(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、地中熱取り込んで利用するヒートポンプシステムがある。このヒートポンプシステムでは、採熱配管を地中に設置して、この採熱配管に熱交換媒体を流通させることで、地中熱を採熱配管内の熱交換媒体に取り込んで利用する。
【0003】
ここで、この採熱配管に地中熱を取り込む方法として、例えば以下の3つの方式がある。
第1に、鉛直方向に延びる採熱専用の井戸を設けて、この井戸の内部に採熱配管を設置するボアホール方式がある。第2に、建物基礎の杭を構築する際に、この杭の鉄筋コンクリート造の杭体に熱交換配管を埋め込む基礎杭方式がある。第3に、採熱配管を地中内で水平方向に設置する水平埋設方式がある。
【0004】
しかしながら、ボアホール方式では、地盤内に数百m程度のボーリングを新たに行って、その後、掘削孔の安定性を確保しながら、採熱配管を所定位置にセットする必要がある。採熱配管は剛性が低く湾曲し易いため、このような採熱配管を所定位置に精度良く設置することは困難であった。
また、水平埋設方式では、配管を設置するための敷地を確保する必要がある上に、掘削孔を水平に施工するため、掘削孔の安定性を確保することが困難であった。
【0005】
以上の問題を解決するため、基礎杭方式が採用されることが多い。この基礎杭方式としては、例えば、鉄筋コンクリート造の杭体の外周面に、軸方向に沿って延びる採熱配管を設置する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、採熱配管が杭体の表面に露出しており、この採熱配管を通してのみ地中熱を取り込むため、地中熱を効率よく取り込むことができない場合があった。また、杭を地中に打ち込む際に、採熱配管が損傷するおそれがあった。
【0008】
本発明は、採熱配管の損傷を防止しつつ、効率よく地中熱を採熱あるいは放熱できる杭構造
および杭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の杭構造は、地中熱を採熱あるいは放熱する杭(例えば、後述の採熱杭30、30A)の構造であって、コンクリート造の杭体(例えば、後述の杭体40)と、当該杭体の外周面を覆う鋼管(例えば、後述の外殻鋼管50)と、前記杭体の内部に前記鋼管の内周面に当接して設けられて熱交換媒体が流通する配管(例えば、後述の採熱配管60A、60B、80)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、熱交換媒体を配管に流通させると、この熱交換媒体は、鋼管および配管を介して、地中熱を採熱あるいは放熱する。このとき、鋼管は杭の外周面を構成しており、配管はこの鋼管の内周面に当接しているので、杭の周囲の地中熱を保持している土との接触面積を広く確保でき、効率よく地中熱を採熱あるいは放熱できる。また、鋼管の内周面に配管を設けたので、配管が鋼管で保護されるから、配管の損傷を防止できる。
【0011】
請求項2に記載の杭構造は、前記配管の熱交換媒体が流入する流入口(例えば、後述の流入口61、83)と、前記配管の熱交換媒体が流出する流出口(例えば、後述の流出口62、84)とは、対向して配置されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、配管の流入口と流出口とを対向して配置した。流入口と流出口とを接近して配置すると、熱が伝わって熱交換媒体が温度変化しやすいが、このように流入口と流出口とを離して配置することで、流入口付近の熱交換媒体と流出口付近の熱交換媒体との間で熱伝導が生じるのを抑制できる。
【0013】
請求項
2に記載の杭構造は、前記配管は、前記鋼管の内周面に沿って当該鋼管の上端側と下端側との間を複数回往復するように設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明の杭構造は、前記配管は、前記鋼管の内周面に沿って当該鋼管の上端側から下端側に向かって螺旋状に延びる螺旋部(例えば、後述の螺旋部81)と、当該螺旋部の下端から前記鋼管の軸方向に直線状に延びる直線部(例えば、後述の直線部82)と、を備えること
が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱交換媒体を配管に流通させると、この熱交換媒体は、鋼管および配管を介して地中熱を採熱あるいは放熱する。このとき、鋼管は杭の外周面を構成しており、配管はこの鋼管の内周面に当接しているので、杭の周囲の地中熱を保持している土との接触面積を広く確保でき、効率よく地中熱を採熱あるいは放熱できる。また、鋼管の内周面に配管を設けたので、配管が鋼管で保護されるから、配管の損傷を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態に係る採熱杭30を備える建物1の断面図である。
建物1には、基礎2を支持する杭10が設けられている。この杭10は、図示しないヒートポンプに接続されて、地中熱を採熱あるいは地中に放熱するものである。具体的には、この杭10は、ここでは、2本の円筒形状で所定長さの中間杭20と、この中間杭20の直下に接続された1本の円筒形状で所定長さの採熱杭30と、を備える。
これら中間杭20および採熱杭30は、工場で製作された後、現場に運搬され、現場にて軸方向に互いに接続されて、地中に打ち込まれている。
【0019】
図2は、採熱杭30の横断面図および縦断面図である。
採熱杭30は、工場製作されたSC杭(Steel & Concrete composite)である。この採熱杭30は、鉄筋コンクリート造の円筒形状の杭体40と、この杭体40の外周面を覆う円筒形状の鋼製の外殻鋼管50と、杭体40の内部で外殻鋼管50の内周面に当接して設けられて、液体である熱交換媒体が流通する一対の採熱配管60A、60Bと、を備える。
杭体40の円筒形状の内部の空間を、杭中空部40Aとする。
外殻鋼管50は、剛性の高い鋼管であり、杭体40の外周を覆うことで、杭体40の耐力を増大させる。
【0020】
図3は、採熱配管60Aと外殻鋼管50との関係を示す図であり、採熱杭30の縦断面図である。
図3では、理解の容易のため、杭体40の表示を省略している。
以下、採熱配管60Aについて説明するが、採熱配管60Bも採熱配管60Aと同様の構成である。
採熱配管60Aは、熱伝導率の高い材質で形成され、外殻鋼管50の内周面に沿ってこの外殻鋼管50の上端側と下端側との間を複数回往復するように、つづら折り状に設けられる。
【0021】
この採熱配管60A、60Bの一端は、熱交換媒体が流入する流入口61であり、他端は、熱交換媒体が流出する流出口62である。採熱配管60A、60Bについて、流入口61と流出口62とは、採熱杭30の中心軸を挟んで反対側に対向して配置されている(
図2参照)。また、採熱配管60A、60Bの流入口61同士、および、採熱配管60A、60Bの流出口62同士は、互いに隣り合って配置されている。
【0022】
図4は、
図2の領域Aを拡大した図である。
杭体40は、杭として基礎2を支持する構造体41と、この構造体41の外周面を囲んで設けられた非構造体であるふかし部42と、を備える。
ふかし部42には、メッシュ筋43および上述の採熱配管60Aが打ち込まれている。具体的には、採熱配管60Aは、このメッシュ筋43と外殻鋼管50との間に挟み込まれている。
また、採熱配管60Aは、断面視で蒲鉾形状であり、この蒲鉾形状の底面の部分が外殻鋼管50の内周面に当接している。
【0023】
図5は、採熱杭30と中間杭20との接合部分の模式図である。
中間杭20は、鉄筋コンクリート造の円筒形状である。この中間杭20の内部には、4本の接続配管21が打ち込まれている。これら接続配管21は、断熱性の高い断熱パイプであり、中間杭20の上下端付近で内周面から杭中空部40Aに向かって突出した後、軸方向に延びている。
【0024】
また、採熱杭30の採熱配管60A、60Bの両端部は、採熱杭30の上端付近で、杭体40の内周面から杭中空部40Aに向かって突出した後、軸方向に延びている。
採熱配管60A、60Bの流入口61と接続配管21とは、ジョイント22で接続されている。また、採熱配管60A、60Bの流出口62と接続配管21とは、ジョイント22で接続されている。また、接続配管21同士も、ジョイント22で接続されている。
【0025】
以上の杭10では、接続配管21を通して、熱交換媒体を流入口61から採熱配管60A、60Bに供給する。すると、熱交換媒体は、採熱配管60A、60Bを流通して、外殻鋼管50および採熱配管60A、60Bを介して採熱あるいは放熱し、その後、流出口62から接続配管21を通って流出する。
【0026】
次に、以上の採熱杭30の製造手順について説明する。
まず、メッシュ筋43を用意し、このメッシュ筋43に採熱配管60A、60Bを結束線などで取り付けて、採熱配管60A、60Bをメッシュ筋43に取り付ける。さらに、この採熱配管60A、60Bが取り付けられたメッシュ筋43を、外殻鋼管50の内径より小さく丸めて、この状態で、
図6に示すように、外殻鋼管50の内部に挿入して、採熱配管60A、60Bを外殻鋼管50内に配置する。
【0027】
次に、
図6に示すように、拡張治具70をメッシュ筋43の内側に配置する。
この拡張治具70は、ホースの固定バンドを転用したものであり、円弧状のバンド71と、このバンド71の両端同士の距離を調整する調整部72と、を備える。調整部72は、バンド71の両端に設けられて雌ねじが形成された雌ねじ部73と、これら雌ねじ部73に螺合された調整ねじ74と、を備える。この拡張治具70によれば、調整ねじ74を回転させて、雌ねじ部73同士を接近させると、バンド71の外径が小さくなり、雌ねじ部73同士を離隔させると、バンド71の外径が大きくなる。
【0028】
次に、
図7に示すように、拡張治具70の調整ねじ74を調整して、バンド71の外径を大きくする。すると、バンド71によりメッシュ筋43が押されて、このメッシュ筋43が採熱配管60A、60Bを外殻鋼管50の内周面に押し付ける。これにより、採熱配管60A、60Bの外殻鋼管50に対する相対位置が保持される。
なお、図示しないが、採熱杭30の上端付近では、メッシュ筋43に垂直に鉄筋棒を固定して、この鉄筋棒に採熱配管60A、60Bの両端部を固定することで、採熱配管60A、60Bの両端部を外殻鋼管50の中心軸に向かって突出させておく。
【0029】
次に、
図7に示すように、外殻鋼管50の内部に図示しない鉄筋を配筋し、コンクリートを打設して、杭体40を構築する。
【0030】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)外殻鋼管50は採熱杭30の外周面を構成しており、採熱配管60A、60Bはこの外殻鋼管50の内周面に当接しているので、採熱杭30の周囲の地中熱を保持している土との接触面積を広く確保でき、効率よく地中熱を採熱あるいは放熱できる。
【0031】
(2)杭10の採熱杭30を、工場製作されたSC杭としたので、現場で採熱配管を埋設する作業が不要であり、高品質でかつ熱交換効率に優れた杭を実現できる。また、現場で既製杭や場所打ち杭内に採熱配管を配置する必要がないので、施工日数を短縮できる。
【0032】
(3)中間杭20の接続配管21を断熱パイプで形成したので、中間杭20にて熱交換媒体に熱が出入りするのを防止できるから、熱交換効率を高めることができる。
【0033】
(4)採熱配管60A、60Bについて、流入口61と流出口62とを、採熱杭30の中心軸を挟んで反対側に対向して配置した。流入口61と流出口62とを接近して配置すると、熱が伝わって熱交換媒体が温度変化しやすいが、このように流入口61と流出口62とを離して配置することで、流入口61付近の熱交換媒体と流出口62付近の熱交換媒体との間で熱伝導が生じるのを抑制できる。
【0034】
〔第2実施形態〕
図8は、本発明の第2実施形態に係る採熱配管80と外殻鋼管50との関係を示す図であり、採熱杭30Aの縦断面図である。
図8では、理解の容易のため、杭体40の表示を省略している。
本実施形態では、採熱配管80の構造が第1実施形態と異なる。
すなわち、採熱杭30Aは、一対の採熱配管60A、60Bの代わりに、採熱配管80を備えている。
採熱配管80は、外殻鋼管50の内周面に沿ってこの外殻鋼管50の上端側から下端側に向かって螺旋状に延びる螺旋部81と、この螺旋部81の下端から外殻鋼管50の軸方向に直線状に延びる直線部82と、を備える。
この螺旋部81の一端は、熱交換媒体が流入する流入口83であり、他端は、熱交換媒体が流出する流出口84である。
【0035】
また、以上の採熱杭30Aの製造手順では、以下の手順で、採熱配管80を外殻鋼管50内に配置する。
すなわち、
図9(a)に示すように、螺旋状の鉄筋44に結束線などで採熱配管80を取り付けて、その後、この螺旋状の鉄筋44の両端を互いに反対方向(
図9(a)中矢印で示す方向)に捩って、
図9(b)に示すように、鉄筋44の螺旋の外径を外殻鋼管50の内径よりも小さくする。この状態で、鉄筋44を外殻鋼管50の内部に挿入し、捻れを解放する。すると、復元力により鉄筋44の螺旋の外径が大きくなって、鉄筋44に取り付けられた採熱配管80が外殻鋼管50の内周面に押し付けられる。
【0036】
本実施形態によれば、上述の(1)〜(3)と同様の効果がある。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、杭10を2本の中間杭20と1本の採熱杭30とで構成したが、これに限らない。すなわち、地中熱を採熱する深度に応じて、中間杭20の本数を適宜増減させてもよいし、採熱量に応じて、採熱杭30の本数を適宜増やしてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、採熱杭30を工場製作されて構造性能に優れたSC杭とし、外殻鋼管50を、杭体40の耐力を増大させる剛性の高い鋼管としたが、これに限らず、外殻鋼管を、杭体40の耐力増大を期待できないが熱伝導率の高い薄い鋼管としてもよい。
【0039】
また、杭の先端部が水底地盤で支持されて、かつ、杭体が水中に埋没される水中杭の場合には、水と接する部分に採熱杭30を配置し、この採熱杭30を挟んで上下に中間杭20を設けてもよい。