特許第6240280号(P6240280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6240280生物粒子計数システムおよび生物粒子計数方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6240280
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】生物粒子計数システムおよび生物粒子計数方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20171120BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G01N21/64 Z
   G01N15/14 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-166325(P2016-166325)
(22)【出願日】2016年8月26日
【審査請求日】2016年12月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】関本 一真
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−040533(JP,A)
【文献】 特開2016−040534(JP,A)
【文献】 特開2014−039890(JP,A)
【文献】 特開2008−264668(JP,A)
【文献】 特開2013−153675(JP,A)
【文献】 特開2013−255862(JP,A)
【文献】 特開2014−153199(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0346077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 − 21/73
G01N 15/00 − 15/14
C12Q 1/06
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して前記流体内の前記生物粒子を計数する生物粒子計数部と、
前記生物粒子計数部の前段に設けられ、前記流体となる試料に対して紫外線を照射する前段照射部とを備え、
前記試料は、前記生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含み、
前記混入有機物は、フミン質を含み、
前記紫外線は、炭素の共有結合を切断可能な波長の第1紫外線、および前記生物粒子の自家蛍光を増加させる第2紫外線を含み、
前記第1紫外線は、200nmの波長より短い波長を有し、
前記第2紫外線は、前記第1紫外線より長い波長を有し、
前記前段照射部は、前記紫外線が照射された空気を前記試料に対してエアレーションせずに、前記試料内の前記混入有機物を分解するために所定時間、前記紫外線を前記試料に照射することで、前記背景ノイズを低減すること、
を特徴とする生物粒子計数システム。
【請求項2】
前記前段照射部は、1つの光源で、前記第1紫外線と前記第2紫外線とを含む前記紫外線を前記試料に照射することを特徴とする請求項1記載の生物粒子計数システム。
【請求項3】
前記前段照射部は、前記試料を貯留する貯留部と、前記貯留部内の前記試料に対して前記紫外線を照射する光源と、前記貯留部内の前記試料を前記流体として前記生物粒子計数部へ供給する流路部とを備え、
前記光源は、前記紫外線を発する発光部を備え、前記発光部の全体が前記貯留部内の前記試料に没した状態で前記紫外線を前記試料に照射すること、
を特徴とする請求項1記載の生物粒子計数システム。
【請求項4】
前記前段照射部は、前記紫外線を発する光源と、前記光源の周囲において前記試料が流通する流路部と、前記光源および前記流路部を覆い前記紫外線を反射または吸収する遮蔽部とを備えることを特徴とする請求項1記載の生物粒子計数システム。
【請求項5】
前記試料は、水であり、
前記生物粒子は、リボフラビンおよびNAD(P)Hの少なくとも一方を含むこと、
を特徴とする請求項1から請求項のうちのいずれか1項記載の生物粒子計数システム。
【請求項6】
生物粒子計数部の前段において、試料に対して紫外線を照射するステップと、
前記紫外線が照射された前記試料を流体として前記生物粒子計数部に流入させ、前記生物粒子計数部において前記流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して前記流体内の前記生物粒子を計数するステップとを備え、
前記試料は、前記生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含み、
前記混入有機物は、フミン質を含み、
前記紫外線は、炭素の共有結合を切断可能な波長の第1紫外線、および前記生物粒子の自家蛍光を増加させる第2紫外線を含み、
前記第1紫外線は、200nmの波長より短い波長を有し、
前記第2紫外線は、前記第1紫外線より長い波長を有し、
前記生物粒子計数部の前段において、前記紫外線が照射された空気を前記試料に対してエアレーションせずに、前記試料内の前記混入有機物を分解するために所定時間、前記紫外線を前記試料に照射することで、前記背景ノイズを低減すること、
を特徴とする生物粒子計数方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物粒子計数システムおよび生物粒子計数方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミネラルウォーターなどの試料には従属栄養細菌などのバクテリアが混入することがある。そのため、寒天培地によりバクテリアを培養して、そのバクテリアの混入度合を測定している。しかし、この方法では、測定結果にかなりの日数(例えば1〜2週間)を要するため、生産ラインなどにおいて短時間またはリアルタイムでバクテリアなどの混入度合を確認できることが望まれている。
【0003】
このような要求に鑑み、ある生物粒子計数器は、生物粒子の発する自家蛍光に基づいて、バクテリアなどの生物粒子をリアルタイムで測定している(例えば特許文献1参照)。また、ある生物粒子計数器は、生物粒子測定の前処理として、UV−C波長範囲の紫外線を試料に照射することで生物粒子の自家蛍光強度を増加させている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−117466号公報
【特許文献2】特開2014−153199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ミネラルウォーターなどの試料が、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する有機物(例えばフミン酸、フルボ酸などといったフミン質)を混入物として含んでいる場合、そのような有機物の蛍光によって、測定対象となるバクテリアの微弱な自家蛍光が検出されにくくなり、計数誤差が生じてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物が試料に含まれていても、短時間またはリアルタイムで生物粒子を精度よく計数する生物粒子計数システムおよび生物粒子計数方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生物粒子計数システムは、流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して流体内の生物粒子を計数する生物粒子計数部と、生物粒子計数部の前段に設けられ、流体となる試料に対して紫外線を照射する前段照射部とを備える。上述の試料は、上述の生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含み、混入有機物は、フミン質を含む。そして、上述の紫外線は、炭素の共有結合を切断可能な波長の第1紫外線、および生物粒子の自家蛍光を増加させる第2紫外線を含み、第1紫外線は、200nmの波長より短い波長を有し、第2紫外線は、第1紫外線より長い波長を有する。前段照射部は、紫外線が照射された空気を試料に対してエアレーションせずに、試料内の混入有機物を分解するために所定時間、その紫外線を試料に照射することで、背景ノイズを低減する。
【0008】
本発明に係る生物粒子計数方法は、生物粒子計数部の前段において、試料に対して紫外線を照射するステップと、その紫外線が照射された試料を流体として生物粒子計数部に流入させ、生物粒子計数部において流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して流体内の生物粒子を計数するステップとを備える。上述の試料は、上述の生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含み、混入有機物は、フミン質を含む。そして、上述の紫外線は、炭素の共有結合を切断可能な波長の第1紫外線、および生物粒子の自家蛍光を増加させる第2紫外線を含み、第1紫外線は、200nmの波長より短い波長を有し、第2紫外線は、第1紫外線より長い波長を有する。生物粒子計数部の前段において、紫外線が照射された空気を試料に対してエアレーションせずに、試料内の混入有機物を分解するために所定時間、その紫外線を試料に照射することで、背景ノイズを低減する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物が試料に含まれていても、リアルタイムに生物粒子を精度よく計数する生物粒子計数システムおよび生物粒子計数方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係る生物粒子計数システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1における生物粒子計数器1の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の実施の形態2に係る生物粒子計数システムの構成を示すブロック図である。
図4図4は、本発明の実施の形態3に係る生物粒子計数システムにおける前段照射部51の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
実施の形態1.
【0013】
図1は、本発明の実施の形態1に係る生物粒子計数システムの構成を示すブロック図である。実施の形態1に係る生物粒子計数システムは、生物粒子計数器1、前段照射部2、および試料流動調整部3を備える。
【0014】
生物粒子計数器1は、試料である流体に測定光(励起光)を照射し流体内の生物粒子の自家蛍光を検出してその流体内の生物粒子を計数する。例えば、生物粒子計数器1としては、特許文献1または2に記載の生物粒子計数器を使用できる。生物粒子計数器1は、例えば0.1μm〜数百μmの大きさの生物粒子を計数可能である。具体的には、計数対象の生物粒子は、細菌、酵母、カビ等である。生物粒子の細胞は、代謝に必要な物質であって自家蛍光を発する特定の物質(リボフラビン、NAD(P)H:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)など)を含んでいる。したがって、この自家蛍光を検出することで、生物粒子を計数することができる。
【0015】
図2は、図1における生物粒子計数器1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、生物粒子計数器1は、フローセル31、発光装置32、照射光学系33、検出光学系34、散乱光選択光学素子35、受光光学系36、蛍光受光装置37、受光光学系38、および散乱光受光装置39を備える。
【0016】
フローセル31は、計数対象の生物粒子を含む流体の流路を形成している。フローセル31は、その流路を形成する透明な管状の部材であって、例えば、合成石英、サファイアなどで構成され、中空の四角柱の形状を有する。
【0017】
発光装置32は、所定波長の光(ここではレーザー光)を発する光源(例えばレーザーダイオードなどの半導体発光素子)を備え、その光源で、生物粒子の自家蛍光物質を励起する測定光(励起光)を発する。この測定光は、例えば紫外線領域から緑色の可視光領域までの範囲における、自家蛍光物質に固有な波長を有する。
【0018】
例えば、NAD(P)Hの励起吸収スペクトルは、約340nmにピークを有し、リボフラビンの励起吸収スペクトルは、約375nmおよび約450nmにピークを有する。したがって、例えば、リボフラビンのための測定光(励起光)には、波長が330nm〜500nmの範囲内のレーザー光(例えば405nmのレーザー光)が使用される。
【0019】
照射光学系33は、フローセル31の流路における流体の進行方向とは異なる方向(ここでは、垂直な方向)から測定光(励起光)を、その流路内を流れる流体に照射する。 照射光学系33は、例えば、各種レンズ(例えば、コリメーターレンズ、両凸レンズ、シリンドリカルレンズなど)で構成されており、発光装置32からのレーザー光を平行光線に調整し、この平行光線を測定光として流路内の流体に照射する。その測定光が、フローセル31の流路内を流れる流体に照射され、検出領域が形成される。なお、フローセル31を透過した測定光を遮蔽するビームダンパー(ビームトラップ)を配置するようにしてもよい。
【0020】
検出光学系34は、上述の測定光の照射による流路内の粒子からの散乱光および自家蛍光を散乱光選択光学素子35の所定の入射面に入射させる。例えば、検出光学系34には、集光レンズが使用されたり、背景光を遮蔽するためのピンホール並びにその前後にそれぞれ配置された集光レンズを有する光学系が使用されたりする。
【0021】
生物粒子に測定光が照射された場合、生物粒子からの散乱光および自家蛍光が散乱光選択光学素子35の所定の入射面に入射するが、流体内に、計数対象の生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する有機物(以下、混入有機物という)が含まれている場合、その混入有機物に測定光が照射されると、その混入有機物も蛍光を発する。
【0022】
例えば、リボフラビンの自家蛍光のスペクトルは、約520nmの波長にピークを有する。粒子からの散乱光は、測定光の波長と同一の波長を有する。例えば測定光(つまり、リボフラビンの励起光)が405nmの波長を有する場合には、粒子からの散乱光の波長も405nmとなる。
【0023】
フミン酸、フルボ酸などのフミン質が混入有機物として、試料である流体に含まれている場合、そのフミン質の励起・蛍光スペクトルは、約320nm/430nm(励起/蛍光)および約440nm/510nm(励起/蛍光)にピークを有するブロードな特性を有する。したがって、このような混入有機物は、例えば405nmの測定光においても520nm付近の蛍光を発するため、このような混入有機物からの蛍光が、リボフラビンからの自家蛍光に対する背景ノイズとなる。
【0024】
なお、試料が、液体である水の場合、測定光に対する水からのラマン散乱光も、検出光学系34を介して散乱光選択光学素子35に入射する。例えば測定光が405nmの波長を有する場合には、水からのラマン散乱光のピーク波長は約465nmとなる。
【0025】
また、この実施の形態では、検出光学系34の光軸とは異なる方向から測定光がフローセル31の流路に入射しているため、側方散乱の散乱光が検出光学系34によって散乱光選択光学素子35に入射する。
【0026】
散乱光選択光学素子35は、自家蛍光の波長範囲の光を透過させ、粒子からの散乱光の波長範囲(つまり、測定光の波長範囲)の光を反射する光学素子(例えばダイクロイックミラー)である。
【0027】
受光光学系36は、散乱光選択光学素子35を透過してきた光(自家蛍光)を集光レンズ群で蛍光用受光装置37に集光する。なお、受光光学系36は、散乱光選択光学素子35を透過してくるラマン散乱光の強度に応じて、ラマン散乱光を遮断し、自家蛍光の波長範囲の光を透過させるロングパスフィルターを有していてもよい。蛍光受光装置37は、フォトダイオード、フォトトランジスタなどの半導体受光素子、または光電子増倍管を有し、半導体受光素子または光電子増倍管で、集光された光を受光して、受光した光を電気信号に変換し、受光光量に応じた電圧で出力する。
【0028】
受光光学系38は、散乱光選択光学素子35で反射した光(散乱光)を集光レンズ群で散乱光用受光装置39に集光する。散乱光受光装置39は、フォトダイオード、フォトトランジスタなどの半導体受光素子、または光電子増倍管を有し、半導体受光素子または光電子増倍管で、集光された散乱光を受光して、受光した散乱光を電気信号に変換し、受光光量に応じた電圧で出力する。
【0029】
さらに、生物粒子計数器1は、増幅器41、A/D変換器42、増幅器43、A/D変換器44、計数処理部45、および制御部46を備える。増幅器41は、蛍光受光装置37からの電気信号の電圧を所定の増幅率で増幅し、A/D変換器42は、増幅後の電気信号をデジタル信号へ変換する。増幅器43は、散乱光受光装置39からの電気信号の電圧を所定の増幅率で増幅し、A/D変換器44は、増幅後の電気信号をデジタル信号へ変換する。計数処理部45は、自家蛍光に対応するA/D変換器42からのデジタル信号および散乱光に対応するA/D変換器44からのデジタル信号に基づいて、測定領域を通過する生物粒子を(例えば粒径区分ごとに)計数するデジタル処理回路である。具体的には、計数処理部45は、自家蛍光に対応する信号の波形および散乱光に対応する信号の波形に基づいて、これらの2つの信号の波高値がともにそれぞれの閾値を超えた場合、1つの生物粒子が検出されたものとして計数をする。なお、これらの2つの信号のうち、散乱光に対応するA/D変換器44からの信号のみが閾値を超えた場合、1つの非生物粒子が検出されたものと判定される。制御部46は、計数処理部45などの内部装置を制御し、計数処理部45から測定結果を取得し、測定データとして出力したり、グラフ図などを表示装置(不図示)に表示したりする。
【0030】
図1に戻り、前段照射部2は、生物粒子計数器1の前段に設けられ、生物粒子計数器1に流入する流体となる試料に対して紫外線を照射する。例えば、この試料がミネラルウォーターなどである場合、上述のように、計数対象の生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含んでいることがあるため、前段照射部2は、オゾン発生線を含む紫外線を試料に照射することで、その混入有機物を分解する。このオゾン発生線は、酸素分子の結合を切断可能な、240nm以下(例えば185nm)の波長を有する。例えば、前段照射部2は、波長185nmのオゾンランプ、ピーク波長172nmのエキシマランプなどの光源を使用して、オゾン発生線を含む紫外線を試料に照射する。
【0031】
この実施の形態では、前段照射部2は、1つの光源ランプで、上述のオゾン発生線とともに殺菌線を含む紫外線を試料に照射する。この殺菌線は、UV−C波長範囲(200nm〜280nm)内のいずれかの波長(例えば、254nm)であって、オゾン発生線より長い波長を有する。この殺菌線により、上述のオゾン発生線により発生したオゾンが分解されるとともに、試料内の生物粒子に含まれるリボフラビンの自家蛍光強度が増加する。
【0032】
この実施の形態では、試料は、ミネラルウォーターなどの水(つまり、液体)であり、計数対象の生物粒子は、リボフラビンおよびNAD(P)Hの少なくとも一方を含む。そして、上述の有機物は、フミン酸およびフルボ酸の少なくとも一方を含み、前段照射部2は、炭素の共有結合を切断可能な波長(約200nm以下、ここでは185nm)を有するオゾン発生線を試料水に照射する。炭素の共有結合を切断可能な波長のオゾン発生線を使用することで、混入有機物が効果的に分解される。
【0033】
なお、この実施の形態では、前段照射部2は、紫外線が照射された空気(つまり、オゾンを含む空気)を試料に対してエアレーションせずに、上述の紫外線を試料水に照射して混入有機物を分解する。これにより、エアレーションに起因する気泡の影響を受けることなく、生物粒子計数器1において計数を行うことができる。
【0034】
実施の形態1に係る生物粒子計数システムは、バッチ方式の計数システムであって、図1に示すように、前段照射部2は、試料水101を貯留する容器を有する貯留部21と、貯留部21内の試料水101に対して上述の紫外線を発する光源22と、貯留部21内の試料水101を流体として生物粒子計数器1へ供給する流路部23とを備える。
【0035】
なお、光源22からの紫外線が透過する材質で貯留部21が構成されている場合には、光源22からの紫外線が外部に漏れないように、貯留部21の外周には、紫外線を遮蔽する遮蔽材が配置される。遮蔽材としては、アルミニウムやポリテトラフルオロエチレン (PTFE)などの、紫外線を反射する材料を使用することが望ましい。
【0036】
光源22は、上述の紫外線を発する発光部22を有し、発光部22aの内部における放電によって発光部22aからオゾン発生線および殺菌線を発する。ここでは、オゾン発生線の波長は185nmであり、殺菌線の波長は254nmである。
【0037】
また、光源22は、貯留部21の容器内側に配置され、発光部22aの全体が貯留部21内の試料水101に没した状態で上述の紫外線を試料水101に照射する。このようにすることで、光源22からのオゾン発生線に起因する外気中でのオゾン生成が抑制される。ただし、発光部22a周囲の外気中でのオゾン生成による影響を受けずに測定できるのであれば、発光部22aを試料水101に没しなくてもよい。
【0038】
なお、貯留部21内の試料水101に対して紫外線が均等に照射されるように試料を撹拌する撹拌装置を前段照射部2に設けてもよい。
【0039】
また、試料流動調整部3は、ポンプ、バルブなどで、生物粒子計数器1から流出する試料(つまり、生物粒子計数器1に流入する試料)の流量を調整し、生物粒子計数器1による計数が完了した試料水を排出する。
【0040】
次に、実施の形態1に係る生物粒子計数システムにおける生物粒子の計数について説明する。
【0041】
実施の形態1に係る生物粒子計数システムはバッチ方式を採用しているので、図1に示すように、1回の測定ごとに、一定量の試料水101が、光源22の発光部22aが試料水101で覆われるように、貯留部21に入れられる。ここでは、試料水101は、ミネラルウォーター、水道水などの水である。
【0042】
次に、光源22が点灯され、上述の紫外線を試料水101に照射する。これにより、試料水101に、上述のオゾン発生線および上述の殺菌線が所定時間照射される。なお、このとき、試料水101に対してエアレーションは行われない。
【0043】
このオゾン発生線により、試料水101内の溶存酸素がオゾンになるとともに、フミン酸、フルボ酸などの混入有機物が分解される。また、この殺菌線により、試料水101内のオゾンが分解されてラジカルが生成され、生成されたラジカルによっても混入有機物が分解される。
【0044】
これにより、試料水内101の混入有機物の濃度が減少する。また、上述の殺菌線により、生物粒子内のリボフラビンの自家蛍光強度が増加する。
【0045】
上述のオゾン発生線および上述の殺菌線が所定時間照射された後、光源22が消灯され、試料流動調整部3によって試料水101を生物粒子計数器1へ流入させ、生物粒子計数器1が、生物粒子の計数を開始する。
【0046】
生物粒子計数器1は、流体としての試料水101内の生物粒子を計数する。このとき、前処理における上述のオゾン発生線により混入有機物が分解されているので、生物粒子の自家蛍光強度に対する背景ノイズの蛍光強度が低くなっており、試料水101内の生物粒子が精度よく計数される。
【0047】
以上のように、上記実施の形態1によれば、流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して流体内の生物粒子を計数する生物粒子計数器1の前段に、流体となる試料に対して紫外線を照射する前段照射部2が設けられる。そして、この試料は、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含んでおり、前段照射部2は、オゾン発生線を含む紫外線をこの試料水101に照射することで、その混入有機物を分解する。
【0048】
これにより、計数対象の生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物が試料101に含まれていても、前段照射部2により分解されるため、バッチ方式により短時間で(つまり、長時間の細菌培養などをせずに)生物粒子が精度よく計数される。なお、上述のオゾン発生線が生物粒子の計数結果に影響を与えないことは実験により確認されている。
【0049】
実施の形態2.
【0050】
図3は、本発明の実施の形態2に係る生物粒子計数システムの構成を示すブロック図である。実施の形態2に係る生物粒子計数システムは、連続方式の計数システムである。したがって、実施の形態2に係る生物粒子計数システムは、連続方式用の前段照射部51を備え、実施の形態2では、生物粒子計数器1が、試料流体内の生物粒子を連続的に計数しているときに、生物粒子計数器1に流入する前の段階で、前段照射部51が上述のオゾン発生線および上述の殺菌線を試料流体に照射する。
【0051】
実施の形態2における前段照射部51は、紫外線を発する光源61と、光源61の周囲において試料流体が流通する流路部62と、光源61および流路部62の外周を覆い紫外線を反射または吸収する遮蔽部63とを備える。
【0052】
光源61は、実施の形態1における光源22と同様のものである。実施の形態2では、流路部62は、光源61の発光部61aに沿って延びるU字状の流路部を有する石英管などのチューブ状のものである。
【0053】
遮蔽部63は、アルミニウム、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)などの、紫外線を反射する材料で構成されており、遮蔽部63で光源61および流路部62の外周を覆うことで、光源61からの紫外線が外部に漏れにくくなるとともに流路部62に効率良く照射される。なお、遮蔽部63は、光源61および流路部62を収容するケースとしてもよいし、遮蔽部63は、光源61および流路部62を収容するケースの外周を覆うようにしてもよい。
【0054】
なお、光源61の周囲の空気(外気)に光源61からの紫外線が照射されるとオゾンが発生するので、遮蔽部63は、例えば箔状のものとされ、光源61および流路部62と遮蔽部63との間の空間が小さくなるように光源61および流路部62に密接に配置されることが望ましい。また、遮蔽部63と光源61との接合部分および遮蔽部63と流路部62との接合部分は、遮蔽部63の内側で発生したオゾンが外気へ漏れないように密閉するようにしてもよい。
【0055】
次に、実施の形態2に係る生物粒子計数システムにおける生物粒子の計数について説明する。
【0056】
実施の形態2に係る生物粒子計数システムは、連続方式を採用しているので、試料を流体として流通させて前段照射部51による紫外線照射および生物粒子計数器1による生物粒子の計数を連続的に行う。ここでは、試料は、ミネラルウォーター、水道水などの水である。
【0057】
まず、試料流動調整部3によって、分流部52において主流路(例えば水道管)から試料水を分岐させ、前段照射部51に流入させるとともに、光源61が点灯され、試料水が流路部62を流れている期間、その試料水に上述の紫外線が照射される。これにより、試料水に、上述のオゾン発生線および上述の殺菌線が、試料水の流速および流路部62の長さに応じた所定時間だけ照射される。なお、このとき、試料水に対してエアレーションは行われない。
【0058】
これにより、実施の形態1と同様に、試料流体内の混入有機物の濃度が減少する。また、上述の殺菌線により、生物粒子内のリボフラビンの自家蛍光強度が増加する。
【0059】
そして、前段照射部51の流路部62を流通し上述のオゾン発生線および上述の殺菌線が所定時間照射された試料水は、生物粒子計数器1に流入する。
【0060】
生物粒子計数器1は、試料水内の生物粒子を計数する。このとき、前処理における上述のオゾン発生線により混入有機物が分解されているので、生物粒子の自家蛍光強度に対する背景ノイズの蛍光強度が低くなっており、試料水内の生物粒子が精度よく計数される。
【0061】
なお、実施の形態2に係る生物粒子計数システムにおけるその他の構成要素の構成および動作は実施の形態1のものと同様であるので、その説明を省略する。
【0062】
ただし、実施の形態2において、主流路の水圧、分流部52などに基づき、前段照射51および生物粒子計数器1に流通する流量の調整が可能であれば、試料流動調整部3を設けなくてもよい。
【0063】
以上のように、上記実施の形態2によれば、生物粒子計数器1の前段に連続方式の前段照射部51が設けられ、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含む流体としての試料に、オゾン発生線を含む紫外線を照射する。
【0064】
これにより、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物が試料流体に含まれていても、前段照射部51により分解されるため、連続方式でリアルタイムに生物粒子が精度よく計数される。
【0065】
実施の形態3.
【0066】
本発明の実施の形態3に係る生物粒子計数システムは、実施の形態2における前段照射部51を変更したものである。
【0067】
図4は、本発明の実施の形態3に係る生物粒子計数システムにおける前段照射部51の一例を示す図である。図4(A)は、実施の形態3における前段照射部51の一例を示す側面図であり、図4(B)は、実施の形態3における流路部71の一例を示す底面図である。
【0068】
実施の形態3における前段照射部51では、流路部62の代わりに、流路部71が設けられる。流路部71は、直立した円筒状のケースであって、内側の中心軸に沿って光源61を収容可能になっている。つまり、実施の形態3では、試料水が、流路部71の下部へ流入し、光源61に接触しつつ流通し、流路部71の上部から流出する。なお、この実施の形態3においても、他の実施の形態と同様に、試料水に対してエアレーションは行われない。
【0069】
流路部71の底面付近には流入口71aが設けられており、流路部71の所定の高さの位置には流出口71bが設けられている。流出口71bは、流入口71aより高い位置であって、発光部61aの上端と略同じか上端より高い位置に設けられている。
【0070】
また、流入口71aおよび流出口71bは、流路部71の中心軸から径方向に離れた所定の位置に、流路部71の外周面の接線方向に沿って設けられている。これにより、流入口71aから流入した試料水が、光源61の発光部61aの周囲を螺旋状に流動していき、流出口71bから流出していく。
【0071】
また、光源61および流路部71の外周を覆い紫外線を反射または吸収する遮蔽部72が、流路部71の外周面に設置されている。遮蔽部72は、遮蔽部63と同様の材料である。
【0072】
なお、実施の形態3に係る生物粒子計数システムにおけるその他の構成要素の構成および動作は実施の形態2のものと同様であるので、その説明を省略する。
【0073】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0074】
例えば、上記実施の形態1〜3では、試料は、ミネラルウォーターといった飲料水などの液体としたが、気体(空気など)であってもよい。
【0075】
また、上記実施の形態1〜3において、光源22,61は、上述の殺菌線を発せず、上述のオゾン発生線を発するものであってもよい。その場合において、例えば、リボフラビンの代わりにNAD(P)Hの自家蛍光を検出するときには、生物粒子計数器1の発光装置32および照射光学系33は、NAD(P)Hの励起吸収スペクトルのピーク波長付近の波長(例えば約350nm)の測定光を励起光として照射するように構成され、検出光学系34、散乱光選択光学素子35、受光光学系36、および受光光学系38は、蛍光受光装置37において約470nmのピーク波長を有する自家蛍光が検出され、散乱光受光装置39においてその測定光と同一の波長の散乱光が検出されるように構成される。なお、フミン質は上述のような励起・蛍光スペクトルを有するので、NAD(P)Hの自家蛍光を検出する場合でも、このような混入有機物がNAD(P)Hからの自家蛍光に対する背景ノイズになるため、前段照射部2,51において混入有機物を分解することで、生物粒子の計数を精度よく行うことができる。
【0076】
また、上記実施の形態1〜3において、混入有機物として、フミン酸およびフルボ酸を例示しているが、他の混入有機物が試料に含まれていてもよい。
【0077】
また、上記実施の形態1〜3において、前段照射部2,51は、生物粒子計数器1とは別体とされているが、前段照射部2,51は、生物粒子計数器1に内蔵されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、例えば、ミネラルウォーターなどの自然界から採取される試料に含まれる生物粒子の計数に適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 生物粒子計数器(生物粒子計数部の一例)
2,51 前段照射部
21 貯留部
22,61 光源
23,62,71 流路部
63,72 遮蔽部
【要約】
【課題】 生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物が試料に含まれていても、リアルタイムに生物粒子を精度よく計数する。
【解決手段】 流体内の生物粒子の自家蛍光を検出して流体内の生物粒子を計数する生物粒子計数器1の前段に、流体となる試料に対して紫外線を照射する前段照射部2が設けられる。この試料は、生物粒子の自家蛍光に対して背景ノイズとなる蛍光を発する混入有機物を含んでおり、前段照射部2は、オゾン発生線を含む紫外線をこの試料に照射することで、混入有機物を分解する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4