【文献】
Characterization of the linearly viscoelastic behavior of human tympanic membrane by nanoindentation.,J Mech Behav Biomed Mater. ,2009年,vol.2,no.1 ,pp.82-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記1種以上の材料が、シルクフィブロイン;ヒアルロン酸を基剤とするヒドロゲルおよびフィルム;アルギン酸カルシウム;アルギン酸;Pluronic 127;ポリ(グリセロセバシン酸塩);コラーゲン(I/III型);水溶性および不溶性キトサン;ゼラチン;ポリエチレングリコール;または鼓膜、心膜、骨膜、真皮および筋膜をはじめとする哺乳類膜由来の脱細胞化組織を含む群のうちの1つ以上から選択される添加剤1種以上をも含む、請求項1に記載のデバイス。
鼓膜穿孔の修復、欠損のある弛緩部、上鼓室および/または周囲の上鼓室外側壁骨(scutum bone)を含む外耳道の再建、または乳突削開鼓室形成術を含む乳突削開術の使用に適する、請求項1に記載のデバイス。
前記デバイスがエレクトロスピニングをはじめとする紡糸;マイクロウィービングをはじめとする織込み;または鋳込み、のうちの少なくとも任意の1つ以上により形成される、請求項1に記載のデバイス。
【背景技術】
【0002】
背景技術
背景技術の以下の議論は、本発明のみの理解を容易にすることを意図するものである。その議論は、参照される材料のいずれかが、本願の優先日に共通する一般的知識の一部である、または一部であったことを認知または承認するものではない。
【0003】
鼓膜穿孔は、耳鼻咽喉学において最も共通する問題の1つである。処置せずに放置されると、難聴、再発性耳漏、中耳感染および後天性真珠腫などの顕著な罹患を伴う。ほとんどの急性鼓膜穿孔は、自然治癒するが、大きな、または慢性的な鼓膜穿孔、特に慢性化膿性中耳炎によるものは、多くの場合、治癒することができず、移植が必要となる場合がある。
【0004】
慢性鼓膜穿孔の場合、鼓膜形成術(またはI型鼓室形成術)として知られる外科的処置が、穿孔の閉鎖に必要となる。鼓膜形成術は、「穿孔に貼付して」鼓膜の完全性を回復させる移植片の使用を含み、その目的は、鼓膜の連続性を回復させて、聴力を改善し、更なる中耳感染の発生を低減することである。
【0005】
典型的には、最も共通するタイプである側頭筋膜での自家移植片(対象から得られた組織)が、利用され、それは、鼓膜閉鎖の「至適基準」と考えられる。一般に用いられる自家移植の他のタイプとしては、軟骨、軟骨膜および脂肪が挙げられ、様々な材料の有効性を比較した多くの試験にもかかわらず、優れているという明確なコンセンサスがあると思われていない。ほとんどが、用いられた移植材料または技術にかかわらず、最大90%の成功率とされる。この高い成功率ではあるが、移植が失敗する理由は、再穿孔、真珠腫、偏倚、鈍化(blunting)、上皮真珠および封入嚢胞の例を挙げることができる。
【0006】
これとは別に、鼓膜形成術に関連する他の欠点が存在し、つまり、鼓膜形成術が、麻酔、手術および一泊入院の必要性により高額になる可能性があり、先天的罹患および欠損性の供与部位による潜在的問題を有する。加えて、成功と判断されたものを再検討して、転帰に悪影響を及ぼし得る滲出、アテレクタシス、分泌物などの中耳の状態を含めなければならないことが、近年になり議論されてきた。鼓膜の透明性も、聴力に影響を及ぼす因子として示されており、不透明膜は有意に高い聴力閾値をもたらす。不透明性は、鼓膜の肥厚の結果であり、厚さの増加は、剛直性の上昇および可動性の低下をもたらす。同様に、自家移植材料は、追跡調査の間に医師による感染または欠損に関する中耳の検査が妨害されることに加え、損傷を受けていない鼓膜よりも不透明で厚く剛性であり、音響伝達に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0007】
修復作用の進行は、陥凹、真珠腫または再穿孔および感染の継続的プロセスにより影響を受ける可能性がある。永久的な伝音難聴が、これらの継続的プロセスにより誘発されて、小骨びらんに至る可能性がある。その場合の最も一般的な外科的アプローチは、より厚い軟骨層を用いて鼓室形成術を実施して、更なる陥凹、ならびに陥凹ポケット形成、穿孔および真珠腫への進行に抵抗することである。軟骨は、アンダーレイ、インレイまたはオーバーレイ用移植片として用いることができる。
【0008】
しかしその結果、既存の移植材料を用いたこれらの利用可能な方法は、天然の鼓膜の微細構造および性質を不十分に複製し、このため穿孔された鼓膜の修復に用いられと、病前の聴力が回復されない。
【0009】
その上、外耳道も、鼓膜に入る音を変調することにおいて重要な役割を担う。斜め向きの外耳道が鼓膜と交わる鋭角の前外耳道鼓膜角(anterior tympanomeatal angle)は、音圧レベル、および特に高周波数での鼓膜前部の様々な部位のインピーダンスを有意に変化させ得る。このことから、組織および/または骨の変性または他の損傷を受けた鼓膜弛緩部の修復または再建が、多くの場合、音響伝達、つまり病前の聴力の回復を支援しながら鼓膜穿孔修復と共同で実施される。
【0010】
今日まで、Gelfoam(登録商標)をはじめとする一定範囲の異種移植片および合成材料、ならびに紙パッチが、鼓膜の再生を支持する適切なスカフォールドとして検討されてきた。しかし、これらのいずれかを様々なタイプの穿孔への最適材料として裏づける証拠は、ほとんど存在しない。更に、ブタ小腸粘膜下層などの複数の市販される異種移植片は、セロトニンを使用した遺残の異種細胞成分により、炎症反応を誘発する場合がある。加えて合成材料は、一般に非生分解性であり、それらの生物機械的および材料的性質は、正常な鼓膜に比較して異なっており、長期聴覚機能に影響を及ぼし得る。このため、鼓膜および鼓膜穿孔を修復するための新規材料が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
第一の態様において、本発明は、処置を必要とする対象において鼓膜の修復に使用され、
およそ12.5〜40MPaの引張強
さを有し、1つ以上の膜層を含み、そのうち少なくとも1つの膜層が複数の孔を含む、デバイスであって、
少なくとも角質細胞、線維芽細胞、血管細胞、粘膜上皮細胞、および幹細胞のうちの任意の1つ以上を含む群から選択される細胞の増殖、遊走および/または接着を支持し得る、デバイスを提供する。
【0013】
デバイスは、好ましくはおよそ15〜およそ37MPaの引張強
さ、より好ましくはおよそ25〜およそ35MPaの引張強
さを有する。
【0014】
本発明のデバイスは、そのような処置を必要とする対象にとって非自家性である材料1種以上から製造されていてもよい。これらの1種以上の材料は、シルクフィブロイン;ヒアルロン酸を基剤とするヒドロゲルおよびフィルム;アルギン酸カルシウム;アルギン酸;Pluronic 127;ポリ(グリセロセバシン酸塩);コラーゲン(
I/III型);水溶性および不溶性キトサン;ゼラチン;ポリエチレングリコール;または鼓膜、心膜、骨膜、真皮および筋膜をはじめとする哺乳類膜由来の脱細胞化組織を含む群のうちの1つ以上から選択されてもよい。本発明の好ましい形態において、デバイスは、シルクフィブロインから製造される。本発明の別の好ましい形態において、デバイスは、コラーゲン
I/III型から製造される。
【0015】
本発明の一形態において、デバイスは、3つの膜層を含む。好ましくはデバイスの膜層の1つ以上は、繊維層である。
【0016】
デバイスの孔径は、好ましくはおよそ0.001μM〜およそ1μMである。より好ましくはデバイスの孔は、デバイスの1つ以上の層をまたいで実質的に均等に分布されている。
【0017】
デバイスの好ましい形態において、1つ以上の膜層が、デバイスの向かい合う側に2つの卵形または実質的に円形の面を有する、実質的な円盤形を形成する。好ましくは一方または両方の面が、およそ3mm〜およそ25mm、より好ましくはおよそ10mm〜およそ20mmの径を有する。好ましくはデバイスの一方または両方の卵形の面が、およそ9mm〜およそ8mmの径を有する。より好ましくはデバイスの一方または両方の卵形の面が、およそ6mm〜およそ5mmの径を有する。最も好ましくはデバイスの一方または両方の面が、実質的に円形であり、およそ3mmの径を有する。
【0018】
デバイスの1つ以上の膜層が、デバイスの外側にある1つ以上の膜の露出面の間の距離として測定され得る厚さを有する。好ましくは1つ以上の膜層は、およそ10〜およそ600μMの合計厚さを有する。より好ましくは1つ以上の膜層は、およそ10〜およそ100μMの合計厚さを有する。最も好ましくは1つ以上の膜層は、およそ80〜およそ100μMの合計厚さを有する。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、デバイスは、生物活性分子を含み、好ましくは生物活性分子は、鼓膜の細胞の発育を支援または促進する。生物活性分子は、デバイスの表面に結合されていてもよく、またはデバイスの孔内に配置されていてもよい。
【0020】
生物活性分子は、ビタミン、蛋白質、ペプチド、酵素、炭水化物、補因子、ヌクレオチド(DNAもしくはRNAまたはそれらの誘導体)、有機小分子(例えば、薬物)、抗生物質、抗ウイルス薬、抗微生物薬、抗炎症薬、増殖抑制剤、サイトカイン、蛋白質阻害剤、抗ヒスタミン薬を含む群から選択される任意の1種以上の生物活性分子を含んでいてもよい。好ましくは生物活性分子は、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子α(TGF−α)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)、アンフィレグリン、エピゲン、エピレグリン、ベータセルリンをはじめとする上皮成長因子;酸性線維芽細胞増殖因子(FGF−1/aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2/bFGF)をはじめとする線維芽細胞増殖因子;角質細胞増殖因子1(KGF−1/FGF−7)、角質細胞増殖因子2(KGF−2/FGF−10)をはじめとする角質細胞増殖因子;インスリン様成長因子1(IGF−1)、インスリン様成長因子2(IGF−2)をはじめとするインスリン様成長因子;血管内皮成長因子165(VEGF
165)、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)をはじめとする血小板由来成長因子;IL−6、IL−19、IL−24をはじめとするサイトカイン;ヒアルロン酸、フィブロネクタチン、ビトロネクチン、ラミニンをはじめとする細胞外マトリックス蛋白質;およびトランスレチノイン酸(ビタミンA)、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、(+)−α−トコフェロール(ビタミンE)をはじめとするビタミン類、を含む群から選択される任意の1種以上の生物活性分子を含む。より好ましくは、生物活性分子は、ヒアルロン酸;ビトロネクチン;アンフィレグリン;インターロイキン19(IL−19);インターロイキン24(IL−24);トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α);VEGF;およびフィブロネクチン、を含む群から選択される任意の1種以上の生物活性分子を含む。
【0021】
生物活性分子の濃度は、好ましくは5ng/ml〜150μg/mlである。デバイス中に存在する場合のヒアルロン酸の濃度は、好ましくはおよそ1μg/ml〜およそ10μg/ml、より好ましくはおよそ5μg/mlである。デバイス中に存在する場合のビトロネクチンの濃度は、好ましくはおよそ0.1μg/ml〜およそ1.0μg/ml、より好ましくはおよそ0.5μg/mlである。デバイス中に存在する場合のアンフィレグリンの濃度は、好ましくはおよそ20ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ60ng/mlである。デバイス中に存在する場合のIL−19またはIL−24の濃度は、およそ20ng/ml〜およそ100ng/ml、より好ましくはおよそ60ng/mlである。デバイス中に存在する場合のTGF−αの濃度は、およそ20ng/ml〜およそ140ng/ml、より好ましくはおよそ80ng/mlである。デバイス中に存在する場合のVEGFの濃度は、およそ60ng/ml〜およそ200ng/ml、より好ましくはおよそ100ng/mlである。
【0022】
生物活性分子は、デバイスの形成の間に添加されてもよく、ならびに/あるいはデバイスが形成された後、および/またはデバイスの埋め込みもしくは移植の間にデバイスに別々に添加されてもよい。
【0023】
デバイスの膜層は、エレクトロスピニングをはじめとする紡糸;マイクロウィービングをはじめとする織込み;または鋳込み、のうちの少なくとも任意の1つ以上により、デバイスの製造の間に形成されてもよい。膜層は、デバイスの製造の間に同時に形成されてもよく、またはそれらは、デバイスの製造前に別々に形成されて、デバイスの製造の間に取り付けられてもよい。あるいは膜層は、デバイスを折り畳むことにより作製されてもよい。
【0024】
本発明のデバイスは、少なくとも部分的に半透明であっても、または部分的もしくは完全に透明であってもよく、それによりデバイスで処置される対象の鼓膜および中耳の処置後検査において支援することができる。
【0025】
好ましい形態において、本発明のデバイスは、生分解性である。より好ましくはデバイスは、1〜12ヶ月の生物学的寿命を有する。
【0026】
本発明のデバイスは、製造後にトリミングされて、修復を必要とする鼓膜の領域のサイズおよび形状に適合させてもよく、このトリミングは、外科バサミなどの適切な切断デバイスを用いて実施されてもよい。デバイスは、デバイスの1つ以上の表面を刻み込む、もしくは溝を切り込んで、デバイスの可撓性もしくは屈曲性を改善するか、またはそれを折り畳んで折り畳み構成を実質的に維持することができるようにすることにより、製造後に操作されてもよい。
【0027】
別の態様において、本発明は、対象の鼓膜、あるいはより好ましくは対象の穿孔された鼓膜などの鼓膜、ならびに/または対象の弛緩部および/もしくは弛緩部付近の上鼓室外側壁骨(scutum bone)に移植または塗布された時に、少なくとも鼓膜細胞の増殖、遊走および/または接着を支持するための、本明細書に記載されたデバイスの使用を提供する。本発明は、ヒドロキシアパタイトを含まない移植片を覆うことを含む、乳突削開鼓室形成術後に対象の外耳道を再建するための乳突充填技術における、本明細書に記載されたデバイスの使用も提供する。
【0028】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載された本発明のデバイスを使用することを含む、処置を必要とする対象において、鼓膜、より好ましくは慢性鼓膜穿孔などの鼓膜穿孔、ならびに/または欠損した弛緩部および/もしくは弛緩部付近の上鼓室外側壁骨を修復する方法を提供する。
【0029】
本発明は、本明細書に記載されたデバイスを含む、対象の外耳道、鼓膜穿孔、および/または弛緩部の修復において使用されるキットも提供する。キットは、本明細書に記載された生物活性分子のいずれかの1つ以上の溶液も含み得る。生物活性分子の1つ以上の溶液は、対象へのデバイス埋め込み前にデバイスに塗布するためのもの、または対象の鼓膜にデバイスを埋め込んだ、もしくは移植した後、デバイスへの塗布のためのものであってもよく、塗布はその後、1回または複数回実施されてもよい。
【0030】
つまり本発明のデバイスは、処置を必要とする対象において、穿孔された鼓膜の修復および再生、ならびに/または弛緩部および上鼓室外側壁骨を含む外耳道の再建および再生において使用される、カスタマイズされた移植用インプラントを提供する。デバイスのカスタマイゼーションは、天然の形態に実質的に類似する鼓膜および/または外耳道を含む鼓膜の再生を容易にし、それにより対象の治癒および聴覚転帰を改善するためのより良好な機会の実現を支援することができる。デバイス内に繊維性中間層を含むことが、鼓膜を音響上より効率的にしながら、対象における萎縮、再穿孔および真珠腫形成の可能性を低減することが、特に有益である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な実施形態
概要
当業者は、本明細書に記載された発明が、具体的に記載されたもの以外の変更および改良を受け易いことを理解するであろう。本発明は、全てのそのような変更および改良を含む。同じく本発明は、本明細書において参照された、または示されたステップ、特徴、配合および化合物の全てを個別にまたは集合的に、ならびにそれらのステップまたは特徴のあらゆる組み合わせまたは任意の2つ以上を含む。
【0033】
本文に引用された各文書、参考文献、特許出願または特許は、全体が参照により本明細書に明白に組み入れられており、つまり読み手により本文の一部として読解および判断されるべきである。本文に引用された各文書、参考文献、特許出願または特許が、本文で反復されないのは、単に簡潔さのためである。しかし引用された材料またはその材料中に含まれる情報はいずれも、共通する一般的知識であると理解されてはならない。
【0034】
本明細書に言及された、または本明細書に参照により組み入れられた任意の文書内の任意の製品のための製造者による使用説明書、解説書、製品仕様書、およびプロダクトシートは、参照により本明細書に組み入れられており、本発明の実践において用いられてもよい。
【0035】
本発明は、本明細書に記載された具体的実施形態のいずれかにより範囲が限定されることはない。これらの実施形態は、例示のみを目的としている。機能的に均等な製品、配合および方法は、明白に、本明細書に記載された発明の範囲内である。
【0036】
本明細書に記載された発明は、1つ以上の値範囲(例えば、サイズ、濃度など)を含んでいてもよい。値範囲が、その範囲を画定する値、その範囲に隣接した値を含むその範囲内の値全てを含み、その範囲の境界を画定するその値に丁度隣接した値と同じ、または実質的に同じ結果をもたらすことは、理解されよう。
【0037】
本明細書全体を通して、その状況がその他を必要としない限り、言語「含む」または「含む」もしくは「含んでいる」などの変形例は、述べられた整数または整数群の包含を示し、任意の他の整数または整数群の除外を示さないことは、理解されよう。
【0038】
本明細書において用いられる選択された用語のための他の定義が、本発明の詳細な説明に見出されて、全体として適用されてもよい。他に定義されなければ、本明細書で用いられる全ての他の科学的および技術的用語は、本発明が属する技術分野の当業者に共通して理解される意味と同じ意味を有する。
【0039】
本文に引用された材料または含まれる情報の参照は、オーストラリアまたは任意の他の国において共通の一般的知識の一部であったか、または知られていた。
【0040】
ここに本発明の特徴を、以下の非限定的説明および実施例を参照して議論する。
【0041】
本発明は、処置を必要とする対象において鼓膜の修復に使用され、およそ12.5〜40MPaの引張強
さを有し、1つ以上の膜層を含み、そのうち少なくとも1つの膜層が複数の孔を含む、デバイスであって、少なくとも角質細胞、線維芽細胞、血管細胞、粘膜上皮細胞、および幹細胞のうちの任意の1つ以上を含む群から選択される細胞の増殖、遊走および/または接着を支持し得る、デバイスを提供する。
【0042】
鼓膜の修復は、好ましくは鼓膜穿孔、特に慢性穿孔の修復を含む。鼓膜の修復は、追加として、またはその他に、対象の外耳道、特に弛緩部および/または弛緩部付近の上鼓室外側壁骨を含んでいてもよい。
【0043】
デバイスが、処置を必要とする対象の穿孔された鼓膜または外耳道に移植された時に、少なくとも先に記載された細胞の増殖、遊走および/または接着を支持し得ることが、好ましい。これは、慢性穿孔などの損傷を受けた鼓膜の修復および再生を容易にするためである。つまり本発明のデバイスは、自然な損傷治癒過程を介して外耳道軟組織および骨の慢性鼓膜穿孔または欠損部分の閉鎖を促進させ得るための枠組みを提供する。
【0044】
本発明のデバイスおよびそれが用いられ得る方法を説明する目的で、用語「穿孔された」「穿孔」または「穿孔する」の任意の他の変形例は、本発明のデバイスを用いて修復され得る、対象の鼓膜への任意の損傷を含むことは、理解されよう。幾つかの非網羅的実施例において、そのような損傷は、鼓膜の穴もしくは裂傷、または物理的力もしくは疾患の結果である膜もしくは膜層の任意の部分の変形もしくは消失を含んでいてもよい(例えば、
図1参照)。鼓膜は、外耳道後部において緊張部および弛緩部を含む鼓膜の部分を形成する。弛緩部は、上鼓室とも呼ばれ、この領域内に外耳道の軟組織およびそれを取り囲む上鼓室外側壁骨を含む。本発明のデバイスおよびそれが用いられる方法を説明する目的で、用語「欠損のある」またはその用語の任意の他のそのような変形例が、本発明のデバイスを用いて修復または再建され得る、対象の弛緩部またはそれを取り囲むエリアの軟組織または骨に任意の損傷または疾患を含むことは、理解されよう。これは、真珠腫による損傷もしくは疾患、またはとりわけ乳突削開鼓室形成術後の対象の外耳道に必要な修復を含んでいてもよい。
【0045】
デバイスの形状
本発明のデバイスは、穿孔された鼓膜、または外耳道軟組織および骨の欠損部分の修復における使用を容易にする任意のサイズ、形状または構成に形成することができる。例えばデバイスは、鼓膜穿孔、特に鼓室形成術または鼓膜形成術に関連する鼓膜穿孔の閉塞を容易にする任意のサイズ、形状または構成に形成することができる。
【0046】
別の実施例において、デバイスは、弛緩部および上鼓室領域などの外耳道の再建を容易にする任意の形状または構成に形成することができる。これは、デバイスを折り畳むこと、またはデバイスの1つ以上の側を刻み込むことにより、デバイスの改良された構成が維持されることを含んでいてもよい。つまりデバイスのサイズ、形状および構成は、外耳道の欠損部分を覆うまたはそれに適合するのに十分であろう。
【0047】
本発明のデバイスの好ましい形態を、
図2に示すが、それは、互いに隣接した層をなす卵形または実質的に円形の前面3を有し、厚さ4を有するデバイスンをもたらす、3つの膜2を含む実質的な円盤の形状または構成1を示す。
【0048】
あるいは本発明のデバイスの前面は、鼓膜穿孔または外耳道の欠損部分の寸法により選択され得る、卵形または円形以外の形状であってもよい。
【0049】
本発明のデバイスの前面は、様々なサイズを含んでいてもよい。デバイスの好ましい形態において、前面は、およそ10mm〜20mmの径、より好ましくはおよそ15mmの径を有する卵形または実質的に円形である。デバイスの別の形態において、前面は、およそ9mm×およそ8mmの径を有する卵形である。デバイスの第二の好ましい形態において、前面は、およそ6mm×およそ5mmの卵形である。デバイスの第三の好ましい形態において、前面は、およそ3mmの径を有する実質的に円形である(
図3)。デバイスは、入手できるデバイスより小さい、鼓膜穿孔または外耳道の欠損部分を修復するために、前面5の外縁部の周囲をトリミングし、それにより前記デバイスをカスタマイズしてもよい。
【0050】
デバイスの一方または両方の面が、ハサミまたはナイフまたはブレードなどの切断道具を含む様々な異なる道具を用いて刻み込まれるか、または溝を切り込まれてもよい。
【0051】
厚さ
デバイスは、可変的厚さ4であってもよい。本発明のデバイスの厚さは、膜層の数、またはデバイスを用いて処置される対象の鼓膜穿孔もしくは外耳道の欠損部分のサイズなどの因子に応じて変動してもよい。好ましい実施形態において、デバイスは、およそ10〜およそ600μMの厚さを有する。より好ましくは、デバイスは、およそ10〜およそ100μMの厚さを有する。デバイスの厚さは、最も好ましくはおよそ80〜およそ100μMである。
【0052】
デバイスの好ましい形態において、デバイスの厚さは、およそ10〜およそ100mm、より好ましくはおよそ80〜およそ100μMである。デバイスの厚さは、デバイスの膜層2の数に依存してもよい。
【0053】
引張強さ
本発明のデバイスの膜は、12.5MPa〜40MPaの剛直性/引張強
さの範囲を有していてもよく、この値は、穿孔のサイズおよび音響特性に実質的に適合するように選択されてもよい。およそ12.5MPaの引張強
さは、天然の鼓膜の引張強
さに類似している。好ましい実施形態において、本発明のデバイスは、20MPa〜37MPaの剛直性/引張強
さを有する。より好ましくは本発明のデバイスは、25MPa〜35MPaの剛直性/引張強
さを有する。これは、穿孔の最も共通するエリアである緊張部内の穿孔を処置するのに特に有用である。中耳小骨への音響伝達は、デバイスを含む移植片の「剛直性」に依存し、大きな穿孔において、聴覚転帰を即座に改善させるための重要な論点である。1つ以上の膜の特定の引張強さは、最適な音響伝達を容易にして、設置直後にデバイスで処置された対象の聴覚転帰を改善する。
【0054】
組成
少なくとも1つの膜層が、異なる材料範囲から製造されてもよい。本発明を説明する目的で、用語「膜層」および「層」は、互換的に用いられてもよい。これらの材料は、デバイスで処置される対象にとって非自家性の供給源のものであってもよい。より好ましくは材料は、非哺乳類供給源のものであり、インビボ埋め込みおよびインビトロ培養に従う鼓膜角質細胞の増殖、遊走および/または接着を支持する生体適合性材料の範囲を含んでいてもよい。好ましくはデバイスが比較的軟質となる生物学的材料が、選択される。
【0055】
デバイスの好ましい形態において、膜は、生物学的材料のシルクフィブロインを含む。シルクフィブロインは蚕絹から得られる蛋白質ポリマーであり、生体適合性、生分解性、高度の引張強さ、および弾性をはじめとする特性を有し、ヒト鼓膜角質細胞がその表面で発育することができる。シルクフィブロインは、織込み、鋳込みおよびエレクトロスピニング技術によりデバイスの膜を製造して、先に議論された通りデバイスの異なる孔形状およびサイズを作製するために用いられてもよい。シルクフィブロインは、その物理的および化学的特性により容易に操作される。
【0056】
デバイスを製造するために用いられ得る他の材料としては、ヒアルロン酸を基剤とするヒドロゲル(Carbylan)およびフィルム(Seprafilm);アルギン酸カルシウム;ポリ(グリセロセバシン酸塩);水溶性および不溶性キトサン;ならびにコラーゲンを含む群から選択される材料のいずれかが挙げられる。これに関して主要な細胞外マトリクスであるコラーゲンは、高度の引張強さをはじめとする物理的性質、可撓性、非反応性、非毒性および非発癌性を有する。鼓膜の基底膜の主要な構成要素として、コラーゲンは、鼓膜の弾力性および完全性の維持を支援し、こうして聴覚における重要な役割を担う。
【0057】
本発明のデバイスは、とりわけ、デバイスが使用前の乾燥状態を管理できるように、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、Pluronic 127およびポリエチレングリコールを含む群から選択される添加剤1種以上を更に含んでいてもよい。;
【0058】
本発明のデバイスは、とりわけ、鼓膜、心膜、骨膜、真皮、および筋膜をはじめとする哺乳類膜由来の脱細胞化組織を含む群から選択される添加剤1種以上を更に含んでいてもよい。
【0059】
構造および機械的性質
本発明のデバイスを作製するには様々な方法がある。そのような方法は、織物材料、不織材料および/またはエレクトロスピニング材料からデバイスを作製することを含んでいてもよい。織込み方法は、マイクロスケールでありながら標準の織物織機に類似したマイクロウィービングデバイスの使用を含んでいてもよい。その結果、実質的に秩序正しい織物材料になる。不織方法は、とりわけ鋳込みを含んでいてもよい。鋳込みは、一定容量の可溶化フィブロイン溶液を鋳込み容器に入れて液体を蒸発させること、フィブロイン蛋白質の固形鋳物を放置すること、を含む。エレクトロスピニングは、電荷を利用して、蛋白質の液体溶液から非常に微細な(マイクロまたはナノスケール)フィブロイン繊維を引き出す。それは、大きく複雑な分子を利用して繊維を製造するのに、特に適する。デバイスを作製するためのこれらの方法では、デバイスの内部および表面に孔が生成される。孔の形状およびサイズは、デバイスを作製するのに用いられた方法に応じて変動する(
図2B)。本発明のデバイス上の好ましい孔径は、およそ0.001μm径〜およそ1μm径の範囲内であるが、より小さなまたは大きな孔径が、本発明のデバイス中で用いられてもよい。適切な孔径を選択することは、デバイスのいたるところでの効率的細胞発育および増殖のための細胞接着を容易にし、同時に使用の際に、真珠腫を促進し得る角質細胞によるデバイスから中耳への浸潤を防ぐのに、重要である。より好ましくは本発明のデバイスの中間層における孔は、中間層の細胞浸潤および組織形成を容易にするために、およそ20μm〜およそ200μmの径を有する。
【0060】
デバイスの孔は、処置を必要とする対象への埋め込みの際に宿主組織の完全性を促進にするよう、血管形成、新規組織形成およびリモデリングのための空隙容積を提供するために存在する。これに関して該デバイスは、機械的安定性を維持しながら、効率的な栄養素および代謝産物輸送のために多孔質の構造も提供する。好ましくはデバイスの少なくとも1つの膜層の表面のいたるところに実質的に一定した孔分布が存在する。
【0061】
損傷されていない鼓膜と同様に、本発明のデバイスは、透明または半透明であってもよい。これにより、デバイスを用いた鼓膜の修復後の追跡調査の間に、感染または欠損について対象の中耳を検査することもできる。
【0062】
本発明のデバイスが、天然の鼓膜と類似した振動音響特性を有すること、および処置を必要とする対象の鼓膜の修復に用いられる場合に、20Hz〜20KHzの音波を中耳小骨に伝達することができることが、好ましい。そのような振動音響特性は、デバイスの引張強さ、弾性および厚さに関係し、好ましくは音の伝導に最適化される。そのような音響特性を有することで、天然の鼓膜と類似の方法でデバイスを振動させ、それにより全体的な鼓膜構造の特性を回復させることができる。
【0063】
層
デバイスの好ましい形態において、1〜3つの膜が、互いに隣接して層をなす。しかし本は爪のデバイスは、3層を超える層を含んでいてもよい。
【0064】
3層の膜層デバイスでは、第二の(即ち、中間の)層が、繊維性であることが好ましい。デバイスの好ましい形態において、デバイスは、シルクフィブロインを含み、用語「繊維性」は、層内のフィブロイン糸の配列に関する。織込みにより実現された秩序正しい配列または鋳込み法から得られた滑らかな外観とは異なり、紡糸法を用いて実現された微細なフィブロイン糸は無作為な配列に見える(
図3参照)。2層の膜デバイスでは、1層が繊維性であり、この層が対象におけるデバイスの移植の際に中耳に面することが、好ましい。デバイス中の膜の数は、鼓膜穿孔または外耳道の欠損部分のサイズに応じて選択されてもよい。
【0065】
例えば、単層膜は、処置を必要とする対象の小さな鼓膜穿孔を修復するのには十分となり得るが、大きな穿孔では、天然の鼓膜の3層を再建することができるため、3層アプローチが好ましい可能性がある。大きな穿孔に単層を用いると、単層からなる緩んだ新生鼓室となって、音響特性が乏しくなる可能性がある。
【0066】
別の実施例において、上鼓室などの外耳道の軟組織および/または骨の欠損部分の修復において、3層アプローチは、外耳道を再建するのに好ましい場合がある。あるいは1つを超える本発明のデバイス、または折り畳まれた本発明のデバイスが、外耳道の欠損部分のサイズに適合させるのに好ましい場合がある。
【0067】
生物活性分子
本発明のデバイスは、薬用化合物を含む1つ以上の生物活性分子を含んでいてもよく、例えば含浸またはコーティングされていてもよい。これらの生物活性分子は、とりわけ、ビタミン、蛋白質、ペプチド、酵素、炭水化物、補因子、ヌクレオチド(DNAもしくはRNAまたはそれらの誘導体)、有機小分子(例えば、薬物)、抗生物質、抗ウイルス薬、抗微生物薬、抗炎症薬、増殖抑制剤、サイトカイン、蛋白質阻害剤、抗ヒスタミン薬またはこれらの任意の組み合わせを含んでいてもよい。本発明のデバイスの好ましい生物活性分子は、上皮成長因子(EGF)、TGF−α、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB−EGF)、アンフィレグリン、エピゲン、エピレグリン、ベータセルリンをはじめとする上皮成長因子;酸性線維芽細胞増殖因子(FGF−1/aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2/bFGF)をはじめとする線維芽細胞増殖因子;角質細胞増殖因子1(KGF−1/FGF−7)、角質細胞増殖因子2(KGF−2/FGF−10)をはじめとする角質細胞増殖因子;インスリン様成長因子1(IGF−1)、インスリン様成長因子2(IGF−2)をはじめとするインスリン様成長因子;血管内皮成長因子165(VEGF
165)、血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)をはじめとする血小板由来成長因子;IL−6、IL−19、IL−24をはじめとするサイトカイン;ヒアルロン酸、フィブロネクタチン、ビトロネクチン、ラミニンをはじめとする細胞外マトリックス蛋白質;およびトランスレチノイン酸(ビタミンA)、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、(+)−α−トコフェロール(ビタミンE)をはじめとするビタミン類、を含む群の1つ以上を含んでいてもよい。上記の生物活性分子は、好ましくはデバイス内でおよそ5ng/mL〜およそ150μg/mLの範囲内の濃度で使用される。より好ましくはデバイスは、ヒアルロン酸;ビトロネクチン;フィブロネクチン;トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α);インターロイキン19(IL−19);インターロイキン24(IL−24)のうちの少なくとも1つでコーティングまたは含浸されている。本発明のデバイス内で用いられ得るヒアルロン酸の濃度は、好ましくはおよそ1μg/mL〜およそ10μg/mL、より好ましくはおよそ5μg/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るビトロネクチンの濃度は、好ましくはおよそ0.1μg/mL〜およそ1.0μg/mL、より好ましくはおよそ0.5μg/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るアンフィレグリンの濃度は、好ましくはおよそ20ng/mL〜およそ100ng/mL、より好ましくはおよそ60ng/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るIL−19の濃度は、好ましくはおよそ20ng/mL〜およそ100ng/mL、より好ましくはおよそ60ng/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るIL−24の濃度は、好ましくはおよそ20ng/mL〜およそ100ng/mL、より好ましくはおよそ60ng/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るTGF−αの濃度は、好ましくはおよそ20ng/mL〜およそ140ng/mL、より好ましくはおよそ80ng/mLの濃度である。本発明のデバイス内で用いられ得るVEGFの濃度は、好ましくはおよそ60ng/mL〜およそ200ng/mL、より好ましくはおよそ100ng/mLの濃度である。前記好ましい生物活性分子と類似の機能を実施する生物活性分子が、前記好ましい生物活性分子に加えて、またはその代わりに用いられてもよい。これらの分子の濃度は、存在する組み合わせに応じて、増殖、遊走またはリモデリングを最適化するように変動させてもよく、好ましくは鼓膜穿孔または外耳道の欠損部分の処置に効果的な量である。本発明の好ましい実施形態において、先に記載されたものを含む生物活性分子の濃度が、デバイスの鋳込み、織込みまたは紡糸の前に可溶化シルクフィブロインに添加されてもよい。別の実施例において、生物活性分子は、埋め込みの前に膜の表面に溶液として塗布されてもよい。そのような含浸またはコーティングは、当該技術分野で公知の任意の手段により遂行されてもよく、デバイスの一部または全体が、そのように含浸またはコーティングされてもよい。
【0068】
デバイスは、本明細書に列挙された化合物のいずれかを、非限定的に個別または任意の組み合わせで、含んでいてもよい。本明細書に列挙された生物活性分子のいずれかが、即時放出または長期放出のための公知方法により配合されていてもよい。加えてデバイスは、2種以上の生物活性分子を異なる手法で含んでいてもよく、例えばとりわけデバイスは、一方では生物学的活性化合物で含浸され、他方ではコーティングされていてもよい。別の実施形態において、デバイスは、長期放出用に配合された1種の生物活性分子と、即時放出用に配合された第二の生物学的活性化合物と、を含む。
【0069】
鼓膜の修復をはじめとする創傷治癒は、十分な栄養素を必要とする。創傷治癒のための栄養素としては、亜鉛、鉄、ビタミンC、アルギニン、および他の生物活性分子の供給源が挙げられる。それゆえデバイスは、創傷治癒に必要となるこれらの栄養素1種以上の生理学的に利用できる形態を含浸またはコーティングされていてもよい。これらの栄養素が長期放出用に配合されていることが、好ましい。
【0070】
好ましい実施形態において、免疫調整剤として使用される蛋白質、ポリペプチド、またはペプチド(抗生物質を含む)は、好ましくは鼓膜または外耳道の欠損部分に修復が必要な対象と同じ種から得られる。例えば対象がヒトであれば、免疫調整剤として用いられる蛋白質、ポリペプチドまたはペプチドは、蛋白質、ポリペプチドまたはペプチドへの免疫反応の可能性を低下させるために好ましくはヒトまたはヒト化されている。
【0071】
生物活性分子は、治療を必要とする対象の鼓膜または外耳道の欠損部分において、穿孔の閉鎖を容易にするために移植片として用いられるため、インビボで、鼓膜の角質細胞および粘膜細胞をはじめとする細胞の、デバイス上またはデバイス内への発育、遊走および/または増殖を促進するとみなされる(例えば、
図4参照)。加えて、これらの生物活性分子が、意図した創傷部位の治癒後リモデリングを可能にする生物学的シグナルを提供して、実質的に病前状態まで機能を回復させ、それにより前記対象への治癒および長期間の聴覚転帰を促進することが予測される。本発明のデバイスは、生物活性分子を含んでいなくてもよいが、そのような治療を必要とする対象の鼓膜または外耳道を修復するための閉鎖時間は、生物活性分子を含むデバイスの使用と比較して短縮される可能性がある。
【0072】
生分解性
本発明のデバイスが、1〜12ヶ月のインビボ生物学的寿命を有することが好ましいが、インビボ生物学的寿命がより短いまたは長い1つ以上の膜を、デバイス内で用いてもよい。完全または実質的に完全な創傷閉鎖が起こるそのような時間まで、デバイスを適所に留置しなければならないため、1〜12ヶ月のインビボ生物学的寿命が好ましい。典型的には再生医学においては、嚢胞形成など可能性のある長期合併症を予防するために、デバイスをインビボに最小時間有することが有利となり得る。例えば小さな穿孔は、比較的短期間(およそ2週間で閉鎖し、完全なリモデリングのために更に4〜6週間)で治癒するが、大きな穿孔はかなり長期間かかり、新生鼓室の完全な細胞リモデリングには最大12ヶ月が必要となる。デバイスの生物機械的性質は、デバイスを用いて処置された対象において真珠腫をはじめとする萎縮および陥凹を実質的に予防するように選択された。
【0073】
本発明のデバイスを利用することの利点は、自家性での提供部位採取術が低減されること、および大量生産が可能であり、それゆえ穿孔鼓膜の処置または外耳道再建を受ける対象の手術時間および術後回復期を短縮させ得ることである。
【0074】
キット
本発明のデバイスは、鼓膜修復または外耳道再建を容易にするために、キットの形態で提供されてもよい。これに関連してキット内のデバイスは、ラッピングまたはコンテナ内で滅菌形態で提供されてもよい。キットは、同一または異なるサイズのデバイス1種以上と、鼓膜または外耳道の修復を容易にする任意の他の医療デバイス、ディスポーザブル品または薬物を含んでいてもよい。好ましくはキット内のデバイスは、キットの内容物の残りとは別の滅菌コンテナまたはラッピング内で提供される。キットは、天然または合成材料、例えばとりわけプラスチックフィルムまたはシートのデバイスの支持体を含んでいてもよい。前記ディスポーザブル品は、包帯、鼓膜および周囲の皮膚を滅菌するための滅菌手段、手袋、滅菌シート、綿棒、抗生物質クリームまたは軟膏のうちの1種以上を含んでいてもよい。一実施形態において、前記キットは、少なくとも1つのデバイスおよび1つ以上の生物活性分子を含む。キットは、対象への埋め込みまたは移植の前にデバイスに塗布される生物活性分子を含んでいてもよい。生物活性分子は、1つ以上の溶液の形態であってもよい。加えて、または代わりに、生物活性分子は、デバイスが埋め込まれた、または移植された後にデバイスで処置されている対象の鼓膜に塗布されてもよい。これは、処置の直後に、および/または処置に続いて埋め込み後数時間または数日かけてもよい。
【0075】
使用方法
本発明は、本明細書に記載された本発明のデバイスを使用することを含む、処置を必要とする対象において鼓膜穿孔を修復する方法を更に提供する。
【0076】
本発明は、鼓膜穿孔を修復するデバイスの使用が、鼓膜の唯一の処置であってもよく、または鼓膜を処置もしくは修復する過程で、他の治療もしくは処置に加えて同時にもしくは付随して利用されてもよいことを提供する。例えば本発明は、鼓膜をデバイスと接触させること、および鼓膜をデバイスと接触させることを含まない追加的治療を利用して鼓膜を処置すること、を含み、接触および追加的治療が、個別にまたは一緒になって、鼓膜損傷の少なくとも一態様の維持または増悪低減の測定可能な改善を誘発する、鼓膜の修復を提供する。
【0077】
本発明のデバイスは、鼓膜または鼓膜の全ての部分を含む鼓膜穿孔において用いられてもよく、対象の自家移植片を用いた既存の技術と共に当該技術分野で公知の通り、オンレイ、アンダーレイまたはインレイ技術として用いられてもよい。
【0078】
本発明は、本明細書に記載された本発明のデバイスを使用することを含む、処置を必要とする対象において欠損した弛緩部を含む外耳道の再建における使用方法も提供する。一般に上鼓室とも呼ばれる弛緩部は、技術的には鼓膜の一部であり、これは、典型的には上鼓室外側壁と呼ばれる外耳道周囲の骨も侵食する真珠腫に関与する領域である。つまり本発明のデバイスを用いた真珠腫における鼓膜再建は、多くの場合、接近していて相互に連通している上鼓室および周囲の上鼓室外側壁骨の再建を必要とする。
【0079】
つまりこの処置は、鼓膜穿孔の修復と協同していてもよい。あるいは処置は、鼓膜穿孔の修復を有さない、または必要としない対象の外耳道を再建することであってもよい。
【0080】
本発明は、鼓膜、特に対象の鼓膜および/または弛緩部もしくは上鼓室外側壁骨に移植される、または埋め込まれると、少なくとも鼓膜の細胞の増殖、遊走および/または接着を支持するための本明細書に記載されたデバイスの使用も提供する。
【0081】
耳の手術において、乳突削開術後の骨質の外耳道の再建が、一般には必要となる。デバイスは、処置を必要とする対象の上鼓室外側壁の再建において使用されてもよい。この再建工程において本発明のデバイスを使用することの利益は、それが多孔質構造を通してエリアへの血液供給を統合および支援し得ること、ならびにデバイス内の生物分子が、再建されたエリアへの対象自身の細胞および組織の発育を促進し得ることである。
【0082】
加えて本発明のデバイスは、乳突削開術、例えば慢性中耳炎への乳突削開鼓室形成術を含む乳様突起手術の範囲などで疾患または損傷となり得る外耳道の底部の修復または再生に用いられてもよい。これに関連して乳突充填は、乳突腔のサイズを低減するために、慢性中耳炎の後壁削除型乳突削開鼓室形成術の後に指示される。鼓室乳突または乳突充填の他の指示としては、側頭骨切除(外傷または腫瘍に続いて)および脳脊髄液漏出の再建が挙げられる。充填術を行わなければ、後壁削除型手術を受けた乳突腔は、永続的な耳漏となり、感染を受け易くなることから、乳突腔を頻繁に洗浄することになり、補聴器の使用が困難になり、水不耐性になり、眩暈を起こしがちになる可能性がある。充填技術の大部分は、局所皮弁(例えば、筋肉、骨膜、または筋膜)または遊離移植(例えば、骨片もしくは骨板、軟骨、脂肪、またはヒドロキシアパタイトなどのセラミック材料)のいずれかからなる。ヒドロキシアパタイトは、主要な自家移植材料であるが、これは、治癒期に生存組織で覆われる必要がある。プラスチックメッシュ、プロプラストおよび多孔質ポリプロピレンなどの自家移植片は、感染により長期間有効ではなかった。プロプラストは、巨細胞の継続的反応に関連することが見出された。持続的排路である瘻孔および肉芽組織により、プラスチックが徐々に不要になる。最後にアロプラストは、海面骨およびその幹細胞を欠き、辺縁的な血管分布を有する。
【0083】
つまり本発明のデバイスは、乳突削開鼓室形成術後の再建のための乳突充填技術において用いて、ヒドロキシアパタイトを含まない移植片を覆うことができる。
【0084】
該デバイスの別の利益は、剛性および安定性を提供することができ、手術後に見出される不適な中耳環境において、真珠腫、アテレクタシスおよび再発性耳漏の症例において非常に有用になることである。