(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴム成分100質量%中の前記天然ゴム、前記イソプレンゴム及び前記ブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上、前記スチレンブタジエンゴムの含有量が0.3〜5質量%である請求項1記載のスタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔スタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物〕
本発明のスタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物は、天然ゴム(NR)及び/又はイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含むゴム成分と、シリカを含む充填剤とをそれぞれ所定量含み、かつ当該シリカとして所定以上の窒素吸着比表面積を持つ微粒子シリカを所定量用いたものである。
【0014】
前記のとおり、微粒子シリカ配合では、BR、NR等の各ゴム層の層間における分配、各ゴム層中での分散コントロールが一般に困難であるが、本発明では、所定量の微粒子シリカを含むシリカ配合において、ゴム成分として所定量のNR及び/又はIRとBRを用いる他、更にSBRを少量配合している。そのため、加工性が向上し、モルホロジーコントロールが困難なNR及び/又はIRとBRの配合系でもモルホロジーを安定化させることが可能となる。従って、各ゴム層への微粒子シリカの均等な分配を実現できると共に、各ゴム層内でのシリカ分散の向上も可能となり、その結果、氷雪がない低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)を向上できる。
【0015】
よって、本発明では、良好な低燃費性、耐摩耗性、氷雪上性能を得つつ、氷雪がない低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)の改善が可能となるため、これらの性能バランスを顕著に改善できる。特に、所定量のNR及び/又はIR、BR、及び微粒子シリカを含む本願特定配合に少量のSBRを添加した場合、他の配合に添加するケースに比べて、前記性能バランスが顕著に(相乗的に)改善されるという効果を奏する。
【0016】
前記キャップトレッドゴム組成物では、NR及び/又はIRが使用される。NR、IRとしては特に限定されず、タイヤ分野において公知のものを使用できる。
【0017】
ゴム成分100質量%中のNR及びIRの合計含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。20質量%以上にすることで、良好な低燃費性が得られる。該合計含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。60質量%以下にすることで、良好な氷雪上性能、耐摩耗性が確保される。
【0018】
前記キャップトレッドゴム組成物では、BRが使用される。BRとしては特に限定されず、タイヤ分野において公知のものを使用できる。なかでも、ハイシスBRを好適に使用できる。また、BRとして、変性BRも好適に使用できる。
【0019】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、30質量%以上である。30質量%以上にすることで、良好な氷雪上性能(低温性能)が発揮され、良好な耐摩耗性も得られる。好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。BRの含有量の上限は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。80質量%以下にすることで、氷雪がない低温路面での高速性能を確保できる。
【0020】
BRのシス含量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。ハイシスBRにより、低温性能、耐摩耗性をバランスよく向上できる。BR100質量%中のハイシスBRの含有量は、50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が最も好ましい。
なお、本明細書において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0021】
変性BRは特に限定されず、例えば、シリカと相互作用する変性基を有するBRを使用できる。なかでも、シス含量が70質量%以上のブタジエン重合体の活性末端に、少なくともアルコキシシラン化合物が結合した変性BRが好ましい。
【0022】
変性BRは、公知の方法で製造できる。例えば、重合触媒の存在下、ブタジエンを重合反応させてブタジエン重合体を得、得られたブタジエン重合体の活性末端をアルコキシシラン化合物により変性(以下、「変性反応」ともいう)して調製できる。なお、国際公開第03/046020号パンフレットに記載された重合触媒の存在下で重合することにより、シス含量を70質量%以上にできる。
【0023】
ブタジエン重合体の活性末端の変性に用いるアルコキシシラン化合物は、アルコキシシリル基を含む2つ以上の反応基を有するものが好ましい。アルコキシシリル基以外の反応基としては、特にその種類は限定されないが、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、カルボニル基、シアノ基等の官能基が好ましい。なお、上記アルコキシシラン化合物は、部分縮合物でも、該アルコキシシラン化合物と該部分縮合物の混合物でもよい。
【0024】
前記アルコキシシラン化合物としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及びそれらの部分縮合物、等を好適に使用できる。
【0025】
ゴム成分100質量%中のNR、IR及びBRの合計含有量は、80質量%以上である。80質量%以上にすることで、良好な低温性能が得られる。好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。該合計含有量は、好ましくは99.7質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下である。99.7質量%以下にすることで、氷雪がない低温路面での高速性能を確保できる。
【0026】
前記キャップトレッドゴム組成物では、SBRが使用される。SBRとしては特に限定さないが、溶液重合SBR(S−SBR)、乳化重合SBR(E−SBR)などが挙げられる。
【0027】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、氷雪がない低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)を改善できるという点から、0.3質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、該SBRの含有量は、耐摩耗性の観点から、10質量%以下、好ましくは9質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。上記範囲内のSBRの配合により、低温での高速グリップと高速操縦安定性を向上できる。
【0028】
SBRのスチレン含量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。10質量%以上にすることで、良好な氷雪上性能が得られる。該スチレン含量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。40質量%以下にすることで、本発明の効果が充分に得られる。なお、本明細書において、スチレン含量は、H
1−NMR測定により算出される。
【0029】
ゴム成分は、本発明の効果を阻害しない範囲内で他のゴム成分を配合してもよい。他のゴム成分としては、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等が挙げられる。なお、NR等の各種ゴム成分は、単独又は2種以上を併用できる。
【0030】
前記キャップトレッドゴム組成物では、シリカを含む充填剤が使用される。
充填剤の合計含有量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜180質量部、更に好ましくは30〜150質量部である。上記範囲内にすることで、本発明の効果が発揮される。なお、シリカ等の各種充填剤は、単独又は2種以上を併用できる。
【0031】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0032】
充填剤100質量%中のシリカの含有量は、60質量%以上である。これにより、良好な低燃費性、耐摩耗性、グリップ性能がバランス良く改善され、本発明の効果が良好に得られる。好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0033】
前記キャップトレッドゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、良好な耐摩耗性、氷雪上性能が得られる点から、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは80質量部以上である。また、上限は特に限定されないが、良好な加工性、低燃費性が得られるという点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0034】
前記キャップトレッドゴム組成物では、シリカとして、耐摩耗性、氷雪上性能を顕著に向上できるという点から、窒素吸着比表面積(N
2SA)190m
2/g以上の微粒子シリカが使用される。該N
2SAは、200m
2/g以上が好ましく、210m
2/g以上がより好ましい。該N
2SAの上限は特に限定されないが、良好な作業性、加工性が得られるという点から、400m
2/g以下が好ましく、300m
2/g以下がより好ましい。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0035】
前記微粒子シリカのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)比表面積は、耐摩耗性、氷雪上性能を顕著に向上できるという点から、好ましくは150m
2/g以上、より好ましくは180m
2/g以上、更に好ましくは190m
2/g以上である。該CTAB比表面積は、良好なシリカ分散性が得られる点から、好ましくは400m
2/g以下、より好ましくは300m
2/g以下である。なお、CTAB比表面積は、ASTM D3765−92に準拠して測定される。
【0036】
上記微粒子シリカの市販品としては、東ソーシリカ(株)製のNipsil AQ(N
2SA:200m
2/g、CTAB比表面積:155m
2/g);ローディア社製のZeosil Premium 200MP(N
2SA:200m
2/g、CTAB比表面積:200m
2/g)、HRS 1200MP(N
2SA:200m
2/g、CTAB比表面積:195m
2/g);エボニック社製のウルトラシル 9000GR(N
2SA:240m
2/g、CTAB比表面積:200m
2/g)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
前記キャップトレッドゴム組成物において、前記微粒子シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、良好な耐摩耗性、氷雪上性能が得られる点から、50質量部以上、好ましくは55質量部以上、より好ましくは60質量部以上である。上限は特に限定されないが、良好な加工性、低燃費性が得られるという点から、150質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましい。
【0038】
シリカ100質量%中の前記微粒子シリカの含有量は、良好な耐摩耗性、氷雪上性能が得られる点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、100質量%でもよい。
【0039】
前記キャップトレッドゴム組成物では、シリカとともにシランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。なお、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1.5〜15質量部である。
【0040】
前記キャップトレッドゴム組成物では、充填剤として、カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、タイヤの耐摩耗性等が改善され、前記性能バランスが顕著に改善される。
【0041】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N
2SA)は、良好な耐摩耗性等が得られる点から、50m
2/g以上が好ましく、90m
2/g以上がより好ましい。該N
2SAは、良好な分散性が得られる点から、180m
2/g以下が好ましく、130m
2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN
2SAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0042】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。上記範囲内にすることで、前記性能バランスが顕著に改善される。
【0043】
前記キャップトレッドゴム組成物は、本発明の効果が良好に得られるという点から、可塑剤を含むことが好ましい。ここで、可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、例えば、プロセスオイル、伸展オイル、植物油、動物油等の油脂類;液状ポリマー、液状レジン等の樹脂類;ワックス;等が含まれる。具体的には、ゴム組成物からアセトンを用いて抽出されるような成分である。
【0044】
可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、加工性、氷雪上性能を向上できるという点から、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、良好な耐摩耗性等の観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは130質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは80質量部以下である。
【0045】
前記キャップトレッドゴム組成物では、可塑剤として、液状可塑剤を用いることが好ましい。ここで、液状可塑剤とは、20℃で液体状態の可塑剤であり、前記油脂類、前記樹脂類等が含まれる。
【0046】
液状可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、加工性、氷雪上性能を向上できるという点から、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、良好な耐摩耗性等の観点から、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0047】
前記キャップトレッドゴム組成物では、液状可塑剤として、IP346法で求めた多環式芳香族含有量が3質量%未満であるオイル(低PCAオイル)を用いることが好ましい。低PCAオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル、植物油等が挙げられる。なお、低PCAオイルの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜100質量部が好ましく、10〜90質量部が好ましく、15〜80質量部がより好ましい。
【0048】
前記キャップトレッドゴム組成物は、有機繊維を含むことが好ましい。有機繊維としては特に限定されず、タイヤ分野で公知のものを使用でき、例えば、表面に被覆層が形成された親水性樹脂からなる複合体(繊維)を好適に使用できる。
【0049】
親水性樹脂は、水との間に親和性を発揮し得る樹脂、すなわち分子内に親水性基を有する樹脂を使用できる。例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、又はアクリル系樹脂等が挙げられる。
【0050】
親水性樹脂からなる複合体(繊維)の表面は、ゴム成分に対して親和性を有し、好ましくは、加硫最高温度よりも低い融点を有する低融点樹脂(以下、「低融点樹脂」ともいう)からなる被覆層が形成されている。これにより、親水性樹脂自体が有する水との親和性を有効に保持しつつ、複合体(繊維)近傍のゴム成分との良好な親和性を発揮できるとともに、発泡剤を配合した場合に、加硫時には融解しにくい親水性樹脂を補足し、複合体(繊維)の内部における空洞の形成を促進できる。
【0051】
ゴム成分に対して親和性を有する樹脂としては、例えば、溶解パラメーター(SP値)がゴム成分に近い樹脂を使用できる。
【0052】
低融点樹脂は、その融点が加硫最高温度よりも低い樹脂であり、該加硫最高温度とは、加硫時にゴム組成物が達する最高温度を意味する。低融点樹脂の融点の上限は、加硫最高温度より10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましい。例えば、加硫最高温度が190℃に設定されている場合、低融点樹脂の融点は、通常190℃以下の範囲で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。なお、融点は、例えば、DSC測定装置を用いて測定した融解ピーク温度を前記融点とできる。
【0053】
低融点樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を好適に使用できる。これにより、ゴム成分中における親水性樹脂からなる複合体(繊維)の分散性を向上させつつ、複合体(繊維)の内部に空洞を形成できる。
【0054】
ポリオレフィン系樹脂は、分岐状、直鎖状等のいずれでもよい。また、エチレン−メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂でもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、並びにこれらのアイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0055】
上記低融点樹脂からなる被覆層が形成された親水性樹脂からなる複合体(繊維)は、例えば、これらの樹脂を混合ミルを用いてブレンドし、溶融紡糸して未延伸糸を形成し、該未延伸糸を熱延伸しながら繊維状にする方法、等により製造できる。
【0056】
前記複合体等の有機繊維の平均長さは通常0.1〜500mm、好ましくは0.1〜7mm、平均径は通常0.001〜2mm、好ましくは0.005〜0.5mmである。また、アスペクト比は通常10〜4000、好ましくは50〜2000である。なお、アスペクト比とは、複合体(繊維)の長軸の短軸に対する比を意味する。
【0057】
前記複合体等の有機繊維の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜50質量部がより好ましい。上記範囲内であると、有機繊維の内部に空洞を形成して良好な排水性を発揮しつつ、充分な耐久性を保持できる。
【0058】
前記キャップトレッドゴム組成物は、発泡剤を含有することが好ましい。例えば、前記複合体を用いた場合、加硫工程中に発泡剤から発生したガスを溶融した上記低融点樹脂からなる被覆層を介して親水性樹脂の内部に侵入させ、複合体(繊維)の形状に連動した形状、すなわち長尺状の形状を有する気泡を容易に形成できる。そのため、タイヤが摩耗するにつれて排水溝としての機能が発揮されて排水性が付与され、氷雪上性能の向上が可能になる。
【0059】
発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。なかでも、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましく、アゾジカルボンアミド(ADCA)がより好ましい。なお、発泡剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましい。
【0060】
発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、0.1〜50%が好ましく、3〜40%がより好ましい。上記範囲内の発泡率であれば、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、上記加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(I)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ
0/ρ
1−1)×100(%) (I)
(式(I)中、ρ
1は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm
3)を示し、ρ
0は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm
3)を示す。)
【0061】
前記キャップトレッドゴム組成物には、上記の材料以外にも、老化防止剤、界面活性剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、加硫剤、加硫促進剤等、タイヤ工業において一般的に用いられている各種材料を適宜配合してもよい。
【0062】
前記キャップトレッドゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0063】
〔スタッドレスタイヤ用ベーストレッドゴム組成物〕
本発明では、前記スタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物を用いると共に、SBRを含むスタッドレスタイヤ用ベーストレッドゴム組成物を用いることが好ましい。これにより、トレッド部のキャップ/ベース間のゴム物性の差を減少し、破壊性能向上やノイズの低減が実現する。
【0064】
前記ベーストレッドゴム組成物と前記キャップトレッドゴム組成物とのSBR配合比(質量比:ベーストレッド/キャップトレッド)は、100〜1が好ましく、80〜1がより好ましく、50〜2が更に好ましく、40〜3が特に好ましい。上記範囲内であることにより、キャップ/ベース間のゴム物性のバランスが良くなり、また、タイヤ製造後のフィラーや薬品の転移も適度に抑制され、更に高速操縦安定性も向上できる。
【0065】
前記ベーストレッドゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、操縦安定性と加工性が向上できるという点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。上限は特に規定されないが、良好な低燃費性、低温特性が得られる点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0066】
前記ベーストレッド用ゴム組成物は、低燃費性と操縦安定性をバランスよく改善できる点から、シリカを0.1〜10質量部含むことが好ましい。0.3〜8質量部がより好ましく、0.5〜5質量部が更に好ましい。シリカの種類は特に限定されないが、耐破壊性等の観点から、窒素吸着比表面積(N
2SA)が50m
2/g以上のものが好適で、より好ましくは100〜200m
2/g、更に好ましくは150〜200m
2/gである。
【0067】
前記ベーストレッド用ゴム組成物は、前記キャップトレッドゴム組成物と同様に、各種材料を適宜配合してもよい。また、同様の方法で製造できる。
【0068】
〔スタッドレスタイヤ〕
前記キャップトレッドゴム組成物、前記ベーストレッド用ゴム組成物を用いたスタッドレスタイヤは、該ゴム組成物を用いて通常の方法により製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合した前記キャップトレッドゴム組成物、前記ベーストレッド用ゴム組成物を、未加硫の段階で部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0069】
本発明では、前記ゴム組成物を用いることで、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを製造できる。スタッドレスタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等として用いられる。
【実施例】
【0070】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0071】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR
BR1:下記製造例1(変性ハイシスBR)
BR2:宇部興産(株)製のBR−150B
SBR:ランクセス社製 Buna SL4525−0(スチレン含量25質量%、非油展、非変性S−SBR)
シリカ1:エボニック社製のウルトラシル9000GR(N
2SA:240m
2/g、CTAB:200m
2/g)
シリカ2:東ソー・シリカ社製、Nipsil AQ (N
2SA:200m
2/g、CTAB:155m
2/g)
シリカ3:エボニック社製のUltrasil VN3(N
2SA:175m
2/g、CTAB:175m
2/g)
シランカップリング剤:エボニック社製Si75
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFクラス、N
2SA:114m
2/g)
オイル:H&R社製のVivatec500(TDAEオイル)
樹脂:テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンPX−1250、軟化点125℃)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
発泡剤:永和化成工業(株)製ネオセルボン SB#51(4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))
有機繊維:下記製造例2
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0072】
<製造例1:変性ハイシスBR>
5Lオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン2.4kg、1,3−ブタジエン300gを仕込んだ。これらに、予めバーサチック酸ネオジム(0.09mmol)のシクロヘキサン溶液、メチルアルモキサン(1.0mmol)のトルエン溶液、水素化ジイソブチルアルミニウム(3.5mmol)及びジエチルアルミニウムクロリド(0.18mmol)のトルエン溶液と、1,3−ブタジエン(4.5mmol)とを50℃で30分間反応熟成させて調製した触媒を仕込み、80℃で70分間重合反応を行った。
次に、反応温度60℃に保ち、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(4.5mmol)のトルエン溶液を添加し、30分間反応を行い、活性末端を変性させた。その後、2,4−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール1.5gを含むメタノール溶液を添加した。
次に、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した水溶液20Lに、上記変性重合体溶液を添加し、110℃で2時間、脱溶媒後、110℃のロールで乾燥させて、BR1(変性ハイシスBR)を得た。得られた重合体は、シス含量97質量%、ビニル量1.1%、Mw48万であった。
【0073】
なお、得られた重合体の分子量、ビニル量及びシス含量は以下の方法により分析した。
<分子量>
下記の条件(1)〜(8)でゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。
(1)装置:東ソー(株)製HLC−8220
(2)分離カラム:東ソー(株)製HM−H(2本直列)
(3)測定温度:40℃
(4)キャリア:テトラヒドロフラン
(5)流量:0.6mL/分
(6)注入量:5μL
(7)検出器:示差屈折
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
<重合体の構造同定>
重合体の構造同定は、日本電子(株)製JNM−ECAシリーズの装置を用いて行った。測定結果から、ビニル量、シス含量を算出した。
【0074】
<製造例2:有機繊維(低融点樹脂被覆層が形成された親水性樹脂繊維)の製造>
二軸押出機を用い、ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックHJ360(MFR5.5、融点132℃)40質量部と、エチレン−ビニルアルコール共重合体((株)クラレ製、エバールF104B(MFR4.4、融点183℃))40質量部とを投入し、各々同時に押し出して、常法に従ってポリエチレンからなる被覆層が形成された親水性樹脂繊維を作製した。この親水性樹脂繊維の平均径は20μm、平均長さは3mmであった。
【0075】
<スタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物の製法>
表1、3に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、ベース練り工程に記載の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に仕上げ工程に記載の薬品を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0076】
<スタッドレスタイヤ用ベーストレッドゴム組成物の製法>
表2に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0077】
<試験用タイヤの製法>
得られた未加硫キャップトレッドゴム組成物をキャップトレッド、未加硫ベーストレッドゴム組成物をベーストレッドの形状にそれぞれ成形し、タイヤ成型機上で、他のタイヤ部材と共に貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃で10分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、乗用車用スタッドレスタイヤ)を製造した。
得られた試験用タイヤを下記により評価し、結果を表1、3に示した。
【0078】
〔評価〕
試験用タイヤを以下の方法で評価し、結果を表1、3に示した。なお、表1(実施例1〜6、比較例1〜3)は、比較例1を基準とした指数である。表3は、実施例1及び比較例4が比較例1を、比較例5が比較例6を基準とした指数である。
<発泡率Vs>
各キャップトレッド配合について、前記式(I)により、それぞれの発泡率を算出した。
【0079】
<低燃費性>
転がり抵抗試験機を用い、各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、基準比較例を100とした時の指数で表示した。指数は大きい方が良好(低燃費性)である。指数が85以上の場合、実用的に問題ない。
【0080】
<耐摩耗性>
各試験用タイヤを国産FF2000cc車に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、下記の式により指数化した。指数が大きいほど、耐摩耗性が良好である。
耐摩耗性指数=(1mm溝深さが減るときの走行距離)/(基準比較例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0081】
<氷上性能(氷上グリップ性能)>
各試験用タイヤを用いて、下記の条件で氷上で実車性能を評価した。試験用タイヤを国産2000ccのFF車に装着した。試験場所は住友ゴム工業株式会社の北海道旭川テストコース(氷上)で行い、氷上気温は−1〜−6℃であった。
制動性能(氷上制動停止距離):時速30km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した氷上の停止距離を測定した。基準比較例100として、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、氷上での制動性能が良好であることを示す。指数が85以上の場合、実用的に問題ない。
(氷上グリップ指数)=(基準比較例の停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0082】
<低温高速操縦安定性>
各試験用タイヤを国産2000ccのFF車に装着し、北海道旭川テストコースにて、雪氷のない0〜3℃の路面を100km/hにて実車走行し、コーナリング、直進性についてフィーリングによる評価を行った。フィーリング評価は、基準比較例を100として、明らかに性能が向上したとテストドライバーが判断したものを120、はるかに良いレベルであるものを140と、評点付けをした。
【0083】
<低温高速グリップ性能>
各試験用タイヤを国産2000ccのFF車に装着し、北海道旭川テストコースにて、雪氷のない0〜3℃の路面にて実車走行し、時速100km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した停止距離を測定した。
基準比較例を100として、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、低温高速グリップ性能(制動性能)が良好であることを示す。
(低温高速グリップ性能指数)=(基準比較例の停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表1から、所定のNR、BR、微粒子シリカを含む特定配合に比較的少量のSBRを添加した実施例では、低燃費性、耐摩耗性、氷雪上性能、低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)が非常にバランス良く改善されるのに対し、SBRを添加しない場合、所定量の微粒子シリカを用いない場合、比較的多量のSBRを添加した場合の比較例では、性能が大きく劣ることが明らかとなった。
【0087】
【表3】
【0088】
表3から、BR25部の本願特定の外の配合に少量のSBRを添加したケースに比べて(比較例6、5)、BR50部の本願特定の配合に添加したケースの方が(比較例4、実施例1)、低燃費性、耐摩耗性、氷雪上性能、低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)の性能バランスが顕著に改善された。従って、所定のNR、BR、微粒子シリカを含む特定配合に比較的少量のSBRを添加することで、前記性能バランスが相乗的に改善されることが明らかとなった。
【課題】燃費性、耐摩耗性、氷雪上性能、氷雪がない低温路面での高速性能(操縦安定性、グリップ性能)をバランス良く改善するスタッドレスタイヤ用キャップトレッドゴム組成物、及びそれを用いたスタッドレスタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム及び/又はイソプレンゴムと、ブタジエンゴムと、スチレンブタジエンゴムとを含むゴム成分、並びに、充填剤を含有し、前記ゴム成分100質量%中の前記天然ゴム、前記イソプレンゴム及び前記ブタジエンゴムの合計含有量が80質量%以上、前記ブタジエンゴムの含有量が30質量%以上、前記スチレンブタジエンゴムの含有量が0.3〜10質量%、前記充填剤100質量%中のシリカの含有量が60質量%以上、前記ゴム成分100質量部に対する窒素吸着比表面積190m