(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コア部が、第2単量体混合物を反応させることにより得られ、前記第2単量体混合物が、第2芳香族ビニル単量体と、共役ジエン単量体と、シアン化ビニル単量体とを含み、
前記第2単量体混合物100wt%に対し、前記第2芳香族ビニル単量体の含有量が、40wt%〜50wt%であり、前記共役ジエン単量体の含有量が、45wt%〜55wt%であり、前記シアン化ビニル単量体の含有量が、2wt%〜10wt%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極用樹脂。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<リチウムイオン電池負極用樹脂>
本発明は、コア部と、コア部の表面を覆うシェル層とを含むリチウムイオン電池負極用樹脂を提供する。シェル層は、コア部の表面を部分的に、または完全に覆う。以下、コア部、シェル層、およびリチウムイオン電池負極のそれぞれの製造方法について詳しく説明する。
シェル層
【0020】
シェル層は、第1単量体混合物を反応させることにより得られる。詳しく説明すると、第1単量体混合物は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体と、第1芳香族ビニル単量体と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体とを含む。
【0021】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、または2‐エチルヘキシルアクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート;メチルメタクリレートまたはエチルメタクリレート等の炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート;マレイン酸ジメチルまたはマレイン酸ジエチル等の炭素数1〜4のアルキル基を有するマレイン酸アルキル;イタコン酸ジメチル等の炭素数1〜4のアルキル基を有するイタコン酸アルキル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジメチル、またはフマル酸ジエチル等の炭素数1〜4のアルキル基を有するフマル酸アルキル、またはこれらの化合物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、単独で使用しても、複数組み合わせて使用してもよい。
【0022】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例は、好ましくは、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2‐エチルヘキシルアクリレート、またはこれらの化合物の組み合わせを含む。
【0023】
第1単量体混合物100wt%に対し、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量は、45wt%〜80wt%であり、好ましくは、55wt%〜80wt%である。
【0024】
第1芳香族ビニル単量体の具体例は、スチレン、α‐メチルスチレン、メチル‐α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、およびジビニルベンゼン、またはこれらの化合物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。第1芳香族ビニル単量体は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
第1芳香族ビニル単量体の具体例は、好ましくは、スチレン、α‐メチルスチレン、またはこれらの化合物の組み合わせを含む。
【0026】
第1単量体混合物100wt%に対し、第1芳香族ビニル単量体の含有量は、5wt%〜25wt%であり、好ましくは、5wt%〜20wt%である。
【0027】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、またはこれらの化合物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の具体例は、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、またはこれらの化合物の組み合わせを含む。
【0029】
第1単量体混合物100wt%に対し、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量は、10wt%〜43wt%であり、好ましくは、10wt%〜30wt%である。
【0030】
第1単量体混合物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、他の共重合可能な単量体をさらに含んでもよい。他の共重合可能な単量体の具体例は、シアン化ビニル単量体、共役ジエン単量体、またはアミド単量体を含むが、本発明はこれらに限定されない。シアン化ビニル単量体および共役ジエン単量体の具体例は、後で説明するコア部のシアン化ビニル単量体および共役ジエン単量体の具体例と同じであるため、ここでは繰り返し説明しない。
【0031】
アミド単量体の具体例は、アクリルアミド(acrylamide)、メタクリルアミド、N‐メチロールアクリルアミド、N‐メチロールメタクリルアミド、N,N‐ジメチルアクリルアミド(N,N‐dimethylacrylamide)、N,N‐ジメチルメタクリルアミド(N,N‐dimethylmethacrylamide)、またはこれらの化合物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。アミド単量体は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
リチウムイオン電池負極用樹脂100重量部に対し、シェル層の含有量は、20重量部〜30重量部であり、好ましくは、20重量部〜28重量部であり、より好ましくは、20重量部〜25重量部である。
コア部
【0033】
本発明の1つの実施形態において、コア部は、乳化剤、重合開始剤、活性化剤、またはこれらの組み合わせの存在下で、第2単量体混合物に対し重合反応を行うことによって得られる。第2単量体混合物は、第2芳香族ビニル単量体と、共役ジエン単量体と、シアン化ビニル単量体とを含む。
【0034】
第2芳香族ビニル単量体の具体例は、シェル層の形成に使用した第1芳香族ビニル単量体の具体例と同じであるため、ここでは繰り返し説明しない。第2芳香族ビニル単量体の具体例は、好ましくは、スチレンを含む。第2単量体混合物100wt%に対し、第2芳香族ビニル単量体の含有量は、40wt%〜50wt%であり、好ましくは、40wt%〜45wt%である。
【0035】
共役ジエン単量体の具体例は、1,3‐ブタジエン、イソプレン、1,3‐ペンタジエン、2‐エチル‐1,3‐ブタジエン、2,3‐ジメチルブタジエン、2‐メチルペンタジエン、4‐メチルペンタジエン、2,4‐ヘキサジエン、またはこれらの化合物の組み合わせを含む。共役ジエン単量体は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。共役ジエン単量体の具体例は、好ましくは、1,3‐ブタジエンである。第2単量体混合物100wt%に対し、共役ジエン単量体の含有量は、45wt%〜55wt%であり、好ましくは、45wt%〜50wt%である。
【0036】
シアン化ビニル単量体の具体例は、アクリロニトリル(acrylonitrile)、α‐メタクリロニトリル(α‐methacrylonitrile)、またはこれらの化合物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。シアン化ビニル単量体は、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。シアン化ビニル単量体の具体例は、好ましくは、アクリロニトリルである。第2単量体混合物100wt%に対し、シアン化ビニル単量体の含有量は、2wt%〜10wt%であり、好ましくは、2wt%〜8wt%である。
【0037】
第2単量体混合物100wt%に対し、他の共重合可能な単量体の含有量は、2wt%〜10wt%であり、好ましくは、2wt%〜8wt%である。
【0038】
本発明の1つの実施形態において、リチウムイオン電池負極用樹脂100重量部に対し、コア部の含有量は、70重量部〜80重量部であり、好ましくは、72重量部〜80重量部であり、より好ましくは、75重量部〜80重量部である。
リチウムイオン電池負極用樹脂の製造方法
【0039】
リチウムイオン電池負極用樹脂の製造方法は、以下のステップを含む:(1)コア部を形成するステップ、および(2)コア部の表面にシェル層を形成するステップ。
(1)コア部を形成するステップ
【0040】
溶媒、乳化剤、および重合開始剤の存在下で、第2芳香族ビニル単量体、共役ジエン単量体、およびシアン化ビニル単量体に対して乳化重合反応を行い、コア部の溶液を形成する。
【0041】
溶媒の具体例は、水、またはメタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、またはこれらの溶媒の組み合わせを含む。第2単量体混合物100wt%に対し、溶媒の含有量は、100wt%〜1000wt%である。
【0042】
乳化剤の具体例は、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、または脂肪族カルボン酸塩等のアニオン界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、またはアルキルエーテル型等のノニオン界面活性剤;またはこれらの乳化剤の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。乳化剤の具体例は、好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む。第2単量体混合物100wt%に対し、乳化剤の含有量は、0.05wt%〜10wt%であってもよい。
【0043】
重合開始剤は、フリーラジカル(free radical)重合開始剤であってもよい。重合開始剤の具体例は、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、または過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤;クメンヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、t‐ブチルヒドロペルオキシド、アセチルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、1,1,3,3‐テトラメチルブチルヒドロペルオキシド等の油溶性重合開始剤;またはこれらの重合開始剤の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。重合開始剤の具体例は、好ましくは、過硫酸カリウムである。第2単量体混合物100wt%に対し、重合開始剤の含有量は、0.01wt%〜1wt%であってもよい。
【0044】
乳化重合反応は、還元剤または連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0045】
還元剤の具体例は、硫酸第一鉄、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硫黄酸素酸塩、ハイドロサルファイト、ビススルホン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、カルボン酸、およびその塩(L‐アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、酒石酸、またはクエン酸等)、還元糖(ブドウ糖または蔗糖等)、アミン(ジメチルアニリンまたはトリエタノールアミン等)、またはこれらの還元剤の組み合わせを含む。
【0046】
連鎖移動剤の具体例は、n‐ヘキシルメルカプタン、n‐オクチルメルカプタン、t‐オクチルメルカプタン、n‐ドデシルメルカプタン、t‐ドデシルメルカプタン、またはn‐ステアリルメルカプタン等の炭素数6〜18のアルキル基を有するアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジスルフィドまたはジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲン化合物;テルピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、またはテトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム(thiuram)化合物;2,6‐ジ‐t‐ブチル‐4‐メチルフェノールまたはスチレン化フェノール等のフェノール化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、または四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;α‐ベンジルオキシスチレン、α‐ベンジルオキシアクリロニトリル、またはα‐ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン(acrolein)、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2‐エチルヘキシルチオグリコレート、α‐メチルスチレンダイマー、またはこれらの連鎖移動剤の組み合わせを含む。
【0047】
乳化重合反応は、他の添加剤の存在下で行ってもよい。他の添加剤は、例えば、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤、またはこれらの他の添加剤の組み合わせであってもよい。
【0048】
乳化重合反応は、特に限定されず、例えば、バッチ重合(batch polymerization)、セミバッチ重合(semi-batch polymerization)、またはシード重合(seed polymerization)を含むことができる。さらに、各成分の添加方法は、例えば、一括添加方法(simultaneous feeding)、分割添加方法(successive feeding)、連続添加方法(continuous feeding)、およびバウーフィード法(power feeding)を含むことができるが、本発明はこれらに限定されない。それにより、コア部を得ることができる。
【0049】
乳化重合反応の温度は、40℃〜100℃であってもよく、好ましくは、50℃〜90℃である。乳化重合反応の反応時間は、10時間〜40時間であってもよく、好ましくは、15時間〜30時間である。
(2)コア部の表面にシェル層を形成するステップ
【0050】
ステップ(1)で形成したコア部の溶液中に、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、第1芳香族ビニル単量体、およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体の第1単量体混合物を添加して、グラフト反応を行う。それにより、コア部の表面にシェル層を形成することができる。
【0051】
グラフト反応の温度は、40℃〜100℃であってもよく、好ましくは、50℃〜90℃である。グラフト反応の反応時間は、2時間〜10時間であってもよく、好ましくは、2時間〜6時間である。
<リチウムイオン電池負極用樹脂組成物>
【0052】
本発明は、また、上述したリチウムイオン電池負極用樹脂と、溶媒とを含むリチウムイオン電池負極用樹脂組成物を提供する。溶媒の具体例は、水、またはメタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、またはこれらの溶媒の組み合わせを含む。
【0053】
さらに、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物100wt%に対し、リチウムイオン電池負極用樹脂の使用量は、10wt%〜40wt%であってもよい。リチウムイオン電池負極用樹脂組成物100wt%に対し、溶媒の使用量は、60wt%〜90wt%であってもよい。
【0054】
リチウムイオン電池負極用樹脂組成物の形成方法は、特に限定されない。リチウムイオン電池負極用樹脂と溶媒を混合してリチウムイオン電池負極用樹脂組成物を形成する方法であれば、任意の方法を使用することができる。詳しく説明すると、リチウムイオン電池負極用樹脂と溶媒の混合方法は、例えば、電磁式攪拌器(magnetic stirrer)または機械式攪拌器(mechanical stirrer)で攪拌する方法を含む。
<リチウムイオン電池負極用スラリー>
【0055】
本発明は、また、上述したリチウムイオン電池負極用樹脂組成物および活物質を含むリチウムイオン電池負極用スラリーを提供する。さらに、必要であれば、リチウムイオン電池負極用スラリーは、腐食剤、導電助剤、または増粘剤をさらに含んでもよい。
【0056】
活物質の具体例は、天然黒鉛または人造黒鉛等の導電性炭素材料を含むが、本発明はこれらに限定されない。人造黒鉛は、例えば、石油、石炭アスファルト、またはコークスを黒鉛化処理して得られた材料である。導電性ポリマーは、例えば、ポリアセン(polyacene)系有機半導体、ポリアセチレン、ポリ(p‐フェニレン)、またはこれらの炭化物の組み合わせである。
【0057】
腐食剤は、後述する集電体の表面を部分的に腐食して集電体の表面を粗面化することができさえすれば、他の制限はない。腐食剤の具体例は、蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、またはプロパン酸等の有機酸;または塩酸、リン酸、または硫酸等の無機酸を含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
導電助剤の具体例は、アセチレンブラックまたはケッチェンブラック(Ketjenblack)等のカーボンブラック;気相成長炭素繊維等のカーボンナノファイバー;カーボンナノチューブまたは微粉黒鉛等の導電性カーボン、またはこれらの炭化物の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
増粘剤の具体例は、カルボキシメチルセルロース(carboxy methyl cellulose)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化澱粉、リン酸化澱粉、カゼイン、またはこれらの増粘剤の組み合わせを含むが、本発明はこれらに限定されない。増粘剤の具体例は、好ましくは、メチルセルロースを含む。
【0060】
また、リチウムイオン電池負極用スラリーは、分散剤または安定化剤等の各種添加剤をさらに含んでもよい。分散剤の具体例は、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリアクリル酸ナトリウムを含むが、本発明はこれらに限定されない。安定化剤の具体例は、ノニオンまたはアニオン界面活性剤を含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0061】
リチウムイオン電池負極用スラリーの形成方法は、特に限定されない。リチウムイオン電池負極用樹脂組成物と活物質を混合する方法であれば、任意の方法を使用することができる。詳しく説明すると、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物と活物質の混合方法は、例えば、電磁式攪拌器または機械式攪拌器で攪拌することを含む。本発明のリチウムイオン電池負極用スラリーにおいて、活物質100重量部に対し、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物の使用量は、0.1重量部〜10重量部であり、好ましくは、0.5重量部〜5重量部である。
<リチウムイオン電池>
【0062】
本発明のリチウムイオン電池負極用樹脂、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物、およびリチウムイオン電池負極用スラリーは、様々な種類のリチウムイオン電池に応用可能である。例えば、
図1は、本発明の1つの実施形態に係るリチウムイオン電池の概略的断面図である。本発明のリチウムイオン電池負極用樹脂、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物、およびリチウムイオン電池負極用スラリーは、集電体との密着性が良いため、リチウムイオン電池の電気特性を向上させることができる。以下、リチウムイオン電池の各部分の構造について説明する。
【0063】
図1において、リチウムイオン電池100は、正極110と、負極120と、電解質130と、隔離膜140と、実装構造150とを含む。隔離膜140、正極110、および負極120は、分離され、且つ平行に配置される。詳しく説明すると、隔離膜140は、正極110と負極120の間に設置され、電解質130を分離する。さらに詳しく説明すると、電解質130は、正極110と負極120の間に設置され、隔離膜140を介して2つの部分に分離される。
【0064】
正極110は、正極金属箔と、正極材料とを含み、正極材料は、コーティングまたはスパッタリングにより、正極金属箔の上に配置される。正極金属箔は、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、または高導電性ステンレス鋼箔である。正極材料の具体例は、MnO
2、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13、Fe
2O
3、またはFe
3O
4等の遷移金属酸化物、LiCoO
2、LiMnO
2、LiNiO
2、またはLiFePO
4等のリチウム含有複合酸化物、TiS
2、TiS
3、MoS
3、またはFeS
2等の遷移金属硫化物、CuF
2またはNiF
2等の金属フッ化物、またはこれらの組み合わせを含む。
【0065】
負極120は、集電体と、集電体の表面に配置された電極層とを含む。リチウムイオン電池の負極は、上述したリチウムイオン電池負極用スラリーを集電体の上にコーティングした後に乾燥させるステップ等の処理ステップにより形成される。集電体は、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、または高導電性ステンレス鋼箔である。リチウムイオン電池負極用スラリーを集電体の上にコーティングする方法は、リバースロール(reverse roll)法、ドクターブレード(doctor blade)法、グラビア(gravure)印刷法、またはエアブレード(air blade)法等の周知の方法を含んでもよい。乾燥方法は、例えば、放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線ヒーター、または遠赤外線ヒーターを含んでもよい。乾燥温度は、一般的に、少なくとも50℃である。
【0066】
電解質130は、リチウム塩と、有機溶媒とを含む。リチウム塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
2CF
3)
2、またはこれらの組み合わせである。有機溶媒は、例えば、γ‐ブチルラクトン、炭酸エチレン(ethylene carbonate, EC)、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル(diethyl carbonate, DEC)、プロピルアセテート(propyl acetate, PA)、炭酸ジメチル(dimethyl carbonate, DMC)、炭酸エチルメチル(ethylmethyl carbonate, EMC)、またはこれらの組み合わせである。
【0067】
隔離膜140の材料は、例えば、絶縁材料であり、絶縁材料は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはこれらの材料の積層複合構造(例えば、PE/PP/PE)であってもよい。
【0068】
実装構造150は、正極110、負極120、電解質130、および隔離膜140を覆うために使用される。実装構造150の材料は、例えば、アルミニウムプラスチック複合膜である。
実施例
【0069】
以下、リチウムイオン電池の実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例8について説明する。
実施例1
(1)リチウムイオン電池負極用樹脂の製造
【0070】
耐圧反応容器中に、400重量部の水、5重量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(以下、NaDBSと称す)、および100重量部のコア部の形成に使用した単量体混合物を入れた。コア部の形成に使用した単量体混合物において、単量体混合物100wt%に対し、アクリロニトリル(以下、ANと称す)は、5wt%であり、スチレン(以下、SMと称す)は、45wt%であり、ブタジエン(以下、BDと称す)は、50wt%であった。そして、混合物を室温から攪拌しながら、温度を65℃に上げた後、重合開始剤として使用する過硫酸カリウム(以下、KPSと称す)を添加するとともに、混合物を継続的に加熱および攪拌し、20時間反応させて、固形分の含有量(TS%)が21%のコア部の溶液を得ることができた。
【0071】
次に、1000mLの体積を有する三つ口フラスコ中にコア部の溶液を加え、溶液を室温から攪拌しながら、温度を65℃に上げた。そして、コア部の固形分の含有量70重量部に対し、シェル層の形成に使用した単量体混合物30重量部を添加した。シェル層の形成に使用した単量体混合物において、単量体混合物100wt%に対し、メチルメタクリレート(以下、MMAと称す)は、78wt%であり、メタクリル酸(以下、MAAと称す)は、10wt%であり、スチレン(以下、SMと称す)は、12wt%であった。単量体混合物をゆっくり添加して、混合物を継続的に加熱および攪拌し、4時間反応させた。そして、反応溶液を冷却した後、水酸化カリウムの水溶液を使用してpHを8に調整し、リチウムイオン電池負極用樹脂を含有する溶液を得た。次に、未反応単量体および溶媒を蒸気蒸留で除去して、実施例1のリチウムイオン電池負極用樹脂を得た。
(2)リチウムイオン電池負極用スラリーの製造
【0072】
1.5重量部のメチルセルロース(増粘剤として使用)、1.5重量部のリチウムイオン電池負極用樹脂、1重量部のシュウ酸、1重量部のアセチレンブラック(導電助剤として使用)、および95重量部の黒鉛(活物質として使用)を100重量部の水に添加した。混合物を混合して均一に攪拌し、TS%が50%のスラリーを得た。
(3)リチウムイオン電池負極の製造
【0073】
スラリーをドクターブレード法により銅箔(集電体として使用)の上に均一にコーティングした。スラリーの厚さは200μmであり、銅箔をオーブンに置いた。銅箔を80℃で30分間ベーキングして、乾燥させた。そして、銅箔をプレスさせ、厚さが約70μm、幅が約10cm、長さが約30cmの負極を製造した。
(4)リチウムイオン電池の製造
【0074】
ポリプロピレンを隔離膜として使用して正極と負極を分離し、正極と負極の間の領域に上述した電解質を添加した。電解質は、1容量部の炭酸エチレン(EC)、1容量部の炭酸ジエチレン(DEC)(ECとDECの体積比は1:1)、および濃度が1モル/LのLiPF
6で構成された。
【0075】
最後に、上述した構造を実装構造で密封して、実験例1のリチウムイオン電池の製造が完了した。さらに、得られた負極およびリチウムイオン電池のそれぞれを下記の評価方法で評価し、その評価結果を表2に示す。
実施例2〜実施例7
【0076】
実施例2〜実施例7のリチウムイオン電池負極用樹脂、リチウムイオン電池負極用スラリー、リチウムイオン電池負極、およびリチウムイオン電池を実施例1と同じステップで製造した。しかしながら、異なる点は、リチウムイオン電池負極用樹脂の成分および使用量を変えたことであった(表2に示す)。表2中の略称に対応する成分は、表1に示した通りである。得られたリチウムイオン電池負極のそれぞれを評価し、その評価結果を表2に示す。
【0078】
比較例1〜比較例8のリチウムイオン電池負極用樹脂、リチウムイオン電池負極用スラリー、リチウムイオン電池負極、およびリチウムイオン電池を実施例1と同じステップで製造した。しかしながら、異なる点は、リチウムイオン電池負極用樹脂の成分および使用量を変えたことであった(表3に示す)。表3中の略称に対応する成分は、表1に示した通りである。得られたリチウムイオン電池負極のそれぞれを評価し、その評価結果を表3に示す。
【0081】
実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例8の負極およびリチウムイオン電池の評価方法は、以下の通りである。
1.負極の密着性
【0082】
1cm×10cmの負極を取り出した。そして、負極を湾曲させ、一端を直径1mmの回転バーで取り囲んだ。次に、湾曲した負極で、回転バーを負極の一端から他端へ回転させた(湾曲を1回とする)。湾曲を10回繰り返した後、銅箔上のスラリーの脱離や剥離について観察した。評価基準は、以下の通りである。
○: 負極の表面は滑らかであるため、密着性が良かった
×: 負極の表面に亀裂が生じている、または、電極層が銅箔の表面から剥離しているため、密着性が悪かった。後述する電気特性の評価は、行われていなかった。
−: コア部を形成する乳化重合反応によって形成された溶液は、安定性が悪く、コア部を含有する溶液を製造できないことを示した。後述する電気特性の評価は、行われていなかった。
2.リチウムイオン電池の電気特性
【0083】
リチウムイオン電池の電気特性を充放電性能で評価した。25℃の環境において、リチウム電池をそれぞれ固定電流/電圧で充放電サイクルを行った。0.1Cの固定電流で電池を0.0V(vs.Li
+/Li)に充電した後、0.1Cの固定電流で電池を2V(vs.Li
+/Li)の臨界電圧に放電することを1回の充放電サイクルの定義とした。さらに、25℃の温度でリチウムイオン電池の充放電サイクルを50回行った後の電池容量(milliamp hours per gram, mAh/g)に基づいて、リチウムイオン電池の電気特性を評価した。
○: 最大容量≧330mAh/g
×: 最大容量<330mAh/g
−: 密着性が悪い、またはコア部を含む溶液を製造することができなかった。電気特性の評価は、行われていなかった。
<評価結果>
【0084】
表2および表3を参照すると、シェル層を形成するリチウムイオン電池負極用樹脂中のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量が45wt%〜80wt%の実施例1〜実施例7と比較して、比較例1および比較例2は、密着性が悪く、コア部を含有する溶液を製造することができなかった。このことからわかるように、シェル層を形成するエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量が45wt%よりも小さい時、負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が悪かった。また、シェル層を形成するエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量が80wt%よりも大きい時、コア部を形成する乳化重合反応によって形成された溶液は、安定性が悪く、コア部を含有する溶液を製造することができなかった。
【0085】
シェル層を形成するリチウムイオン電池負極用樹脂中の第1芳香族ビニル単量体の含有量が5wt%〜25wt%の実施例1〜実施例7と比較して、第1芳香族ビニル単量体の含有量が5wt%よりも小さい比較例3の負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が良好であるが、スラリー中の活物質の分散が良くないため、リチウムイオン電池の電気特性は悪かった。さらに、第1芳香族ビニル単量体の含有量が25wt%よりも大きい比較例4の負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が悪かった。
【0086】
シェル層を形成するリチウムイオン電池負極用樹脂中のエチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量が10wt%〜43wt%の実施例1〜実施例7と比較して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量が10wt%よりも小さい比較例5の負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が悪く;エチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量が43wt%よりも大きい比較例6において、コア部を形成する乳化重合反応によって形成された溶液は、安定性が悪く、その結果、コア部を含有する溶液を製造することができなかった。
【0087】
比較例7のリチウムイオン電池負極用樹脂において、コア部を形成する芳香族ビニル単量体の含有量は、40重量部よりも小さく;コア部を形成するシアン化ビニル単量体の含有量は、10重量部よりも大きく;シェル層を形成する芳香族ビニル単量体の含有量は、25wt%よりも大きく;シェル層を形成するエチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量は、10wt%よりも小さく;比較例7のコア部とシェル層の重量比は、50:50であった。比較例7の負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が悪かった。
【0088】
比較例8のリチウムイオン電池負極用樹脂において、コア部を形成するシアン化ビニル単量体の含有量は、10重量部よりも大きく;シェル層を形成するエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の含有量は、45wt%よりも小さく;シェル層を形成する芳香族ビニル単量体の含有量は、25wt%よりも大きく;シェル層を形成するエチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有量は、10wt%よりも小さく;比較例8のコア部とシェル層の重量比は、30:70であった。比較例8の負極中のスラリーによって形成された電極層と銅箔(集電体)の間は、密着性が悪かった。
【0089】
以上のように、本発明は、リチウムイオン電池負極用樹脂を提供する。リチウムイオン電池負極用樹脂をリチウムイオン電池負極に適用する時、コア部とシェル層の各成分間の比率を制御することによって、集電体とリチウムイオン電池負極用樹脂によって形成された電極層の間の密着性が向上する。その結果、リチウムイオン電池の電気特性が向上する。さらに、リチウムイオン電池負極用樹脂は、環境に優しい材料である。したがって、本発明のリチウムイオン電池負極用樹脂、リチウムイオン電池負極用樹脂組成物、リチウムイオン電池負極用スラリー、およびこれらによって製造されたリチウムイオン電池の負極は、優れた電気特性を有するリチウムイオン電池の製造に適している。
【0090】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。