(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イネーブルスイッチがオフになってから前記所定の遅延時間経過後に前記監視装置へ前記イネーブル信号のオフが入力されるように、前記イネーブル信号の前記監視装置への伝達を遅らせる遅延装置を更に備える、請求項1に記載のロボット制御システム。
前記監視装置は、前記イネーブル信号のオフを取得してから前記所定の遅延時間経過後に、前記ロボットの停止監視を開始する、請求項1に記載のロボット制御システム。
1以上の関節とその関節を動作させるアクチュエータを少なくとも備え、操作デバイス及びイネーブルスイッチを有する操作入力装置で操作されるロボットの制御方法であって、
前記イネーブルスイッチがオフになると、前記ロボットを動作の減速により停止させることと、
前記イネーブルスイッチがオフになってから前記ロボットの減速による停止にかかる時間に相当する所定の遅延時間経過後から前記イネーブルスイッチがオンとなるまで、前記ロボットの停止を監視する停止監視を行うこととを、含むロボット制御方法。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットやパーソナルケア・ロボットの分野において、ロボットと作業者が同じ作業空間内で直接協働して作業を行うことが提案されている。
【0003】
例えば、産業用ロボットと作業者との協働作業では、作業者がワークの位置や作業状態を知覚してロボットの次の動作を指令する役目を担い、ロボットが指令に応答してワークを把持したり移動させたりする役目を担う。このようなロボットと作業者の協働作業は、計測や位置合わせの制御と判断をロボット近傍にいる作業者が行うため、高度なセンシングや制御が不要になるとともに、効率的で信頼性が高くなるというメリットがある。
【0004】
上記のようなハンドガイドによる協働運転に対応しているロボットの制御装置には、ロボットの操作デバイスを備えたハンドガイド装置が無線又は有線で接続される。例えば、特許文献1に記載されたハンドガイド装置は、オンとオフの少なくとも2つのポジションを有するイネーブルスイッチと、操作デバイスとを備えている。そして、イネーブルスイッチがオンのときにのみ、操作デバイスで入力された操作に基づく制御信号がハンドガイド装置からロボットの制御装置へ出力されるように構成されている。
【0005】
また、産業用ロボットとともに作業を行う作業者の安全性を向上させるために、ロボットの制御装置から独立した監視装置が設けられることがある。このような監視装置は、ロボットの予期しない起動を防止するために、イネーブルスイッチがオフのときはロボットの停止を監視する停止監視を行う。停止監視中の監視装置は、操作デバイスの操作やロボットの動作を検出すると、ロボットアクチュエータへの動力供給が即時に遮断されるように、即ち、ロボットが非常停止するように制御装置を動作させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロボットの非常停止状態は、リセットされるまで継続される。作業者が制御装置へリセット指令を入力すると、ロボットがリセットされて再起動が許可される。続いて、作業者が制御装置へ再起動指令を入力すると、ロボットが再起動されて動作可能な状態となる。以上のような一連の再起動処理によってのみロボットが再起動されるので、ロボットは高い安全性を備えている。
【0008】
しかしながら、ハンドガイド装置では、イネーブルスイッチと操作デバイスを同時に操作せねばならないことから、作業者が操作デバイスの操作中に意図しない誤操作でイネーブルスイッチの操作を解除してしまう事態が想定される。このような事態が生じると、実際は非常停止が不要なシチュエーションであるにも関わらず、イネーブルスイッチのオフに応答して上述の通りロボットが非常停止する。ロボットが非常停止すると、作業者は煩雑且つ時間を要する一連の再起動処理を行わねばならない。特に、ハンドガイドによる協働運転では、上記のような不必要な非常停止と再起動とを繰り返す事態が想定され、作業効率の低下や生産ラインの停止による生産性の低下が懸念される。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハンドガイドに対応している産業用ロボットにおいて、非常停止機能と停止監視機能とを備えることにより安全性を確保しつつ、不必要な非常停止を低減するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るロボット制御システムは、1以上の関節とその関節を動作させるアクチュエータを備えたロボットの制御システムであって、
前記ロボットの前記関節の回転状態を検出する回転センサと、
少なくとも前記ロボットの操作デバイスとイネーブルスイッチが設けられた操作入力装置と、
前記操作デバイスの操作に対応した操作信号と前記イネーブルスイッチの操作に対応したイネーブル信号を前記操作入力装置より取得し、回転信号を前記回転センサより取得し、少なくとも前記操作信号、前記イネーブル信号及び前記回転信号に基づいて前記ロボットを制御する制御装置と、
前記イネーブル信号を前記操作入力装置より取得し、前記回転信号を前記回転センサより取得し、少なくとも前記イネーブル信号及び前記回転信号に基づいて前記ロボットの動作を監視する監視装置とを備えている。
そして、このロボットの制御システムにおいて、前記制御装置が、前記イネーブル信号のオフを取得すると、前記ロボットが動作の減速により停止するように前記ロボットの動作を制御し、前記監視装置が、前記イネーブルスイッチがオフになってから
前記ロボットの減速による停止にかかる時間に相当する所定の遅延時間経過後から前記イネーブル信号のオンを取得するまで、前記ロボットの停止を監視する停止監視を行うことを特徴としている。
【0011】
上記ロボット制御システムは、前記イネーブルスイッチがオフになってから前記所定の遅延時間経過後に前記監視装置へ前記イネーブル信号のオフが入力されるように、前記イネーブル信号の前記監視装置への伝達を遅らせる遅延装置を更に備えることができる。
【0012】
或いは、上記ロボット制御システムは、前記監視装置が、前記イネーブル信号のオフを取得してから前記所定の遅延時間経過後に、前記ロボットの停止監視を開始するように構成されていてよい。
【0013】
さらに、上記ロボット制御システムは、前記監視装置が、前記停止監視中に前記回転信号に基づく前記ロボットの動作が検出されると、前記制御装置へ非常停止信号を出力するように構成され、
前記制御装置が、前記非常停止信号を取得すると、前記ロボットが動力供給の遮断により非常停止するように前記ロボットを制御するように構成されていることが好ましい。
【0014】
そして、上記ロボット制御システムにおいて、前記所定の遅延時間が、0.1〜0.3秒の範囲から選択された時間であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るロボットの制御方法は、1以上の関節とその関節を動作させるアクチュエータを少なくとも備え、操作デバイス及びイネーブルスイッチを有する操作入力装置で操作されるロボットの制御方法であって、
前記イネーブルスイッチがオフになると、前記ロボットを動作の減速により停止させることと、
前記イネーブルスイッチがオフになってから
前記ロボットの減速による停止にかかる時間に相当する所定の遅延時間経過後から前記イネーブルスイッチがオンとなるまで、前記ロボットの停止を監視する停止監視を行うこととを含むものである。
【0016】
上記ロボットの制御方法は、前記停止監視中に前記ロボットが動作すると、前記ロボットを動力供給の遮断により非常停止させることを更に含んでいることが好ましい。
【0017】
そして、上記ロボット制御方法において、前記所定の遅延時間が、0.1〜0.3秒の範囲から選択された時間であることが好ましい。
【0018】
上記ロボットの制御システム及び方法によれば、イネーブルスイッチがオフとなると、操作入力された或いはプログラムされた次の動作に関係なくロボットは減速して停止する。つまり、イネーブルスイッチのオフのみでは、ロボットは非常停止しない。したがって、例えば、作業者が操作デバイスの操作中に意図しない誤操作でイネーブルスイッチの操作を解除してしまったときなどは、減速停止したロボットは、非常停止からシステムを復帰させるための処理を行わずに、次の動作を開始することができる。そして、イネーブルスイッチのオフに応答してロボットが減速停止したあとで、速やかに監視装置によるロボットの停止監視が開始されるので、作業者の安全性は保たれる。よって、本発明に係るロボットの制御システム及び方法によれば、不必要なロボットの非常停止の頻度が低減されるので、非常停止からシステムを復帰させるための煩雑な処理の頻度を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、イネーブルスイッチがオフとなると、ロボットは減速して停止し、ロボットが停止した後で、ロボットの停止監視が開始される。例えば、作業者が操作デバイスの操作中に意図しない誤操作でイネーブルスイッチの操作を解除してしまったときには、ロボットは減速停止するが、非常停止しない。よって、不必要なロボットの非常停止の頻度を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るロボット制御システムの全体的な構成を示す図であり、
図2はロボットの制御及び監視構成を示すブロック図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るロボット制御システム10には、ロボット1と、ハンドガイド装置(操作入力装置)3と、ハンドガイド装置3で入力された操作情報等に基づいてロボット1の動作を制御する制御装置5と、制御装置5から独立してロボット1の動作を監視する監視装置6と、遅延装置70とが備えられている。以下、これらについて詳細に説明する。
【0022】
(ロボット1)
本実施の形態に係るロボット1は6軸ロボットである。ただし、本発明は3軸、4軸又は7軸等の多軸ロボットにも適用することができる。ロボット1には、旋回座11、旋回台12、下腕13、上腕14、手首部15、及び手先部16が備えられている。これらのうち下腕13、上腕14及び手首部15により、ロボットアーム2が形成されている。手先部16は、ロボットアーム2のエンドエフェクタであって、ロボット1が行う作業に対応したエンドエフェクタに取り替えられる。
【0023】
旋回座11と旋回台12は第1関節21において垂直方向の回転軸で連結されている。旋回台12と下腕13の基端は第2関節22において水平方向の回転軸で連結されている。下腕13の先端と上腕14の基端は、第3関節23において、水平方向の回転軸で連結されている。上腕14の基端側リンク141と先端側リンク142とは、第4関節24において上腕14の軸方向の回転軸で連結されている。上腕14の先端と手首部15の基端は、第5関節25において、水平方向の回転軸で連結されている。手首部15の基端側リンク151と先端側リンク152とは、第6関節26において手首部15の軸方向の回転軸で連結されている。手首部15の先端には手先部16が接続されている。さらに、ロボット1には、各関節21〜26を各回転軸回りに個別に動作させるために、各関節21〜26の各々について、制御装置5の制御を受けて動作するアクチュエータ(例えば、モータなど)35、減速機36、及び関節の回転状態(回転量・回転角度・回転位置)を検出するための回転センサ37などが設けられている。
【0024】
(ハンドガイド装置3)
ハンドガイド装置3は、上記構成のロボット1のロボットアーム2の基端から手先部16の先端までの間の適宜位置に装着されている。本実施形態に係るハンドガイド装置3は、手先部16と一体的に連結されている手首部15の先端側リンク152に装着されている。
【0025】
ハンドガイド装置3には、ジョイスティックなどの操作デバイス31や、非常停止スイッチ32及びイネーブルスイッチ8などの安全スイッチなどが設けられている。操作デバイス31は、ロボット1の手先部16の位置と向きの変位指令等を含む操作情報を制御装置5へ入力するための、操作入力手段である。本実施例においては、操作デバイス31として2本のジョイスティックが備えられており、一方によりロボット1の手先部16の位置に関する操作情報が入力され、他方によりロボット1の手先部16の向きに関する操作情報が入力される。ただし、操作デバイス31はジョイスティックに限定されない。
【0026】
イネーブルスイッチ8は、各操作デバイス31に一つずつ設けられており、ハンドガイド装置3には合わせて2つのイネーブルスイッチ8が備えられている。ただし、ハンドガイド装置3に1つのイネーブルスイッチ8が備えられていてもよい。各イネーブルスイッチ8は、3ポジションスイッチであって、スイッチを中央のイネーブル位置に連続的に保持するときだけオンとなる。また、イネーブルスイッチ8を放すか、中央イネーブル位置を超えて押し込むことによって、オフとなる。本実施形態に係るハンドガイド装置3では、2個のイネーブルスイッチ8がオンのときのみ、ロボット1の動作が許可される。さらに、いずれか1つのイネーブルスイッチ8が完全に押し下げられてオフとなると、他のスイッチや操作デバイスによる操作入力に優先してロボットの動作が停止される。
【0027】
ハンドガイド装置3は、制御装置5及び監視装置6と無線又は有線により電気的に接続されている。そして、ハンドガイド装置3の操作デバイス31で入力されたロボット1の操作情報、例えば、ジョイスティックの操作量が、操作信号として制御装置5と監視装置6へそれぞれ出力される。また、ハンドガイド装置3の非常停止スイッチ32からの非常停止信号とイネーブルスイッチ8からのイネーブル信号は、制御装置5と監視装置6へそれぞれ出力される。
【0028】
(制御装置5)
制御装置5には、A/D変換部51、移動量算出部52、座標変換部53、位置指令算出部54、位置・速度制御部55、サーボアンプ部56、安全スイッチ監視部57、及び非常停止回路58が備えられている。制御装置5は、図示しない1以上のプロセッサで構成されており、このプロセッサで1以上の所定のプログラムが実行されることにより、移動量算出部52、座標変換部53、位置指令算出部54位置・速度制御部55、及び安全スイッチ監視部57としての機能を実現するための処理が行われる。以下では、作業者のハンドガイドによるロボット1の作業時に制御装置5で行われる処理に沿って、制御装置5の各機能部の働きについて説明する。
【0029】
まず、作業者はロボット1の手先部16を目的の位置と向きへ動かすために、ハンドガイド装置3に設けられた操作デバイス31を傾けたり回転させたりする。この操作デバイス31の操作量(操作デバイス入力値)が、操作信号としてハンドガイド装置3から制御装置5へ出力される。操作信号は、制御装置5のA/D変換部51でデジタル信号に変換される。移動量算出部52では、このデジタル信号化された操作デバイス入力値から移動量換算値が算出される。移動量換算値は、操作デバイス入力値と対応するロボット1の手先部16の位置と向きの移動量である。この操作座標系の移動量換算値は、座標変換部53にて、ロボット座標系の移動量へ座標変換される。
【0030】
続いて、ロボット座標系でのロボット1の手先部16の位置と向きの移動量に基づいて、ロボット指令値が位置指令算出部54により生成される。ロボット指令値は、手先部16の位置と向きの移動量を実現するためのロボット1の各関節21〜26の関節角の変位量である。そして、位置・速度制御部55では、ロボット指令値と、各関節21〜26に設けられた回転センサ37から得た各関節21〜26の回転位置(関節角)とに基づいて、各関節21〜26に付与されるべき関節トルクが算出される。算出された関節トルクは、各関節21〜26のアクチュエータ(モータ)への駆動指令値として、位置・速度制御部55からサーボアンプ部56へ出力される。駆動指令値は、例えば、電流指令値やパルス列による指令値が用いられてよい。そして、駆動指令値に対応する電流が、サーボアンプ部56から各関節21〜26のアクチュエータへ供給される。このようにして各関節21〜26のアクチュエータに電流が流れると、各関節21〜26の関節角が変化して、ロボット1の手先部16が目的の位置と向きへ移動する。
【0031】
なお、制御装置5の安全スイッチ監視部57は常に非常停止スイッチ32とイネーブルスイッチ8からの信号を監視している。安全スイッチ監視部57には、イネーブルスイッチ8からのイネーブル信号と非常停止スイッチ32からの非常停止信号が入力される。安全スイッチ監視部57から移動量算出部52へイネーブル信号が出力され、移動量算出部52ではイネーブル信号のオンが入力されているときだけ演算処理が行われる。また、安全スイッチ監視部57では、非常停止信号が入力されるとこれが直ちに非常停止回路58へ出力される。すると、非常停止回路58から位置・速度制御部55へ非常停止信号が出力され、位置・速度制御部55からサーボアンプ部56への出力が停止される。これによりロボット1への動力供給が絶たれて、ロボット1が非常停止される。なお、ロボット1が非常停止した後は、非常停止状態のリセットとシステムの再起動のために、ロボット1の再起動操作及び再起動処理が必要である。
【0032】
(監視装置6)
監視装置6は、1以上の図示しないプロセッサを備えており、このプロセッサで1以上の所定のプログラムが実行されることにより、後述する監視装置6の機能を実現するための処理が行われる。監視装置6は、ハンドガイド装置3、回転センサ37及び制御装置5と電気的に接続されている。そして、監視装置6には、イネーブルスイッチ8からのイネーブル信号と、回転センサ37からの検出信号(以下、「回転信号」という)とが入力される。イネーブルスイッチ8からのイネーブル信号は、遅延装置70を介して監視装置6へ入力される。遅延装置70は、イネーブル信号のうち、イネーブル信号のオフのみを所定の遅延時間だけ遅延させて監視装置6へ伝達するように構成されている。遅延装置70として、例えば、PLC(programmable logic controller)、リレー回路、及びタイマのいずれか一つが用いられてよい。
【0033】
監視装置6には、低速動作監視部61と停止監視部62とが少なくとも備えられている。低速動作監視部61では、ロボット1が所定の規定速度以下(例えば、手先部16の移動速度で250mm/s以下)で動作しているかを監視する低速動作監視処理が行われる。低速動作監視処理では、回転センサ37からの回転信号に基づき、ロボット1の各関節の回転速度を検出することと、各関節の回転速度に基づいてロボット1の移動速度を算出することと、ロボット1の移動速度を監視することとが行われる。ロボット1の移動速度には、少なくとも、ロボット1の手先部16の移動速度が含まれる。監視しているロボット1の移動速度が、所定の規定速度を超えるような値となったときに、監視装置6から制御装置5へ非常停止信号が出力される。この結果、制御装置5では、ロボット1を非常停止させる制御が行われる。
【0034】
また、監視装置6の停止監視部62では、ハンドガイド装置3からのイネーブル信号と、回転センサ37からの回転信号に基づいて、ロボット1の停止監視処理が行われる。ここで停止監視とは、停止中のロボット1が意図せず起動しないように、ロボット1の停止状態を監視することを意味する。なお、本願明細書において、ロボット1の「停止」とは、ロボット1の各関節が完全に停止している状態と、所定の許容移動範囲以下の移動をしている状態とを含むこととする。ここで、所定の許容移動範囲とは、作業者に危険が及ばない程度に各関節に許容された極めて小さな関節角変位量の範囲(例えば、関節角で−0.2〜+0.2度の範囲)を意味する。
【0035】
ここで、イネーブルスイッチ8がオフになったあとの制御装置5と監視装置6の処理の流れを説明する。
図3は監視装置6の処理の流れを示すフローチャート、
図4は制御装置5の処理の流れを示すフローチャート、
図5は監視装置6の停止監視処理の流れを示すフローチャートである。
【0036】
イネーブルスイッチ8がオフにされると、イネーブル信号のオフが制御装置5と監視装置6のそれぞれで検出される。
図4に示されるように、制御装置5では、イネーブル信号のオフが検出されると(ステップS41でYES)、回転センサ37から取得した回転信号に基づいてロボット1が動作中であるかどうかが判断される(ステップS42)。ロボットが動作中であれば(ステップS42でYES)、制御装置5ではロボット1を強制的に減速停止させる制御が行われる(ステップS43)。ここで「強制的に減速停止させる」とは、プログラムされた或いは操作入力されたロボット1の次の動作にかかわらず、ロボット1が有する最大の能力でロボット1の各関節の回転速度を減速することにより、ロボット1を停止させることを意味する。
【0037】
一方、
図3に示すように、監視装置6では、イネーブル信号のオフが検出されると(ステップS1)、停止監視が開始される(ステップS2)。なお、イネーブルスイッチ8と監視装置6に介在する遅延装置70の作用により、イネーブルスイッチ8がオフになってから所定の遅延時間が経過したときに監視装置6へイネーブル信号のオフが伝達される。よって、イネーブルスイッチ8がオフになったのち所定の遅延時間が経過してから、停止監視が開始されることとなる。
【0038】
上記において「所定の遅延時間」とは、ロボット1がその最大の能力を発揮して減速することにより停止するまでに必要な時間に相当する時間である。従って、所定の遅延時間は、ロボット1のアクチュエータ35の能力や、ロボット1の動作速度や、制御装置5の処理能力等により異なる。なお、現存する産業用ロボットでは、250mm/sの規定速度(最大速度)で動作しているときに、その最大の能力を発揮して減速することにより停止するまでに要する時間は、0.1〜0.3秒程度である。250mm/sで動作しているロボット1の0.3秒間の移動距離は75mmであり、この間に作業者がロボット1と接触する可能性は極めて小さい。よって、所定の遅延時間は、0.1〜0.3秒の範囲から選択された時間が好適である。所定の遅延時間が0.1秒よりも短いと、監視装置6はロボット1の停止後の振動に基づいてロボット1の動作を検出してしまう恐れがある。一方、所定の遅延時間が0.3秒よりも長いと、停止監視の開始前にロボット1と作業者が接触してしまう可能性が生じる。
【0039】
停止監視を開始した監視装置6では、停止監視処理が行われる。
図5に示されるように、停止監視処理では、回転センサ37から取得した回転信号に基づいてロボット1の停止が監視される(ステップS31)。停止監視中にロボット1の動作が検出されると(ステップS31でNO)、非常停止信号が監視装置6から制御装置5へ出力される(ステップS32)。
図4に示されるように、制御装置5では、非常停止信号が入力されると(ステップS44)、ロボット1を非常停止させる制御が行われる(ステップS45)。
【0040】
イネーブルスイッチ8がオンにされると、イネーブル信号のオンが制御装置5と監視装置6のそれぞれで検出される。
図3に示されるように、監視装置6では、イネーブル信号のオンが検出されると(ステップS3でYES)、停止監視が解除される(ステップS4)。この停止監視が解除されているときに、監視装置6の低速動作監視部61では、ロボット1の動作速度の監視が行われる。一方、
図4に示されるように、制御装置5では、イネーブル信号のオンが検出されると(ステップS46でYES)、再びロボット1が操作デバイス31の操作に基づき操作可能な状態とされる。
【0041】
ここで、イネーブルスイッチ8の操作に応答する制御装置5と監視装置6の振る舞いの一例を説明する。
図6は監視装置と制御装置の動作のタイミングチャートである。
図6では、制御装置5によるアクチュエータ35の駆動電源操作(オン又はオフ)、制御装置5の非常停止動作、監視装置6の停止監視の設定と解除、イネーブルスイッチ8のオンとオフ、操作デバイス31の検出信号(操作量)、及び回転センサ37からの回転信号に基づくロボット1の移動速度が、それぞれ時間軸に沿って示されている。
【0042】
図6のタイミングチャートでは、ロボット1の起動時の時刻t0に、監視装置6で停止監視が開始される。その後、時刻t1に、制御装置5でアクチュエータ35の駆動電源がオンにされる。ロボット1が起動した後の時刻t2に、イネーブルスイッチ8がオン操作されると、監視装置6で停止監視が解除される。イネーブルスイッチ8のオンが継続されている時刻t3から時刻t4の間に、操作デバイス31が操作されると、その操作量に応じてロボット1の移動速度が変化する。ロボット1が停止している時刻t5に、イネーブルスイッチ8がオフ操作されると、時刻t5から所定の遅延時間Δtが経過した時刻t6に、監視装置6で停止監視が開始される。停止監視は、再びイネーブルスイッチ8がオン操作される時刻t7まで継続される。
【0043】
イネーブルスイッチ8がオンの時刻t8に、操作デバイス31が操作されると、その操作量に応じてロボット1が移動する。このようにロボット1が動いている間の時刻t9に、イネーブルスイッチ8がオフ操作される。このようなロボット1の動作中のイネーブルスイッチ8のオフ操作は、作業者が誤って意図せずにイネーブルスイッチ8から手を放してしまった場合や、作業者が意図してロボット1を緊急停止させる場合などが想定される。時刻t9の前後の監視装置6の振る舞いが、
図7に詳細に示されている。
図7では、監視装置6の停止監視の設定と解除、イネーブルスイッチ8のオンとオフ、操作デバイス31からの操作信号(操作量)、回転センサ37からの回転信号に基づくロボット1の移動速度、及び回転センサ37からの回転信号に基づくロボット1の位置が、それぞれ時間軸に沿って示されている。
【0044】
上述のように、ロボット1の動作中にイネーブルスイッチ8がオフ操作されると、制御装置5では、ロボット1を強制的に減速停止させる制御が行われる。この結果、ロボット1の移動速度は、時刻t9から急峻に低下して、時刻t10でゼロとなる。ロボット1の移動速度が一旦ゼロとなった時刻t10から暫くの間は、ロボット1は振動を続け、やがて停止する。一方、監視装置6では、イネーブルスイッチ8がオフ操作された時刻t9から所定の遅延時間Δtが経過した時刻t11に、停止監視が開始される。このように、監視装置6がロボット1の残留振動によってロボット1の動作を誤検出しないように、残留振動が収まったタイミングで停止監視が開始される。停止監視中の時刻t12にイネーブルスイッチ8がオン操作されると、監視装置6の停止監視が解除される。
【0045】
上述の通り、上記ロボット制御システム10では、イネーブルスイッチ8がオフ操作されると、ロボット1は、操作入力或いはプログラムされている次の動作に関係なく、減速して停止するが、それだけでは非常停止はしない。例えば、
図6に示すタイミングチャートの時刻9でイネーブルスイッチ8がオフ操作されると、ロボット1の移動速度は速やかに減速してゼロとなるが、アクチュエータ35の駆動電源はオンのまま維持されている。このような減速停止のあとは、非常停止の場合とは異なり、ロボット1の再起動操作及び再起動処理が不要である。
【0046】
さらに、上記ロボット制御システム10では、制御装置5でロボット1を強制的に減速停止させる処理が行われ、ロボット1が停止したあとで、速やかにロボット1の停止監視が開始される。したがって、ロボット1の動作中に、ロボット1や作業者に異常が生じてイネーブルスイッチ8がオフ操作された場合には、ロボット1が減速停止し、その後、ロボット1の停止が監視されるので、作業者の安全性は損なわれない。一方、ロボットの動作中に、意図しない誤操作でイネーブルスイッチ8の操作を解除してしまうなどの、実際は非常停止が不要なシチュエーションでイネーブルスイッチ8がオフ操作された場合は、ロボット1は一旦減速停止するが、イネーブルスイッチ8がオン操作されれば動作を容易に再開することができる。よって、本実施形態に係るロボット制御システム10によれば、ロボット1の不必要な再起動操作及び再起動処理に起因する、作業効率の低下や生産ラインの停止による生産性の低下を防止することができる。
【0047】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記ロボット制御システム10の構成は、以下のように変更することができる。例えば、ロボット制御システム10の遅延装置70と監視装置6は、それぞれ独立したデバイスとして構成されていてもよいし、実質的に一体的なデバイスとして構成されていてもよい。また、例えば、ロボット制御システム10は、遅延装置70に代えて、監視装置6にタイマが備えられていてもよい。この場合、イネーブルスイッチ8から監視装置6へイネーブル信号が遅延なしで伝達される。そして、
図8に示されるように、監視装置6は、イネーブル信号のオフが検出されると(ステップS21でYES)、所定の遅延時間経過後に(ステップS22でYES)、停止監視が開始される(ステップS23)ように構成される。なお、
図8は変形例に係る監視装置の処理の流れを示すフローチャートである。