特許第6240561号(P6240561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6240561状態監視システム、情報処理装置、状態監視方法、プログラム、記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240561
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】状態監視システム、情報処理装置、状態監視方法、プログラム、記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20171120BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20171120BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G01M99/00 Z
   E01D22/00 A
   G01H17/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-115710(P2014-115710)
(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公開番号】特開2015-230206(P2015-230206A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】阿部 慶太
(72)【発明者】
【氏名】神田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】雪岡 剛哲
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−156415(JP,A)
【文献】 特開2010−169465(JP,A)
【文献】 特開2007−271402(JP,A)
【文献】 特開2000−186984(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0092656(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 − 13/04
G01M 99/00
G01H 1/00 − 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の状態監視システムであって、
センサとタイマーと情報処理装置を有し、
前記センサは、前記橋脚の振動情報を測定し、
前記タイマーには、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定され、
前記情報処理装置は、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする状態監視システム。
【請求項2】
算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、所定期間の前記スペクトルスコアの経時変化を近似した近似線を算出し、当該近似線の傾きに基づいて、前記所定期間における前記橋脚の健全性を判定することを特徴とする請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項3】
算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、第1の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値と、前記第1の所定期間より過去の第2の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値を求め、前記第1の所定期間と前記第2の所定期間の代表値を比較することで、前記第1の所定期間における前記橋脚の健全性を判定することを特徴とする請求項1に記載の状態監視システム。
【請求項4】
前記波形はパワースペクトルの波形であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項5】
前記センサは、前記橋脚の橋軸直交方向の振動情報を測定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項6】
前記橋脚が河川に設けられた橋脚であることを特徴する請求項1から請求項5のいずれかに記載の状態監視システム。
【請求項7】
列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続された情報処理装置であって、
測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、所定期間の前記スペクトルスコアの経時変化を近似した近似線を算出し、当該近似線の傾きに基づいて、前記所定期間における前記橋脚の健全性を判定することを特徴とする請求項7記載の情報処理装置。
【請求項9】
算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、第1の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値と、前記第1の所定期間より過去の第2の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値を求め、前記第1の所定期間と前記第2の所定期間の代表値を比較することで、前記第1の所定期間における前記橋脚の健全性を判定することを特徴とする請求項7記載の情報処理装置。
【請求項10】
列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続された情報処理装置による橋脚の状態監視方法であって、
情報処理装置が、
測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする状態監視方法。
【請求項11】
列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続されたコンピュータを、
測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置として機能させるためのプログラム。
【請求項12】
列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続されたコンピュータを、
測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置として機能させるためのプログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚の状態監視システム、情報処理装置、状態監視方法、プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
既設の鉄道土木構造物には数多くの橋脚が存在する。これらは経年により劣化をしたものも多く、維持管理の高精度化および効率性向上が求められる。
【0003】
従来の維持管理手法としては、構造物に振動を付与し、得られたデータから健全性を判断する衝撃振動試験が多く採用されている。例えば重錘によって構造物の表面を打撃し、打撃により生じる振動をセンサ等で検出し、当該振動の固有振動数の変化によって構造物の健全性を評価する(特許文献1)。これにより、目視で発見しづらい欠陥等による劣化も発見できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−51873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、維持管理の高精度化および効率性向上のため、状態監視による手法が注目されている。これは、土木構造物の健全性に影響する測定項目を長期的に状態監視し、構造物が限界状態に至る前に異常を検出し、適切な措置を行うことで構造物の延命化につなげるものである。
【0006】
一例として、河川橋梁では、地震時の作用に加え、洗掘の作用によっても橋脚安定性が低下する。その洗掘範囲は長期的な外力により徐々に広がる場合が多く、経時的な健全性評価が精度良くできる状態監視手法が望まれる。
【0007】
この点、従来の衝撃振動試験による評価手法は、測定に時間を要し装置も大掛かりになるので、長期に渡って測定を繰り返し、経時的な健全性評価を行う状態監視には向かない。
【0008】
本発明は、橋脚の経時的な健全性評価が精度良くできる状態監視システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するための第1の発明は、列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の状態監視システムであって、センサとタイマーと情報処理装置を有し、前記センサは、前記橋脚の振動情報を測定し、前記タイマーには、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定され、前記情報処理装置は、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする状態監視システムである。
また、算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、所定期間の前記スペクトルスコアの経時変化を近似した近似線を算出し、当該近似線の傾きに基づいて、前記所定期間における前記橋脚の健全性を判定するようにしてもよい。
また、算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、第1の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値と、前記第1の所定期間より過去の第2の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値を求め、前記第1の所定期間と前記第2の所定期間の代表値を比較することで、前記第1の所定期間における前記橋脚の健全性を判定するようにしてもよい。
【0010】
本発明により、風等による橋脚の常時微動をセンサにより測定した振動情報からスペクトルスコアを算出でき、これを健全性の指標値として橋脚の状態監視ができる。このスペクトルスコアは簡易に測定することができ、橋脚への入力の違いによりばらつきが生じたりすることもなく、経時的な健全性評価を精度良く行うのに適している。
【0011】
前記波形はパワースペクトルの波形であることが望ましい。
パワースペクトルによって振動数毎のエネルギーの大きさを表現でき、振動数ごとの値の大小も明確に現れる。したがって、パワースペクトルの面積に基づきスペクトルスコアを算出することで、精度良く健全性の評価ができる。
【0013】
前記センサは、前記橋脚の橋軸直交方向の振動情報を測定することが望ましい。
橋脚の橋軸直交方向の安定性は橋軸方向の走行安全性に特に影響を与える。また、河川橋梁においては橋脚の橋軸直交方向の側方が洗掘され、当該方向の安定性が低下しやすい。従って、橋軸直交方向に注目して橋脚の状態監視を行うことが重要である。
【0015】
前記橋脚が河川に設けられた橋脚であることが望ましい。
河川橋梁では橋脚近辺の地盤の洗掘範囲が徐々に広がり、長期的に橋脚安定性が低下する場合が多く、本発明を適用して長期の状態監視を行うのに特に適している。
【0016】
第2の発明は、列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続された情報処理装置であって、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置である。
また、算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、所定期間の前記スペクトルスコアの経時変化を近似した近似線を算出し、当該近似線の傾きに基づいて、前記所定期間における前記橋脚の健全性を判定するようにしてもよい。
また、算出された複数の前記スペクトルスコアのうち、第1の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値と、前記第1の所定期間より過去の第2の所定期間の前記スペクトルスコアの代表値を求め、前記第1の所定期間と前記第2の所定期間の代表値を比較することで、前記第1の所定期間における前記橋脚の健全性を判定するようにしてもよい。
【0017】
第3の発明は、列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続された情報処理装置による橋脚の状態監視方法であって、
情報処理装置が、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする状態監視方法である。
【0018】
第4の発明は、列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続されたコンピュータを、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置として機能させるためのプログラムである。
【0019】
第5の発明は、列車の軌道が設けられた橋桁を支持する橋脚の振動情報を測定するセンサと、測定時間として列車の非運行時における所定の時間帯が設定されたタイマーと、が接続されたコンピュータを、測定日毎に、前記タイマーに設定された前記測定時間に前記センサを制御し、前記橋脚の常時微動の振動情報を測定させ、測定した前記常時微動の振動情報から得られた振動数ごとの振動の大きさを示す波形から、前記橋脚の健全性の指標値として、第3の振動数を下限とし第1の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、前記第3の振動数を下限とし前記第1の振動数より大きい第2の振動数を上限とする振動数の範囲の前記波形の面積と、の比であるスペクトルスコアを算出し、測定日と紐づけて記憶部に記憶し、前記第1の振動数と前記第2の振動数は、低振動数の領域の振動の卓越度合いを表現できる程度の大小関係で設定されることを特徴とする情報処理装置として機能させるためのプログラムを記録した記録媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、橋脚の経時的な健全性評価が精度良くできる状態監視システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】状態監視システム1を設けた橋脚3を示す図
図2】状態監視システム1の構成を示す図
図3】情報処理装置15のハードウェア構成を示す図
図4】橋脚3の状態監視方法の流れを示すフローチャート
図5】フーリエ振幅スペクトルの例を示す図
図6】パワースペクトルの例を示す図
図7】スペクトルスコアと卓越振動数の経時変化を示す図
図8】スペクトルスコアと卓越振動数の経時変化を示す図
図9】スペクトルスコアと固有振動数の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
(1.状態監視システム1)
図1は状態監視システム1を設けた橋脚3を示す図であり、図1(a)は橋脚3を側方から見た図、図1(b)は橋脚3を上から見た図である。本実施形態に係る状態監視システム1は、橋脚3の状態監視を行うものである。図は河川橋梁の例であり、橋脚3が河川20内に設けられ水底の地盤30で支持される。
【0024】
状態監視システム1は橋脚3上に設けられる。橋脚3は橋桁5を支持し、橋桁5には列車の軌道が設けられる。
【0025】
状態監視システム1では、橋桁5の軸方向に直交する方向の常時微動を測定することにより、橋脚3の状態監視を行う。常時微動は、例えば風や水流の影響で橋脚3に常時生じる微小振動である。なお、以下では橋桁5の軸方向を橋軸方向といい、橋軸方向に直交する方向を橋軸直交方向というものとする。橋軸方向は図1(b)の左右方向に対応し、橋軸直交方向は図1(b)の上下方向に対応する。
【0026】
橋軸直交方向の常時微動を測定するのは、当該方向の安定性が列車の走行安全性に特に影響を与えるためである。また、河川橋梁では図1(b)の矢印に示す水流21によって橋脚基部の橋軸直交方向の側方の地盤30が洗掘され、橋軸直交方向の安定性が損なわれやすい。従って、橋軸直交方向に注目して橋脚3の状態監視を行うことが重要である。
【0027】
図2は状態監視システム1の構成を示す図である。状態監視システム1は、加速度センサ11、タイマー13、情報処理装置15等を有し、不図示のバッテリー等で駆動する。
【0028】
加速度センサ11は、橋脚3の常時微動の加速度(振動情報)を測定するセンサであり、微小振動を検出可能な精度の高い一軸加速度計が用いられる。加速度センサ11としては、例えばMEMS加速度計を用いることができる。MEMS加速度計を用いることで、安価かつ省電力で駆動することができる。
【0029】
タイマー13は、加速度センサ11により加速度を測定する測定時間の情報が設定されている。本実施形態では、測定時間が列車の非運行時に設定される。
【0030】
情報処理装置15は、上記の測定時間において加速度センサ11を制御し加速度を測定させ、その測定結果に基づいて後述するスペクトルスコアを算出する。算出したスペクトルスコアなど、橋脚3の維持管理に必要な情報はSDカード等の記録媒体に記録される。
【0031】
図3に情報処理装置15のハードウェア構成を示す。情報処理装置15は、制御部151、記憶部152、入力部153、メディア入出力部154、表示部155、通信部156等がバス157を介して接続されたコンピュータで実現できる。ただし、情報処理装置15の構成がこれに限ることはない。
【0032】
制御部151は、CPU、ROM、RAM等で構成される。CPUは、記憶部152、ROM、記録媒体等に格納された、情報処理装置15の後述する処理に係るプログラム等をRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、処理を実現する。ROMは不揮発性メモリであり、プログラムやデータ等を恒久的に保持する。RAMは揮発性メモリであり、記憶部152、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部151が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0033】
記憶部152は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ等であり、制御部151が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ等が格納される。
入力部153は、操作指示、動作指示、データ入力等を行うためのものである。
メディア入出力部154は、メディアに対しデータの入出力を行う。メディアには、例えばSDカード等の記録媒体が用いられる。
【0034】
表示部155は、液晶パネル等のディスプレイ装置、およびディスプレイ装置と連携して表示機能を実現するための論理回路等を有する。
通信部156は、ネットワーク等を介した通信を媒介する通信インタフェースである。
バス157は、各部間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0035】
なお、状態監視システム1の構成は上記に限らない。例えば、上記の加速度センサ11のほか、橋脚3の維持管理に用いるため、列車通過時の比較的大きな振動を検出する加速度センサを追加することも可能である。このセンサには、例えば、微小振動の測定精度は多少落ちるが、2軸または3軸方向の加速度を測定可能なMEMS加速度計を用いることができる。
【0036】
(2.橋脚3の状態監視方法)
次に、状態監視システム1による橋脚3の状態監視方法について説明する。図4は、橋脚3の状態監視方法の流れを示すフローチャートであり、各ステップは情報処理装置15の制御部151が実行する処理である。
【0037】
本実施形態では、情報処理装置15が、タイマー13で設定された測定時間に加速度センサ11を制御し、橋脚3の振動情報として風等による常時微動の加速度を測定させる。情報処理装置15は加速度センサ11から常時微動の加速度を取得する(S1)。測定時間は前記したように列車の非運行時とし、例えば、列車が運行しない深夜帯の午前2時〜午前4時の間で、30分ごとに計5回(1回の測定は例えば16秒間)の測定時間を設定する。
【0038】
情報処理装置15は、測定時間における加速度の時間変化の波形を既知の手法で解析し、フーリエ振幅スペクトルを算出する(S2)。
【0039】
フーリエ振幅スペクトルは振動数ごとの振動の大きさを振幅で示したものである。フーリエ振幅スペクトルの例を図5に示す。図5(a)、(b)は、横軸を振動数、縦軸を振幅として、河川20内の2つの橋脚3のフーリエ振幅スペクトルを示したグラフである。
【0040】
情報処理装置15は、フーリエ振幅スペクトルからパワースペクトルを算出する(S3)。
【0041】
パワースペクトルは、簡単に説明すると、振動数ごとの振動の大きさを振幅の2乗で示したものであり、振動数単位での波のエネルギーが表現できる。パワースペクトルの例を図6に示す。図6(a)、(b)は、それぞれ図5(a)、(b)のフーリエ振幅スペクトルに対するパワースペクトルを、横軸を振動数、縦軸を振幅の2乗値として示したグラフである。図に示すように、パワースペクトルでは、フーリエ振幅スペクトルに比べ値の高低が明確に現れる。
【0042】
情報処理装置15は、橋脚3の健全性を示す指標値として、パワースペクトルからスペクトルスコアを算出する(S4)。
【0043】
スペクトルスコアは、図6に示すように、振動数f(第3の振動数)を下限とし、振動数f(第1の振動数)を上限とする範囲Aのパワースペクトルの波形の面積と、振動数fを下限とし、振動数fより大きい振動数f(第2の振動数)を上限とする範囲Bのパワースペクトルの波形の面積による比で算出される。各振動数は、f<f<fを条件として任意に定めることができる。
【0044】
本実施形態では、範囲Bのパワースペクトルの波形の面積を範囲Aのパワースペクトルの波形の面積で割って比の値を求める。即ち、スペクトルスコアの算出式は下式(1)のように表される。なお、下式(1)のパワースペクトル面積とは、上記したパワースペクトルの波形の面積(波形の積分値)を指す。
[スペクトルスコア]=(f〜fまでのパワースペクトル面積)/(f〜fまでのパワースペクトル面積)…(1)
【0045】
情報処理装置15は、例えば、1日5回の測定で得られたそれぞれの常時微動から、上記のようにしてスペクトルスコアを算出し、その平均値を測定日におけるスペクトルスコアとしてSDカード等の記録媒体等に記憶する。
【0046】
本実施形態では以上の手順を繰り返し、経時的にスペクトルスコアを算出することで長期的な橋脚3の状態監視が簡易にできる。さらに、このスペクトルスコアを用いて橋脚3の健全性を判定することも可能である。具体的な例については後述する。
【0047】
なお、本実施形態では情報処理装置15にてスペクトルスコアを算出したが、例えば上記したフーリエ振幅スペクトルやパワースペクトルのデータを遠隔の情報処理装置に入力し、当該情報処理装置にてスペクトルスコアの算出を行うことも可能である。その場合には、当該情報処理装置も状態監視システム1に含まれる。
【0048】
(3.スペクトルスコアの有効性)
本実施形態において、橋脚3の健全性の指標値としてスペクトルスコアを算出したのは、これが橋脚3の状態監視に適し、かつ健全性の指標値として有効であるためである。
【0049】
すなわち、図5からわかるように、衝撃振動試験とは異なり、常時微動の測定では外乱等によりフーリエ振幅スペクトルに明確な極値が現れないため、固有振動数の特定が困難である。また、常時微動の測定では衝撃振動試験のように入力が一定でなく、入力の変動に測定結果が影響されやすい。例えば入力が大きいと、フーリエ振幅スペクトルの振幅が全体的に大きくなることがある。
【0050】
そこで、本実施形態では、橋脚3の状態監視に適し、かつ入力の変動の影響を受けず健全性の評価に有効な指標値として、前記したスペクトルスコアを用いた。スペクトルスコアは、パワースペクトル面積を正規化し、パワースペクトルの波形において低振動数の領域がどの程度卓越しているかを表したものであり、入力の変動による振幅の大小の影響を除外できる。
【0051】
図7(a)、(b)はそれぞれ、状態監視期間(約3か月)における河川20内の橋脚3のスペクトルスコアと卓越振動数の経時変化を、横軸を測定日、縦軸をスペクトルスコアまたは卓越振動数として示す図である。卓越振動数はスペクトルスコアとの比較のため求めた値であり、フーリエ振幅スペクトルにおいて振幅が最大となる振動数である。
【0052】
図7(a)、(b)から、同じ橋脚3であっても、卓越振動数では測定日ごとの変動が大きく安定しない一方、スペクトルスコアでは変動が比較的小さく、安定した値となる傾向が確認できる。
【0053】
図8(a)、(b)はそれぞれ、河川20内の別の2つの橋脚3について、スペクトルスコアと卓越振動数の経時変化を図7と同様に示したグラフである。この2つの橋脚3は、衝撃振動試験による固有振動数が異なっており、それぞれ7.9Hz(橋脚a)と4.4Hz(橋脚b)である。
【0054】
図8(a)、(b)から、固有振動数が異なる橋脚3間を比較すると、スペクトルスコアは固有振動数と同様に異なるのに対し、卓越振動数は値が近く、スペクトルスコアのほうが固有振動数の大小をよく表現できていることがわかる。
【0055】
図9はスペクトルスコアと衝撃振動試験による固有振動数との関係を示す図であり、河川20内の複数の橋脚3の各々のスペクトルスコアと固有振動数を、横軸を固有振動数、縦軸をスペクトルスコアとしてプロットしたグラフである。なお、スペクトルスコアの算出時には前記のf、f、fの値をそれぞれ1Hz、4Hz、20Hzとした。
【0056】
図9より、スペクトルスコアと固有振動数の間には良好な比例関係が存在することがわかる。
【0057】
このように、スペクトルスコアは従来の衝撃振動試験による固有振動数との間に良好な比例関係を有しており、その大小関係を適切に表現でき、かつ値の変動が小さい。従って、スペクトルスコアを指標値とした状態監視によって、固有振動数と同じように橋脚の健全性を精度良く定量的に評価できるといえる。
【0058】
(4.橋脚3の健全性の判定)
状態監視時には、情報処理装置15、あるいは前記した遠隔の情報処理装置等により、スペクトルスコアを用いた健全性の判定が可能である。
【0059】
例えばスペクトルスコアの基準値を予め定めておくことで、基準値との比較により健全性の判定が可能である。スペクトルスコアが基準値を下回った場合には異常とし、例えば所定の警報装置(不図示)などでアラーム音や警告表示等の警報を発する。これに応じて、衝撃振動試験等による詳細な点検や補修を行うことができる。
【0060】
上記の基準値は、衝撃振動試験時の固有振動数との関係から定めることができる。例えば橋脚3の安定性に係る固有振動数の標準値が4.0Hzである場合、図9の比例関係から対応するスペクトルスコアが1.0程度であることがわかるので、これをスペクトルスコアの基準値として用いることが可能である。
【0061】
その他、スペクトルスコアの低減度合いが大きい場合に、異常の恐れありと判定することもできる。例えば図7(a)のCに示すように、一定期間のスペクトルスコアの経時変化を近似した近似線を算出し、当該近似線Cの傾きが負の所定値を下回る場合に、健全性の低減度合いが大きく、異常の恐れありと判定できる。
【0062】
あるいは、直近の一定期間と、過去の一定期間のそれぞれでスペクトルスコアの平均値等の代表値を求め、直近の一定期間の代表値が過去の一定期間の代表値に比べ所定値以上低下していた場合に、同じく異常の恐れありと判定することもできる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の状態監視システム1によれば、風等による橋脚3の常時微動からスペクトルスコアを算出でき、これを健全性の指標値として橋脚3の状態監視ができる。このスペクトルスコアは簡易に測定することができ、橋脚3への入力の違いによりばらつきが生じたりすることもなく、経時的な健全性評価を精度良く行うのに適している。
【0064】
また、本実施形態ではパワースペクトルによって振動数毎のエネルギーの大きさを表現でき、振動数ごとの値の大小も明確に現れる。したがって、パワースペクトル面積に基づきスペクトルスコアを算出することで、精度良く健全性の評価ができる。ただし、図5のようなフーリエ振幅スペクトルからスペクトルスコアと同様の値を指標値として算出することも可能である。
【0065】
また、本実施形態では、前記の式(1)により、従来の衝撃振動試験による固有振動数と良好な比例関係にあるスペクトルスコアを算出し、橋脚3の健全性を精度良く評価できる。ただし、スペクトルスコアとしては低振動数領域の卓越度合いを表現できればよく、必要に応じて、式(1)の右辺の逆数を用いたり、振動数fまでの任意の範囲のパワースペクトル面積と振動数f(>f)までの任意の範囲のパワースペクトル面積による比とするなどの変更は可能である。
【0066】
加速度センサ11は橋軸直交方向の加速度を測定するので、橋軸方向の走行安全性に特に影響を与える橋軸直交方向の安定性の状態監視を好適に行える。また、河川橋梁においては橋脚3の橋軸直交方向の側方が洗掘され、当該方向の安定性が低下しやすく、この点においても橋軸直交方向の状態監視が重要である。ただし、必要に応じて橋軸方向の常時微動を測定することも可能である。
【0067】
また、状態監視システム1ではタイマー13によって測定時間を定めるので、測定時間を列車等の非運行時とし、風等による橋脚3の常時微動からスペクトルスコアの算出ができる。例えば列車等の走行時の振動を測定する場合は列車等の違いにより結果が大きくばらつく可能性があり、また異常時等に列車運行が不可能になった場合に測定ができなくなるが、本実施形態ではそのような恐れもない。
【0068】
また、本実施形態では状態監視対象の橋脚として河川橋梁の橋脚3の例を挙げて説明したが、これに限らず、高架橋の橋脚などでもよい。ただし、河川橋梁では橋脚近辺の地盤の洗掘範囲が徐々に広がり、長期的に安定性が低下する場合が多く、本発明を適用して長期の状態監視を行うのに特に適している。
【0069】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0070】
1;状態監視システム
3;橋脚
5;橋桁
11;加速度センサ
13;タイマー
15;情報処理装置
20;河川
21;水流
30;地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9