【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 FOODS AND FOOD INGREDIENTS JOURNAL OF JAPAN、FFIジャーナル編集委員会発行、2013年2月1日、VOL.218、No.1、p.101−106に発表
【文献】
Foods and Food Ingredients Journal of Japan,2013年 2月,Vol.218, No.1,p.101-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
赤系カロテノイド色素をメタノールに希釈溶解した際、波長400〜550nmの範囲における極大波長が460nm以上である請求項1乃至3に記載のハムの着色方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明は、製造工程中にインジェクション処理を含み、着色料を用いて着色するハム等の製造方法として利用することができ、赤系カロテノイド色素を含む色素製剤をピックル液に含み、インジェクション処理して製造されるハム等であれば、制限なく本願発明の対象とすることができる。
【0013】
本願発明の対象となるものとして、牛、豚等の畜肉、魚肉を原料として製造されるハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚、ローストビーフ等の食肉加工食品であり、特にインジェクション処理をその製造工程中に含むものがあげられる。当該食肉加工食品の原料、製造方法は特に制限されず、インジェクションするピックル液中に、赤系カロテノイド系色素と、アラビアガム及び/又はガティガムの含水溶液を添加し、定法により製造するだけで本願発明の効果を享受することができる。
【0014】
本発明で使用する結晶状態の赤系カロテノイド色素は、リコピンやカンタキサンチン、アスタキサンチン、アポカロテナールやカプサンチン等が例示でき、好ましくはリコピン及びカンタキサンチンである。かかる色素の「赤系」とは、具体的には、メタノールに希釈溶解した際、波長400〜550nmの範囲における極大波長が460nm以上であるものが対象となる。先に例示した色素の極大波長を例示するとリコピン470nm、カンタキサンチン480nm、アスタキサンチン480nm、アポカロテナール463nm及びカプサンチン475nmなどが挙げられる。
【0015】
本願発明におけるハムの着色方法は、公知の方法に従って、牛肉、豚肉、鶏肉等の原料にピックル液をインジェクションするものであり、その後必要に応じてタンブリングや静置、加熱や乾燥等の処置を行うことにより実施できる。リコピン等の結晶状態の赤系カロテノイド系色素は、アミノ酸類、食塩、有機酸及びその塩類、甘味料、酸味料、保存料、酸化防止剤、蛋白質、香料、増粘剤、安定剤等からなるピックル液に加えて調製し、このピックル液を定法に従い、インジェクターによって原料肉にインジェクションすればよい。
【0016】
ピックル液は、原料肉100重量部に対し10〜200重量部、更に好ましくは60〜100重量部インジェクションすることが好ましい。そして当該ピックル液へのリコピン等の結晶状態の赤系カロテノイド系色素の添加料は、ピックル液100部に対し0.01〜0.5部(リコピン含量1%として)、好ましくは0.05〜0.3部であるが、最終的にハムに対しカロテノイド系色素が0.01〜0.5部(リコピン含量1%として)の範囲で含まれるよう、適宜色素製剤の添加量を任意で調節すればよい。
【0017】
添加する色素は、結晶状態の赤系カロテノイド系色素を主成分とする色素製剤であれば制限なく利用できる。例えば、後述のアラビアガムやガティガムにより製剤化したものであっても良い。
【0018】
本発明で使用できる結晶状態の赤系カロテノイド色素の一種であるリコピンは、既存添加物の着色料の一つで、トマト(Lycopersicon esculentumMiller)の果実から得られる色素の主成分として、第8版食品添加物公定書に収載されている。リコピンは赤色〜ピンク色を呈し、他のカロテノイド色素と比べて赤みが強く鮮やかであるという特徴がある。また、近年のトマトに対する生理活性が明らかになるに伴い、ヘルシーなイメージの着色料として消費者に認識され、普及が進んでいる。
【0019】
リコピンの一般的な製法として、トマトの果実から酢酸エチル等で抽出し、溶媒を除去することで得られることが知られている。得られたオレオレジンはトマト特有の臭いが残存するため、更に精製・脱臭を行い製剤化される。また、リコピンはトマト以外にもスイカやグァバ、ピンクグレープフルーツ等に含まれていることが知られていることから、これらを原料として同様の処理を行い、リコピンを抽出、精製して利用しても良い。さらに、公知の合成技術によって合成・半合成されたものや、微生物や発酵により得られたもの、さらにはこれらを適宜混合したものをも本発明では利用できる。
【0020】
また、同じく結晶状態の赤系カロテノイド色素の一種であるカンタキサンチンについても、公知の発酵方法や、特開平6−237787号公報に記載されている微生物による培養方法にて生産されたもの、特開2003−304875号公報に記載された菌株により生産されたもの、その他の動植物由来のもの、或いは合成品や特開2000−351763号公報に記載された工業的な製造方法によって得られたもの等、さらにはこれらを適宜精製したもの、或いはこれらの混合物のいずれをも利用することができる。
【0021】
これらリコピンやカンタキサンチン等の結晶状態の赤系カロテノイド色素は、結晶状態でピックル液に添加するが、事前にアラビアガムやガティガムと公知技術により粉末化した製剤の状態でピックル液に添加してもよい。
【0022】
簡便には三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のリコピンベースシリーズ、カンタキサンチンの製剤等を利用することができる。その際に、色素製剤中の赤系カロテノイド色素であるリコピン及び/又はカンタキサンチンの粒子径を0.05〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μmとすることにより、発色をより美しくすることが可能となる。
【0023】
本願発明では、上述の結晶状態の赤系カロテノイド色素であるリコピン及び/又はカンタキサンチンと、アラビアガム及び/又はガティガムの含水溶液を含有するピックル液を用いてハムを着色することを特徴とする。
【0024】
アラビアガム、ガティガムは、いずれも食品添加物として従来利用されているものを制限なく使用することができる。具体例として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のガムアラビックSD、スーパーガムEM10、ビストップD―4023やガムガティSDといった製品を例示することができる。
【0025】
アラビアガム、ガティガムのピックル液への添加順序や条件等は特になく、公知の方法にてアラビアガムやガティガムの含水溶液を調製し、これと他の原料成分を同様に添加混合する方法、或いはアラビアガムやガティガムを含む原料成分をピックル液に添加し、加熱混合することでアラビアガム等を溶解する方法によって調製すればよい。前述の通り、アラビアガムやガティガムをピックル液に添加する前に、結晶状態の赤系カロテノイド色素と予め適宜公知技術により粉末化してからピックル液に添加してもよい。
【0026】
添加料は、リコピン等の赤系カロテノイド色素の1部に対し、1〜30部の範囲が例示できる。さらに好ましくは、アラビアガムを使用する場合1〜30部、ガティガムを使用する場合1〜20部の範囲で添加することが好ましい。さらに上記範囲内のアラビアガムとガティガムを併用して用いることもできる。かかる範囲の添加量以下であればハムの色調を均一にすることができず、添加量が多くしても一定以上の効果は見込まれず、むしろハムの食感に影響が出たり、ピックル液に粘度が生じ作業性が低下するため好ましくない。
【0027】
上記成分以外にも、通常のハムの製造において利用される原材料や成分、ピックル液に添加して使用される成分等については、本願発明の効果を妨げない範囲において制限なく利用することができる。
【0028】
これにより本発明は達成される。本発明を利用することにより、リコピン単独での着色では、血管のような着色の濃淡や、黄色い変色を生じていたが、アラビアガム及び/又はガティガムをピックル液に添加してハムを着色することにより、従来のコチニール色素で着色していたハムと同等の色調・発色を呈し、均一に着色された食欲をそそる外観を呈するハムを提供することが可能となる。
【0029】
以下に、本願発明の内容を実施例を用いて具体的に説明する。但し、これらによって本願発明が限定されるものではない。尚、下記処方の単位は特に言及しない限り「部」は重量部を意味するものとする。文中「*」のものは三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品を意味し、「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0030】
実験例1
次に記載の処方に基づきピックル液を調整した。使用した試料(色素製剤)については、別途表1に示す。
【0031】
ピックル液処方
1 水あめ (林原商事 ハローデックス) 8
2 乾燥卵白 4
3 粉末大豆たん白 3
4 乳清たん白 (ミルプロ※WG−900*) 1
5 カゼインナトリウム 1
6 ゲル化剤製剤 (HM−150*) 0.8
7 重合リン酸塩 0.8
8 L−アスコルビン酸ナトリウム(結晶) 0.2
9 亜硝酸ナトリウム 0.027
10 食塩 4.3
11 調味料(サンライク※アミノベースNAG*) 0.3
12 試料(色素製剤。表1参照) 所定量
13 冷水 所定量
合計 100
【0032】
<ピックル液の調製方法>
1 冷水に表1の1〜9を加え、ターボンミキサーにて30分攪拌した。
2 次いで、攪拌後の1に10〜13を加え、10分攪拌後冷却してピックル液とした。
【0033】
<色素製剤の調製>
結晶のリコピン25gをエタノール225gに添加混合し、湿式摩砕機ダイノミル(WAB社製ダイノミルRL)を用い3時間粉砕しリコピン結晶粉砕部を調製した。尚、リコピンの波長400〜550nmの範囲における極大波長は470nmである。
【0034】
・着色料製剤A リコピン製剤(実施例1品)
水650gにアラビアガム製剤(スーパーガムEM10 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製 アラビアガム含量100%)を250g配合して90℃に過熱溶解後冷却したものに、上記で得られたリコピン結晶粉砕部100gを添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cm
2で分散均一化処理して、着色料製剤Aを調製した。着色料製剤Aの粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.45μmであった。リコピン含量は1%であった。
【0035】
・着色料製剤B リコピン製剤(比較例1品)
上記で得られたリコピン結晶粉砕部100gを、水850gにメチルセルロース50gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cm2で分散均一化処理して、着色料製剤Bを調製した。着色料製剤Bの粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.45μmであった。リコピン含量は1%であった。
【0036】
【表1】
【0037】
<ハムの製造方法>
色素製剤を添加した各ピックル液を使用し、ハムを調製した。
1 豚ロース肉に対し上記ピックル液を50%インジェクションし、タンブリング後一晩塩漬した。
2 一晩塩漬けした1をファイブラスケーシングに充填し、加熱した。
(乾燥 60℃ 60分・スモーク 70℃ 30分、スチーム 80℃ 中心温度75℃)。
【0038】
製造したハムの断面の写真を撮影し、またハムの切断面を色差計V−560(日本分光工業(株)社)にて反射測色した。結果を表2に示す。
装置 ; 色差計V-560 ILV-471積分球吸光度測定装置 (日本分光工業(株)社) 測色 ; 反射測色
色差 ; 色差 = √((L
1−L
2)
2+ (a
1−a
2)
2 + (b
1−b
2)
2)
【0039】
【表2】
【0040】
<結果>
コチニール色素を用いて着色したハム(標準品。写真を
図1に示す)を基準として、発色の程度や肉の着色具合を評価した。
【0041】
着色料製剤Aを添加したピックル液を用いて着色したハム(No.1。写真を
図2に示す)は、全体が均一な色調で、ムラなくきれいに着色できていた。色調もコチニール色素を用いて着色したものを遜色のないものとなっており、食欲をそそる外観を呈していた。
【0042】
一方、メチルセルロースを用いた着色料製剤Bを含むピックル液によって着色したハム(No.2。写真を
図3に示す)は、発色が弱く暗い色調となっており、ハムの一部に片寄った着色をしている部分が認められた。
【0043】
表2に示す色差計の測定値においても、標準品のハムとNo.1のハムでは測定値の差がほとんどなく、No.2はかなり離れていた。
【0044】
色差値別の許容差設定事例(平井敏夫:色彩研究、No.1,13(1985))によると、色差ΔEが0.8〜1.6の時の色差の程度は、一般の測色器機の器差を含む誤差範囲であり、隣接比較で色差が感じられるレベルである。またΔEが1.6〜3.2の時の色差の程度は、離問比較ではほとんど気付かない色差で、一般には同じ色だと思われているレベルである、とされている。
【0045】
上記判断事例によれば、本発明で得られるリコピンとアラビアガムをピックル液に添加して着色したハムは、コチニール色素により着色したハムと同色であると判断でき、また肉眼で比較しても違いがわからないほどに着色されていた。
【0046】
実験例2
・着色料製剤C リコピン製剤(実施例2品)
水800gにガティガムRD(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を100g配合して90℃に過熱溶解後冷却したものに、実験例1で着色料製剤A及びBにおいて使用したリコピン結晶粉砕部100gを添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cm
2で分散均一化処理して、着色料製剤Cを調製した。着色料製剤Cの粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.42μmであった。リコピン含量は1%であった。
【0047】
・着色料製剤D カンタキサンチン製剤(実施例3品)
水740gにアラビアガム150g、プロピレングリコール100gを配合して溶解し、水相成分を調製した水相成分に結晶のカンタキサンチン10gを添加混合し、湿式摩砕機ダイノミル(WAB社製ダイノミルKDL)を用い粉砕し、着色製剤Dを調製した。着色製剤Dの粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.45μmであった。カンタキサンチン含量は1%であった。尚、カンタキサンチンの波長400〜550nmの範囲における極大波長は480nmである。
【0048】
・着色料製剤E リコピン製剤(比較例2品)
リコピンをグリセリン脂肪酸エステルを用いて分散した着色料製剤(リコピンベースNo.35153*。リコピン含有量2.5%)
【0049】
・着色料製剤F リコピン製剤(比較例3品)
着色料製剤Aで使用したリコピン結晶粉砕部250gを、水830gにショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬社製、DKエステルSS)40g、レシチン(辻製油株式会社SLP-ホワイト)30gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cm2で分散均一化処理して、比較例3品を調製した。比較例3の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.38μmであった。リコピン含量は2.5%であった。
【0050】
・着色料製剤G リコピン製剤(比較例4品)
着色料製剤Aで使用したリコピン結晶粉砕部50gを、水900gにゼラチン(ゼライス株式会社、ゼラチンF−3578)50gを配合して溶解したものに添加し、高圧ホモジナイザーにて圧力350kg/cm
2で分散均一化処理して、比較例4を調製した。比較例4の粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.45μmであった。リコピン含量は0.5%であった。
【0051】
・着色料製剤H カロテノイド製剤(比較例5品)
波長400〜550nmの範囲における極大波長が450nmである結晶状態のβカロチン25gを、着色料製剤Aと同様の方法により製剤とした。この着色料製剤に含まれるβカロチンの粒度分布をレーザー解析式粒度分布計(SALD−2100 島津製作所社製)にて測定したところ0.43μmであった。βカロチン含量は1%であった。
【0052】
<試料(色素製剤)添加量>
【0053】
【表3】
【0054】
<ピックル液の調製、ハムの調製>
実験例1と同じ処方、工程により、ピックル液を調製した。
得られたピックル液を用いて、実験例1と同じ処方、工程によりハムを調製した。
【0055】
<結果>
No.1のコチニール色素を用いて着色したものを基準として、発色の程度や肉の着色具合を評価した。
【0056】
着色料製剤Cを含むピックル液を用いて着色したハム(No.3)は、今回調製したハムの中で最も良い発色であり、色調もコチニール色素を用いて着色した標準品と近似しており、断面全体を満遍なく均一な色調に着色できていた。写真を
図4に示す。
【0057】
また、カンタキサンチンを含む着色料製剤Dを含むピックル液を用いて調製したハム(No.4)は、リコピンよりもやや赤味が強い色調であるものの、全体を満遍なく着色できていた。写真を
図5に示す。
【0058】
多糖類を使用せず調製した着色料製剤Eを含むピックル液で調製したハム(No.5)は、他のリコピンを用いた実施例に比べ、発色が劣っていた。また、一部が黄色く変色し、筋の発生が認められた。写真を
図6に示す。
【0059】
ショ糖脂肪酸エステルを用いて調製した着色料製剤Fを含むピックル液で調製したハム(No.6)は、全体として黄色味の強い色調に着色され、一部黄色く変色していた。写真を
図7に示す。
【0060】
ゼラチンを用いて調製した着色料製剤Gを含むピックル液で調製したハム(No.7)は、明らかに筋状に着色された部分が認められ、製品としての価値は失われていた。写真を
図8に示す。
【0061】
上記のように、赤系カロテノイド色素のリコピン及び/又はカンタキサンチンと、水溶性多糖類であるアラビアガム及び/又はガティガムを用いた色素製剤を用いて製造したハム(No.3及び4)については、赤系カロテノイド色素の色調が十分に表現されていた。特にガティガムを使用した着色料製剤Cを使用した場合が、最も良い発色状態であり、コチニール色素による着色したハムと遜色ないものであった。
【0062】
一方、水溶性多糖類を使用せずに赤系カロテノイド色素を用いて着色したハム(No.5〜7)では、色素の分散が不十分となり発色も良くなかった。
【0063】
また、βカロチンを使用したハム(No.8)は、全体が黄色い色調となっており、コチニール色素とかけ離れた外観となり、商品としての価値が損なわれていた。