【実施例】
【0025】
<参考実施例1>
60mlの1M KOH溶液からなるブランク(blank)コースティック溶液を、カラス製バブラに導入した。サンプルは、室温且つ大気圧下であった。窒素(N
2)キャリア中のH
2Sが6000ppm(parts per million)である(6000ppmのH
2S/N
2)20sccm(standard cubic centimeters per minute)の流れを、バブラのコースティック溶液中を通過させた。これは、20LHSVの空間速度をもたらす。出口ガスを、吸収されたH
2Sの量を定量化するためにガスクロマトグラフ(GC)によって計測した。ブランクコースティック溶液を76時間にわたって流した後、H
2Sの漏出(breakthrough)を示した。
【0026】
<実施例2>
1グラムの菱鉄鉱(主にFe
3O
4)を、磁気攪拌機を用いて60mlの1M水酸化カリウム溶液中で撹拌することで懸濁させて、固体粒子の色が薄茶色から黒に変わるまで、40乃至50°Cの温度で加熱した。これには、約10乃至20分の時間を要した。攪拌を停止すると、黒い粒子がフラスコの底に沈殿し、透明な液相がその上に現れた。それらは、磁気的性質に起因して、攪拌が行われていないと磁気攪拌機の棒の周りに凝集した。結果として得られた懸濁液は、
図2に示すように、透過型電子顕微鏡を用いて分析された。このことは、粒子たちが、概ね5乃至10ナノメートルの範囲にあることを実証した。これは、大きな粒子が反応して、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が生成されただけでなく、分解もされて鉄ナノ粒子が形成されたことを証拠立てる。
【0027】
結果として得られた10ミリリットルの懸濁液を、実施例1にて使用済みのブランクコースティック溶液を収容しているガラス製バブラに導入し、そして、参考実施例1で説明した手順に従って、N
2に対して6000ppmのH
2Sを懸濁液に通過させた。20時間について、GCにおいてH
2Sに関連するGCピークは見られず、その時点で、H
2Sの漏出があった。即ち、6000ppmのH
2Sの全てが20時間中に流れから完全に除去された(0.2ミリグラムの硫黄)。H
2Sの流れに20時間曝された後、バブラの吸着剤のサンプルは、底側の固体相と上側の灰黄色の透明な液相とを現した。黒い固体粒子は、未だに高い磁性を有していた。漏出する時間とKOHのモル数との間の線形相関を実施例1から仮定すると、H
2Sの除去が実施例2のサンプルのKOHの量(0.173モル)だけに基づいているのならば、サンプルは、漏出の前の12時間だけ持続していたであろうと推測されるだろう。しかしながら、本発明の吸収剤を含んでいた実施例2のサンプルは、漏出の前の20時間の間、実際に持続していた。従って、実施例2は、実施例1で使われたブランクコースティック溶液と比較して硫黄の除去についてかなりの改善を示している。
【0028】
実施例2のアルカリ溶液のpHは、1グラムの菱鉄鋼を追加する前と後において計測された。両者の値は同じであって、約pH13であった。これは、HClを用いた滴定によって確認された。安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を形成する菱鉄鋼の炭酸鉄によってKOHの一部が消費されたことを証明するために、さらなる菱鉄鋼がアルカリ溶液に追加された。このケースでは、菱鉄鋼の濃度が増加したことから、pHの差は、KOHの一部が安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の形成に消費されていたことを一層強力に裏づけている。KOHが非常に過剰であることから、1グラムの菱鉄鋼を追加したときのpH差は、顕著ではないことに注目することは重要である。
【0029】
使用済み触媒の液相を、顕微鏡で分析した。観測された最も大きな粒子は、3マイクロメートルであった。しかしながら、より小さな粒子の大半(ナノメートル範囲)は、顕微鏡で計測可能な範囲以下であった。最大限であっても、このことは、元々の150マイクロメートルの粒子が、大きくて50分の1の大きさに分解されたことを示す。
【0030】
吸着剤の硫黄負荷の百分率は、以下のように計算される。
【数1】
成形及び焼成された菱鉄鋼の固体充填層を用いた典型的な反応では、漏出時の最終的な硫黄負荷は、10乃至20%(鉄含有量に対して25−50%)になるであろう。しかしながら、実施例2で使用された吸着剤について計算された硫黄負荷は、鉄含有量に対して120乃至300%であった。この硫黄負荷は、以下のように決定される。10mlの
アルカリ安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を加えるときに、0.0017モルの鉄(0.066g)と0.173モルのKOHとを加えた。漏出する時間とKOHのモル数との間の線形相関を実施例1から仮定すると、0.173モルのKOHは12時間の間、持続するであろう。このことは、鉄が8時間に亘ってH
2Sを吸収し続けて、鉄含有量に対して120%の硫黄負荷を示していることを意味する。しかし、漏出する時間とKOHのモル数との間に線形相関があるかどうかは分かっていない。それ故、吸着剤単独で20時間のH
2Sの吸収が行われたと考えると、硫黄負荷は、300%まで達していると推定される。これは、米国特許公開第20010005981で報告されているようなアルカリ鉄を使用した場合にて従来知られている14乃至90%(0.14乃至0.9倍)という硫黄負荷の値よりも著しく高い。
【0031】
さらに、ガラス製バブラ内の吸着剤の攪拌がなかったので、固体の黒い粒子の一部は底へ沈降し、N
2に対して6000ppmのH
2Sの流れに直接曝されない。結果として、バブラ内で反応した吸着剤の実際の質量は、開始したときの0.165グラムよりもかなり少ないであろう。これは、未だに磁性が高い黒い粒子を含む固体相の存在によるものと推測されるだろう。これは、以前に見積もられていた値よりも硫黄負荷をさらに高くするであろう。
【0032】
<実施例3>
実施例2に記載したものと同じ方法で準備された10mlの吸着剤の2回目の追加が、実施例2にて漏出に達した後に、バブラ内の使用済みのコースティック溶液に加えられた。参考実施例1に記載した手順によって、6000ppmのH
2S/N
2を、再び懸濁液を通過させて、システムにH
2Sの吸着を再び開始させた。このケースでは、吸着剤の寿命は漏出前の10時間であって、初回よりも短いことに注目することが重要である。その結果として、OH
−とFe
2+のモル比率は好ましくは、少なくとも4乃至6:1であるべきと考えられる。理論に拘束されるものではないが、この比率は、菱鉄鋼に含まれる炭酸鉄を鉄酸化物/水酸化物に変換させることに加えて、それを安定化させて、その後H
2Sを吸着できるようにするのに十分なコースティックを可能にすると、現在のところ考えられる。比率がより低いと、コースティックは菱鉄鋼と反応できるかも知れないが、H
2Sの吸収に関して長い寿命を示さないだろう。加えて、実施例2と実施例3の間の数日間にわたってアルカリ溶液が空気に曝された状態に置かれていたという事実もまた、実施例3に示された吸着剤の寿命の低減という結果をもたらしたであろう。理論に拘束されるものではないが、アルカリ溶液の数日間にわたる空気への暴露が、CO
2を吸収して炭酸カリウムを生じ、OH
−濃度を減少させるという結果をもたらしたであろう。その後、溶液のコースティックの定量化のために、実施例2及び実施例3における使用済みの吸着剤の液相についてHClを用いた滴定が行われた。滴定の間、気泡が生じて、液体から放出され続けた。腐った卵の匂いを放っていたことから、ガスはH
2Sと特定された。加えて、滴定の間、使用済み触媒の色は、明るい灰黄色から明るい緑色に変化した。これは、塩化鉄(II)(FeCl
2)が形成されていたことを示唆している。このことは、当初の黒色触媒が鉄(II)種を含んでいたことをさらに証明する。
【0033】
<実施例4>
上記のように、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が水に曝されると、粒子の色は、黒から茶色へ自然に変化した。Schikorr反応を受けて、水酸化鉄(II)が水に曝されると、Fe
3O
4が形成される。これらの鉄種の吸収能を調べるために、60ミリリットルの水と、実施例2に基づいて生成された1Mアルカリ溶液の安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の5mlとをバブラに加えた。そして、6000ppmのH
2S/N
2を20sccmでバブラに送って、サンプルは、H
2Sの漏出がGCを用いて出口ガスにて検出する前に約6時間に亘って持続した。サンプルのpHは、吸収前は12.6であり、吸収後は9.6であった。このケースにおける使用済みサンプルの色は緑色であって、底に黒い沈殿も見られた。このケースにて、KOHの初期濃度と吸収時間との間の線形相関を再び仮定すると、5mlの1M KOHは、漏出前の6時間の間持続すると予想されるだろう。それ故、Fe
3O
4のナノ粒子は、何らH
2S吸収能を示さないように見える。KOHの濃度と寿命との線形相関に関する証拠が存在しないということを考慮することは重要である。それ故、Fe
3O
4のナノ粒子の吸収能の理解のためにより多くの実験が必要である。硫黄の吸収に向かう水酸化鉄(II)の反応性は、酸化鉄(II)の反応性よりも高いと、現在のところ考えられている。
【0034】
<実施例5>
KOHの代わりに20%(3.6M)のNaOH溶液を用いて、実施例1を繰り返した。実施例1で記載したように、吸収されたH
2Sの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。このケースでは、H
2Sの吸着の間、硫化ナトリウム(Na
2S)や二硫化ナトリウム(NaHS)のような溶解性の低いナトリウム塩が生成されて、バブラの底に堆積し続けたことは、このプロセスを商業的に機能させるのを困難にすることに言及するのは重要である。
図3は、バブラにて生成及び集積した塩を示す。700時間を要した7グラムの硫黄の吸着の後、溶液の全ては固体に変換され、それ以上システムを運転することはできなかった。それ故に、本発明の吸着剤のさらなる利益は、合成物を扱うのを難しくないようにすることである。
【0035】
菱鉄鋼の変換及びH
2Sの吸着について、KOHの代わりにNaOHを用いて、実施例2を繰り返した。このケースでは、7グラムの菱鉄鋼を、磁気的攪拌の下で60mlの20%NaOH水溶液に加えて、コースティック対鉄のモル比を6:1とした。混合後に、黒色の粒子がフラスコの底に沈殿し、磁気棒の周囲に凝集した。菱鉄鋼が安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)に変換された後、それをバブラに導入し、実施例1に説明したように、6000ppmのH
2S/N
2を20sccmでバブラに送った。実施例1にて記載したように、吸着されたH
2Sの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。このケースでは、同じ期間が過ぎて約7グラムの硫黄を吸着した後に、GCによって漏出を検出した。使用済みの吸着剤は、上記のブランクサンプルとは異なる外観を有していた。このケースでは、サンプルの少なくとも80%は、漏出した時点で液体であった。それ故に、本発明の吸着剤のさらなる利益は、合成物を扱うのを難しくないようにすることである。
【0036】
この例では、本発明の吸着剤は、KOHの代わりのNaOHで安定化されると、ブランクNaOHコースティックと比較して硫黄除去能が増加する結果を示さなかった。しかしながら、本発明の吸着剤は、商業的プロセスにおける硫黄の除去を実現する。硫黄を除去している間完全に固まるブランクコースティック(blank caustic)は、プロセスを工業規模で実現できなくする。これに対して、本発明の吸着剤は、漏出時点で少なくとも80%液体のままである。加えて、使用済みコースティックとは対照的に、本発明の吸着剤の使用による使用済み物質は、安全で、空気中で安定で、有害でなく、悪臭を放たない物質である。使用済みの吸着剤はまた、特殊化学工業の終了段階で使用する高純度の脱着硫化水素の生産に容易に利用できる。商業規模のプロセスでは、ブランクNaOHコースティックを、この実施例において為したようには完全に固体に変換できないであろう。代わりに、プロセスを継続するためには、約1乃至2グラムの硫黄が除去された後にコースティックを取り換えることが必要であろう。対照的に、NaOHで安定化される本発明の吸着剤の実施形態では、使用された量の吸着剤は、工業規模のプロセスにおいて7グラムの硫黄の全てを更に除去できるだろう。それ故、理論的な硫黄除去能力がほぼ同じであっても、商用プロセスに規模拡大した場合に理論的な硫黄除去能力のかなりの部分を失っていないであろうということから、本発明の吸着剤は、ブランクNaOHコースティックの使用と比較して、著しい利益を更にもたらす。
【0037】
<実施例6>
米国特許第7,744,841号及び第7,943,105号の教示によって、粉末化された菱鉄鋼を、成形された粒子を生産するために、結合剤及び水と混合した。最終生産物を、その後乾燥し、350°Cで焼成した。菱鉄鋼の淡い茶色っぽい(pale brownish)色は、
図4に示すように焼成の後に深い赤色に変化する。それから、層の長さ対層の直径の比率が10乃至20である水晶管反応器(quartz tubular reactor)を、40乃至50グラムのサンプルで満たした。これは、34乃至48グラムの鉄に相当しており、5乃至15%である結合剤の正確な濃度に依存する。H
2S/N
2が6000ppmである40sccmの流れを層に通過させて、40GHSVの速度となった。実施例1に記載のように、吸着されたH
2Sの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。250乃至500時間の間では、出口ガスにおいてH
2Sの漏出は観測されなかった。漏出時の吸着剤の硫黄負荷は、サンプルの特性に依存するが、10乃至15%(鉄含有量に対して25乃至50%)になると計算された。
【0038】
参考実施例6の結果と実施例2の結果の比較は 本発明の吸着剤が、従来の炭酸鉄吸収剤に対して著しい改善をもたらすことを示している。参考実施例6について、34グラムの鉄が存在しており、50%の硫黄負荷を仮定すると、漏出の前に流体の流れから除去された硫黄の量は、17グラムであったと計算できる。本発明の吸着剤に対して最も低い硫黄負荷である120%を仮定し、吸着剤の安定化に使われたアルカリ溶液の効果を無視すると、漏出なしに流体の流れから同じ17グラムの硫黄を除去できるためには、鉄の重量に基づいて14グラムを少し超えるだけの本発明の吸着剤が必要となると予想されるだろう。硫黄負荷が、段落16に記載の構成に基づいて予測されたような287%に置き換えられると、漏出なしに流体の流れから同じ17グラムの硫黄を除去できるには、鉄の重量に基づいて約5.9グラムの本発明の吸着剤が必要となることが予想されるであろう。或いは、鉄の重量に基づいて34グラムを提供するのに十分な量の本発明の吸着剤が使用されたとすると、(再びアルカリ溶液の効果を無視すると)そのときは、硫黄負荷を控え目に120%と考慮しても、漏出なしに流体の流れから大体41グラムの硫黄を除去できると予想されるだろう。6000ppmのH
2Sと40sccmでは、これは約2000時間かかるであろう。
【0039】
<実施例7>
実施例2において生産されたアルカリ媒体中の安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を、アルミナやアタパルジャイトのような不活性担体(inert supports)に含浸するのに使用した。実施例2において生産された黒い鉄の沈殿物は、乾燥重量で40:60の比率でアルミナに含浸した。含浸担体のサンプルは、その後様々な温度で焼成され、最終生産物の色は、焼成温度に依存して異なっており、灰色から暗いピンクがかがった茶色まで変化した。
図5は、室温と、200°C、400°C及び650°Cで焼成された後の含浸アルミナを示している。
図5に示すように、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が含浸された全てのアルミナのサンプルは、実施例6の炭酸鉄(II)とは外観が異なっている。事前吸収実験は、アルミナ担体の酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)は、高いGHSVにて、
図2に示した液体の吸着剤に比較して低い硫黄吸収能を有することを示唆する。しかしながら、高濃度のカリウムが吸着剤の吸収能を妨げて、減少させていた可能性はある。このように、アルミナのような異なるアルカリ媒体を用いることで、高い硫黄容量をもたらしてよい。
【0040】
<実施例8>
界面活性剤、コロイド、及びポリマーのような様々な媒体を使用して、アルカリ溶液における酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の懸濁を助けた。現時点における望ましい媒体は、架橋性アクリル酸ホモポリマーである。架橋性アクリル酸ホモポリマーのサンプルを、アルカリ溶液又は水の何れかと混合させる一方で、それにN
2を流した。
アルカリ安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を含む黒色の沈殿物のサンプルを、各サンプルに加えると、黒色のゲルとなった。両方のサンプルにおいて、黒色のゲルに見えるサンプルは、色を変えず、又は、その後沈殿しなかった。これは、架橋性アクリル酸ホモポリマーのような種々の媒体を使用して、安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)がアルカリ溶液中に懸濁し続けるのを助けることができることを示唆している。
【0041】
<実施例9>
実施例2を繰り返したが、約8Mに相当する高い濃度のKOH(45%)を使用し、KOH対鉄のモル比率を6:1とした。このケースでは、40乃至50°Cの温度での10乃至20分の加熱の後、そして、磁気攪拌の停止の後、液相は、実施例2において見られたような透明ではなく、緑色になった。この緑色の液相は時間と共に安定し、12.6のpHを有していた。理論に拘束されるものではないが、アルカリ濃度を増加することによって、実施例2と比べてより多くの菱鉄鉱が反応し、この実施例の水酸化鉄(II)はさらに小さな粒子サイズを有し、この懸濁液を安定化させると考えられる。単に、反応の度合いが、この実施例におけるものと同じ程度ではなかったことから、実施例2において、緑色は色あせていて目立っていなかったのであろう。典型的な水酸化鉄粒子は、粒子サイズが大きすぎるため、アルカリ溶液では懸濁できない。しかしながら、新しい本発明のプロセスにより生産された水酸化鉄の粒子は、それらのサイズがナノスケール領域にあるため、懸濁液中に懸濁すると共に安定なままで残る。
図6は、容器の底の固体と分離された後の液相の写真を示す。
【0042】
<実施例10>
以下の実施例を、本発明における初期状態又は未使用の鉄(II)の安定な溶液によるエチルメルカプタンの吸収を調査するために行った。各々同じ量(約50ml)のミネラルスピリットを溶媒として含むA、B及びCの3つのバイアルが用意された。約1mlの1M KOHがバイアルBに加えられ、実施例2に記載の手順に従って調製された約1mlの安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)をバイアルCに加えた。そして、バイアルA、B及びCの各々に、同じ体積(約0.3ml)の純粋なエチルメルカプタンを加えた。メルカプタンの吸収を助けるためにバイアルB及びCにおいて個別に混合を行った後に、3つのサンプルの臭気を比較した。サンプルAは、メルカプタンの特有の臭いを有していた。サンプルBの臭いは、サンプルAのものより穏やかであったが、サンプルCのものほどは穏やかではなかった。エチルメルカプタンの量を定量するために、サンプルA、B及びCの有機相をガスクロマトグラフに注入した。サンプルA及びBは、3000ppmの範囲の値で非常に似たエチルメルカプタンの濃度を示した。これに対して、サンプルCは、当初のメルカプタンの濃度の略半分の値(1700ppm)であって、エチルメルカプタンの約45%の減少を示した。メチルメルカプタンは、第一鉄を伴う水硫化物錯体(hydro-sulfided complex)について以前から提案されていた構造と似た第一鉄メルカプチドを形成すると考えられる。これは、本発明の吸着剤が、硫化水素に加えてメルカプタンの吸収においても単純なコースティックよりも優れていることを証明する。
【0043】
<実施例11>
1グラムの菱鉄鉱(主にFeCO
3)を、磁気攪拌器を用いて、60mlの1M KOH中で撹拌して懸濁させて、固体粒子の色が明るい茶色から黒色に変わるまで40乃至50°Cで加熱した。その後、サンプルをバブラに導入して、窒素(N
2)をキャリアとする6000ppm(parts per million)のH
2S(6000ppmのH
2S/N
2)の流れを、85又は150sccm(standard cubic centimeters per minute)でその中に流した。これは夫々、85又は150LHSVの空間速度という結果となった。85sccmの流量では34.08時間の間、150sccmの流量では18.65時間の間、GCにおいてH
2Sに関連するGCピークは見られず、その時点で、漏出があった。実施例2における硫黄負荷の計算を用いると、このサンプルにより吸収された硫黄は、鉄含量の重量に対して、85sccmの流量で約372%であり、150sccmの流量では約359%であった。これらのサンプルの硫黄負荷は、漏出が検出されるまでに吸収された硫黄の総量(夫々、1.48グラム及び1.43グラムの硫黄)に基づいて計算された。この実施例における条件下ではブランクを流していなかったため、この実施例における硫黄負荷の計算では、実施例2における場合と同様にブランクを考慮していない。これは、100%よりも大きい硫黄負荷を成し遂げるという新しい吸着剤の能力が、用いられる流量に、特に20乃至150sccmの範囲の全ての流量にほとんど依存しないということを証明する。
【0044】
<実施例12>
実施例11に従って調製されたサンプルを用いて、60mlの最終のサンプルに0.055グラムの硫化ナトリウムを加えたことを除いて実施例1における使用と同じ条件下で、H
2Sの吸収を試験した。その後、サンプルをバブラに導入して、窒素(N
2)をキャリアとする6000ppm(parts per million)のH
2S(6000ppmのH
2S/N
2)の流れを、20又は150sccm(standard cubic centimeters per minute)ででコースティック溶液中に流した。H
2Sの漏出は、20sccmの流量では162時間で発生し、150sccmの流量では19.67時間で発生し、GCのピークとして測定された。この結果は、硫黄負荷は、鉄含量の重量に対して、20sccmの流量では約416%、150sccmの流量では約379%となった。これらのサンプルの硫黄負荷は、漏出が検出されるまでに吸収された硫黄の総量(夫々1.68グラム及び1.51グラムの硫黄)に基づいて計算された。この実施例における条件下ではブランクを流していなかったため、この実施例における硫黄負荷の計算では、実施例2における場合と同様にブランクを考慮していない。これは、酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の安定化に使用された様々な添加剤、例えば、これらに限定されないが金属塩、窒素化合物や有機溶媒が、本発明において同様に使用できることを証明している。
【0045】
上記の実施例を模擬的なフィード(feed)で示したが、新たな吸収剤は、硫黄化合物、特にH
2Sを含む任意の液体流及び/又はガス流に関して使用することができる。吸着剤は、天然ガス、軽炭化水素流、原油、酸性ガスの混合物、二酸化炭素ガス及び液体流、嫌気性ガス、埋立地ガス、地熱ガス及び液体等を含むが、これらに限定されるものではなく、様々な炭化水素流からH
2Sのような硫黄化合物を除去することに特に有用である。同様に、上記の説明は、ベンチスケールのテストの状況にて提供されているが、当業者は、このプロセスを如何にして商業的規模に適合させるかを理解するであろう。
【0046】
幾つかの実施形態についての上記の説明は、例示のみを目的としてなされており、如何なるやり方でも限定することを意図したものではない。本発明についての他の変更及び修正は、本明細書を読むことで、当業者には同様に明らかになるだろう。そして、添付の請求の範囲についての最も広い解釈によってのみ、本明細書に開示の発明の範囲が限定されることが意図されている。