(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、スパークプラグ100の部分断面図を示す。スパークプラグ100は、過給付き直噴エンジンに用いられる。以下、
図1に示された軸線OLに沿った上側をスパークプラグ100の先端側とし、下側を後端側として説明する。スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備える。
【0015】
中心電極20は、絶縁体10の先端から突出する棒状の電極であり、絶縁体10の内部を通じて、絶縁体10の後端に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。中心電極20の外周は、絶縁体10によって保持され、絶縁体10の外周は、端子金具40から離れた位置で主体金具50によって保持されている。
【0016】
絶縁体10は、中心電極20および端子金具40を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材であり、アルミナを始めとするセラミック材料を焼成して形成されている。絶縁体10の軸方向中央には外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも後端側には、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも先端側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17の更に先には脚長部13が形成されている。脚長部13は、先端側胴部17よりも小さい外径であって中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる部位である。
【0017】
主体金具50は、絶縁体10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する円筒状の金具であり、本実施形態では、低炭素鋼から成る。主体金具50は、工具係合部51と、取付ねじ部52と、円筒部53と、シール部54とを備える。主体金具50の工具係合部51は、スパークプラグ100をシリンダヘッド(図示省略)に取り付ける工具が嵌合する。主体金具50の取付ねじ部52は、シリンダヘッドの取付ねじ孔に螺合するねじ山を有する雄ねじである。本実施形態においては、取付ねじ部52の呼び径として、M10,M12,14の何れかが採用された(
図2参照)。これら呼び径のMに続く数字は、ねじ山の外径の呼び寸法を、ミリメートルで表した数値と捉えてもよい。
【0018】
主体金具50のシール部54は、取付ねじ部52の根元に鍔状に形成される。スパークプラグ100をエンジンに取り付けた際、シール部54とシリンダヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が挟み込まれる。
【0019】
中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる銅芯25を埋設した棒状の部材である。本実施形態では、電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金から成る。銅芯25は、銅を主成分とする合金または銅から成る。中心電極20は、電極母材21の先端が絶縁体10の軸孔12から突出した状態で絶縁体10の軸孔12に挿入され、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子金具40に電気的に接続される。
【0020】
接地電極30は、その一端側の端部である基端部37が主体金具50の先端面57に接合され、他端側の端部である先端部38が中心電極20の先端部と対向するように屈曲している。本実施形態では、接地電極30は2層構造によって形成されている。接地電極30の基端部37と、主体金具50の先端面57との接合は、抵抗溶接によって実現される。接地電極30の先端部38と中心電極20の先端部との間には、火花ギャップが形成される。
【0021】
図2は、絶縁体10についての試験結果をテーブルによって示す。
図2における「エンジン」の欄に示されたPはポート噴射、Dは直噴、NAは自然吸気、Sは過給機付きを意味する。スパークプラグ100は、先述したように過給付き直噴エンジンに用いられるものであるが、比較のために、ポート噴射や自然吸気タイプのエンジンでも試験を実施した。試験は、WOT(Wide Open Throttle:スロットル全開)、且つ、6000rpmに相当する条件で50時間、実施した。各試験条件について5本ずつのスパークプラグ100を試験した。
【0022】
評価は、耐電圧(絶縁性)と、クラックの発生の有無とについて実施した。耐電圧は、リーク電流が基準値以下のものをOK、基準値を超えたものを不合格とした。クラックの有無は、目視あるいは顕微鏡画像によって評価した。クラックについては、OK(クラック無し)となったサンプル数を数えた。
【0023】
図2に示された「突き出しT(mm)」については、
図3を用いて説明する。
図2に示された「中心電極径φC(mm)」、「絶縁体厚み(φJ−φC)/2(mm)」、「銅芯径φD(mm)」については、
図4を用いて後述する。
【0024】
図3は、スパークプラグ100の先端部付近の拡大図である。
図3に示すように、突き出しTとは、先端面57と絶縁体10の先端との距離であって、軸線OL方向の距離である。なお、
図3に示すように、接地電極30は、中心電極20と対向する部位に電極チップ39を備える。
図3に示すように、中心電極20は、自身の一部が、絶縁体10の端面から突き出す。
【0025】
図4は、
図3におけるD3−D3断面図を示す。この断面は、
図3に示すように、先端面57に沿って、中心電極20及びその内部を切断した断面である。この断面は、先端面57よりも先端側または後端側にずれてもよい。但し、本実施形態では、
図3に示された絶縁体10先端のR部に掛からない断面であることを条件とした。
【0026】
「中心電極径φC(mm)」は、
図4に示されたφCを意味する。つまり、所定位置における中心電極20の外径を意味する。この所定位置とは、
図4から明らかなように、軸線OL方向についての位置であって、主体金具50の先端面57の位置のことである。以下の所定位置も全て同じ位置を意味する。「絶縁体厚み(φJ−φC)/2(mm)」は、所定位置における絶縁体10の肉厚を意味する。つまり、所定位置における絶縁体10の半径から、所定位置における中心電極20の半径を引いた値を意味する。ここでいう半径は、外径の半分のことである。
図4に示すように、所定位置における絶縁体10の外径をφJ、所定位置における中心電極20の外径をφCとすると、所定位置における絶縁体10の肉厚は(φJ−φC)/2と表される。以下、この肉厚を「絶縁体厚みA」とも呼ぶ。「銅芯径φD(mm)」は、所定位置における銅芯25の直径、つまり
図4に示されたφDを意味する。
【0027】
図2に示すように、試験NO.1-7,16-18は、取付ねじ部52の呼び径(以下、単に「呼び径」という)ごとに、銅芯径φDの値として1種類を採用した。試験NO.9-15は、呼び径ごとに、銅芯径φDの値として5種類を採用した。まず、試験NO.1-7,16-18について説明する。
【0028】
図2には、試験NO.1-7,16-18全てについて、クラックの評価は「5/5OK」と示されている。「5/5OK」とは、5つの試験サンプルのうち、5つともがクラック無しであったことを意味する。この評価結果は、複数の条件における結果をまとめて示したものである。このようにまとめて示したのは、条件が異なっても、結果が同一になったからである。この複数の条件とは、呼び径ごとに設定された中心電極径φCと、呼び径ごとに設定された銅芯径φDとの数値である。以下、さらに詳しく説明する。
【0029】
図2に示されるように、中心電極径φCは、M10,M12,M14の場合それぞれについて、2種類の値が採用された。つまり、呼び径と中心電極径φCとのペアは、6通り採用された。但し、これら6つのペアの何れを採用しても、試験結果に変化は無かった。
【0030】
一方、銅芯径φDは、試験NO.1-7,16-18の場合、先述したようにM10,M12,M14の場合それぞれについて、1種類の値が採用された。つまり、呼び径と銅芯径φDとのペアとして、3種類が採用された。但し、これら3つのペアの何れを採用しても、試験結果に変化は無かった。
【0031】
上記のような試験結果とパラメータとの関係に鑑み、先述した通り、
図2には、試験結果がまとめて示されている。例えば、試験NO.1の「耐電圧OK」及び「クラック5/5OK」は、次のパラメータの組み合わせの試験結果をまとめて示している。
呼び径がM10、中心電極径φCが1.6mm、銅芯径φDが1.3mm。
呼び径がM10、中心電極径φCが1.9mm、銅芯径φDが1.3mm。
呼び径がM12、中心電極径φCが1.9mm、銅芯径φDが1.4mm。
呼び径がM12、中心電極径φCが2.2mm、銅芯径φDが1.4mm。
呼び径がM14、中心電極径φCが2.3mm、銅芯径φDが1.9mm。
呼び径がM14、中心電極径φCが2.6mm、銅芯径φDが1.9mm。
【0032】
一方、試験NO.8-15の場合、
図2に示すように、呼び径ごとに、銅芯径φDとして5種類の値が採用された。呼び径ごとに、これら5種類の値を昇順にソートすると、ソート順位が同じ銅芯径φDにおける試験結果は、同一になった。そこで、
図2は、ソート順位が同じ銅芯径φDの試験結果をまとめて示している。
【0033】
試験NO.8-15の場合、耐電圧の試験結果については、呼び径、中心電極径φC及び銅芯径φDが何れの値でもOKだったので、
図2は、試験NO.8-15についてこれらの試験結果をまとめて示している。
【0034】
先述したように、試験NO.1-7,16-18のクラックの結果は、全て5/5OKだった。よって、試験NO.1-7,16-18は、クラックに関しては厳しくない条件であるといえる。例えば、試験NO.1-7のように絶縁体厚みAが1mm未満(例えば0.75mm)であること、或いは、試験NO.1-3,16-18のようにポート噴射と自然吸気との少なくとも何れかであることを満たせば、クラックは発生しにくい。特に、試験NO.16-18のように、絶縁体厚みAが1mm且つ突き出しTが3.0mmというクラックに関して厳しい条件であっても、ポート噴射と自然吸気との少なくとも何れかであれば、クラックは発生しにくい。
【0035】
これに対し、試験NO.8-15のように過給付き直噴エンジン用、且つ絶縁体厚みAが1mm以上であると、先述した試験NO.1-7,16-18で全て5/5OKだった銅芯径φDであっても、クラックの結果は全て1/5OKだった。「1/5OK」は5つの試験サンプルのうち1つがクラック無しで、4つがクラック有りだったことを意味する。この結果には、試験NO.8,12のように、突き出しTが2.0mmというクラックには厳しくない条件も含まれる。このことから、過給付き直噴エンジン用、且つ絶縁体厚みAが1mm以上であることは、クラックには厳しい条件であるといえる。
【0036】
その一方で耐電圧に関しては、
図2に示されるように、絶縁体厚みAは1mm以上が好ましい。絶縁体厚みAが0.75mmである試験NO.2,5,6,7は、耐電圧が不合格だったからである。なお、試験NO.1,3,4は、絶縁体厚みAが0.75mmであっても、耐電圧がOKだった。試験NO.1,3の場合にOKだったのは、エンジンが自然吸気だったことによって、印加される電圧が低かったからだと考えられる。試験NO.4の場合にOKだったのは、突き出しTが2.0mmという小さい値だったからだと考えられる。
【0037】
これらの結果から、1mm以上の絶縁体厚みAによって耐電圧を確保しつつ、過給付き直噴エンジン用であってもクラックが抑制されるように、銅芯径φDと突き出しTとの値を選択することが好ましいといえる。以下、詳細に説明する。
【0038】
試験NO.8,9,12,13のクラックの結果から、呼び径がM10の場合は、銅芯径φDが1.35mm以上であることが好ましい。呼び径がM10の場合、銅芯径φDが1.3mmであるときは、クラックの結果が全て1/5OKであるのに対し、銅芯径φDが1.35mm以上であるときは3/5OKや5/5OKになる場合があるからである。「3/5OK」は5つの試験サンプルのうち3つがクラック無しで、2つがクラック有りだったことを意味する。
【0039】
同様な理由で、呼び径がM12の場合は銅芯径φDが1.45mm以上、呼び径がM14の場合は銅芯径φDが1.95mm以上であることが好ましい。
【0040】
試験NO.8-15のクラックの結果から、呼び径がM10の場合は、銅芯径φDが1.4mm以上であることが好ましい。呼び径がM10の場合、銅芯径φDが1.35mmであるときは、クラックの結果が1/5OK又は3/5OKであるのに対し、銅芯径φDが1.4mm以上であるときは、クラックの結果が3/5OK又は5/5OKであるからである。
【0041】
同様な理由で、呼び径がM12の場合は銅芯径φDが1.5mm以上、呼び径がM14の場合は銅芯径φDが2mm以上であることが好ましい。
【0042】
試験NO.8-15のクラックの結果から、呼び径がM10の場合は、銅芯径φDが1.45mm以上であることが好ましい。呼び径がM10の場合、銅芯径φDが1.4mmであるときは、クラックの結果が3/5OK又は5/5OKであるのに対し、銅芯径φDが1.45mm以上であるときは、クラックの結果が全て5/5OKであるからである。
【0043】
同様な理由で、呼び径がM12の場合は銅芯径φDが1.7mm以上、呼び径がM14の場合は銅芯径φDが2.1mm以上であることが好ましい。
【0044】
試験NO.8,9,12,13のクラックの結果から、突き出しTは、2.5mm未満が好ましい。突き出しTが2.5mm未満、例えば2.3mm以下であれば、呼び径がM10且つ銅芯径φDが1.35mmであっても、3/5OKになるからである。同様に、突き出しTが2.5mm未満であれば、呼び径がM12且つ銅芯径φDが1.45mmの場合、及び、呼び径がM14且つ銅芯径φDが1.95mmの場合、3/5OKになるので、突き出しTは2.5mm未満が好ましい。
【0045】
加えて、突き出しTが2.5mm未満、例えば2.3mm以下であれば、呼び径がM10且つ銅芯径φDが1.4mmであっても、5/5OKになる。同様に、突き出しTが2.5mm未満であれば、呼び径がM12且つ銅芯径φDが1.5mmの場合、及び、呼び径がM14且つ銅芯径φDが2mmの場合であっても、5/5OKになる。よって、突き出しTは2.5mm未満が好ましい。
【0046】
試験NO.10,11,14,15のクラックの結果から、突き出しTが2.5mm以上である場合は、呼び径がM10であれば銅芯径φDが1.4mm以上であることが好ましい。突き出しTが2.5mm以上であっても、銅芯径φDが1.4mm以上であることによって、3/5OK又は5/5OKになるからである。
【0047】
同様な理由で、突き出しTが2.5mm以上である場合は、呼び径がM12であれば銅芯径φDが1.5mm以上、呼び径がM14の場合は銅芯径φDが2mm以上であることが好ましい。
【0048】
銅芯25の成形性を良好にするために、M10の場合は銅芯径φDが1.5mm以下、M12の場合は銅芯径φDが1.8mm以下、M14の場合は銅芯径φDの径が2.2mm以下であることが、好ましい。
【0049】
以下の数値範囲は、
図2に示すように、試験で確認されたものなので好ましい。
突き出しTが2.0mm以上。
突き出しTが3.0mm以下。
M10の場合に中心電極径φCが1.6mm以上。
M10の場合に中心電極径φCが1.9mm以下。
M12の場合に中心電極径φCが1.9mm以上。
M12の場合は中心電極径φCが2.2mm以下。
M14の場合に中心電極径φCが2.3mm以上。
M14の場合は中心電極径φCが2.6mm以下。
【0050】
以上に説明したように、本実施形態の好ましい数値範囲によれば、過給付き直噴タイプのエンジンに使用する場合でも、耐電圧を確保しつつ、絶縁体10にクラックが発生することを抑制できる。クラックの抑制は、試験結果から、銅芯径φDに影響されるといえる。これは、次の理由によると考えられる。
【0051】
一般に、変形が拘束された材料は、温度が変化すると、内部に熱応力が生じる。熱応力をσ、ヤング率をE、変化した温度をΔT、熱膨張率をαとすると、材料が完全に拘束されている場合、σ=E×ΔT×αという関係が成立する。つまり、温度の変化が大きければ大きいほど、熱応力も大きくなる。
【0052】
絶縁体10は、中心電極20及び円筒部53による拘束を受ける。絶縁体10は、セラミック製なので、金属製の中心電極20及び円筒部53とは熱膨張率αが異なる。よって、絶縁体10、中心電極20及び円筒部53の温度が均一でも、これらの温度が変化すると、絶縁体10に熱応力が発生する。絶縁体10のクラックは、熱応力が破断応力を上回ったり疲労破壊を引き起こしたりした結果であると考えられる。
【0053】
そこで本実施形態では、銅芯径φDを好ましい数値範囲に設定し、中心電極20内部における軸線OL方向の熱伝導性を向上させた。これによって、絶縁体10から中心電極20への伝熱を促進し、絶縁体10の温度を従来よりも低下させた。この結果、過給付き直噴エンジンという厳しい条件において、絶縁体厚みAを1mm以上に設定して耐電圧を確保し、且つ突き出しTを2.0mm以上にしながらも、クラックを抑制できたと考えられる。
【0054】
また、熱応力は、材料内部の温度分布や温度勾配によっても発生する。材料内部の温度差が大きければ大きいほど、この熱応力も大きくなる。上記のように絶縁体10の温度上昇を抑制することは、絶縁体10内部の温度分布を小さくすることに繋がり、ひいてはクラックを抑制する。
【0055】
本発明は、本明細書の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。例えば、以下のものが例示される。
【0056】
軸線方向と垂直な方向に対向する横放電型のスパークプラグでもよい。
1つの中心電極に対して複数の接地電極が設けられてもよい。
電極チップは無くてもよい。
端子金具や絶縁体の形状を変更してもよい。