(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ひずみ測定部は、半導体基板上に形成された一対の抵抗体と一対の抵抗ひずみセンサで構成されるホイートストンブリッジ回路を有することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置。
前記2つの抵抗ひずみセンサと2つの抵抗体は、(001)結晶面を有する半導体基板上に該2つの抵抗ひずみセンサと該2つの抵抗体とが互いに並列するように形成され、
前記2つの抵抗ひずみセンサのそれぞれは、長手方向が<110>方向となる平行四辺形パターンが並列して形成され、該パターンにp型不純物が拡散され、
前記2つの抵抗体のそれぞれは、長手方向が<110>方向となる平行四辺形パターンが対峙して形成され、該パターンにn型不純物が拡散されている
ことを特徴とする請求項11に記載の試料微動機構。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施例は、荷電粒子線装置であって、特に、透過型電子顕微鏡装置に本発明の試料微動機構を設置したときの構成と機能と効果を説明するもので、同様の試料微動機構を備えた走査型電子顕微鏡装置や集束イオンビーム加工装置においても同様の効果が得られる。
<実施例1>
図1から
図11を使って、本発明の構成と機能と効果を説明する。
【0025】
図1は、本発明の試料微動機構を備えた透過型電子顕微鏡の断面図を示したものである。筐体123内部は、真空管121を介して真空ポンプ119に接続され高い真空領域が設けられている。この中で荷電粒子源101から放出した電子ビームは、位置合わせコイル103によってその方向が調整され、アパーチャ105によってその広がりが調整される。続いて、電子ビームは、集束レンズ107によって対物レンズ109が発生する磁場の中に試料微動機構201で支持された試料(図示せず)上の微小な領域に集束するよう調整される。試料を透過した電子ビームは、対物レンズ109が発生する磁場により拡大され、これに続く投影レンズ111によってさらに拡大され、蛍光スクリーン113に投影される。蛍光スクリーン113で可視光に変換された電子ビームのパターン像は、覗き窓115から眼視で観測したりカメラ(図示せず)で記録したりする。または、ヒンジ125を介して蛍光スクリーン113を電子ビームの照射経路から外し、他の種類の検出器、例えば電子ビームのパターン像をシンチレータで可視光に変換しCCDカメラ117で記録する。
【0026】
図2は、本発明の試料微動機構の断面図であり、電子ビームが試料を透過する方向で断面を表示したものである。
【0027】
試料ホルダ203は、その先端に試料200を保持し、これを対物レンズ109が発生する磁場の中に配置する。試料ホルダ203は、摺動筒205の中でOリング207に支えられ、微動ねじ209とばね211によって、x方向に移動し試料を位置決めする。
【0028】
摺動筒205は、内部に試料ホルダ203を保持したまま、球形支点213と球面座215からなる摺動部を支点として、てこ運動し、微動ねじ217とばね219によってy方向に移動し試料200を位置決めする。なお、摺動筒205は、内部に試料ホルダ203を保持したまま、球形支点213と球面座215からなる摺動部を支点として、てこ運動で、微動ねじ(図示せず)とばね(図示せず)によってz方向にも移動し試料200を位置決めする。
【0029】
回転筒221は、内部に摺動筒205を保持したまま、対物レンズ109との間に設置したベアリング225を介して全体がθ方向に回転し試料を位置決めする。
<ひずみ量測定手段>
図3は、試料200をy方向に位置決めするときに、摺動筒205の球形支点213付近に発生する変形を検出する方法を示したものである。本発明では、試料ドリフト発生の原因である試料微動機構の変形の検出に、試料微動機構を構成する部材に発生するひずみを検出することを特徴としている。試料ホルダ203は、先端に搭載した試料200を、例えば、y方向に位置決めするときには、摺動筒205先端付近にある球形支点213と球面座215からなる摺動部を支点として、てこ運動する。このとき、摺動部の摩擦と球形支点213が球面座215に掛ける重力、および、摺動部の摩擦と球形支点213が筐体123内部の真空にひかれる力によって摺動筒205の動きを妨げる摩擦力が発生し、これを曲げるモーメントとなり摺動筒205は変形する。
【0030】
この変形は、試料200をy方向に位置決めするときには、摺動面に静止摩擦として発生する摺動筒205が動き始めるとき最大となり、摺動筒205が動いているとき動摩擦となって摩擦力が少し小さくなり、摺動筒205が静止するときに再び静止摩擦となって最大となる。このとき、摺動筒205の変形による反力は、静止摩擦によって発生する曲げるモーメントと釣りあっている。
【0031】
この摺動部分に外部から振動が伝わると、摺動部の静止摩擦は変化することはないが、球形支点213が球面座215に掛ける重力、または、球形支点213が筐体123内部の真空にひかれる力が、振動と共に弱くなることがあり、摩擦力はこれに応じて小さくなる。摩擦力が小さくなると、摺動筒205が発揮する反力はこの力と釣り合うまで小さくなり、摺動筒205の変形は徐々に小さくなっていき、試料ドリフトが発生する。
【0032】
本発明は、試料ドリフトの発生を抑えるために、外部からの振動等で静止摩擦力が小さくなっても手動筒205の変形による反力がこの摩擦力よりも小さければ試料ドリフトが発生しないことに注目し、摺動筒205の変形を小さくすることを特徴とする。
【0033】
摺動筒205が静止摩擦力によって変形すると、その変形率と変形する部材の弾性係数から計算されるとおり、ひずみが発生する。そこで、摺動筒205に発生したひずみを検出することにした。
【0034】
摺動筒205を変形させる静止摩擦によって発生する曲げるモーメントは、球形支点213の摺動面と摺動筒205の胴体面の境界301付近で最大になる。そこで、この部分にひずみ検出手段303、305を設置し、ひずみを検出する。ひずみ検出手段として、金属抵抗ひずみセンサを用いる方法を
図4で説明する。
【0035】
ここで、ひずみ検出手段の設置場所は、上述した曲げるモーメントが最大になるところに置くのが、効率的であるが必ずしもこれに限らない。特に、y、z方向のひずみ検出に関しては、曲げるモーメントが最大になるところに設置するのが効率的であるが、x方向のひずみ検出に関しては、設置場所に拘らない。
【0036】
図4は、対物レンズ109とこれに設置した試料微動機構201を、説明のため断面図としたものである。試料200をy方向に位置決めするときには、微動ねじ217を操作し、摺動筒205を球形支点213を中心として、てこ運動させる。これにより、摺動筒205は変形し、変形量に比例したひずみが発生する。摺動筒205がy方向への移動終了後、このひずみを球形支点213と摺動筒205の胴体面の境界付近に設置したひずみ検出手段305として金属抵抗ひずみセンサで抵抗値として抵抗計307で検出・表示する。
【0037】
金属抵抗ひずみセンサは、摺動筒205の胴体面にエポキシ系、フェノールエポキシ、シアノアクリレート系等の接着剤で接着して設置する。例えば、金属抵抗ひずみセンサにひずみが掛かっていないときの抵抗値が120Ωで、摺動筒205がy方向への移動終了後にこの抵抗値が120.001Ωに変化したとき、摺動筒205はひずみ検出手段305付近でその長手方向10mm当たり52nmの変形に相当するひずみが発生していることを示している。外部からの振動等により球形支点213と球面座215の摺動面で発生している摩擦力が小さくなって変形が10%小さくなると、試料200はy方向へ5nmドリフトすることになる。
【0038】
そこで、検出した抵抗値を、金属抵抗ひずみセンサにひずみが掛かっていないときの抵抗値120Ωになるよう、微動ねじ217を操作し、摺動筒205の変形を小さくする。この操作では、摺動筒205の変形が小さくなるだけで、試料200がy方向に移動することはない。微動ねじ217を操作して、抵抗計307が表示する抵抗値が120.0008Ωになるようにすると、ひずみ検出手段305付近でその長手方向10mm当たり42nmの変形に相当するひずみとなり、外部からの振動等によって試料ドリフトが発生することはない。
【0039】
従来の変形を距離の変化として検出する方法では、基準となる距離を必要とするが、ひずみを検出する本方法では、測定精度に影響される基準となる距離を必要としないという特徴がある。そのため、変形を高い精度で検出することができ試料ドリフトを正確に小さくすることが可能である。さらに、基準となる距離を不要とすることで、小さくすることが可能で、対物レンズが発生する磁場を横切るように設置するサイドエントリー型と呼ばれる試料微動機構では、遮る磁場の面積を小さくして拡大倍率に空間分布が小さくなるよう小さくした試料微動機構へ容易に設置できるという効果がある。
<ホイートストンブリッジ回路>
図5は、抵抗計307に替えて、ひずみ検出手段305の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値と同じ値の抵抗309を3つとを組み合わせてホイートストンブリッジ回路311を構成し摺動筒205の変形によるひずみの検出と、検出値の表示方法を示したものである。ひずみ検出手段305は、ホイートストンブリッジ回路311に接続し、また、直流電源313をホイートストンブリッジ回路311に接続する。
【0040】
ホイートストンブリッジ回路311の出力は、信号増幅アンプ315を介して信号表示機317にその値が表示される。摺動筒205が変形しない時は、ひずみ検出手段305の金属抵抗ひずみセンサを含むホイートストンブリッジ回路311を構成する抵抗の値が全て同じとなり、信号表示機317はゼロを示す。
【0041】
ホイートストンブリッジ回路を構成することによって、ホイートストンブリッジ回路に電圧を印加する基準電圧装置やホイートストンブリッジ回路からの出力信号を増幅する差動アンプの不安定に関わらず、ひずみが無ければ差動アンプからの出力がゼロになるという特徴がある。
【0042】
摺動筒205が変形する時は、ひずみ検出手段305の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値がホイートストンブリッジ回路311を構成する他の抵抗の値と異なり、信号表示機317は変形に応じた偏差を示す。そこで、信号表示機317が示す偏差をゼロにするように、微動ねじ217(
図4参照)を操作する。これにより、摺動筒205の変形は小さくなり、外部からの振動等による試料ドリフトの発生を抑えることができる。
【0043】
従って、ホイートストンブリッジ回路311を使ってひずみ検出手段305の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値を検出すると、ひずみの有無を敏感に検出することができ、試料ドリフトを最小することが可能になる。
【0044】
図6は、摺動筒205の変形によるひずみの検出と、検出値の表示方法を示したものである。
【0045】
試料200をy方向正向きに位置決めするときに生じる摺動筒205の変形によるひずみは、伸び方向の変形を検出するひずみ検出手段305の金属抵抗ひずみセンサと、縮む方向の変形を検出するひずみ検出手段303の金属抵抗ひずみセンサと、これらと同じ値の2つの抵抗309とを組み合わせて構成したホイートストンブリッジ回路311を用いる。
【0046】
本方法では、金属抵抗ひずみセンサを2か所で用いる。従って、
図5で説明した検出方法に比べてホイートストンブリッジ回路311の出力が2倍になるので、ひずみの有無をより敏感に検出することができ、試料ドリフトを最小することが可能になる。
【0047】
図7は、試料200をx方向正向きに位置決めするときに、試料ホルダ203の変形を検出し、これを小さくして、試料ドリフトを小さくする方法を示したものである。説明の都合、内部に試料ホルダ203を保持する摺動筒205は、表示していない。
【0048】
試料ホルダ203は、微動ねじ209とばね211でx方向に位置決めされるが、このとき、摺動筒205との間にあって筐体123内の真空を維持するためのOリング207が変形しながら摺動する。
【0049】
Oリング207の変形による反力は試料ホルダ203に掛かるため、試料ホルダ203は変形する。Oリング207の変形は、外部からの振動等により徐々に小さくなるためこれの反力も小さくなり、このため試料ホルダ203の変形が小さくなり、x方向に試料ドリフトが発生する。試料ホルダ203の変形は、これに力を掛けるばね211とこれの反力を発生させるOリングのうち一番ばね211に近いOリング353の間で最大になる。
【0050】
そこで、この位置に、ひずみ検出手段351を設置し、試料ホルダ203の変形を検出することにした。
【0051】
ひずみ検出手段351の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値と同じ値の抵抗309を3つとを組み合わせてホイートストンブリッジ回路311を構成している。ひずみ検出手段351は、ホイートストンブリッジ回路311に接続し、また、直流電源313をホイートストンブリッジ回路311に接続する。ホイートストンブリッジ回路311の出力は、信号増幅アンプ315を介して信号表示機317でその値を表示する。ひずみ検出手段351の金属抵抗ひずみセンサを含むホイートストンブリッジ回路311を構成する抵抗の値が全て同じとなる試料ホルダ203が変形しないときは、信号表示機317はゼロを示す。試料ホルダ203が変形してひずみ検出手段351の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値がホイートストンブリッジ回路311を構成する他の抵抗の値と異なると、信号表示機317は変形に応じた偏差を示す。そこで、信号表示機317が示す偏差をゼロにするよう、微動ねじ209を操作する。これにより、試料ホルダ203の変形は小さくなり、外部からの振動等による試料ドリフトの発生を抑えることができる。ホイートストンブリッジ回路311を使ってひずみ検出手段351の金属抵抗ひずみセンサの抵抗値を検出すると、ひずみの有無を敏感に検出することができ、試料ドリフトを最小することが可能になる。
【0052】
試料微動機構201の変形によって発生するひずみは、1マイクロストレインよりも小さいので、金属抵抗ひずみセンサよりも感度が高い半導体抵抗ひずみセンサを使い、微小なひずみを検出し試料微動機構201の変形を小さくして試料ドリフトを抑えることができる。
<半導体抵抗ひずみセンサ>
図8は、ひずみを検出するための半導体抵抗ひずみセンサの例を示す。前出ひずみ検出手段303、または、305、または、351を半導体抵抗ひずみセンサに置き換える。1つの単結晶シリコン基板上に、ひずみを検出する抵抗ひずみセンサを2つと、これと同じ抵抗値となる抵抗を2つ用いて、ホイートストンブリッジ回路を形成し半導体抵抗ひずみセンサにしたものである。
【0053】
1つの単結晶シリコン基板上に全てのひずみ検出手段と抵抗でホイートストンブリッジ回路を構成するので、周囲温度の変化は回路に一様な影響を及ぼすので、ひずみ検出値が周囲温度よって変化することが小さいという特徴がある。
【0054】
抵抗の変化率と伸縮の変化率は、(1)式のように表される。
ΔR/R=(1+2σ)ΔL/L・・・(1)
(ここで、R:抵抗値、ΔR:抵抗値変化、L:ひずみ検出手段の長さ、ΔL:ひずみ検出手段の長さの変化、σ:材料のポアソン比)
金属材料の場合、σはおよそ0.3であるので、抵抗の変化率は伸縮の変化率の1.6倍となる。
【0055】
一方、半導体材料の伸縮で変化する抵抗値は、(2)式のように表される。
【0056】
ΔR/R=(πE+1+2σ)ΔL/L・・・(2)
(ここで、π:材料のピエゾ抵抗係数、E:材料の弾性係数)
半導体材料がシリコン半導体で、この結晶方位(100)面にp型不純物を拡散させて伝導体を形成すると、ピエゾ抵抗係数は72×10
-11Pa
-1であり、シリコンの弾性係数が185×10
9Paなので、抵抗の変化率は伸縮の変化率の133倍になる。
【0057】
従って、金属材料の伸縮で変化する抵抗値を検出するひずみ検出手段より感度が高くなる。
【0058】
なお、図中( )内に3つの数字を表記したものはミラー指数を表し、< >内に3つの数字を表記したものは、方位をベクトルで表したもので、一桁目がx方向の成分、二桁目がy方向の成分、三桁目がz方向の成分を表し、負の方向成分は数字の上に横バーを引いて表している。
【0059】
図8において、単結晶シリコン基板401は、ミラー指数で(001)で表される結晶面を持つ。その基板401上に長手方向が<110>方向となる矩形をパターニングし、その矩形に選択的にp型の不純物を拡散させて抵抗ひずみセンサとした403と405を形成した。また、その基板401上に長手方向が<100>となるV字型領域をパターニングし、その領域に選択的にp型の不純物を拡散させてV字型抵抗とした407と409を形成した。抵抗ひずみセンサ403、405と、V字型抵抗407、409とでホイートストンブリッジ回路を形成して半導体抵抗ひずみセンサとしている。
【0060】
この方法では、ひずみ検出手段をシリコン基板中にp型の不純物層を拡散させた領域を<110>方向に長い形状とすると、この長さを長くすることで感度をより高くすることができるという効果があり、
抵抗をシリコン基板中にp型の不純物層を拡散させた領域でV字形状とし、V字を形成する直線部分の長手方向が<100>方向となるように形成することによって、試料微動機構にかかる気圧変化によるひずみ検出誤差は発生せず、試料微動機構の変形と方向が直交する変形による検出誤差を抑えることができるという効果があり、
抵抗ひずみ検出手段と抵抗を同じp型の不純物層で構成することにより、抵抗値と抵抗値の温度依存性をほぼ同一にできるので、試料微動機構の温度が変化によるひずみ検出誤差は発生しないという効果がある。
【0061】
一つのシリコン基板401上にホイートストンブリッジ回路411が形成されているので、端子413と417に直流電源を接続すれば、抵抗ひずみセンサ403と405の抵抗が試料微動機構201の変形に対応し変化するため、端子415と419に試料微動機構201の変形に対応した電圧が出力される。この出力を信号増幅アンプ315(
図6、7参照)を介して信号表示機317(
図6、7参照)にその値が表示される。
そこで、信号表示機317が示す偏差をゼロにするよう、微動ねじ209または217(
図4参照)を操作する。これにより、試料微動機構201の変形は小さくなり、外部からの振動等による試料ドリフトの発生を抑えることができる。
【0062】
図9は、ひずみを検出するための半導体抵抗ひずみセンサの別の例を示す。単結晶シリコン基板401上にひずみを検出する抵抗ひずみセンサ421,423を2つと、これと同じ抵抗値となる2つの抵抗425,427とでホイートストンブリッジ回路を形成し半導体抵抗ひずみセンサにした。
【0063】
抵抗ひずみセンサ421、423は、ミラー指数で(001)で表される結晶面上に、<100>方向に長手となる矩形をパターニングし、その矩形に選択的にn型の不純物を拡散させて形成した。また、抵抗425、427は、<110>方向に長手となる矩形をパターニングし、その矩形に選択的にn型の不純物を拡散させて形成した。抵抗ひずみセンサ421、423と、抵抗425、427とでホイートストンブリッジ回路を形成して半導体抵抗ひずみセンサとしている。
【0064】
これも一つのシリコン基板401上にホイートストンブリッジ回路411が形成されているので、端子413と417に直流電源を接続すれば、抵抗ひずみセンサ423と425の抵抗が試料微動機構201の変形に対応し変化するため、端子415と419に試料微動機構201の変形に対応した電圧が出力される。この出力を信号増幅アンプ315(
図6、7参照)を介して信号表示機317(
図6、7参照)にその値が表示される。そこで、信号表示機317が示す偏差をゼロにするように、微動ねじ209または217(
図4参照)を操作する。これにより、試料微動機構201の変形は小さくなり、外部からの振動等による試料ドリフトの発生を抑えることができる。
【0065】
図10は、ひずみを検出するための半導体抵抗ひずみセンサのさらに別の例を示す。
単結晶シリコン基板401上にひずみを検出する抵抗ひずみセンサ429、431を2つと、これと同じ抵抗値となる2つの抵抗433、435とでホイートストンブリッジ回路を形成した。
【0066】
抵抗ひずみセンサ429、431は、ミラー指数で(001)で表される結晶面上に、<110>方向に長手となる矩形をパターニングし、その矩形に選択的にp型の不純物を拡散させて形成した。また、抵抗433、435は、<110>方向に長手となる矩形をパターニングし、その矩形に選択的にn型の不純物を拡散させて形成した。抵抗ひずみセンサ429、431と、抵抗433、435とでホイートストンブリッジ回路を形成して半導体抵抗ひずみセンサとした。
【0067】
この方法は、p型不純物拡散層がひずみ測定方向の正のひずみ変化に対して正の値の抵抗変化を示し、一方、n型不純物拡散層がひずみ測定方向の正のひずみ変化に対して負の値の抵抗変化を示すので感度が高いという特徴がある。
【0068】
これも一つのシリコン基板401上にホイートストンブリッジ回路411が形成されているので、端子413と417に直流電源を接続すれば、抵抗ひずみセンサ423と425の抵抗が試料微動機構201の変形に対応し変化するため、端子415と419に試料微動機構201の変形に対応した電圧が出力される。
【0069】
この出力を信号増幅アンプ315(
図6、7参照)を介して信号表示機317(
図6、7参照)にその値が表示される。そこで、信号表示機317が示す偏差をゼロにするよう、微動ねじ209または217(
図4参照)を操作する。これにより、試料微動機構201の変形は小さくなり、外部からの振動等による試料ドリフトの発生を抑えることができる。
<試料ドリフト調整手順>
図11は、
図1から10で説明した試料ドリフトを抑えるために試料微動機構201のひずみを検出して、この値に応じて試料微動機構201を微動調整して試料微動機構201の変形を小さくする方法の手順を説明するフローチャートである。
(1)試料に電子ビームを照射する位置を選択するために、「試料微動機構を動作」させる(ステップ1101)。
(2)位置選択終了後、「試料微動機構を停止」させる(ステップ1102)。
(3)続いて、電子ビームが試料や筐体の一部に当たって発生する放射線が、ひずみ検出手段にノイズを発生させるのを避けるために、電子ビームを途中で遮るようにアパーチャ105を閉じて「電子ビーム遮蔽」する(ステップ1103)。
(4)続いて、試料微動機構201の回転筒221を回転ハンドル223を操作して回し(「回転筒221微小回転移動」)、摺動筒205の変形が最小となるひずみが最小となる回転位置にする(ステップ1104)。これにより、回転筒221を回すことによって発生する構成する摺動筒205のねじれひずみをなくし、摺動筒205の変形によるひずみ検出誤差を小さくする。
(5)摺動筒205の変形ひずみが最小か判定する(ステップ1105)。yesの場合は、ステップ1106へ進み、Noの場合は、ステップ1104へ戻る。
(6)続いて、試料微動機構201の摺動筒205をyまたはz方向に微小移動し、摺動筒205の変形が最小となるひずみが最小となる位置にする(ステップ1106)。
(7)摺動筒205の変形ひずみが最小か判定する(ステップ1107)。yesの場合は、ステップ1109へ進み、Noの場合は、ステップ1106へ戻る。
(8)続いて、試料微動機構201の試料ホルダ203をx方向に微小移動し、試料ホルダ203の変形が最小となるひずみが最小となる位置にする(ステップ1108)。
(9)摺動筒205の変形ひずみが最小か判定する(ステップ1109)。yesの場合は、ステップ1110へ進み、Noの場合は、ステップ1108へ戻る。
(10)最後に、アパーチャ105を開いて「電子ビーム遮蔽解除」する(ステップ1110)。
【0070】
以上手順によれば、微動機構全体が回転する方向についてひずみを検出するようにし、この検出値に応じて試料微動機構を回転方向に微動移動させた後、微動機構全体がたわみ変形する方向についてひずみを検出した値に応じて試料微動機構をたわみ方向に微動移動させる。試料微動機構201を構成する試料を位置決めする構造について、外側に配置される大きな部材の変形を小さくしてからその内側に配置される部材の変形を小さくするので、調整を繰り返すことなく試料微動機構201の変形を小さくでき、試料ドリフトの発生を抑えることができる。
【0071】
また、回転方向のひずみを検出した値を、例えば10倍にし、たわみ方向のひずみを検出した値をそのままにし、それぞれの絶対値を計算してすべてを加算したものを表示し、試料微動機構を表示される値に対応して回転方向とたわみ方向を同時に自動微動移動させることにより、試料微動機構のひずみについて回転方向をたわみ方向よりも優先してひずみを小さくできるという効果があり、試料微動機構の変形を小さくすることができ、これにより、試料ドリフトを正確に小さくすることが可能である。
<実施例2>
図12から
図15を使って、本発明の別の構成と機能と効果を説明する。
本実施例では、自動操作により試料ドリフトを抑制する例を示す。実施例1では、試料ドリフトの調整に微動ねじを用いたが、本実施例では微動ねじの代わりに微動モータを用いている。その微動モータは、制御部(図示せず)からの信号によりその動作が制御される。
【0073】
図12は、試料微動機構500について、説明のため断面を表示したものである。微動モータ501は、試料ホルダ203をx方向に移動させる。微動モータ503は、摺動筒205をy方向に移動させる。微動モータ505は、摺動筒205をz方向に移動させる。微動モータ507は、回転筒221に設置したギア509をθ方向に回転させる。試料ホルダ203には、x方向の変形についてそのひずみを検出するひずみ検出手段351(
図7参照)を備え、摺動筒205には、y方向の変形についてそのひずみを検出するひずみ検出手段303または305(
図6参照)を備え、また、摺動筒205には、z方向の変形についてそのひずみを検出するひずみ検出手段511または513を備える。
【0074】
試料微動機構500は、まず、最後に回転筒221が回転した向きとは逆に回転するよう微動モータ507を動かしながら摺動筒205の変形についてy方向とz方向のひずみ値の変化を記録する。例えば、
図13に示すような結果を得る。なお、
図13は、縦軸にひずみ値(任意スケール)を示し、横軸に微動モータ507の制御量(θ方向の回転角)を示し、左端を回転角ゼロ度とし、右方に向けて回転角が大きくなるように図示している。
【0075】
続いて、最後に摺動筒205がy方向に移動した向きとは逆に移動するように微動モータ503を動かしながら摺動筒205の変形についてy方向のひずみ値の変化を記録する。例えば、
図14の(a)に示すような結果を得る。なお、
図14は、縦軸にひずみ値(任意スケール)を示し、横軸に微動モータ503、または505の制御量(yまたはz方向移動量)を示し、左端を移動量ゼロとし、右方に向けて移動量が大きくなるように図示している。
【0076】
続いて、最後に摺動筒205がz方向に移動した向きとは逆に移動するよう微動モータ505を動かしながら摺動筒205の変形についてz方向のひずみ値の変化を記録する。例えば、
図14の(b)に示すような結果を得る。
【0077】
続いて、最後に試料ホルダ203がx方向に移動した向きとは逆に移動するよう微動モータ501を動かしながら試料ホルダ203の変形についてx方向のひずみ値の変化を記録する。例えば、
図15に示すような結果を得る。なお、
図15は、縦軸にひずみ値(任意スケール)を示し、横軸に微動モータ501の制御量(x方向移動量)を示し、左端を移動量ゼロとし、右方に向けて移動量が大きくなるように図示している。
【0078】
続いて、
図13で示した結果から、(z方向ひずみ)と(y方向ひずみ)の二乗平均を計算し、最小二乗法によりこの値が最小となる微動モータ507の制御量の位置に、回転筒221を動かすことなく微動モータ507を駆動する。
【0079】
続いて、
図14で示した結果から、(a)と(b)それぞれの絶対値が最小となる微動モータ503と505の制御量の位置に摺動筒205を動かすことなく微動モータ503と505を駆動する。
【0080】
続いて、
図15で示した結果から、試料ホルダ203のひずみの絶対値が最小となる微動モータ501の制御量の位置に、試料ホルダ203を動かすことなく微動モータ501を駆動する。
【0081】
上述したドリフト調整手順は、
図11で示したフローチャートをプログラム化して制御部内の記憶部に保存しておく。また、上記自動化されたドリフト調整手順において、初期データ及び測定データは、記憶部(図示せず)に保存する。
【0082】
この方式によれば、試料微動機構500の変形を最小にするための操作が、手動による試行錯誤ではなく、自動で実施できるので試料ドリフトを抑える操作の手間はなく、試料微動機構500による試料位置決め終了後、効率よく試料の観測をすることができる。
【0083】
なお、試料微動機構500の変形を最小にする前述の手順を、2回繰り返すことにより、回転筒221と摺動筒205、試料ホルダ203相互間の試料微動機構500を変形させる力の受け渡しを小さくすることができ試料微動機構500の変形をさらに小さくすることができる。