(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る加硫ゴム成形用離型剤は、分子内に活性水素原子を4〜8個有するアミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)を含有するものである。かかるアミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、アミン化合物の残基に対して、活性水素原子数に対応する4〜8つのポリオキシアルキレン鎖が結合した構造を有する。ここで、アミン化合物の残基とは、アミン化合物からアルキレンオキシドが付加した活性水素基(アミノ基など)の水素原子を除いた基を示す。
【0010】
本実施形態において、上記アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、数平均分子量(Mn)が5000〜30000であり、かつ、オキシエチレン基を50〜95質量%含有するものである。上記のような4〜8つのポリオキシアルキレン鎖が結合した構造を持つものにおいて、このように分子量を高く、かつオキシエチレン基の含有量を高く設定したことにより、少ない使用量でも優れた離型性を発揮することができ、かつ水に溶けやすくして洗浄性を向上することができる。また、洗浄性に優れ、短時間で離型剤を除去できるため、加硫ゴムの生産性を向上することができる。
【0011】
上記アミン化合物は、1級アミノ基(−NH
2)及び/又は2級アミノ基(−NH−)を有する化合物であり、本実施形態では、分子内に活性水素原子を4〜8個有する各種アミン化合物を用いることができる。アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、スペルミン、スペルミジンなどの脂肪族ポリアミン、トリレンジアミン、ジアミノキシレン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ベンジジン、2,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。また、アミン化合物としては、アミノ基とともに水酸基を有してもよく、活性水素原子の合計が4〜8個であればよい。アミノ基と水酸基を有する化合物としては、例えば、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、N−(3−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、1−アミノプロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,1−ジアミノエタノール、1,3−ジアミノプロパノール、ジアミノフェノール、ジアミノベンジルアルコールなどが挙げられる。これらのアミン化合物は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0012】
上記アミン化合物としては、ポリアミンが好ましく、より好ましくは脂肪族ポリアミンである。一実施形態において、上記アミン化合物としては、2個の1級アミノ基と0〜4個の2級アミノ基を有する炭素数2〜10の脂肪族ポリアミンでもよく、2個の1級アミノ基と0〜2個の2級アミノ基を有する炭素数2〜6の脂肪族ポリアミンでもよく、2個の1級アミノ基を有し活性水素原子の合計が4個である炭素数2〜6の脂肪族ポリアミンでもよい。
【0013】
上記アミン化合物に付加するアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド単独でもよいが、エチレンオキシドと、それ以外のアルキレンオキシドを併用することが好ましい。一実施形態として、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及び/又はブチレンオキシドを用いてもよく、より詳細には、洗浄性に優れることから、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用することが好ましい。
【0014】
アルキレンオキシドを2種以上付加させる場合、その付加形態は、ブロック付加でも、ランダム付加でも、これらの組み合わせでもよい。すなわち、上記ポリオキシアルキレン鎖は、オキシエチレン基とその他のオキシアルキレン基とのブロック付加体でも、ランダム付加体でも、ブロック付加体とランダム付加体を組み合わせたものでもよく、ブロック付加体の場合、オキシエチレン基とその他のオキシアルキレン基との付加順序はいずれが先でもよい。一実施形態において、上記アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム付加物であること、即ち、ポリオキシアルキレン鎖がオキシエチレン基とオキシプロピレン基のランダム付加体であることが好ましく、離型性をより一層向上することができる。
【0015】
一実施形態において、アルキレンオキシドの付加量(平均付加モル数)は、アミン化合物1モル当たり100〜600モルであることが好ましく、より好ましくは120〜450モルであり、150〜300モルでもよい。また、エチレンオキシドの付加量(平均付加モル数)は、アミン化合物1モル当たり80〜570モルが好ましく、より好ましくは100〜400モルであり、120〜250モルでもよい。アルキレンオキシドとして、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを併用する場合、両者の平均付加モル数の比(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)は3〜15であることが好ましく、より好ましくは4〜10である。ここで、平均付加モル数は、
1H−NMR(溶媒:CDCl
3)により求めることができる。
【0016】
上記アルキレンオキシドを付加する方法は、特に限定されず、例えば、上記アミン化合物及び触媒の存在下、アルキレンオキシドを70〜120℃、0〜0.3MPaとなるように反応容器に導入し、アミン化合物と反応させる方法など、公知の方法を用いることができる。触媒としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属類などが挙げられる。
【0017】
本実施形態において、アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、上記のように数平均分子量(Mn)が5000〜30000であるものを用いる。数平均分子量が5000以上であることにより、少ない使用量でありながら(例えば、低濃度の使用でありながら)、加硫後のゴムと金型との離型性を向上することができる。また、数平均分子量が30000以下であることにより、離型剤の粘度上昇を抑えて作業性の低下を抑えることができる。数平均分子量は、より好ましくは6000〜25000であり、更に好ましくは7000〜22000である。
【0018】
本実施形態において、アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、上記のようにオキシエチレン基を50〜95質量%含有するものである。すなわち、アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)中に占めるオキシエチレン基の含有量が50〜95質量%である。このようにオキシエチレン基の含有量を高くすることにより、水に溶解しやすくして洗浄性を向上することができ、上記の分子量の設定と相俟って、洗浄性と離型性に優れる。オキシエチレン基の含有量は、より好ましくは60〜95質量%であり、更に好ましくは70〜90質量%である。ここで、オキシエチレン基の含有量は、
1H−NMR(溶媒:CDCl
3)により求めることができる。
【0019】
一実施形態において、上記アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)は、平均水酸基価が5〜50mgKOH/gであることが好ましい。このような範囲内とすることにより、離型性及び洗浄性がより優れたものとなる。上記平均水酸基価は8〜40mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは10〜35mgKOH/gである。ここで、平均水酸基価は、JIS K0070に準じて測定することができる。
【0020】
本実施形態に係る加硫ゴム成形用離型剤は、上記アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)のみで構成されてもよいが、水などの溶媒で希釈されたものであってもよい。好ましくは水で希釈されたものであり、洗浄性及び離型性の観点から、上記アミン化合物のアルキレンオキシド付加物(A)の濃度は5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。
【0021】
本実施形態に係る加硫ゴム成形用離型剤は、その効果を阻害しない範囲で、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、シリコーンなどの他の成分を含有してもよい。
【0022】
本実施形態に係る加硫ゴム成形用離型剤は、種々の加硫ゴムを成形する際の離型剤として用いることができる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)、NBRとポリ塩化ビニル(PVC)とをブレンドしたゴム(NBR/PVC)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)など、公知のゴムの加硫成形に用いることができる。
【0023】
ゴムの加硫成形は、常法に従い行うことができ、例えば、本実施形態の離型剤を金型に塗布及び/又は未加硫ゴムに塗布することで、未加硫ゴムと金型が接触する部位に離型剤を付与した後、未加硫ゴムを金型に装着して、加熱及び加硫すればよい。加硫後、金型から加硫成形されたゴムを取り出し、ゴム表面に付着した離型剤を水または温水などにより洗浄することによって、加硫ゴムが得られる。なお、未加硫ゴムとしては、上記ゴムとともに、例えば、加硫剤、加硫助剤、加工助剤、可塑剤、プロセスオイル、カーボンブラック、白色充填材、老化防止剤などの公知の添加剤を配合したゴム組成物を用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
数平均分子量の測定方法は、以下の通りである。
【0026】
(数平均分子量)
GPC法により測定。GPC装置及び分析条件は以下の通りであり、標準サンプルとして分子量327、2000、8250、及び19700のポリエチレングリコールで校正したものを用いた。
・GPC装置:システムコントローラー:SCL−10A(島津製作所社製)
・検出器:RID−10A(島津製作所社製)
・カラム:Shodex GPC KF−G、KF−803、KF802.5、KF−802、KF−801を連結したもの(いずれも昭和電工社製)
・溶離液:テトラヒドロフラン
・サンプル注入:0.5重量%溶液、80μL
・流速:0.8mL/min
・温度:25℃。
【0027】
実施例で使用した原料は下記の通りである。
【0028】
(製造例1)
ステンレス製オートクレーブに、エチレンジアミン60g(1モル)、水酸化カリウム3gを仕込み、反応器内を窒素置換した。100℃に昇温し、エチレンオキシド5544g(126モル)およびプロピレンオキシド1392g(24モル)の混合物を、内圧0.3MPa以下に保ちながら導入した。導入終了後、さらに100℃で2時間反応させることにより、エチレンジアミンのプロピレンオキシド(24モル)/エチレンオキシド(126モル)ランダム付加物(A−1)を得た。
【0029】
得られたアルキレンオキシド付加物(A−1)の詳細を下記表1に示す。表中、アルキレンオキシドの種類と使用量におけるPO(g)及びPO(mol)はプロピレンオキシドの使用量を示し、EO(g)及びEO(mol)はエチレンオキシドの使用量を示し、いずれもアミン化合物(A−1ではエチレンジアミン)1モルに対する使用量である。また、EO(%)は、得られたアルキレンオキシド付加物中に占めるオキシエチレン基の含有量(質量%)である。Mn及びOHVは、それぞれ得られたアルキレンオキシド付加物の数平均分子量及び平均水酸基価(mgKOH/g)を示す。下記の(A−2)〜(A−8)及び(B−1)〜(B−2)において同じ。
【0030】
(製造例2〜6)
エチレンオキシドとプロピレンオキシドを表1に記載の使用量とした以外は、製造例1と同様の操作を行い、エチレンジアミンのプロピレンオキシド/エチレンオキシドランダム付加物(A−2)〜(A−6)を得た。
【0031】
(製造例7)
ステンレス製オートクレーブに、エチレンジアミン60g(1モル)、水酸化カリウム3gを仕込み、反応器内を窒素置換した。100℃に昇温し、プロピレンオキシド1798g(31モル)を内圧0.3MPa以下に保ちながら導入した。導入終了後、さらに100℃で2時間反応させた。続いて、エチレンオキシド7172g(163モル)を内圧0.3MPa以下に保ちながら導入した。エチレンオキシドの導入終了後、100℃で2時間反応させることにより、エチレンジアミンのプロピレンオキシド(31モル)−エチレンオキシド(163モル)ブロック付加物(A−7)を得た。
【0032】
(製造例8)
エチレンジアミンに代えてジエチレントリアミン103g(1モル)を用い、エチレンオキシドとプロピレンオキシドを表1に記載の使用量とした以外は、製造例1と同様の操作を行い、ジエチレントリアミンのプロピレンオキシド(31モル)/エチレンオキシド(162モル)ランダム付加物(A−8)を得た。
【0033】
(比較製造例1〜2)
プロピレンオキシドとエチレンオキシドを表1に記載の使用量とした以外は、製造例7と同様の操作を行い、エチレンジアミンのプロピレンオキシド−エチレンオキシドブロック付加物(B−1)〜(B−2)を得た。
【0034】
(B−3)
ジメチルポリシロキサン(商品名:KF−96−20CS、信越化学工業社製)。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
下記表2に記載の割合(質量比)で各原料を混合することにより、離型剤を得た。この離型剤を用いて、下記の評価を行った。
【0037】
(離型性)
離型剤を塗布した未加硫ゴム(エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR))を金型(120mm×120mm×2mm)に装着した。続いて、150℃で1時間加硫処理を行い、金型から加硫ゴムを取り出した。このときの作業性を離型性とし、比較例3をコントロールとして下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
【0038】
A:ジメチルポリシロキサンを用いた場合と作業性が同程度であり、金型から加硫ゴムを取り出せる
B:ジメチルポリシロキサンを用いた場合よりも作業性が若干劣るが、金型から加硫ゴムを取り出せる
C:ジメチルポリシロキサンを用いた場合よりも作業性が悪く、金型から加硫ゴムを取り出せない。
【0039】
(洗浄性)
離型性の評価で得られた加硫ゴムを、2Lの水(温度:80℃)に30秒間浸漬し、取り出して、加硫ゴム表面のヌメリを確認した。ヌメリがある場合は、新たに用意した2Lの水(温度:80℃)に30秒間浸漬し、ヌメリがなくなる、または、合計3回までこの操作を繰り返した。下記の基準で洗浄性を評価した。結果を表2に示す。なお、加硫ゴム表面にヌメリがある場合は離型剤が残っており、ヌメリがない場合は離型剤が残っていないことを示す。
【0040】
A:1回目の浸漬後に加硫ゴムの表面にヌメリがない
B:2回目の浸漬後に加硫ゴムの表面にヌメリがない
C:3回目の浸漬後に加硫ゴムの表面にヌメリがない
D:3回目の浸漬後でも加硫ゴムの表面にヌメリがある。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示されたように、離型剤としてジメチルポリシロキサンを用いた比較例3では、離型性には優れるものの、洗浄性に劣っていた。比較例1では、エチレンジアミンのアルキレンオキシド付加物を用いたが、分子量の小さいものであったため、20質量%という使用濃度では十分な離型性を発揮することはできなかった。比較例2では、エチレンジアミンのアルキレンオキシド付加物を用いたが、オキシエチレン基の含有量が少なく、洗浄性に劣っていた。
【0043】
これに対し、エチレンジアミンやジエチレントリアミンのアルキレンオキシド付加物であって所定の分子量とオキシエチレン基含有量を持つものを用いた実施例1〜10であると、10〜30質量%という低い使用濃度でも十分な離型性を発揮することができ、離型性と洗浄性に優れていた。また、実施例7とその他の実施例との対比より、アルキレンオキシドの付加形態としてはブロック付加よりもランダム付加の方が離型性の点で有利であることが分かった。