(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンブラックの含有率が異なる複数の燃焼灰についての各含有率と、前記複数の燃焼灰の各相対反射率とのデータ対を回帰分析することにより、前記関係式を生成する関係式生成部を有する、請求項1に記載のカーボンブラック測定装置。
前記相対反射率取得部は、前記受光手段から異なる波長ごとの反射強度を取得した場合、各反射強度の平均値を規格化した相対反射率を前記燃焼灰の相対反射率として取得する、請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンブラック測定装置。
前記相対反射率取得部は、前記受光手段から反射スペクトルを取得した場合、カーボンブラックを含有しない燃焼灰の反射強度によって、前記反射スペクトル中の所定波長における反射強度を規格化した相対反射率を前記燃焼灰の相対反射率として取得する、請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンブラック測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るカーボンブラック測定装置、カーボンブラック測定プログラムおよびカーボンブラック測定方法は、本願発明者らが見出したカーボンブラックの測定原理に基づいて、燃焼灰中のカーボンブラックを迅速かつ手軽に定量測定するのに好適なものとして発明されたものである。したがって、まず、上記測定原理について詳細に説明する。
【0019】
本願発明者らは、上述した課題に鑑み、蛍光X線元素分析法によって廃タイヤの燃焼灰を元素分析したところ、主として、酸化カルシウムに由来すると思われるカルシウム(Ca)と、亜硫酸カルシウムに由来すると思われる硫黄(S)と、カーボンブラックに由来する炭素(C)とが検出され、その他の元素については無視できるほど微量であるか、分析用容器由来のものであった。すなわち、廃タイヤの燃焼灰は、カルシウム化合物とカーボンブラックとの混合物とみなせることがわかった。なお、蛍光X線元素分析法は、炭素に対する感度が低いため、カーボンブラックを定量的に測定しうるものではない。
【0020】
つぎに、本願発明者らは、上記元素分析の結果より、スペクトル的に白色のカルシウム化合物と、スペクトル的に黒色のカーボンブラックとの混合物である燃焼灰は、色彩工学上のグレー(灰色)に近似できることを着想した。そして、鋭意研究の結果、燃焼灰の残留成分を把握しているという前提条件のもとでは、カーボンブラック以外の残留成分のスペクトルと、カーボンブラックを含む燃焼灰のスペクトルとの差分から、燃焼灰中のカーボンブラックを定量的に測定できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
具体的には、上記のとおり、本発明に係る燃焼灰は、カーボンブラック以外の残留成分としてカルシウム化合物を主成分としている。一方、カーボンブラックを構成する炭素原子は、可視領域および近赤外領域では光をほとんど反射しない黒体に相当するため、光で計測することは極めて困難である。よって、カーボンブラックの含有率が高くなるほど燃焼灰の反射強度が減衰するため、当該減衰量に基づいて燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を推定することが可能となる。
【0022】
以上より、燃焼灰の反射強度を何らかの基準値で規格化した相対反射率をR(N)、燃焼灰中のカルシウム化合物の含有率をN
0、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率をNとすると、下記式(a)が成り立つ。
R(N)∝N
0/(N
0+N) …式(a)
上記式(a)は、定数C
1と、x=N/N
0を用いて、下記式(b)で表される。
R(N)=C
1・N
0/(N
0+N)=C
1・1/(1+x) …式(b)
上記式(b)より、Δx=dN/N
0とすると、下記式(c)が導かれる。
R(N+dN)=C
1・1/(1+x+Δx)
=C
1・1/(1+x)・1/[1+Δx/(1+x)]
≒C
1・1/(1+x)・[1−Δx/(1+x)]+O(|Δx|
2)
=R(N)・[1−Δx/(1+x)]+O(|Δx|
2) …式(c)
なお、Oはランダウ記号であり、上記近似式の誤差が|Δx|
2のオーダーで抑えられる(管理できる)ことを意味する。上記式(c)より、下記式(d)が導かれる。
dR=−R(N)・1/(1+x)・dN/N
0 …式(d)
ここで、本発明において、N/N
0は0.1(10%)前後を想定しているため、x≪1と言えるから、下記式(e)が導かれる。
dR/dN≒−1/N
0・R(N) …式(e)
上記式(e)は、定数C
2と、α=−1/N
0を用いて、下記式(f)で表される。
lnR=−1/N
0・N+C
2=−αN+C
2 …式(f)
上記式(f)より、燃焼灰の相対反射率Rは、定数C
3を用いて下記式(g)で表される。
R=exp(C
2)・exp(−αN)=C
3・exp(−αN) …式(g)
または、上記式(f)より、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率Nは、定数C
4,C
5を用いて下記式(h)で表される。
N∝C
4−C
5・lnR …式(h)
【0023】
上記式(g)により、燃焼灰の相対反射率は、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率に対して指数関数的に減衰する特性を有することが示された。また、上記式(h)により、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率は、燃焼灰の相対反射率に対して対数依存性を有することが示された。なお、本発明において、相対反射率は、反射強度を示す指標値であり、当該反射強度を規格化する方法としては、所定の基準値で除算する等の他、様々な規格化方法を適用可能である。
【0024】
そして、上記式(h)に基づいて、本願発明者らは、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の反射強度を規格化した相対反射率との関係を示す関係式を下記式(1)によって定義した。
N=−C
a・lnR+C
b ・・・式(1)
ただし、各符号は以下を表す。
N:燃焼灰中のカーボンブラックの含有率
R:燃焼灰の相対反射率
C
a、C
b:係数
【0025】
なお、上記式(1)に係る係数C
a、C
bは、後述するとおり、カーボンブラックの含有率が既にわかっている複数の燃焼灰をサンプルとして用意し、各燃焼灰についての各含有率と、各燃焼灰についての各相対反射率とのデータ対を回帰分析することによって特定することが可能である。ただし、当該回帰分析に用いる燃焼灰の相対反射率は、燃焼灰中に金属等の不純物が混入していない場合と、混入している場合とで、定義を異ならせる必要がある。
【0026】
具体的には、燃焼灰中に金属等の不純物が混入していない場合、上記のとおり、燃焼灰はグレー(灰色)に近似できる。そして、当該グレーのものは波長依存性がなく、可視領域ではほぼフラットな特性を有する。したがって、燃焼灰の相対反射率は、下記式(2)に示す、n個の異なる波長ごとの各反射強度I
iの平均値Iを、何らかの基準値で規格化した値として定義することができる。
ただし、サンプル数nが少ない場合ほど、吸収が強い特異点の影響を受けて誤差が大きくなるため、当該特異点を避けて平均化することにより、高い測定精度が担保される。
【0027】
一方で、燃焼灰中に金属等の不純物が混入している場合、当該金属等に固有の色(スペクトル)を呈するため、単純に上記式(2)を用いることはできない。また、混入した不純物によっては、特定の波長で強い吸収や蛍光発光を示すことがあるため、燃焼灰の反射スペクトルの形状に応じて評価する必要がある。
【0028】
したがって、カーボンブラックの含有率がN(%)である燃焼灰の相対反射率Rは、下記式(3)に示すように、所定の波長λ
0における、カーボンブラックの含有率が0である燃焼灰の反射強度I(0,λ
0)に対する、カーボンブラックの含有率がNである燃焼灰の反射強度I(N,λ
0)の割合として定義することができる。
R(N,λ
0)=I(N,λ
0)/I(0,λ
0) ・・・式(3)
ただし、上記波長λ
0は、相対反射率の基準点を規定するものであるから、分子吸収が混在する波長領域を避け、反射強度が比較的フラットな波長領域から選択することにより、測定誤差が最小限に抑制される。
【0029】
上記式(2)または上記式(3)によって算出された相対反射率を上記式(1)に代入して回帰分析を行い、上記式(1)に係る係数C
a、C
bを決定することで、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の相対反射率との関係を示す関係式が生成される。そして、本発明に係るカーボンブラックの測定原理は、当該関係式を用いて、燃焼灰の相対反射率から燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を算出するというものである。
【0030】
以下、本発明に係るカーボンブラック測定装置、カーボンブラック測定プログラムおよびカーボンブラック測定方法の第1実施形態について図面を用いて説明する。
【0031】
本第1実施形態において、カーボンブラック測定装置1は、持ち運び可能なハンディタイプの筐体に内蔵されたコンピュータによって構成されており、
図1に示すように、主として、燃焼灰に対して光を照射する発光手段2と、当該燃焼灰からの反射光を受光する受光手段3と、測定結果等を表示する表示手段4と、各種のデータを記憶する記憶手段5と、記憶手段5にインストールされたカーボンブラック測定プログラム1aを実行することにより、各種の演算処理を実行する演算処理手段6とを有している。以下、各構成手段について詳細に説明する。
【0032】
発光手段2は、燃焼灰に対して光を照射するものである。本第1実施形態において、発光手段2は、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)によって構成されており、燃焼灰に対して異なる波長の光を照射する複数の発光手段2を有している。そして、当該発光手段2のそれぞれは、
図2(a),(b)に示すように、受光手段3を中心とする円周上に沿って等間隔で配置されている。
【0033】
なお、本第1実施形態において、発光手段2は、LEDによって構成されているが、可視光から近赤外までの所定波長の光を照射可能な発光源であれば、特に限定されるものではない。また、本第1実施形態では、8つの発光手段2を設けているが、この構成に限定されるものではなく、適宜増減してもよい。さらに、本第1実施形態において、発光手段2が照射する光の波長帯域は、400nm(紫)から1000nm(近赤外)であるが、特に限定されるものではない。
【0034】
受光手段3は、燃焼灰からの反射光を受光し反射強度を出力するものである。本第1実施形態において、受光手段3は、フォトダイオードや分光放射計等の受光素子によって構成されており、
図2(a),(b)に示すように、円周上に沿って配置された各発光手段2の中心に配置されている。そして、発光手段2が燃焼灰に光を照射した場合に、当該燃焼灰から受光した反射光を電気信号に変換し、反射強度として後述する反射強度取得部62に出力するようになっている。なお、各発光手段2の前方には拡散シート21が設けられ、受光手段3の前方にはレンズ31が設けられている。
【0035】
表示手段4は、測定結果を含む各種の情報を表示するものである。本第1実施形態において、表示手段4は、液晶ディスプレイによって構成されており、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率の他、バッテリの残量等を表示するようになっている。
【0036】
記憶手段5は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等によって構成されており、各種データを記憶するとともに、演算処理手段6が各種処理を行う際のワーキングエリアとして機能するものである。本第1実施形態において、記憶手段5は、
図1に示すように、プログラム記憶部51と、関係式記憶部52とを有している。
【0037】
プログラム記憶部51には、本第1実施形態のカーボンブラック測定装置1を制御するためのカーボンブラック測定プログラム1aがインストールされている。そして、演算処理手段6が、当該カーボンブラック測定プログラム1aを実行することにより、カーボンブラック測定装置1としてのコンピュータを後述する各構成部として機能させるようになっている。
【0038】
なお、カーボンブラック測定プログラム1aの利用形態は、上記構成に限られるものではない。例えば、CD−ROMやUSBメモリ等のように、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体にカーボンブラック測定プログラム1aを記憶させておき、当該記録媒体から直接読み出して実行してもよい。また、外部サーバ等からクラウドコンピューティング方式やASP(Application Service Provider)方式等で利用してもよい。
【0039】
関係式記憶部52は、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の反射強度を規格化した相対反射率との関係を示す関係式を予め記憶するものである。本第1実施形態において、相対反射率は、反射強度を所定の基準値で除算することにより規格化されている。また、本第1実施形態において、関係式記憶部52は、後述する関係式生成部64によって係数が決定された上記式(1)を予め記憶している。
【0040】
なお、本第1実施形態では、カーボンブラック測定装置1をコンパクト化するために、演算能力に制限がある組込用のボードやCPUを使用している。このため、上記式(1)を所定区間ごとに直線で近似した複数の多項式によってコーディングした上で記憶するようになっている。これにより、後述する含有率算出部65は、四則演算のみでカーボンブラックの含有率を算出できるため、低スペックな装置にも適用可能となる。
【0041】
演算処理手段6は、CPU(Central Processing Unit)等によって構成されており、記憶手段5にインストールされたカーボンブラック測定プログラム1aを実行することにより、
図1に示すように、発光手段2を制御する発光制御部61と、反射強度を取得する反射強度取得部62と、燃焼灰の相対反射率を取得する相対反射率取得部63と、上述した関係式を生成する関係式生成部64と、カーボンブラックの含有率を算出する含有率算出部65として機能するようになっている。以下、各構成部について説明する。
【0042】
発光制御部61は、発光手段2の照射タイミングを制御するものである。本第1実施形態において、発光制御部61は、全ての発光手段2に対応する反射強度を所定のサンプリング数だけ取得しうるように、各発光手段2を順次発光させて燃焼灰に照射し、その反射光を受光手段3に取得させるようになっている。
【0043】
反射強度取得部62は、受光手段3から反射強度を取得するものである。本第1実施形態では、上述したとおり、複数の発光手段2が異なる波長の光を照射するため、反射強度取得部62は、受光手段3から異なる波長ごとに1または複数の反射強度を取得する。そして、反射強度取得部62は、上記式(2)で示したとおり、各波長ごとに取得された各反射強度を平均化し、当該平均化した反射強度を各波長の反射強度として相対反射率取得部63に提供するようになっている。
【0044】
相対反射率取得部63は、燃焼灰の相対反射率を取得するものである。本第1実施形態において、相対反射率取得部63は、反射強度取得部62によって取得された各波長ごとの反射強度を平均化し、当該平均値を所定の基準値によって規格化した値を燃焼灰の相対反射率として取得するようになっている。
【0045】
具体的には、相対反射率取得部63は、まず、異なる波長ごとの反射強度を取得し、各反射強度の平均値を取得する。この場合、相対的に弱い反射強度を除外して平均化することが好ましい。これにより、異物の混入等によって生じた不要なノイズの影響が除外されることとなる。そして、当該反射強度の平均値を所定の基準値(例えば、いずれかの波長における反射強度)で除算して規格化することにより、燃焼灰の相対反射率を取得するようになっている。
【0046】
また、本第1実施形態において、相対反射率取得部63は、後述する関係式生成処理においては、得られた燃焼灰の相対反射率を関係式生成部64に提供し、後述する含有率算出処理においては、得られた燃焼灰の相対反射率を含有率算出部65に提供するようになっている。
【0047】
関係式生成部64は、カーボンブラックの含有率が既知の燃焼灰に基づいて、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の相対反射率との関係を示す関係式を生成するものである。本第1実施形態において、関係式生成部64は、カーボンブラックの含有率が異なる複数の燃焼灰についての各含有率と、複数の燃焼灰の各相対反射率とのデータ対を回帰分析することにより、関係式を生成するようになっている。
【0048】
具体的には、関係式生成部64は、カーボンブラックの含有率が既にわかっている複数の燃焼灰について、相対反射率取得部63が相対反射率を取得すると、各燃焼灰についての含有率と相対反射率とからなる複数のデータ対を上記式(1)に代入し、回帰分析を行う。これにより、関係式生成部64は、上記係数C
a、C
bが特定された上記式(1)を関係式として生成し、当該関係式を関係式記憶部52に記憶するようになっている。
【0049】
なお、本実施形態では、カーボンブラック測定装置1に関係式生成部64を設け、カーボンブラック測定装置1によって関係式を生成しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック測定装置1からは、複数の燃焼灰について測定した相対反射率のみを出力させ、当該相対反射率と含有率とのデータ対を別途、パーソナルコンピュータ等に読み込ませて関係式を生成し、当該関係式を関係式記憶部52に記憶させるようにしてもよい。
【0050】
含有率算出部65は、カーボブラックの含有率が未知の燃焼灰について、カーボンブラックの含有率を算出するものである。本第1実施形態において、含有率算出部65は、相対反射率取得部63によって取得された相対反射率と、関係式記憶部52に予め記憶されている関係式とに基づいて、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を算出するようになっている。
【0051】
具体的には、含有率算出部65は、相対反射率取得部63が、測定対象である燃焼灰の相対反射率を取得すると、当該相対反射率を関係式に代入することで、カーボンブラックの含有率を算出する。そして、算出した含有率を表示手段4等に出力し表示させるようになっている。
【0052】
つぎに、本第1実施形態のカーボンブラック測定装置1、カーボンブラック測定プログラム1aおよびカーボンブラック測定方法の作用について、上記関係式を生成する関係式生成処理と、カーボンブラックの含有率を算出する含有率算出処理とに分けて説明する。
【0053】
関係式生成処理を実行するに際しては、まず、従来の熱分析試験等の定量測定方法によって、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率を測定し、カーボンブラックの含有率が既知の燃焼灰を準備する。そして、当該燃焼灰にカーボンブラックを所定量混入することにより、カーボンブラックの含有率が異なる複数の燃焼灰を準備する。なお、前記燃焼灰は、蛍光X線元素分析法等の成分分析方法によって、主成分がカルシウム化合物で金属等の不純物がほとんど含まれていないこと、かつ、有害物質を含有しないことが予め確認されているものである。
【0054】
つぎに、複数の発光手段2と燃焼灰との距離が一定となるように、カーボンブラック測定装置1を所定の位置にセットする。これにより、受光手段3が、各波長における反射強度を精度良く検出することが可能になる。
【0055】
以上の準備が完了すると、
図3に示すように、発光制御部61が、いずれかの発光手段2を制御し、カーボンブラックの含有率が既知の燃焼灰に所定波長の光を照射する(ステップS1)。これにより、燃焼灰で反射された反射光が受光手段3によって受光され、反射強度として出力される。このとき、各発光手段2が、受光手段3を中心とする円周上に沿って等間隔で配置されているため、誤検知が発生しにくい上、カーボンブラック測定装置1の小型化に寄与する。
【0056】
つぎに、反射強度取得部62が、受光手段3から反射強度を取得する(ステップS2)。これにより、照射した光の波長に対応する反射強度が取得される。そして、全ての発光手段2に対応する波長について、所定回数のサンプリングが終了したか否かを判定し(ステップS3)、サンプリングが終了していない限り(ステップS3:NO)、発光制御部61が、他の発光手段2を制御することにより燃焼灰に照射する波長を変更し(ステップS4)、再びステップS1からの処理を繰り返す。これにより、各発光手段2に対応する各波長について、所定のサンプリング数の反射強度が取得されることとなる。
【0057】
一方、サンプリングが終了すると(ステップS3:YES)、相対反射率取得部63が、波長ごとの反射強度の平均値を規格化することで当該燃焼灰の相対反射率を取得する(ステップS5)。これにより、各発光手段2の強度のばらつきや、異物の混入等による影響が排除され、相対反射率の算出精度が向上する。そして、準備した燃焼灰のうち、含有率が異なる燃焼灰があれば(ステップS6:YES)、再びステップS1からの処理を繰り返し、当該燃焼灰の相対反射率を取得する。これにより、カーボンブラックの含有率の異なる複数の燃焼灰のそれぞれについて、相対反射率が取得される。
【0058】
一方、準備した全ての燃焼灰について相対反射率が取得されると(ステップS6:NO)、関係式生成部64が、各燃焼灰についてのデータ対(含有率,相対反射率)を上記式(1)に代入して回帰分析することにより、関係式を生成する(ステップS7)。これにより、上記式(1)の係数が決定され、カーボンブラックの含有率を高精度に測定する関係式が特定される。そして、当該関係式が関係式記憶部52に記憶されると(ステップS8)、本処理が終了する。
【0059】
以上の関係式生成処理により、含有率の異なる燃焼灰から取得した反射強度の測定データから、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と相対反射率との関係を表す関係式を生成することが可能となる。この関係式は、燃焼灰の相対反射率から当該燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を求めるための検量線として利用することが可能である。なお、発光手段2としてのLEDは個体差によって出力が異なるため、カーボンブラック測定装置1ごとに上記式(1)の係数は異なる。このため、関係式生成処理は、カーボンブラック測定装置1ごとに予め実行することにより、再現性および測定精度の高い関係式を実装することができる。
【0060】
つぎに、カーボンブラックの含有率を測定するための含有率算出処理について説明する。含有率算出処理を実行する前提として、関係式記憶部52には、前述の関係式生成処理によって生成された関係式が予め記憶されている。
【0061】
含有率算出処理では、
図4に示すように、まず、カーボンブラックの含有率が未知の燃焼灰に、上述したステップS1〜S5に相当する処理を実行し、当該燃焼灰の相対反射率を取得する(ステップS11〜ステップS15)。これにより、取得した相対反射率を関係式生成処理に用いた燃焼灰の相対反射率と同じ基準で比較することが可能となる。そして、含有率算出部65が、取得された相対反射率と関係式とに基づいて、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を算出し(ステップS16)、当該含有率を表示手段4等に出力する(ステップS17)。これにより、燃焼灰の反射強度を測定するだけで、燃焼灰中のカーボンブラックが測定される。
【0062】
以上のような本第1実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
1.簡単かつ安価な構成でありながら、燃焼灰中のカーボンブラックを迅速かつ手軽に定量測定することができる。
2.カーボンブラックの含有率を高精度に算出しうる関係式を簡単に特定し、生成することができる。
3.金属等の不純物をほとんど含有しない燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率を高精度に算出することができる。
4.カーボンブラック測定装置1が携帯可能に小型化されているため、燃焼灰の仕入れ先や製造現場等において、その場で簡便かつ迅速に測定することができる。
5.波長ごとに取得した各相対反射率を平均化することで、発光手段2の強度のばらつきや、異物の混入等による不要なノイズの影響が除去されて、測定精度を向上することができる。
6.カーボンブラック測定装置1ごとにキャリブレーションされた関係式を生成することで、測定精度を向上することができる。
7.燃焼灰中のカーボンブラックを定量的に測定できるため、廃タイヤ等に含まれるカーボンブラックのリサイクルを実用化することができる。
8.リサイクルによってカーボンブラックを大量かつ安価に供給できるため、アスファルト舗装の一般道路にも広く補強材として普及させることができる。
【0063】
つづいて、本発明に係るカーボンブラック測定装置、カーボンブラック測定プログラムおよびカーボンブラック測定方法の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態における構成のうち、上述した第1実施形態と同一もしくは相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0064】
本第2実施形態のカーボンブラック測定装置1の特徴は、金属等の不純物を含む燃焼灰中のカーボンブラックを定量的に測定するのに好適な構成を有する点にある。
【0065】
具体的には、上述した第1実施形態では、発光手段2が複数のLEDによって構成されていたところ、本第2実施形態の発光手段2は、連続スペクトルを有する発光源によって構成されている。具体的には、可視光から近赤外領域でスペクトル的に連続的な光源であり、例えば、ハロゲン光源、キセノン光源、白色LED、人工太陽光源等である。
【0066】
また、本第2実施形態において、受光手段3は、燃焼灰中に含まれる不純物の反射スペクトルを忠実に再現するために、2次元画像を構成する各ピクセルごとにハイパースペクトル情報(数十〜数百バンドに分光されたスペクトル)を対応付けてなるハイパースペクトルデータを取得可能なハイパースペクトルカメラによって構成されている。なお、本第2実施形態において、ハイパースペクトルカメラは、350nm(可視)〜1050nm(近赤外)の反射スペクトルを141バンド(色)単位で取得し、反射強度取得部62に出力するようになっている。
【0067】
さらに、本第2実施形態において、発光制御部61は、一つの燃焼灰に対して一度だけ発光手段2を発光させるようになっている。また、相対反射率取得部63は、受光手段3から反射スペクトルを取得すると、上記式(3)で示したとおり、カーボンブラックを含有しない燃焼灰の反射強度によって、反射スペクトル中の所定波長における反射強度を規格化した相対反射率を燃焼灰の相対反射率として取得するようになっている。
【0068】
具体的には、反射強度取得部62は、まず、受光手段3からカーボンブラックを含有しない燃焼灰の反射スペクトルを取得し、反射強度が比較的フラットな部分の波長を特定する。つぎに、反射強度取得部62は、当該波長における、カーボンブラックを含有しない燃焼灰の反射強度(以下、「基準強度」と表記する場合がある)を取得する。そして、反射強度取得部62は、受光手段3から測定対象となる燃焼灰の反射スペクトルを取得し、相対反射率取得部63は、当該反射スペクトル中の前記波長における反射強度を前記基準強度で規格化した相対反射率を燃焼灰の相対反射率として取得するようになっている。
【0069】
つぎに、本第2実施形態のカーボンブラック測定装置1、カーボンブラック測定プログラム1aおよびカーボンブラック測定方法の作用について、関係式生成処理と含有率算出処理とに分けて説明する。
【0070】
関係式生成処理を実行するに際しては、まず、金属等の不純物を含有する燃焼灰を、酸素雰囲気または空気中で完全燃焼させることで、カーボンブラックを含有しない燃焼灰を準備する。そして、当該燃焼灰に、カーボンブラックを所定量混入することにより、カーボンブラック以外の成分が同じであって、カーボンブラックの含有率の異なる複数の燃焼灰を準備する。
【0071】
以上の準備が完了すると、
図5に示すように、発光制御部61が、発光手段2を制御し、カーボンブラックを含有しない燃焼灰に光を照射する(ステップS21)。そして、反射強度取得部62が、受光手段3から取得した反射スペクトル中の所定波長における反射強度を取得する(ステップS22)。これにより、カーボンブラック以外の不純物に固有のスペクトル形状を示す、規格化のための反射強度(基準強度)が取得される。
【0072】
つぎに、発光制御部61が、発光手段2を制御し、カーボンブラックが既知の燃焼灰に光を照射すると(ステップS23)、反射強度取得部62が、受光手段3から反射スペクトルを取得して、相対反射率取得部63が、当該反射スペクトル中の所定波長における反射強度をステップS22で取得した基準強度によって規格化し、燃焼灰の相対反射率として取得する(ステップS24)。これにより、金属等の不純物による影響が差し引かれるため、燃焼灰の相対反射率の算出精度が向上する。
【0073】
そして、準備した燃焼灰のうち、含有率が異なる燃焼灰があれば(ステップS25:YES)、再びステップS23からの処理を繰り返し、当該燃焼灰の相対反射率を取得する。これにより、カーボンブラックの含有率の異なる複数の燃焼灰のそれぞれについて、相対反射率が取得される。
【0074】
一方、準備した全ての燃焼灰について相対反射率を取得すると(ステップS25:NO)、第1実施形態のステップS7およびステップS8と同様の処理を実行することにより(ステップS26,S27)、関係式を生成して記憶した後、本処理を終了する。これにより、燃焼灰中のカーボンブラック以外の不純物に固有の色(スペクトル)の影響が除去された関係式が実装される。
【0075】
つづいて、
図6に示す含有率算出処理について説明する。まず、前述の関係式生成処理に用いた燃焼灰とカーボンブラック以外の成分が略同一であって、カーボンブラックの含有率が未知の燃焼灰に、上述したステップS23とステップS24に相当する処理を実行し、当該燃焼灰の相対反射率を取得する(ステップS31とステップS32)。これにより、取得した相対反射率を関係式生成処理に用いた燃焼灰の相対反射率と同じ基準で比較することが可能となる。
【0076】
そして、第1実施形態のステップS16とステップS17に相当する処理を実行することにより(ステップS33とステップS34)、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を算出し表示手段4等に出力する。これにより、燃焼灰の反射強度を測定するだけで、燃焼灰中のカーボンブラックが測定される。
【0077】
以上のような本第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の作用効果に加えて、以下のような効果を奏する。すなわち、燃焼灰中に金属等の不純物が含まれている等の理由で色味を帯びている場合であっても、カーボンブラックを含有しない燃焼灰の相対反射率からの減衰率を評価しうるように、測定対象となる燃焼灰の相対反射率を定義することで、当該燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率を高精度に算出することができる。
【0078】
つぎに、本発明に係るカーボンブラック測定装置1、カーボンブラック測定プログラム1aおよびカーボンブラック測定方法の具体的な実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって示される特徴に限定されるものではない。
【実施例1】
【0079】
本実施例1では、上述した第1実施形態のカーボンブラック測定装置1によって、本発明に係る関係式を生成する実験を行った。
【0080】
具体的には、まず、カーボンブラックを含有する廃タイヤの燃焼灰を準備し、蛍光X線元素分析法によって元素分析することにより、有害物質や金属等の不純物を含有しておらず、カルシウム化合物を主成分とする燃焼灰であることを確認した。そして、当該燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率を熱分析試験によって測定したところ、4.92%であった。
【0081】
つぎに、上記燃焼灰にカーボンブラック(東海カーボン社製)を所定量混合することにより、
図7に示すように、カーボンブラックの含有率がそれぞれ、4.92%、9.99%、20.00%および30.00%の燃焼灰をサンプルとして作製した。また、上記熱分析試験によってカーボンブラックが完全燃焼し、カーボンブラックの含有率が0%の燃焼灰もサンプルとして用意した。
【0082】
つづいて、第1実施形態のカーボンブラック測定装置1によって各燃焼灰サンプルを測定したところ、
図8に示すように、8つのLED(R0〜R7)に対応する各波長(R0−R1:青、R2−R3:緑、R4−R5:赤、R7:赤外)について反射強度が測定された。
【0083】
図8に示すように、カーボンブラックを含有しない燃焼灰(CB=0%)のR1およびR2における反射強度は、LEDの性能上の問題で、他の波長(R0、R3〜R7)における反射強度と比較して弱かったため、各燃焼灰の相対反射率は、R4とR5における各反射強度の平均値を規格化して取得した。なお、燃焼灰の相対反射率は、含有率4.92%の燃焼灰(CB=5%)のR5における反射強度で除算することで規格化した。
【0084】
そして、各燃焼灰サンプルについての相対反射率と、カーボンブラックの含有率とのデータ対を上記式(1)に代入して回帰分析したところ、上記式(1)の係数C
a、C
bは、それぞれ6.582および4.8495であった。したがって、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の相対反射率との関係を示す関係式は、下記式(4)および
図9に示すグラフによって表された。
【0085】
N=−6.582lnR+4.8495 ・・・式(4)
ただし、各符号は以下を表す。
N:燃焼灰中のカーボンブラックの含有率
R:燃焼灰の相対反射率
なお、上記式の相関係数は0.9833である。
【0086】
以上のような本実施例1によれば、第1実施形態のカーボンブラック測定装置1を用いて、本発明に係る関係式を生成できることが示された。
【実施例2】
【0087】
本実施例2では、上述した実施例1で生成した上記式(4)を関係式としてセットした第1実施形態のカーボンブラック測定装置1を用いて、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を測定する実験を行った。
【0088】
具体的には、上述の実施例1で用いた燃焼灰のうち、カーボンブラックの含有率が0%の燃焼灰と、4.92%の燃焼灰と、9.99%の燃焼灰のそれぞれについて、第1実施形態のカーボンブラック測定装置1を用いて、カーボンブラックの含有率を測定した。その結果、各燃焼灰のカーボンブラックの含有率はそれぞれ0%、5%および10%であり、実際のカーボンブラックの含有率とほぼ一致していることが確認された。
【0089】
以上のような本実施例2によれば、第1実施形態のカーボンブラック測定装置1によって、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を高精度に算出できることが示された。
【0090】
なお、本発明に係るカーボンブラック測定装置1、カーボンブラック測定プログラム1aおよびカーボンブラック測定方法は、前述した各実施形態および各実施例に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0091】
例えば、上述した第1実施形態において、発光手段2は、複数の発光手段2を有して構成されているが、この構成に限定されるものではなく、特定の波長の光を照射する1つの発光手段2によって構成されていてもよい。この場合、関係式生成処理において、ステップS2の処理は、受光手段から取得した反射強度を規格化することにより燃焼灰の相対反射率を取得することとなり、ステップS3〜ステップS5の処理は不要となる。同様にして、含有率算出処理において、ステップS12の処理は、受光手段から取得した反射強度を規格化することにより燃焼灰の相対反射率を取得することとなり、ステップS13〜ステップS15の処理は不要となる。
【0092】
また、上述した第1実施形態において、発光手段2および受光手段3は、複数の発光手段2のそれぞれが、受光手段3を中心とする円周上に沿って配置されているが、発光手段2と受光手段3とが所定の間隔で配置されている構成であれば、この構成に限定されるものではない。例えば、1つの発光手段2と1つの受光手段3とが互いに対になって、複数配置されて構成されていてもよい。これにより、受光手段3から反射強度とその波長とを直接取得することが可能となる。
【0093】
さらに、上述した第1実施形態において、相対反射率取得部63は、受光手段3から異なる波長ごとの反射強度を取得した場合、各反射強度の平均値を規格化した値を燃焼灰の相対反射率として取得するようになっているが、この構成に限定されるものではない。すなわち、相対反射率取得部63は、受光手段3から異なる波長ごとの反射強度を取得した場合、各反射強度を規格化した各相対反射率の平均値を燃焼灰の相対反射率として取得してもよい。
【0094】
この場合、上述した関係式生成処理のステップS2において、受光手段3から取得した燃焼灰の反射強度を規格化して各波長の相対反射率を取得し、ステップS5において、各相対反射率の平均値を当該燃焼灰の相対反射率として取得することとなる。上述した含有率算出処理のステップS12およびステップS15についても同様である。
【0095】
また、上述した第2実施形態では、金属等の不純物を含む燃焼灰を測定するのに好適なカーボンブラック測定装置1について説明したが、当該第2実施形態のカーボンブラック測定装置1を用いて、金属等の不純物をほとんど含まない燃焼灰を測定することも可能である。
【0096】
この場合、相対反射率取得部63は、受光手段3から連続的な反射スペクトルを取得するため、相対反射率を下記式(5)によって定義することが好ましい。したがって、関係式生成処理のステップS21およびS22は不要となる。
【0097】
ただし、各符号は以下を表す。
R:燃焼灰の相対反射率
λ:波長
λ
max:発光手段2の最大波長
λ
min:発光手段2の最小波長
R(λ):波長λにおける反射強度
【課題】 簡単かつ安価な構成でありながら、燃焼灰中のカーボンブラックを迅速かつ手軽に定量測定することができるカーボンブラック測定装置、カーボンブラック測定プログラムおよびカーボンブラック測定方法を提供する。
【解決手段】 カルシウム化合物を主成分とする燃焼灰中のカーボンブラックを測定するためのカーボンブラック測定装置1であって、燃焼灰中に含まれるカーボンブラックの含有率と、燃焼灰の反射強度を規格化した相対反射率との関係を示す関係式を予め記憶する関係式記憶部52と、受光手段3から取得した燃焼灰の反射強度を規格化することにより燃焼灰の相対反射率を取得する相対反射率取得部62と、相対反射率取得部62によって取得された相対反射率と関係式とに基づいて、燃焼灰中のカーボンブラックの含有率を算出する含有率算出部64と、を有する。