特許第6240322号(P6240322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6240322硫化水素を吸収するための高活性ナノ鉄触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240322
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】硫化水素を吸収するための高活性ナノ鉄触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20171120BHJP
   C10L 3/10 20060101ALI20171120BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01J20/06 C
   C10L3/10
   C01G49/00 A
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
【請求項の数】34
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-521531(P2016-521531)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公表番号】特表2016-530075(P2016-530075A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】US2014042849
(87)【国際公開番号】WO2014205026
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】13/921,600
(32)【優先日】2013年6月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508080126
【氏名又は名称】ニュー テクノロジー ベンチャーズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NEW TECHNOLOGY VENTURES,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イルルスン,ベロニカ,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ファルハ,フロイド,イー.
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−096792(JP,A)
【文献】 特開昭51−126989(JP,A)
【文献】 特開2002−210311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C01G 49/00−49/08
C10L 3/00−3/12
B01D 15/00−15/42
B01D 53/02−53/12
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34−53/73;53/74−53/85;53/92;53/96
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流から硫黄化合物を除去するのに有用な吸着剤において、
酸化物、水酸化物、及びそれらの混合物からなる群から選択された鉄(II)化合物であって、吸着剤中の鉄は、主に第一鉄である、鉄(II)化合物と、
アルカリ化合物を含んでおり、鉄(II)化合物を安定化できるアルカリ性流体と、
を含んでおり、
アルカリ性流体中のアルカリ化合物対鉄(II)化合物のモル比が、少なくと4:1であり、
吸着剤は、塩素陰イオン及び硫酸陰イオンを実質的に含んでいない、
吸着剤。
【請求項2】
鉄(II)化合物は、3マイクロメートルよりも小さい粒子サイズを有する、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
鉄(II)化合物の粒子サイズは10ナノメートルよりも小さい、請求項2に記載の吸着剤。
【請求項4】
鉄(II)化合物は、酸化鉄(II)又は水酸化鉄(II)である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項5】
アルカリ化合物は、KOH、NaOH、及びNHOHからなる群より選択される、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項6】
アルカリ化合物は、KOHであり、KOHは、少なくと0.7のモル濃度を有する、請求項5に記載の吸着剤。
【請求項7】
吸着剤を形成する方法において、
炭酸鉄(II)を供給する工程と、
アルカリ化合物を含むアルカリ性流体を供給する工程と、
アルカリ化合物と炭酸鉄(II)とを少なくと4:1のモル比で混合する工程と、
その混合物を、酸化物、水酸化物、及びそれらの混合物からなる群から選択された鉄(II)化合物を形成するのに充分な時間、少なくとも40℃まで加熱する工程と、
を含んでおり、
吸着剤中の鉄は主に第一鉄であり、
吸着剤は、塩素陰イオン及び硫酸陰イオンを実質的に含んでいない、
方法。
【請求項8】
炭酸鉄(II)は、菱鉄鉱によって供給される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルカリ性流体を溶解する又は希釈することで発生した熱が、混合物を少なくとも40℃まで加熱する工程をもたらす、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
アルカリ性流体のアルカリ化合物対炭酸鉄(II)のモル比は4:1乃6:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
形成された鉄(II)化合物は、水酸化鉄(II)である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ化合物は、KOH、NaOH、及びNHOHからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
アルカリ化合物は、KOHであり、KOHは、少なくと0.7のモル濃度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
鉄(II)化合物の形成は、黒色の沈殿物の形成により測定される、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
加熱する工程は10分乃20分の間継続する、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
アルカリ化合物は、NaOHであり、混合物を少なくとも40℃に加熱にするために追加の加熱を要さない、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
天然ガス、液化天然ガスのような軽炭化水素流、原油、酸性ガスの混合物、二酸化炭素ガス及び二酸化炭素液体流、嫌気性ガス、埋立地ガス、地熱流及びその他の硫黄を含有する流体炭化水素流のような、硫黄を含む非水流体流から硫黄化合物を除去する方法において、
1又は複数種の硫黄化合物を含む非水流体流を供給する工程と、
酸化物、水酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択された定化された鉄(II)化合物と、非水流体流とを接触させる工程と、
を含んでおり、
定化された鉄(II)化合物中の鉄は主に第一鉄であり、安定化された鉄(II)化合物はアルカリ流体によって安定化されており、アルカリ性流体のアルカリ化合物と安定化された鉄(II)化合物のモル比は少なくとも4:1であり、
アルカリ流体及び安定化された鉄(II)化合物は、塩素陰イオン及び硫酸陰イオンを実質的に含んでいない、
方法。
【請求項18】
安定化された鉄(II)化合物は、3マイクロメートルよりも小さい粒子サイズを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
安定化された鉄(II)化合物の粒子サイズは10ナノメートルよりも小さい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
安定化された鉄(II)化合物は、酸化鉄(II)又は水酸化鉄(II)である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
ルカリ化合物は、KOH、NaOH及びNHOHからなる群より選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
非水流体流は、液化天然ガス(NGL)、原油、酸性ガス混合物、二酸化炭素ガス及び二酸化炭素液体流、嫌気性ガス、埋立地ガス、地熱ガス、他の炭化水素流、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
硫黄化合物は、HSである、請求項17又は22に記載の方法。
【請求項24】
アルカリ化合物は、KOHである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
安定化された鉄(II)化合物を形成する工程を更に含んでおり、当該工程は、
炭酸鉄(II)を供給する工程と、
アルカリ性流体を供給する工程と、
アルカリ化合物と炭酸鉄(II)少なくと4:1のモル比になるように、アルカリ性流体と炭酸鉄(II)を混合する工程と、
安定化された炭酸鉄(II)の形成に充分な時間、混合物を少なくとも40℃まで加熱する工程と、
を含む方法を用いている、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
炭酸鉄(II)は、菱鉄鉱により供給される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
アルカリ性流体を溶解する又は希釈することで発生した熱が、混合物を少なくとも40℃まで加熱する工程をもたらす、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
アルカリ化合物は、KOH、NaOH及びNHOHからなる群より選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
アルカリ化合物は、KOHであり、KOHは、少なくと0.7のモル濃度を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
安定化された鉄(II)化合物の形成は、黒色の沈殿物の形成により測定される、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
加熱する工程は10分乃20分の間継続する、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
アルカリ化合物は、NaOHであり、混合物を少なくとも40℃に加熱にするために追加の加熱を要さない、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
アルカリ化合物対炭酸鉄(II)の比率は4:1乃6:1である、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
安定化された鉄(II)化合物は、水酸化鉄(II)である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、液体流及び/又はガス流から硫化水素やその他の硫黄種を除去するのに適した吸収剤に関しており、より詳細には、液体流及び/又はガス流から硫化水素やその他の硫黄種を除去するのに特に適している安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)に関する。この吸収剤の製造方法及び使用方法も開示される。
【背景技術】
【0002】
様々な液体流及び/又はガス流、例えば、液化天然ガス(LNG)のような炭化水素流、原油、酸性ガス混合物、二酸化炭素ガス流及び液体流、嫌気性ガス(anaerobic gas)、埋立地ガスや地熱ガスなどは、大抵の場合、かなりの量の硫黄化合物を含んでいる。これらの流れにおいてよく見つかる硫黄化合物には、硫化水素、メルカプタン、及びジメチルジスルフィドがある。特に、炭化水素流の場合、これらの硫黄化合物は、通常、排出基準とパイプラインの要求とを満たすために除去されなければならない。
【0003】
硫黄を含む化合物の性質は、有害で、有毒で、腐食性であるので、それらの硫黄化合物を炭化水素流から除去するのに使用する様々な製品や方法が既に公表されている。商業的に入手できる製品の一つは、SULFATREATE(登録商標)ブランドの粒子状反応剤であって、それは、天然ガス等の生産業者に販売するために、炭化水素燃料や地熱蒸気などのガス及び液体から、硫化水素及びその他硫黄汚染物質を除去するのに有用と言われている。SULFATREATEは、テキサス州ヒュートンのM−I L.L.Cの連邦政府によって登録された商標であって、様式化された形態では、ミネソタ州チェスターフィールドのGas Sweetener Associates社の商標である。SULFATREATEの物質は、特許で保護された製剤(proprietary formulation)であるが、表面積が大きい酸化鉄粒子を主に含むと信じられている。鉄スポンジは、商業的入手可能なもう一つの物質であって、木片に分散した酸化鉄を含んでおり、工業プロセスにおいて硫黄除去に使われている。
【0004】
炭化水素流から硫化水素を除去するための良く知られた別のプロセスは、コースティックスクラバ(caustic scrubber)又はアミンユニットを使用するものである。これらプロセスの殆どは、水酸化ナトリウム(NaOH)のようなアルカリ溶液の使用を含む。これらのプロセスと比較すると、開示される安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)のシステムは、同じ濃度且つ同じ量のコースティック溶液を用いる場合よりも大きな硫黄吸収容量(sulfur capacity)を示す。
【0005】
米国特許第5,948,269号、米国特許第8,404,031号、及び米国特許公開公報第2001/0,005,981号には、HSを除去する、水酸化鉄のようなアルカリ鉄化合物の合成のために鉄塩を用いることが示されている。これらの文献では、鉄塩化物が選択的に使用されて、アルカリ塩(ナトリウム、カルシウム又はマグネシウム)との接触によってアルカリ鉄が生成されている。これらのアルカリ鉄の化合物は、一般に固体吸着剤であって、アルカリ性流体では安定化されない。その結果として、これらは、より低い硫黄負荷量(sulfur loading values)を示し、一旦溶液から除去されると、鉄化合物へと酸化され得る。例えば、米国特許公開公報第2001/0,005,981号は、シングルラン(single run)について、鉄含有量の14乃至90%(0.14乃至0.9倍)の硫黄負荷量を示している。これらのプロセスと比較すると、開示される安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)のシステムは、より経済的であって、不純物(陰イオン)の少ない製品を生産し、そして、鉄1モル当たり6モルの硫黄を吸収する能力を有する。
【0006】
米国特許第7,744,841号と米国特許第7,943,105号には、商業的に入手可能な別の製品が開示されている。この吸収剤については、天然ガス、液化天然ガスのような軽炭化水素流、原油、酸性ガス混合物、二酸化炭素ガス流及び液体流、嫌気性ガス、埋立地ガス、地熱流、並びに、その他の硫黄含有流体のような様々な流体から、硫化水素、メルカプタン、ジメチルジスルフィド及びその他の硫黄含有化合物の除去に有効であることが分かっている。この吸収剤は、炭酸鉄、最も好ましくは、菱鉄鉱の顆粒(siderite granules)又は粉末状の菱鉄鉱から構成されてよい。菱鉄鉱(siderite)の顆粒又は粉末状の菱鉄鉱は、少量の水と随意選択的に結合剤とを用いて、ペレット、錠剤、若しくは球体へと押し出され、さもなければ凝集、締め固め、又は成形される。これら粒子の作製に使用される炭酸鉄は、一般的には、約150マイクロメートル相当の100メッシュスクリーンを90%が通過する大きさである。最終的な吸収剤は、好ましくは約4乃至約12メッシュ又は約1.4乃至4.7ミリメートルの寸法を有しており、深い赤色である。この吸着剤は、吸着剤の10乃至20重量%(鉄の含有量換算で25乃至50%)の硫黄負荷を達成できる。
【0007】
米国特許第7,744,841号と米国特許第7,943,105号とによって保護される製品の商業的な成功に拘わらず、液体流及び/又はガス流から硫黄化合物を除去する能力、特に炭化水素流から硫化水素を除去する能力を有する吸収剤を改善する要求が今なお存在している。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の生成(formation)を含む。好ましくは、これらの酸化物及び/又は水酸化物は、5乃至10ナノメートルの範囲でナノ粒子として存在する。それらの粒子は、菱鉄鉱からの炭酸鉄(FeCO)を用いることによって、硫酸塩や塩化物のような種々の鉄塩からの良く知られたプロセスに比較して、より低いコストと、少ない不純物で生成できることが分かった。これらの新規なナノ粒子は、炭化水素流のような液体流及び/又はガス流から、硫化水素(HS)のような硫黄化合物を除去することに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本特許又は出願書類は、少なくとも1つの色の図面を含む。カラー図面を伴う本特許又は出願公開の写しは、要求及び必要な手数料の支払の上、庁から提供されるであろう。
【0010】
本発明とその更なる利点のより完全な理解のために、添付図面と共に以下の説明が参照される。
図1図1は、液体流及び/又はガス流と吸着剤を接触させて、流体流からHS又は他の硫黄化合物を除去するのに使用できる、ある好ましいシステムの概略図である。
図2図2は、好ましい実施形態における安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の透過型電子顕微鏡像である。
図3図3は、実施例5からHSを除去する間に形成及び沈殿するナトリウム塩の写真である。
図4図4は、標準温度で焼成されたペレット化炭酸鉄の写真である。
図5図5は、アルミナに担持され、ペレット化され、標準温度で焼成された安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の写真である。
図6図6は10乃至20分間、40乃至50°Cの温度で45%KOH溶液と反応した、実施例9の菱鉄鉱の液相の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、望ましい実施形態の製造物及び利用に関する以下の記載によってより良く理解できる。時間、温度、成分の量、重量%による濃度などの全てのデータは、当業者により知られた各々の計測精度範囲内の全ての値を含んでいると解釈されるべきである。開示される全ての範囲は、記載される範囲内の全ての値を含んでいる解釈されるべきである。別の記載がない限り、実施形態においては、様々な材料のテクニカルグレードが使用される。
【0012】
好ましい実施形態では、新規の安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)は、炭酸鉄(炭酸鉄(II)即ちFeCO)から、より好ましくは、菱鉄鉱から調製される。菱鉄鉱は、主として炭酸鉄を含んでおり、自然界で幾らかのカルシウム、マグネシウム、又はマンガンと組み合わされて普通に見つかる。本発明における合成物と様々な方法での使用において、菱鉄鉱は、塊、顆粒、及び微粉の形態で供給されてよい。塊で供給される場合、当該塊は、使用に先立って適した大きさの顆粒に砕かれ、或いは粉末化されることが望ましい。この開示を読むことで、炭酸鉄を合成できることが理解されるであろうが、経済的な理由により、天然に存在する菱鉄鉱鉱物の鉱石から得られる炭酸鉄を使用することが望ましい。Hawley’s Condensed Chemical Dictionary(第12版)は、バーモント州、マサチューセッツ州、コネティカット州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州及びヨーロッパにおいて菱鉄鉱鉱石が自然採掘されることを報告している。
【0013】
<代表的な菱鉄鉱の分析結果>
1立方フィートあたり110ポンドのバルク密度と、3.63の比重と、90%が100メッシュを通過する粒子径とを有する、処理された菱鉄鉱合成物についての分析結果は以下の通りである。
【表1】
【0014】
未処理の菱鉄鉱の粒子は、典型的には100メッシュ(約150マイクロメートル)の粒子径を有し、薄茶色であって、攪拌することなしに水又はアルカリ溶液中で懸濁状態を保てない。室温でアルカリ溶液中に懸濁している場合には、菱鉄鉱粒子の色に変化はない。しかしながら、菱鉄鉱粒子がアルカリ溶液中に懸濁しており、且つ少なくとも40乃至50°Cに加熱されると、粒子の色は黒くなるまで次第に色が黒ずんで行くことが分かっておる。濾過により粒子がアルカリ溶液から分離されて、水洗いされると、黒色の粒子は茶色に戻るだろう。
【0015】
このことは、菱鉄鉱に含まれる炭酸鉄が、酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)に変換され、アルカリ溶液によって安定化されていること、を証明している。酸化鉄(II)は、水、アルカリ又はアルコールには溶けない黒色の粉末である。それはまた、575°C以下の温度の空気中では熱力学的に不安定であり、不均化により金属及び酸化鉄(III)(Fe)に変化するだろう。故に、酸化鉄(II)は非常に不安定であるため、自然界において稀にしか発見されない。水酸化鉄(II)は、緑(緑青)色の粉末であって、しばしば黒色に見える。それは、アルカリには溶けず、Schikorr反応によってFeOOHとHを生じるために水中では非常に不安定である。水酸化鉄(II)の全ての形態は異なる原子配置を有しており、それ故に、それらは、幅広い様々な色調を有し得ること注目することは重要である。Feも暗黒色であるが、この種は、空気中において安定的であって、それ故に、本実施形態において形成される黒色の粒子ではない。好ましい実施形態においては、酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が形成されるが、好ましい実施形態は、炭酸鉄(III)化合物(例えば、鉄酸化物)及び/又はFeのような混合酸化物を含む他の種の鉄に加えて、幾らかの炭酸鉄(II)をさらに含んでよい。
【0016】
一般的に望ましいアルカリ溶液は、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、又は水酸化アンモニウム(NHOH)である。KOHについては、40乃至50°Cで10乃至20分以内に菱鉄鉱と反応する最小の濃度は、約0.7Mである。それと反応して且つ硫黄を吸収するために、コースティック対鉄のモル比(caustic to iron molar ratio)は、少なくとも約4:1、より望ましくは約4:1乃至6:1であることが望ましい。他のアルカリ溶液については、最小濃度、温度及びモル比率は異なり得るであろう。NaOHが使われた場合、濃縮されたNaOHの希釈の際の発熱特性によって、温度が40乃至50°Cに上昇するため、菱鉄鉱との反応のために更に加熱する必要がなかったことに言及しておくことは重要である。
【0017】
安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)のナノ粒子は、液体流及び/又はガス流から、HSのような硫黄化合物を除去するのに特に効果的であることが分かった。具体的には、それらの粒子は、100重量%の鉄よりも大きい硫黄負荷量を有することが分かった。これは、吸着材重量の約10乃至20%の硫黄負荷量を典型的に有する焼成菱鉄鉱の固体充填層(solid packed bed)を用いた場合に匹敵する。典型的なコースティックスクラバは、0.3乃至1時間の範囲の長い接触時間を持つためには、低い液空間速度(1乃至3LHSV)で操作される必要がある。このケースでは、システムは、0.05時間の接触時間をもたらすより速い空間速度(20LHSV)で動作し、それは、未だにより大きい硫黄負荷を示した。好ましい実施形態では、システムは室温及び大気圧で操作されたが、より高い温度及び圧力が、吸収プロセスにおいては有利であろう。好ましい実施形態の吸着剤が、短い接触時間と室温及び大気圧力下で動作する一方で、未だに高い硫黄負荷を提供する能力は、典型的なコースティックスクラバを超える顕著な利点をもたらす。以下で説明する好ましいデザインを使用することによって接触の時間及び領域が非常に改善されることに気付くことは重要である。
【0018】
理論に拘束されるものではないが、これらの粒子の特に高いHS吸着能力は、以下の化学式で説明できると考えられる。
【化1】
【化2】
鉄(II)の電子配置は3dであるため、それは、4個までのHS配位子を持つことができる。提案するこの構造に基づくと、計算された吸着材の硫黄負荷は、重量ベースで鉄含有量の約3.4倍(344%)になるであろう。鉄の幾分かは、以下に示すようにHSと直接化学反応できて硫化鉄を形成するであろう。
【化3】
ここで、m、n、l及びpは、等式を成立させる任意の数であってよい。消費された吸収剤が、コースティックの追加、加熱、酸化、ストリッピング(stripping)反応などの様々な技術によって再生され得ることは合理的に期待される。消費された硫化物吸収剤は、室温にて酸素存在下で安定しており、11よりも低い最終pHを有することから無害である。
【0019】
キレート剤のようなハロゲン又は多座配位子などの潜在的なその他の配位子の量は、現在の吸着剤においてできるだけ少なくされること、より好ましくは除去されることが、現在のところ好ましい。鉄は 様々な配位数の錯体を形成する能力を有する遷移金属である。一般論として、遷移金属と結びつく配位子の数は、4、5又は6であり、最も一般的なものは、4と6である。鉄のような第4周期の遷移金属において、4個の配位子を持ったときの好ましい形状は4面体であり、6個の配位子を持ったときの好ましい形状は8面体である。理論に拘束されるものではないが、本発明では、pHが12乃至13であるようなコースティックが過剰である場合、4個の不対電子を有するFe2+は、4個の水酸基と結合できると考えられる。上述したように、それら4個の水酸基はそれぞれHS配位子に置き換えられ得る。この事は、鉄含有量ベースの重量で120%以上の硫黄負荷を示す証拠によって、間接的に支持されている。それらの不対電子は、懸濁状態の任意の配位子と結合するフリーサイト(free site)として見られ得る。吸着剤における塩又は他の潜在的な配位子の存在は、配位サイトの少なくとも一部を占有でき、このことは、流体から硫黄を除去する吸着剤の能力を著しく低下させると予測される。水分子は、溶液中において配位サイトを占めることもできるが、その相互作用は、HSとの相互作用よりも弱く、それ故に有害であるとは考えられない。それ故、HSによるOHの交換を促進するために、溶液中に最小量の不純物があることが、現在のところ好ましい。同じ理由により、塩化鉄(II)のような鉄塩から本発明の吸着剤を生成すること、さもなければ、溶液中において配位サイトの獲得の競争相手となる配位子を生成するであろう化合物を加えることは、現在のところ好ましくない。
【0020】
液体流及び/又はガス流は、既知の、或いは、将来開発される任意の手法を用いることで、好ましい実施形態の吸収剤に接触させられる。例えば、流れが気相である場合には、バブラ(bubbler)が使用されて、本実施形態の吸着剤が懸濁しているアルカリ溶液中にガスを通過させてよい。この触媒は、バッチ処理、連続撹拌槽反応器、管型流通反応器、及び充填層型流通反応器で使われてよく、流れの種類(基本流(basic flow)、分流(split stream)、並流(concurrent)、対向流(countercurrent)等)の種類と配置の種類とは様々であってよい。
【0021】
S又は他の硫黄化合物を含む液体流及び/又はガス流を吸収剤と接触させるために使用可能な、ある好ましいシステムの概要が、図1に示されている。システム10は、スタティックミキサー反応器(static mixer-reactor)12を備える。酸性液体流及び/又は酸性ガス流14と吸収剤流16とは、ミキサー反応器12において一緒にされる。ミキサー反応器12において十分な接触時間が経過した後に、流れはセパレータ18に渡される。セパレータ18は、当該流れを、硫黄化合物が取り除かれた(sweetened)液体流及び/又はガス流20へと、使用済み吸着剤流22とに分離する。当該液体流及び/又はガス流20からは、所定又は所望の程度まで硫黄化合物が除去されている。使用済み吸着剤流22は、使用済みの吸着剤に加えて、ミキサー反応器12において酸性液体流及び/又は酸性ガス流と充分に反応しなかった幾らかの吸着剤とを含んでいるであろう。使用済み吸着剤流22は、サージタンク24に送られる。ポンプ26が使用されて、使用済み吸着剤流は、使用済み吸収剤用タンク28へ運ばれるか、ミキサー反応器12に戻されて再循環される。更に、未使用の吸着剤が、ポンプ30を用いて吸着剤貯蔵タンク32からミキサー反応器12へと追加される。吸着剤貯蔵タンク32は、攪拌機構付きで作られており、未使用の吸着剤がアルカリ溶液中を懸濁し続けられるのが好ましい。
【0022】
硫黄の除去に加えて、本発明に係る新規な吸着剤の製造プロセスは、他の数多くの目的のために安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を生産することにも同様に使用されてよい。例えば、従来、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の鉄ナノ粒子は、硫酸塩や塩化物のような様々な鉄塩から生産されている。本明細書に開示されるプロセスは、これらの鉄ナノ粒子の生成に関し、より経済的で不純物(陰イオン)のより少ない生産物を生成する代替手法を提供する。これらの安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)粒子は、テープ又はディスクのような磁気記録媒体に使用される磁石(Fe)の製造のような様々な用途に使用できる。これらの安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)粒子は、Schikorr反応、或いは水素化又は脱水素化を含む触媒プロセスにおける水素の生成にも使用できる。
【0023】
その上、例えば酸を加えるなどの様々な技術を用いることによって、使用済の吸着剤から高純度のHSが回収されて、他の有機硫黄化合物の生産に使用できるであろう。このプロセスに使用される酸が硫酸又は硫黄系酸(sulfate based acid)である限りでは、この反応における他の最終生産物は硫化鉄であろう。硫化鉄は、肥料用に単独で有益な生産物である。
【0024】
本発明は、以下の幾つかの実施例によって一層深く理解されるが、それらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0025】
<参考実施例1>
60mlの1M KOH溶液からなるブランク(blank)コースティック溶液を、カラス製バブラに導入した。サンプルは、室温且つ大気圧下であった。窒素(N)キャリア中のHSが6000ppm(parts per million)である(6000ppmのHS/N)20sccm(standard cubic centimeters per minute)の流れを、バブラのコースティック溶液中を通過させた。これは、20LHSVの空間速度をもたらす。出口ガスを、吸収されたHSの量を定量化するためにガスクロマトグラフ(GC)によって計測した。ブランクコースティック溶液を76時間にわたって流した後、HSの漏出(breakthrough)を示した。
【0026】
<実施例2>
1グラムの菱鉄鉱(主にFe)を、磁気攪拌機を用いて60mlの1M水酸化カリウム溶液中で撹拌することで懸濁させて、固体粒子の色が薄茶色から黒に変わるまで、40乃至50°Cの温度で加熱した。これには、約10乃至20分の時間を要した。攪拌を停止すると、黒い粒子がフラスコの底に沈殿し、透明な液相がその上に現れた。それらは、磁気的性質に起因して、攪拌が行われていないと磁気攪拌機の棒の周りに凝集した。結果として得られた懸濁液は、図2に示すように、透過型電子顕微鏡を用いて分析された。このことは、粒子たちが、概ね5乃至10ナノメートルの範囲にあることを実証した。これは、大きな粒子が反応して、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が生成されただけでなく、分解もされて鉄ナノ粒子が形成されたことを証拠立てる。
【0027】
結果として得られた10ミリリットルの懸濁液を、実施例1にて使用済みのブランクコースティック溶液を収容しているガラス製バブラに導入し、そして、参考実施例1で説明した手順に従って、Nに対して6000ppmのHSを懸濁液に通過させた。20時間について、GCにおいてHSに関連するGCピークは見られず、その時点で、HSの漏出があった。即ち、6000ppmのHSの全てが20時間中に流れから完全に除去された(0.2ミリグラムの硫黄)。HSの流れに20時間曝された後、バブラの吸着剤のサンプルは、底側の固体相と上側の灰黄色の透明な液相とを現した。黒い固体粒子は、未だに高い磁性を有していた。漏出する時間とKOHのモル数との間の線形相関を実施例1から仮定すると、HSの除去が実施例2のサンプルのKOHの量(0.173モル)だけに基づいているのならば、サンプルは、漏出の前の12時間だけ持続していたであろうと推測されるだろう。しかしながら、本発明の吸収剤を含んでいた実施例2のサンプルは、漏出の前の20時間の間、実際に持続していた。従って、実施例2は、実施例1で使われたブランクコースティック溶液と比較して硫黄の除去についてかなりの改善を示している。
【0028】
実施例2のアルカリ溶液のpHは、1グラムの菱鉄鋼を追加する前と後において計測された。両者の値は同じであって、約pH13であった。これは、HClを用いた滴定によって確認された。安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を形成する菱鉄鋼の炭酸鉄によってKOHの一部が消費されたことを証明するために、さらなる菱鉄鋼がアルカリ溶液に追加された。このケースでは、菱鉄鋼の濃度が増加したことから、pHの差は、KOHの一部が安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の形成に消費されていたことを一層強力に裏づけている。KOHが非常に過剰であることから、1グラムの菱鉄鋼を追加したときのpH差は、顕著ではないことに注目することは重要である。
【0029】
使用済み触媒の液相を、顕微鏡で分析した。観測された最も大きな粒子は、3マイクロメートルであった。しかしながら、より小さな粒子の大半(ナノメートル範囲)は、顕微鏡で計測可能な範囲以下であった。最大限であっても、このことは、元々の150マイクロメートルの粒子が、大きくて50分の1の大きさに分解されたことを示す。
【0030】
吸着剤の硫黄負荷の百分率は、以下のように計算される。
【数1】
成形及び焼成された菱鉄鋼の固体充填層を用いた典型的な反応では、漏出時の最終的な硫黄負荷は、10乃至20%(鉄含有量に対して25−50%)になるであろう。しかしながら、実施例2で使用された吸着剤について計算された硫黄負荷は、鉄含有量に対して120乃至300%であった。この硫黄負荷は、以下のように決定される。10mlのアルカリ安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を加えるときに、0.0017モルの鉄(0.066g)と0.173モルのKOHとを加えた。漏出する時間とKOHのモル数との間の線形相関を実施例1から仮定すると、0.173モルのKOHは12時間の間、持続するであろう。このことは、鉄が8時間に亘ってHSを吸収し続けて、鉄含有量に対して120%の硫黄負荷を示していることを意味する。しかし、漏出する時間とKOHのモル数との間に線形相関があるかどうかは分かっていない。それ故、吸着剤単独で20時間のHSの吸収が行われたと考えると、硫黄負荷は、300%まで達していると推定される。これは、米国特許公開第20010005981で報告されているようなアルカリ鉄を使用した場合にて従来知られている14乃至90%(0.14乃至0.9倍)という硫黄負荷の値よりも著しく高い。
【0031】
さらに、ガラス製バブラ内の吸着剤の攪拌がなかったので、固体の黒い粒子の一部は底へ沈降し、Nに対して6000ppmのHSの流れに直接曝されない。結果として、バブラ内で反応した吸着剤の実際の質量は、開始したときの0.165グラムよりもかなり少ないであろう。これは、未だに磁性が高い黒い粒子を含む固体相の存在によるものと推測されるだろう。これは、以前に見積もられていた値よりも硫黄負荷をさらに高くするであろう。
【0032】
<実施例3>
実施例2に記載したものと同じ方法で準備された10mlの吸着剤の2回目の追加が、実施例2にて漏出に達した後に、バブラ内の使用済みのコースティック溶液に加えられた。参考実施例1に記載した手順によって、6000ppmのHS/Nを、再び懸濁液を通過させて、システムにHSの吸着を再び開始させた。このケースでは、吸着剤の寿命は漏出前の10時間であって、初回よりも短いことに注目することが重要である。その結果として、OHとFe2+のモル比率は好ましくは、少なくとも4乃至6:1であるべきと考えられる。理論に拘束されるものではないが、この比率は、菱鉄鋼に含まれる炭酸鉄を鉄酸化物/水酸化物に変換させることに加えて、それを安定化させて、その後HSを吸着できるようにするのに十分なコースティックを可能にすると、現在のところ考えられる。比率がより低いと、コースティックは菱鉄鋼と反応できるかも知れないが、HSの吸収に関して長い寿命を示さないだろう。加えて、実施例2と実施例3の間の数日間にわたってアルカリ溶液が空気に曝された状態に置かれていたという事実もまた、実施例3に示された吸着剤の寿命の低減という結果をもたらしたであろう。理論に拘束されるものではないが、アルカリ溶液の数日間にわたる空気への暴露が、COを吸収して炭酸カリウムを生じ、OH濃度を減少させるという結果をもたらしたであろう。その後、溶液のコースティックの定量化のために、実施例2及び実施例3における使用済みの吸着剤の液相についてHClを用いた滴定が行われた。滴定の間、気泡が生じて、液体から放出され続けた。腐った卵の匂いを放っていたことから、ガスはHSと特定された。加えて、滴定の間、使用済み触媒の色は、明るい灰黄色から明るい緑色に変化した。これは、塩化鉄(II)(FeCl)が形成されていたことを示唆している。このことは、当初の黒色触媒が鉄(II)種を含んでいたことをさらに証明する。
【0033】
<実施例4>
上記のように、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が水に曝されると、粒子の色は、黒から茶色へ自然に変化した。Schikorr反応を受けて、水酸化鉄(II)が水に曝されると、Feが形成される。これらの鉄種の吸収能を調べるために、60ミリリットルの水と、実施例2に基づいて生成された1Mアルカリ溶液の安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の5mlとをバブラに加えた。そして、6000ppmのHS/Nを20sccmでバブラに送って、サンプルは、HSの漏出がGCを用いて出口ガスにて検出する前に約6時間に亘って持続した。サンプルのpHは、吸収前は12.6であり、吸収後は9.6であった。このケースにおける使用済みサンプルの色は緑色であって、底に黒い沈殿も見られた。このケースにて、KOHの初期濃度と吸収時間との間の線形相関を再び仮定すると、5mlの1M KOHは、漏出前の6時間の間持続すると予想されるだろう。それ故、Feのナノ粒子は、何らHS吸収能を示さないように見える。KOHの濃度と寿命との線形相関に関する証拠が存在しないということを考慮することは重要である。それ故、Feのナノ粒子の吸収能の理解のためにより多くの実験が必要である。硫黄の吸収に向かう水酸化鉄(II)の反応性は、酸化鉄(II)の反応性よりも高いと、現在のところ考えられている。
【0034】
<実施例5>
KOHの代わりに20%(3.6M)のNaOH溶液を用いて、実施例1を繰り返した。実施例1で記載したように、吸収されたHSの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。このケースでは、HSの吸着の間、硫化ナトリウム(NaS)や二硫化ナトリウム(NaHS)のような溶解性の低いナトリウム塩が生成されて、バブラの底に堆積し続けたことは、このプロセスを商業的に機能させるのを困難にすることに言及するのは重要である。図3は、バブラにて生成及び集積した塩を示す。700時間を要した7グラムの硫黄の吸着の後、溶液の全ては固体に変換され、それ以上システムを運転することはできなかった。それ故に、本発明の吸着剤のさらなる利益は、合成物を扱うのを難しくないようにすることである。
【0035】
菱鉄鋼の変換及びHSの吸着について、KOHの代わりにNaOHを用いて、実施例2を繰り返した。このケースでは、7グラムの菱鉄鋼を、磁気的攪拌の下で60mlの20%NaOH水溶液に加えて、コースティック対鉄のモル比を6:1とした。混合後に、黒色の粒子がフラスコの底に沈殿し、磁気棒の周囲に凝集した。菱鉄鋼が安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)に変換された後、それをバブラに導入し、実施例1に説明したように、6000ppmのHS/Nを20sccmでバブラに送った。実施例1にて記載したように、吸着されたHSの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。このケースでは、同じ期間が過ぎて約7グラムの硫黄を吸着した後に、GCによって漏出を検出した。使用済みの吸着剤は、上記のブランクサンプルとは異なる外観を有していた。このケースでは、サンプルの少なくとも80%は、漏出した時点で液体であった。それ故に、本発明の吸着剤のさらなる利益は、合成物を扱うのを難しくないようにすることである。
【0036】
この例では、本発明の吸着剤は、KOHの代わりのNaOHで安定化されると、ブランクNaOHコースティックと比較して硫黄除去能が増加する結果を示さなかった。しかしながら、本発明の吸着剤は、商業的プロセスにおける硫黄の除去を実現する。硫黄を除去している間完全に固まるブランクコースティック(blank caustic)は、プロセスを工業規模で実現できなくする。これに対して、本発明の吸着剤は、漏出時点で少なくとも80%液体のままである。加えて、使用済みコースティックとは対照的に、本発明の吸着剤の使用による使用済み物質は、安全で、空気中で安定で、有害でなく、悪臭を放たない物質である。使用済みの吸着剤はまた、特殊化学工業の終了段階で使用する高純度の脱着硫化水素の生産に容易に利用できる。商業規模のプロセスでは、ブランクNaOHコースティックを、この実施例において為したようには完全に固体に変換できないであろう。代わりに、プロセスを継続するためには、約1乃至2グラムの硫黄が除去された後にコースティックを取り換えることが必要であろう。対照的に、NaOHで安定化される本発明の吸着剤の実施形態では、使用された量の吸着剤は、工業規模のプロセスにおいて7グラムの硫黄の全てを更に除去できるだろう。それ故、理論的な硫黄除去能力がほぼ同じであっても、商用プロセスに規模拡大した場合に理論的な硫黄除去能力のかなりの部分を失っていないであろうということから、本発明の吸着剤は、ブランクNaOHコースティックの使用と比較して、著しい利益を更にもたらす。
【0037】
<実施例6>
米国特許第7,744,841号及び第7,943,105号の教示によって、粉末化された菱鉄鋼を、成形された粒子を生産するために、結合剤及び水と混合した。最終生産物を、その後乾燥し、350°Cで焼成した。菱鉄鋼の淡い茶色っぽい(pale brownish)色は、図4に示すように焼成の後に深い赤色に変化する。それから、層の長さ対層の直径の比率が10乃至20である水晶管反応器(quartz tubular reactor)を、40乃至50グラムのサンプルで満たした。これは、34乃至48グラムの鉄に相当しており、5乃至15%である結合剤の正確な濃度に依存する。HS/Nが6000ppmである40sccmの流れを層に通過させて、40GHSVの速度となった。実施例1に記載のように、吸着されたHSの定量のために、GCによって出口ガスを測定した。250乃至500時間の間では、出口ガスにおいてHSの漏出は観測されなかった。漏出時の吸着剤の硫黄負荷は、サンプルの特性に依存するが、10乃至15%(鉄含有量に対して25乃至50%)になると計算された。
【0038】
参考実施例6の結果と実施例2の結果の比較は 本発明の吸着剤が、従来の炭酸鉄吸収剤に対して著しい改善をもたらすことを示している。参考実施例6について、34グラムの鉄が存在しており、50%の硫黄負荷を仮定すると、漏出の前に流体の流れから除去された硫黄の量は、17グラムであったと計算できる。本発明の吸着剤に対して最も低い硫黄負荷である120%を仮定し、吸着剤の安定化に使われたアルカリ溶液の効果を無視すると、漏出なしに流体の流れから同じ17グラムの硫黄を除去できるためには、鉄の重量に基づいて14グラムを少し超えるだけの本発明の吸着剤が必要となると予想されるだろう。硫黄負荷が、段落16に記載の構成に基づいて予測されたような287%に置き換えられると、漏出なしに流体の流れから同じ17グラムの硫黄を除去できるには、鉄の重量に基づいて約5.9グラムの本発明の吸着剤が必要となることが予想されるであろう。或いは、鉄の重量に基づいて34グラムを提供するのに十分な量の本発明の吸着剤が使用されたとすると、(再びアルカリ溶液の効果を無視すると)そのときは、硫黄負荷を控え目に120%と考慮しても、漏出なしに流体の流れから大体41グラムの硫黄を除去できると予想されるだろう。6000ppmのHSと40sccmでは、これは約2000時間かかるであろう。
【0039】
<実施例7>
実施例2において生産されたアルカリ媒体中の安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を、アルミナやアタパルジャイトのような不活性担体(inert supports)に含浸するのに使用した。実施例2において生産された黒い鉄の沈殿物は、乾燥重量で40:60の比率でアルミナに含浸した。含浸担体のサンプルは、その後様々な温度で焼成され、最終生産物の色は、焼成温度に依存して異なっており、灰色から暗いピンクがかがった茶色まで変化した。図5は、室温と、200°C、400°C及び650°Cで焼成された後の含浸アルミナを示している。図5に示すように、安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)が含浸された全てのアルミナのサンプルは、実施例6の炭酸鉄(II)とは外観が異なっている。事前吸収実験は、アルミナ担体の酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)は、高いGHSVにて、図2に示した液体の吸着剤に比較して低い硫黄吸収能を有することを示唆する。しかしながら、高濃度のカリウムが吸着剤の吸収能を妨げて、減少させていた可能性はある。このように、アルミナのような異なるアルカリ媒体を用いることで、高い硫黄容量をもたらしてよい。
【0040】
<実施例8>
界面活性剤、コロイド、及びポリマーのような様々な媒体を使用して、アルカリ溶液における酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の懸濁を助けた。現時点における望ましい媒体は、架橋性アクリル酸ホモポリマーである。架橋性アクリル酸ホモポリマーのサンプルを、アルカリ溶液又は水の何れかと混合させる一方で、それにNを流した。アルカリ安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)を含む黒色の沈殿物のサンプルを、各サンプルに加えると、黒色のゲルとなった。両方のサンプルにおいて、黒色のゲルに見えるサンプルは、色を変えず、又は、その後沈殿しなかった。これは、架橋性アクリル酸ホモポリマーのような種々の媒体を使用して、安定化された酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)がアルカリ溶液中に懸濁し続けるのを助けることができることを示唆している。
【0041】
<実施例9>
実施例2を繰り返したが、約8Mに相当する高い濃度のKOH(45%)を使用し、KOH対鉄のモル比率を6:1とした。このケースでは、40乃至50°Cの温度での10乃至20分の加熱の後、そして、磁気攪拌の停止の後、液相は、実施例2において見られたような透明ではなく、緑色になった。この緑色の液相は時間と共に安定し、12.6のpHを有していた。理論に拘束されるものではないが、アルカリ濃度を増加することによって、実施例2と比べてより多くの菱鉄鉱が反応し、この実施例の水酸化鉄(II)はさらに小さな粒子サイズを有し、この懸濁液を安定化させると考えられる。単に、反応の度合いが、この実施例におけるものと同じ程度ではなかったことから、実施例2において、緑色は色あせていて目立っていなかったのであろう。典型的な水酸化鉄粒子は、粒子サイズが大きすぎるため、アルカリ溶液では懸濁できない。しかしながら、新しい本発明のプロセスにより生産された水酸化鉄の粒子は、それらのサイズがナノスケール領域にあるため、懸濁液中に懸濁すると共に安定なままで残る。図6は、容器の底の固体と分離された後の液相の写真を示す。
【0042】
<実施例10>
以下の実施例を、本発明における初期状態又は未使用の鉄(II)の安定な溶液によるエチルメルカプタンの吸収を調査するために行った。各々同じ量(約50ml)のミネラルスピリットを溶媒として含むA、B及びCの3つのバイアルが用意された。約1mlの1M KOHがバイアルBに加えられ、実施例2に記載の手順に従って調製された約1mlの安定な酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)をバイアルCに加えた。そして、バイアルA、B及びCの各々に、同じ体積(約0.3ml)の純粋なエチルメルカプタンを加えた。メルカプタンの吸収を助けるためにバイアルB及びCにおいて個別に混合を行った後に、3つのサンプルの臭気を比較した。サンプルAは、メルカプタンの特有の臭いを有していた。サンプルBの臭いは、サンプルAのものより穏やかであったが、サンプルCのものほどは穏やかではなかった。エチルメルカプタンの量を定量するために、サンプルA、B及びCの有機相をガスクロマトグラフに注入した。サンプルA及びBは、3000ppmの範囲の値で非常に似たエチルメルカプタンの濃度を示した。これに対して、サンプルCは、当初のメルカプタンの濃度の略半分の値(1700ppm)であって、エチルメルカプタンの約45%の減少を示した。メチルメルカプタンは、第一鉄を伴う水硫化物錯体(hydro-sulfided complex)について以前から提案されていた構造と似た第一鉄メルカプチドを形成すると考えられる。これは、本発明の吸着剤が、硫化水素に加えてメルカプタンの吸収においても単純なコースティックよりも優れていることを証明する。
【0043】
<実施例11>
1グラムの菱鉄鉱(主にFeCO)を、磁気攪拌器を用いて、60mlの1M KOH中で撹拌して懸濁させて、固体粒子の色が明るい茶色から黒色に変わるまで40乃至50°Cで加熱した。その後、サンプルをバブラに導入して、窒素(N)をキャリアとする6000ppm(parts per million)のHS(6000ppmのHS/N)の流れを、85又は150sccm(standard cubic centimeters per minute)でその中に流した。これは夫々、85又は150LHSVの空間速度という結果となった。85sccmの流量では34.08時間の間、150sccmの流量では18.65時間の間、GCにおいてHSに関連するGCピークは見られず、その時点で、漏出があった。実施例2における硫黄負荷の計算を用いると、このサンプルにより吸収された硫黄は、鉄含量の重量に対して、85sccmの流量で約372%であり、150sccmの流量では約359%であった。これらのサンプルの硫黄負荷は、漏出が検出されるまでに吸収された硫黄の総量(夫々、1.48グラム及び1.43グラムの硫黄)に基づいて計算された。この実施例における条件下ではブランクを流していなかったため、この実施例における硫黄負荷の計算では、実施例2における場合と同様にブランクを考慮していない。これは、100%よりも大きい硫黄負荷を成し遂げるという新しい吸着剤の能力が、用いられる流量に、特に20乃至150sccmの範囲の全ての流量にほとんど依存しないということを証明する。
【0044】
<実施例12>
実施例11に従って調製されたサンプルを用いて、60mlの最終のサンプルに0.055グラムの硫化ナトリウムを加えたことを除いて実施例1における使用と同じ条件下で、HSの吸収を試験した。その後、サンプルをバブラに導入して、窒素(N)をキャリアとする6000ppm(parts per million)のHS(6000ppmのHS/N)の流れを、20又は150sccm(standard cubic centimeters per minute)ででコースティック溶液中に流した。HSの漏出は、20sccmの流量では162時間で発生し、150sccmの流量では19.67時間で発生し、GCのピークとして測定された。この結果は、硫黄負荷は、鉄含量の重量に対して、20sccmの流量では約416%、150sccmの流量では約379%となった。これらのサンプルの硫黄負荷は、漏出が検出されるまでに吸収された硫黄の総量(夫々1.68グラム及び1.51グラムの硫黄)に基づいて計算された。この実施例における条件下ではブランクを流していなかったため、この実施例における硫黄負荷の計算では、実施例2における場合と同様にブランクを考慮していない。これは、酸化鉄(II)及び/又は水酸化鉄(II)の安定化に使用された様々な添加剤、例えば、これらに限定されないが金属塩、窒素化合物や有機溶媒が、本発明において同様に使用できることを証明している。
【0045】
上記の実施例を模擬的なフィード(feed)で示したが、新たな吸収剤は、硫黄化合物、特にHSを含む任意の液体流及び/又はガス流に関して使用することができる。吸着剤は、天然ガス、軽炭化水素流、原油、酸性ガスの混合物、二酸化炭素ガス及び液体流、嫌気性ガス、埋立地ガス、地熱ガス及び液体等を含むが、これらに限定されるものではなく、様々な炭化水素流からHSのような硫黄化合物を除去することに特に有用である。同様に、上記の説明は、ベンチスケールのテストの状況にて提供されているが、当業者は、このプロセスを如何にして商業的規模に適合させるかを理解するであろう。
【0046】
幾つかの実施形態についての上記の説明は、例示のみを目的としてなされており、如何なるやり方でも限定することを意図したものではない。本発明についての他の変更及び修正は、本明細書を読むことで、当業者には同様に明らかになるだろう。そして、添付の請求の範囲についての最も広い解釈によってのみ、本明細書に開示の発明の範囲が限定されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6