるほど、増幅パルスは長くなる。そのため、第二の設計要件としては数十フェムト秒範囲のパルスなど、超短パルス型パルスの成形が要求され、同じく可飽和吸収体回復時間を超短パルス型パルスの成形ができるようパルス成形時間T
psを充分短くすることが必要となる。曲線(b)は、一般的なパルス成形時間T
ps値が1fsから1nsの範囲であり、時には10fsから1nsの範囲、さらには50fsから500fsの範囲に収まることを示す。
【0024】
さらに、レーザキャビティは、パルスがキャビティ内を何度も往復する間、比較的長い時間尺度内に要求されるパルス立ち上げの動的挙動を果たす必要がある。レーザがこの時間安定している場合、レーザはいわゆるcwモードロック状態でモードロックパルスの「継続波」列を出射する。動態がこの立ち上げ尺度内において不安定であれば、結果、qスイッチ強度包絡線での短モードロックパルス、あるいはよりランダムな包絡線でのパルスを有する周期配列型ジャイアントqスイッチパルスになる。そのようなqスイッチモードロック(QML)状態でレーザを動作させると、レーザ光成分を破壊する可能性がある。そのため、レーザパルスを後続の増幅器に出射するときなどでは、cwモードロック状態での動作が望まれることが多い。
【0025】
繰返しになるが、可飽和吸収体の設計には相反する設計要件がある。今回は、非線形性が活性化する振幅閾値において、吸収体をオープン状態にする。モードロック超短パルスを発生するためには、可飽和吸収体110を高強度でオープンにする必要がある。設計では、偶発的に成形されたパルスのピーク付近のみを選択してさらに増幅し、超短パルスを成形する。完璧を期すため、超短高強度パルスを発生できるよう利得飽和およびカー・レンジングを吸収性と同調させることが多い。
【0026】
残念ながら、閾値相当の高振幅では不要なqスイッチングを引き起こしやすくなる。しかしながらこれら競合要件は、qスイッチングすることなくcwモードロックできるパラメータ制限範囲外にある。カーレンズ調節を行わずにQMLに対し安定性を実現するため、以下を満たすよう吸収性および利得飽和性を調整する。
【数2】
【0027】
この時q
p(E
p)は、キャビティ内においてキャビティ内パルスエネルギE
pを持つ所定のモードロックパルスの、可飽和吸収体によるパルスエネルギの往復ロスを表す。E
stはパルスエネルギの定常値、T
Rはキャビティの往復時間、τ
Lは利得媒質の良好状態の寿命を示す。この式は、キャビティ内小パワーに対し、モードロック状態でパルスエネルギを指数関数的に大きくし続けるためには、飽和によるロスの減少を利得の減少より大きくする必要があることを表す。しかしながら、ロスの減少は記載したとおり所定のキャビティ内エネルギ以上で、上記の式におけるロスの導関数の限定範囲に限られる。この点から、利得はロス減少より速く減少し、レーザパルスはさらに成長するのをやめ、発振およびqスイッチングを回避する。上記式において、q
p(E
p)はすべての可飽和ロスを表す。例えば、キャビティ内に2つの吸収体がある場合、q
p(E
p)は個々の吸収体のロス分の合計であり、q
p=q
p1+q
p2である。
【0028】
結論として、パルス成形と自己始動は、回復時間において相反要件であり、パルス成形とQML安定性は、飽和フルエンスにおいて相反要件となる。これら相反する要件を満たすには、可飽和吸収体110などの非線形素子を1つ使用した受動型モードロックレーザ発振器の設計に大きな課題が残る。
【0029】
図3Aは、上記のようなこれら対立する設計要件を満足させるために、レーザ発振器100が低速非線形素子112と高速非線形素子114の2種の非線形素子を備える例を表している。例えば、低速非線形素子を可飽和吸収体112とし、高速非線形素子をカー・セル114とする。カー・セルはキャビティ内では別個の素子とするか、利得材130が屈折率を非線形変化させる。発振器100内の他の素子は、前述の素子と同様、出力カップラミラー120、利得材130、および折り返しミラー140−1/140−2である。
【0030】
図3Bは、本設計における吸収性の時間依存性が複雑であることを表す。光強度が変動により閾値を超えると、低速非線形素子112は、回復時間T
SSが充分に長い限り吸収性が落ち発振器100を自己始動させることができる。高速非線形素子114は、この遅い回復曲線に対し、超短パルス型パルスを成形するため短い回復時間T
PSの高速回復プロセスを重ねあわせる。
【0031】
しかしながら、上記設計では少なくとも次の問題がある。(a)2つの非線形素子の使用には費用がかさむ。(b)小さな発振器キャビティスペース内に素子を2つ配置することは重大な問題であり簡単ではない。(c)素子を2つ使用するには複雑な製造工程が必要となる。(d)2つの素子それぞれに調整と校正が必要になる。(e)意図せざる影響が2倍となり、さらなる補償が必要となる。最後の問題(e)の原因は主に、低速非線形素子112と高速非線形素子114では、位相を変調するカー・効果と振幅を変調するSESAMなど、一般的に動作モードが異なることにある。動作モードが異なることで、異なるタイプの意図しない問題をもたらす。例えば、上記のように、カー・効果では、パルスが非線形素子を通過して伝搬する時パルスを変調し、時間的空間的効果が不要に複雑に結合してしまう。この変調に対し、キャビティ内にダイナミックレンズを追加挿入し、より複雑な設計にするなど、補正が必要になる。
【0032】
図4Aは、上記の相反する設計課題に対し、単純な解決策を供した実施形態を表す。1つの実施形態では、パルス光ビームを増幅するレーザ発振器200は、前記同様の以下の素子を備える。レーザ発振器200にパルス光ビームを戻すエンドミラー210、パルス光ビームの反射分を反射しレーザ発振器に戻し、レーザ発振器200からのパルス光ビーム出力分を結合する出力カップラミラー220、光学経路に沿いエンドミラー210と出力カップラミラー220間に配置され、光ビームを増幅するレーザ利得材230である。また、狭小空間動作用の発振器200では、240−1および240−2などの折り返しミラーを1以上備える。
【0033】
さらに、発振器200は、2つの非線形素子212および214を備え、一方はモードロック自己始動要件に最適化され、もう一方は超短パルス成形要件に最適化される。発振器100と比較すると、発振器200の実施形態では、非線形素子212と214のどちらも可飽和吸収体であるなど、同じ動作原理で作動する。
【0034】
ある発振器200では、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214は別個の光素子である。またある発振器200では、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214が、同じエンドミラー210内に一体化された別個の層をなす。いずれの場合も、吸収体212および214の材パラメータおよび位置は、各機能を最適化するよう選択される。
【0035】
その最適化では、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214の回復時間とフルエンス閾値を適切に選択する。自己始動可飽和吸収体212の自己始動回復時間T
ssは、10fsから100ns、100fsから10ns、あるいは500fsから10nsの範囲である。パルス成形可飽和吸収体214のパルス成形回復時間T
psは、1fsから1ps、10fsから1ps、あるいは50fsから500fsの範囲である。よって、場合により、パルス成形回復時間T
psは自己始動回復時間T
ssより1から1、000倍短くなる。別の実施形態では、T
psは、自己始動回復時間T
ssの10から100倍短くなる場合もある。フルエンス閾値の適切な範囲は後述する。
【0036】
自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214のいずれも透過モードでも反射モードでも作動する。
【0037】
同一動作原理で動作する非線形素子212および214のペアを備える発振器200は、次に示す方法により前に挙げた設計課題に対応する。(a)同一の半導体結晶内の別個の層として一体化する方法で形成する時、同一原理の非線形素子のペアを使いコストを抑える。(b)同様に、同一原理の2つの非線形素子を使用すると、特に一体型実施形態において省スペース化できる。(c)同一動作原理を基に、非線形素子212および214でのジョイント製造が可能で、より簡単となる。(d)同一原理の2つの非線形素子212および214では、校正がより容易になる。最終ポイント(e)として、同一原理の2つの非線形素子212および214は同一の原理を基に動作するので、不所望の問題や効果に対する異なる2つの補償機構は必要ない。
【0038】
特に最終ポイント(e)を強調するが、非線形素子110あるいは非線形素子112と114の少なくともいずれか一方がカー・効果を基に動作するレーザ発振器100において、材屈折率は、時間的空間的効果が複雑に結合し、光強度の関数として変調される。屈折率は、パルスが非線形材を通過して伝搬する時時間的に変調される。この変調での問題の一つに、強度の高いパルス中央部分が「両翼」に比べ位相変調が強くなりビームが歪み、伝搬方向に垂直なパルスの空間的プロファイルが空間的に歪む。この効果は自己集束とも言う。このタイプのレーザキャビティの設計には細心の注意が必要で、実装には高い精度が求められる。このレーザキャビティではアパ―チャなどのキャビティ内空間フィルタが使用されることが多く、キャビティ全体は目的の短パルスモードを優先し、非モードロックモードおよび長パルスモードをひかえる。前述したように、補償素子が必要となれば、設計が複雑化し、レーザキャビティの微調整が必要となり、さらにはレーザビームの安定化と高度な空間的モードプロファイルを実現する必要がある。また、カー・セルは一般的にフルエンス閾値が高く、比較的長いピコ秒パルスで動作するのは難しい。
【0039】
このような複雑さのため、発振器200の実施形態では、非線形素子212および214の共有動作原理として可飽和吸収体を使用する。本発振器200では、可飽和吸収体が主に光振幅に作用し、光位相を大きく変調することがないので、カー・セルではなく可飽和吸収体212および214を採用する。共有原理として可飽和吸収体を使用することで、発振器200にトランスバーサルモード用制御機構を実現する必要がなくなる。
【0040】
同一動作原理の効率的な実行方法の一つに、同一半導体など、同一材で可飽和吸収体212および214を形成する方法がある。
【0041】
発振器の実施形態では、共有動作原理として可飽和吸収体ではなく可飽和利得を使用してもよく、2つの利得素子を使用してもよい。
【0042】
同一原理の実施形態であっても、上記の設計課題に対応する必要がある。可飽和吸収体212および214が同一半導体内に形成された場合、自己始動可飽和吸収体212は、ビームの小ランダム変動を増幅することで発振器200を始動させることができるよう半導体のフルエンス閾値を下げ、パルス成形可飽和吸収体214は、パルスピークのみを選択し増幅し可能な限りパルスを短くできるよう、フルエンス閾値を高くする。
【0043】
図4Aは、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214の透過型実施形態を表す。
図4Bは、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214の反射型実施形態を表す。本発振器200では、追加で折り返しミラー240−3および240−4を使用する場合もある。
【0044】
図5Aから5Cは、2つの可飽和吸収体に対し異なる強度のビームをあて、相反するこれら設計要件に対応した発振器200の実施形態を表し、
図5Dは下記のように、2つの可飽和吸収体のフルエンス閾値を変更した他の実施形態を表す。
【0045】
図5Aの発振器200は、例えば集束折り返しミラー240を、可能であればビームエクスパンダとの組合せで使用し、焦点FSにレーザビームを集束させる。発振器200における関連部のみを明示する。焦点FSに対する可飽和吸収体212および214の異なる位置に配置することで、吸収体がそれぞれ受けるビーム強度を制御する効果的な方法とする。それは、集束により焦点FSを中心にビーム半径の縮小が起こり、そこでビーム強度(面積当たりのビームエネルギ)の増加が起こることによる。ビーム拡散、再集束は、様々な他の屈折素子あるいは反射素子を備えることでも可能である。
【0046】
発振器200の本実施形態において、自己始動可飽和吸収体212は、ビームが最小半径に集束する焦点FS近くに配置される。そのため、発振器200を通電した後、光が変動し始めると、まず、変動ビーム強度あるいはフルエンスが自己始動可飽和吸収体212の位置近くにある焦点FSで閾値を超える。それに応じ、自己始動可飽和吸収体212が活性化し、往復する間、変動は増幅される。自己始動可飽和吸収体212の回復時間T
SSが充分長いので、変動が増幅され発振器200は自己始動する。
【0047】
この時パルス成形可飽和吸収体214は自己始動可飽和吸収体212より焦点FSから離れた位置にあるので、その位置では同じビームでもビーム半径が大きく、そのためパルス成形可飽和吸収体214でのビーム強度は自己始動可飽和吸収体212での強度より低い。このため、同一半導体で形成され同一のフルエンス閾値あるいは強度を持つ場合、自己始動可飽和吸収体212を活性化させた同一の変動でも、パルス成形可飽和吸収体214は活性化しない。自己始動可飽和吸収体212が発振器200を始動させ、モードロックパルスが数回の往復の後ますます増幅し、やがてパルス成形可飽和吸収体214の位置でもパルス強度がフルエンス閾値を超え、活性化あるいはオープン状態になる。パルス成形可飽和吸収体214も活性化すると、パルス狭窄が始まり、超短パルス型パルスを成形する。
【0048】
図5Aの設計の別の方法として、発振器200は発振器内の光学経路に沿いパルス光ビームのビーム半径Rを空間的に変更することができる。自己始動可飽和吸収体212は、ビーム半径がR1となる発振器200内の第一位置に配置され、パルス成形可飽和吸収体214は、ビーム半径がR2であり、R1がR2より小さくなる発振器200内の第二位置に配置される。
【0049】
図5Bは発振器200の別の一体型実施形態を表し、自己始動可飽和吸収体212およびパルス成形可飽和吸収体214が同種の半導体で形成されているだけでなく、実際には同一半導体結晶内、エンドミラー210の基材216上に形成されている。反射型可飽和吸収体の設計では、エンドミラー210のミラー層218は入射光ビームおよび反射光ビームから定在波を形成する。
図5Aの実施形態の設計原理と同様に、自己始動可飽和吸収体212は定在波の節から離れた層などビーム強度が高い層として形成され、パルス成形可飽和吸収体214は定在波の節の近くなどビーム強度が低い位置に形成される。前記同様、変動が偶発的に生じる設計で、まず、光強度が自己始動可飽和吸収体212においてフルエンス閾値を超え活性化し、発振器200を自己始動させる。パルスが往復する間増幅されるにつれ、ビーム強度はパルス成形可飽和吸収体214が位置する定在波の節領域付近で閾値に達し、パルス成形可飽和吸収体214を活性化させる。活性化されると、パルス成形可飽和吸収体214は超短パルス型パルスを成形する。
【0050】
本構造では、量子井戸厚さを光波長に比べ遥かに小さく高精度に制御でき、層の成長条件も良好に制御可能なため、可飽和吸収体層は効率よく量子井戸設計を使い形成、配置される。
【0051】
2つの可飽和吸収体層が同一半導体内に形成される本一体型実施形態では、層は順次成長するため、自己始動可飽和吸収体層およびパルス成形可飽和吸収体層に対し異なる成長条件を適用する。本設計では、可飽和吸収体212および214に対し異なる飽和フルエンスおよび回復時間とすることができる。
【0052】
図5Cは、
図5Bの一体型エンドミラー210を備える発振器200を表しており、自己始動可飽和吸収層212は光の定在波の節から離れた光の最大定在波に近くに位置し、パルス成形可飽和吸収体層214は光の定在波の節近くに位置する。
【0053】
次に、フリースペースレーザ発振器200の様々な実施形態を説明する。眼科手術で増幅パルスが使われる場合、レーザ発振器200はチャープパルス増幅(CPA)レーザ用にシードレーザとして使用される。眼科手術用レーザ用として、Ndドープ結晶、Ybドープ結晶、あるいはガラスの使用が良好な近赤外線波長が有用である。レーザ波長は1030nmから1070nmの範囲である。発振器パルスが増幅器内で順次増幅されている時には、発振器からのパワーはそれほど重要ではない。このため、平均パワーは比較的低い10mWから250mWで、パルス継続時間は1fsから1、000fsの範囲、あるいは150fsから500fsの範囲、繰返し率は1MHzから1、000MHzの範囲、あるいは40MHzから150MHzの範囲である。本パワーレベル、パルス継続時間、繰返し率であれば、Nd利得材やYb利得材を使って小型光学機構に実現可能である。例えば、平均パワー100mW、パルス継続時間300fs、繰返し率100MHz、出力結合、非飽和損失が5%のレーザでは、キャビティ内平均パワーは2W、あるいはピークパワーが約6kWでパルス当たりエネルギ20nJとなる。
【0054】
キャビティ長が1.5m、結晶周辺に平坦出力カプラミラーおよび集束ミラー、および曲率半径0.1mのSESAMを備えると、モードエリアは結晶内およびSESAMにおいて800平方マイクロメータであり、光フルエンスは約2、400μJ/cm2となる。Qスイッチングを回避するため、パルス成形可飽和吸収体214は、パルス成形可飽和吸収体214の飽和フルエンスの3から10倍、2から30倍、あるいは1から100倍の光フルエンスあるいは動作フルエンスで動作する。そのため、パルス成形可飽和吸収体214の飽和フルエンスの設計値を20μJ/cm
2から2、000μJ/cm
2、80μJ/cm
2から1、200μJ/cm
2、あるいは200μJ/cm
2から800μJ/cm
2の範囲に設定する。
【0055】
発振器200は、特にソリトンモードロック時、吸収体の回復時間の10倍までパルスを短くできるので、パルス成形可飽和吸収体の回復時間は約1ピコ秒から10ピコ秒、時に約3psとなる。
【0056】
確実にモードロック動作を開始するため、自己始動可飽和吸収体212は、疑似ランダムパルススパイクを発生させるレーザモードを「事前構成」し、パルス成形吸収体214を活性化させることができる。これは、パルス成形吸収体214の回復時間の時間窓内のパルススパイクエネルギ含有量が、パルス成形吸収体214の飽和エネルギに対し明白な割合となる場合可能である。例えば、自己始動吸収体212の飽和エネルギの5倍でパルス成形吸収体214の飽和エネルギの1/10にするためには、自己始動吸収体212の飽和フルエンスが、パルス成形吸収体214の5
*10=50で50倍低ければよい。パルス成形吸収体214が上記数値範囲であれば、この約50倍という係数から、自己始動吸収体212の飽和フルエンス範囲が約0.5μJ/cm
2から40μJ/cm
2、2μJ/cm
2から25μJ/cm
2、あるいは4μJ/cm
2から15μJ/cm
2と解釈できる。様々な実施形態において、自己始動可飽和吸収体212の飽和フルエンスに対するパルス成形可飽和吸収体214の飽和フルエンスの比は、1から100、2から30、および3から10の範囲であり、さらに自己始動可飽和吸収体212の飽和フルエンス範囲を定める。
【0057】
自己始動吸収体212の回復時間は、目的とする始動パルススパイクあるいはパルス成形吸収体214の回復時間より例えば一桁長く、10psから100psの範囲の例えば30psである。
【0058】
回復時間が長ければ、吸収体の飽和フルエンスが下がり、吸収体内の励起が高エネルギ準位で長く続き、高準位でより多くのエネルギを蓄え、緩和した励起を再び高準位に引き上げる必要がない。これは、低飽和フルエンス長回復時間型自己始動吸収体212の設計には有用である。また、ターンオン過渡後、自己始動吸収体212は全開状態で飽和の10から100倍、例えば飽和の50倍のフルエンスで動作する。この深飽和はQスイッチングの不安定さの回避にも役立つ。
【0059】
2つの吸収体の飽和フルエンスの係数の違いが10から100であれば、2つに分けられる。50倍を例にとれば、係数10は自己始動吸収体212とパルス成形吸収体214の材特性およびスペクトル性質の違いによる。残る係数5は、一体型層状SESAMエンドミラー210内の定在波パターンの節に対する吸収体212および214の位置の違いによる。
【0060】
図5Dは発振器200のまた別の実施形態を表し、ビーム強度が異なる位置に可飽和吸収体212および214を配置するのではなく、異なるフルエンス閾値あるいは飽和閾値を使って形成されている。この実施形態においては、吸収体が類似あるいは同一のビーム強度を受けても、閾値が異なるので異なるビーム強度あるいはフルエンスで活性化される。別の実施形態と同様、発振器200において自己始動可飽和吸収体212がパルス成形可飽和吸収体214の飽和閾値より低い飽和閾値で形成されている場合がある。その発振器200において、まず、変動が自己始動可飽和吸収体212を活性化し、緩和時間T
ssの時間、パルス増幅を開始する。パルスが何度も往復する間パルス振幅が増幅され、パルス成形可飽和吸収体214の飽和閾値に達し、活性化する。活性化したパルス成形可飽和吸収体214は超短パルス型パルスを成形する。
図5Dの実施形態において、パルス成形可飽和吸収体はエンドミラー210としても機能する。
【0061】
発振器200の実施形態の一つに、異なる材で可飽和吸収体212および214を形成し、異なるフルエンス閾値あるいは飽和フルエンスを実現しているものがある。その材として、SESAMのバルク半導体吸収体、ガラスあるいは結晶原子吸収体、半導体量子井戸、量子ドット、ドーピング層構造、有機色薄膜、有機半導体、カーボンナノチューブ層、などがある。
【0062】
他の実施形態として、可飽和吸収体層212および214を類似材で形成するが、そのスペクトル性質を変更あるいは修正する。例えば、吸収体の量子井戸の層厚さを変更して吸収体のピークが変えられるよう、下地半導体結晶の吸収スペクトルを修正する。
【0063】
ここで量子井戸とは、電子、正孔、励起子、ポラロンなど主物質の量子励起波長と幾何学的に同等な二次元ナノ構造体のことである。量子井戸分光法は、構造、組成物、欠陥あるいはドーパント濃度、イオン注入、および成長条件の違いで起こる層内応力を変えることで変更できる。量子井戸構造のスペクトル性質も、目的とする飽和フルエンス、および吸収回復時間あるいは緩和時間を達成するよう、異なる成長条件、欠陥レベル、ドーパントレベル、およびイオン注入条件を適用し、別の成長構造を採用することで、調整変更可能である。
【0064】
色素あるいは有機半導体を使用する可飽和吸収体の実施形態では、化学組成を少し変更することでスペクトル性質をカスタム調整できる。別の吸収体の実施形態では、ガラスあるいは結晶など主物質によって埋込み原子分光法を変更できる。また、回復時間TssおよびTps、および飽和フルエンスあるいはフルエンス閾値も、色素および有機半導体内の分子間相互作用を操作してカスタム適合させることができる。
【0065】
動作原理をフリースペース上で論証したが、同原理をファイバ発振器でも実行できる。例えば、レーザ発振器200をダイオードポンピング式ファイバ発振器200にする。発振器は、単一ポンピング式ダイオード、あるいは多種多様な他のダイオードおよびダイオード構造で、例えばダイオードバンク、ダイオード群などを備えてもよい。ファイバ発振器はフリースペース発振器に比べかなり小さく、緻密な調整、校正の必要性も少ない。手術室でのスペースが制約される外科用においては、レーザ発振器200を空間的に縮小する設計は、高く評価される。
【0066】
ある実施例において、発振器200は、ファイバブラッグ格子、周波数安定ポンプダイオードなど分散制御素子を備え、ダイオード内に体積型ブラッグ格子など周波数安定棒を含むことで、動的挙動およびパルス品質を構造上さらに向上できる。このようなレーザは、低ノイズでパルス間安定性が高いパルスを出射する。ファイバは、NdあるいはYbでドープされたガラスで形成されてもよい。
【0067】
全体として、レーザ発振器200は、ガウシアン形状など本質的には限定変換種パルスを出力する。実施例では、フラットトップパルスが発生されてもよい。パルス継続時間は1、000fs未満となる。他の実施では、パルス継続時間が10fsから1、000fsの範囲、また他の実施形態では100fsから500fsの範囲でもよい。パルス周波数あるいは繰返し率は1MHzから1、000MHzの範囲で、他の実施形態では10MHzから100MHzの範囲でもよい。パルスビームパワーは、10mWから1、000mWの範囲で、他の実施形態では100mWから200mWの範囲でもよい。
【0068】
最後に、ここに記述したレーザ発振器200が広く適用される例に、Qスイッチチャープパルス増幅(CPA)レーザにおける種パルス源としての使用がある。
【0069】
本書は特性を多く含むが、発明あるいは請求の範囲はこれに限らず、本発明の特定の実施形態に特有な特徴の記述であると解釈すべきものである。別の実施形態にて本書に記述した特徴を組み合わせて一つの実施形態として実施してもよい。また、一つの実施形態にて記述した様々な特徴は、個別に複数の実施形態で実施してもよく、あるいは適宜サブ的に組み合わせて実施してもよい。さらに、特徴は所定の組合せで動作すると前に記載され、あるいは当初そう請求されているかもしれないが、請求された組合せでの1以上の特徴は、その組合せから削除されることもあり、請求された組合せがサブ的組合せ、あるいはサブ的組合せの変形であるとしてもよい。