特許第6240417号(P6240417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240417
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】高架橋可変防潮堤
(51)【国際特許分類】
   E01D 18/00 20060101AFI20171120BHJP
   E01D 15/04 20060101ALI20171120BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20171120BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20171120BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   E01D18/00 Z
   E01D15/04
   E01D19/12
   E01D19/02
   E02B3/06 301
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-132318(P2013-132318)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7320(P2015-7320A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠信
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−058138(JP,A)
【文献】 特開2003−239243(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0189854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 18/00
E01D 15/04
E01D 19/02
E01D 19/12
E02B 3/06
E02B 7/20−7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅員方向が内陸側から海側であり、平時は高架橋として形態をなし、津波発生時に形態を変化させて防潮堤となる高架橋可変防潮堤であって、
橋脚が幅員方向両側に位置し、橋軸方向において隣り合う橋脚によって支持される当該橋脚間で区切られた路面を構成する橋部が、内陸側の橋脚に設けられた回転支持部を支点に揺動可能であり、平時には前記橋部の水平状態を維持し、津波発生時には前記橋部を揺動させて前記内陸側の橋脚に沿って起立させる橋部支持手段を有するものであることを特徴とする高架橋可変防潮堤。
【請求項2】
請求項1に記載する高架橋可変防潮堤において、
前記橋部は、鋼製型枠と鉄筋コンクリートとの合成構造をした合成床版によって構成され、前記橋脚は、鋼製であって海側面に保護コンクリートが設けられたものであることを特徴とする高架橋可変防潮堤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する高架橋可変防潮堤において、
前記橋部支持手段は、海側の橋脚と前記橋部の橋軸方向端部に連結された油圧シリンダであり、その伸縮作動によって前記橋部を揺動させるものであることを特徴とする高架橋可変防潮堤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する高架橋可変防潮堤において、
前記橋部は、軸方向に往復運動する支持ピンが揺動側の橋軸方向端部に設けられ、前記橋脚の所定箇所に形成された支持穴に対して出し入れ可能であり、前記支持ピンを前記支持穴に挿入することにより前記橋部を支持して所定の形態を維持させるようにしたものであることを特徴とする高架橋可変防潮堤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載する高架橋可変防潮堤において、
盛土道路が切り離された箇所に配置され、平時には、高架橋の形態により前記盛土道路を連続させる路面を構成し、津波発生時には、防潮堤の形態により前記盛土道路の切り離された箇所に壁を形成するようにしたものであることを特徴とする高架橋可変防潮堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平時は高架橋として使用する一方で災害時には形を変えて防潮堤として機能するようにした高架橋可変防潮堤に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸には高波や高潮に備えて堤防が築かれている。更に防波堤の場合は、波長の長い津波の衝撃に耐え得るようにするため堅固に設計されている。主としてコンクリートや、岩石、土砂、金属などの重くて硬い材料をきわめて多量に用いて建設される。従って、防波堤には建設に多額の費用と長い工事期間が必要であった。そこで下記特許文献には、防波堤として既存の堤防などを活用したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−105775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2011年3月11日に発生したいわゆる東日本大震災では、地震による津波の高さが予想を遙かに超え、海岸線に建設された防波堤を乗り越え或いは破壊してしまった。そして、津波が内陸部にまで押し寄せたことにより被害をより拡大させたといえる。高波や高潮の被害を防ぐためには、海岸線或いは海中に建設する防潮堤が有効であるものの、波長の長い津波に対しては、内陸部に防潮堤を設けることが対策の一つとして考えられる。しかし、人が生活する内陸部に防潮堤を建設するには、その建設に当たって、用地の取得や建設場所の選定が困難な場合が多い。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、平時は高架橋として使用する一方で津波発生時には形態を変えて防潮堤となる高架橋可変防潮堤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の高架橋可変防潮堤は、幅員方向がほぼ内陸側から海側であり、平時は高架橋として形態をなし、津波発生時に形態を変化させて防潮堤となるものであって、橋脚が幅員方向両側に位置し、橋軸方向において隣り合う橋脚によって支持される当該橋脚間で区切られた路面を構成する橋部が、内陸側の橋脚に設けられた回転支持部を支点に揺動可能であり、平時には前記橋部の水平状態を維持し、津波発生時には前記橋部を揺動させて前記内陸側の橋脚に沿って起立させる橋部支持手段を有するものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の高架橋可変防潮堤は、前記橋部が、鋼製型枠と鉄筋コンクリートとの合成構造をした合成床版によって構成され、前記橋脚は、鋼製であって海側面に保護コンクリートが設けられたものであることが好ましい。
また、本発明の高架橋可変防潮堤は、前記橋部支持手段が、海側の橋脚と前記橋部の橋軸方向端部に連結された油圧シリンダであり、その伸縮作動によって前記橋部を揺動させるものであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の高架橋可変防潮堤は、前記橋部が、軸方向に往復運動する支持ピンが揺動側の橋軸方向端部に設けられ、前記橋脚の所定箇所に形成された支持穴に対して出し入れ可能であり、前記支持ピンを前記支持穴に挿入することにより前記橋部を支持して所定の形態を維持させるようにしたものであることが好ましい。
また、本発明の高架橋可変防潮堤は、盛土道路が切り離された箇所に配置され、平時には、高架橋の形態により前記盛土道路を連続させる路面を構成し、津波発生時には、防潮堤の形態により前記盛土道路の切り離された箇所に壁を形成するようにしたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平時には高架橋として自動車の走行や人の歩行などを可能にし、津波発生時には橋部を起立させた壁となって防潮堤に形態を変化させることができる。従って、津波が押し寄せたとしても高架橋可変防潮堤によって、それ以上の進行をくい止め、津波による大きな被害を抑えることができる。そして、特に平時では高架橋として機能しているため、単なる防潮堤だけの建造物と比べ、建設に当たっての用地の取得や建設場所の選定も行い易いと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】高架橋可変防潮堤の実施形態を一部に含む盛土道路を示した図である。
図2】高架橋可変防潮堤の実施形態を示した斜視図であり、高架橋における形態を示した図である。
図3】高架橋可変防潮堤の実施形態を示した斜視図であり、形態を変化させている途中を示した図である。
図4】高架橋可変防潮堤の実施形態を示した斜視図であり、形態を変化させている途中を示した図である。
図5】高架橋可変防潮堤の実施形態を示した斜視図であり、防潮堤における形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る高架橋可変防潮堤の一実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態の高架橋可変防潮堤は、内陸部に建設された盛土道路の一部をなすものであり、図1は、そうした高架橋可変防潮堤を一部に含む盛土道路を示した図である。土砂を盛り上げて高くした盛土道路は、例えば台形形状に盛土体が造成され、下部地盤はその盛土体を支持し得る強度を有する程度に補強施工される。高さ方向に所定の間隔で盛土補強材を埋設して補強盛土とし、その上部に路盤及び硬質舗装層を積層して舗装道路が造られている。
【0012】
本実施形態の盛土道路1は、例えば海岸から所定距離離れた位置に海岸線に沿って連続するように設けられたものである。これにより、海岸線の防潮堤を津波が乗り越えた場合でも、内陸部にまで押し寄せた津波を堰き止めることが可能になる。しかし、防潮堤を目的とした盛土道路は、その地域を縦断するようにして設けられるため、単に盛土道路だけでは海側(図面下側)と内陸(図面上側)との間で生活空間が遮断されてしまう他、景観なども損なわれるおそれがある。
【0013】
そこで、ある箇所で、ある程度の範囲にわたっては、高架橋によって道路を繋ぐことが好ましいと考えられる。しかし、それでは防潮堤としての機能を大きく損なわせてしまうことになるため、本実施形態では、平時は高架橋として使用するが、災害時には形態を変えて防潮堤として機能するようにした高架橋可変防潮堤を提案する。図1は、盛土道路1のある一部に設けられた高架橋可変防潮堤10を示しており、図示するように盛土道路1を連結する高架橋になっている。ここでは、2基の高架橋可変防潮堤10が設けられている。
【0014】
図2乃至図5は、高架橋可変防潮堤10を示す斜視図であり、高架橋から防潮堤へ形態を変化させる過程を段階的に示している。高架橋可変防潮堤10は、通常は高架橋であり盛土道路1の一部をなしている。高架橋である高架橋可変防潮堤10は、例えば断面矩形の鋼箱桁からなる不図示の主桁が橋軸方向に配置され、その鋼箱桁の橋軸方向両端にも鋼箱桁からなる横梁11が接合されている。
【0015】
高架橋の上部構造である橋部15は、そうした主桁や横梁11からなる橋桁の上に床版12が一体になって構成され、更にアスファルト舗装がされて路面が形成されている。床版12には、鋼製型枠と鉄筋コンクリートとの合成構造をした合成床版が用いられる。橋部15は、後述するように揺動するため、重量を軽くするために鋼床版なども考えられる。ただし、橋部15は津波発生時に壁となって防潮堤を構成するため、押し流された物体が衝突することを考えれば、鉄筋コンクリート床版が衝撃を受け止めて鋼製桁部を保護できる点で合成床版が好ましい。
【0016】
橋部15は、コの字に形成された脚部16によって支持され、更に本実施形態では揺動自在に構成されている。高架橋可変防潮堤10は、その幅員方向がほぼ内陸側から海側に向けて設置されており、図1に示す図面右側が海側であり、同図面左側が内陸側である。従って、脚部16は、幅員方向の両側に橋脚17,18が立設され、橋脚17が海側であり、橋脚18が内陸側である。脚部16は鋼製であるが、床版12と同様に、物の衝突による衝撃を受け止めるための保護コンクリートが、橋脚17,18の海側表面に貼り付けるようにして設けられている。
【0017】
橋部15は、内陸側の橋脚18に対して回転支持部によって連結され、海側が揺動するように構成されている。すなわち橋部15は、水平な状態から、揺動側端部である幅員方向の海側が90度下方に振れることにより、橋脚18に沿って起立した状態になって防潮堤として機能するようになる。そのため高架橋可変防潮堤10には、揺動シリンダ21が設けられ、橋部15を揺動させる揺動機構が構成されている。なお、揺動シリンダ21は油圧シリンダである。
【0018】
図4に示すように、橋部15の橋軸方向の両端部には、鋼材からなるアーム22が床版12と一体になって設けられている。アーム22の一端は、内陸側の橋脚18に対して軸支され、他端が揺動シリンダ21に軸着されている。揺動シリンダ21は、そのシリンダチューブ211の端部がアーム22に軸着され、ロッド212の先端部が海側の橋脚17に軸着されている。従って、高架橋可変防潮堤10が、図2から図5に示す状態に形態を変化させる場合、揺動シリンダ21は、伸長状態から収縮し、その後再び伸びることにより橋部15を揺動させる。
【0019】
橋部15と脚部16との間には、揺動シリンダ21とアーム22とを配置させるスペースが必要であり、橋部15と脚部16との間が空いてしまっている。そこで、その隙間を塞ぐため、脚部16の上面には、橋軸方向に隣り合う橋部15間を連結するようにした厚板鋼板の連結プレート25が設けられている。これにより、図1に示す状態では、橋部15と連結プレート25とによって、自動車が走行可能な路面が構成される。
【0020】
形態を変化させる際の橋部15は、揺動シリンダ21によって支えられているが、図2に示す通常状態では、その揺動シリンダ21と共に支持ピン27によって海側の橋脚17に対して支持されている。すなわち、橋部15を構成する床版12には、図4に示すように、揺動側の橋軸方向端部に支持ピン27が突き出されている。支持ピン27は、床版12に埋設された支持シリンダ28のロッドであり、橋部15の通常状態ではシリンダから突出し、橋脚17に形成された支持穴内に挿入される。なお、この支持シリンダ28も油圧シリンダである。
【0021】
ところで、津波発生時には、支持シリンダ28が収縮作動し、支持ピン27が支持穴から抜き取られることで橋部15の揺動が可能になる。高架橋可変防潮堤10には、こうした支持ピン27を出し入れする支持シリンダ28や、橋部15を形態変化させる揺動シリンダ21を作動させるための制御部が構成されている。制御部については詳しく図示しないが、揺動シリンダ21や支持シリンダ28に対する作動油の供給及び排出を行う油圧回路や、その油圧回路を構成する油圧ポンプや切換弁などの流体機器を作動させる制御装置が設けられている。
【0022】
この制御部は、津波警報を受信する受信器を備えており、その警報信号に従って流体機器を作動させるようにしたものである。なお、橋部15の揺動時に道路上を自動車が走行している可能性もあるため、警報ランプや案内放送を行うようにすることが好ましい。また、Webカメラなどによって走行車両の確認を行い、人による遠隔操作にしてもよい。こうした制御部は、図1に示す高架橋可変防潮堤10の場合には、盛土道路1内にスペースを作り、そこに配置されている。
【0023】
そして、こうした本実施形態の高架橋可変防潮堤10は、平時は図2に示すように橋部15が水平状態を保ち、図1に示すように盛土道路1を接続する高架橋として存在している。一方、大地震による津波発生時には、津波警報を受信した制御部において油圧回路を構成する流体機器が制御され、揺動シリンダ21や支持シリンダ28に対する油圧ポンプからの作動油の供給や排出が行われる。支持シリンダ28が収縮作動し、支持ピン27が橋脚17の支持穴から抜き取られる。それにより橋部15は、海側の幅員方向端部が下降方向に揺動する。
【0024】
そうした揺動により、橋部15は、図2に示す高架橋の形態から図5に示す防潮堤の形態に変形する。このとき橋部15は、橋軸方向両側に設けられた2本の揺動シリンダ21によって支えられるようにして揺動し、内陸側の橋脚18に沿って起立する。橋部15が図2から図3に示す状態にまで傾斜する間は揺動シリンダ21が収縮し、その後図4を介して図5に示す起立状態に至るまでは揺動シリンダ21が伸長する。そして、支持ピン27が橋脚18下部に形成された不図示の支持穴に差し込まれる。高架橋を構成する複数の高架橋可変防潮堤10は、各々の橋部15が同時に揺動して橋脚18間を閉じるため、これより盛土道路1とともに内陸部に設けられた防潮堤となる。
【0025】
よって、本実施形態の高架橋可変防潮堤10によれば、津波が内陸部にまで押し寄せたとしても、盛土道路1と変形した高架橋可変防潮堤10とによって、それ以上の進行をくい止め、津波による大きな被害を抑えることができる。そして、特に平時の高架橋可変防潮堤10は高架橋として機能しているため、連続する盛土道路によって海側と内陸側とが遮断されてしまうこともない。また、幅のある橋部15そのものが防潮堤となるため、盛土道路1を高くして、十分な高さの防潮堤とすることができ、大きな津波にも対応できる。そして、その盛土道路1は、側面に階段を設けるなどして災害時に避難することができる高台とすることも可能である。
【0026】
以上、本発明の高架橋可変防潮堤について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、高架橋可変防潮堤10を盛土道路1が一部切り離された箇所に設けるようにしたものを説明したが、この高架橋可変防潮堤10だけで長距離の高架橋を構成するようにしたものであってもよい。また、こうした盛土道路1や長距離の高架橋は、内陸部だけではなく海岸線に沿って設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 盛土道路
10 高架橋可変防潮堤
12 床版
15 橋部
16 脚部
17,18 橋脚
21 揺動シリンダ
図1
図2
図3
図4
図5