(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240545
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ペンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 7/22 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B25B7/22
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-70352(P2014-70352)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-188991(P2015-188991A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591083772
【氏名又は名称】株式会社永木精機
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 政則
(72)【発明者】
【氏名】石井 起生
【審査官】
宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−031321(JP,U)
【文献】
実開平02−043172(JP,U)
【文献】
実開昭55−175895(JP,U)
【文献】
実開昭52−106699(JP,U)
【文献】
欧州特許出願公開第0196495(EP,A1)
【文献】
米国特許第5604947(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 7/00− 7/22
B26B 13/00−13/28
B26B 17/00−17/02
B26B 27/00
H02G 1/12
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挟持半体が相対回動可能に回動軸によってX字形に結合され、前記回動軸を支点にして後端側の柄部の開閉によって先端側の頭部を操作するペンチであって、
前記頭部の先端側に設けられ、閉状態において離間状態となる一対の挟持部と、
前記頭部における前記回動軸寄りの位置に、前記回動軸の延びる厚み方向に対して一方側へ偏って設けられた一対の刃部と、
前記挟持部と前記刃部との間に設けられ、閉状態において突き合うように前記刃部以上に対向側へ突出して形成されており、かつ、前記厚み方向において前記刃部と同じ側へ偏って形成された一対の凸部と
を備え、前記挟持部は、閉状態において先端から前記凸部までの間で略均等に離間するように隙間が形成され、前記隙間の対向側には、前記回動軸と平行に延びる断面矩形の凸条が複数本形成されていることを特徴とするペンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆の剥ぎ取りや芯線の切断など、電線の加工を行うペンチに関し、特に、光ファイバー等の加工に用いられるスロット型ケーブル用のペンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被覆が施された電線を加工する際、被覆の切断、被覆の剥ぎ取り、芯線の切断等の作業が必要となる。また、光ファイバー等に用いられるマルチスロット型のケーブルの場合、端部の加工において、外装の切断、外装の剥ぎ取り、光ケーブル及びテンションメンバの切断に加えて、光ケーブルを収容するスロット部材の切断及び引き抜き等の作業が必要となる。このような作業には、切断と把持とを使い分けることができる手持ち工具のペンチが用いられることが多い。
【0003】
一般的なペンチの例を
図5に示す。
図5に示すようなペンチ100では、一対の挟持半体100aがX字形に枢着されており、柄部112の開閉動作によって頭部104の開閉を操作する構成となっている。また、
図5の構成のように、頭部104のうち回動軸102に近い位置に一対の対向刃からなる刃部110を設けると、梃子の作用により柄部112からの力が効率良く伝達されるので小さい力を大きく働かせることができる。そして、頭部104の先端側に一対の挟持部106を設けると、様々な角度で対象物を挟持することができるので、細かな作業を行うことができる。したがって、従来から、回動軸102に近い側に刃部110、先端側に挟持部106を設けた構成が多く採用されている。このようなペンチについては特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−276368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、作業対象が上述のようなスロット型の光ケーブル等の場合には、スロット部分の加工が難しい。
【0006】
ここで、マルチスロット型ケーブルの一例を
図6に示す。
図6は光ファイバー等に用いられるマルチタイプのスロット型ケーブル50であるが、説明の便宜のため、光ファイバーの図示は省略している。
図6に示すように、外皮53の内側にスロット部材51が設けられている。このスロット部材51の外周面には、螺旋状に5本のスロット51aが形成されている。これら5本のスロット51aに光ファイバー等が配置される。マルチスロット型ケーブル50の中心には、金属線のテンションメンバ52が設けられている。
【0007】
上記のようなスロット型ケーブル50では、5本のスロット51aが形成されているので、ペンチなどの工具により挟んだ場合、変形し易い形状となっている。このため、スロット部材51を輪切り加工した後、引き抜き作業を行う際、
図5に示したようなペンチ100を用いると、スロット部材51を潰してしまい、テンションメンバ52等の芯線に傷を生じさせる恐れがある。また、テンションメンバ52に傷を生じさせないように把持力を加減してスロット部材51を引き抜こうとする場合、把持力が弱すぎると上滑りなどを生じ易く、スロット部材51の表面が崩れ、引き抜き困難な状態にまで変形させてしまうこともある。
【0008】
このように、変形し易いスロット部材51に対して、微妙な力加減で作業を行わなければならない状況では、熟練を要する。
【0009】
そこで、本発明では、芯線を傷つけることなく容易にスロットを除去できるスロット型ケーブル用のペンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のペンチは、一対の挟持半体が相対回動可能に回動軸によってX字形に結合され、回動軸を支点にして後端側の柄部の開閉によって先端側の頭部を操作するペンチであって、頭部の先端側に設けられ、閉状態において離間状態となる一対の挟持部と、頭部における回動軸寄りの位置に、回動軸の延びる厚さ方向に対して一方側へ偏って設けられた一対の刃部と、挟持部と刃部との間に設けられ、閉状態において突き合うように刃部以上に対向側へ突出して形成されており、かつ、厚さ方向において刃部と同じ側へ偏って形成された一対の凸部とを備え
、前記挟持部は、閉状態において先端から前記凸部までの間で略均等に離間するように隙間が形成され、前記隙間の対向側には、前記回動軸と平行に延びる断面矩形の凸条が複数本形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
刃部よりも対向側へ突出した一対の凸部同士が、閉状態において突き合わされるので、開閉によって刃部同士が互いに過度の力を及ぼし合うことを防止し、刃部の損傷及び摩耗を防ぐことが可能となる。また、閉状態において、一対の挟持部の間に隙間が形成されるので、対象物を挟持した際の開度を小さく抑えられ、作業を容易にすることが可能である。さらに、厚さ方向において、凸部が偏って設けられているので、凸部の厚さ方向の側方に空間が形成される。これにより、一対の挟持部に挟持された対象物の先端を凸部及び刃部の側方に延ばして配置することができるので、作業姿勢のバリエーションが増し、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るスロット型ケーブル用のペンチの全体斜視図である。
【
図2】
図1のスロット型ケーブル用のペンチを側方から見た図であって、(a)は刃部の内側から見た図、(b)は刃部の外側から見た図である。
【
図3】
図2(b)のA−A線で切断した断面図である。
【
図4】
図1のペンチの使用状態を示し、スロット型ケーブルのスロット部材を引き抜く様子を示した頭部周辺の拡大図である。
【
図6】一般的なマルチスロット型ケーブルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のスロット型ケーブル用のペンチに係る実施の形態について図を用いて説明する。なお、作業対象となるケーブルについては、
図6のスロット型ケーブル50を参照するものとする。
【0014】
先ず、
図1にスロット型ケーブル用ペンチ(以降、単にペンチと呼ぶ。)の全体斜視図を示す。
図1のペンチ1は、一対の挟持半体1aがX字形に交差するように回動軸2によって軸支されている。この回動軸2を挟んで柄部12側(後端側)には後述する輪切部20が設けられている。
【0015】
回動軸2の頭部4側(先端側)には、一対の対向刃からなる刃部10が設けられている。そして、刃部10の先端側に隣接して一対の凸部8が設けられている。この凸部8の先端は略平坦な形状になっており、閉状態において互いの先端が突き合わされる。
【0016】
さらに、凸部8よりも先端側には、一対の挟持部6が設けられている。挟持部6の挟持
面には、回動軸2と平行な溝が複数形成されている。
【0017】
次に、
図2に、
図1のペンチ1の全閉状態の側面図を示す。
図2(a)には一対の刃部10の内側を見た側面図、(b)には刃部10の外側を見た側面図が示されている。
【0018】
図2に示すように、ペンチ1では全閉状態において、一対の挟持部6に隙間が形成されている。本実施の形態では、この隙間は、作業対象となるスロット型ケーブル50のテンションメンバ52の太さよりも大きくなるように形成されている。
【0019】
刃部10の設けられている領域において厚さ方向30(
図1を参照)に広がる内側の空間と、挟持部6との間は、凸部8の厚さ方向30に形成された圧力分散部8aの傾斜面により連続している。
【0020】
回動軸2よりも柄部12側には、輪切部20が設けられている。この輪切部20には、閉じた状態でテンションメンバ52よりも僅かに大きい貫通孔が形成される。これを用いて、テンションメンバ52に傷を付けることなくスロット部材51のみに輪切状の切り込みを形成することができる。
【0021】
凸部8の突出量は、刃部10と同程度となるように形成されている。これにより、開閉操作によって刃部10に過度の力が働くことを防止できるので、摩耗等から刃を保護することができる。
【0022】
なお、ここでは、凸部8と刃部10とは略同じ高さに突出した構成を例として示したが、刃部10の突出量を凸部8より抑えた値に設定しても良い。これにより、刃の摩耗は確実に防止される。
【0023】
上述のように、挟持部6の挟持面には複数の溝が形成されているが、これらを構成する平均的な面は略平面となるように形成されている。
【0024】
続いて、
図3に、
図2(b)のA−A線で切断した断面図を示す。
図3に示すように、刃部10が厚さ方向30において一方側(
図3では左側)に偏って配置されている。
【0025】
また、凸部8も、厚さ方向30において刃部10と同じ側に偏って配置されている。これにより、片側(
図3において紙面右側の領域)が空いた状態となる。
図3では、スロット型ケーブル50の外径を仮想線で示している。このように、片側が空いているので、スロット部材51(
図6参照)の部分を挟持部6で掴む際、深い位置まで咥え込むことができる。
【0026】
すなわち、スロット部材51の端部のみを摘むのではなく、引き抜かれるスロット部材51の広い範囲に対して安定して力を伝達できるよう、位置を自由に選択することができるので、必要最小限の力で効率良く挟持でき、滑りを生じさせることなくスムーズに抜き取ることが可能となる。このような使用状態を
図4に示す。この
図4には、スロット部材51に輪切状の切目を形成した後、スロット部材51を端部側へ抜き取る時の様子が示されている。
【0027】
図3に示したように、本実施の形態に係るペンチ1では、全閉状態であっても、挟持部6の全域に隙間が形成される。上述のように、この隙間は、略平行な挟持面で形成されるので、スロット部材51を略平坦な挟持面で均等に挟持することができる。
【0028】
また、挟持部6と刃部10との間の圧力分散部8aの傾斜角は、
図4中において一点鎖線で示されているように、挟持部6の挟持面に対して緩やかに連続しているので、局所的
にスロット部材51に大きな力が集中するのを緩和している。これにより、軟質のスロット部材51が途中で千切れてしまうことを防止できる。
【0029】
以上のように、本実施の形態に係るペンチ1を用いると、必要以上に大きな力で挟持しなくても安定してスロット部材51を挟持部6で挟持することができ、しかも、完全に閉じた状態であっても挟持面同士の間にテンションメンバ52よりも広い隙間が形成されるので、テンションメンバ52に傷を生じさせることもない。
【0030】
なお、上記の実施の形態では、一対の挟持半体1aを全閉状態にした際、一対の挟持部6の間には、略平行な挟持面で隙間が形成される構成を例として示した。しかし、この隙間は平行でなくても構わない。例えば、挟持されるスロット部材に対して局所的に力が働かないように、緩やかな凸面で形成されていても構わない。
【0031】
また、上記の実施の形態では、一対の挟持部6で形成される隙間の大きさは、挟持対象となるテンションメンバ52の太さよりも僅かに大きい構成を例として示した。しかし、挟持部6同士の間に僅かでも隙間が形成されれば、テンションメンバ52の外径よりも狭い隙間を形成する構成であっても構わない。これにより、僅かでもテンションメンバ52に加わる力を低減する効果を得ることが可能となる。
【0032】
また、上記の実施の形態では、凸部8はペンチ1の厚さ方向30に対して略半分程度の厚さとなるように一方向へ偏った構成を例として示した。しかし、片側を空けるように刃部10と同じ側へ偏った構成であれば、半分の厚さでなくても構わない。
【0033】
また、上記の実施の形態では、回動軸2に対して柄部12側に輪切部20を設けた構成を例として示したが、この輪切部20は設けられていなくても構わない。
【0034】
また、上記の実施の形態では、刃部10の設けられている領域の側方の空間と、挟持部6との間を繋ぐ圧力分散部8aについて、緩やかな傾斜面が形成された構成を例として示した。しかし、スロット部材51に対して局所的に力が集中しない形状であれば、例えば、緩やかに湾曲した面で構成されていても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のペンチは、全閉した状態であっても、一対の挟持部同士の間に隙間が形成されるので、芯線に過度の力を加えることなく安定してケーブルを挟持することができる。このため、特に、挟持する力が大きすぎると芯線であるテンションメンバを傷つける恐れがあり、かつ、挟持する力が小さすぎると軟質構造であるスロット部材に適切にグリップさせることが難しいマルチスロット型ケーブルに対して有用である。
【符号の説明】
【0036】
1 ペンチ
1a 挟持半体
2 回動軸
4 頭部
6 挟持部
8 凸部
8a 圧力分散部
10 刃部
12 柄部
20 輪切部
30 厚さ方向
50 スロット型ケーブル
51 スロット部材
51a スロット
52 テンションメンバ
53 外皮