(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
日射センサの日射量情報に基づいて、所定の時間間隔における積算日射量を算出し、前記積算日射量に基づいて、栽培する作物に供給する培養液の量を算出する基本培養液量算出部と、
土壌センサの土壌水分量情報を所定の基準土壌水分量と比較し、前記作物に供給する培養液の量を調整し、制御情報を算出する培養液量微調整部と、
作物の種別、日射量を測定した日付及び日射量を測定した日の時刻のそれぞれに対して、可能日射量と、前記可能日射量に対応する基準培養液量を記録する日射量培養液量テーブルとを具備し、
前記作物が植栽される土壌の水分量を計測する前記土壌センサの土壌水分量情報を所定の基準土壌水分量と比較し、前記作物に供給する培養液の量を調整することで、前記培養液を形成する水の供給を制御すると共に、前記培養液を形成する培養原液の供給を制御し、
前記基本培養液量算出部は、現在日時によって前記日射量培養液量テーブルのレコードを特定して得られた前記基準培養液量に、前記可能日射量に対する前記積算日射量との比率を乗算して基本培養液量を算出する、
ことを特徴とする養液土耕制御サーバ。
日射センサの日射量情報に基づいて、所定の時間間隔における積算日射量を算出し、前記積算日射量に基づいて、栽培する作物に供給する培養液の量を算出する基本培養液量算出機能と、
土壌センサの土壌水分量情報を所定の基準土壌水分量と比較し、前記作物に供給する培養液の量を調整し、制御情報を算出する培養液量微調整機能と、
作物の種別、日射量を測定した日付及び日射量を測定した日の時刻のそれぞれに対して、可能日射量と、前記可能日射量に対応する基準培養液量を記録するための日射量培養液量テーブル作成機能と、
前記作物が植栽される土壌の水分量を計測する前記土壌センサの土壌水分量情報を所定の基準土壌水分量と比較し、前記作物に供給する培養液の量を調整することで、前記培養液を形成する水の供給を制御する機能と、
前記培養液を形成する培養原液の供給を制御する機能と、
前記基本培養液量算出機能により、現在日時によって前記日射量培養液量テーブルのレコードを特定して得られた前記基準培養液量に、前記可能日射量に対する前記積算日射量との比率を乗算して基本培養液量を算出する機能と
を、コンピュータで実現させるための養液土耕制御プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[養液土耕システムの全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る、養液土耕システム101の概略図である。
養液土耕システム101は、温室やビニルハウス等の、天候の変動を緩和する作物栽培施設に導入される。本実施形態では、温室やビニルハウスを「ハウス」と総称する。
養液土耕システム101は、培養液を作成して、ハウスに供給する設備と、培養液を作成するための情報を演算処理するサーバに分けられる。
前者は農家に設置されたコントローラ102を中心とするクライアントである。後者はインターネット103に接続される養液土耕制御サーバ104である。
養液土耕システム101は、いわゆるwebベースのクライアント・サーバシステムである。特に養液土耕制御サーバ104は可用性を鑑みて、複数のサーバの集合体、すなわちクラウドにて構成されている。本実施形態では、説明を簡略化するために、養液土耕制御サーバ104を単一のサーバとして表現している。
【0012】
農家には、培養液の基となる第一液肥タンク105aと第二液肥タンク105bが設置されている。
第一液肥タンク105aには第一液肥混入器106aが接続されている。第二液肥タンク105bには第二液肥混入器106bが接続されている。
これ以降、第一液肥タンク105aと第二液肥タンク105bを特に区別しない場合は、液肥タンク105と称する。同様に、第一液肥混入器106aと第二液肥混入器106bを特に区別しない場合は、液肥混入器106と称する。
【0013】
液肥タンク105には、肥料を水に溶かした高濃度液肥が溜め込まれている。第一液肥タンク105aと第二液肥タンク105bには、異なる種類の液肥が溜め込まれている。
液肥混入器106とは、水道水等の加圧された水(以下「加圧水」と称する)の水圧を利用して、水に対し、液肥タンク105の液肥を設定した割合にて混入させる器具である。
図1を見て判るように、第一液肥混入器106aと第二液肥混入器106bは直列に接続されており、第二液肥混入器106bからは第一液肥タンク105aの液肥と第二液肥タンク105bの液肥とが混合した培養原液が吐出される。
【0014】
加圧水は水供給弁107によって水の吐出が制御される。第二液肥混入器106bから吐出される培養原液は、培養原液供給弁108によって培養原液の吐出が制御される。
コントローラ102は、水供給弁107と培養原液供給弁108を制御することで、適切な濃度の培養液を適切な量、作物に供給する。
【0015】
水供給弁107と培養原液供給弁108の吐出側は一つのパイプに接続され、流量センサ109を通じて、一つ以上の吐出弁に供給される。
図1では、第一吐出弁110aと第二吐出弁110bが設けられている。これ以降、第一吐出弁110aと第二吐出弁110bを区別しない場合には吐出弁110と称する。
本実施形態の養液土耕システム101は、水供給弁107と培養原液供給弁108、そして複数の吐出弁110を制御することで、吐出弁110が設けられているハウス内の区画毎に異なる作物や、或は作付時期をずらした作物を栽培することが可能である。すなわち、第二吐出弁110bを閉じて第一吐出弁110aを開いた場合には、第一の作物に適した量と濃度の培養液を供給する。一方、第一吐出弁110aを閉じて第二吐出弁110bを開いた場合には、第一の作物とは異なる、第二の作物に適した量と濃度の培養液を供給する。つまり、コントローラ102と、培養液を作成する系統(液肥タンク105、液肥混入器106、水供給弁107、培養原液供給弁108及び流量センサ109)を、異なる作物或は作付時期をずらした作物において、共有できる。
【0016】
ハウスの内部には、灌水チューブ111が一本以上敷設される。
灌水チューブ111には、吐出弁110を通じて培養液が供給される。培養液は、灌水チューブ111に設けられている複数の穴から、灌水チューブ111が敷設されているハウス内の地面に散布される。
灌水チューブ111の近傍には土壌センサ112が差し込まれる。
図1では、第一土壌センサ112aと第二土壌センサ112bが設けられている。これ以降、第一土壌センサ112aと第二土壌センサ112bを区別しない場合には土壌センサ112と称する。
土壌センサ112は、土壌水分量、土壌EC及び地温を、アナログ電圧信号にて出力する。ECとは「Electrical Conductivity」の略で、硝酸態窒素含有量の指標になる、土壌中の電気伝導率を指す。つまりECとは、転じて土壌中の肥料の濃度とほぼ同義の情報として扱われる。
ハウスの近傍には、日射センサ113が設けられる。日射センサ113は日射の強度をアナログ電圧信号にて出力する。
【0017】
日射センサ113、流量センサ109、第一土壌センサ112a及び第二土壌センサ112bから出力されるアナログ電圧信号は、コントローラ102に入力される。またコントローラ102は、水供給弁107、培養原液供給弁108、そして第一吐出弁110aと第二吐出弁110bを開閉制御する。
図2にて詳述するが、コントローラ102は周知のマイコンよりなる。コントローラ102には更に測位情報出力部としての機能を有するGPS端末114から測位情報が入力される。そして、コントローラ102は無線端末である3G端末115を通じてインターネット103に接続し、養液土耕制御サーバ104と情報の送受信を行う。
なお、天気予報サーバ116は後述する
図13において説明する。
【0018】
コントローラ102は、日出から日没まで、10分間隔で、日射センサ113、第一土壌センサ112a及び第二土壌センサ112bから得られる計測データを養液土耕制御サーバ104に送信する。そして、1時間毎、或は2時間毎に、計測データを養液土耕制御サーバ104に送信した際に、養液土耕制御サーバ104から受信するデータに基いて、水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを制御する。そして、その際に流量センサ109から得られる培養液の流量のデータを、養液土耕制御サーバ104に送信する。
これ以降、本実施形態では、養液土耕制御サーバ104は1時間毎にコントローラ102に制御データを送信するものとする。
【0019】
また、農業従事者はタブレット端末117等を用いて、後述する基準土壌水分量及び基準土壌ECを任意に変更できる。
【0020】
[コントローラ102のハードウェア構成]
図2は、コントローラ102のハードウェアの構成を示すブロック図である。なお、養液土耕制御サーバ104と送受信する情報の概略を説明するため、インターネット103に接続される養液土耕制御サーバ104も図示している。
マイコンよりなるコントローラ102は、CPU201、ROM202、RAM203、日時情報を出力するリアルタイムクロック(以下「RTC」と略、
図2中も「RTC」と略)204、NIC(Network Information Card)205、シリアルインターフェース206(
図2中では「I/F」と略)が、バス207に接続されている。
更に、バス207に接続されているA/D変換器208(
図2中では「A/D」と略)には、マルチプレクサ209(
図2中では「MPX」と略)が接続されている。マルチプレクサ209には、日射センサ113、流量センサ109、第一土壌センサ112a及び第二土壌センサ112bが接続される。
更に、バス207に接続されているD/A変換器210(
図2中では「D/A」と略)には、図示しないラインドライバを通じて水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bが接続される。
【0021】
コントローラ102は、GPS端末114が出力する測位情報を、シリアルインターフェース206を通じて受信する。
コントローラ102は、NIC205に接続されている3G端末115を通じて、インターネット103に接続される。そして養液土耕制御サーバ104に、GPS端末114が出力した測位情報、第一土壌センサ112a及び第二土壌センサ112bを区別する土壌センサ番号、日射センサ113が出力した日射量、第一土壌センサ112a又は第二土壌センサ112bが出力した土壌水分量、土壌EC及び地温、そして流量センサ109が出力した培養液流量を送信する。更に養液土耕制御サーバ104から、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを区別する吐出弁番号、水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間を受信する。
【0022】
[コントローラ102のソフトウェア機能]
図3は、コントローラ102のソフトウェアの機能を示すブロック図である。
日射センサ113、第一土壌センサ112a、第二土壌センサ112b、流量センサ109、そしてGPS端末114が出力する情報は、送信情報作成部301によって周知のXML(Extensible Markup Language)仕様のテキストストリームデータに変換される。そして、XMLテキストストリームデータは、webクライアント302によって、HTTPS(Hyper Text Transfer Protocol Secure)にて養液土耕制御サーバ104に送信される。
webクライアント302は、養液土耕制御サーバ104から受信したテキストストリームデータを、制御信号作成部303に引き渡す。
制御信号作成部303は、テキストストリームデータから、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを区別する吐出弁番号、水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間を取り出して、水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを制御する。
【0023】
制御部304は、スケジューラの機能を備える。
制御部304は、RTC204から日時情報を受け取り、所定の時間に至ったことを認識したら、webクライアント302を通じて養液土耕制御サーバ104に認証情報305を送信して、認証を行う。認証が正常に行われたら、制御部304は送信情報作成部301を起動する。そして、webクライアント302が養液土耕制御サーバ104から受信したテキストストリームデータに制御情報が含まれていれば、制御信号作成部303を起動する。
認証情報305は、ROM202に記憶されている、コントローラ102の機器IDとパスワードである。機器IDとは、コントローラ102を一意に識別する情報である。
【0024】
図3を見て判るように、コントローラ102には、日射センサ113及び土壌センサ112から得られるデータに基いて、水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを制御するための演算を行う機能がない。このため、水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを制御するためのデータは、養液土耕制御サーバ104によって作成される。
すなわち、コントローラ102は、低価格で比較的演算能力の低いマイコンで実現可能である。水供給弁107、培養原液供給弁108、第一吐出弁110a及び第二吐出弁110bを制御するためのデータを作成するための、複雑かつ高度な演算処理は、養液土耕制御サーバ104が担当する。クライアントのハードウェア構成を簡素にすることで、本実施形態の養液土耕システム101は、個人事業者でも比較的容易に導入が可能である。
【0025】
[養液土耕制御サーバ104のハードウェア構成]
図4は、養液土耕制御サーバ104のハードウェアの構成を示すブロック図である。
周知のコンピュータよりなる養液土耕制御サーバ104は、CPU401、ROM402、RAM403、RTC404、インターネット103に接続されているNIC405、不揮発性ストレージ406が、バス407に接続されている。不揮発性ストレージ406には、周知のネットワークOSと、コンピュータを養液土耕制御サーバ104として機能させるためのプログラムと、後述する種々のデータベースが格納されている。
なお、一般的なパソコンも養液土耕制御サーバ104として利用可能である。その場合、表示部408と操作部409がバス407に接続されている。但し、表示部408と操作部409は必ずしも養液土耕制御サーバ104に必要ではない。
【0026】
[養液土耕制御サーバ104のソフトウェア機能]
図5は、養液土耕制御サーバ104のソフトウェアの機能を示すブロック図である。
養液土耕制御サーバ104は、HTTPSのwebサーバである。
webサーバプログラム501は、クライアントであるコントローラ102とHTTPSにて通信を行い、通信の内容に応じて、認証処理部502、受信データ処理部503、GUI処理部504を実行する。また、制御部505によって実行される制御データ作成部506が出力する情報を、コントローラ102へ送信する。なお、通常、HTTPSはTCPポート443番を利用するが、ポート番号はセキュリティを考慮して自由に変更可能である。
認証処理部502、受信データ処理部503、制御データ作成部506及びGUI処理部504は、例えばCGI(Common Gateway Interface)やアプレットと呼ばれるプログラムである。
【0027】
認証処理部502は、必要に応じてユーザマスタ507を参照して、クライアントであるコントローラ102やタブレット端末117の認証を行う。
受信データ処理部503は、コントローラ102から受信したデータを受信データベース508に記録する。
制御データ作成部506は制御部505によって起動され、受信データベース508、機器データベース509、日射量データベース510及びトレンド情報テーブル511からデータを読み込み、クライアントであるコントローラ102に送信するデータを作成して、webサーバプログラム501を通じてコントローラ102に送信する。
GUI処理部504は、クライアントであるタブレット端末117に、後述する基準土壌水分量及び基準土壌ECを操作するためのGUI操作画面を形成して、タブレット端末117操作者の指示に従い、基準土壌水分量及び基準土壌ECを変更する。その際、閾値範囲リスト512を参照する。
【0028】
RTC404はコントローラ102のRTC204と同じである。
制御部505は、現在、養液土耕制御サーバ104にアクセスしているコントローラ102に、水供給弁107、培養原液供給弁108及び吐出弁110を制御するための制御データを送信する必要があるか否かを、RTC404から得られる現在時刻から判定する。そして、コントローラ102に制御データを送信する必要があると判定した場合には、制御データ作成部506を起動する。
また、制御部505はクライアントと同様の、スケジューラとしての機能も有し、深夜にトレンド情報算出部513を起動する。トレンド情報算出部513は、後述する受信データベース508の第一ログテーブルから、土壌水分量及び土壌ECを読み出して、土壌センサ112毎に土壌水分量及び土壌ECのトレンド情報を算出し、これをトレンド情報テーブル511に記録する。
【0029】
図6は、制御データ作成部506の機能を示すブロック図である。
制御データ作成部506は、二段階の演算処理を行う。
制御データ作成部506は最初に、制御部505から現在、養液土耕制御サーバ104にアクセスしているコントローラ102の機器IDを受け取ると、基本培養液量算出部601を起動する。
基本培養液量算出部601は、受信データベース508を機器IDで特定して、測位情報と日射量を得る。そして日射量データベース510を参照して、基本培養液量を算出する。
次に、培養液量微調整部602は、受信データベース508を機器IDで特定して、土壌水分量と土壌ECを得る。そして機器データベース509を機器IDで特定して、基準土壌水分量と基準土壌ECを得る。更にトレンド情報テーブル511を機器IDで特定して、土壌水分量傾きと土壌EC傾きを得る。そして、これらのデータを基に計算を行い、水供給弁開放時間と、培養原液供給弁開放時間を算出する。
【0030】
図7は、受信データベース508、機器データベース509、日射量データベース510及びユーザマスタ507の構成を示す図である。
受信データベース508は、第一ログテーブル701と第二ログテーブル702を有する。
機器データベース509は、機器マスタ703、土壌センサテーブル704、吐出弁テーブル705、灌水チューブテーブル706及び灌水チューブマスタ707を有する。
日射量データベース510は、日射量培養液量テーブル708と測位情報リスト709を有する。
【0031】
第一ログテーブル701は、機器IDフィールド、土壌センサ番号フィールド、日時フィールド、測位情報フィールド、日射量フィールド、土壌水分量フィールド、土壌ECフィールド及び地温フィールドを有する。
機器IDフィールドには、機器IDが格納される。
土壌センサ番号フィールドには、ある機器IDのコントローラ102に接続される土壌センサ112を一意に識別するための土壌センサ番号が格納される。本実施形態のコントローラ102は、最大6個の土壌センサ112が接続可能である。
日時フィールドには、コントローラ102からデータを受信した日時が格納される。
測位情報フィールドには、コントローラ102から受信した、GPS端末114の測位情報が格納される。
日射量フィールドには、コントローラ102から受信した、日射センサ113の日射量データが格納される。
土壌水分量フィールドには、コントローラ102から受信した、土壌センサ112の土壌水分量データが格納される。
土壌ECフィールドには、コントローラ102から受信した、土壌センサ112の土壌ECデータが格納される。
地温フィールドには、コントローラ102から受信した、土壌センサ112の地温データが格納される。
なお、本実施形態の養液土耕システム101では、地温を培養液の算出には用いない。しかし、他のセンサの情報と同様に、地温の変化を第一ログテーブル701にてログ記録しておくことで、作物の生育状況との相関性等を検証することが可能になる。養液土耕制御サーバ104は、複数の農家の情報を第一ログテーブル701及び第二ログテーブル702に蓄積するので、サーバの運用実績が積み重なれば、いわゆる「ビッグデータ」として様々な分析にも利用が可能である。
【0032】
第二ログテーブル702は、機器IDフィールド、吐出弁番号フィールド及び培養液流量フィールドを有する。
機器IDフィールドは、第一ログテーブル701の同名フィールドと同じである。
吐出弁番号フィールドには、ある機器IDのコントローラ102に接続される吐出弁110を一意に識別するための吐出弁番号が格納される。
培養液流量フィールドには、コントローラ102から受信した、流量センサ109の培養液流量データが格納される。
【0033】
機器マスタ703は、機器IDフィールド、機器オーナーフィールド、パスワードフィールド及び連絡先フィールドを有する。
機器IDフィールドは、第一ログテーブル701の同名フィールドと同じである。
機器オーナーフィールドには、コントローラ102の所有者の氏名或は法人名が格納される。
パスワードフィールドには、コントローラ102の機器IDを認証するためのパスワードのハッシュ値が格納される。
連絡先フィールドには、コントローラ102の所有者の連絡先を示す情報が格納される。
【0034】
土壌センサテーブル704は、機器IDフィールド、土壌センサ番号フィールド、吐出弁番号フィールド、作物種別フィールド、基準土壌水分量フィールド及び基準土壌ECフィールドを有する。
機器IDフィールドは、第一ログテーブル701の同名フィールドと同じである。
土壌センサ番号フィールドは、第一ログテーブル701の同名フィールドと同じである。
吐出弁番号フィールドには、土壌センサ番号フィールドに格納される土壌センサ112に属する吐出弁110の吐出弁番号が一つ以上格納される。
作物種別フィールドには、吐出弁番号フィールドに記されている吐出弁110において栽培される作物の種別を示す情報が格納される。
基準土壌水分量フィールドには、吐出弁番号フィールドに記されている吐出弁110において栽培される作物における、基準土壌水分量が格納される。
基準土壌ECフィールドには、吐出弁番号フィールドに記されている吐出弁110において栽培される作物における、基準ECが格納される。
【0035】
ハウスで栽培される作物は、最低一つ以上の土壌センサ112によって管理される。このため、土壌センサテーブル704には作物種別フィールドが設けられている。
【0036】
吐出弁テーブル705は、機器IDフィールド、吐出弁番号フィールド、土壌センサ番号フィールド、識別コードフィールド及び培養液供給能力フィールドを有する。
機器IDフィールドは、第一ログテーブル701の同名フィールドと同じである。
吐出弁番号フィールドは、第二ログテーブル702の同名フィールドと同じである。
土壌センサ番号フィールドには、吐出弁番号フィールドに格納される吐出弁110に属する土壌センサ112の土壌センサ番号が一つ以上格納される。
識別コードフィールドには、ある機器IDのある吐出弁番号の吐出弁110を一意に識別するための識別コードが格納される。これは機器IDと吐出弁番号の組み合わせでもよい。この識別コードは、後述する灌水チューブテーブル706にて利用される。
培養液供給能力フィールドには、吐出弁番号フィールドに格納される吐出弁110の、単位時間当りの培養液の供給量が格納される。これは、本実施形態の養液土耕システムを農家に導入する際に、設備の状態を計測する目的で、水を吐出弁110に供給して、吐出弁110の単位時間当りの液体供給量を計測することで、このフィールドに値を記録する。
【0037】
灌水チューブテーブル706は、識別コードフィールド、潅水チューブ番号フィールド、潅水チューブ種別コードフィールド及び潅水チューブ長さフィールドを有する。
識別コードフィールドは、吐出弁テーブル705の同名フィールドと同じである。
潅水チューブ番号フィールドには、識別コードにて特定される吐出弁110に接続される灌水チューブ111を一意に識別するための番号が一つ以上格納される。
潅水チューブ種別コードフィールドには、潅水チューブ番号フィールドにて特定される灌水チューブ111の種別を示す情報が格納される。
潅水チューブ長さフィールドには、潅水チューブ番号フィールドにて特定される灌水チューブ111の長さを示す情報が格納される。
【0038】
灌水チューブマスタ707は、潅水チューブ種別コードフィールド、潅水チューブ名称フィールド及び培養液散布能力フィールドを有する。
潅水チューブ種別コードフィールドは、灌水チューブテーブル706の同名フィールドと同じである。
潅水チューブ名称フィールドには、灌水チューブ111の製造企業名及び商品名が格納される。
培養液散布能力フィールドには、潅水チューブ種別コードにて特定される灌水チューブ111の、単位長さ及び単位時間当たりの培養液散布量が格納される。
【0039】
ここで一旦、第一ログテーブル701、第二ログテーブル702、土壌センサテーブル704、吐出弁テーブル705及び灌水チューブテーブル706の関係を説明する。
図8は、コントローラ102と、これに接続される各種センサ及び機器の関係を示す概略図である。
一つのコントローラ102には、一つの日射センサ113、一つの流量センサ109、一つのGPS端末114、一つの水供給弁107、一つの培養原液供給弁108が対応付けられている。これらは全て一対一の関係である。すなわち、一つの機器IDについて、日射量、培養液流量、測位情報、水供給弁開放時間、培養原液供給弁開放時間は一対一で対応付けられる。
【0040】
図8では、三つのハウスが設けられている。
第一ハウス801には、第一土壌センサ112aと第一吐出弁110aが敷設されている。
第一吐出弁110aには、第一灌水チューブ111a、第二灌水チューブ111b及び第三灌水チューブ111cが敷設されている。
したがって、他の吐出弁を閉じて第一吐出弁110aを開放すると、水供給弁107と培養原液供給弁108から供給される培養液が、第一灌水チューブ111a、第二灌水チューブ111b及び第三灌水チューブ111cによって、第一ハウス801内の土壌に散布される。
第一ハウス801内において、第一土壌センサ112aと第一吐出弁110aは一対一の関係である。この第一ハウス801内では、一種類の作物を栽培できる。第一ハウス801内には土壌センサ112が一つしかないので、二種類以上の作物を栽培することはできない。
【0041】
第二ハウス802には、第二土壌センサ112bと、第二吐出弁110b及び第三吐出弁110cが敷設されている。
第二吐出弁110bには、第四灌水チューブ111d及び第五灌水チューブ111eが敷設されている。
第三吐出弁110cには、第六灌水チューブ111f及び第七灌水チューブ111gが敷設されている。
したがって、他の吐出弁110を閉じて第二吐出弁110bを開放すると、水供給弁107と培養原液供給弁108から供給される培養液が、第四灌水チューブ111d及び第五灌水チューブ111eによって、第二ハウス802内の土壌に散布される。
同様に、他の吐出弁110を閉じて第三吐出弁110cを開放すると、水供給弁107と培養原液供給弁108から供給される培養液が、第六灌水チューブ111f及び第七灌水チューブ111gによって、第二ハウス802内の土壌に散布される。
第二ハウス802内において、第二土壌センサ112bと第二吐出弁110b及び第三吐出弁110cは一対多の関係である。この第二ハウス802内でも、二種類以上の作物を栽培することはできない。つまり、ハウスにて栽培する作物の種類は、土壌センサ112によって制限される。
【0042】
第三ハウス803には、第三土壌センサ112c及び第四土壌センサ112dと、第四吐出弁110dが敷設されている。
第四吐出弁110dには、第八灌水チューブ111h、第九灌水チューブ111i及び第十灌水チューブ111jが敷設されている。
したがって、他の吐出弁110を閉じて第四吐出弁110dを開放すると、水供給弁107と培養原液供給弁108から供給される培養液が、第八灌水チューブ111h、第九灌水チューブ111i及び第十灌水チューブ111jによって、第三ハウス803内の土壌に散布される。
第三ハウス803内において、第三土壌センサ112c及び第四土壌センサ112dと第四吐出弁110dは多対一の関係である。この第三ハウス803内でも、二種類以上の作物を栽培することはできない。すなわち、第三土壌センサ112cと第四土壌センサ112dは、複数種類の作物の栽培のためではなく、同一の作物を栽培するに際し、測定値の精度の向上を目的として敷設されているのである。
【0043】
以上より、一つのコントローラ102には複数個の土壌センサ112と、複数個の吐出弁110が対応付けられ得る。また、土壌センサ112と吐出弁110は、多対多の関係を有する。
土壌センサ112と吐出弁110の関係は、土壌センサテーブル704に含まれる吐出弁番号フィールドと、吐出弁テーブル705に含まれる土壌センサ番号フィールドによって、特定できる。すなわち、一つの吐出弁110に対応する一つ以上の土壌センサ112によって、栽培できる作物が特定される。そして、その土壌センサ112に対応する一つ以上の吐出弁110によって、供給すべき培養液の量と濃度が特定される。
【0044】
そして、吐出弁110とこれに対応する灌水チューブ111は、一対多の関係を有する。
灌水チューブ111は、一端が閉じたチューブであり、等間隔で培養液或は水を吐出する穴が開けられている。
灌水チューブ111の種類によって、単位時間当りの培養液の供給量である培養液供給強度が変化する。そこで、本実施形態に係る養液土耕制御サーバ104では、様々なメーカーから発売されている灌水チューブ111の種類と、培養液供給強度を、灌水チューブマスタ707に記録するようにした。そして、農家のハウスに敷設されている灌水チューブ111について、その種別と長さ、そしてその灌水チューブ111がどの吐出弁110に接続されているのか(対応付けられているのか)を、灌水チューブテーブル706に記録した。
【0045】
ここで、養液土耕制御サーバ104の制御データ作成部506は、吐出弁テーブル705の培養液供給能力フィールドに記録されている、吐出弁110の培養液の供給能力と、吐出弁110に対応付けられる一つ以上の灌水チューブ111の種類と長さを用いることによって、一つの吐出弁110によって供給される培養液の供給能力を算出する。そして、供給すべき培養液の量を培養液の供給能力で除算すれば、水供給弁107及び培養液供給弁108の開放時間を算出することができる。
【0046】
すなわち、本実施形態に係る養液土耕制御サーバ104は、ハウスの設備を管理するデータベースシステムでもある。
水耕とは異なり、養液土耕の場合、培養液を土壌に供給しても直ちに水分量やECが変化しない。したがって、吐出弁110をデータベースに登録するだけでは、作物に対する培養液供給量を正しく算出できない。吐出弁110の培養液供給能力と、吐出弁110に対応して接続されている灌水チューブ111と、灌水チューブ111の種別と長さを全てデータベースに登録することで、初めて作物に対する培養液供給量を正しく算出できる。
【0047】
再び
図7に戻って、テーブルの説明を続ける。
日射量培養液量テーブル708は、測位情報フィールド、作物種別フィールド、日付フィールド、時刻フィールド、可能日射量フィールド及び基準培養液量フィールドを有する。
測位情報フィールドには、日射量を測定した位置の緯度経度情報が格納される。
作物種別フィールドは、土壌センサテーブル704の同名フィールドと同じである。
日付フィールドには、日射量を測定した日の日付が格納される。
時刻フィールドには、日射量を測定した日の時刻が格納される。
可能日射量フィールドには、日付フィールドと時刻フィールドにて特定される日時の、可能日射量が格納される。可能日射量とは「ポテンシャル日射量」とも呼ばれる、ある場所の緯度・経度と日時で計算上あり得る筈の、最大の日射量である。
基準培養液量フィールドには、日付フィールドと時刻フィールドにて特定される日時の、可能日射量における培養液の量が格納される。
測位情報リスト709は、日射量培養液量テーブル708の測位情報フィールドの値から、重複分を削除したリストである。
【0048】
日射量培養液量テーブル708は、気象庁等から得られる、一年365日の緯度経度に対応した可能日射量が登録されている。そして、その土地のその日における可能日射量に対応する、ある作物に必要な培養液の量が、基準培養液量フィールドに記録されている。
先ず、コントローラ102に接続されているGPS端末114から得られる測位情報を、測位情報リスト709と突き合わせて、日射量培養液量テーブル708に登録されている最寄りの日射量観測地点を特定する。
次に、特定した測位情報と、RTC404から得られる日時情報によって、日射量培養液量テーブル708のレコードを特定する。
続いて、第一ログテーブル701に記録されている日射量の情報と、日射量培養液量テーブル708の特定したレコードに記録されている可能日射量とを比較して、日射量の比率を算出し、その比率と基準培養液量を乗算する。すなわち、現在の日射量が可能日射量に対してどの程度の割合であるのかを算出し、その割合で基準培養液量を調整する。例えば、可能日射量の50%の日射量であれば、基準培養液量に50%を乗算する。
【0049】
ユーザマスタ507は、ユーザIDフィールド、ユーザ氏名フィールド、パスワードフィールド、連絡先フィールド及び機器IDフィールドを有する。
ユーザIDフィールドには、農業従事者を一意に識別するための識別情報であるユーザIDが格納される。
ユーザ氏名フィールドには、農業従事者の氏名が格納される。
パスワードフィールドには、ユーザIDフィールドに格納されるユーザIDで特定される農業従事者を認証するための、パスワードのハッシュ値が格納される。
連絡先フィールドには、農業従事者の連絡先を示す情報が格納される。
機器IDフィールドには、農業従事者が使用するコントローラの機器IDが格納される。
【0050】
[コントローラ102の動作]
図9は、コントローラ102の動作の流れを示すフローチャートである。
コントローラ102の制御部304が所定の時間に至ったことを識別して、処理を開始すると(S901)、先ず制御部304は養液土耕制御サーバ104と所定の認証を行った後、送信情報作成部301を起動する。送信情報作成部301は、機器ID、土壌センサ番号、測位情報、日射量、土壌水分量、土壌EC、地温のデータをXMLテキストストリームデータに変換する。制御部304は、webクライアント302を通じて、XMLテキストストリームデータを養液土耕制御サーバ104へ送信する(S902)。
【0051】
次に、制御部304は養液土耕制御サーバ104からレスポンスが来るまで待つ(S903のNO)。
養液土耕制御サーバ104からレスポンスが来たら(S903のYES)、次に、制御部304はそのレスポンスに吐出弁番号、水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間のデータが含まれているか否かを確認する(S904)。もし含まれていなければ(S904のNO)、そのまま一連の処理を終了する(S905)。
【0052】
ステップS904において、養液土耕制御サーバ104から受信したレスポンスに吐出弁番号、水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間のデータが含まれていれば(S904のYES)、制御部304は制御信号作成部303を起動する。
制御信号作成部303は、養液土耕制御サーバ104から受信したレスポンスのテキストストリームデータから、吐出弁番号、水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間を取り出して、水供給弁107、培養原液供給弁108、吐出弁110を制御する(S906)。そして、目的のハウスに対する培養液の供給が終了したら、制御部304はwebクライアント302を通じて、機器ID、吐出弁番号、培養液流量を養液土耕制御サーバ104へ送信して(S907)、一連の処理を終了する(S905)。
【0053】
なお、
図9に示した処理は、コントローラ102に接続されている全ての吐出弁110に対して、一つずつ実行される。
図8の場合、第一吐出弁110a、第二吐出弁110b、第三吐出弁110c及び第四吐出弁110dについて、
図9の処理がそれぞれ実行される。
【0054】
[養液土耕制御サーバ104の動作:培養液量及び濃度演算処理]
図10は、養液土耕制御サーバ104の制御データ作成部506による、あるコントローラ102のある吐出弁110に対する、培養液量及び濃度の演算処理の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S1001)、先ず、制御データ作成部506は、制御部505から受け取ったコントローラ102の機器IDを手がかりに、現在、養液土耕制御サーバ104にアクセスしているコントローラ102の、前回培養液量等を演算した時点から現時点までの積算日射量を、第一ログテーブル701の日射量フィールドの値を読み出して、算出する(S1002)。
【0055】
次に制御データ作成部506は、制御部505から受け取ったコントローラ102の機器ID及び吐出弁番号を手がかりに、吐出弁テーブル705と土壌センサテーブル704を参照して、吐出弁110に紐付けられている土壌センサ112を特定し、更にその土壌センサ112に紐付けられている作物種別を特定する(S1003)。
【0056】
次に制御データ作成部506は、第一ログテーブル701からコントローラ102の測位情報を読み出す。そして、測位情報リスト709と突き合わせて、日射量培養液量テーブル708に登録されている最寄りの日射量観測地点を特定する(S1004)。
【0057】
次に制御データ作成部506は、特定した測位情報と、RTC404から得られる日時情報と、特定した作物種別によって、日射量培養液量テーブル708のレコードを特定する。そして、先に算出した積算日射量と、日射量培養液量テーブル708の特定したレコードに記録されている可能日射量とを比較して、日射量の比率を算出する。その後、算出した日射量の比率と基準培養液量を乗算して、現時点の、ある吐出弁110に対する基本培養液供給量を算出する(S1005)。
【0058】
制御データ作成部506は、ステップS1005で基本培養液供給量を算出した後、算出した基本培養液供給量と、コントローラ102の機器ID、吐出弁番号、土壌センサ番号等の、テーブルを参照するに必要な諸情報を、培養液量微調整部602に引き渡す。
先ず、培養液量微調整部602は、機器IDと吐出弁番号を手がかりに、トレンド情報テーブル511を参照して、吐出弁110が培養液を散布する土壌における、土壌水分量傾きを読み取る。次に、機器IDと吐出弁番号を手がかりに、第一ログテーブル701を参照して、吐出弁110が培養液を散布する土壌における基準土壌水分量と、現時点の土壌水分量を読み取る。そして、基準土壌水分量と土壌水分量傾きと、現在の土壌水分量を基に、土壌水分量の補正値を算出する(S1006)。
【0059】
次に、培養液量微調整部602は、機器IDと吐出弁番号を手がかりに、トレンド情報テーブル511を参照して、吐出弁110が培養液を散布する土壌における、土壌EC値の傾きを読み取る。そして、機器IDと吐出弁番号を手がかりに、第一ログテーブル701を参照して、吐出弁110が培養液を供給する土壌における基準土壌ECと、現時点の土壌ECを読み取る。そして、基準土壌ECと土壌ECの傾きと、現在の土壌ECを基に、土壌ECの補正値を算出する(S1007)。
【0060】
次に、培養液量微調整部602は、基本培養液供給量に、土壌水分量の補正値と土壌ECの補正値を加算して、最終的な培養液の量と濃度を算出する。そして、吐出弁テーブル705と灌水チューブテーブル706及び灌水チューブマスタ707を参照して、水供給弁107の開放時間と、培養原液供給弁108の開放時間を算出する(S1008)。
【0061】
最後に、培養液量微調整部602はwebサーバプログラム501を通じて、コントローラ102に水供給弁107の開放時間と培養原液供給弁108の開放時間を送信して(S1009)、一連の処理を終了する(S1010)。
【0062】
図11A及び
図11B、
図12A及び
図12Bは、培養液量微調整部602が土壌水分量を補正する手順を説明するための、模式的なグラフである。なお、基準土壌ECに基づく培養液の濃度を補正する手順もこれと同じなので、培養液の濃度の補正については説明を割愛する。
図11Aは、直近2日分の土壌水分量の一例を示すグラフである。
図11Aに示すように、土壌水分量は日射量等の天候や、作物の生育状況によって変動する。
図11Bは、直近2日分の土壌水分量の一例と、その積分値を示すグラフである。
図11Bに示すように、土壌水分量の変化をスカラ値に変換するために、−2日から−1日までの土壌水分量の積分値と、−1日から今日までの土壌水分量の積分値を算出する。そして、その傾きを土壌水分量傾きとして、トレンド情報テーブル511に記録する。
【0063】
図12Aは、現在の土壌水分量と基準土壌水分量との差と、トレンドによる補正を説明する模式的なグラフである。
今、現在の土壌水分量(点P1201)が、基準土壌水分量に対して不足しているとする。基準土壌水分量から現在の土壌水分量を差し引いた差分を、Δ土壌水分量とする。
水耕栽培の場合、不足したり過剰である水分量をすぐに補正すれば、直ちに水分量が追従する。しかし、養液土耕の場合、いきなりΔ土壌水分量の分だけ水分量を増やしてしまうと、土壌に水分が行き渡らないうちに過剰に水分が供給され、土壌水分量が過多な状態に陥ってしまう。このため、土壌水分量の補正は、2日掛けて補正する、という考え方で、水分量の補正値を決定する。すなわち、明後日の、現在と同じ時刻に、現在の土壌水分量が目標とする基準土壌水分量に到達する(点P1202)ように、少しずつ水分の補給を行う。
図12Bは、
図12Aの一部を拡大した図である。現在の土壌水分量から目標の土壌水分量を導き出す手順を説明する図である。
培養液を供給するタイミングを1時間に一回とすると、一日の培養液供給回数は、日出から日没を例えば朝6時から夕方18時とすると、13回である。2日分なので、Δ土壌水分量を26で割った値が、一回に補正すべき土壌水分量となる(点P1203)。
【0064】
また、土壌水分量を補正するに際し、それまで土壌水分量がどのように推移していたかを考慮する必要がある。そこで、2日前までの土壌水分量の推移を、トレンド情報として予め算出しておく。そして、土壌水分量が増加していた場合は、基準土壌水分量を減じる補正を加える。これがトレンドによるマイナス補正である(点P1204)。逆に、土壌水分量が減少していた場合は、基準土壌水分量を増加する補正を加える。これがトレンドによるプラス補正である(点P1205)。
これらマイナス補正、プラス補正によって、一回に補正すべき土壌水分量も変動する(点P1206及びP1207)。
【0065】
これまで、作物栽培をコンピュータ制御による自動化の一つとして、作物係数という水面蒸発に対する実蒸散の比を基に演算する手法が多かった。作物係数の演算は高度かつ複雑であり、必ずしも作物の蒸散に適合するとはいえなかった。
以上の説明から明らかなように、本実施形態の養液土耕システム101は、作物係数を一切使用していない。測位情報と作物種別と日射量に基いて基本培養液量を算出した後、目標土壌水分量と目標土壌ECに追従するための補正を行うだけである。これらの演算は基本的に四則演算で殆ど実現できる。この、養液土耕制御サーバ104が実行する培養液供給制御は単純な制御なので、培養液の量や濃度が極端に不足したり、或は過剰になる等の、暴走の可能性が極めて低い。作物の種類によっては、培養液が枯渇しない限り、全くハウスの監視をせずに作物を栽培し、収穫することも不可能ではない。
【0066】
[天気予報情報の利用]
以上説明した養液土耕システム101は、日射量追従という基本的な作物栽培技術に、土壌水分量と土壌ECの追従制御を加えることで、安定した養液土耕における作物栽培制御を実現する。しかし、日射量追従は日射量の後追い制御である。日射センサ113のデータに基いて算出される積算日射量は、過去の積算日射量である。したがって、厳密には、日射量が増加する午前では培養液が不足しがちになり、日射量が減少する午後では培養液が過剰気味になる。
日射センサ113から得られる過去の積算日射量だけでなく、将来の積算日射量を考慮して基本培養液量を算出できれば、作物にとって理想に近い培養液の量と濃度を算出することができる。そこで、将来の積算日射量を類推するために、天気予報を用いる。
【0067】
図13は、制御データ作成部506のブロック図である。
図6に示した制御データ作成部506と異なる点は、天気予報テーブル1301が追加されている点である。
養液土耕制御サーバ104は、図示しないwebクライアント302を用いて、例えば1時間毎に天気予報サーバ116から、気象庁や天気予報情報提供会社が提供する、直近1時間の天気予報の情報を取得して、天気予報テーブル1301に書き込む。
【0068】
天気予報テーブル1301は、測位情報フィールド、予想天気フィールド、予想日射量フィールド及び予想気温フィールドを有する。
測位情報フィールドには、天気予報サーバ116が提供する天気予報情報の目標地点が格納される。
予想天気フィールドには、測位情報フィールドに格納される目標地点における、1時間先の予想天気の情報が格納される。
予想日射量フィールドには、測位情報フィールドに格納される目標地点における、1時間先の予想積算日射量の情報が格納される。
予想気温フィールドには、測位情報フィールドに格納される目標地点における、1時間先の予想気温の情報が格納される。
【0069】
図14は、養液土耕制御サーバ104の制御データ作成部506による、あるコントローラ102のある吐出弁110に対する、培養液量及び濃度の演算処理の流れを示すフローチャートである。
図14のフローチャートと
図10のフローチャートとの違いは、ステップS1005に相当するステップS1405において、天気予報から算出される予想積算日射量を考慮して、基本培養液供給量を演算している点と、異常気温であるか否かを判定して(S1408)、異常気温における処理(S1409)を追加している点である。
【0070】
ステップS1405において、制御データ作成部506は、ステップS1404において特定した測位情報と、RTC404から得られる日時情報と、ステップS1403において特定した作物種別によって、日射量培養液量テーブル708のレコードを特定する。
次に制御データ作成部506は、先に算出した積算日射量と、日射量培養液量テーブル708の特定したレコードに記録されている可能積算日射量とを比較して、日射量の比率を算出する。そして、算出した日射量の比率と基準培養液量を乗算して、現時点の、ある吐出弁110に対する第一培養液供給量を算出する。この第一培養液供給量は、1時間前に本来土壌に与えるべきだった培養液の量である。
次に制御データ作成部506は、第二ログテーブル702から直近の培養液流量を取得して、第一培養液供給量との誤差を得る。これ以降、この誤差を培養液供給誤差と呼ぶ。
次に制御データ作成部506は、天気予報テーブル1301から最寄りの地域における1時間先の予想日射量を取得する。そして再度、日射量培養液量テーブル708を参照して、第一培養液量と同様の演算による、1時間先の、ある吐出弁110に対する第二培養液供給量を算出する。この第二培養液供給量に、培養液供給誤差を加算して、最終的な基本培養液供給量を算出する(S1405)。
【0071】
ステップS1407において、土壌ECの補正値を算出した後、培養液量微調整部602は、天気予報テーブル1301を参照して、1時間先の予想気温が異常気温になるか否かを確認する(S1408)。もし、異常な低温或は異常な高温であった場合は(S1408のYES)、異常気温における応急処置を行う(S1409)。
例えば、予想気温が4℃を下回る場合は、土壌中の水分が凍結する可能性が考えられる。このような状況で培養液を与えると、培養液が凍ってしまい、作物を痛める可能性がある。そこで、培養液の供給を止めるために、培養液供給量を強制的に「ゼロ」にする。
逆に、予想気温が30℃を上回る場合は、培養液の浸透ポテンシャルの低さと、作物の根の機能低下が相乗して培養液の吸収が阻害され、これに蒸散の多さが加わり、作物の体内水分が不足する可能性がある。そこで、培養液の濃度を薄めるために、培養液供給量に所定の値を加算する。
【0072】
[基準土壌水分量及び基準土壌ECの変更]
一般的に、作物には生育ステージというものが存在する。生育ステージ毎に、作物が要求する培養液の量と濃度は異なる。また、例えばトマトの場合、培養液の量を多くすると収量が増え、培養液の量を少なくすると収量が少なくなる代わりに、味覚や食感が向上する。
本実施形態の養液土耕システム101は基本的に全て自動で培養液の供給が行われるが、基準土壌水分量及び基準土壌ECを人の手によるマニュアル操作にて変更することで、農業従事者のノウハウを養液土耕システム101に反映させることができる。
【0073】
図15は、GUI処理部504の処理内容を説明するブロック図である。
図16A及び
図16Bは、GUI処理部504が出力する描画情報によってタブレット端末117に表示される操作画面である。
GUI処理部504は、農業従事者が操作するタブレット端末117に、
図16A及び
図16Bに示すような操作画面を表示する。その際、GUI処理部504は制御部505から機器IDと吐出弁番号を受け取り、吐出弁テーブル705と土壌センサテーブル704を参照して、ある吐出弁110に対する基準土壌水分量或は基準土壌ECを、描画情報に含めて出力する。
【0074】
図16Aに示されるように、グラフ状の操作画面において、基準土壌水分量は横棒L1601にて表示される。タブレット端末117の操作者である農業従事者は、タブレット端末117の画面に表示されるこの横棒L1601に触れて、上下に動かす。すると、動いた量に呼応して、基準土壌水分量が変更される。
但し、設定される基準土壌水分量が、閾値範囲リスト512に記述されている土壌水分量下限値或は土壌水分量上限値(L1602)を超えると、アラーム機能として、
図16Bに示すように横棒L1601の色を変更して、異常値であることを操作者に示す。
【0075】
上述の実施形態の他、以下のような応用例が考えられる。
(1)灌水チューブ111は、市場に流通する全ての灌水チューブ111が灌水チューブマスタ707に登録されていることが理想であるが、新製品がすぐにハウスに導入されたり、或は農業従事者が独自に灌水チューブ111を自作した場合、灌水チューブマスタ707には登録されていない灌水チューブ111が存在することとなる。このような例外的な状況に対応するために、灌水チューブテーブル706に培養液供給強度フィールドを設ける。そして、灌水チューブ111が敷設されている現場にて、灌水チューブ111に水を流して、灌水チューブ111の培養液供給強度を直接測定して、灌水チューブテーブル706の培養液供給強度フィールドに登録する。灌水チューブ種別コードには、灌水チューブマスタ707に登録されていないことを示す情報を記入する。このように灌水チューブテーブル706を構成することで、養液土耕制御サーバ104は未登録の灌水チューブ111にも対応でき、正しい水供給弁開放時間及び培養原液供給弁開放時間を算出することができる。
【0076】
(2)天気予報情報を最大限に活用することで、日射センサ113を省略し、予想日射量だけで基本培養液供給量を算出することも可能である。
【0077】
(3)本実施形態の養液土耕システム101に使用する日射センサ113は、さほど高い精度でなくてもよい。例えば小型の安価なフォトトランジスタを利用する他、太陽光パネルで代用できる等、様々なものが利用可能である。
【0078】
(4)土壌センサ112と吐出弁110の関係をより的確にかつ容易に把握するために、ハウスデータベースを設けることが考えられる。
ハウスを「単一種類の作物を栽培する設備」と定義して、このハウスに属する土壌センサ112と吐出弁110をそれぞれ一対多の関係で登録する。
ハウス土壌センサテーブルには、機器IDフィールドと、ハウスの番号を格納するハウス番号フィールドと、作物種別フィールドと、土壌センサ番号フィールドを有する。
ハウス吐出弁テーブルには、機器IDフィールドと、ハウス番号フィールドと、吐出弁番号フィールドを有する。
これらのテーブルを設けることにより、ハウスと、ハウスで栽培される作物の種別と、ハウスに属する土壌センサ112と吐出弁110の関係が明確になる。
【0079】
(5)
図1に示した養液土耕システム101は、高濃度液肥を希釈した単一種類の培養原液を、更に水で希釈して培養液を作る仕様である。作物によっては、単一種類の培養原液では対応できない場合もある。このような作物を単一のコントローラ102で対応するためには、培養原液を複数種類用意すればよい。すなわち、培養原液を作成する系統を、複数、並列に設ける。培養原液供給弁はそれぞれの系統に設ける。
例えば、第一の作物には第一の培養原液を適用し、第二の作物には第二の培養原液を適用する。第一の培養原液は第一の培養原液供給弁で供給し、第二の培養原液は第二の培養原液供給弁で供給する。複数設けられた培養原液供給弁は、コントローラ102を通じて、作物の種類に応じて排他的に制御してもよいし、作物によっては第一の培養原液と第二の培養原液を混合してもよい。このように養液土耕システム101を構成することで、農家は幅広い種類の作物を僅かな設備で対応可能になる。
【0080】
本実施形態で開示した養液土耕システム101は、センサのデータを養液土耕制御サーバ104に送信し、受信したデータに基づいて水供給弁107、培養原液供給弁108及び吐出弁110を制御するコントローラ102と、コントローラ102から受信したセンサのデータに基づいて、水供給弁107、培養原液供給弁108及び吐出弁110の制御量を算出してコントローラ102に返信する養液土耕制御サーバ104よりなる。
【0081】
第一に、本実施形態の養液土耕システム101は、水供給弁107及び培養原液供給弁108と吐出弁110の組み合わせにより、単一の設備で複数種類の作物や作付時期をずらした作物を栽培できる。
第二に、本実施形態の養液土耕システム101は、吐出弁110に接続される灌水チューブ111の種別と長さを養液土耕制御サーバ104に登録しておくことにより、灌水チューブ111の単位時間当りの培養液散布量を正確に把握できる。このことにより、正確な水供給弁107及び培養原液供給弁108と吐出弁110の制御量を算出できる。
【0082】
第三に、本実施形態の養液土耕システム101は、日射追従で基本培養液供給量を定めた後、基準土壌水分量及び基準土壌ECに対する追従制御を加算することで、簡素かつ低負荷の演算処理でありながら、作物の生育状況に柔軟かつ適切に対応する、水供給弁107及び培養原液供給弁108と吐出弁110の制御量を算出できる。
第四に、本実施形態の養液土耕システム101は、基準土壌水分量及び基準土壌ECを農業従事者が任意に変更可能にすることで、農業従事者のノウハウを機械制御のシステムに無理なく導入できると共に、培養液の供給過剰或は供給不足を防止することができる。
【0083】
第五に、本実施形態の養液土耕システム101は、基本培養液供給量の演算処理に天気予報に基づく予想日射量を導入することで、より理想に近い培養液供給量を算出できる。
第六に、本実施形態の養液土耕システム101は、天気予報から異常気温を検出して、異常気温に対する例外処理を導入することで、作物の低温、高温等による障害を軽減することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態例について説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、上記した実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることは可能であり、更にはある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行するためのソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の揮発性或は不揮発性のストレージ、または、ICカード、光ディスク等の記録媒体に保持することができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。