特許第6240625号(P6240625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社プラント・ツリースの特許一覧

<>
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000002
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000003
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000004
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000005
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000006
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000007
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000008
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000009
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000010
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000011
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000012
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000013
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000014
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000015
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000016
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000017
  • 特許6240625-擁壁、造成地及び造成地の造成方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240625
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】擁壁、造成地及び造成地の造成方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20171120BHJP
   E02D 29/02 20060101ALI20171120BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   E02D17/18 Z
   E02D29/02 304
   E02D29/02 312
   E03F1/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-23734(P2015-23734)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-145500(P2016-145500A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年5月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310018272
【氏名又は名称】株式会社プラント・ツリース
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】極檀 春彦
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−050474(JP,A)
【文献】 特開平03−132524(JP,A)
【文献】 特開平06−101242(JP,A)
【文献】 特開平10−075849(JP,A)
【文献】 特開2010−275815(JP,A)
【文献】 特開平11−343622(JP,A)
【文献】 特開昭49−059405(JP,A)
【文献】 特開平05−132994(JP,A)
【文献】 特開2002−088892(JP,A)
【文献】 特開2008−231900(JP,A)
【文献】 特開昭50−049806(JP,A)
【文献】 特開2007−308882(JP,A)
【文献】 特開2010−127038(JP,A)
【文献】 宅地造成等規制法施行令,日本,2015年 1月30日,第六条一項、別表第一(第六条関係),URL,http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S37/S37SE016.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18、29/02
E03F 1/00−3/02
E03F 5/14−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として用地の地質の安息角の角度で引いた安息角ラインを越えておらず、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通していることを特徴とする擁壁。
【請求項2】
高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として水平面に対して35度の角度で引いたラインを越えておらず、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は、雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通していることを特徴とする擁壁。
【請求項3】
高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として水平面に対して45度の角度で引いたラインを越えておらず、且つ斜面の高さは5メートル以内であり、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通していることを特徴とする擁壁。
【請求項4】
高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に側方に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、水平面に対して90度を超える角度となっており、且つ斜面の土圧の作用点は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)よりも用地の中央側の位置となっており、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は、雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通していることを特徴とする擁壁。
【請求項5】
前記樹脂ブロック層内には、砕石、砂利又は栗石が充填されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の擁壁。
【請求項6】
前記樹脂ブロック層内には、樹脂ブロックを貫通して配置された補強用支柱が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の擁壁。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の擁壁を周状に有しており、隣地に対して地表面が高くなるように造成されていることを特徴とする造成地。
【請求項8】
請求項7記載の造成地を造成する造成方法であって、
樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで樹脂ブロック層を形成し、当該樹脂ブロック層が隣地との境界部分に沿って周状に連なるようにする樹脂ブロック層形成工程と、
樹脂ブロック層形成工程の後、形成された樹脂ブロック層の内側の空間を盛土で埋め、整地及び突き固めを行う工程と、
隣地の側に露出している樹脂ブロック層の外側面に側面層を固定して当該外側面を側面層で覆う工程とを有していることを特徴とする造成地の造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、造成地等における擁壁の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平地面積の少ない我が国では、宅地を始めとする各種用途の造成地を造成する際には、山の斜面を切り開くなどの造成工事が必要である。また、大震災のような災害で地盤沈下した沿岸部の土地をかさ上げする際にも、山の土砂を運び込んで造成する工事が必要になる。
このような造成工事では、用地が隣地から高くなっていたり、また隣地に対して高くして造成したりすることが多い。即ち、用地の境界の少なくとも一部分において擁壁の構築が必要になる場合が多い。また、既に施工されている擁壁も、老朽化や大雨等の災害のよる損壊のため、しばしば改築が必要になる。即ち、既存の擁壁を取り壊し、新しく擁壁を構築することが必要になる。
【0003】
図17は、従来の一般的な擁壁の構造を示した断面概略図である。図17に示すように、擁壁は、地中に施工した基礎部201と、法面を覆う壁部202とから成る。基礎部201は、コンクリート製の断面T字形の部位である。壁部202は、種々のタイプのものがあるが、基礎部201をそのまま法面にそって延長したコンクリート製の壁としたり、間知石のようなコンクリートブロックを積み上げて石積の壁としたりする場合が多い。コンクリート製の壁部202や基礎部201は、鉄筋で補強される場合が多く、石積の壁部の場合、背後をコンクリートで固めたり砕石層を設けたりする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】http://www.youheki.net/mame.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の擁壁の構造の最大の欠点は、擁壁自体の荷重が大きいため、自らの重さで変形し易い点である。したがって、支持杭(不図示)で補強することが不可欠となっている。このため、構造物として大がかりで、高コストの工事になり易い。また、壁部202の高さや幅、用地の地質等に従って構造計算が必要になる場合も多く、この点もコストを高める要因となっている。
また、別の問題として、近年、都市部において雨水の流出による河川氾濫の問題が深刻になっている。上記のような従来のコンクリート製の擁壁についても、雨水の貯留浸透機能は実質的にないため、大雨の際には雨水はそのまま流出し、河川氾濫の要因となってしまう。
この出願の発明は、このような従来の擁壁の欠点を解消するために為されたものであり、安価に構築できる擁壁であって十分な用地保持効果が得られ、また大雨や集中豪雨の際に雨水貯留浸透効果を発揮する優れた擁壁の構造を提供し、またそのような擁壁を含む好適な造成地とその造成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この出願の請求項1記載の発明は、高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として用地の地質の安息角の角度で引いた安息角ラインを越えておらず、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通しているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として水平面に対して35度の角度で引いたラインを越えておらず、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は、雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通しているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)を基点として水平面に対して45度の角度で引いたラインを越えておらず、且つ斜面の高さは5メートル以内であり、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通しているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、高さの低い隣地に接している用地において当該隣地との境界部分に構築された擁壁であって、
隣地の側に側方に露出した側面層と、側面層と用地の斜面との間の空間を埋めるよう設けられた樹脂ブロック層とから成っており、
樹脂ブロック層は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで形成されており、
用地の斜面は、水平面に対して90度を超える角度となっており、且つ斜面の土圧の作用点は、側面層の最下点(地中に埋没している箇所を除く)よりも用地の中央側の位置となっており、
各樹脂ブロックは通水のための開口を底部に有する形状であって、樹脂ブロック層は、雨水が地下に浸透する状態で構築されており、
連結された各樹脂ブロックの側面部分は開放されているか又は通水用の開口を有する端板を備えており、樹脂ブロック層において各樹脂ブロック層の内部空間は水平方向で連通しているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記樹脂ブロック層内には、砕石、砂利又は栗石が充填されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項1乃至5いずれかの構成において、前記樹脂ブロック層内には、樹脂ブロックを貫通して配置された補強用支柱が設けられているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記請求項1乃至6いずれかに記載の擁壁を周状に有しており、隣地に対して地表面が高くなるように造成されている造成地であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項8記載の発明は、前記請求項7記載の造成地を造成する造成方法であって、
樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロックを多数上下左右に並べて相互に連結することで樹脂ブロック層を形成し、当該樹脂ブロック層が隣地との境界部分に沿って周状に連なるようにする樹脂ブロック層形成工程と、
樹脂ブロック層形成工程の後、形成された樹脂ブロック層の内側の空間を盛土で埋め、整地及び突き固めを行う工程と、
隣地の側に露出している樹脂ブロック層の外側面に側面層を固定して当該外側面を側面層で覆う工程とを有している。
【発明の効果】
【0007】
以下に説明する通り、この出願の発明によれば、用地の斜面からの土圧が側面層に作用しないか又は擁壁が不要な程度まで土圧が小さいので、造成地の崩壊は本質的に生じない。そして、側面層と斜面との間の空間は樹脂ブロック層で埋められているので、造成地としてより広い領域を確保することができる。さらに、樹脂ブロック層が雨水貯留浸透槽として作用するので、雨水流出抑制効果が発揮され、河川の氾濫のような災害が防止される。また、雨水貯留浸透槽の設置が義務づけられている場合でも、樹脂ブロック層を兼用することで設置が不要になったり小規模で済んだりする効果が得られる。
また、請求項5記載の発明によれば、上記効果に加え、樹脂ブロック層が安定化するので、地震等による揺れに対して強くなる。
また、請求項6記載の発明によれば、上記効果に加え、樹脂ブロック層が補強用支柱で補強されているので、擁壁がより安定化し、斜面の高さが非常に高い場合等に好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一の実施形態の造成地の構造を示した断面概略図である。
図2図1に示す樹脂ブロック層を形成する樹脂ブロックの概略図であり、(1)が平面概略図、(2)は正面概略図である。
図3図2に示す樹脂ブロックを上下方向で連結する際の相互の嵌め込合わせについて示した正面概略図である。
図4図2に示す樹脂ブロックを水平方向で連結する際の構造について示した正面断面概略図であり、(1)は平面概略図、(2)は正面断面概略図である。
図5】樹脂ブロック層を形成する際に使用される端板の概略図であり、(1)は正面概略図、(2)は側面概略図である。
図6】第一の実施形態の造成地の造成方法について示した概略図である。
図7】第一の実施形態の造成地の造成方法について示した概略図である。
図8】第一の実施形態の造成地の構造における斜面の角度について示した断面概略図である。
図9】実施形態の造成地の構造における雨水貯留浸透効果について示した断面概略図である。
図10】第二の実施形態の造成地の断面概略図である。
図11図9に示す第二の実施形態の造成地の構造における土圧作用について示した断面概略図である。
図12】第二の実施形態の造成地の造成方法について示した断面概略図である。
図13】第二の実施形態の造成地の造成方法について示した断面概略図である。
図14】実施形態に係る擁壁の構造を示した断面概略図である。
図15】擁壁の構築方法の実施形態について示した断面概略図である。
図16】補強タイプの実施形態の擁壁の構造を示した断面概略図である。
図17】従来の一般的な擁壁の構造を示した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、この出願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
まず、造成地の発明の実施形態について説明する。以下に説明する造成地は、大震災により地盤沈下した沿岸部の土地をかさ上げして造成したり、休耕田を宅地や事業用用地にするために山の土砂を運び込んで造成したりする場合を想定している。但し、本願発明の造成地や擁壁は、これらのケースに適用が限られるものではない。
【0010】
図1は、第一の実施形態の造成地の構造を示した断面概略図である。図1に示すように、実施形態の造成地は、隣地に対して高い地表面11を有する盛土1で形成されており、当該隣地100との境界部分に擁壁2が構築されている。そして、擁壁2は、露出した側面層3と、側面層3と用地の斜面(ここでは盛土1の斜面)12との間に施工された樹脂ブロック層4とを備えた構造となっている。尚、「隣地」とは、造成地に対して隣接している土地という程度の意味であり、宅地のような用地には限らず、道路であったり、河川の土手であったりと、種々のケースがあり得る。
【0011】
擁壁2を備えた実施形態の造成地の大きな特徴点は、用地の斜面12が安息角以下となっている点である。安息角は、自発的に崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度であり、通常、擁壁は、造成地の斜面の角度を安息角より大きな角度としたい場合に構築されるので、この点では実施形態の構造は異常である。つまり、通常、擁壁は、造成地の斜面の角度を安息角より大きな角度とし、その上で、斜面の崩壊を防止するための補強壁として構築される。一方、図1に示すように、実施形態の造成地は、用地の斜面12を安息角以下の角度としている。したがって、理論的には、実施形態の造成地は、用地の斜面12が自発的に崩れることはない。
尚、「斜面」という用語であるが、図1に示すように、斜面12は階段状を成すよう形成されており、水平な部分を有する。このような場合も含めて、この明細書では「斜面」という用語を使用している。
また、「擁壁」とは、用地の斜面の崩落を防止するために補強した壁という程度の意味であるが、実施形態の造成地では斜面12の自然崩壊はないので、この意味では、「擁壁」という用語はふさわしくない。そうではあるが、従来の擁壁に代わる構造物であるので、広い意味として「擁壁」の用語を使用する。
【0012】
斜面12が安息角以下であるため、実施形態の造成地では擁壁は不要なのであるが、安息角以下としたままでは、使用可能な造成地の面積が減ってしまうため、樹脂ブロック層4を含む擁壁2を施工している。
樹脂ブロック層4は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である樹脂ブロック5を上下左右に並べて形成した層である。「骨格部材」とは、造成地の構造を支える構造材として使用され得るという程度の意味であり、必ずしも梁状の部位や柱状の部位より成る部材に限らず、板状の部位で形成されている場合もある。
【0013】
図2は、図1に示す樹脂ブロック層4を形成する樹脂ブロック5の概略図であり、(1)が平面概略図、(2)は正面概略図である。樹脂ブロック5は、水平な姿勢とされるベース部51と、ベース部51から垂直に延びるよう形成された脚部52とから成っている。ベース部51は、全体としては正方形の板状である。ベース部51には、通水等のための多くの開口50が形成されている。
【0014】
脚部52は、正方形のベース部51の各角の位置に合計4つ設けられている。脚部52の位置は、角の縁から少し内側の位置である。各脚部52は、対角線上に位置し、角の縁からの距離はすべて同じである。
各脚部52は、全体としてはほぼ角柱状の部位である。但し、各脚部52の内部は空洞になっている。各脚部52は、ベース部51につながった部分で最も断面積が大きく、ベース部51から遠ざかるにしたがって徐々に小さな断面積となっている。即ち、正面から見ると台形状となっている。樹脂ブロック5において、各脚部52の高さは皆同じである。
【0015】
図2に示す樹脂ブロック5は、後述するように並べられて樹脂ブロック層4を形成するが、この際、嵌め込み構造によって相互に連結されるようになっている。この点について、図3を使用して説明する。図3は、図2に示す樹脂ブロック5を上下方向で連結する際の相互の嵌め込合わせについて示した正面概略図である。
図3に示すように、樹脂ブロック5を上下に重ね合わせる場合、二つの樹脂ブロック5の各脚部52の先端を突き合わせて相互に嵌め込む。図2に示すように、各脚部52の上端面には、嵌め込み用の突起(以下、嵌め込み突起)53が形成されている。嵌め込み突起53は、上側に位置させる別の樹脂ブロック5との組み合わせのための部位である。図2(1)に示すように、嵌め込み突起53は、各脚部52の上端面に二つずつ形成されている。各嵌め込み突起53は、図2(1)に示すように、各脚部52のほぼ正方形の上端面形状において斜め左上から斜め右下の方向の対角線上に設けられている。
【0016】
各脚部52の上端面には、嵌め込み用の孔(以下、嵌め込み孔)54が形成されている。嵌め込み孔54は、嵌め込み突起53が嵌め込まれる孔である。嵌め込み孔54も、各上端面に二つずつ設けられている。嵌め込み孔54は、平面視で見た場合、斜め右上から斜め左下の方向の対角線上に設けられている。即ち、各脚部52の上端面において、各嵌め込み孔54は各嵌め込み突起53と線対称に配置されている。したがって、図3に示すように、お互いの脚部52の先端を突き合わせると、一方の各嵌め込み突起53が他方の各嵌め込み孔54に嵌り込み、これにより二つの樹脂ブロック5が上下に連結される。
【0017】
尚、一方の樹脂ブロック5の脚部52を他方の樹脂ブロック5のベース部51に嵌め込む場合もある。即ち、各樹脂ブロック5のベース部51の背面(脚部52とは反対側の面)には、嵌め込み突起52と同一鉛直線上の位置にベース嵌め込み孔54が設けられている。したがって、ベース嵌め込み孔54に他方の樹脂ブロック5の脚部51の嵌め込み突起53を嵌め込むことで、各樹脂ブロック5を同一の姿勢にしながら上下方向に連結することができる。
【0018】
また、図4は、図2に示す樹脂ブロック5を水平方向で連結する際の構造について示した正面断面概略図であり、(1)は平面概略図、(2)は正面断面概略図である。図4に示すように、各樹脂ブロック5を水平方向において連結する場合、連結用の小さな部品(以下、連結具という。)6が使用される。連結具6は、図4(2)に示すように、プレート部61と、プレート部61から直角に突出するよう設けられた嵌め込み突起62とから成る形状である。プレート部61はほぼ方形であり、嵌め込み突起62は上下の両面に設けられている。また、上下両面において、嵌め込み突起62は四つ設けられており、プレート部61の各対角線上に中心から等距離の位置に設けられている。
【0019】
一方、図2(1)や図4(1)に示すように、樹脂ブロック5の各角部には、差込孔57が形成されている。差込孔57は、嵌め込み突起62に断面の形状及び大きさに適合した形状及び大きさのものである。
水平方向に樹脂ブロック5を連結する場合、図4(1)に示すように、各樹脂ブロック5を詰めて並べ、各角部が隣接するようにする。そして、連結具6で各角部を連結する。即ち、隣接した四つの樹脂ブロック5の各差込孔57に嵌め込み突起62を差し込む。尚、各樹脂ブロック5を同じ姿勢にして上下に連結させる場合、水平方向の連結については、一方の側の面にのみ嵌め込み突起62が形成されているタイプの連結具が使用される。
【0020】
このような樹脂ブロック5の連結構造において、必要に応じて側面部分に端板7が嵌め込まれる。この点について、図3及び図5を使用して説明する。図5は、樹脂ブロック層4を形成する際に使用される端板7の概略図であり、(1)は正面概略図、(2)は側面概略図である。端板7は、樹脂製であり、図2に示す樹脂ブロック5のベース部51に相当する部材である。図5に示すように、端板7は、全体としては方形の平板状であるものの、通水等のために多数の開口70が設けられた部材である。
【0021】
図3に示すように、端板7は、垂直に立てた状態で使用される。端板7は、上下に嵌め込み突起71を有する。端板7は、補強の目的で使用される他、樹脂ブロック5内に土砂や砕石15が進入するのを防止する目的で使用される。土砂の進入を防止する目的の場合、端板7を覆うように土木安定シートが併せて使用される。
端板7を使用する場合、突起を上下に向けて立てた姿勢とする。そして、図3に示すように、お互いの脚部52を突き合わせて二つの樹脂ブロック5を上下に重ねる際、側面に端板7を挟み込む。端板7の高さは、向き合わせて重ね合わせた二つの樹脂ブロック5のベース同士の離間間隔に相当している。そして、各樹脂ブロック5のベース部51には、端部端板7の嵌め込み突起71の位置に対応して嵌め込み孔58が形成されている。図5に示すように、端板7は、上下の嵌め込み突起71が樹脂ブロック5のベース部51の嵌め込み孔58に嵌め込まれた状態で一対のベース部51の間に挟み込まれる。
【0022】
上述したような構造で複数の樹脂ブロック5が上下左右に連結され、樹脂ブロック層4が形成されるようになっている。そして、必要に応じて端板7が挟み込まれる。
尚、端板7は、樹脂ブロック層7の側面に嵌め込まれる目的の他、樹脂ブロック5の脚部52の先端を受ける部材として用いられたり、複数枚積み重ねて所望の厚さの樹脂ブロック積層体を形成したりする目的でも使用される。このため、図5に示すように嵌め込み突起72や嵌め込み孔73が適宜形成されている。また、端板7は、補強用のリブ74を有している。
【0023】
一方、側面層3は、隣地の側の樹脂ブロック層4の表面(外側面)をカバーする層である。従来の擁壁における石積みやコンクリート壁のような補強が主目的のものではない。主としては、樹脂ブロック層4の外側面が露出すると見栄えが悪いので、それを避けるためのものである。尚、以下の説明において、用地の中央に対して隣地の側を「外側」とし、これとは反対側(中央側)と「内側」とする。
側面層3には種々のものが使用できるが、例えばモルタル化粧仕上げとすることができる。具体的には、樹脂ブロック層4のうち最も外側の各樹脂ブロック5の外側面において、図5に示すように端板7が各々挟み込まれる。
【0024】
そして、樹脂ブロック層4の外側面の端板7に対し、下地材として例えばEPS(発泡スチロール)板21を介在させながら、側面層3としてモルタル化粧板32が固定される。固定は、側面層3の側からネジ止めすることで行われる。ネジとしては、例えばステンレス製の直径5mmで長さ5〜8mm程度のものが使用され、EPS板31を貫通して端板7に突き刺さることで固定が行われる。また、図1に示すように、側面層3の下端は、地中に埋没した状態である。樹脂ブロック層4のうち、最も下側の樹脂ブロック5の下端も同様に地中に埋没した状態である。尚、図1に示すように、この実施形態では、側面層3は垂直な姿勢であり、垂直な壁面を形成している。
【0025】
樹脂ブロック層4の上側には、上面層8が設けられている。上面層8は、造成地の用途の応じて種々のものとされる。図1に示す例では、上面層8は、緩衝層81と、緩衝層81の上に部分的に設けられた周辺保護層82とから成る構造となっている。
緩衝層81としては、例えばリプラボード(再生プラスチックボード)が使用される。周辺保護層82は、コンクリート製であり、捨てコン又はプレキャストコンクリートを敷設してモルタルで固定したものとされる。周辺保護層82の目的は主に二つあって、一つは、内側の盛土1の流出を防ぐ目的であり、もう一つは、必要に応じて設けられる手すり83の施工用(手すり83の基礎)の目的である。
【0026】
次に、第一の実施形態の造成地の造成方法について、図6及び図7を使用して説明する。図6及び図7は、第一の実施形態の造成地の造成方法について示した概略図である。以下の説明は、造成地の造成方法の発明の実施形態の説明でもある。
実施形態の造成地については、山の斜面を切り開いて造成する場合と、平地に土砂を運び込んで造成する場合とで若干異なる。以下、説明では、平地に土砂を運び込んで造成する場合を例にする。以下に説明される造成方法は、大震災で地盤が沈下した沿岸部の復興において、宅地等の用地を嵩上げした状態で造成する場合が典型的に該当している。
【0027】
図1の造成地を造成する場合、用地の表面をならし、少し掘り下げて根切り底13を形成する。根切り底13は、最終的に造成地となる領域より少し広い領域で形成される。そして、根切り底13をローラー等で突き固めた後、図6(1)に示すように仮押さえ棒41を突き刺す。仮押さえ棒41は、樹脂ブロック層4の形成に際に樹脂ブロック5が倒壊しないように仮に押さえる棒である。仮押さえ棒41としては、塩ビ製の円筒管(単管)が使用される。仮押さえ棒41は、擁壁2を構築する用地の輪郭(この例では全周)に沿って、適宜の間隔をおいて多数施工される。その後、根切り底13を覆うようにして、安定化のための透水性且つ土砂を遮断する土木シート(以下、土木安定シートと呼ぶ)14を敷設する。土木安定シート14は、根切り底13の全面を覆った状態で敷設される。その後、根切り底13に砕石、割石、砂利又は栗石(以下、「砕石」で総称する。)を投入し、図6(2)に示すように、根切り底13の半分程度の深さまで砕石層150を施工する。
【0028】
次に、図6(3)に示すように、樹脂ブロック5を並べて相互に連結し、一段目の樹脂ブロック層を形成する。一段目の樹脂ブロック層は、上下方向では、脚部52をお互いに突き合わせて二つの樹脂ブロック5から成る。以下、このように上下に連結した二つの樹脂ブロック5から成るものを、以下、上下連結体と呼び、符号40で示す。図6(2)に示すように、一段目では、一組のみの上下連結体40が連なって擁壁ライン方向(構築後の擁壁2が延びる水平方向)に沿って並べられ、相互に連結される。尚、各上下連結体40において、内側面と外側面には端板7が嵌め込まれる。
【0029】
このようにして各上下連結体40が並べられ相互に連結されることで、一段目の樹脂ブロック層が形成される。次に、根切り底13に形成された砕石層150の上面及び一段目の樹脂ブロック層の内側面を覆うようにして土木安定シート14を敷設する。その後、図6(4)に示すように、樹脂ブロック層で取り囲まれた空間に土砂が投入されて盛土される。盛土1は、一段目の樹脂ブロック層4の半分程度の高さまで行われる。そして、盛土1を平らにし、ローラー等で多少突き固める。その後、突き固めた盛土1の上面及び一段目の樹脂ブロック層の内側面を覆うように、同様に土木安定シート14を敷設する。
【0030】
次に、図7(1)に示すように、さらに土砂を投入して整地及び突き固めをし、一段目の樹脂ブロック層とほぼ同じ高さとする。この状態で、二段目の樹脂ブロック層の形成を行う。この際、図7(1)に示すように、二段目では、内外方向では二つの樹脂ブロック5を並べて樹脂ブロック層を形成する。即ち、一段目の上下連結体40の上に、一個の上下連結体40を配置して一段目と連結し、その内側にもう一個の上下連結体40を配置して連結する。外側と内側の上下連結体40は、同様に擁壁ライン方向に沿って複数配置され、相互に連結される。
【0031】
そして、図7(2)に示すように、突き固めた盛土1の表面と二段目の樹脂ブロック層の内側面とを覆うようにして土木安定シート14を配置し、同様に途中の高さまで土砂を投入する。その後、突き固め、別の土木安定シート14の敷設をし、さらに土砂を投入して二段目の樹脂ブロック層の上面と面一とする。
次に、図7(3)に示すように、三段目の樹脂ブロック層の形成を行う。三段目では、内外方向での樹脂ブロック5の配列数を一つ増やし、三組の上下連結体40を配置する。その後、さらに別の土木安定シート14で盛土1の表面及び三段目の樹脂ブロック層を覆った後、同様に、途中の高さまでの土砂の投入、整地、突き固めを行う。そして、さらに別の土木安定シート14の敷設、さらなる土砂の投入をして三段目の樹脂ブロック層と同じ高さとし、整地、突き固めを行う。
【0032】
最後に、仕上げの工程が行われる。即ち、図7(4)に示すように、仮押さえ棒41をすべて引き抜いた後、樹脂ブロック層4の外側面に側面層3を施工する。例えば、前述したようにEPS板31を間に挟み込みながらでモルタル化粧板32で樹脂ブロック層4の側面全体を覆い、ビス止めで固定する。その後、擁壁2の最下部の根切り底13を砕石15で埋め戻し、隣地と同じ高さとするとともに、上面層8の施工をする。通常は、樹脂ブロック層4の表面(最上面)に緩衝層81としてリプラボードのような樹脂製のボードを敷設し、その上に若干の盛土をして全体に整地する。そして、必要に応じて周辺部分に捨てコン等をして周辺保護層82を形成する。これにより、地表面11を有する実施形態の造成地の造成が完了する。
【0033】
このようにして造成された造成地に対しては、造成地の用途に応じて適宜の施工が行われる。例えば、宅地の場合、基礎の施工が行われる。この際、樹脂ブロック層4の表面にリプラボードを敷設し、その上にコンクリートをベタ打ちした後、その上に布基礎を施工する工法が採用され得る。
【0034】
以上の構造及び施工法に係る実施形態の造成地によれば、用地の斜面12が安息角以下となっているので、造成地の崩壊は本質的に生じない。この点について、図8を使用して説明を補足する。図8は、図1に示す実施形態の造成地における斜面12の角度について示した断面概略図である。
図1図8に示すような階段状の斜面12についてその角度というと、角部に対して接する線(図8中に破線で示す)で表される面が水平面に対して成す角とすることができる。以下、角部に対して接する線で表した斜面12’を、置換面という。
実施形態において、「安息角以下」は、擁壁について特別な補強が不要となっているかどうかの評価であるから、置換面12’の角度ではなく、擁壁特に側面層3の最下点(埋設部分を除く)を基準にして考える必要がある。以下、この点を安息角基点といい、図8にBで示す。安息角以下かどうかは、この安息角基点Bから引いた線で表される面の角度で判断される。即ち、安息角基点Bから階段状の斜面12の角部に接するよう引いた線(図8中に一点鎖線で示す)が水平面に対して成す角Aが、安息角以下になっているかどうかということである。
【0035】
安息角は、周知のように一般的には30度であるが、地質によって多少異なってくる。安息角については幾つかの測定法が周知であり、擁壁を構築しようとする地盤の土質について、予め測定することが可能である。
図8において、擁壁2を構築しようとしている場所の地質における安息角をθとする。そして、安息角基点Bから安息角θの角度で引いた仮想線を、安息角ラインと呼び、図15に二点鎖線で示す。
図8(1)に示すように、角度Aが安息角θ以下であれば、つまり斜面12のいずれの箇所も安息角ラインを超えていなければ、擁壁2に対して土圧は作用せず、擁壁2に特別な補強は不要ということになる。別のいい方をすれば、図1図8において、仮に樹脂ブロック層4を取り去ってしまった場合、盛土1の斜面12は若干崩れるが、それでも安息角θの角度となって安定する(その際の斜面の角度がθであるともいえる)。この際、当初の斜面12の角度が安息角基点Bで見た際に安息角以下になっていれば、崩れた斜面の先端は安息角基点Bよりも外側には達しない。つまり、斜面12の土圧は、側面層3には作用していないということである。したがって、側面層3について特別な補強は不要ということになる。
【0036】
一方、図8(2)(3)に示すように、斜面12が部分的に安息角ラインを超えている場合、すなわち安息角基点Bで見た斜面12の角度Aが安息角を超えている場合、理論的には土圧が擁壁2に作用する。ただ、実際には、安息角ラインを多少超えていても、樹脂ブロック5の結合強度や側面層3自体の強度があるから、特に問題とはならない。どの程度超えていても問題とはならないかについては、法令の規定が参考になる。例えば宅地造成等規制法施行令では、「砂利、真砂土、関東ローム、硬質粘土、その他これらに類するもの」を地質とする場合、傾斜角が35度までは擁壁は不要とされており、傾斜角35超45度以下の場合、斜面12の高さが5m以下であれば擁壁2は不要とされている。
【0037】
したがって、図8(2)に示すように、安息角基点Bで見た斜面12の角度Aが35度以下になるにしてもよい。また、図8(3)に示すように、安息角基点Bで見た斜面12の角度Aが45°以下になるようにしつつ斜面12の高さ(hで示す)を5m以下としてもよい。このようにしても、特に擁壁2に補強は不要であり、前述した各実施形態のように簡易な構成の擁壁2を採用することができる。尚、図8(2)(3)において、斜面12の角度Aは、階段状の斜面12の最上部と安息角基点Bとを結ぶ線が水平面に対して成す角度となっている。樹脂ブロック層4の上側に盛土の層が存在しているが、厚さが薄いため、この部分は無視している。
尚、図8(1)〜(3)において、斜面12や置換面12’は、盛土1の部分で見た面(土の領域の表面)である。後述するように樹脂ブロック層4と土の部分(例えば盛土)との間には砕石層が介在されることがあるが、この場合、斜面の角度は、砕石層まで含んだ状態で安息角以下等とすることがより好ましい。
【0038】
いずれにしても、実施形態の造成地は、側面層3と斜面12との間の空間は樹脂ブロック層4で埋められているので、造成地としてより広い領域を確保することができる。
そして、側面層3において特別な補強は不要であり、側面層3+背後の樹脂ブロック層4から成る擁壁2は、従来のコンクリート壁+背後の砕石層のような擁壁に比べて格段に軽量であるので、基礎として大がかりな施工は不要である。特に、側面層3は、樹脂ブロック層4の外側面に対する化粧板の打ち付けといった簡易な施工で済み、型枠を組んでセメントを流し込んで養生させるといった手間は不要である。このため、低コストである上で工期も非常に短いという特徴を有している。
【0039】
さらに、樹脂ブロック5は発泡樹脂以外の樹脂製であり、通水用の開口50が多数形成された骨格部材であるので、樹脂ブロック層4の内部には雨水が自由に浸入できる。そして、樹脂ブロック層4と斜面12との間、及び樹脂ブロック層4とその下側地盤との間には、遮水層は特に設けられておらず、造成地に浸入した雨水は、樹脂ブロック層4を経由して地下に自由に浸透する。このため、側壁が一種の雨水貯留浸透空間となり、雨水流出抑制効果が期待できる。
【0040】
上記の点について、図9を使用してより詳しく説明する。図9は、実施形態の造成地の構造における雨水貯留浸透効果について示した断面概略図である。図9には、造成地において大量の降雨があった際の状況が示されており、(1)は従来の擁壁2を供えた造成地における状況、(2)は実施形態の造成地における状況を示している。造成地の周囲の地面101は、舗装道路のように雨水貯留浸透効果の無い地表面であるとする。
【0041】
図9(1)に示すように、従来の擁壁2では、擁壁2の背後まで造成地の土砂や砕石で埋められており、本質的に雨水の貯留浸透空間は存在しない。したがって、大量の降雨があった際には、雨水102は地盤の土砂の小さい隙間を通って地下に浸透するのみであり、ごく僅かな浸透効果しかない。このため、雨水は、造成地に設けられた不図示の排水溝等から大量に流出し、付近の河川103に流れ込む。この結果、河川103の氾濫のような災害が発生し易い。また、擁壁2には、多くの場合、水抜き孔が形成されており、矢印で示すように雨水102は漏出するが、その量は僅かであり、擁壁2に対して大きな水圧がかかる。この点を考慮することも、従来の擁壁2の構造が大がかりになってしまう要因である。
【0042】
一方、実施形態の造成地では、通水性の骨格部材で形成された樹脂ブロック層4が一種の雨水貯留浸透空間となる。雨水102は、樹脂ブロック層4内にいったん溜まり、地下に浸透していく。このため、排水溝等を通した付近への雨水102の流出が抑制され、河川の氾濫のような災害が未然に防止される。
降雨時の河川災害を考慮し、最近では、大規模な開発(宅地開発、事業用用地の開発等)を行う際には、雨水貯留浸透槽を設置することが条例で義務づけられている場合が多い。このような場合、開発者は、宅地等の用地とは別に用地を確保し、そこに雨水貯留浸透槽を施工している。雨水貯留浸透槽は、雨水が一時的に貯留される大きな空間を形成し、そこから雨水を地下に浸透させる施設である。
【0043】
実施形態の造成地が採用される場合、擁壁2の構造自体において大きな雨水貯留浸透空間が確保されるので、条例により雨水貯留浸透施設の設置が義務づけられるとしても、別途設置することが不要になったり、設置するとしてもかなり小規模のもので足りるようになる。このため、開発に要する全体のコストが大幅に低下する。雨水貯留浸透施設の用地を別途確保することが不要になるということは、開発のために提供される用地を最大限利用できることになり、この点でも好適となる。
また、実施形態では、樹脂ブロック層4は、山側から流出してきた雨水を溜めてその水圧を緩和し、地中に徐々に浸透させる。このため、従来のように擁壁2において大きな流出水圧が作用することはない。
尚、軽量盛土工法として、発泡樹脂製のブロックを多数積み重ねる工法(EPS工法)が知られている。この方法を応用して擁壁の一部を発泡樹脂製のブロックの積層体で構成しても良いが、この場合は、発泡樹脂製のブロックは排水性であるため、上記のような雨水貯留浸透作用は得られない。
【0044】
次に、第二の実施形態の造成地について説明する。図10は、第二の実施形態の造成地の断面概略図である。
第二の実施形態の造成地も、隣地に対して高い位置となっている地表面11を有しており、当該隣地との境界部分に擁壁2が施工されている。そして、擁壁2は、露出した側面層3と、側面層3と用地の斜面12との間に施工された樹脂ブロック層4とを備えた構造となっている。
【0045】
第二の実施形態の造成地が、第一の実施形態と大きく異なるのは、盛土1の斜面12の角度が90度を超えており、えぐれたような面となっている点である。斜面12の角度を安息角以下とする第一の実施形態と比べると、斜面12が垂直面に対して逆向きとなるので、以下、このような構造を逆タイプと呼ぶ。斜面12の向きが逆となっているので、図9に示すように、樹脂ブロック層4の構造も、第一の実施形態のものと比べると、上下が逆となっている。即ち、第二の実施形態では、側面層3は垂直に延びているものの、樹脂ブロック層4の内外方向の幅は、最下層において最も広く、上にいくに従って狭い幅となっている。
【0046】
上記以外の点については、第二の実施形態の造成地は、第一の実施形態と基本的に同様である。樹脂ブロック層4は、樹脂(発泡樹脂を除く)製の骨格部材である多数の樹脂ブロック5から成る層であり、より具体的には、脚部52の先端を互いに突き合わせて上下に連結させた一対の樹脂ブロック5から成る上下連結体40を多数並べた層となっている。
そして、同様に、各上下連結体40内には、半分程度の深さまで砕石15が充填されている。また、最も内側の上下連結端の内側面と、最も外側の上下連結体40の外側面には、それぞれ端板7が嵌め込まれている。側面層3についても同様であり、種々のタイプがあり得るが、一例として緩衝層31を介在させながら化粧板32をビス留めで固定した構造が採用できる。
【0047】
このような第二の実施形態の造成地の構造における土圧作用について、図11を使用して説明する。図11は、図10に示す第二の実施形態の造成地の構造における土圧作用について示した断面概略図である。
図10に示すような逆タイプの擁壁2の構造の場合、盛土1の土圧は、図11中に矢印で示すように作用する。図10に示すような逆タイプにおいて、「斜面」を、盛土1の土圧が作用する面として捉えると、逆タイプの斜面についての置換面12’は、図11に破線で示すようなものとなる。そして、土圧(主動土圧)は、矢印の長さで示すように、深さが深くなるに従って大きくなる。
このような土圧の作用点Pは、周知のように例えば試行くさび法によって求めることができる。図11に示すように、土圧の作用点Pは、側面層3の下端の位置よりも用地の中央側の位置となる。つまり、側面層3に対して土圧は作用せず、擁壁として特別な補強は不要ということになる。逆に言えば、第二の実施形態の場合、土圧の作用点Pが側面層3の下端の位置よりも内側(用地の中央側)になるように置換面12’の角度を選定するということである。尚、逆タイプにおける置換面12’(土圧の作用面)は、テルツァギの地盤支持力理論におけるせん断面に相当しているといえる。また、安息角を上下逆にしたものであるので、逆安息角と表現することもできる。
【0048】
このように、第二の実施形態では、盛土1の斜面12の向きを逆にし、且つ土圧の作用点Pを側面層3の下端よりも内側になるようにしているので、側面層3に対しては盛土1の土圧は作用しない。したがって、第一の実施形態の場合と同様に、側面層3についてコンクリート壁+裏込砕石の場合のような特別な補強構造は不要である。このため、同様に低コストで且つ工期も短くできる。そして、同様に盛土の斜面12と側面層3との間は、通水用開口を有する骨格部材である多数の樹脂ブロック5で形成された樹脂ブロック層4であるので、雨水貯留浸透槽としても作用し、雨水流出抑制効果が発揮される。
【0049】
次に、第二の実施形態の造成地の造成方法について、図12及び図13を使用して説明する。図12及び図13は、第二の実施形態の造成地の造成方法について示した断面概略図である。以下の説明も、平坦な土地に土砂を運び込んでかさ上げした造成地を造成する場合を例にする。
第二の実施形態の造成地を造成する場合、図12(1)に示すように、用地の表面を根切りして浅い根切り底13を形成する。そして、整地、突き固めの後、仮押さえ棒41を突き刺し、根切り底13に土木安定シート14を敷く。そして、図12(2)に示すように、根切り底13に砕石を投入して砕石層150を形成し、その上にさらに別の土木安定シート(不図示)を敷く。この際の高さは、隣地100の地面の高さよりも少し低い程度である。
【0050】
次に、図12(3)に示すように、砕石層150の上に樹脂ブロック層4が設置される。この実施形態では、逆タイプであるので、最下層として内外方向で三つの上下連結体40が並べられて連結される。この際、図12(3)に示すように、各上下連結体40において、下側の樹脂ブロック5内に砕石15が充填される。砕石15の充填は、地震のような大きな揺れへの対策のためである。砕石15は、下側の樹脂ブロック5の脚部の先端付近まで(1個の上下連結体40内の半分弱程度の容積を占める程度で)充填される。
尚、端板7を嵌め込んだ状態で最初に各上下連結体40を並べてしまうと、砕石15の充填が難しくなるので、実際には、下側の三つの樹脂ブロック5を内外方向に並べて連結するとともに内側面及び外側面に端板7を嵌め込んだ状態として砕石15を投入し、その後、上側の三つの樹脂ブロック5を被せて三組の上下連結体40を形成する手順とされる。
【0051】
この実施形態では、第一の実施形態と異なり、樹脂ブロック層を最上層まで形成した後に土砂の投入、盛土が行われる。即ち、最下層の形成の後、図12(4)に示すように、中段の層として2個の上下連結体40を並べて相互に連結し、さらに最上層として1個の上下連結体40を載置して相互に連結する。この際、最下層と同様に、各上下連結体40において半分程度の深さまで砕石15が充填される。各層において、外側面と内側面に端板7が嵌め込まれる。また、最下層のうち、最も内側の上下連結体40の上面には、緩衝層42としてリプラボードが配置される。リプラボードは、樹脂ブロック5のベース部と同程度の形状及び厚さの板である。同様に、中段の層の内側の上下連結体40の上面にも緩衝層42としてリプラボードが配置される。
【0052】
このようにして上下三段の樹脂ブロック層4を形成した後、根切り底13の露出面と樹脂ブロック層4の内側面は、全体に土木安定シート14で覆われる。この状態で、図13(1)に示すように、土砂が投入され、盛土が行われる。この際、第一の実施形態の場合と同様に、1個の上下連結体40の高さの半分程度の厚さの盛土のたびに、整地、突き固め及び土木安定シート14の敷設が行われる。このようにして、図13(2)に示すように、樹脂ブロック層4の最上面付近の高さまで盛土が行われる。
【0053】
次に、図13(3)に示すように、最上面で露出する上下連結体40に対しては上面層8が施工される。同様に、例えば緩衝層81を介して捨てコンが施工され、周辺保護層82とされる。また、仮押さえ棒41が引き抜かれ、側面層3が施工される。同様に、例えば緩衝材としてEPS板31を介在させながらモルタル化粧板32等をビス止めにより固定する。その後、根切り底13の部分の埋め戻しを行い、隣地100の高さと同程度とする。側面層3の下端部分は、多少地中に埋没した状態となる。
【0054】
これで造成地の造成は基本的に完了であるが、上面については、造成地の用途に応じて適宜の施工が行われる。造成地の用途が宅地のような建物の建築用である場合で、建物の施工エリアが樹脂ブロック層4の上側にかぶる場合には、リプラボートに対して捨てコンが施工されて固められ、その上に布基礎のような基礎が施工される。また、樹脂ブロック層4の上側には植栽のような用途で使用する場合には、適宜の盛土がされて整地される。
尚、上記説明では、上下三段の樹脂ブロック層4は、用地において組み上げるように説明したが、上下連結体40を3個、2個、1個と別の場所で積み上げて連結したものを多数用地に搬入し、擁壁ライン方向に並べて連結することで樹脂ブロック層4を形成する場合もある。
【0055】
次に、擁壁及び擁壁の構築方法の各発明について説明する。
擁壁の発明は、擁壁が必ずしも造成地において施工される場合に限らないという趣旨である。擁壁の構造は、側面層3とその背後の樹脂ブロック層4とから成るという点で基本的に造成地の場合と同様であるが、擁壁の構築箇所によってその他の構造が異なっている。以下、その一例(実施形態)について説明する。
図14は、実施形態に係る擁壁2の構造を示した断面概略図である。図14には、二つの異なる擁壁の実施形態が示されており、図14(1)には、植栽を施した擁壁とする場合の実施形態が示され、(2)には、城壁のような石垣を含む擁壁の実施形態が示されている。
【0056】
図14(1)に示す擁壁では、山の斜面12を安息角以下の角度とし、その斜面12に対して施工がされている。擁壁2は、同様に、多数の樹脂ブロック5を上下左右に連結して形成した樹脂ブロック層4と、側面に露出した側面層3とから成る。側面層3は、この例では植栽されたものとなっており、植栽用の容器33と、容器33に投入された用土34と、用土34に植え込まれた植栽35等から成っている。容器について33は、例えばプレキャストコンクリートを使用することができる。
尚、斜面12と樹脂ブロック層4との間には、砕石層150が設けられている。砕石層150を設けることは、緩衝の目的の他、階段状を成す樹脂ブロック層4の下面及び内側面を安定化させるためである。
【0057】
また、樹脂ブロック層4は、全体に不図示の土木安定シートで覆われており、内部に雨水が浸入するものの、土砂は遮断されるようになっている。
また、図14(2)に示す実施形態の擁壁2では、側面層が石垣36で形成されている。そして、石垣36の背後の空間が樹脂ブロック層4で埋められている。この実施形態でも、用地の斜面12は安息角以下であり、樹脂ブロック層4は、斜面12と石垣36との間を埋めるものとなっている。
【0058】
図14(2)において、斜面12と樹脂ブロック層4との間には、同様に砕石層150が設けられている。また、図14(2)に示すように、多くの石垣36は斜めに設けられる。この場合、石垣36の傾斜に沿って外側の樹脂ブロック5が並べられた方が石垣36が安定するため、そのようにしている。即ち、石垣36の背後では、各樹脂ブロック5は石垣36の傾斜と同じ角度で斜めに積み重ねられている。斜めの上下方向の列は2列ほどであり、その内側では各樹脂ブロック5は垂直方向に上下に積み重ねられている。斜めに積み重ねられた部分と垂直に積み重ねられた部分との間には隙間が形成されるが、この隙間にも砕石15が充填されており、樹脂ブロック層4が全体に安定するようにしている。尚、樹脂ブロック5の側面は、不図示の土木安定シートで適宜覆っており、砕石15が不必要に樹脂ブロック5内に入り込まないようにされている。
【0059】
石垣36については、自然石又は人工石(以下、石材)361を適宜積み上げることで施工される。この際、樹脂ブロック層4の外側面には、リプラボードのような緩衝材362を適宜挟み込んだ状態で石材361を積み上げ、隙間にモルタルを充填して固化することで石垣36を形成する。
図14(1)(2)に示す各実施形態においても、用地の斜面12が安息角以下であるので、側面層には用地の地盤の土圧は作用せず、斜面12の崩落は基本的に発生しない。側面層に土圧が作用しないことから、側面層の施工は簡略化でき、低コスト、短工期の擁壁の構造となる。また、樹脂ブロック層4は、雨水貯留浸透槽として機能するため、雨水の流出抑制効果がある。このため、付近の河川の氾濫防止等に貢献できる。
【0060】
次に、擁壁の構築方法の発明について説明する。図15は、擁壁の構築方法の実施形態について示した断面概略図である。
上述した各実施形態の造成地や擁壁の説明において、構築方法が適宜説明されており、これは擁壁の構築方法の発明の実施形態に該当する。図15に示す実施形態では、これらと異なり、宅地のような既存の造成地の擁壁を取り壊して新たに擁壁2を構築する場合が想定されている。
【0061】
具体的に説明すると、図15(1)に示すように、コンクリート製の擁壁200が既存の擁壁として施工されており、老朽化等のため、この擁壁200を改築することが必要になったとする。この場合、擁壁200を解体して撤去し、用地の斜面12を多少削る。そして、図15(2)に示すように、斜面12を階段状に整地し、重機等で突き固めを行う。この際、斜面12の手前側は、多少根切りをして浅い根切り底13を形成しておき、この根切り底13に対して整地、突き固めを行う。
【0062】
そして、図15(2)〜(4)に示すように、斜面12や根切り底13に砕石を投入して砕石層150を形成しながら樹脂ブロック層4を形成する。具体的には、平坦な面に砕石を投入してならし上に上下連結体40を載置する。そして、斜面12と上下連結体40の間の空間に砕石15を充填する。このようにして、例えば三段の樹脂ブロック層4を形成し、階段状の斜面12との間に砕石層150が設けられた構造とする。尚、この際、樹脂ブロック層4の安定化のため、仮押さえ棒41が使用される。仮押さえ棒41は、図15(2)に示すように、樹脂ブロック層の外側面に沿って地面に突き刺される。
【0063】
図15(5)に示すように、三段目の樹脂ブロック層の形成がされた後、その上に上面層8が施工される。上面層8は、リプラボードのような緩衝層の上に周辺保護層としてのコンクリート層を積層したものとされている。コンクリート層は、捨てコンでも良いが、プレキャストコンクリートをモルタルで固めたものとすると養生が短くなり、好適である。その後、仮押さえ棒41を引き抜いて取り外し、側面層3の施工を行う。側面層3の施工は、同様に例えばEPS板31を挟み込みながらモルタル化粧板32をビス止めすることで行われる。その後、側面層3の下端部分を埋設しながら、根切りの部分を埋め戻し、隣地100と同じ高さにすると、改築の完了である。
前述したのと同様に、上記実施形態の擁壁2も、低コストで短工期で構築される。そして、樹脂ブロック層4が雨水貯留浸透槽となるので、雨水流出抑制機能が発揮される。
【0064】
次に、上記各実施形態の擁壁2に比べて多少補強を行った擁壁2の構造について説明する。補強は、斜面12が安息角ラインを多少超えてしまうので念のために行われる場合の他、安息角以下であってもより高い安全性を考慮する場合や、耐震性を考慮する場合、擁壁が大規模である場合等に適宜行われる。図16は、この補強タイプの実施形態の擁壁2の構造を示した断面概略図である。図16も、擁壁ライン方向に垂直な面で見た断面概略図となっている。
【0065】
図16に示す実施形態の擁壁2も、用地の斜面12と側面層3との間の空間を樹脂ブロック層4で埋めた構造となっている。そして、この実施形態は、擁壁2の補強のための支柱(以下、補強用支柱)43を備えた構造となっている。
具体的に説明すると、図16に示すように、この実施形態では、内外方向で二本の補強用支柱43が使用されている。外側の補強用支柱43は、最も外側の樹脂ブロック5を上下に貫通して配置されている。補強用支柱43は、擁壁ライン方向において間隔をおいて複数設けられる。擁壁ライン方向では、例えば0.5〜1mおきに設けられる。各補強用支柱43は、下端が地盤中に埋設されており、上端が樹脂ブロック層4の上面付近に位置している。
各補強用支柱43としては、例えば塩ビ管が使用できる。具体的には、内径が100mm、外径110mm、肉厚5mmの塩ビ管が使用できる。塩ビ管以外の他の樹脂製の円筒管を使用しても良く、ステンレスのような金属製の円筒管やセラミックス製の円筒管が使用され得る。
【0066】
また、この実施形態では、耐震性を高めるため、最も外側の樹脂ブロック5のうち、最下層の上下連結体40は、半分以上(例えば8割程度)まで地中に埋設された構造となっている。補強用支柱43は、この部分の上下連結体40を貫通し、下端が地中に埋設されている。但し、樹脂ブロック層4の下側には砕石層150があるため、補強用支柱43の下端は、砕石層150中に位置している。尚、側面層3は樹脂ブロック層4の側面を全体に覆うものであるため、その下端部は、同様に地中に埋設された状態となっている。
【0067】
この実施形態では、上記のように樹脂ブロック層4が補強用支柱43で補強された構造となっているため、斜面12が安息角ラインを超えていたとしても、特に擁壁2の崩落のような事故は発生しない。図16では、内外方向で2本の補強用支柱43が採用されたが、さらに多くすると補強効果が高くなるので好適であり、場合によっては、すべての樹脂ブロック5を貫くようにして補強用支柱43を施工しても良い。補強用支柱43は塩ビ管のような安価なもので足り、地中(砕石層150中)に突き刺すだけであるので、施工も容易である。このため、追加の資材、工程が必要ではあるものの、地中に基礎を設ける従来のコンクリート擁壁に比べると、遙かに安価で短工期のものとなる。このような補強タイプの擁壁2については、例えば高さ3.5mのものとすることができる。
【0068】
尚、図16は、この擁壁2が宅地のような建物用の造成地として構築された例となっており、建物の基礎が施工された状態が描かれている。図16に示すように、この例では、基礎は、用地の土(地盤)の部分と樹脂ブロック層4との部分にまたがって施工されている。樹脂ブロック層4の上側には、リプラボードのような緩衝層81を介してコンクリート層(捨てコン)83が施工されており、その上に布基礎95が施工されている。コンクリート層83と布基礎95との間に、免震シートを挟み込むと、地震対策として好適である。
【0069】
また、図16に示すように、擁壁2を構成する樹脂ブロック層4とは別に樹脂ブロック層(以下、追加ブロック層という)96が設けられている。追加ブロック層96は、基礎95のうち擁壁2とは反対側の端部の下側に位置している。追加ブロック層96は、擁壁2を構成するものではないが、擁壁2中の樹脂ブロック層4との間でバランスを取ったり、基礎95の上に建設される建物の不同沈下事故を防止したりする作用がある。
【0070】
擁壁2が構築される地盤がいわゆる軟弱地盤でなければ、追加ブロック層96は不要であるが、多少でも軟弱な地盤であれば、追加ブロック層96が効果を発揮する。擁壁2を構成する樹脂ブロック層4は、軟弱地盤の改良材としても使用可能な樹脂ブロック5から形成されているので、全体に軽量である。このため、軟弱地盤の場合、全体の重量バランスが悪くなり、擁壁2とは反対側の部分で沈下する不同沈下が発生する可能性がある。この例では、これを考慮して追加ブロック層96を設け、地盤中に軽量な箇所を形成している。このため、不同沈下事故が防止される。
【0071】
また、図16に示すように、基礎95が下方に突出したフーチン951を有する場合、降水時の雨水の浸透がフーチン951の箇所で生じ易く、フーチン951の周囲が浸食されてしまう事故が発生することもあり得る。図15のようにフーチン951の下側に追加ブロック層96を設けておくと、土砂ではないので浸食はなく、安定して基礎を支えることができる。
【0072】
以上説明した各実施形態において、側面層3としては、モルタル化粧板32を用いる場合の他、プレキャストコンクリートを敷き詰めて固定する構造であっても良い。また、日新総合建材株式会社のセパメイト(同社の登録商標)のような高耐食性の金属パネルで側面層3を形成する場合もある。
また、造成地の実施形態では、盛土1による造成地であると説明したが、擁壁2は、切土による造成地においても構築できる。構築の方法は、図15に示す方法で良い。
【0073】
尚、詳細な説明は省略したが、多数の通水性の樹脂ブロック5で形成された樹脂ブロック層4は、沿岸部の震災被害として知られる液状化に対しても特に効果を発揮する。即ち、液状化は、大きな揺れに伴って過剰間隙水圧が生じて地下水が急激に上昇する減少であるが、実施形態の擁壁2の構造では、過剰間隙水圧によって上昇する地下水を樹脂ブロック層4が吸収(収容)してその上昇水圧を緩和するよう作用する。このため、地表面における陥没等の事故が未然に防止される。従来の擁壁や発泡樹脂ブロックを使用した擁壁では、このような効果は得られない。
【0074】
また、側面層3について特に基礎は不要であると説明したが、擁壁2の高さが非常に高いとか、用地の地盤が脆いとかいった理由で基礎を設けることもあり得る。この場合も、樹脂ブロック層4の無い従来の擁壁に比べると、基礎は遙かに簡易で済み、低コストで短工期の構造となる。
尚、図16に示す実施形態で採用されている補強用支柱43については、樹脂ブロック層4を形成する際の仮止めとして使えるので、仮押さえ棒41の代わりに使用することもある。
【0075】
また、補強用支柱43は、下端が地中に埋設されていて杭のように作用することが補強の点からは好ましいが、埋設されていない場合も一定の効果がある。即ち、各樹脂ブロック5を貫通して補強用支柱43が配置されることで、各樹脂ブロック43の水平方向のズレが防止されるという効果である。尚、補強用支柱43は、横方向(水平又は斜め)に延びるようにして配置される場合もあり、斜面12に対して差し込まれた状態とされることもあり得る。この場合は、アンカーに類似したものということになる。
【0076】
また、上下連結体40内に砕石15を充填することは、樹脂ブロック層4をより安定化させるので、耐震性等の点で好適となるという効果がある。但し、貯水用の空間としては容積が減ってしまうので、その点ではデメリットとなる。この点を勘案して、充填量が決定される。尚、図1に示す実施形態では、各上下連結体40内に砕石15は充填されていないが、充填することもあり得る。
また、造成地の発明において、造成地の平面形状(境界線の形状)は任意である。図1図9の実施形態では、造成地は方形の形状(いわゆる整形地)であって擁壁2は方形の周状に連なっていることが想定されている。しかしながら、造成地の境界線の一部が隣地と同じ高さであったり山の斜面と隣接していたりして、擁壁2が完全な周状(無終端状)でない場合もある。
【符号の説明】
【0077】
1 盛土
11 地表面
12 斜面
13 根切り底
14 土木安定シート
15 砕石
150 砕石層
2 擁壁
3 側面層
31 EPS板
32 モルタル化粧板
4 樹脂ブロック層
41 仮押さえ棒
42 緩衝層
43 補強用支柱
5 樹脂ブロック
6 連結具
7 端板
8 上面層
81 緩衝層
82 周辺保護層
θ 安息角

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17