(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ処理部は、さらに、前記輪郭形状データから前記基本周波数成分データを減算することによって得られる高周波成分データに基づいて前記工作物の輪郭形状の真円度を算出する真円度算出部を含む、請求項1に記載の工作物測定装置。
前記フィルタ処理部は、前記輪郭形状データに対して所定の角度幅での移動平均を行うとともに前記所定の角度幅に応じた補正値を乗算することによって、前記基本周波数成分データを抽出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作物測定装置。
前記フィルタ処理部は、周期2πを有する正弦波曲線を前記輪郭形状データにフィッティングすることによって前記基本周波数成分データを抽出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作物測定装置。
前記フィルタ処理部は、前記輪郭形状データに対して所定の角度幅での移動平均を行うとともに前記所定の角度幅に応じた補正値を乗算することによって平均化データを求め、さらに前記平均化データに対して周期2πを有する正弦波曲線をフィッティングすることによって前記基本周波数成分データを抽出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作物測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特開2005−14167号公報(特許文献1)では、真円度誤差については特に考慮されていない。特開2000−205854号公報(特許文献2)は、工作物の振れに関するものではないが、真円度誤差の影響が考慮されている。しかしながら、この文献の方法では、径寸法測定機を用いた工作物の外径寸法の測定の他に、真円度測定機を用いた振れ量の平均値の測定が必要であり、平均径を検出するのに2度の測定が必要である。
【0008】
この発明は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、その主な目的は、真円度誤差の影響を受けることなく、従来よりも簡単に工作物の振れ量および振れ角を検出することが可能な工作物測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は一局面において、工作機械によって加工される工作物を測定する工作物測定装置である。工作機械は、工作物を回転させる回転機構を有する。工作物測定装置は、変位センサとデータ処理部とを備える。変位センサは、工作物の外部の基準点から工作物までの距離を計測することによって、回転機構の回転軸に垂直な方向の工作物の表面の変位を検出する。データ処理部は、回転軸に垂直な断面での工作物の輪郭形状データに対してデータ処理を行う。上記の輪郭形状データは、回転機構が工作物を回転させたときに検出される、工作物の回転角度に対応付けられた工作物の表面の変位の情報である。データ処理部は、輪郭形状データから周期2πよりも短い周期の高周波成分を取り除くことによって基本周波数成分データを抽出するフィルタ処理部と、基本周波数成分データに基づいて回転軸に対する工作物の振れ量および振れ角を算出する振れ算出部とを含む。
【0010】
上記の構成によれば、輪郭形状データから抽出した基本周波数成分データを用いて振れ量および振れ角の算出することによって、真円度誤差の影響を容易に取り除くことができる。
【0011】
好ましくは、データ処理部は、さらに、輪郭形状データから基本周波数成分データを減算することによって得られる高周波成分データに基づいて工作物の輪郭形状の真円度を算出する真円度算出部を含む。
【0012】
上記の構成によれば、1回の測定で得られた輪郭形状データを用いて、工作物の振れ量および振れ角ならびに真円度が検出可能になる。
【0013】
好ましくは、振
れ算出部は、基本周波数成分データの最大値および最小値ならびに最大値および最小値を与える回転角度を特定し、特定された最大値、最小値、および回転角度から工作物の振れ量および振れ角を決定する。
【0014】
好ましい一実施の形態において、フィルタ処理部は、輪郭形状データに対して所定の角度幅での移動平均を行うとともに所定の角度幅に応じた補正値を乗算することによって、基本周波数成分データを抽出する。
【0015】
好ましい他の実施の形態において、フィルタ処理部は、周期2πを有する正弦波曲線を輪郭形状データにフィッティングすることによって基本周波数成分データを抽出する。
【0016】
好ましいさらに他の実施の形態において、フィルタ処理部は、輪郭形状データに対して所定の角度幅での移動平均を行うとともに所定の角度幅に応じた補正値を乗算することによって平均化データを求め、さらに平均化データに対して周期2πを有する正弦波曲線をフィッティングすることによって基本周波数成分データを抽出する。
【0017】
好ましくは、所定の角度幅をΔθとしたとき上記の補正値Vcは、
Vc=Δθ/(2×sin(Δθ/2)) …(A1)
で与えられる。好ましくは、上記の所定の角度幅はπである。
【0018】
好ましくは、工作物測定装置は、さらに、回転機構の回転角度に対応付けられた回転軸自体の振れ量を補正データとして記憶する記憶部を備える。上記のデータ処理部は、さらに、上記の補正データに基づいて、輪郭形状データから回転軸自体の振れ量を減算することによって輪郭形状データを補正するデータ補正部を含む。この場合、フィルタ処理部は、補正後の輪郭形状データを用いて基本周波数成分データを抽出する。
【0019】
上記の構成によれば、回転機構の回転軸自体に振れがある場合、すなわち、軸ぶれが生じている場合においてもその影響を取り除いて、回転軸に対する工作物の振れ量および振れ角を正確に検出することができる。
【0020】
この発明は他の局面によれば工作機械であって、工作物を回転させる回転機構と、工作物を加工する加工装置と、工作物を測定する工作物測定装置とを備える。工作物測定装置は、変位センサとデータ処理部とを含む。変位センサは、工作物の外部の基準点から工作物までの距離を計測することによって、回転機構の回転軸に垂直な方向の工作物の表面の変位を検出する。データ処理部は、回転軸に垂直な断面での工作物の輪郭形状データに対してデータ処理を行う。上記の輪郭形状データは、回転機構が工作物を回転させたときに検出される、工作物の回転角度に対応付けられた工作物の表面の変位の情報である。データ処理部は、輪郭形状データから周期2πよりも短い周期の高周波成分を取り除くことによって基本周波数成分データを抽出するフィルタ処理部と、基本周波数成分データに基づいて回転軸に対する工作物の振れ量および振れ角を算出する振れ算出部とを含む。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、真円度誤差の影響を受けることなく、従来よりも簡単に工作物の振れ量および振れ角を検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。以下の各実施の形態では、工作機械が複合加工機である場合について説明しているが、工作物を回転させるための回転機構を有するものであれば他の種類の工作機械であっても構わない。たとえば、旋盤であってもよいし、立形マシンニングセンタまたは横形マシニングセンタにおいて工作物を支持するテーブルが回転可能なものでもよい。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0024】
<第1の実施の形態>
[工作機械の概略構成]
図1は、第1の実施の形態による工作物測定装置60が設けられた工作機械1の構成を模式的に示す斜視図である。
図1の工作機械1には、加工装置10および工作物測定装置60に加えて、NC(Numerical Control)装置40およびATC(自動工具交換装置:Automatic Tool Changer)44が設けられている。
【0025】
図2は、
図1の工作物測定装置60の機能的構成を示すブロック図である。
図2には、加工装置10、NC装置40、ATC44、ならびに加工装置10に備えられているX軸用駆動機構34、Y軸用駆動機構36、Z軸用駆動機構38、チャック28(爪30A,30Bを含む)、および主軸台20の回転駆動機構32も示されている。
【0026】
図1および
図2を参照して、加工装置10は、刃物台24と、工作物2を支持する主軸台20と、工作物2の先端部を支持する補助主軸台(または、心押し台)22と、タレット26と、機械本体12とを含む。なお、加工装置10を正面から見て、上下方向,前後方向,左右方向をそれぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向とする。互いに直交するX軸,Y軸およびZ軸により、直交3軸が構成される。
【0027】
主軸台20は、チャック28によって工作物2を把持し、把持した工作物2を回転駆動機構32によって矢印C
1に示す方向に回転駆動する。補助主軸台22は、主軸台20に対して対向配置されており、Z軸方向と平行なZ
1軸方向に移動可能である。補助主軸台22のチャックは、矢印C
2に示すように、工作物2を把持して回転可能である。
【0028】
タレット26には、主軸台20のチャック28に把持されている工作物2を旋削加工するための複数の工具が取付けられている。タレット26は、X軸方向と平行なX
1軸方向と、Z軸方向と平行なZ
2軸方向にそれぞれ移動可能である。
【0029】
刃物台24に設けられた主軸25には、主軸台20のチャック28に把持されている工作物2を旋削加工または切削加工するための工具が着脱可能に装着される。主軸25の工具は、ATC(自動工具交換装置)44によって交換される。
【0030】
加工装置10の機械本体12に設けられたZ軸用移動部18は、Z軸用駆動機構38に駆動されてZ軸方向に移動する。Z軸用移動部18に設けられたX軸用移動部14は、X軸用駆動機構34に駆動されてX軸方向に移動する。X軸用移動部14に設けられたY軸用移動部16は、Y軸用駆動機構36に駆動されてY軸方向に移動する。
【0031】
刃物台24は、Y軸用移動部16の前方に取付けられている。刃物台24は、Z軸用移動部18,X軸用移動部14およびY軸用移動部16にそれぞれ駆動されて、Z軸方向,X軸方向,Y軸方向にそれぞれ移動する。Y軸用移動部16の中心軸すなわちB軸は、Y軸と平行になっている。矢印B
1に示すように、刃物台24はB軸まわりに旋回可能である。
【0032】
工作機械1は、刃物台24の工具およびタレット26の工具で工作物2を旋削加工する旋盤の機能と、刃物台24の工具で工作物2を切削加工するマシニングセンタの機能とを有している。工作機械1を旋盤として使用するときには、主軸25に装着された工具は回転せず、工作物2を回転させて工具で旋削加工を行う。または、タレット26に取付けられた工具を使用し、工作物2を回転させてこの工具で旋削加工を行う。工作機械1をマシニングセンタとして使用するときには、主軸25で工具を回転させて、非回転の工作物2を切削加工する。このときの刃物台24は、マシニングセンタの主軸頭としての機能を発揮することになる。
【0033】
NC装置40は、工作機械1の全体の動作を制御するPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ:Programmable Logic Controller)42を含む。たとえば、PLC42は、
図2のX軸用駆動機構34、Y軸用駆動機構36、Z軸用駆動機構38、および主軸台20の回転駆動機構32を制御する。PLC42は、さらに、補助主軸台22の移動機構、タレット26の移動機構、およびATC44を制御する。
【0034】
[工作物測定装置の構成]
工作物測定装置60の基本的な機能は、NC装置40のPLC42と連携することによって工作物2の表面形状を測定するものである。本実施の形態では、この機能を応用することによって、工作物測定装置60は、回転駆動機構32の回転軸90に垂直な断面での工作物2の輪郭形状を測定する。工作物測定装置60は、さらに、得られた輪郭形状データに基づいて工作物2の振れ量および振れ角を算出する。以下、
図1、
図2を参照して具体的に説明する。
【0035】
図2に示すように、工作物測定装置60は、測定ヘッド62と、測定制御部64とを含む。本実施の形態の場合、測定ヘッド62は、無線通信によって測定制御部64と通信する無線式のものであり、刃物台24の主軸25にATC44によって装着される着脱可能なものである。これに代えて、刃物台24に固定的に取り付けられ、信号線を介して測定制御部64と通信する有線式の測定ヘッドを用いることもできる。
【0036】
測定ヘッド62は、工作物2の外部の基準点(測定ヘッド62の取付け位置)から工作物2の表面までの距離D、すなわち、工作物2の表面の高さ方向の変位を測定するための変位センサを含む。測定ヘッド62に設けられる変位センサは、測定対象物に接触して測定対象物の表面の変位を測定する接触式のものでもよいし、レーザ光、超音波、または電磁波などを利用して非接触で測定対象物の表面の変位を測定する非接触式のものでもよい。
【0037】
本実施の形態では、一例としてレーザ変位センサによって工作物2の表面の変位を測定する例を示す。レーザ変位センサは、工作物2の表面にレーザ光Lを照射し、レーザ光Lの反射光に基づいてレーザ変位センサからレーザ光Lの照射位置までの距離D、すなわちレーザ光Lの照射位置における工作物2の高さ方向の変位を測定する。
【0038】
測定制御部64は、コンピュータをベースに構成され、プロセッサ66、メモリ68、NC装置40との間の入出力インターフェース(図示せず)、および測定ヘッド62との間で無線通信を行う通信装置70等を含む。プロセッサ66は、測定制御プログラムを実行することによって工作物2の表面形状または輪郭形状を取得する。取得したデータ(輪郭形状データ80など)は、メモリ68に格納される。
【0039】
具体的に、工作物2の表面形状を測定する場合には、測定制御部64のプロセッサ66は、NC装置40のPLC42と連携することによって、X軸用駆動機構34、Y軸用駆動機構36、およびZ軸用駆動機構38のうち少なくとも1つを駆動させる。こうして、測定ヘッド62と工作物2との相対的位置関係を連続的に変化させながら、プロセッサ66は、測定ヘッド62によって工作物2までの距離Dを測定する。
【0040】
一方、回転駆動機構32の回転軸90に垂直な断面での工作物2の輪郭形状を測定する場合には、プロセッサ66は、NC装置40のPLC42と連携することによって、回転駆動機構32を駆動させる。こうして、工作物2を回転させながら、プロセッサ66は、測定ヘッド62によって工作物2までの距離Dを測定する。より詳細な手順は次のとおりである。
【0041】
まず、PLC42は、測定制御部64のプロセッサ66からの制御に基づいて、X軸用駆動機構34、Y軸用駆動機構36、およびZ軸用駆動機構38を駆動することによって、測定ヘッド62を基準位置に移動させる。基準位置は、回転軸90と直交する直線上(より好ましくは、回転軸90の真上)に位置するのが望ましい。PLC42は、基準位置の座標(X,Y,Z)を測定制御部64のプロセッサ66に送信する。
【0042】
次に、PLC42は、測定制御部64のプロセッサ66からの制御に基づいて、回転駆動機構32を駆動することによって回転軸90を中心として工作物2をゆっくりと回転させる。PLC42は、上記の回転駆動機構32の駆動とともに、所定周期でトリガ信号を通信装置70に出力する。
【0043】
通信装置70はトリガ信号を受信すると測定指令fを測定ヘッド62に送信し、測定ヘッド62は測定指令fに従って測定ヘッド62から工作物2までの距離D(すなわち、工作物2の表面の変位)を測定する。測定された距離DのデータFは、測定ヘッド62から通信装置70を介して測定制御部64のプロセッサ66に送信される。
【0044】
PLC42は、さらに、上記の測定ヘッド62による距離測定のタイミングに合わせて、回転駆動機構32から回転角度θの情報を取得し、取得した回転角度θの情報を測定制御部64のプロセッサ66に送信する。
【0045】
プロセッサ66は、PLC42から取得した回転角度θの情報と、測定ヘッド62から取得した距離DのデータFとに基づいて、回転角度θに対応した工作物2の外周面の変位データを輪郭形状データ80として、メモリ68に記憶させる。
【0046】
測定制御部64は、さらに、上記の輪郭形状データ80に対してデータ処理を行うデータ処理部72として機能する。データ処理部72の機能は、データ処理プログラムがプロセッサ66で実行されることによって実現される。
図2に示すように、データ処理部72は、フィルタ処理部74と、振れ算出部76と、真円度算出部78とを含む。これらの各要素については、後で
図8〜
図15を参照して詳しく説明する。
【0047】
[触れ量および振れ角について]
図3は、工作物2の振れについて説明するための図である。
図3では、工作物2(2A,2B)の形状が厳密に円柱形状である場合を例として、
図2の回転駆動機構32の回転軸90に対して工作物2の中心軸92(92A,92B)が偏心している様子が示されている(回転軸90と中心軸92との偏差をδとする)。工作物2が測定ヘッド62に最も近づいている場合を実線2Aで表わし、工作物2が測定ヘッド62から最も離れている場合を破線2Bで表わしている。実線2Aの位置に工作物2が位置する場合の回転角θを0とする。
【0048】
図4は、
図3の場合において、測定ヘッド62によって検出された輪郭形状データの一例を模式的に示す図である。
図4では、回転角θを横軸とし、測定ヘッド62によって測定される変位(任意単位AU)を縦軸として、輪郭形状データが示されている。
【0049】
図3および
図4に示すように、この明細書において、触れ量は、測定ヘッド62によって測定される変位の最大値MAXと最小値MINとの差によって定義される。
図3に示すように振れ量は、回転軸90と中心軸92との偏差δの2倍に等しい。振れ角は、変位の最大値および最小値が得られたときの回転角θとして定義される。
【0050】
[真円度について]
図5は、工作物2の真円度について説明するための図である。
図5では、略円柱形状の工作物2の中心軸92と
図2の回転駆動機構32の回転軸90とが同心であり偏心していない場合を示している。
【0051】
図6は、
図5の場合において、測定ヘッド62によって検出された輪郭形状データの一例を模式的に示す図である。
図6では、回転角θを横軸とし、測定ヘッド62によって測定される変位(任意単位AU)を縦軸として、輪郭形状データが示されている。
【0052】
図5、
図6を参照して、真円度は、円形形体(
図5の場合、工作物2の断面の輪郭)の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさとして定義される。具体的には、円形形体を2つの同心の幾何学的に正しい円94A,94Bで挟んだとき、同心二円の間隔が最小となるときの2つ円94A,94Bの半径差を真円度という。
図6に示すグラフでは、測定ヘッド62によって測定される変位の最大値maxと最小値minとの差が真円度に等しい。
【0053】
図7は、
図5でさらに工作物2に振れがある場合において、輪郭形状データの一例を模式的に示す図である。
図7の場合には、工作物2の中心軸92が回転軸90に対して偏心しており、工作物2の真円度も0でない。この場合、
図7の実線で示されるように、輪郭形状データは、
図4に示す曲線と
図6に示す曲線とを合成した曲線になる。
図2に示すデータ処理部72は、
図7の実線で示される輪郭形状データから工作物2の振れ量、振れ角、および真円度を算出するものである。
【0054】
[触れ量、振れ角、および真円度の検出手順]
図8は、データ処理部72によるデータ処理の手順を示すフローチャートである。
図9は、
図8のステップS110の具体的手順を示すフローチャートである。以下、
図2、
図8および
図9を主として参照して、工作物2の触れ量、振れ角、および真円度を検出する手順について説明する。
【0055】
図8を参照して、データ処理部72は、まず、メモリ68に格納されている輪郭形状データ80を読み出す(ステップS100)。ここで、輪郭形状データ80は、回転駆動機構32によって工作物2を回転させたときに検出される、工作物2の回転角度に対応付けられた工作物2の外周面の変位の情報である。
【0056】
次に、データ処理部72のフィルタ処理部74は、輪郭形状データ80から、周期2π[rad:ラジアン](=360°)よりも短い周期の高周波成分を取り除くことによって、基本周波数成分データを抽出するフィルタ処理を行う(ステップS110)。フィルタ処理の具体的手順の一例は
図9に示されている。
【0057】
図9を参照して、フィルタ処理部74は、高調波成分を除去するために、輪郭形状データ80に対して所定の角度幅Δθ(移動平均区間)で移動平均処理を行う(ステップS200)。たとえば、移動平均区間Δθはπ[rad]に設定される。
【0058】
ただし、周期的な波形に対して移動平均処理を行う場合には、移動平均後の波形の振幅が元の波形の振幅よりも小さくなることに注意する必要がある。そこで、フィルタ処理部74は、移動平均処理後の波形データの振幅を移動平均区間Δθに応じて補正する(ステップS205)。
【0059】
図10は、移動平均区間をπ[rad]とした場合の移動平均処理後の振幅補正について説明するための図である。
図10では、振幅が1の正弦波sin(θ)を移動平均区間π[rad]で移動平均する場合について説明している。
【0060】
図10を参照して、θ=π/2における移動平均値は、正弦波sin(θ)を0からπの区間で積分した値を移動平均区間πで除算することによって、2/πで与えられる。したがって、この移動平均値2/πを、θ=π/2における元の正弦波sin(θ)の振幅である1に戻すためには、振幅補正値としてπ/2を乗算しなければならない。他の回転角おける移動平均値についても同じであり、振幅補正値としてπ/2を乗算する必要がある。
【0061】
図11は、移動平均区間をΔθ[rad]とした場合の移動平均処理後の振幅補正について説明するための図である。
図11では、振幅が1の正弦波sin(θ)を移動平均区間Δθ[rad]で移動平均する場合について説明している。
【0062】
図10を参照して、θ=π/2における移動平均値Vaは、正弦波sin(θ)をπ/2−Δθ/2からπ/2+Δθ/2の区間で積分した値を移動平均区間Δθで除算することによって、
Va=(2/Δθ)×sin(Δθ/2) …(1)
で与えられる。したがって、上記の移動平均値Vaを、θ=π/2における元の正弦波sin(θ)の振幅である1に戻すためには、
Vc=Δθ/(2×sin(Δθ/2)) …(2)
で表わされる振幅補正値Vcを乗算しなければならない。他の回転角おける移動平均値についても同じであり、振幅補正値として上式(2)のVcを乗算する必要がある。なお、上記の振幅補正値Vcを乗算する場合には、輪郭形状データの1周期での平均値が0になるように予め輪郭形状データから直流成分を取り除いておく必要がある。
【0063】
再び
図9を参照して、フィルタ処理部74は、上記の移動平均処理(ステップS200)および振幅補正処理(ステップS205)を行なった後の平均化データに対して、周期2πを有する正弦波曲線をフィッティングする(ステップS210)。この結果、最終的な基本周波数成分データが得られる。
【0064】
通常、高周波成分を除去するためには、移動平均処理(ステップS200)および振幅補正処理(ステップS205)だけでは不十分であり、上記のフィッティング処理(ステップS210)が必要になる。この理由は次のとおりである。
【0065】
一般に、周期的な波形W(θ)は、フーリエ級数で表わされる。簡単のために、直流成分を0とし、基本周波数成分を振幅および位相がそれぞれA1、α1である正弦波とし、n次の高調波成分を振幅および位相がそれぞれAn、αnである正弦波とすると、波形W(θ)は、
W(θ)=A1×sin(θ+α1)+A2×sin(2×θ+α2)+A3×sin(3×θ+α3)+・・・ …(3)
と表わされる。上記の波形W(θ)に対して角度幅πで移動平均処理(すなわち、積分区間πで積分し、積分値を積分区間πで除算する)を行なうと、偶数次の高調波は除去されるが、奇数次の高調波は除去されない。したがって、この奇数次の高調波成分を取り除くために上記のフィッティング処理(ステップS210)が必要になる。
【0066】
ただし、角度幅πでの移動平均処理(ステップS200)と振幅補正処理(ステップS205)を行なった後では、n次(nは奇数)の高調波成分の振幅は1/n倍に縮小される。したがって、元々の輪郭形状データに含まれる高調波成分の振幅が比較的小さい場合、または、比較的高次の高調波成分に限られる場合には、
図9のステップS210のフィッティング処理を省略しても構わない。
【0067】
あるいは、
図9のステップS200の移動平均処理およびステップS205の振幅補正処理を行わずに、ステップS210のフィッティング処理のみを行うようにしてもよい。
【0068】
再び
図8を参照して、次にデータ処理部72の振れ算出部76は、ステップS110のフィルタ処理によって抽出された基本周波数成分データに基づいて、振れ量および振れ角を算出する(ステップS115)。振れ量は、
図3および
図4で説明したように、基本周波数成分データの最大値と最小値の差として求められる。振れ角は、最大値および最小値が得られたときの回転角θの値として求められる。
【0069】
次に、データ処理部72の真円度算出部78は、輪郭形状データ80からステップS110で抽出された基本周波数成分データを減算することによって高周波成分データを抽出する(ステップS120)。さらに、真円度算出部78は、ステップS120で抽出された高周波成分データに基づいて真円度を算出する(ステップS125)。真円度は、
図5および
図6で説明したように、高周波成分データの最大値と最小値との差として求められる。
【0070】
[具体例]
以下、具体的な波形に対してデータ処理を施した例について説明する。
【0071】
図12は、測定ヘッド62によって検出された輪郭形状データの一例を示す図である。
図12に示す輪郭形状データは、回転軸に対する工作物の中心軸の振れに起因する正弦波曲線に真円度誤差が重畳され、さらにレーザ変位計のノイズ成分が重畳されたものである。なお、輪郭形状データに含まれる直流成分は予め取り除かれている。
【0072】
図13は、
図10のステップS200に示される移動平均処理およびステップS205の振幅補正処理を行なった後の平均化データを示す図である。移動平均区間をπとしている。
図13に示すように、上記の処理だけでは高周波成分は完全に除去されない。
【0073】
図14は、
図13の平均化データにフィッティングされた正弦波曲線を示す図である。
図14に示すように
図13の平均化データに正弦波曲線をフィッティングすることによって基本周波数成分データが得られる。この基本周波数成分データに基づいて、振れ量および振れ角が算出される。
【0074】
図15は、
図10の輪郭形状データから
図14の基本周波数成分データを差し引くことによって得られる高周波成分データを示す図である。
図15の高周波成分データに基づいて、真円度が算出される。
【0075】
[第1の実施の形態の効果]
上記のとおり、第1の実施の形態の工作物測定装置60によれば、工作物2を回転軸90の回りに1回転させる間に変位センサによって取得された輪郭形状データ80を用いて、振れ量および振れ角が算出される。このとき、輪郭形状データ80から高周波成分を除去することによって周期2πの基本周波数成分データを抽出し、この基本周波数成分データを用いて振れ量および振れ角を算出するので、真円度誤差の影響を受けることなく従来よりも簡単に触れ量および振れ角を検出することができる。
【0076】
上記の実施の形態では、略円柱状の形状を有する工作物を例に挙げて説明したが、多角柱状の工作物あるいは、径方向に突出した凸部を含む工作物に対しても、同様の方法で振れ量および振れ角を検出することができる。なぜなら、多角柱の側稜あるいは径方向に突出した凸部による輪郭形状データの変化は、
図8のステップS110のフィルタ処理において高周波成分として除去されるので、振れ量および振れ角の検出には影響を与えないからである。
【0077】
<第2の実施の形態>
[概要]
第2の実施の形態では、
図2の回転駆動機構32の回転軸自体に振れがある場合(軸ぶれが生じている場合)について説明する。この場合、
図1、
図2の測定ヘッド62によって検出される輪郭形状データには、回転軸90に対する工作物2の中心軸の振れに起因した変位に加えて、回転軸自体の振れに起因した変位も含まれる。したがって、回転軸90に対する工作物2の振れを正確に求めるためには、回転軸自体の振れの影響を取り除く必要がある。
【0078】
具体的には、真円度がほぼ0の基準となる円柱形状の工作物を準備する。そして、この基準工作物を工作機械1の主軸台20にチャックして輪郭形状データを測定することを繰り返し行う。この結果得られた多数の輪郭形状データの中から、回転軸に対する基準工作物の中心軸の振れ量がほぼ0とみなすことができるデータ(すなわち、回転軸自体の振れに起因した変位のみを含むデータ)を選び出す。
【0079】
回転軸90に対する基準工作物の中心軸の振れの大きさは、チャックの仕方に応じて測定毎に変化するのに対して、回転軸自体の振れの大きさはチャックの仕方に応じて測定毎に変化することはない。したがって、測定した多数の輪郭形状データのうちで回転角度に応じた変位の大きさが最小となるデータを、回転軸に対する工作物の中心軸の振れ量がほぼ0となるデータとみなすことができる。
【0080】
上記の方法で選択した輪郭形状データを軸振れ補正データとして予めメモリに格納しておく。その後、新たに輪郭形状データを測定した場合には、上記の軸振れ補正データを利用して、測定した輪郭形状データから回転軸自体の振れ量を減算することによって、回転軸自体の振れの影響を取り除くことができる。以下、図面を参照してさらに詳しく説明する。
【0081】
[工作物測定装置の構成および機能]
図16は、第2の実施の形態による工作物測定装置60Aの機能的構成を示すブロック図である。
図16の工作物測定装置60Aにおいて、データ処理部72Aはデータ補正部82をさらに含む点で
図2のデータ処理部72と異なる。
図16の工作物測定装置60Aはまた、メモリ68に上記の軸振れ補正データ84がさらに格納されている点で
図2の工作物測定装置60と異なる。
図16のその他の点は
図2と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0082】
図17は、データ処理部72Aによるデータ処理の手順を示すフローチャートである。
図17のフローチャートは、ステップS100とステップS110との間にステップS105をさらに含む点で
図8のフローチャートと異なる。
【0083】
図16および
図17を参照して、ステップS105において、データ補正部82は、回転軸自体の振れを表わす軸振れ補正データを輪郭形状データから減算することによって輪郭形状データを補正する。次のステップS110において、データ処理部72Aのフィルタ処理部74は、データ補正部82による補正処理後の輪郭形状データを用いて、フィルタ処理を実行することによって基本周波数成分データを抽出する。
【0084】
上記の手順によって、ステップS115で算出される振れ量および振れ角から、回転軸自体の振れの影響を取り除くことができる。
図17のその他の点は
図8の場合と同じであるので、同一または相当するステップには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0085】
[具体例]
図18は、測定ヘッド62によって検出された輪郭形状データの一例を示す図である(回転軸自体に振れがある場合)。
図18の輪郭形状データは、回転軸に対する工作物の振れに起因した正弦波曲線に真円度誤差が重畳され、さらに回転軸自体の振れに起因する変位が重畳されたものである。なお、輪郭形状データに含まれる直流成分は取り除かれている。
【0086】
図19は、軸振れ補正データの一例を示す図である。
図18と同様に直流成分は取り除かれている。
【0087】
図20は、
図19の軸振れ補正データによる補正後の輪郭形状データを示す図である。
図17のステップS105において、データ補正部82は、
図18に示す輪郭形状データから
図19に示す軸振れ補正データを対応する回転角ごとに減算することによって、
図20に示される補正後の輪郭形状データを算出する。
【0088】
[第2の実施の形態の効果]
上記のとおり、第2の実施の形態による工作物測定装置によれば、回転駆動機構32の回転軸自体に振れがある場合(軸ぶれが生じている場合)においてもその影響を取り除いて、回転軸に対する工作物の振れ量および振れ角を正確に検出することができる。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。