(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の両面粘着シートについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の両面粘着シートの特徴点としては、粘着層の比誘電率の温度依存度を制御すると共に、剥離フィルム表面の表面自由エネルギーの分散成分を制御している点が挙げられる。温度依存度については後段において詳述するが、粘着層の温度依存度が低いということは、その粘着層がより疎水的な性質を示すことを表す。本発明者は、特定の温度依存度を示す、つまり、より疎水的な性質を示す粘着層と、所定の表面自由エネルギーの分散成分の範囲に表面特性が制御された剥離フィルムとを組み合わせることにより、所望の特性が得られることを見出している。
【0011】
以下、本発明の両面粘着シートの好適態様について図面を参照して説明する。
図1に、本発明の両面粘着シートの実施態様の断面図を示す。両面粘着シート10は、重剥離フィルム12、粘着層14、および軽剥離フィルム16がこの順に積層されてなるシートである。なお、本発明の両面粘着シートには基材は含まれず、いわゆる基材レス両面粘着シートに該当する。
以下では、各部材について詳述する。
【0012】
<重剥離フィルムおよび軽剥離フィルム>
重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムは、粘着層の両面に配置される層である。重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムは、それぞれ粘着層に対して異なる剥離力を有するフィルムである。より具体的には、軽剥離フィルムは、重剥離フィルムよりも小さい剥離力で粘着層から剥離することができる。なお、本明細書において、「重剥離」および「軽剥離」とは剥離強度の大きさを表すものではなく、2枚の剥離フィルムのうち粘着層に対して剥離力がより大きなものを重剥離フィルム、剥離力がより小さなものを軽剥離フィルムと称する。
なお、重剥離フィルムの粘着層に対する剥離力と、軽剥離フィルムの粘着層に対する剥離力との差は特に制限されないが、泣き別れがより発生しづらい点から、軽剥離フィルムの剥離力に対し、重剥離フィルムの剥離力が、1.5倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましい。上限は特に制限されないが、6.0倍以下の場合が多い。
なお、これら剥離力は、JIS−Z0237に準拠して測定されたものである。
【0013】
重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムは、後述する表面自由エネルギーの分散成分が所定の範囲であればその種類は特に制限されないが、表面に離型処理が施された樹脂フィルムである場合が多い。
離型処理としては、例えば、シリコーン系離型剤の塗布、長鎖アルキル系離型剤の塗布、フッ素系離型剤の塗布が挙げられる。
樹脂フィルムとしては公知のフィルムを使用することができ、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリスチレン等の各種の樹脂フィルムを使用できる。
【0014】
重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの粘着層側表面の表面自由エネルギーの分散成分の値は、11.0〜13.0mN/mmであり、長期保管後にも剥離フィルムと粘着層との間で剥離がより生じにくい、使用時に剥離フィルムがより剥離しやすい、または、粘着層の密着力がより優れる点で、11.2〜12.8mN/mmが好ましく、11.4〜12.6mN/mmがより好ましい。
上記表面自由エネルギーの分散成分の値が11.0mN/mm未満の場合、長期保管後において剥離フィルムと粘着層との間で剥離が生じやすく、粘着層の密着力にも劣る。また、表面自由エネルギーの分散成分の値が13.0mN/mm超の場合、粘着層から剥離フィルムが剥離しづらい。
また、重剥離フィルムの粘着層側表面の表面自由エネルギーの分散成分の値と、軽剥離フィルムの粘着層側表面の表面自由エネルギーの分散成分の値との差は0.2mN/mm以上であり、泣き別れがより生じにくい点で、0.25mN/mm以上が好ましく、0.30mN/mm以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、2.0mN/mm以下が好ましい。
上記差が0.2mN/mm未満の場合、泣き別れが生じやすい。
【0015】
重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの粘着層側表面の表面自由エネルギーの分散成分の測定方法としては、Owens and Wendt法(J. Appl. Polym. Sci., 13, 1741(1969).)に従って求めることができる。
つまり、重剥離フィルム(または、軽剥離フィルム)の表面上に、表面自由エネルギーが既知の液体を滴下し、Drop Master-700(協和界面科学社製)を用いて接触角を測定して、Owens and Wendt解析に基づく計算式より、表面自由エネルギーの分散成分を算出する。
Owens and Wendt解析とは、以下の式(1)〜(3)に基づいて、表面自由エネルギーの分散成分を形成することを意図する。
式(1):1+cosθ=2[(γ
Sd・γ
Ld)/γ
L2]
1/2+2[(γ
Sp・γ
Lp)/γ
L2]
1/2
式(2):γ
S=γ
Sd+γ
SP
式(3):γ
L=γ
Ld+γ
LP
ただし、θはそれぞれの試験液体での接触角、γ
Sdとγ
Ldはそれぞれ重剥離フィルム(または、軽剥離フィルム)と試験液体との表面自由エネルギーの分散成分、γ
Spとγ
Lpはそれぞれ重剥離フィルム(または、軽剥離フィルム)と試験液体との表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明では、試験液体として水およびヨウ化メチレンを使用する。試験液体として使用される水およびヨウ化メチレンの表面自由エネルギー値は、水:γ
Ld=21.8mJm
-2、γ
Lp=51.0mJm
-2、ヨウ化メチレン:γ
Ld=50.8mJm
-2、γ
Lp=0mJm
-2を用いるものとする。これらの数値を上記式(1)〜(3)に導入し、各試験液体を用いた接触角の数値を上記式に導入することにより、表面自由エネルギーの分散成分γ
Sdを算出することができる。
なお、接触角の測定方法としては、25℃で、試験液体を重剥離フィルム(または、軽剥離フィルム)上に滴下して、着滴から測定までの待ち時間を5秒として、JIS−R3257に記載してある「静滴法」に準拠したθ/2法で測定する。
【0016】
<粘着層>
粘着層は、重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの間に配置される層であり、各部材間の密着性を担保する層である。
粘着層は、後述する温度依存性評価試験から求められる比誘電率の温度依存度が20%以下である。なかでも、密着力がより優れる点で、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、10%未満がさらに好ましく、8%以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、低ければ低いほど好ましく、0%が最も好ましい。
【0017】
温度依存性評価試験の実施方法について、以下で詳述する。なお、以下で説明する各温度でのインピーダンス測定技術を用いた比誘電率の測定は、一般に容量法と呼ばれる。容量法は概念的には試料を電極で挟むことによってコンデンサを形成し、測定した容量値から誘電率を算出する方法である。
まず、
図2に示すように、測定対象である粘着層18(厚み:100〜500μm)を一対のアルミニウム電極200(電極面積:20mm×20mm)で挟み、40℃、5気圧、60分の加圧脱泡処理をして、評価用サンプルを作製する。
その後、サンプル中の粘着層の温度を−40℃から80℃まで20℃ずつ段階的に昇温して、各温度においてインピーダンスアナライザー(Agilent社4294A)を用いた1MHzでのインピーダンス測定により静電容量Cを求める。その後、求められた静電容量Cと粘着層の厚みTとを掛け合わせた後、得られた値をアルミニウム電極の面積Sと真空の誘電率ε
0(8.854×10
−12F/m)の積で割り、比誘電率を算出する。つまり、式(X):比誘電率=(静電容量C×厚みT)/(面積S×真空の誘電率ε
0)にて比誘電率を算出する。
より具体的には、粘着層の温度が−40℃、−20℃、0℃、20℃、40℃、60℃、および80℃となるように段階的に昇温して、各温度において粘着層の温度が安定するまで5分間放置した後、その温度において1MHzでのインピーダンス測定により静電容量Cを求め、得られた値から各温度における比誘電率を算出する。
なお、粘着層の厚みは、少なくとも5箇所以上の任意の点における粘着層の厚みを測定して、それらを算術平均した値である。
その後、算出された比誘電率のなかから、最小値と最大値を選択して、両者の差分の最小値に対する割合を求める。より具体的には、式[{(最大値−最小値)/最小値}×100]より計算される値(%)を求め、その値を温度依存度とする。
【0018】
図3に、温度依存性評価試験結果の一例を示す。なお、
図3の横軸は温度、縦軸は比誘電率を示す。また、
図3は2種の粘着層の測定結果の一例であり、一方は白丸、他方は黒丸の結果で示される。
図3を参照すると、白丸で示される粘着層Aにおいては、各温度における比誘電率が比較的近接しており、その変化も小さい。つまり、粘着層Aの比誘電率は、温度による変化が少ないことを示している。なお、粘着層Aの温度依存度(%)は、
図3中の白丸の最小値であるA1と最大値であるA2とを選択して、式[(A2−A1)/A1×100]により求めることができる。
一方、黒丸で示される粘着層Bにおいては、温度が上昇するにつれて、比誘電率が大きく上昇し、その変化が大きい。つまり、粘着層Bの比誘電率は温度による変化が大きいことを示している。なお、粘着層Bの温度依存度(%)は、
図3中の黒丸の最小値であるB1と最大値であるB2とを選択して、式[(B2−B1)/B1×100]により求めることができる。
つまり、上記温度依存度とは温度による誘電率の変化の程度を示しており、この値が小さいと、低温(−40℃)から高温(80℃)にわたって比誘電率の変化が起きにくい。一方、この値が大きいと、低温(−40℃)から高温(80℃)にわたって比誘電率の変化が起こりやすい。後述するように、温度依存度が低いということは粘着層がより疎水性であることを意図し、上記の例においては、粘着層Aのほうが粘着層Bよりも、より疎水性であることを表す。
【0019】
本発明者らは、上記温度依存度が粘着層の極性と大きく相関することを見出している。つまり、極性の高い粘着層の場合には上記温度依存度が大きくなり、極性の小さい粘着層の場合には上記温度依存度が小さくなる。極性が高い粘着層とは、OH基や−CO−基などの極性基が多く含まれる。このような粘着層では極性基に由来する双極子−双極子モーメントが比誘電率に寄与するため、環境温度によって比誘電率が大きく変化することを知見している。
それに対して、上述した温度依存度20%以下の場合は、粘着層の極性が低く、言い換えると粘着層がより疎水性を示し、上述した重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの表面特性との関係がより良好となり、所望の効果が得られる。
【0020】
また、上記温度依存度は、粘着層中に含まれる粘着剤の無機性値(I値)と有機性値(O値)との比(I/O比)と一定の相関関係がある。
以下では、まず、I/O比について詳述する。
無機性値(I値)と有機性値(O値)との比(I/O比)は、有機概念図における計算方法より算出される。有機概念図は藤田らにより提案されたものであり、有機化合物の化学構造から種々の物理化学的性状を予測する有効な手法である(甲田善生著、有機概念図−基礎と応用−、三共出版(1984)参照)。有機化合物の極性は炭素原子数や置換基により左右されることから、メチレン基の有機性値を20とし、水酸基の無機性値を100とした場合を基準として、他の置換基の無機性値および有機性値を定め、有機化合物の無機性値および有機性値を算出するものである。無機性値の大きい有機化合物は極性が高く、有機性値の大きい有機化合物は極性が低い。
藤田氏による、主要な基の有機性値および無機性値を、以下の表1にまとめて示す。
【0022】
上記表1に示すように、無機性値が大きい化合物は主に、CH
2が多く含まれていることが分かる。そのため、I/O比が小さい化合物とは、−OH基や、−COOR基などの極性基の含有量が低く、主にCH
2(メチレン基)で構成される化合物であることが分かる。
【0023】
本発明者らは、I/O比が小さい化合物は、比較的、温度依存度が小さいことを見出している。その理由としては、上述したように、粘着剤中にカルボニル基など極性が多く含まれている場合、それらの基に由来する双極子−双極子モーメントによって、粘着剤の比誘電率が温度により大きく変化する。つまり、温度依存度が、比較的、高くなる。
それに対して、上述したように、I/O比が小さい化合物は極性基の含有量が少ないため、粘着剤の比誘電率が温度により変化しにくく、結果として温度依存度が低下する。
【0024】
粘着層中で使用される粘着剤の無機性値(I値)と有機性値(O値)との比(I/O比)は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.05〜0.30が好ましく、0.08〜0.30がより好ましく、0.12〜0.28がさらに好ましく、0.15〜0.28が特に好ましい。
なお、上記の粘着剤の有機性値(O値)、無機性値(I値)およびその比(I/O比)は、上記書籍の手法に従って算出することができる。なお、繰り返し単位を含む高分子とその混合物である粘着剤は、上記書籍記載の手法に基づいて算出することができる。
上記I値、O値、およびI/O比の具体的算出手法については、上記の「新版 有機概念図 基礎と応用」の共著である本間らがExcel用有機概念図計算シートとして公開(http://www.ecosci.jp/sheet/orgs_help.html)しており、これを利用して算出できる。
【0025】
粘着層の厚みは特に制限されないが、5〜2500μmであることが好ましく、20〜500μmであることがより好ましい。上記範囲内であれば所望の可視光の透過率が得られ、且つ、取り扱いも容易である。
粘着層は、光学的に透明であることが好ましい。つまり、透明粘着層であることが好ましい。光学的に透明とは、全光線透過率は85%以上であることを意図し、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
【0026】
粘着層を構成する材料(粘着剤)としては上記温度依存度を満たしていれば、その種類は特に制限されない。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。なお、ここでアクリル系粘着剤とは、アクリルモノマーおよび/またはメタクリルモノマーの重合体((メタ)アクリルポリマー)を含む粘着剤である。上記アクリル系粘着剤には、上記重合体がベースポリマーとして含まれるが、他の成分(後述する粘着付与剤、ゴム成分など)が含まれていてもよい。
なお、(メタ)アクリルポリマーとは、アクリルポリマーおよびメタアクリルポリマーのいずれか一方またはその両方を含む概念である。
【0027】
上記(メタ)アクリルポリマーを製造するために使用されるモノマー((メタ)アクリレートモノマー)としては、粘着層が上記温度依存度を示せば、公知の材料を使用できる。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタアクリレートのいずれか一方またはその両方を含む概念である。
【0028】
粘着層の好適態様の一つとしては、アクリル系粘着剤を含む態様が挙げられ、特に、少なくとも炭素数4以上の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー由来の繰り返し単位を有する(メタ)アクリルポリマーが粘着層に含まれることが好ましい。なお、(メタ)アクリレートモノマーとは、アクリレートモノマーおよびメタクリレートモノマーのいずれか一方またはその両方を含む概念である。
上記炭素数の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記炭素数の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、上記炭素数の鎖状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー、および、上記炭素数の環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。炭素数としては、6以上が好ましく、6〜20がより好ましく、8〜16がさらに好ましい。
【0029】
(メタ)アクリレートモノマーの好適態様の一つとしては、極性基(ただし、エステル基を除く)を含まないことが好ましい。極性基が含まれる場合、温度依存度が高くなる傾向がある。極性基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、ウレタン基、ウレア基、カルボン酸基などが挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリルポリマーの好適態様の一つとしては、炭素数4以上の鎖状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー由来の繰り返し単位、および、炭素数4以上の環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー由来の繰り返し単位を有する(メタ)アクリルポリマーが挙げられる。なお、各繰り返し単位中の鎖状脂肪族炭化水素基および環状脂肪族炭化水素基中の炭素数の好適範囲は、6以上が好ましく、6〜20がより好ましく、8〜16がさらに好ましい。
なお、(メタ)アクリルポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲で上述した以外のモノマー(例えば、カルボン酸基含有(メタ)アクリレート(例えば、アクリル酸)、水酸基含有(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート))由来の繰り返し単位が含まれていてもよい。
さらに、(メタ)アクリルポリマーは、架橋構造を有していてもよい。架橋構造の形成方法は特に制限されず、2官能(メタ)アクリレートモノマーを使用する方法や、(メタ)アクリルポリマーに反応性基(例えば、水酸基)を導入し、反応性基と反応する架橋剤と反応させる方法などが挙げられる。後者の方法の具体例としては、水酸基、1級アミノ基および2級アミノ基からなる群より選ばれる1種以上の活性水素を有する基を有する(メタ)アクリレートモノマー由来の繰り返し単位を有する(メタ)アクリルポリマーと、イソシアネート系架橋剤(2つ以上のイソシアネート基を有する化合物)とを反応させて、粘着層を作製する方法が挙げられる。
なお、(メタ)アクリレートモノマーは、一つの(メタ)アクリロイル基が含まれる単官能の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0031】
粘着層中における(メタ)アクリルポリマーの含有量は特に制限されないが、粘着層の粘着性がより優れ、本発明の効果がより優れる点で、粘着層全質量に対して、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。
【0032】
粘着層には、さらに、粘着付与剤が含まれていてもよい。
粘着付与剤としては、貼付剤または貼付製剤の分野で公知のものを適宜選択して用いればよい。例えば、石油系樹脂(例えば、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂肪族/芳香族混成石油樹脂、C9留分による樹脂など)、テルペン系樹脂(例えば、αピネン樹脂、βピネン樹脂、αピネン/βピネン/ジペンテンのいずれかの混合物を共重合して得られる樹脂、テルペンフェノール共重合体、水添テルペンフェノール樹脂、芳香族変性水添テルペン樹脂、アビエチン酸エステル系樹脂)、ロジン系樹脂(例えば、部分水素化ガムロジン樹脂、エリトリトール変性木材ロジン樹脂、トール油ロジン樹脂、ウッドロジン樹脂、ガムロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、重合ロジン、ロジンフェノール、ロジンエステル)、クマロンインデン樹脂(例えば、クマロンインデンスチレン共重合体)等が挙げられる。
粘着付与剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、2種以上を組み合わせて使用する場合には、例えば、種類の異なる樹脂を組み合わせてもよく、同種の樹脂で軟化点の異なる樹脂を組み合わせてもよい。
粘着層中における粘着付与剤の含有量は特に制限されないが、粘着層の粘着性がより優れ、本発明の効果がより優れる点で、粘着層全質量に対して、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0033】
粘着層には、さらに、ゴム成分(柔軟化剤)が含まれていてもよい。
ゴム成分としては、例えば、ポリオレフィンまたは変性ポリオレフィンなどが挙げられる。上記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリブタジエン(変性液状ポリブタジエンや、1,4−ブタジエン、1,2−ブタジエンまたはそのコポリマー混合物の重合体など)、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブテン、スチレンブタジエン共重合体、あるいはこれらの群から任意に選ばれた組み合わせの共重合体やポリマー混合物などが挙げられる。
なお、本明細書においては、上記ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、または、これらの水添物は、ポリオレフィンの1種として取り扱う。
粘着層中におけるゴム成分の含有量は特に制限されないが、粘着層の粘着性がより優れ、本発明の効果がより優れる点で、粘着層全質量に対して、20〜75質量%が好ましく、25〜60質量%がより好ましい。
【0034】
粘着層の好適態様の一つとしては、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含む硬化性粘着剤組成物に硬化処理を施して得られる粘着層が挙げられる。(メタ)アクリレートモノマーの定義は上述の通りである。
(メタ)アクリレートモノマーの好適態様の一つとしては、炭素数4以上の鎖状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマー、および、炭素数4以上の環状脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートモノマーが挙げられ、これらを併用する態様がより好ましい。
【0035】
また、上記硬化性粘着剤組成物には、上記粘着付与剤が含まれることが好ましい。
硬化性粘着剤組成物中における粘着付与剤の含有量は特に制限されないが、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、80〜320質量部が好ましく、120〜270質量部がより好ましい。
【0036】
さらに、上記硬化性粘着剤組成物には、上記ゴム成分が含まれることが好ましい。
なお、ゴム成分としては、重合性基を有するゴム成分が含まれていてもよい。つまり、上記硬化性粘着剤組成物には、重合性基を有するゴム成分、および/または、重合性基を有さないゴム成分が含まれていてもよい。なお、重合性基としては、公知のラジカル重合性基((メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、スチリル基、アリル基など)や、公知のカチオン重合性基(エポキシ基など)が挙げられる。重合性基を有するゴム成分としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、水添ポリブタジエン、および、水添ポリイソプレンからなる群から選ばれる1種が挙げられる。
硬化性粘着剤組成物中におけるゴム成分の含有量は特に制限されないが、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、70〜320質量部が好ましく、100〜280質量部がより好ましい。
【0037】
さらに、上記硬化性粘着剤組成物には、重合開始剤が含まれることが好ましい。
重合開始剤としては、光重合開始剤や熱重合開始剤を用いることができ、光重合開始剤が好ましく使用される。
なお、光重合開始剤の種類は特に制限されず、公知の光重合開始剤(ラジカル光重合開始剤、カチオン光重合開始剤)を使用できる。例えば、アルキンフェノン系光重合開始剤、メトキシケトン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、ヒドロキシケトン系光重合開始剤(例えば、IRGACURE184;1,2−α−ヒドロキシアルキルフェノン)、アミノケトン系光重合開始剤(例えば、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン(IRGACURE(登録商標)907))、オキシム系光重合開始剤が挙げられる。
硬化性粘着剤組成物中における重合開始剤の含有量は特に制限されないが、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、0.1〜25質量部が好ましく、0.1〜20質量部がより好ましい。
【0038】
さらに、上記硬化性粘着剤組成物には、ポリマー分子量を下げ、粘着層の弾性率を低下させる点で、連鎖移動剤が含まれることが好ましい。
連鎖移動剤の種類は特に制限されず、公知の連鎖移動剤(例えば、1−ドデカンチオール、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート等)が使用される。
硬化性粘着剤組成物中における連鎖移動剤の含有量は特に制限されないが、(メタ)アクリレートモノマー100質量部に対して、0〜40質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
【0039】
硬化性粘着剤組成物には、必要に応じて、溶媒が含まれていてもよい。使用される溶媒としては、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、酢酸エチル等のエステル類、エーテル類等)、またはこれらの混合溶媒を挙げることができる。
硬化性粘着剤組成物には、上記以外にも、表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、無機または有機の充填剤、金属粉、顔料などの粉体、粒子状、箔状物などの従来公知の各種の添加剤を使用する用途に応じて適宜添加することができる。
【0040】
<両面粘着シートの製造方法>
両面粘着シートの製造方法は特に制限されず、例えば、重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの一方の表面に硬化性粘着剤組成物に塗布して、得られた塗膜上に重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの他方を積層して、塗膜に対して硬化処理を施して粘着層を形成する方法(塗布方法)や、仮支持体上で作製した粘着層を重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの一方の表面に転写して、転写された粘着層の露出表面に重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの他方を積層する(転写方法)などが挙げられる。
以下では、塗布方法の態様について詳述する。
【0041】
硬化性粘着剤組成物を塗布する方法は公知の方法が挙げられ、例えば、アプリケーター、グラビアコート、カーテンコート、コンマコーター、スロットダイコーター、リップコーターなどの既知の塗布装置が用いられる。
塗布後は必要に応じて、揮発成分を除去するために、乾燥処理を実施してもよい。
【0042】
重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの一方の表面に硬化性粘着剤組成物に塗布して塗膜を形成した後、塗膜の表面に重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの他方を積層し、塗膜に対して硬化処理を施す。
なお、重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの表面と塗膜とを接触させる際には、上述した表面自由エネルギーの分散成分の値が所定値である表面を塗膜側に配置する。
【0043】
塗膜に施される硬化処理としては、光照射処理(光硬化処理)または加熱処理(熱硬化処理)が挙げられる。特に、光硬化処理により粘着層を形成すると、比較的、粘着層の経時変形が少なくなりやすく、製造適性上好ましい。
光照射処理の条件は特に制限されず、紫外線を発生させて照射して光硬化させるという紫外線照射法が好ましい。このような方法に用いる紫外線ランプとして、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプが挙げられる。これらの紫外線ランプの中でも、メタルハライドランプまたは高圧水銀ランプを用いることが好ましい。
また、照射条件はそれぞれのランプの条件によって異なるが、通常、照射露光量は20〜10000mJ/cm
2の範囲であればよく、100〜3000mJ/cm
2の範囲であることが好ましい。
また、加熱処理において、熱を与える手法はオーブン、リフロー炉、IRヒーターなど適切な手法から選定されてよい。さらには光硬化処理と熱硬化処理を適宜組み合わせてもよい。
【0044】
上述した両面粘着シートは種々の用途に適用でき、例えば、タッチパネルの製造に適用することができる。
【0045】
両面粘着シートから重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する方法は特に制限されないが、重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムの剥離時にジッピング(不連続に剥離する現象)が生じ難く、重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムが剥離された粘着層の面に凹凸が生じにくい点から、以下の要件1および要件2の少なくとも一方を満足することが好ましい。
(要件1)重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する際、剥離速度が40m/min以上または0.25m/min以下である
(要件2)重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する際、粘着層の温度が35℃以上または5℃以下である
【0046】
上記要件1は、両面粘着シートから重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する際、剥離速度が40m/min以上または0.25m/min以下であることを規定する。剥離速度が前者(40m/min以上)の場合の態様における上限値は特に制限されないが、通常、100m/min以下の場合が多く、剥離速度が後者(0.25m/min以下)の場合の態様における下限値は特に制限されないが、通常、0.1m/min以上の場合が多い。
剥離速度が40m/min以上である場合、重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムの剥離の際に、粘着層表面が剥離されるフィルムに追従できないためジッピングの発生が抑制される。一方、剥離速度が0.25m/min以下の場合、粘着層表面が柔軟に形状変化することができるためジッピングの発生が抑制される。
なかでも、ジッピングの発生がより抑制できる点で、剥離速度は80m/min以上または0.15m/min以下が好ましい。
【0047】
上記要件2は、両面粘着シートから重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する際、粘着層の温度が35℃以上または5℃以下であることを規定する。粘着層の温度が前者(35℃以上)の場合の態様における上限値は特に制限されないが、通常、80℃以下の場合が多く、粘着層の温度が後者(5℃以下)の場合の態様における下限値は特に制限されないが、通常、−80℃以上の場合が多い。
粘着層の温度が35℃以上の場合、重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムの剥離の際に、粘着層表面が柔軟に形状変化することができるためジッピングの撥生が抑制される。一方、粘着層の温度が5℃以下の場合、重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムの剥離の際に、粘着層表面が剥離されるフィルムに追従できないためジッピングの発生が抑制される。 なかでも、ジッピングの発生がより抑制できる点で、粘着層の温度は40℃以上または−5℃以下が好ましい。
【0048】
両面粘着シートから重剥離フィルムまたは軽剥離フィルムを剥離する際の方法は公知の方法を採用でき、例えば、公知の剥離装置を用いて、重剥離フィルム(または軽剥離フィルム)の一端を把持して、粘着層から遠ざけるように剥離する方法が挙げられる。
また、粘着層の温度の調整方法は特に制限されず、例えば、オーブンなどの加熱装置や、冷蔵庫などの冷却装置などに一定時間粘着シートを静置して、所定の温度に到達させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(製造例1)
ポリイソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとのエステル化物(商品名 UC203、(株)クラレ製、分子量36000)21.8質量部、ポリブタジエン(商品名 Polyvest110、エボニックデグサ社製)11.4質量部、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(商品名 FA512M、日立化成工業(株)製)5質量部、2−エチルヘキシメタクリレート(和光純薬社製)20質量部、テルペン系水素添加樹脂(商品名 クリアロンP−135、ヤスハラケミカル(株)製)38.8質量部を130℃の恒温槽中で混練機にて混練し、続いて、恒温槽の温度を80℃に調整し、光重合開始剤(商品名 Lucirin TPO、BASF社製)0.6質量部、および、光重合開始剤(商品名 IRGACURE184、BASF社製)2.4質量部を投入し、混練機にて混練し、粘着剤1を調製した。
得られた粘着剤1を、表2に示す所定の75μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)の表面処理面上に、形成される粘着層の厚みが100μm厚となるよう塗布し、得られた塗膜上に、表2に示す所定の所望の50μm厚剥離フィルム(軽剥離フィルム)の表面処理面を貼り合せた。メタルハライドUVランプ(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて、剥離フィルムで挟まれた塗膜に照射エネルギーが1J/cm
2になるようにUV光を照射し、両面粘着シート(両面粘着シート1、3、5、7、および、11)を得た。
【0051】
(製造例2)
ポリイソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとのエステル化物(商品名 UC102、(株)クラレ製、分子量19000)21.8質量部、ポリブタジエン(商品名 Polyvest110、エボニックデグサ社製)8.8質量部、イソボルニルアクリレート(東京化成社製)20質量部、2−エチルヘキシアクリレート(和光純薬社製)5質量部、ドデカンチオール(東京化成社製)2.6質量部、テルペン系水素添加樹脂(商品名 クリアロンP−135、ヤスハラケミカル(株)製)38.8質量部を130℃の恒温槽中で混練機にて混練し、続いて、恒温槽の温度を80℃に調整し、光重合開始剤(商品名 Lucirin TPO、BASF社製)3質量部を投入し、混練機にて混練し、粘着剤2を調製した。
得られた粘着剤2を、表2に示す75μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)の表面処理面上に、形成される粘着層の厚みが100μm厚となるよう塗布し、得られた塗膜上に、表2に示す50μm厚剥離フィルム(軽剥離フィルム)の表面処理面を貼り合せた。メタルハライドUVランプ(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて、剥離フィルムで挟まれた塗膜に照射エネルギーが1J/cm
2になるようにUV光を照射し、両面粘着シート(両面粘着シート2、4、6、8、9、10、および12)を得た。
【0052】
(製造例3)
アクリル酸4−ヒドロキシブチル単位(4−HBA)4.5質量%とアクリル酸ブチル単位60質量%およびアクリル酸メチル単位35.5質量%を有するアクリル系粘着剤主剤100質量部に、架橋剤としてトリレンジイソシアネート系化合物(商品名 コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)を0.3質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名 IRGANOX1010、BASFジャパン(株))を0.7質量部、リン系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名 IRGAFOS168、BASFジャパン(株))を0.5質量部、を配合して、粘着剤3(カルボキシ基含有割合0質量%)を得た。
得られた粘着剤3を、表2に示す75μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)上に、形成される粘着層の厚みが100μm厚となるよう塗工し、100℃、3分間加熱して、粘着層を形成した。この粘着層に、表2に示す50μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)を貼り合わせて、両面粘着シート13を得た。
【0053】
(製造例4)
イソプレン重合物(商品名 LIR−30、クラレ社製)16質量部、ポリブタジエン(商品名 Polyvest110、エボニックデグサ社製)16.5質量部、イソボルニルアクリレート(東京化成社製)15.5質量部、2−エチルヘキシアクリレート(和光純薬社製)7.5質量部、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(商品名 サイクロマーM−100、ダイセル社製)2質量部、テルペン系水素添加樹脂(商品名 クリアロンP−135、ヤスハラケミカル(株)製)39質量部、リン系加工熱安定剤(商品名 Irgafos168、BASF社製)0.5質量部を130℃の恒温槽中で混練機にて混練し、続いて、恒温槽の温度を80℃に調整し、光重合開始剤1(商品名 Lucirin TPO、BASF社製)を1.5質量部、光重合開始剤2(商品名 Irgacure819)を1質量部、光重合開始剤3(商品名 Irgacure184)を0.5質量部、を投入し、混練機にて混練し、粘着剤4を調製した。
得られた粘着剤4を、表2に示す75μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)の表面処理面上に、形成される粘着層の厚みが200μm厚となるよう塗布し、得られた塗膜上に、表2に示す50μm厚剥離フィルム(軽剥離フィルム)の表面処理面を貼り合せた。メタルハライドUVランプ(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて、剥離フィルムで挟まれた塗膜に照射エネルギーが2.5J/cm
2になるようにUV光を照射し、両面粘着シート(両面粘着シート14)を得た。
【0054】
(I/O比の計算方法)
有機概念図におけるI値やO値の定義は上記「新版 有機概念図 基礎と応用」(以下、叢書とも称する)に詳細に記載されており、本発明もその記載に従い、上記叢書に記載の方法に従って、粘着剤のI/O比を計算した。
より具体的には、まず、公知の方法(例えば、
1HNMR測定)を用いて、各製造例で製造された粘着剤1〜4中に含まれる各繰り返し単位のモル%を算出する。
I値とO値は、上記叢書においては各繰り返し単位に含まれる各原子(例えば、炭素原子やハロゲンやリン原子)や、各基(例えば、不飽和結合基、芳香環基、ヘテロ原子を含む連結基、シアノ基、ニトロ基、等)に定められたパラメータ値と、それらの各原子や各基の割合との積の和から算出される。したがって、上記の各繰り返し単位中に含まれる各基の割合と各繰り返し単位のモル%とから、全ポリマー中における各基の割合を算出し、これらと上記叢書に記載されるパラメータ値とを用いて、I値およびO値を算出することができる。なお、I/O比とはI値をO値で除した数として得られる。
なお、粘着剤1のI/O比は0.162、粘着剤2のI/O比は0.171、粘着剤3のI/O比は0.782であった。
【0055】
<各種評価>
上記で得られた両面粘着シート1〜14を用いて、以下の評価を行った。
【0056】
(剥離力評価)
AUTOGRAPH AGS-J(島津製作所社製)を用いて、以下の方法に従って剥離力を評価した。
まず、各両面粘着シートを、幅25mm、長さ150mmに切出した。
次に、軽剥離フィルムのみを残して長手方向100mm分の粘着層と重剥離フィルムを除去し、残った50mm分の重剥離フィルムを、両面テープを介して基材(ステンレス)に2キログラム重ローラーを1往復させて貼り付け、軽剥離フィルムを180度の方向、300mm/secの速度で引っ張る引張り試験を行い、軽剥離フィルムの粘着層に対する剥離力(軽剥離力)(N/mm)を求めた。
また、重剥離フィルムのみを残して長手方向100mm分の粘着層と軽剥離フィルムを除去し、残った軽剥離フィルムを剥離して、露出した粘着層の表面を基材(ステンレス)に2キログラム重ローラーを1往復させて貼り付け、重剥離フィルムを180度の方向、300mm/secの速度で引っ張る引張り試験を行い、重剥離フィルムの粘着層に対する剥離力(重剥離力)(N/mm)を求めた。
なお、重剥離力が0.08N/mm以下であり、かつ、軽剥離力が0.03N/mm以下の場合を剥離性が良好(「A」)と、重剥離力が0.08N/mm超である、または、軽剥離力が0.03N/mm超である場合を剥離性が悪い(「B」)とした。
【0057】
(泣き別れ評価)
各両面粘着シートをφ16mmの大きさに打ち抜き、3枚のサンプルを用意した。各サンプルについてテープで軽剥離フィルムを剥離し、剥離時の粘着層の状態を以下の基準に従って評価した。3枚のサンプルの評価結果のうち、3枚が「A」であれば両面粘着シートの泣き別れ評価は「A」、1枚でも「B」があれば両面粘着シートの泣き別れ評価は「B」とした。
「A」:泣き別れなし
「B」:泣き別れあり
【0058】
(密着力評価)
各両面粘着シートを25mm×50mmに切出し、軽剥離フィルムを剥離して露出した粘着層の面をガラス(コーニング イーグルXG 75×50×1100mm)に貼合し、次に、重剥離フィルムを剥離して露出した粘着層の面をポリイミドシート(カプトン 100H 30mm×140mm)に2キログラム重ローラーを1往復させて幅方向を合わせて貼合し、その後40℃、5気圧にて20分間、加圧脱泡処理を施した。1日放置した後、ポリイミドシートの一端を把持して、180度の方向、300mm/secの速度で引張り試験を行った。
得られた剥離力(N/mm)が、基準値よりも大きい、または、基準値と比べて5%以内である場合を「A」、5%超である場合を「B」とした。上記評価方法としては、まず、重剥離フィルムとしてNZ208(東洋紡社製)、軽剥離フィルムとしてNZ211(東洋紡社製)を使用して、上述した(製造例1)〜(製造例4)と同様の手順に従って、それぞれ粘着剤1〜4を用いた基準サンプル1〜4(例えば、粘着剤1を用いて作製された基準サンプルは「基準サンプル1」に該当)を作製した。次に、作製した基準サンプルを用いて上記方法にて剥離力を測定して、各基準サンプルの剥離力(基準値)を求めた。その後、実施例および比較例にて使用された各両面粘着シート中の粘着層中の粘着剤の種類にあわせて、実施例および比較例にて使用された各両面粘着シートより得られる剥離力と、基準サンプルより得られた剥離力との差(%)[{(基準サンプルでの剥離力−各両面粘着シートでの剥離力)/基準サンプルでの剥離力}×100]を求めた。より具体的には、粘着シート1では粘着剤1が使用されているので、基準サンプル1の剥離力との比較を行った。
【0059】
(経時剥離評価)
上記粘着剤1〜4のそれぞれを、1100mm幅のロール状の表2に示す75μm厚剥離フィルム(重剥離フィルム)上に100μm厚となるように塗布して塗膜を形成し、塗膜上に表2に示す同ロール状の50μm厚剥離フィルム(軽剥離フィルム)を積層し、各両面粘着シートの製造条件と同様の条件に硬化させた後、得られたロール状両面粘着シートを6インチのプラスチックコアに巻き取った。巻き取られたロール状両面粘着シートを宙つり状態で6ヶ月間、常温にて保管し、保管後の面状評価を行った。粘着層と剥離フィルムとの間に剥離が発生している場合はB、発生していない場合はAとした。
なお、上記経時剥離評価で使用される各実施例および比較例のサンプルでの、粘着剤、重剥離フィルムおよび軽剥離フィルムの組み合わせは表2の組み合わせに従った。
【0060】
(温度依存性評価)
各両面粘着シート表面の一方の剥離フィルムを剥離して、露出している粘着層(厚み:100μmまたは200μm)を縦20mm×横20mm、厚さ0.5mmのAl(アルミニウム)電極上に貼り合せた後、他方の剥離フィルムを剥離して、露出している粘着層に上記Al電極を貼り合せて、その後40℃、5気圧、60分の加圧脱泡処理をして、温度依存性評価試験用サンプルを作製した。
なお、各サンプル中における粘着層の厚みは、マイクロメーターで温度依存性評価試験用サンプルの厚さを5か所測定し、その平均値からAl電極2枚分の厚さを差し引き、粘着層の厚さを算出した。
【0061】
上記で作製した温度依存性評価試験用サンプルを用いて、インピーダンスアナライザー(Agilent社4294A)にて1MHzでのインピーダンス測定を行い、粘着層の比誘電率を測定した。
具体的には、温度依存性評価試験用サンプルを−40℃から80℃まで20℃ずつ段階的に昇温して、各温度においてインピーダンスアナライザー(Agilent社4294A)を用いた1MHzでのインピーダンス測定により静電容量Cを求めた。なお、各温度では、サンプルの温度が一定になるまで5分間静置した。
その後、求められた静電容量Cを用いて、以下の式(X)より各温度における比誘電率を算出した。
式(X):比誘電率=(静電容量C×厚みT)/(面積S×真空の誘電率ε
0)
なお、厚みTは粘着層の厚みを、面積Sはアルミニウム電極の面積(縦20mm×横20mm)を、真空の誘電率ε
0は物理定数(8.854×10
-12F/m)を意図する。
算出された比誘電率のなかから、最小値と最大値とを選択し、式[{(最大値−最小値)/最小値}×100]より温度依存度(%)(Δε%)を求めた。
なお、温度の調整は、低温の場合は液体窒素冷却ステージを用いて、高温の場合はホットプレートを用いて実施した。
【0062】
表2中、「重剥離フィルム」欄の「種類」欄、および、「軽剥離フィルム」欄の「種類」欄に示す、記号は各社での製品名を表し、使用した剥離フィルムの種類は以下の通りである。
「T−204」:コートフィルム、リンテック社製
「CA0」:シリコーン剥離フィルム、フジコー社製
「WZ」:セラピール、東レ社製
「CA1」:シリコーン剥離フィルム、フジコー社製
「NZ208」:エステルフィルム、東洋紡社製
「1130」:コートフィルム、リンテック社製
「1130H」:コートフィルム、リンテック社製
「C1」:シリコーン剥離フィルム、フジコー社製
「MFA」:セラピール、東レ社製
「NZ211」:エステルフィルム、東洋紡社製
「BKE」:セラピール、東レ社製
「Q2」: PETセパレーター、ニッパ社製
【0063】
表2中、表面自由エネルギーの分散成分の値は、上述した方法により測定した。
また、表2中、「−」は未実施を意図する。
【0064】
【表2】
【0065】
上記表2に示すように、本発明の両面粘着シートは所望の効果が得られることが確認された。
一方、剥離フィルムの表面自由エネルギーの分散成分が所定の範囲でない比較例1、2および4、重剥離フィルムの表面自由エネルギーの分散成分の値と軽剥離フィルムの表面自由エネルギーの分散成分の値との差が所定の範囲でない比較例3、並びに、温度依存度が所定の範囲でない比較例5では所望の効果は得られなかった。
【0066】
上記にて作製した両面粘着シート4および両面粘着シート14を用いて、以下のジッピング評価を実施した。
【0067】
(ジッピング評価)
両面粘着シート(両面粘着シート4または両面粘着シート14)を幅25mm、長さ150mmに切出し、長手方向100mm分の粘着層と軽剥離フィルムを除去し、残った軽剥離フィルムを剥離して基材に貼り付けて測定サンプルを作製し、室温環境下にて、表3に示す所定の剥離速度で重剥離フィルムの剥離試験を行った。
また、表4に示すように、粘着層の温度を変更する際には、室温よりも高温側に粘着層の温度を調整する場合にはホットプレート上に測定サンプルを静置し、室温よりも低温側に粘着層の温度を調整する場合には冷蔵庫または冷凍庫に測定サンプルを静置し、粘着層の温度が所定の温度に到達するのに十分な時間を経過した後、ホットプレートまたは冷蔵庫(もしくは冷凍庫)から測定サンプルを取り出し、すぐに剥離試験機に設置して、試験を行った。
剥離試験は、オートグラフ装置(島津製作所社製:AGS-J)、高速剥離試験装置(今田製作所社製)を用いた。剥離時に、騒音が発生したり、粘着層に周期的な凹凸が発生したり、得られた剥離力と引張りストロークの関係のデータに周期的な振動が見られた場合は、ジッピング発生(C)、見られない場合は、ジッピングなし(A)、僅かに見られる場合はジッピング僅かにあり(B)と判定した。
なお、剥離速度が0.5m/minまではオートグラフ装置にて実施し、剥離速度が0.5m/min超の場合は高速剥離試験装置を用いた。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
上記表3に示すように、例10〜11、例14〜17、および、例20〜21から分かるように、剥離速度が40m/min以上または0.25m/min以下の場合、ジッピングの発生が抑制されることが確認された。
また、上記表4に示すように、例30〜31、例34〜37、および、例40〜41から分かるように、粘着層の温度が35℃以上または5℃以下の場合、ジッピングの発生が抑制されることが確認された。