(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、基油留分及び基油留分より重質の留分(重質留分)を含有する炭化水素油から、基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する第1の工程(以下、場合により「第1の蒸留工程」という。)と、第1の工程で分留された基油留分を異性化脱蝋して脱蝋油を得る第2の工程(以下、場合により「脱蝋工程」という。)と、を備える。また、本実施形態に係る製造方法においては、第1の工程で分留された重質留分を水素化分解し、該水素化分解により得られた水素化分解油を第1の工程に(炭化水素油の一部として)供給する。
【0019】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、第2の工程で得られた脱蝋油を水素化精製して水素化精製油を得る水素化精製工程と、水素化精製油を分留して潤滑油基油を得る第2の蒸留工程とをさらに備えていてもよい。
【0020】
また、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、第2の工程で得られた脱蝋油を分留して潤滑油留分を得る第2の蒸留工程と、潤滑油留分を水素化精製する水素化精製工程とをさらに備えていてもよい。
【0021】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0022】
(第1の蒸留工程)
第1の蒸留工程では、基油留分及び重質留分を含有する炭化水素油から、基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する。
【0023】
基油留分は、後述する脱蝋工程、水素化精製工程及び第2の蒸留工程を経て潤滑油基油を得るための留分であり、その沸点範囲は目的とする製品によって適宜変更できる。
【0024】
基油留分は、沸点範囲が330〜520℃の留分であることが好ましい。基油留分を沸点範囲が上記範囲の留分とすることで、より効率的に有用な潤滑油基油を製造することができる。なお、沸点範囲が330〜520℃とは、初留点及び終点が330〜520℃の範囲内にあることを示す。
【0025】
重質留分は、基油留分より高い沸点を有する重質の留分である。すなわち、重質留分は、基油留分の終点より高い沸点を有する留分であり、例えば、520℃より高い沸点を有する留分である。
【0026】
炭化水素油は、基油留分及び重質留分以外に、基油留分より沸点が低い軽質の留分(軽質留分)を有していてもよい。軽質留分は、例えば、330℃より低い沸点を有する留分である。
【0027】
炭化水素油中の基油留分の含有量は、炭化水素油の全量基準で、30〜90容量%であることが好ましく、40〜80容量%であることがより好ましい。
【0028】
炭化水素油中の重質留分の含有量は、炭化水素油の全量基準で、10〜70容量%であることが好ましく、20〜60容量%であることがより好ましい。
【0029】
炭化水素油としては、例えば、水素化処理又は水素化分解された軽油、重質軽油、減圧軽油、潤滑油ラフィネート、潤滑油原料、ブライトストック、スラックワックス(粗蝋)、蝋下油、脱油蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、合成油、フィッシャー・トロプシュ合成反応油(以下、「FT合成油」という。)、高流動点ポリオレフィン、直鎖αオレフィンワックスなどが挙げられる。これらは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に、炭化水素油としては、減圧軽油、減圧軽油水素化分解油、常圧残油、常圧残油水素化分解油、減圧残油、減圧残油水素化分解油、スラックワックス、脱蝋油、パラフィンワックス、マイクロクリタリンワックス、ペトラタム及びFT合成油なる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0030】
本発明の一態様において、炭化水素油としてはFT合成油が好ましい。FT合成油は、硫黄分及び芳香族炭化水素を原則含まない合成油である。よって、FT合成油を原料として用いることにより、環境への負荷の小さい潤滑油用基油を製造することができる。また、硫黄分は水素化異性化触媒や水素化分解触媒の触媒毒であるので、硫黄分を含まないFT合成油を用いた場合は、触媒の被毒が抑制されて触媒の寿命が向上する。なお、本明細書中、フィッシャー・トロプシュ反応によって合成される合成油を「FT合成油」と記す。FT合成油が含むワックス成分を、「FTワックス」と記す。
【0031】
FT合成油は、例えば以下の方法によって製造される。まず、原料の天然ガスの脱硫を行う。具体的には、天然ガス中の硫黄化合物を、水素化脱硫触媒によって硫化水素に転化したり、硫化水素の吸着材を用いて除去したりする。
【0032】
脱硫された天然ガスの改質反応(リフォーミング)によって、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスが生成する。天然ガスの改質反応は、下記の化学反応式(1)及び(2)で表される。なお、改質法は、二酸化炭素及び水蒸気を用いる水蒸気・炭酸ガス改質法に限定されない。例えば、水蒸気改質法、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
CH
4+H
2O→CO+3H
2 (1)
CH
4+CO
2→2CO+2H
2 (2)
【0033】
合成ガス中の水素ガスと一酸化炭素ガスとを反応させる。つまり、下記化学反応式(3)で例示されるようなFT反応を進行させることにより、FT合成油が生成する。
(2n+1)H
2+nCO→C
nH
2n+2+nH
2O (3)
【0034】
FT反応用の触媒(FT触媒)としては、活性金属が無機担体に担持された触媒が用いられる。無機担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の多孔性酸化物が例示される。活性金属としては、コバルト、ルテニウム、鉄、ニッケル等が例示される。また、FT触媒には、上記活性金属以外に、ジルコニウム、チタニウム、ハフニウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム等の金属元素を含む化合物が担持されていてもよい。これらの成分は、触媒活性を向上させたり、FT合成油の炭素数及びその分布の制御に寄与したりする。
【0035】
以上の方法により合成されたFT合成油は、炭素数が1〜100程度である直鎖炭化水素(ノルマルパラフィン)の混合物であり、芳香族炭化水素、ナフテン炭化水素及びイソパラフィンをほとんど含まない。FT合成油には、炭素数が約17以上であり、沸点が約330℃を超えるFTワックスが含まれる。FT合成油中のFTワックスの含有率は30質量%以上であることが好ましい。FTワックスの含有率は上記の反応条件を適宜調整することにより、容易に制御することができる。
【0036】
また、本発明の他の態様において、炭化水素油としては石油由来の炭化水素を含有する石油由来炭化水素油を用いることが好ましい。石油由来炭化水素油としては、例えば、減圧軽油水素化分解油、常圧残油水素化分解油、減圧残油水素化分解油、スラックワックス(粗蝋)、蝋下油、脱油蝋、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。
【0037】
なお、減圧軽油とは、原油の減圧蒸留装置から得られる留出油であり、沸点範囲が350〜550℃程度である炭化水素油である。また、常圧残油とは、常圧蒸留装置から抜き出される塔底油であり、沸点範囲が350℃以上の炭化水素油である。また、減圧残油とは、減圧蒸留装置から抜き出される塔底油であり、沸点範囲が550℃以上の炭化水素油である。減圧軽油水素化分解油は、減圧軽油の水素化分解によって得られる炭化水素油であり、常圧残油水素化分解油は、常圧残油の水素化分解によって得られる炭化水素油であり、減圧残油水素化分解油は、減圧残油の水素化分解によって得られる炭化水素油である。なお、減圧軽油水素化分解油、常圧残油水素化分解油、減圧残油水素化分解油は、それぞれ脱硫処理を行い、第2の工程での触媒を過度に劣化させない程度に脱硫したものを使用することが望ましい。
【0038】
第1の蒸留工程における蒸留条件は、炭化水素油から基油留分及び重質留分をそれぞれ分留できる条件であれば特に限定されない。例えば、第1の蒸留工程は、減圧蒸留により炭化水素油から基油留分及び重質留分を分留する工程であってよく、常圧蒸留と減圧蒸留とを組み合わせて、炭化水素油から基油留分及び重質留分を分留する工程であってもよい。
【0039】
例えば、炭化水素油が軽質留分を20容量%以上含有するとき、第1の蒸留工程は、炭化水素油から軽質留分を留去する常圧蒸留と、常圧蒸留のボトム油から基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する減圧蒸留と、により行われることが好ましい。
【0040】
第1の蒸留工程において、基油留分は、単一の留分として分留されてもよく、所望の潤滑油基油に応じた複数の留分として分留されてもよい。例えば、第1の蒸留工程では、常圧での沸点330〜410℃の第1の基油留分、沸点410〜470℃の第2の基油留分、及び沸点470〜520℃の第3の基油留分をそれぞれ分留することができる。このように分留された複数の基油留分は、それぞれ独立に後段の脱蝋工程に供することができる。また、複数の基油留分の一部又は全部を混合して後段の脱蝋工程に供してもよい。
【0041】
(重質留分の水素化分解)
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、第1の蒸留工程において分留された重質留分を水素化分解して水素化分解油を得る。そしてこの水素化分解油は、第1の蒸留工程に供される炭化水素油の一部として用いられる。本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、このような重質留分の水素化分解及びそれにより得られた水素化分解油の第1の蒸留工程への再利用によって、効率的に潤滑油基油を得ることが可能となる。
【0042】
水素化分解は、水素の存在下、重質留分を水素化分解触媒に接触させることにより行うことができる。炭化水素油がFT合成油であるとき、水素化分解触媒としては、例えば、固体酸性を有する無機担体に、周期表第8〜10族に属する金属から選択される少なくとも一種の活性金属が担持された触媒(以下、「水素化分解触媒A」)が好適に使用できる。特に、炭化水素油がFT合成油であるとき、硫黄分による触媒被毒のおそれが少ないため、水素化分解触媒Aが好適に用いられる。
【0043】
水素化分解触媒Aにおける固体酸性を有する無機担体としては、超安定Y(USY)型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びβゼオライトなどの結晶性ゼオライト、ならびに、シリカアルミナ、シリカジルコニア、及びアルミナボリアなどの無定形複合金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の無機化合物から構成される担体が挙げられ、このうち、USY型ゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアから選ばれる1種以上の無定形複合金属酸化物と、を含んで構成される担体が好ましく、USY型ゼオライトと、アルミナボリア及び/又はシリカアルミナとを含んで構成される担体がより好ましい。
【0044】
USY型ゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものである。USY型ゼオライトは、Y型ゼオライトが本来有する微細細孔構造を備える。この微細細孔構造とは、細孔径が2nm以下であるミクロ細孔から構成される構造である。USY型ゼオライトには、上記微細細孔構造に加えて、さらに細孔径が2〜10nmである新たな細孔が形成されている。USY型ゼオライトの平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USY型ゼオライトにおけるシリカ/アルミナのモル比(アルミナに対するシリカのモル比)は10〜200であることが好ましく、15〜100であることがより好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。
【0045】
水素化分解触媒Aの担体は、結晶性ゼオライト0.1〜80質量%と、無定形複合金属酸化物0.1〜60質量%とを含むことが好ましい。
【0046】
水素化分解触媒Aの担体には、担体の成形性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、例えばアルミナ、シリカ、チタニア、マグネシアが挙げられ、これらのうちアルミナが好ましい。バインダーの配合量は、特に限定されないが、担体の全質量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0047】
水素化分解触媒Aの担体は成型されていることが好ましい。成型された担体の形状としては、特に限定されないが、球状、円筒状、三つ葉型・四つ葉型の断面を有する異形円筒状、ディスク状等が挙げられる。担体の成型方法としては、限定されず、押出成型、打錠成型等の公知の方法が用いられる。成型された担体は通常焼成される。
【0048】
水素化分解触媒Aの担体は、例えば、固体酸性を有する上記無機化合物とバインダーとを含む担体組成物を成形した後、焼成することにより製造できる。
【0049】
固体酸性を有する無機化合物の配合割合は、担体組成物全体の質量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、担体組成物がUSY型ゼオライトを含んでいる場合、USY型ゼオライトの配合割合は、担体組成物全体の質量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。さらに、担体組成物がUSY型ゼオライト及びアルミナボリアを含んでいる場合、USY型ゼオライトとアルミナボリアの配合比(USY型ゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、担体組成物がUSY型ゼオライト及びシリカアルミナを含んでいる場合、USY型ゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USY型ゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0050】
担体組成物を焼成する際の温度は、400〜550℃の範囲内にあることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることが更に好ましい。このような温度で焼成することにより、担体に十分な固体酸性及び機械的強度を付与することができる。
【0051】
水素化分解触媒Aが有する活性金属は、周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0052】
これらの活性金属は、含浸やイオン交換などの常法によって上述の担体に担持することができる。担持する金属量には特に制限はないが、金属の合計量が担体質量に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。なおここで周期表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期表をいう。
【0053】
水素化分解触媒Aを用いるとき、水素化分解の反応温度は、例えば180〜400℃とすることができ、好ましくは200〜370℃であり、より好ましくは250〜350℃であり、特に好ましくは280〜350℃である。反応温度が400℃を越えると、軽質留分への分解が進行して基油留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料油基材としての使用が制限される傾向がある。一方、反応温度が180℃を下回ると、水素化分解反応が十分に進行せず、基油留分の収率が減少する傾向がある。
【0054】
水素化分解触媒Aを用いるとき、水素化分解の水素分圧は、例えば0.5〜12MPaとすることができ、好ましくは1.0〜5.0MPaである。水素分圧が0.5MPa未満の場合には水素化分解が十分に進行しない傾向にあり、12MPaを超える場合は装置に高い耐圧性が要求され、設備コストが上昇する傾向にある。
【0055】
水素化分解触媒Aを用いるとき、水素化分解における重質留分の液空間速度(LHSV)は、例えば0.1〜10.0h
−1とすることができ、好ましくは0.3〜3.5h
−1である。LHSVが0.1h
−1未満の場合には水素化分解が過度に進行し、また生産性が低下する傾向にあり、10.0h
−1を超える場合には、水素化分解が十分に進行しない傾向にある。
【0056】
水素化分解触媒Aを用いるとき、水素化分解における水素/油比は、例えば50〜1000Nm
3/m
3とすることができ、好ましくは70〜800Nm
3/m
3である。水素/油比が50Nm
3/m
3未満の場合には水素化分解が十分に進行しない傾向にあり、1000Nm
3/m
3を超える場合には、大規模な水素供給装置等が必要となる傾向にある。
【0057】
また、炭化水素油が石油由来炭化水素油であるとき、基油留分には硫黄分が含まれる場合がある。このような場合には、水素化分解触媒として、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物、並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第6族、第8族、第9族、及び第10族の元素から選ばれる1種以上の金属とを有する触媒(以下、「水素化分解触媒B」という。)を用いることが好ましい。水素化分解触媒Bによれば、硫黄被毒による触媒活性の低下が十分に抑制される。
【0058】
水素化分解触媒Bの担体としては、上述のようにアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上を含んで構成される多孔性無機酸化物が用いられる。かかる多孔性無機酸化物としては、水素化分解活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましく、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)がより好ましい。なお、水素化分解触媒Bの担体は、上記水素化分解触媒Aに用いられる固体酸性を有する無機担体であっても良い。
【0059】
多孔性無機酸化物が構成元素としてアルミニウムを含有する場合、アルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ換算で、好ましくは1〜97質量%、より好ましくは10〜97質量%、更に好ましくは20〜95質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な水素化分解活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で97質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0060】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素については、ケイ素、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについては、リン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0061】
さらに、多孔性無機酸化物は、構成元素としてリンを含有することが好ましい。リンの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。リンの含有量が0.1質量%未満の場合には十分な水素化分解活性が発揮されない傾向にあり、また、10質量%を超えると過度の分解が進行する恐れがある。
【0062】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、アルミニウム水溶液に予め上記原料を添加した後、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを調製してもよく、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0063】
担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期表第6族、第8族、第9族、及び第10族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。これらの金属の中でも、コバルト、モリブデン、ニッケル及びタングステンから選ばれる2種以上の金属を組み合わせて用いることが好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステンが挙げられる。これらのうち、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン及びニッケル−タングステンの組み合せがより好ましい。水素化分解に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0064】
触媒質量を基準とする活性金属の含有量としては、タングステン及びモリブデンの合計担持量の範囲は、酸化物換算で12〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。タングステン及びモリブデンの合計担持量が12質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、35質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。コバルト及びニッケルの合計担持量の範囲は、酸化物換算で1.0〜15質量%が好ましく、1.5〜12質量%がより好ましい。コバルト及びニッケルの合計担持量が1.0質量%未満であると、十分な助触媒効果が得られず、活性が低下する傾向がある。他方、15質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0065】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の水素化分解触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0066】
本実施形態において、使用する水素化分解触媒Bの種類数は特に限定されない。例えば、一種類の触媒を単独で使用してもよく、活性金属種や担体構成成分の異なる触媒を複数使用してもよい。異なる触媒を複数使用する場合の好適な組み合せとしては、例えば、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−タングステンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒を用いることが挙げられる。これらの組み合せの前段及び/又は後段にニッケル−モリブデン触媒を更に組み合せてもよい。
【0067】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として酸化アルミニウムの含有量が30質量%以上であり且つ80質量%未満の触媒の後段に、酸化アルミニウムの含有量が80〜99質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
【0068】
さらに、水素化分解触媒B以外に、必要に応じて基油留分に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化分解触媒Bを支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独又は組み合せて用いることができる。
【0069】
水素化分解触媒Bの窒素吸着BET法による細孔容積は、0.30〜0.85ml/gであることが好ましく、0.45〜0.80ml/gであることがより好ましい。当該細孔容積が0.30ml/gに満たない場合は担持される金属の分散性が不十分となり、活性点が検証する懸念がある。また、当該細孔容積が0.85ml/gを超えると、触媒強度が不十分となり、使用中に触媒が粉化、破砕するおそれがある。
【0070】
また、窒素吸着BET法によって求められる触媒の平均細孔直径は、5〜11nmであることが好ましく、6〜9nmであることがより好ましい。平均細孔直径が5nm未満であると、反応基質が細孔内に十分に拡散せず、反応性が低下するおそれがある。また、平均細孔直径が11nmを超えると、細孔表面積が低下し、活性が不十分となるおそれがある。
【0071】
さらに、水素化分解触媒Bにおいては、有効な触媒細孔を維持し、十分な活性を発揮させるために、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることが好ましい。
【0072】
水素化分解触媒Bを用いるとき、水素化分解の条件は、例えば、水素圧力2〜13MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h
−1、水素油比(水素/油比)150〜1500Nm
3/m
3とすることができ、好ましくは、水素圧力4.5〜12MPa、液空間速度0.3〜1.5h
−1、水素油比380〜1200Nm
3/m
3であり、より好ましくは、水素圧力6〜15MPa、空間速度0.3〜1.5h
−1、水素油比350〜1000Nm
3/m
3である。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。また、反応温度としては、180〜400℃が挙げられ、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃が特に好ましい。反応温度が400℃を越えると、軽質留分への分解が進行して基油留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料油基材としての使用が制限される傾向にある。一方、反応温度が180℃を下回ると、水素化分解反応が十分に進行せず、基油留分の収率が減少する。
【0073】
水素化分解により、重質留分の一部又は全部が、重質留分より沸点の低い炭化水素に転化される。また、場合により重質留分の一部は、水素化分解を十分に受けず、未分解重質留分として残存する。
【0074】
重質留分の水素化分解により得られる水素化分解油は、水素化分解触媒及び水素化分解反応条件によりその組成が変化する。なおここで「水素化分解油」とは、特に断らない限り、未分解重質留分を含む水素化分解全生成物を指す。水素化分解反応条件を必要以上に厳しくすると水素化分解油中の未分解重質留分の含有量は低下するが、沸点330℃以下の軽質留分が増加して好適な基油留分(330〜520℃留分)の収率が低下する。一方、水素化分解反応条件を必要以上に温和にすると、未分解重質留分が増加して基油留分収率が低下する。
【0075】
本明細書中、基油留分の沸点範囲の下限をT
1℃とするとき、沸点が25℃以上の全分解生成物の質量M
1に対する沸点が25〜T
1℃の分解生成物の質量M
2の比M
2/M
1を「分解率」と呼ぶ。重質留分の水素化分解においては、分解率M
2/M
1が、5〜70%(好ましくは10〜60%、更に好ましくは20〜50%)となるように反応条件を選択することが好ましい。
【0076】
水素化分解油は、第1の蒸留工程に戻されて、再度基油留分と重質留分とに分留される。第1の蒸留工程に供される炭化水素油には、例えば、水素化分解油を5〜95容量%含有させることができ、より好ましくは10〜90容量%含有させることもできる。95容量%より多く含有させると、第1の蒸留工程から脱蝋工程に供給される単位時間あたりの基油留分が少なくなり、運転コストが高くなる。
【0077】
(脱蝋工程)
脱蝋工程では、第1の蒸留工程で分留された基油留分を異性化脱蝋して脱蝋油を得る。異性化脱蝋は、水素の存在下、基油留分を水素化異性化触媒に接触させることにより行うことができる。
【0078】
水素化異性化触媒としては、水素化異性化に一般的に使用される触媒、すなわち無機担体に水素化活性を有する金属が担持された触媒を用いることができる。
【0079】
水素化異性化触媒における水素化活性を有する金属としては、周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属からなる群より選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の具体的な例としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属、あるいはコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられ、好ましくは、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンであり、更に好ましくは白金、パラジウムである。また、これらの金属は複数種を組み合わせて用いることも好ましく、その場合の好ましい組み合わせとしては、白金−パラジウム、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン等が挙げられる。
【0080】
水素化異性化触媒を構成する無機担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア等の金属酸化物が挙げられる。これら金属酸化物は1種であってもよいし、2種以上の混合物あるいはシリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の複合金属酸化物であってもよい。上記無機担体は、ノルマルパラフィンの水素化異性化を効率的に進行させる観点から、シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナジルコニア、アルミナボリア等の固体酸性を有する複合金属酸化物であることが好ましい。また、無機担体には少量のゼオライトを含んでもよい。さらに無機担体は、担体の成型性及び機械的強度の向上を目的として、バインダーが配合されていてもよい。好ましいバインダーとしては、アルミナ、シリカ、マグネシア等が挙げられる。
【0081】
水素化異性化触媒における水素化活性を有する金属の含有量としては、当該金属が上記の貴金属である場合には、金属原子として担体の質量基準で0.1〜3質量%程度であることが好ましい。また、当該金属が上記の貴金属以外の金属である場合には、金属酸化物として担体の質量基準で2〜50質量%程度であることが好ましい。水素化活性を有する金属の含有量が前記下限値未満の場合には、水素化精製及び水素化異性化が充分に進行しない傾向にある。一方、水素化活性を有する金属の含有量が前記上限値を超える場合には、水素化活性を有する金属の分散が低下して触媒の活性が低下する傾向となり、また触媒コストが上昇する。
【0082】
また、水素化異性化触媒は、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性の無機酸化物からなる担体に周期表第6族、第8族、第9族及び第10族の金属の元素から選ばれる金属を1種以上担持してなる触媒であってもよい。
【0083】
このような水素化異性化触媒の担体として用いられる多孔性の無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトが挙げられ、このうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカおよびゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものが好ましい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程の任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の酸化物との比率は担体に対して任意の割合を取り得るが、好ましくはアルミナが90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0084】
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイト、TON、MTT、MREなどが挙げられ、所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したもの、あるいはゼオライト中のアルミナ含有量を調整したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成される。水熱処理条件は公知の条件を用いることができる。
【0085】
このような水素化異性化触媒の活性金属としては、周期表第6族、第8族、第9族、及び第10族の元素から選ばれる1種以上の金属が用いられる。これらの金属の中でも、Pd、Pt、Rh、Ir、Niから選ばれる1種以上の金属を用いることが好ましく、組み合わせて用いることがより好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、Pd−Pt、Pd−Ir、Pd−Rh、Pd−Ni、Pt−Rh、Pt−Ir、Pt−Ni、Rh−Ir、Rh−Ni、Ir−Ni、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ir、Pt−Pd−Niなどが挙げられる。このうち、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Rh、Pt−Ir、Rh−Ir、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがより好ましく、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Ir、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがさらにより好ましい。
【0086】
触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、金属として0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.5〜1.3質量%がさらにより好ましい。金属の合計担持量が0.1質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、2質量%を超えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0087】
上記水素化異性化触媒のいずれの触媒においても、活性金属を担体に担持させる方法は特に限定されず、通常の水素化異性化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常は、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法であるが、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0088】
また、水素化異性化触媒としては、下記触媒を用いることもできる。
【0089】
<水素化異性化触媒の具体的な一態様>
本態様の水素化異性化触媒は、特定の方法によって製造されることでその特徴が付与される。以下、本態様の水素化異性化触媒について、その好ましい製造の態様に沿って説明する。
【0090】
本態様の水素化異性化触媒の製造方法は、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトと、バインダーと、が含まれる混合物を、N
2雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る第1工程と、担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る第2工程とを備える。
【0091】
本態様で用いられる有機テンプレート含有ゼオライトは、ノルマルパラフィンの水素化異性化反応における高い異性化活性と抑制された分解活性とを高水準で両立する観点から、10員環からなる一次元状細孔構造を有する。このようなゼオライトとしては、AEL、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、NES、TON、MTT、WEI、
*MRE及びSSZ−32などが挙げられる。なお、上記の各アルファベット三文字は、分類分けされたモレキュラーシーブ型ゼオライトの各構造に対して、国際ゼオライト協会構造委員会(The Structure Commission of The International Zeolite Association)が与えている骨格構造コードを意味する。また、同一のトポロジーを有するゼオライトは包括的に同一のコードで呼称される。
【0092】
上記有機テンプレート含有ゼオライトとしては、上記の10員環一次元状細孔構造を有するゼオライトの中でも、高異性化活性及び低分解活性の点で、TON、MTT構造を有するゼオライト、
*MRE構造を有するゼオライトであるZSM−48ゼオライト、及びSSZ−32ゼオライトが好ましい。TON構造を有するゼオライトとしては、ZSM−22ゼオライトがより好ましく、また、MTT構造を有するゼオライトとしては、ZSM−23ゼオライトがより好ましい。
【0093】
有機テンプレート含有ゼオライトは、シリカ源、アルミナ源及び上記所定の細孔構造を構築するために添加する有機テンプレートから、公知の方法によって水熱合成される。
【0094】
有機テンプレートは、アミノ基、アンモニウム基等を有する有機化合物であり、合成するゼオライトの構造に応じて選択されるものであるが、アミン誘導体であることが好ましい。具体的には、アルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルトリアミン、アルキルテトラミン、ピロリジン、ピペラジン、アミノピペラジン、アルキルペンタミン、アルキルヘキサミン及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。上記アルキル基の炭素数は、4〜10であればよく、好ましくは6〜8である。なお、代表的なアルキルジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−ジアミノオクタン等が挙げられる。
【0095】
10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを構成する珪素とアルミニウム元素とのモル比([Si]/[Al])(以下、「Si/Al比」という。)は、10〜400であることが好ましく、20〜350であることがより好ましい。Si/Al比が10未満の場合には、ノルマルパラフィンの転換に対する活性は高くなるが、イソパラフィンへの異性化選択性が低下し、また反応温度の上昇に伴う分解反応の増加が急激となる傾向にあることから好ましくない。一方、Si/Al比が400を超える場合には、ノルマルパラフィンの転換に必要な触媒活性が得られにくくなり好ましくない。
【0096】
合成され、好ましくは洗浄、乾燥された上記有機テンプレート含有ゼオライトは、対カチオンとして通常アルカリ金属カチオンを有し、また有機テンプレートが細孔構造内に包含される。本発明に係る水素化異性化触媒を製造する際に用いる有機テンプレートを含むゼオライトとは、このような、合成された状態のもの、すなわち、ゼオライト内に包含される有機テンプレートを除去するための焼成処理がなされていないものであることが好ましい。
【0097】
上記有機テンプレート含有ゼオライトは、次に、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換される。イオン交換処理により、有機テンプレート含有ゼオライト中に含まれる対カチオンは、アンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換される。またそれと同時に、有機テンプレート含有ゼオライト中に包含される有機テンプレートの一部が除去される。
【0098】
上記イオン交換処理に使用する溶液は、水を少なくとも50容量%含有する溶媒を用いた溶液であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。また、アンモニウムイオンを溶液中に供給する化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機及び有機の各種のアンモニウム塩が挙げられる。一方、プロトンを溶液中に供給する化合物としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸が利用される。有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオンの存在下でイオン交換することにより得られるイオン交換ゼオライト(ここでは、アンモニウム型ゼオライト)は、後の焼成の際にアンモニアを放出し、対カチオンがプロトンとなってブレンステッド酸点となる。イオン交換に用いるカチオン種としてはアンモニウムイオンが好ましい。溶液中に含まれるアンモニウムイオン及び/又はプロトンの含有量は、使用する有機テンプレート含有ゼオライトに含まれる対カチオン及び有機テンプレートの合計量に対して10〜1000当量となるように設定されることが好ましい。
【0099】
上記イオン交換処理は、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライト担体に対して行ってもよく、またイオン交換処理に先立って、有機テンプレート含有ゼオライトにバインダーである無機酸化物を配合し、成型を行い、得られる成型体に対して行ってもよい。但し、上記の成型体を焼成することなくイオン交換処理に供すると、当該成型体が崩壊、粉化する問題が生じやすくなることから、粉末状の有機テンプレート含有ゼオライトをイオン交換処理に供することが好ましい。
【0100】
イオン交換処理は、定法、すなわち、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液、好ましくは水溶液に有機テンプレートを含むゼオライトを浸漬し、これを攪拌又は流動する方法によって行うことが好ましい。また、上記の撹拌又は流動は、イオン交換の効率を高めるために加熱下に行うことが好ましい。本態様においては、上記水溶液を加熱し、沸騰、還流下でイオン交換する方法が特に好ましい。
【0101】
更に、イオン交換の効率を高める点から、溶液によってゼオライトをイオン交換する間に、溶液を一回又は二回以上新しいものに交換することが好ましく、溶液を一回又は二回新しいものに交換することがより好ましい。溶液を一回交換する場合、例えば、有機テンプレート含有ゼオライトをアンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液に浸漬し、これを1〜6時間加熱還流し、次いで、溶液を新しいもの交換した後、更に6〜12時間加熱還流することにより、イオン交換効率を高めることが可能となる。
【0102】
イオン交換処理により、ゼオライト中のアルカリ金属等の対カチオンのほぼ全てをアンモニウムイオン及び/又はプロトンに交換することが可能である。一方、ゼオライト内に包含される有機テンプレートについては、上記のイオン交換処理によりその一部が除去されるが、同処理を繰り返し行っても、その全てを除去することは一般に困難であり、その一部がゼオライト内部に残留する。
【0103】
本態様では、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物を窒素雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体を得る。
【0104】
イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物は、上記の方法にて得られたイオン交換ゼオライトに、バインダーである無機酸化物を配合し、得られる組成物を成型したものが好ましい。無機酸化物をイオン交換ゼオライトに配合する目的は、成型体の焼成によって得られる担体(特には、粒子状の担体)の機械的強度を、実用に耐えられる程度に向上することにあるが、本発明者は、無機酸化物種の選択が水素化異性化触媒の異性化選択性に影響を与えることを見出している。このような観点から、上記無機酸化物として、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛及び酸化リン並びにこれらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物から選択される少なくとも一種の無機酸化物が用いられる。中でも、水素化異性化触媒の異性化選択性が更に向上するとの観点から、シリカ、アルミナが好ましく、アルミナがより好ましい。また、上記「これらの2種以上の組み合わせからなる複合酸化物」とは、アルミナ、シリカ、チタニア、ボリア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛、及び酸化リンのうちの少なくとも2種の成分からなる複合酸化物であるが、複合酸化物を基準として50質量%以上のアルミナ成分を含有するアルミナを主成分とする複合酸化物が好ましく、中でもアルミナ−シリカがより好ましい。
【0105】
上記組成物におけるイオン交換ゼオライトと無機酸化物との配合比率は、イオン交換ゼオライトの質量:無機酸化物の質量の比として、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜85:15である。この比が10:90よりも小さい場合には、水素化異性化触媒の活性が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。一方、上記比が90:10を超える場合には、組成物を成型及び焼成して得られる担体の機械的強度が充分ではなくなる傾向にあるため好ましくない。
【0106】
イオン交換ゼオライトに上記の無機酸化物を配合する方法は特に限定されないが、例えば両者の粉末に適量の水等の液体を添加して粘ちょうな流体とし、これをニーダー等により混練する等の通常行われる方法を採用することができる。
【0107】
上記イオン交換ゼオライトと上記無機酸化物とを含む組成物或いはそれを含む粘ちょうな流体は、押出成型等の方法により成型され、好ましくは乾燥されて粒子状の成型体となる。成型体の形状としては特に限定されないが、例えば、円筒状、ペレット状、球状、三つ葉・四つ葉形の断面を有する異形筒状等が挙げられる。成型体の大きさは特に限定されないが、取り扱いの容易さ、反応器への充填密度等の観点から、例えば長軸が1〜30mm、短軸が1〜20mm程度であることが好ましい。
【0108】
本態様においては、上記のようにして得られた成型された成型体を、N
2雰囲気下、250〜350℃の温度で加熱して担体前駆体とすることが好ましい。加熱時間については、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0109】
本態様において、上記加熱温度が250℃より低い場合は、有機テンプレートが多量に残留し、残留したテンプレートによってゼオライト細孔が閉塞する。異性化活性点は細孔ポアマウス付近に存在すると考えられており、上記の場合、細孔閉塞によって反応基質が細孔内へ拡散できなくなり、活性点が被覆されて異性化反応が進行しにくくなり、ノルマルパラフィンの転化率が充分に得られにくくなる傾向にある。一方、加熱温度が350℃を超える場合には、得られる水素化異性化触媒の異性化選択性が充分に向上しない。
【0110】
成型体を加熱して担体前駆体とするときの下限温度は280℃以上が好ましい。また、上限温度は330℃以下が好ましい。
【0111】
本態様では、上記成型体に含まれる有機テンプレートの一部が残留するように上記混合物を加熱することが好ましい。具体的には、後述の金属担持後の焼成を経て得られる水素化異性化触媒のカーボン量が0.4〜3.5質量%(好ましくは0.4〜3.0質量%、より好ましくは0.4〜2.5質量%)となり、当該触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.12cc/gとなり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.01〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。
【0112】
次に、上記担体前駆体に白金塩及び/又はパラジウム塩を含ませた触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、350〜400℃、好ましくは380〜400℃、より好ましくは400℃の温度で焼成して、ゼオライトを含む担体に白金及び/又はパラジウムが担持された水素化異性化触媒を得る。なお、「分子状酸素を含む雰囲気下」とは、酸素ガスを含む気体、中でも好ましくは空気と接触することを意味する。焼成の時間は、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
【0113】
白金塩としては、例えば、塩化白金酸、テトラアンミンジニトロ白金、ジニトロアミノ白金、テトラアンミンジクロロ白金などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外で白金が高分散する白金塩であるテトラアンミンジニトロ白金が好ましい。
【0114】
パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、ジアミノパラジウム硝酸塩などが挙げられる。塩化物塩は反応時に塩酸が発生して装置腐食の恐れがあるため、塩化物塩以外でパラジウムが高分散するパラジウム塩であるテトラアンミンパラジウム硝酸塩が好ましい。
【0115】
本態様に係るゼオライトを含む担体における活性金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。担持量が0.001質量%未満の場合には、所定の水素化/脱水素機能を付与することが困難となる。一方、担持量が20質量%を超える場合には、当該活性金属上での炭化水素の分解による軽質化が進行しやすくなり、目的とする留分の収率が低下する傾向にあり、さらには触媒コストの上昇を招く傾向にあるため好ましくない。
【0116】
また、本態様に係る水素化異性化触媒が含イオウ化合物及び/又は含窒素化合物を多く含む炭化水素油の水素化異性化に用いられる場合、触媒活性の持続性の観点から、活性金属として、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン−コバルト、ニッケル−タングステン−コバルト等の組み合わせを含むことが好ましい。これらの金属の担持量は、担体の質量を基準として、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜30質量%がより好ましい。
【0117】
本態様では、上記担体前駆体に残留させた有機テンプレートが残留するように上記触媒前駆体を焼成することが好ましい。具体的には、得られる水素化異性化触媒のカーボン量が0.4〜3.5質量%(好ましくは0.4〜3.0質量%、より好ましくは0.4〜2.5質量%)となり、当該触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.12cc/gとなり、当該触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.01〜0.12cc/gとなるように加熱条件を設定することが好ましい。水素化異性化触媒中のカーボン量は、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法により測定される。具体的には、酸素気流中での当該触媒の燃焼により二酸化炭素ガスを発生させ、この二酸化炭素ガスの赤外線吸収量に基づき、炭素量が定量される。この測定には、炭素・硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製 EMIA−920V)を用いればよい。
【0118】
水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積は、窒素吸着測定と呼ばれる方法にて算出される。すなわち、触媒について、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の物理吸着脱離等温線を解析、具体的には、液体窒素温度(−196℃)で測定した窒素の吸着等温線をt−plot法により解析することにより、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が算出される。また、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積についても、上記の窒素吸着測定により算出される。
【0119】
触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積V
Zは、例えば、バインダーがミクロ細孔容積を有していない場合、水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積の値V
cと、触媒におけるゼオライトの含有割合M
z(質量%)から下記式に従って算出することができる。
V
Z=V
c/M
z×100
【0120】
本態様の水素化異性化触媒は、上記の焼成処理に続いて、水素化異性化の反応を行う反応器に充填後に還元処理されたものであることが好ましい。具体的には、分子状水素を含む雰囲気下、好ましくは水素ガス流通下、好ましくは250〜500℃、より好ましくは300〜400℃にて、0.5〜5時間程度の還元処理が施されたものであることが好ましい。このような工程により、炭化水素油の脱蝋に対する高い活性をより確実に触媒に付与することができる。
【0121】
本態様の水素化異性化触媒は、10員環一次元状細孔構造を有するゼオライト、及びバインダーを含む担体と、該担体に担持された白金及び/又はパラジウムと、を含有し、触媒のカーボン量が0.4〜3.5質量%であり、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積が0.02〜0.12cc/gである水素化異性化触媒であって、上記ゼオライトは、有機テンプレートを含有し10員環一次元状細孔構造を有する有機テンプレート含有ゼオライトを、アンモニウムイオン及び/又はプロトンを含む溶液中でイオン交換して得られるイオン交換ゼオライトに由来するものであり、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積が0.01〜0.12cc/gであるものであってもよい。
【0122】
上記の水素化異性化触媒は、上述した方法により製造することができる。触媒のカーボン量、触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積及び触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積は、イオン交換ゼオライトとバインダーとが含まれる混合物におけるイオン交換ゼオライトの配合量、当該混合物のN
2雰囲気下での加熱条件、触媒前駆体の分子状酸素を含む雰囲気下での加熱条件を適宜調整することより上記範囲内にすることができる。
【0123】
脱蝋工程において、異性化脱蝋の反応温度は、200〜450℃が好ましく、220〜400℃がより好ましい。反応温度が200℃を下回る場合、基油留分に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。一方、反応温度が450℃を超える場合、基油留分の分解が顕著となり、潤滑油基油の収率が低下する傾向にある。
【0124】
異性化脱蝋の反応圧力は、0.1〜20MPaが好ましく、0.5〜15MPaがより好ましい。反応圧力が0.1MPaを下回る場合、コーク生成による触媒の劣化が早まる傾向にある。一方、反応圧力が20MPaを超える場合、装置建設コストが高くなるため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0125】
異性化脱蝋における基油留分の触媒に対する液空間速度は、0.01〜100h
−1が好ましく、0.1〜50h
−1がより好ましい。液空間速度が0.01h
−1未満の場合、基油留分の分解が過度に進行しやすくなり、生産効率が低下する傾向にある。一方、液空間速度が100h
−1を超える場合、基油留分中に含まれるノルマルパラフィンの異性化が進行しにくくなり、ワックス成分の低減、除去が不十分になる傾向にある。
【0126】
異性化脱蝋における水素と基油留分との供給比率は、100〜1000Nm
3/m
3が好ましく、200〜800Nm
3/m
3がより好ましい。供給比率が100Nm
3/m
3未満の場合、例えば基油留分が硫黄分又は窒素分を含む場合、異性化反応と併発する脱硫、脱窒素反応により発生する硫化水素、アンモニアガスが触媒上の活性金属を吸着被毒するため、所定の触媒性能が得られにくくなる傾向にある。一方、供給比率が1000Nm
3/m
3を超える場合、大きな能力の水素供給設備を必要とするため経済的なプロセスを実現しにくくなる傾向にある。
【0127】
脱蝋工程で得られる脱蝋油は、ノルマルパラフィン濃度が10容量%以下であることが好ましく、1容量%以下であることがより好ましい。
【0128】
本実施形態における脱蝋工程で得られた脱蝋油は、潤滑油基油原料として好適に用いることができる。本実施形態においては、例えば、第2の工程で得られた脱蝋油を水素化精製して水素化精製油を得る水素化精製工程と、水素化精製油を分留して潤滑油基油を得る第2の蒸留工程と、により潤滑油基油を得ることができる。
【0129】
(水素化精製工程)
水素化精製工程では、第2の工程で得られた脱蝋油を水素化精製して水素化精製油を得る。水素化精製によって、例えば、脱蝋油中のオレフィン及び芳香族化合物が水素化され、潤滑油の酸化安定性及び色相が改善される。さらに、脱蝋油中の硫黄化合物が水素化され、硫黄分の低減も期待される。
【0130】
水素化精製は、水素の存在下、脱蝋油を水素化精製触媒に接触させることにより行われる。水素化精製触媒としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、ボリア、マグネシア及びリンから選ばれる1種類以上の無機固体酸性物質を含んで構成される担体と、その担体上に担持された、白金、パラジウム、ニッケル−モリブデン、ニッケル−タングステン及びニッケル−コバルト−モリブデンからなる群より選ばれる1種以上の活性金属とを備えた触媒が挙げられる。
【0131】
好適な担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、又はチタニアを少なくとも2種類以上含む無機固体酸性物質である。
【0132】
担体に上記活性金属を担持する方法としては、含浸やイオン交換等の常法を採用できる。
【0133】
水素化精製触媒における活性金属の担持量は、金属の合計量が担体に対して0.1〜25質量%であることが好ましい。
【0134】
水素化精製触媒の平均細孔径は6〜60nmであると好ましく、7〜30nmであるとより好ましい。平均細孔径が6nmより小さいと十分な触媒活性が得られない傾向にあり、平均細孔径が60nmを越えると、活性金属の分散度が下がることにより触媒活性が低下する傾向にある。
【0135】
水素化精製触媒の細孔容積は0.2mL/g以上であることが好ましい。細孔容積が0.2mL/gより小さいと、触媒の活性劣化が早くなる傾向にある。なお、水素化精製触媒の細孔容積は、例えば0.5mL/g以下であってよい。また、水素化精製触媒の比表面積は200m
2/g以上であると好ましい。触媒の比表面積が200m
2/gを下回ると、活性金属の分散性が不十分となり活性が低下する傾向にある。なお、水素化精製触媒の比表面積は、例えば400m
2/g以下であってよい。これら触媒の細孔容積及び比表面積は、窒素吸着によるBET法と呼ばれる方法により測定、算出可能である。
【0136】
水素化精製の反応条件は、例えば反応温度200〜300℃、水素分圧3〜20MPa、LHSV0.5〜5h
−1、水素/油比170〜850Nm
3/m
3であると好ましく、反応温度200℃〜300℃、水素分圧4〜18MPa、LHSV0.5〜4h
−1、水素/油比340〜850Nm
3/m
3であるとより好ましい。
【0137】
本実施形態においては、水素化精製油における硫黄分及び窒素分がそれぞれ、5質量ppm以下及び1質量ppm以下となるように反応条件を調整することが好ましい。なお、硫黄分は、JIS K2541「原油及び石油製品‐硫黄分試験方法」に基づき、窒素分は、JIS K2609「原油及び石油製品‐窒素分試験方法」に基づき測定される値である。
【0138】
(第2の蒸留工程)
第2の蒸留工程では、水素化精製油を分留して潤滑油基油を得る。
【0139】
第2の蒸留工程における蒸留条件は、水素化精製油から軽質留分および潤滑油留分をそれぞれ分留できる条件であれば特に限定されない。例えば、第2の蒸留工程は、水素化精製油から軽質留分を留去する常圧蒸留と、常圧蒸留のボトム油から潤滑油留分をそれぞれ分留する減圧蒸留と、により行われることが好ましい。
【0140】
第2の蒸留工程では、例えば、複数のカットポイントを設定し、水素化精製油を常圧蒸留することにより得られたボトム油を減圧蒸留することにより複数の潤滑油留分を得ることができる。第2の蒸留工程では、例えば、水素化精製油から、常圧での沸点330〜410℃の第1の潤滑油留分、沸点410〜470℃の第2の潤滑油留分、及び沸点470〜520℃の第3の潤滑油留分をそれぞれ分留して回収することができる。
【0141】
第1の潤滑油留分は、ATFやショックアブソーバーに適した潤滑油基油として取得することができ、この場合、100℃における動粘度を2.7±0.1cStとすることが好ましい。第2の潤滑油留分は、APIのグループIII、III+規格を満たすエンジン油基油に適した本発明に係る潤滑油基油として取得することができ、この場合、100℃における動粘度を4.0±0.1mm
2/sとし、流動点を−22.5℃以下とすることが好ましい。第3の潤滑油留分は、工業用作動油に適した潤滑油基油として取得することができ、この場合、40℃における動粘度を32mm
2/s以上とすることが好ましい。更に、第1の潤滑油留分は70Paleに相当する潤滑油基油として取得することができ、第2の潤滑油留分はSAE−10に相当する潤滑油基油として取得することができ、第3の潤滑油留分はSAE−20に相当する潤滑油基油として取得することができる。
【0142】
また、水素化精製工程で得られた水素化精製油には、水素化異性化や水素化分解により副生したナフサや灯軽油などの軽質留分が含まれる。第2の蒸留工程では、これらの軽質留分を、例えば沸点330℃以下の留分として回収することもできる。
【0143】
また、本実施形態においては、第2の工程で得られた脱蝋油を分留して潤滑油留分を得る第2の蒸留工程と、潤滑油留分を水素化精製する水素化精製工程と、により潤滑油基油を得ることもできる。このとき、第2の蒸留工程及び水素化精製工程は、上述の第2の蒸留工程及び水素化精製工程と同様にして実施できる。
【0144】
次いで、図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0145】
図1は、本発明の潤滑油基油の製造方法を実施する潤滑油基油製造装置の一例を示すフロー図である。
図1に示される潤滑油基油製造装置100は、原料油としての炭化水素油が導入される流路L1と、流路L1から導入された原料油を常圧蒸留する第1の蒸留塔10と、第1の蒸留塔10から流路L3を通じて供給されるボトム油を減圧蒸留する第2の蒸留塔20と、第2の蒸留塔から所望の潤滑油基油に応じて分留された基油留分をそれぞれ取り出すための流路L41、L42及びL43と、流路L41、L42及びL43を通じて供給される基油留分をそれぞれ貯蔵する貯蔵タンクT1、T2及びT3と、貯蔵タンクT1、T2及びT3からそれぞれ基油留分を取り出すための流路L44、L45及びL46と、流路L44、L45又はL46を通じて供給される基油留分を後段に供するための流路L47と、流路L47を通じて供給される基油留分を異性化脱蝋する第1の反応器30と、第2の蒸留塔20から流路L5を通じて供給される重質留分を水素化分解する第2の反応器40と、第2の反応器40で水素化分解された水素化分解油を流路L1に合流させる流路L6と、第1の反応器30から流路L7を通じて供給される脱蝋油を水素化精製する第3の反応器50と、第3の反応器50から流路L8を通じて供給される水素化精製油を常圧蒸留する第3の蒸留塔60と、第3の蒸留油60から流路L11を通じて供給されるボトム油を減圧蒸留する第4の蒸留塔70と、を備えて構成されている。
【0146】
第1の蒸留塔10には、基油留分より軽質の軽質留分を系外へと取り出すための流路L2が設けられている。
【0147】
第2の蒸留塔20には、所望の潤滑油基油に応じて分留された基油留分をそれぞれ取り出すための流路L41、L42及びL43が設けられており、流路L41、L42及びL43から取り出された基油留分はそれぞれ貯蔵タンクT1、T2及びT3に貯蔵される。貯蔵タンクT1、T2及びT3に貯蔵された基油留分は、それぞれ流路L44、L45及びL46から取り出され、流路L47を通じて後段に供される。潤滑油基油製造装置100においては、貯蔵タンクT1、T2及びT3に貯蔵される基油留分をそれぞれ独立に又は混合して、後段の第1の反応器30に供することができる。省エネルギーの観点から、流路L41、L42又はL42から取り出された基油留分を貯蔵タンクT1、T2又はT3に貯蔵することなく流路L44、L45又はL46を通じて流路L47から異性化脱蝋する第1の反応器30に直接供給してもよい。
【0148】
第3の蒸留塔60には、潤滑油基油に有用な留分(潤滑油留分)より軽質の留分(例えば、ナフサ及び燃料油留分)を取り出すための流路L9及びL10が設けられている。第4の蒸留塔70には、所定の潤滑油留分を系外へと取り出すための流路L12〜L14が設けられている。
【0149】
炭化水素油から基油留分及び重質留分をそれぞれ分留する第1の蒸留工程は、潤滑油基油製造装置100においては、第1の蒸留塔10及び第2の蒸留塔20によって実施される。
【0150】
潤滑油基油製造装置100において、第1の蒸留塔10では、流路L1から供給された炭化水素油を常圧蒸留することにより、軽質留分を流路L2から取り出し、基油留分及び重質留分をボトム油として流路L3から取り出すことができる。
【0151】
第2の蒸留塔20では、流路L3から供給されたボトム油(基油留分及び重質留分)を減圧蒸留することにより、基油留分及び重質留分をそれぞれ分留することができる。基油留分は、例えば、常圧での沸点330〜410℃の第1の基油留分、沸点410〜470℃の第2の基油留分、及び沸点470〜520℃の第3の基油留分に分留されて、それぞれ流路L41、L42及びL43から取り出され、貯蔵タンクT1、T2及びT3に貯蔵される。重質留分は、流路L5から取り出されて第2の反応器40に供される。
【0152】
なお、潤滑油基油製造装置100において、第1の蒸留工程は第1の蒸留塔10及び第2の蒸留塔20によって行われるが、第1の蒸留工程は、例えば減圧蒸留を行う一つの蒸留塔によって実施することもでき、3つ以上の蒸留塔によって実施することもできる。また、潤滑油基油製造装置100において、第2の蒸留塔20では、基油留分を3つに分留しているが、第1の蒸留工程では、基油留分を単一の留分として取り出してもよく、2つ又は4つ以上に分留して取り出してもよい。
【0153】
潤滑油基油製造装置100において、第2の蒸留塔20から流路L5を通じて供給された重質留分は、第2の反応器40で水素化分解され、第2の反応器40で水素化分解された水素化分解油は、流路L6を通じて流路L1に流通する炭化水素油と合流して、第1の蒸留塔10に供給される。
【0154】
第2の反応器40の形式は特に限定されず、例えば、水素化分解触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0155】
本実施形態では、例えば、水素化分解触媒を固定床流通式反応器である第2の反応器40に充填し、この第2の反応器40に水素(分子状水素)及び重質留分を流通させることにより水素化分解を実施することができる。
【0156】
脱蝋工程は、第1の蒸留工程で分留された基油留分を異性化脱蝋して脱蝋油を得る工程である。潤滑油基油製造装置100において、脱蝋工程は、第1の反応器30によって実施することができる。第1の反応器30では、水素(分子状水素)の存在下、第2の蒸留塔20で分留された基油留分を水素化異性化触媒に接触させる。これにより、基油留分が水素化異性化により脱蝋される。
【0157】
第1の反応器30の形式は特に限定されず、例えば、水素化異性化触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0158】
本実施形態では、例えば、水素化異性化触媒を固定床流通式反応器である第1の反応器30に充填し、この反応器に水素(分子状水素)及び基油留分を流通させることにより水素化異性化を実施することができる。
【0159】
潤滑油基油製造装置100において、水素化精製工程は、第3の反応器50により行うことができる。第3の反応器50では、第1の反応器30から流路L7を通じて供給された脱蝋油が水素化精製される。
【0160】
第3の反応器50の形式は特に限定されず、例えば、水素化精製触媒が充填された固定床流通式反応器が好ましく用いられる。反応器は単一であってもよく、また、複数の反応器が直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、反応器内の触媒床は単一であってもよく、複数であってもよい。
【0161】
本実施形態では、例えば、水素化精製触媒を固定床流通式反応器である第3の反応器50に充填し、この反応器に水素(分子状水素)及び脱蝋油を流通させることにより水素化精製を実施することができる。
【0162】
潤滑油基油製造装置100において、水素化精製油を分留して潤滑油基油を得る第2の蒸留工程は、第3の蒸留塔60及び第4の蒸留塔70により行うことができる。第3の蒸留塔60では、水素化精製油を常圧蒸留することにより、潤滑油基油として有用な留分より軽質の留分(例えば、ナフサ及び燃料油留分)を流路L9及び流路L10から取り出し、ボトム油を流路L11から取り出す。
【0163】
第4の蒸留塔では、流路L11から供給されるボトム油を減圧蒸留して、所望の潤滑油留分を得ることができる。第4の蒸留塔70では、複数のカットポイントを設定して流路L11から供給されるボトム油を減圧蒸留することにより、複数の潤滑油留分をそれぞれL12、L13及びL14から取り出すことができる。本実施形態においては、例えば、常圧での沸点330〜410℃の第1の潤滑油留分、沸点410〜470℃の第2の潤滑油留分、及び沸点470〜520℃の第3の潤滑油留分をそれぞれ流路L12〜14から取り出し、潤滑油基油として回収することができる。
【0164】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0165】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0166】
(水素化分解触媒A−1の調製)
<担体の調製>
シリカアルミナ47質量%、USYゼオライト3質量%及びアルミナバインダー50質量%の混合物に水を加えて粘土状に混練を行って捏和物を調製した。この捏和物を押出成型により直径約1.5mm、長さ約3mmの円柱状に成型した。得られた成型体を120℃で3時間乾燥し、更に空気中、500℃で3時間焼成して担体を得た。
【0167】
<触媒の調製>
テトラアンミンジニトロ白金[Pt(NH
3)
4](NO
3)
2を、担体のあらかじめ測定した吸水量に相当するイオン交換水に溶解して含浸溶液を得た。この溶液を、上記の担体に初期湿潤法により含浸し、担体の質量を基準として、0.8質量%の白金量となるように担持を行った。次に、得られた含浸物(触媒前駆体)を120℃で3時間乾燥した後、空気流通下、500℃で1時間焼成して、水素化分解触媒A−1を得た。
【0168】
(水素化分解触媒A−2の調製)
<担体の調製>
以下のようにして、アルミニウム含有ベータゼオライトを合成した。
200mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに型剤であるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(35%水溶液)25.1gと硝酸アルミニウム9水和物1.52gを攪拌しながら混合し、次いでテトラエトキシシラン20.7gを入れて1.5時間攪拌を続けた。
【0169】
この混合溶液をエバポレータに移し、真空下、40℃に加温して生成したエタノールおよび水を除去した。残存物に以下に示すゲル比になるように水およびフッ化水素水溶液(46%水溶液)2.59gを加えて、ゲル溶液を調製した。この時のゲル組成は重量比でSi:Al:N:F:H
2O=1:0.04:0.6:0.6:7.5である。
【0170】
得られたゲル溶液を45mlのオートクレーブ2個に均等に入れ、150℃で水熱合成を行った。水熱合成時は、攪拌を20回転/分の速度で60時間行った後、115時間静置した。生成した固形物と液とをろ過分離し、固形物をイオン交換水で十分に洗浄した。最後に固形物を550℃で4時間空気中焼成し、固形物がベータゼオライトであることはX線回折測定により確認し、担体を得た。
【0171】
<触媒の調製>
テトラアンミンジニトロ白金[Pt(NH
3)
4](NO
3)
2を、担体のあらかじめ測定した吸水量に相当するイオン交換水に溶解して含浸溶液を得た。この溶液を、上記の担体に初期湿潤法により含浸し、担体の質量を基準として、0.3質量%の白金量となるように担持を行った。次に、得られた含浸物(触媒前駆体)を120℃で3時間乾燥した後、空気流通下、500℃で1時間焼成して、水素化分解触媒A−2を得た。
【0172】
(水素化分解触媒A−3の調製)
シリカアルミナ50質量%とアルミナバインダー50質量%の混合物に水を加えて粘土状に混練を行って捏和物を調製した。この捏和物を押出成型、乾燥、焼成して担体を調製した。この担体に含浸法でニッケル5重量%、タングステン20重量%を担持して、水素化分解触媒A−3を得た。
【0173】
(水素化異性化触媒B−1の調製)
<ZSM−22ゼオライトの製造>
Si/Al比が45である結晶性アルミノシリケートからなるZSM−22ゼオライト(以下、「ZSM−22」ということがある。)を、以下の手順で水熱合成により製造した。
【0174】
まず、下記の4種類の水溶液を調製した。
溶液A:1.94gの水酸化カリウムを6.75mLのイオン交換水に溶解したもの。
溶液B:1.33gの硫酸アルミニウム18水塩を5mLのイオン交換水に溶解したもの。
溶液C:4.18gの1,6−ヘキサンジアミン(有機テンプレート)を32.5mLのイオン交換水にて希釈したもの。
溶液D:18gのコロイダルシリカ(Grace Davison社製Ludox AS−40)を31mLのイオン交換水にて希釈したもの。
【0175】
次に、溶液Aを溶液Bに加え、アルミニウム成分が完全に溶解するまで攪拌を行った。この混合溶液に溶液Cを加えた後、室温にて激しく攪拌しながら、溶液A、B、Cの混合物を溶液Dに注入した。更に、ここへ結晶化を促進する「種結晶」として、別途合成され、合成後に何ら特別な処理が行われていないZSM−22の粉末を0.25g添加し、ゲル状物を得た。
【0176】
上記の操作にて得たゲル状物を、内容積120mLのステンレス鋼製オートクレーブ反応器に移し、150℃のオーブン中で60時間、約60rpmの回転速度でオートクレーブ反応器をタンブリング装置上で回転させ、水熱合成反応を行った。反応終了後、反応器を冷却後開放し、60℃の乾燥器中で一夜乾燥して、Si/Al比が45であるZSM−22を得た。
【0177】
<ZSM−22ゼオライトの成形体>
上記で得たZSM−22と、バインダーであるアルミナとを質量比7:3にて混合し、ここに少量のイオン交換水を添加して混錬した。得られた粘ちょうな流体を押出成型機に充填、成型し、直径約1.6mm、長さ約10mmの円筒状の成型体を得た。この成型体を、空気雰囲気下、400℃にて3時間加熱して、成形体ZSM−22を得た。
【0178】
<成形体ZSM−22のイオン交換>
上記で得られた成形体ZSM−22について、以下の操作によりアンモニウムイオンを含む水溶液でイオン交換処理を行った。
【0179】
上記にて得られたZSM−22をフラスコ中に取り、ZSM−22ゼオライト1g当り100mLの0.5N−塩化アンモニウム水溶液を加え、6時間加熱環流した。これを室温まで冷却した後、上澄み液を除去し、結晶性アルミノシリケートをイオン交換水で洗浄した。ここに、上記と同量の0.5N−塩化アンモニウム水溶液を再び加え、12時間加熱環流した。
【0180】
その後、固形分をろ過により採取し、イオン交換水で洗浄し、60℃の乾燥器中で一晩乾燥して、イオン交換されたNH
4型ZSM−22を得た。このZSM−22は、有機テンプレートを含んだ状態でイオン交換されたものである。
【0181】
<白金担持、焼成>
テトラアンミンジニトロ白金[Pt(NH
3)
4](NO
3)
2を、担体前駆体のあらかじめ測定した吸水量に相当するイオン交換水に溶解して含浸溶液を得た。この溶液を、上記の担体前駆体に初期湿潤法により含浸し、ZSM−22ゼオライトの質量に対して、0.3質量%の白金量となるように担持を行った。次に、得られた含浸物(触媒前駆体)を60℃の乾燥中で一晩乾燥した後、空気流通下、400℃で3時間焼成して、水素化異性化触媒B−1を得た。
【0182】
(水素化異性化触媒B−2の調製)
<有機テンプレートを含有するZSM−22のイオン交換>
上記B−1で得られたZSM−22について、以下の操作によりアンモニウムイオンを含む水溶液でイオン交換処理を行った。
【0183】
上記にて得られたZSM−22をフラスコ中に取り、ZSM−22ゼオライト1g当り100mLの0.5N−塩化アンモニウム水溶液を加え、6時間加熱環流した。これを室温まで冷却した後、上澄み液を除去し、結晶性アルミノシリケートをイオン交換水で洗浄した。ここに、上記と同量の0.5N−塩化アンモニウム水溶液を再び加え、12時間加熱環流した。
【0184】
その後、固形分をろ過により採取し、イオン交換水で洗浄し、60℃の乾燥器中で一晩乾燥して、イオン交換されたNH
4型ZSM−22を得た。このZSM−22は、有機テンプレートを含んだ状態でイオン交換されたものである。
【0185】
<バインダー配合、成型、焼成>
上記で得たNH
4型ZSM−22と、バインダーであるアルミナとを質量比7:3にて混合し、ここに少量のイオン交換水を添加して混錬した。得られた粘ちょうな流体を押出成型機に充填、成型し、直径約1.6mm、長さ約10mmの円筒状の成型体を得た。この成型体を、窒素雰囲気下、300℃にて3時間加熱して、担体前駆体を得た。
【0186】
<白金担持、焼成>
テトラアンミンジニトロ白金[Pt(NH
3)
4](NO
3)
2を、担体前駆体のあらかじめ測定した吸水量に相当するイオン交換水に溶解して含浸溶液を得た。この溶液を、上記の担体前駆体に初期湿潤法により含浸し、ZSM−22ゼオライトの質量に対して、0.3質量%の白金量となるように担持を行った。次に、得られた含浸物(触媒前駆体)を60℃の乾燥中で一晩乾燥した後、空気流通下、400℃で3時間焼成して、カーボン量が0.56質量%である水素化異性化触媒B−2を得た。なお、カーボン量は酸素気流中燃焼―赤外線吸収法で測定した。測定には、堀場製作所製 EMIA−920Vを使用した。
【0187】
更に、得られた水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積を以下の方法で算出した。まず、水素化異性化触媒に吸着した水分を除去するため、150℃、5時間の真空排気する前処理を行った。この前処理後の水素化異性化触媒について、日本ベル(株)社製 BELSORP−maxを使用して液体窒素温度(−196℃)で窒素吸着測定を行った。そして、測定された窒素の吸着等温線をt−plot法にて解析し、水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積(cc/g)を算出した。
【0188】
更に、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積V
Zを下記式に従って算出した。なお、バインダーとして用いたアルミナについて上記と同様に窒素吸着測定を行ったところ、アルミナがミクロ細孔を有さないことが確認された。
V
Z=Vc/Mz×100
式中、Vcは水素化異性化触媒の単位質量当りのミクロ細孔容積を示し、Mzは触媒に含有されるゼオライトの含有割合(質量%)を示す。
【0189】
水素化異性化触媒B−2の単位質量当りのミクロ細孔容積は、0.055cc/gであり、触媒に含有されるゼオライトの単位質量当りのミクロ細孔容積は、0.079cc/gであった。
【0190】
(実施例1)
以下、
図1に示した潤滑油基油製造装置100を参照して実施例について説明する。実施例1では、第1の蒸留塔10に供する原料油としてFTワックス(沸点範囲330〜620℃)を用い、当該FTワックスを沸点範囲330〜520℃の基油留分と沸点範囲が520℃を超える重質留分とに分留した。分留した重質留分を、反応温度325℃、水素圧5MPa、水素/油比680Nm
3/m
3、液空間速度2.0h
−1にて水素化分解した。水素化分解触媒には、水素化分解触媒A−1を使用した。得られた水素化分解油は、FTワックスと混合して第1の蒸留塔10に供給した。また、第1の蒸留塔10で分留した基油留分を、異性化反応温度325℃、水素圧15MPa、水素/油比500Nm
3/m
3、液空間速度1.5h
−1にて異性化脱蝋した。水素化異性化触媒には、水素化異性化触媒B−1を使用した。
【0191】
このプロセスを200時間行ったところ、得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したFTワックスに対して65容量%であった。
【0192】
(実施例2)
水素化異性化触媒B−1を水素化異性化触媒B−2に変更したこと以外は実施例1と同様のプロセスを行った。得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したFTワックスに対して70容量%であった。
【0193】
(実施例3)
水素化分解触媒A−1を水素化分解触媒A−2に変更し、水素化分解の条件を分解反応温度325℃、水素圧15MPa、水素/油比500Nm
3/m
3、液空間速度1.5h
−1に変更したこと以外は、実施例1と同様のプロセスを行った。得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したFTワックスに対して55容量%であった。
【0194】
(実施例3)
第1の蒸留塔10に供する原料油を石油由来炭化水素油であるスラックワックスに変更し、水素化分解触媒A−1を水素化分解触媒A−3に変更したこと以外は、実施例1と同様のプロセスを行った。得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したスラックワックスに対して63容量%であった。
【0195】
(実施例4)
第1の蒸留塔10に供する原料油を石油由来炭化水素油であるスラックワックスに変更し、水素化分解触媒A−1を水素化分解触媒A−3に変更し、水素化異性化触媒B−1を水素化異性化触媒B−2に変更したこと以外は、実施例1と同様のプロセスを行った。得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したスラックワックスに対して68容量%であった。
【0196】
(比較例1)
沸点範囲330℃以上のFTワックスすべてを、異性化反応温度325℃、水素圧15MPa、水素/油比500Nm
3/m
3、液空間速度1.5h
−1にて異性化脱蝋した。水素化異性化触媒には水素化異性化触媒B−1を用いた。得られた脱蝋油における主目的留分(沸点範囲330〜520℃の留分)の収率は、供給したFTワックスに対して50容量%であった。