【実施例1】
【0035】
1.
抗アトピー性皮膚炎用組成物
がアレルギー性皮膚炎等に与える影響
(1)じゃばら乾燥果皮末の調製
和歌山県和歌山市松江北のじゃばら果樹からじゃばら果実を10月末頃に採取して、その果皮を手で剥ぎ取った。剥ぎ取った果皮を-70℃のフリーズドライ法で乾燥したのち、80℃で8時間熱乾燥して乾燥果皮を得た。乾燥果皮をボールミルで粉砕して、200メッシュの篩に掛け、200メッシュの篩を通過したじゃばら乾燥果皮末を得た。
【0036】
(2)
抗アトピー性皮膚炎用組成物の調製
この発明に係る
抗アトピー性皮膚炎用組成物を調製した。具体的には、表1に記載の成分をビーカーに入れ、ホモミキサーや攪拌機で攪拌して調製した。
【0037】
【表1】
【0038】
(3)
抗アトピー性皮膚炎用組成物の性能試験
(2)で製造した
抗アトピー性皮膚炎用組成物を、成人男女各10名(20代〜50代)の顔及び皮膚に塗布して、その性能を「使用感試験」、「刺激試験」、「肌質改善試験」により評価した。その結果を表2から表4に示す。
【0039】
なお、「使用感試験」は、塗布直後の肌馴染みや塗布直後及び翌日の保湿感を被験者へのアンケートによって評価する試験である。また、「刺激試験」は塗布直後に塗布部分に感じた刺激を被験者へのアンケートによって評価する試験である。さらに、「肌質改善試験」は、1日2回30日間塗布したのち、塗布部分の症状の変化を目視により評価する試験である。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表2は「使用感試験」の結果を示しており、この表から、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は、皮膚の乾燥とバリア機能異常を正常に戻し、肌馴染みや、保湿感などの使用感の点で優れことが分かった。また、表3は「刺激試験」の結果を示しており、この表から、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は塗布しても皮膚に有害な刺激を与えないことが分かった。さらに、表4は「肌質改善試験」の結果を示しており、この表から、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は、皮膚の乾燥とバリア機能異常を正常に戻して、肌質を改善する能力に優れ、少なくとも塗布しても症状を悪化はしないことが分かった。
【0044】
(4)アトピー性皮膚炎に対する効果の確認
(2)で製造した
抗アトピー性皮膚炎用組成物をアトピー性皮膚炎の患者10人の患部に朝晩2回塗布して、症状の変化を目視により調べた。なお、患者の年齢、性別、及び症状の変化を表5に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
表5から、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物を患部に塗布することによって、赤い腫れ・痒みの症状(I型アレルギー)は塗布後1〜5日で改善し、好酸球の湿潤による患部の湿潤(IV型アレルギー、アトピー性皮膚炎)も塗布後5〜14日で改善した。なお、前記のように皮膚の赤い腫れ、痒み、患部の湿潤は、非特異的反応に関係しているので、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は非特異的反応の抑制にも貢献すると考えられる。
【0047】
さて、一般的に、ステロイド剤は、即効性はあるものの、長期使用による弊害と副作用があり、反対に、生薬は、即効性は期待できないものの、体質改善などの体に穏やかな方法で作用するので副作用が少ない。
【0048】
それにもかかわらず、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は、生薬にしては、即効性が極めて高く、かつ症状の改善効果も高かった。すなわち、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は生薬の安全性と、ステロイド剤の高い即効性及び薬効を備えていることが分かった。
【実施例2】
【0049】
2.ナリルチンがアレルギー性皮膚炎等に関連する遺伝子の転写量に与える影響
じゃばら乾燥果皮末に含まれるナリルチンA及びナリルチンBが、抗アレルギー・抗炎症に関与する遺伝子の転写量に与える影響を、実験動物を使用して調べた。その詳細を以下に示す。
【0050】
(1)実験動物と材料
ナリルチンは、大阪薬科大学生薬学教室谷口教授が精製したものを使用した。なお、ナリルチンは、分子式C
27H
32O
14のS体の化合物であり、立体構造的に区別する場合、2S-ナリルチンと表記される。また、精製法によっては、ナリルチン(2S-ナリルチン)の単離過程で、R体に異性化した2R-ナリルチンが20重量%程含まれる。
【0051】
そこで、本実施例では、「ナリルチン精製品(2S-ナリルチン100重量%、以下、ナリルチンAと省略する。)」及び「2R-ナリルチンを除去していない粗精製品(2S-ナリルチン80重量%及び2R-ナリルチン20重量%の混合物、以下、ナリルチンBと省略する。)」の両方を使用した。
【0052】
実験動物は、NC/Ngaマウスの雌、7週齢を使用し、動物飼育施設にて1ケージあたり5匹で飼育した。飼育中の給餌は固型飼料CRF-1を給餌器に入れて自由摂取により行い、飼育中の給水は水道水を給水瓶に入れて自由摂取により行った。
【0053】
(2)アレルギーモデルマウスの作製
アレルギーモデルマウスは、Yamamoto(下記の参考文献1を参照。)らの方法に従って作製した。)。具体的には、まずNC/Ngaマウスの背部及び耳介部をバリカン、電気シェーバーにて毛刈りしたのち、除毛剤エピラットを適量塗布し除毛した。除毛剤をふき取ったのち、ビオスタAD(株式会社ビオスタ製)100mgをマイクロピペットのチップ裏部で背部及び耳介部に均一に塗布した(初回惹起)。
【0054】
初回惹起から3日後、7日後、10日後、14日後、17日後に再惹起を行った。具体的には、シェーバーで除毛のち、4% SDS水溶液 150μlをマイクロピペットで背部、耳介部に滴下しながらマイクロピペットのチップ裏部で均一に塗布後約2〜3時間自然に乾燥させた。乾燥させたのち、ビオスタAD 100mgをマイクロピペットのチップ裏部で背部及び耳介部に均一に塗布し、ダニアレルゲンによるアトピー性皮膚炎モデルを作製した。モデルを作製したのち、アトピー性皮膚炎の症状をスコア化し、麻酔下にてヘパリン採血により全採血した。
【0055】
参考文献1:A novel atopic dermatitis model induced by topical application with dermatophagoides farinae extract in NC/Nga mice. Yamamoto M, Haruna T, Yasui K, Takahashi H, Iduhara M, Takaki S, Deguchi M, Arimura A. Allergol Int. 2007. 56: 139-148.
【0056】
(3)生体外刺激(ex vivo simulation)法によるmRNA転写量の測定
アレルギーモデルマウスの白血球でしている細胞性免疫関連遺伝子のmRNA転写量をex vivo simulation法により測定した。具体的には、以下のようにして測定した。
【0057】
なお、細胞性免疫関連遺伝子として、好中球走化性を促進し、皮膚の非特異的な刺激反応及び炎症に関係するケモカインCXCL1遺伝子及びケモカインCCL4遺伝子、アトピー性皮膚炎の特異的刺激反応に関連するマーカーIL-16遺伝子、痒みの原因となるヒスタミンの合成に関与するL-ヒスチジン脱炭酸酵素HDC遺伝子の転写量を測定した。
【0058】
(3a)アレルゲン混合液とナリルチン溶液の調製
ダニアレルゲンDer f1及びDer f2(アサヒフードアンドヘルスケア株式会社製)を、それぞれ濃度が100μg/mlとなるように溶解・懸濁してアレルゲン混合溶液を調製した。また、ナリルチンAとナリルチンBを、血液との反応時の濃度が100μM、10μM、1μMになるようにDMSOにて溶解し、ナリルチン溶液を調製した。なお、ナリルチンを含まない溶液を実験対照として使用するため調製した。
【0059】
(3b)ex vivo simulation法によるmRNA転写量の測定
ヘパリン採血したマウス全血60μlに、アレルゲン混合溶液1.2μl、及びナリルチン溶液1.2μlを添加し、37℃で4時間反応させた。このナリルチン添加マウス全血中の各遺伝子のmRNAの転写量を、Mitsuhashiの方法(下記の参考文献2を参照。)に従って測定した。具体的には次のようにして行った。
【0060】
まず、ナリルチン添加マウス全血を、全血から白血球だけを捕獲する96ウェルのフィルタープレートに通過させた。細胞溶解液をフィルタープレートの各ウェルに加え、フィルタープレートに捕獲された白血球を溶解した。なお、細胞溶解液は、測定対象となる遺伝子のmRNAアンチセンスプライマーの何れかを一つを含んでいる。
【0061】
つぎに、遠心操作によって、フィルタープレート上の細胞溶解液を96ウェルのオリゴ(dT)プレートに移して、細胞溶溶解液中のmRNAとウェル中のオリゴdTとをハイブリダイゼーションさせたのち、オリゴ(dT)プレートの各ウェルを吸引ノズルで洗浄してmRNAを精製した。
【0062】
各ウェルに直接逆転写酵素とdNTPを加えて、既にmRNAにハイブリダイゼーションしているオリゴ(dT)とアンチセンスプライマーを起点として、2個所から同時にcDNAを合成した。各ウェルにDNAポリメラーゼを加えて、リアルタイムPCRによりmRNAの転写量の変化を測定し、ナリルチンの濃度の違いがmRNAの転写量に与える影響を比べた。その結果を
図1から
図4に示す。なお、
図1から
図4の縦軸は、ナリルチンの投与量が0μMの場合のmRNAの転写量を1.0としたときの相対値である。
【0063】
参考文献2:Mitsuhashi M. Ex vivo simulation of leukocyte function: stimulation of specific subset of leukocytes in whole blood followed by the measurement of function-associated mRNAs. J Immunol Methods. 2010, 363: 95-100.
【0064】
(4)実験結果
図1は、ナリルチンの投与量が、ケモカインCXCL1遺伝子の転写量に与える影響を示すグラフである。また、
図2は、ナリルチンの投与量が、ケモカインCCL4遺伝子の転写量に与える影響を示すグラフである。さらに、
図3は、ナリルチンの投与量が、インターロイキンIL-16遺伝子の転写量に与える影響を示すグラフである。加えて、
図4は、ナリルチンの投与量がL-ヒスチジン脱炭酸酵素HDC遺伝子の転写量に与える影響を示すグラフである。
【0065】
図1から
図3に示すように、ナリルチンの血中濃度が1μMという低濃度でも細胞性免疫に係る遺伝子の転写が充分低下しており、特に、ケモカインCXCL1遺伝子(
図1)は1μMでも殆どしていないといえる程度まで転写量が低下していることが分かった。
【0066】
また、
図4に示すように、痒みの原因であるヒスタミンの合成と関連するL-ヒスチジン脱炭酸酵素HDC遺伝子の転写量も低下していた。このことから、ナリルチンの投与によってアトピー性皮膚炎での痒み症状が抑制され、患者のQOLを向上できると考えられる。以上の結果から、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物はアレルギー皮膚炎やアトピー性皮膚炎に対して高い効果を有すると推測できる。
【0067】
以上のように、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は、(1)皮膚の乾燥とバリア機能異常を正常に戻し(表2及び表4を参照。)、(2)皮膚の非特異的な刺激反応及び炎症を抑え(表5、
図1及び
図2を参照。)、(3)痒みを抑える(表5及び
図4を参照。)ことによって、アトピー性皮膚炎の特異的刺激と非特異的刺激の何れも抑制できることが明らかになった。すなわち、この発明の
抗アトピー性皮膚炎用組成物は生薬の安全性と、ステロイド剤の高い即効性及び薬効を備えていることが分かった。