(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240737
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】計時器用バランスばねを製造する方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/22 20060101AFI20171120BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
G04B17/22
G04B17/22 Z
F16F1/02 A
F16F1/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-216928(P2016-216928)
(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公開番号】特開2017-102110(P2017-102110A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】15197406.0
(32)【優先日】2015年12月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】グイド・プランケルト
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭48−024125(JP,B1)
【文献】
特公昭48−003056(JP,B1)
【文献】
国際公開第2014/034766(WO,A1)
【文献】
米国特許第02419825(US,A)
【文献】
米国特許第03464815(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/14
G04B 17/06
G04B 17/22
F16F 1/02
F16F 1/10
C22C 38/00 − 58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性であり温度補償される計時器用バランスばねを製造する方法であって、
マンガンを21.0重量%〜25.0重量%、ニッケルを9.0重量%〜13.0重量%、クロムを6.0重量%〜15.0重量%、ベリリウムを0.2重量%〜2.0重量%、鉄を残りの量含有し、ニッケルとマンガンを合計33.0重量%以上含有する鉄−クロム−ニッケル−マンガン−ベリリウムのタイプの抗磁性の補償機能付き合金を選択するステップ(10)と、
当該合金を調整してブランクを得るステップ(11)と、
鋳造及び/又は鍛造及び/又は伸線及び/又は圧延及び/又は絞りによって前記ブランクの形を形成して、ばねワイヤーのブランクを得るステップ(12)と、
前記ワイヤーをワインダーに巻きつけて、らせん状のばねを得るステップ(13)と、
30〜200分の期間540℃〜650℃の温度でアニールすることによって、前記らせん状のばねに対してヒートセット処理を少なくとも施して、バランスばねを得るステップ(14)と
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
当該合金は、ニッケルを10.5重量%〜13.0重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該合金は、ニッケルを11.0重量%〜13.0重量%含有する
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
当該合金は、クロムを7.5重量%よりも多く含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
当該合金は、クロムを10.5重量%よりも多く含有する
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
当該合金は、マンガンを21.0重量%〜23.0重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計33.0重量%以上含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計34.0重量%以上含有する
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計35.5重量%以下含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反強磁性であり温度補償される計時器用バランスばねを製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、ムーブメントのレートに影響する計時器用部品の分野に関し、特に、エスケープ機構の部品に関する。
【背景技術】
【0003】
ばね仕掛けバランス発振器の温度補償は、伝統的に、バイメタルのバランス車及び鋼製バランスばねを用いることによって行われている。Ch. Ed Guillaumeがエリンバーを発見したことによって、モノメタルのバランスを、エリンバーで作られた補償済みバランスばねに関連づけて、発振器を単純化させることが可能になった。このような合金の異なる変種が、「Nivarox」、「Isoval」、「Durinval」、「Ni-span C」などの様々な異なる商品名で登場している。
【0004】
これらの合金にはすべて、磁場に強く反応するという課題がある。なぜなら、これらは生来的に強磁性体であるからである。
【0005】
本発明は、磁場の影響を受けない補償機能付き合金を提案することを目的とする。
【0006】
測時技術の研究においては、常に、耐温度性又は非磁性や反強磁性の性質について特定の仕様に合う新しい合金を開発することに注力されてきている。
【0007】
例えば、ELGIN名義のスイス特許CH286912は、コバルト−クロム−ニッケルの合金で作られたばねを開示している。これは、20〜60%のコバルト、15〜30%のクロム、18%未満の鉄、0.01〜0.09%のベリリウム、0.05〜0.30%の炭素を含有しており、ニッケル−鉄を合計20〜40%含有しており、ニッケル含有量が鉄含有量よりも多い。また、DINERSTEIN名義の米国特許US2419825は、弾性限界が高いばね合金を開示している。これは、30%のニッケル、9%のクロム、1.5%のマンガン、1%のケイ素、0.3%のタングステン、炭化クロムの形態の0.06%の炭素、0.5%のベリリウム、微量のカルシウム、残りの量の鉄を含有しており、製造サイクルが非常に特殊である。INSTITUT STRAUMANN名義のスイス特許CH196408は、ニッケル−鉄−モリブデン−ベリリウムの熱処理可能な合金で作られた温度補償機能付きばねのいくつかの組成を開示している。これは、常に35%よりも多いニッケル、7%よりも多いモリブデン、0.1%〜1%の様々な範囲のベリリウム、常に3%未満のクロムを含有している。
【0008】
鉄−マンガン−ニッケル−クロムのタイプの合金は、理論上良好な反強磁性特性を有するために許容可能であり、具体的には、鉄−マンガン−ニッケル−クロム−ベリリウムの合金が許容可能である。しかし、熱ドリフトを補償するために通常用いられるバイメタル材料を用いることを回避するために、再現可能な形態で、8℃〜38℃の通常の腕時計製造の温度の範囲内において、範囲が可能な限りフラットでありつつ温度補償特性が良好であることを確実にすることができる組成及び製造方法を決めることは非常に難しい。
【0009】
実際に、特定の組成が特定の熱的特性を有するはずであっても、このような合金の製造は、非常に困難であり、特定のパラメーターの差が非常にわずかであっても広い範囲の結果が発生することになる。ありふれた試験を行っても、冶金学者が所望のパフォーマンスを享受することはないであろう。
【0010】
部品を冷間成形しても作業を複雑にするだけである。合金の製造や合金の形の形成に、関連する多数のオペレーティングパラメーターが必要となるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、磁場の影響を受けない補償機能付き合金を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、請求項1に記載の反強磁性であり温度補償される計時器用バランスばねを製造する方法を定めることを提案するものである。
【0013】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る方法の各ステップを示しているブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、反強磁性であり温度補償される計時器用バランスばねを製造する方法に関する。
【0016】
本発明によると、本方法は、以下のステップを有する。
【0017】
−(10)
−マンガンを21.0重量%〜25.0重量%、
−ニッケルを9.0重量%〜13.0重量%、
−クロムを6.0重量%〜15.0重量%、
−ベリリウムを0.2重量%〜2.0重量%、
−鉄を残りの量含有し、
−ただし、ニッケルとマンガンの合計は、33.0重量%以上である
というの範囲の鉄−クロム−ニッケル−マンガン−ベリリウムのタイプの抗磁性の補償機能付き合金を選択するステップ
【0018】
−(11)合金を調整してブランクを得るステップ
【0019】
−(12)鋳造及び/又は鍛造及び/又は伸線及び/又は圧延及び/又は絞りによって前記ブランクの形を形成して、ばねワイヤーのブランクを得るステップ
【0020】
−(13)ワインダーにワイヤーを巻きつけて、らせん状のばねを得るステップ
【0021】
−(14)30〜200分の期間540℃〜650℃の温度でアニールすることによって、らせん状のばねに対してヒートセット処理を少なくとも施して、バランスばねを得るステップ
である。
【0022】
この方法の特定の実装において、当該合金は、ニッケルを10.5重量%〜13.0重量%含有する。
【0023】
特に、この合金は、ニッケルを11.0重量%〜13.0重量%含有する。
【0024】
この方法の特定の実装において、当該合金は、クロムを7.5重量%よりも多く含有する。
【0025】
特に、当該合金は、クロムを10.5重量%よりも多く含有する。
【0026】
当該方法の特定の実装において、当該合金は、マンガンを21.0重量%〜23.0重量%含有する。
【0027】
当該方法の特定の実装において、当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計33.0重量%以上含有する。
【0028】
特に、当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計34.0重量%以上含有する。
【0029】
特に、当該合金は、ニッケル及びマンガンを合計35.5重量%以下含有する。