特許第6240840号(P6240840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240840
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】シガトキシン2型群タンパク質精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20171127BHJP
   C07K 14/25 20060101ALN20171127BHJP
   C07K 14/245 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07K1/22ZNA
   !C07K14/25
   !C07K14/245
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-114044(P2013-114044)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-240357(P2014-240357A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-29006(P2013-29006)
(32)【優先日】2013年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-102232(P2013-102232)
(32)【優先日】2013年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(73)【特許権者】
【識別番号】591047970
【氏名又は名称】共立製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】有満 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】谷中 匡
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 HE, X. et al.,"A single-step purification and molecular characterization of functional Shiga toxin 2 variants from pathogenic Escherichia coli.",TOXINS,2012年 6月25日,Vol.4, No.7,pp.487-504
【文献】 GHATGE, M. et al.,"Immunoaffinity purification of glucose/xylose isomerase from Streptomyces.",APPL. BIOCHEM. BIOTECHNOL.,1991年10月,Vol.31, No.1,pp.11-20
【文献】 DANNHORN, D.R. et al.,"Purification of uteroglobin using monospecific antibodies coupled to divinylsulphone-activated agarose.",J. IMMUNOL. METHODS,1989年 5月12日,Vol.119, No.2,pp.223-230
【文献】 LIHME, A. et al.,"Divinylsulphone-activated agarose. Formation of stable and non-leaking affinity matrices by immobilization of immunoglobulins and other proteins.",J. CHROMATOGR.,1986年 4月11日,Vol.376,pp.299-305
【文献】 RYD, M. et al.,"Purification of Shiga toxin by alpha-D-galactose-(1-4)-beta-D-galactose-(1-4)-beta-D-glucose-(1-) receptor ligand-based chromatography.",FEBS LETT.,1989年12月 4日,Vol.258, No.2,pp.320-322
【文献】 LIBERDA, J. et al.,"Affinity chromatography of bull seminal proteins on mannan-Sepharose.",J. CHROMATOGR. B ANALYT. TECHNOL. BIOMED. LIFE SCI.,2002年11月25日,Vol.780, No.2,pp.231-239
【文献】 ARIMITSU, H. et al.,"Large-scale preparation of Shiga toxin 2 in Escherichia coli for toxoid vaccine antigen production.",MICROBIOL. IMMUNOL.,2013年 1月,Vol.57, No.1,pp.38-45
【文献】 ARIMITSU, H. et al.,"Simple method for Shiga toxin 2e purification by affinity chromatography via binding to the divinyl sulphone group.",PLOS ONE,2013年12月10日,Vol.8, No.12,e83577(pp.1-10),doi: 10.1371/journal.pone.0083577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニルスルホン基を有する担体に、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させる手順と、
前記担体に結合又は吸着した前記シガトキシン2型群タンパク質を、高濃度二価金属塩溶液で溶出させる手順と、を含むシガトキシン2型群タンパク質精製方法。
【請求項2】
前記二価金属塩が塩化マグネシウムである請求項記載のシガトキシン2型群タンパク質精製方法。
【請求項3】
前記シガトキシン2型群タンパク質がシガトキシン2eである請求項1又は請求項2記載のシガトキシン2型群タンパク質精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質を精製するシガトキシン2型群タンパク質精製方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌(学名「Escherichia coli」、以下同じ)は、グラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、主に哺乳類・鳥類の消化管内に生息する。大腸菌は、細胞壁由来のO抗原、鞭毛由来のH抗原など、抗原特異性に基づき、多くの血清型に細分類されている。現在、170種類以上のO群血清型が知られている。ほとんどの大腸菌は無害であるが、いくつかの大腸菌は、疾患の原因となっている。
【0003】
腸管出血性大腸菌(EHEC;Enterohemorrhagic Escherichia coli)は、ベロトキシンを産生する大腸菌であり、ヒトの出血性腸炎、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの原因菌である。ヒトでは、患者・保菌者から検出される腸管出血性大腸菌のO群血清型は、主に、O157、O111、026などである。
【0004】
ベロトキシン(VT;Verotoxin)は、腸管出血性大腸菌などが産生し、菌体外へ分泌する毒素タンパク質(外毒素)である。ベロトキシンは、腸管上皮細胞に作用して出血性下痢を引き起こすだけでなく、その一部が全身に移行する。ベロトキシンの体内における細胞表面受容体は、糖脂質の一つであるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)などである。なお、ベロトキシンは、志賀赤痢菌の産生するシガトキシン(Stx;Shigatoxin)との相同性が高いことが分かり、シガトキシンと呼ぶことが国際的に提唱された。
【0005】
シガトキシンは、毒素としての活性を有するAサブユニット(Activeサブユニット)1つと、細胞に対する結合活性を有するBサブユニット(Bindingサブユニット)5つから構成される。シガトキシンはシガトキシン1型とシガトキシン2型に大別される。シガトキシン2型に分類されるシガトキシン(以下、「シガトキシン2型群タンパク質」とする。)として、シガトキシン2(Stx2)の他、シガトキシン2c(Stx2c)、シガトキシン2d(Stx2d)、シガトキシン2e(Stx2e)、シガトキシン2f(Stx2f)などのバリアントが知られている。
【0006】
豚の浮腫病(ED;Edema disease)は、腸管出血性大腸菌による豚の感染症で、離乳後2〜4週の仔豚に好発し、眼瞼浮腫・運動失調・痙攣・麻痺・突然死などの症状を呈する。発生は散発的であるが、発生した場合の致死率が高い。該疾患の主な原因因子はシガトキシン2型のバリアントの一つであるシガトキシン2e(Stx2e)である。Stx2eを産生する腸管出血性大腸菌が主に小腸に定着・増殖し、産生されたStx2eが腸管から吸収されて全身に移行し、循環障害などを引き起こす。なお、起因菌のO群血清型は、主に、O138、O139、O141などである。
【0007】
豚の浮腫病の原因毒素であるStx2eとStx2の間のアミノ酸相同性は、Aサブユニットで94%、Bサブユニットで84%である。また、細胞表面受容体としての機能を有する糖脂質の中で、Stx2eは、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)よりはむしろ、グロボテトラオシルセラミド(Gb4)に対し、高い親和性を示すことが知られている。
【0008】
現在のところ、豚の浮腫病のワクチンなどの実用化には至っていないが、Stx2eを不活化又は弱毒化したトキソイドワクチンの有効性は既に確認されている(非特許文献1〜4参照)。また、Stx2eの精製方法についてもいくつか報告されている(非特許文献5、6参照)。なお、これらの報告によれば、非特許文献5におけるStx2e回収量は6L培養で1.5mg、非特許文献6におけるStx2e回収量は培養液1L当たり0.16mgである。その他、本発明に関連する事項として、非特許文献7には、免疫グロブリンの精製方法として、Thiophilic interaction chromatographyの手法が記載されている。また、非特許文献8はThermo Scientific社製のD-ガラクトースゲル「Immobilized D-Galactose Gel」の取扱説明書、非特許文献9はThermo Scientific社製「Pierce Thiophilic Adsorbent」の取扱説明書、非特許文献10はClontech社製「Thiophilic Resin」の取扱説明書である。
【非特許文献1】Protection of Piglets against Edema Disease by Maternal Immunization with Stx2e Toxoid. Infect. Immun. (2012) 80(1) 469-473.
【非特許文献2】Genetically modified Shiga toxin 2e (Stx2e) producing Escherichia coli is a vaccine candidate for porcine edema disease. Microb Pathog. (2001) 31(1) 1-8.
【非特許文献3】An enzymatic mutant of Shiga-like toxin II variant is a vaccine candidate for edema disease of swine. Infect Immun (1992) 60(2) 485-490.
【非特許文献4】Vaccination with genetically modified Shiga-like toxin IIe prevents edema disease in swine. Infect Immun. (1996) 64(1) 55-60.
【非特許文献5】Purification and characterization of an Escherichia coli Shiga-like toxin II variant. Infect Immun. (1990) 58(5) 1232-1239.
【非特許文献6】One step high yield affinity purification of shiga-like toxin II variants and quantitation using enzyme linked immunosorbent assays. Microb Pathog. (1993) 14(1) 57-66.
【非特許文献7】Thiophilic adsorption - a new method for protein fractionation. FEBS Lett. (1985) 185(2) 306-310.
【非特許文献8】Thermo Scientific「Immbobilized D-Galactose Gel」instructions
【非特許文献9】Thermo Scientific「Pierce Thiophilic Adsorbent」instructions
【非特許文献10】Clontech「Thiophilic Resin」user manual
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、シガトキシン2e(Stx2e)を不活化又は弱毒化したトキソイドワクチンの有効性は既に確認されている。しかし、ワクチン製造のためには、Stx2eを大量精製する必要があるのに対し、現在のところ、Stx2eの精製操作が煩雑で、回収率も低いという課題があり、豚の浮腫病のワクチンの実用化には至っていない。その他、シガトキシン2型群タンパク質を簡易に大量調製できる手段が開発されれば、シガトキシン2型群タンパク質に対するワクチン、毒素の検出・解析などに用いる抗体の作製などにも有用である。
【0010】
そこで、本発明は、比較的簡易な操作でシガトキシン2型群タンパク質を大量に精製する手段を提供すること、豚の浮腫病のワクチンの工業的生産を実現することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、担体の表面上又は担体内に存在するジビニルスルホン基に、シガトキシン2e(Stx2e)が特異的に結合又は吸着すること、及び、その担体に結合又は吸着したStx2eを高濃度二価金属塩溶液で溶出させることができることを新規に見出した。また、Stx2eのBサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギンがジビニルスルホン基との結合に重要な役割を果たしており、その他のシガトキシン2型群タンパク質についても、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸をアスパラギンに置換することにより、同様に結合又は吸着させることが可能であることを新規に見出した。
【0012】
そこで、本発明では、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質を精製するシガトキシン2型群タンパク質精製方法を提供する。
【0013】
例えば、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質をその担体に結合又は吸着させる手順と、その担体に結合又は吸着したそのシガトキシン2型群タンパク質を高濃度二価金属塩溶液で溶出させる手順とを行うことにより、比較的簡易な操作で、大量のシガトキシン2型群タンパク質を分離・濃縮・回収することができる。
【0014】
従って、例えば、野生型でBサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるStx2eの場合、ワクチン製造に必要な量のStx2eを精製することが可能となり、豚の浮腫病のワクチンの工業的生産が可能となる。例えば、本発明方法により野生型のStx2eを大量調製し、それを不活化処理することで、不活化トキソイドワクチンを生産してもよいし、本発明により弱毒変異型Stx2eを大量調製し、弱毒化トキソイドワクチンなどとして生産してもよい。
【0015】
また、野生型でBサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンでないその他のシガトキシン2型群タンパク質についても、例えば、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸をアスパラギンに置換することにより、同様に大量調製することが可能になる。このことは、例えば、シガトキシン2型群タンパク質に対するワクチン、毒素の検出・解析などに用いる抗体の作製などに有効な手段となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、比較的簡易な操作でシガトキシン2型群タンパク質を大量に精製することができる。また、豚の浮腫病のトキソイドワクチンの工業的生産に必要な量のStx2eを調製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<本発明に係るシガトキシン2型群タンパク質精製方法について>
本発明は、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質を精製するシガトキシン2型群タンパク質精製方法をすべて包含する。
【0018】
以下、図1を用いて、本発明の手順の例を説明する。なお、本発明に係るシガトキシン2型群タンパク質精製方法は、少なくとも、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて、前記担体にシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させる手順が少なくとも含まれていればよく、例えば、一部の手順が省略されていること、他の手順を含むこと、一部の手順を行う順序が異なること、一部の又は全手順が繰り返し行われることなどによって、狭く限定されない。
【0019】
図1は、本発明に係るシガトキシン2型群タンパク質精製方法のフローの例を示す図である。図1のフローは、前処理として試料を調製する手順(符号S0)と、担体を平衡化する手順(符号S1)と、担体に試料を供給し、担体にシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させる手順(符号S2)と、担体に結合又は吸着したシガトキシン2型群タンパク質を溶出させ、シガトキシン2型群タンパク質を回収する手順(符号S3)とにより構成されている。
【0020】
前処理として試料を調製する手順(符号S0)では、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質の産生と、精製に供するために必要な調製を行う。
【0021】
例えば、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質を産生する大腸菌株を用いる場合、その菌株を培養し、遠心分離などにより菌体を除去し、その培養上清を回収し、その培養上清を試料として用いることができる。
【0022】
例えば、遺伝子工学的方法により、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質の強制発現大腸菌を作製した場合、その菌を培養して菌体を回収し、ポリミキシンBなどの薬剤処理、超音波処理などによりその菌体を破砕し、遠心分離などにより菌体抽出液を回収し、その菌体抽出液を試料として用いることができる。
【0023】
大腸菌の培養方法は、公知の方法を採用でき、特に限定されない。例えば、培養液として、LB培地、2×YT培地、YM液体培地、Lennox培地、Davis培地、BHI培地、Syncase培地、TG培地、SOC培地、YPD液体培地、YPAD培地、NZY培地、MMI培地、CAYE培地、M9カザミノ酸培地などを用いることができ、サプリメント試薬などを適宜添加して用いてもよい。培養温度を、通常の至適温度、例えば、10〜40℃に設定してもよい。
【0024】
公知の方法、例えば、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質のコード遺伝子を発現ベクターに挿入し、その発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換することにより、シガトキシン2型群タンパク質の強制発現大腸菌を作製できる。シガトキシン2型群タンパク質を発現させるプロモータには、通常用いられるもの、例えば、T7プロモータ、lacプロモータ、trpプロモータ、trcプロモータ、tacプロモータ、λファージのPRプロモータ、PLプロモータ、T5プロモータなど、強力なプロモータを採用できる。ベクターには、通常用いられるもの、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pACYC177、pACYC184、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE30、pKK233-2、pBluescript、pBluescript IIなどを採用できる。また、シガトキシン2型群タンパク質のコード遺伝子の下流に、通常用いられるターミネータ、例えば、T7ターミネータ、fdファージターミネータ、T4ターミネータ、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネータ、大腸菌trpA遺伝子のターミネータなどが連結されていてもよい。その他、エンハンサ、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが連結されていてもよい。なお、選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0025】
本発明において、「Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質」は、野生型でBサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるStx2e、及び、遺伝子工学的方法により、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸をアスパラギンに置換したシガトキシン2型群タンパク質の両者を包含する。Stx2e以外のシガトキシン2型群タンパク質として、例えば、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸をアスパラギンに置換したStx2、同Stx2c、同Stx2d、同Stx2fなどが挙げられる。
【0026】
また、本発明に係るシガトキシン2型群タンパク質は、少なくともBサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるものであればよく、例えば、免疫原性を保持しつつ毒性を低減するために、シガトキシン2型群タンパク質のアミノ酸配列中、Bサブユニットの17位のアミノ酸以外の一部のアミノ酸が置換・欠損・付加などされたものなどについても、本発明に広く包含される。例えば、弱毒変異型のStx2eとして、(1)Aサブユニットのアミノ酸配列中の167位のグルタミン酸をグルタミンなどに変異したもの、(2)Aサブユニットのアミノ酸配列中の167位のグルタミン酸をグルタミンなどに変異し、同170位のアルギニンをロイシンなどに変異したもの、(3)Aサブユニットのアミノ酸配列中の167位のグルタミン酸をグルタミンなどに変異し、同77位のチロシンをセリンなどに変異したもの、などを適用してもよい。Bサブユニットの17位のアミノ酸以外のアミノ酸配列に変異を加えたシガトキシン2型群タンパク質を、強制発現大腸菌を用いて産生する場合、例えば、公知方法で、発現ベクター中に組み込まれた、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアミノ酸がアスパラギンであるシガトキシン2型群タンパク質の遺伝子に変異を加えた後、その発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換することにより、それらの変異型シガトキシン2型群タンパク質を大腸菌で強制発現することができる。
【0027】
シガトキシン2型群タンパク質を産生する大腸菌株の培養上清、又は、シガトキシン2型群タンパク質の強制発現大腸菌の菌体抽出液を回収した後、それらの試料について、適宜、シガトキシン2型群タンパク質の精製に供するために必要な調製を行ってもよい。
【0028】
例えば、試料をシガトキシン2型群タンパク質の精製に供する前に粗精製を行ってもよい。粗精製を行う方法として、公知の方法、例えば、遠心分離などによる夾雑物の除去、膜ろ過による濃縮・フィルタリング、硫酸アンモニウムなどによる塩析などが挙げられる。
【0029】
例えば、精製に供する前に、バッファー交換やバッファーなどによる希釈を行ってもよい。バッファー交換は、分子篩クロマトグラフィーなど、公知の方法で行うことができる。バッファー交換又は希釈に用いるバッファーは、公知のものを用いることができる。また、シガトキシン2型群タンパク質の精製の際に用いる結合バッファーを用いてもよい。
【0030】
本発明では、ジビニルスルホン基を有する担体とシガトキシン2型群タンパク質とを結合又は吸着させるための結合バッファーに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など、通常の緩衝液を用いることができる。本発明に係るStx2e精製方法では、結合バッファー中への、最終濃度0.1〜1.0MのNa2SO4、K2SO4、NaClなどの塩の添加を必要としない。但し、発明者らの経験上の知見では、結合バッファー中に、最終濃度0.1〜1.0MのNaClを添加することにより、担体への不純物の非特異的結合を抑制できる。
【0031】
本発明で用いる担体は、担体の表面上又は担体内にジビニルスルホン基が存在するものであればよい。ジビニルスルホンは、ジビニルスルホン基の二つの官能基にそれぞれ別個の化合物を結合することにより二つの化合物を架橋することができるため、架橋剤として用いられている。例えば、ジビニルスルホン基の二つの官能基のうちの一方に担体の基材を、他方に化合物を、それぞれ結合することにより、ジビニルスルホン基を介して、担体の表面上又は担体内に化合物を固定化することができる。この方法を用いて、例えば、β-メルカプトエタノール、α-ガラクトースなどがジビニルスルホン基を介して固定化された担体が既に開発されており、これらの担体の表面上又は担体内にはジビニルスルホン基が存在する。本発明は、それらの担体を広く採用できる。
【0032】
担体の基材は、ジビニルスルホン基の一方の官能基と結合できるものであればよく、特に限定されない。基材として、例えば、アガロース樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などを採用できる。また、担体は、例えば、ビーズ状に形成されたものなどを広く採用できる。例えば、ビーズ状の担体の場合、バッファーなどによる担体の懸濁と、遠心分離などによる担体又は上清の回収を繰り返すことにより、本発明に係る精製を行うことができる。また、担体をカラムなどに充填して、本発明に係る精製を行ってもよい。
【0033】
担体を平衡化する手順(符号S1)では、平衡化に用いるバッファーを担体に供給し、担体の平衡化を行う。例えば、上記の結合バッファーを平衡化に用いてもよい。供給量は特に限定されないが、充分量を供給することが好ましく、また、複数回バッファーを供給してもよい。
【0034】
担体に試料を供給し、担体にシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させる手順(符号S2)では、平衡化された担体に上記の試料を供給し、担体とシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させ、シガトキシン2型群タンパク質を捕捉する。試料を担体に供給した後、結合バッファーを供給し、非結合物などを除去してもよい。
【0035】
担体に結合又は吸着したシガトキシン2型群タンパク質を溶出させ、溶出させたシガトキシン2型群タンパク質を回収する手順(符号S3)では、担体に溶出バッファーを供給し、シガトキシン2型群タンパク質を担体から溶出させ、シガトキシン2型群タンパク質溶液を回収する。
【0036】
溶出バッファーには、例えば、高濃度二価金属塩溶液を用いる。溶出バッファーは、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など、通常の緩衝液に、二価金属塩を高濃度溶解した溶液であればよい。二価金属塩は塩化マグネシウムであることが好適である。例えば、2.0〜5.0M、より好適には3.0〜5.0M、最も好適には4.0〜5.0Mの塩化マグネシウムを含有するバッファーを用いることができる。高濃度の二価金属塩を溶出バッファーに含有することにより、担体に結合又は吸着したシガトキシン2型群タンパク質を溶出させることができる。
【0037】
以上の手順により、例えば、シガトキシン2型群タンパク質の強制発現大腸菌でシガトキシン2型群タンパク質を産生した場合、1L培養当たり、10〜50mgのシガトキシン2型群タンパク質を回収することが可能である。
【0038】
回収したシガトキシン2型群タンパク質に関し、例えば、透析、バッファー交換などにより塩を除去してもよい。また、目的・用途などに応じ、適宜、化合物の添加、各種処理などを行ってもよい。
【0039】
<本発明に係るトキソイドワクチン製剤について>
本発明により、ワクチン製造に必要な量のStx2eを精製することが可能となり、豚の浮腫病のワクチンの工業的生産が可能となる。従って、本発明は、本発明に係るStx2e精製方法によって精製されたStx2eを少なくとも含有する、豚の浮腫病に対するトキソイドワクチン製剤をすべて包含する。
【0040】
本発明は、野生型Stx2eを100〜20,000mg/L含有する不活化トキソイドワクチン製剤を広く包含する。本発明により、ワクチン製造に必要な量の野生型のStx2eを精製することが可能になる。従って、野生型のStx2eを不活化することにより、Stx2eの免疫原性を保持しつつ毒性を低減できるため、トキソイドワクチンとして、適用可能になる。
【0041】
また、本発明は、弱毒変異型Stx2eを100〜20,000mg/L含有する弱毒化トキソイドワクチン製剤を広く包含する。本発明により、ワクチン製造に必要な量の弱毒変異型のStx2eを精製することが可能になる。従って、弱毒変異型のStx2e又はそれを不活化したものを調製することにより、Stx2eの免疫原性を保持しつつ毒性を低減できるため、トキソイドワクチンとして、適用可能になる。
【0042】
不活化トキソイドワクチン製剤を作製する場合、公知の方法、例えば、Stx2e含有液に対し、物理的処理(紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理など)、化学的処理(ホルマリン・クロロホルムなどによる有機溶媒処理、酢酸などの弱酸による酸処理、アルコール・塩素・水銀などによる処理)などにより、不活化を行うことができる。
【0043】
例えば、Stx2e含有液にホルマリンを0.001〜2.0%、より好適には0.01〜1.0%の容量濃度で添加し、4〜37℃で、1〜10日間感作することにより、ホルマリンによる不活化を行うことができる。例えば、緩衝液などで透析してホルマリンなどの不活化剤を除去したり、中和剤を添加して中和したりしてもよい。また、膜ろ過などによりトキソイドを濃縮・回収してもよい。
【0044】
このワクチン製剤には、公知のアジュバントを添加してもよい。公知のアジュバントとして、例えば、動物油(スクアレンなど)又はそれらの硬化油、植物油(パーム油、ヒマシ油など)又はそれらの硬化油、無水マンニトール・オレイン酸エステル、流動パラフィン、ポリブテン、カプリル酸、オレイン酸、高級脂肪酸エステルなどを含む油性アジュバント、PCPP、サポニン、グルコン酸マンガン、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸マンガン、可溶性酢酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウム、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸コポリマー、アルケニル誘導体ポリマー、水中油型エマルジョン、第四級アンモニウム塩を含有するカチオン脂質などの水溶性アジュバント、水酸化アルミニウム(ミョウバン)、水酸化ナトリウムなどの沈降性アジュバント、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素などの微生物由来毒素成分、その他、ベントナイト、ムラミルジペプチド誘導体、インターロイキンなどが挙げられる。また、これらを混合したものでもよい。
【0045】
このワクチン製剤には、目的・用途などに応じて、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜添加してもよい。
【0046】
緩衝剤の好適な例として、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液などを用いることができる。
【0047】
等張化剤の好適な例として、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどを用いることができる。
【0048】
無痛化剤の好適な例として、例えば、ベンジルアルコールなどを用いることができる。
【0049】
防腐を目的とした薬剤の好適な例として、例えば、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、その他、各種防腐剤、抗生物質、合成抗菌剤などを用いることができる。
【0050】
抗酸化剤の好適な例として、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用いることができる。
【0051】
その他、このワクチン製剤には、補助成分、例えば、保存・効能の助剤となる光吸収色素(リボフラビン、アデニン、アデノシンなど)、安定化のためのキレート剤・還元剤(ビタミンC、クエン酸など)、炭水化物(ソルビトール、ラクトース、マンニトール、デンプン、シュークロース、グルコース、デキストランなど)、カゼイン消化物、各種ビタミンなどを含有させてもよい。
【0052】
ワクチン製剤の剤型などについては、公知のものを採用でき、特に限定されない。例えば、液体製剤として用いてもよいし、経口投与用に、凍結乾燥などの処置の後、餌などに混入させてもよい。
【0053】
その他、このワクチン製剤は、他の疾患に対する一又は複数のワクチンとの混合ワクチン製剤であってもよい。
【0054】
このワクチン製剤は、豚の浮腫病の予防に適用可能である。
【0055】
この豚の浮腫病に対するワクチン製剤は、液剤を皮下・皮内・筋肉注射などにより投与してもよいし、餌などに混入させて経口投与してもよい。例えば、皮下・皮内・筋肉注射などでは、一回当たり、10〜500μg、経口投与では、一回当たり、50〜2,000μg投与する。投与回数は、特に限定されないが、1回又は1週間〜3カ月間隔で数回が好適である。また、1年に1回以上の投与が好適である。
【実施例1】
【0056】
実施例1では、Stx2e発現大腸菌を作製・培養し、その菌体抽出液を調製した。
【0057】
Stx2e遺伝子全長を増幅するプライマーを設計した。Stx2e遺伝子の5’側プライマーのAサブユニット遺伝子の上流には、毒素原性大腸菌が産生する易熱性毒素(LT)のBサブユニットの翻訳に関わるリボソーム結合配列(SD配列)を付加した。
【0058】
設計プライマーを用いて、豚浮腫病由来株である腸管出血性大腸菌220811A78株(血清型:O139)から抽出した遺伝子を鋳型として、PCRにより、Stx2eのコードDNAを増幅した。プラスミドベクター「pBluescript II SK(+)」(アジレントテクノロジーズ社製)のlacZα遺伝子内に、PCR増幅産物をlacZαと異なる読み枠で挿入した。この作製プラスミドを「pBSK-Stx2e」とした。
【0059】
pBSK-Stx2eで大腸菌MV1184株(タカラバイオ株式会社製)を形質転換し、その形質転換体を、アンピシリン含有LB培地3mL中で、37℃、一晩培養した後、アンピシリン及びリンコマイシン塩酸塩を含むCAYE培地1Lにこの培養液を接種し、30℃、48時間振盪培養を行った。なお、CAYE培地の組成は以下の通りである。2%カザミノ酸、0.6%酵母エキス、0.25%塩化ナトリウム、0.871%リン酸水素二カリウム、0.1%Trace salt溶液(5%MgSO4、0.5%MnCl2、0.5%FeCl3)、0.25%グルコース。
【0060】
遠心分離により、その1L培養液から菌体を回収した。リン酸緩衝生理食塩液(pH7.4、以下「PBS」とする。)に最終濃度0.5MのNaClを添加したバッファー(以下「PB-0.5MNaCl」とする。)でその菌体を懸濁し、浮遊液を調製した。この浮遊液中の菌体を超音波破砕し、遠心分離によりその上清を回収した後、0.8/0.2μmのシリンジフィルターでろ過し、Stx2eを含有する菌体抽出液100mLを得た。
【実施例2】
【0061】
実施例2では、実施例1で得た菌体抽出液から、D-ガラクトースゲルを用いてStx2eの精製を試みた。
【0062】
担体として、D-ガラクトースゲル(商品名「Immobilized D-Galactose Gel」、Thermo Scientific社製)を準備した。この製品は、ビーズ状のアガロースゲルにジビニルスルホン基を介してD-ガラクトースが固定化されたもので、レクチン、コレラ毒素など、ガラクトースに結合活性を有する物質を精製するための担体として市販されている(非特許文献8参照)。
【0063】
この充填カラムをPB-0.5MNaClで平衡化した後、実施例1で得た菌体抽出液100mLを添加し、PB-0.5MNaClで充分洗浄して不純物を洗い流した。次に、4.5MのMgCl2を含むPBSを溶出液として、担体に結合したStx2eを2mL/fractionで回収した。
【0064】
回収した各フラクション溶液のうち5μLを0.25mLのQuick Start Bradford Dye Reagent(Bio-Rad社製)と5分間反応させた後、OD595nm値を測定し、対照の溶出液よりも吸光度の高いフラクションを集めた。
【0065】
集めたフラクション溶液について、MgCl2を除去する目的でPBSに透析した後、遠心分離操作を行い、わずかに生じた不溶物を除去した。そして、最終的に得られたタンパク質について、「DC Protein Assay Reagent」(Bio-Rad社)を用いて、ウシ血清アルブミンをスタンダードとして定量した。その結果、1L培養当たりのStx2e収量は41.2mgであった。
【0066】
透析を行った後の試料について、SDS-PAGEを行った。
【0067】
結果を図2に示す。図2は、D-ガラクトースゲルを用いて回収したStx2e精製物のSDS-PAGE電気泳動写真である。図2中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1はD-ガラクトースゲルを用いて回収したStx2e精製物を供した場合の結果を、それぞれ表わす。
【0068】
図2に示す通り、Stx2eのAサブユニット及びBサブユニットの位置に明瞭なバンドが検出され、また、他のバンドは検出されなかった。この結果より、担体としてThermo Scientific社製のD-ガラクトースゲルを用いた場合、Stx2eを大量かつ高純度に精製できることが分かった。
【実施例3】
【0069】
実施例3では、他社製のガラクトース固定化樹脂を用いてStx2eの結合を検討した。
【0070】
担体として、実施例2で用いたThermo Scientific社製のD-ガラクトースゲル(陽性対照)、EY-Laboratories社製のα-ガラクトース固定化樹脂、及び、同β-ガラクトース固定化樹脂を用いた。それぞれ、実施例1で得た菌体抽出液50μLと担体25μLとを混合した後、PB-0.5MNaClで担体を洗浄し、SDS-PAGEサンプルバッファーを25μL添加して5分間加熱処理し、10μLをSDS-PAGEに供した。また、同じ試料について、一次抗体に抗Stx2eウサギ血清を用いてウエスタンブロットを行った。
【0071】
結果を図3A及び図3Bに示す。図3Aは実施例1の菌体抽出液と各ガラクトース担体とを混合した場合における担体吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真、図3Bは同ウエスタンブロット写真である。両図中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1はD-ガラクトースゲルを用いた場合の結果(陽性対照)を、レーン2はα-ガラクトース固定化樹脂を用いた場合の結果を、レーン3はβ-ガラクトース固定化樹脂を用いた場合の結果を、それぞれ表わす。図3A中のレーン4は担体と混合する前の試料(実施例1で得た菌体抽出液)を供した場合の結果(Input)を、図3B中のレーン4は精製Stx2eを供した場合の結果を、それぞれ表わす。
【0072】
図3A及び図3Bに示す通り、回収したフラクション溶液について、SDS-PAGEを行った結果、α-ガラクトース固定化樹脂を用いた場合、Stx2eのAサブユニット及びBサブユニットの位置にCBB-R250レベルで薄いバンドが検出され、ウエスタンブロットレベルでは明瞭なバンドが認められた。一方、β-ガラクトース固定化樹脂を用いた場合、Stx2eのバンドはウエスタンブロットレベルでも検出されなかった。
【0073】
実施例2及び本実施例の結果は、Stx2eがα-ガラクトースに少量は結合又は吸着することを示すとともに、実施例2のD-ガラクトースゲルでは、Stx2eの大部分がα-ガラクトース以外の部位、即ち、ジビニルスルホン基の部位に結合又は吸着したことを示唆する。
【実施例4】
【0074】
実施例4では、ジビニルスルホン基を有する他の担体を用いて、Stx2eの精製を試みた。
【0075】
担体として、「Pierce Thiophilic Adsorbent」(Thermo Scientific社製)を準備した。この製品は、TAR(Thiophilic Adsorbent Resin)担体の製品であり、ビーズ状のアガロース樹脂にジビニルスルホン基を介してβ-メルカプトエタノールが固定化されている。主に免疫グロブリンを精製するための担体として市販されている(非特許文献9、10参照)。
【0076】
TAR充填カラムをそれぞれPB-0.5MNaClで平衡化した後、実施例1で得た菌体抽出液100mLをそれぞれ添加し、PB-0.5MNaClで充分洗浄して不純物を洗い流した。次に、4.5MのMgCl2を含むPBSを溶出液として、TARに結合したStx2eをそれぞれ2mL/fractionで回収した。
【0077】
回収した各フラクション溶液のうち5μLを0.25mLのQuick Start Bradford Dye Reagent(Bio-Rad社製)と5分間反応させた後にOD595nm値を測定し、対照の溶出液よりも吸光度の高いフラクションを集めた。
【0078】
集めたフラクション溶液について、MgCl2を除去する目的でPBSに透析した後、遠心分離操作を行い、わずかに生じた不溶物を除去した。そして、最終的に得られたタンパク質について、実施例2と同様の手順で定量した。その結果、1L培養当たりの収量は44.9mgであった。
【0079】
透析を行った後の試料について、SDS-PAGEを行った。
【0080】
結果を図4に示す。図4は、TARを用いて回収したStx2e精製物のSDS-PAGE電気泳動写真である。図4中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1はTARを用いて回収したStx2e精製物を泳動した結果を、それぞれ表わす。
【0081】
図4に示す通り、担体にTARを用いた場合も、実施例2と同様、Stx2eのAサブユニット及びBサブユニットの位置に明瞭なバンドが検出された。
【0082】
実施例2及び本実施例の結果は、担体の表面上又は担体内に存在するジビニルスルホン基に、Stx2eが大量かつ特異的に結合又は吸着すること、及び、その担体に結合又は吸着したStx2eを高濃度二価金属塩溶液で溶出させることができること、即ち、ジビニルスルホン基を有する担体を用いることにより、Stx2eを大量かつ特異的に精製できることを示す。
【0083】
なお、D-ガラクトースゲルを用いた場合(実施例2、図2参照)と比較して、図4において非特異のバンドが複数認められた理由は、D-ガラクトースゲルを用いた場合、実施例3で示した通り、Stx2eがジビニルスルホン基の他にα-ガラクトースにも少量結合又は吸着し、特異性が向上したこと、及び、TARを用いた場合、菌体由来タンパク質の一部がβ-メルカプトエタノールに非特異的に結合又は吸着したことによると推測する。
【0084】
その他、用いた各充填カラムの取扱説明書(非特許文献9、10)では、0.5M程度のNa2SO4又はK2SO4を含むリン酸緩衝液条件下で目的蛋白を結合させ、溶出時にNa2SO4又はK2SO4の濃度を下げて結合蛋白を回収するとされている。それに対し、本実施例では、MgCl2を含まない緩衝液でStx2eを結合させ、4.5MのMgCl2を含むPBSで溶出し、Stx2eを回収している。即ち、本実施例では、結合時にMgCl2を添加せず、溶出時にMgCl2の濃度を上げ、Stx2e精製を行っている。このことは、Stx2e精製の原理が、これらの充填カラムで想定するタンパク質精製の原理とは全く異なるものであることを示す。
【0085】
また、本実施例では、結合バッファーとして0.5MNaClを添加したものを用いている。しかし、本発明者らの検討では、結合バッファーにNaClを添加しない場合でも、上記と添加した場合と同様に、Stx2eを大量かつ特異的に精製できた。このことは、NaClの添加が、担体へのStx2eの結合又は吸着には関与しないことを示す。
【0086】
付記的事項として、充填カラムの取扱説明書(非特許文献9)には、このカラムが高濃度のNaClの存在により結合を起こさないことが記載されている。本実施例において0.5MNaClを添加した理由は、本発明者らの経験に基づき、担体への不純物の非特異的結合を抑制するためである。
【実施例5】
【0087】
実施例5では、弱毒変異型のStx2e発現大腸菌を作製・培養し、その菌体抽出液から弱毒変異型のStx2eの精製を試みた。
【0088】
実施例1で作製したpBSK-Stx2eを鋳型にし、「Quikchange II Site-directed mutagenesis kit」(アジレントテクノロジーズ社)を用いて、Aサブユニットのアミノ酸配列中の167位のグルタミン酸をグルタミンに置換し、同170位のアルギニンをロイシンに置換した変異体(以下「E167Q+R170L」とする。)を発現するプラスミドを作製した。
【0089】
実施例1と同様の方法で、各プラスミドで大腸菌MV1184株(タカラバイオ株式会社製)を形質転換し、大腸菌を培養し、その1L培養液から菌体を回収して、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eを含有する菌体抽出液を得た。
【0090】
実施例2と同様の手順で、D-ガラクトースゲル充填カラムを用いて、この菌体抽出液からE167Q+R170L弱毒変異型Stx2eを回収した。MgCl2を除去する目的でPBSに透析し、遠心分離操作を行い、わずかに生じた不溶物を除去した。そして、最終的に得られたタンパク質について、実施例2などと同様の手順で定量した。その結果、1L培養当たりの収量は30.6mgであった。
【実施例6】
【0091】
実施例6では、実施例2で精製したStx2e、及び、実施例5で精製したE167Q+R170L弱毒変異型Stx2eのVero細胞に対する毒性を調べた。
【0092】
Vero細胞に各Stx2eを各濃度添加し、50%細胞傷害濃度(50% Cytotoxic dose;CD50)を調べた。その結果、野生型のStx2eでは1.7pg/mLであったのに対し、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでは6.9μg/mLであった。
【実施例7】
【0093】
実施例7では、マウスへの致死活性を調べた。
【0094】
野生型のStx2e、及び、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eを、それぞれ、マウスへ腹腔内接種し、50%致死量(50% Lethal dose;LD50)を調べた。
【0095】
その結果、野生型のStx2eではLD50が50ngであったのに対し、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでは100μgを接種した場合にも死亡例が見られなかった。
【実施例8】
【0096】
実施例8では、実施例5で精製したE167Q+R170L弱毒変異型Stx2eに、ワクチンとしての効果があるかどうか、検証した。
【0097】
マウス(ICR系、実験開始時6週齢、雌)10匹に、それぞれ、実施例5で精製したE167Q+R170L弱毒変異型Stx2eを、3週間間隔で2回、背部皮下に接種し、免疫した。また、対照として、同様のマウス5匹に、それぞれ、アジュバント(0.05%水酸化アルミニウム)のみを、同様に3週間間隔で2回、背部皮下に接種した。
【0098】
2回目の接種の2週間後に各マウスから採血し、抗体価を測定した。図5は、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでマウスに免疫した際の抗体価を示すグラフである。図5中、「Adjuvant x2」は対照としてアジュバントを2回接種した場合の結果であることを、「mStx2e 1μgx2」は精製したE167Q+R170L弱毒変異型Stx2e 1μgを2回接種した場合の結果であることを、それぞれ表し、縦軸(Stx2e specific IgG titer)は抗体価を表す。図5に示す通り、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2e 1μgを2回接種した場合、高い抗体価を示した。
【0099】
そこで、2回目の接種の3週間後、各免疫マウスを5匹ずつ2群に分け、各群のマウスに、攻撃毒素として、実施例2と同様の方法で精製したStx2eを、それぞれ、1μg、10μgずつ腹腔内投与し、経過を観察した。また、対照群のマウスには、同様に、それぞれ、Stx2eを1μg腹腔内投与し、経過を観察した。なお、攻撃毒素Stx2e 1μgは、LD50値の約20倍量に相当する。
【0100】
図6は、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでマウスに免疫した後、攻撃毒素Stx2eを投与した場合の生存率を示すグラフである。図6中、横軸は攻撃毒素を投与してからの日数(単位:Day)を、縦軸は生存率(Percent survival、単位:%)を、それぞれ表し、丸印の折れ線は免疫マウスに攻撃毒素Stx2eを1μg投与した場合の経過日数時における生存率を、三角印の折れ線は同10μg投与した場合の経過日数時における生存率を、×印の折れ線は対照群マウスに攻撃毒素Stx2eを1μg投与した場合の経過日数時における生存率を、それぞれ表す。
【0101】
図6に示す通り、免疫マウスに攻撃毒素Stx2eを1μg又は10μg投与した場合、1週間後も全マウスが生存したのに対し、対照群マウスでは、攻撃毒素投与の5日後には全マウスが死亡した。また、免疫マウスでは、攻撃毒素を投与した後、いずれの個体においても、特段の症状は観察されなかった。
【0102】
この結果は、例えば、弱毒変異を加えたStx2eを、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて精製することにより、ワクチン製造に充分な量のワクチン用抗原タンパク質を簡易かつ有効に精製できることを示す。
【実施例9】
【0103】
実施例9では、Stx2eにおけるジビニルスルホン基への結合領域の絞り込みを試みた。
【0104】
上述の通り、シガトキシン2型群タンパク質にはStx2とその数種のバリアントが存在し、いずれも、1つのAサブユニットと5つのBサブユニットで構成されている。そのうち、Stx2とStx2eは、アミノ酸配列において、Aサブユニットで94%、Bサブユニットで84%の相同性を有する。一方、本発明者らの独自の実験により、ジビニルスルホン基を有する担体は、Stx2eとは結合するが、Stx2とは結合しないことが分かった。そこで、AサブユニットとBサブユニットの組み合わせを置換したStx2とStx2eのキメラ毒素を発現させ、Stx2eにおけるジビニルスルホン基への結合領域の絞り込みを試みた。
【0105】
図7は、Stx2とStx2eとのキメラ毒素を発現させるために用いた遺伝子配列について、各サブユニットのコード配列の位置及び組み合わせを示した模式図である。図7中、「Stx2e」は野生型のStx2eの遺伝子配列を示し、順に、Stx2eのAサブユニットとStx2eのBサブユニットの各遺伝子が塩基配列上にコードされていることを示す。図7中、「Stx2A2eB」はStx2とStx2eのキメラ毒素の遺伝子配列を示し、順に、Stx2のAサブユニットとStx2eのBサブユニットの各遺伝子が塩基配列上にコードされていることを示す。図7中、「Stx2」は野生型のStx2の遺伝子配列を示し、順に、Stx2のAサブユニットとStx2のBサブユニットの各遺伝子が塩基配列上にコードされていることを示す。図7中、「Stx2eA2B」はStx2とStx2eの別の組み合わせのキメラ毒素の遺伝子配列を示し、順に、Stx2eのAサブユニットとStx2のBサブユニットの各遺伝子が塩基配列上にコードされていることを示す。
【0106】
実施例1と同様の方法で、図7に示す4種類の遺伝子配列をプラスミドベクターに挿入して、大腸菌を形質転換し、菌体抽出液を得た。実施例3と同様の手順で、各菌体抽出液とTAR担体とを混合し、洗浄・加熱などの処理を行った後、SDS-PAGEに供した。また、各菌体抽出液について、一次抗体に実施例3と同様の抗Stx2eウサギ血清、又は、抗Stx2ウサギ血清を用いてウエスタンブロットを行った。
【0107】
結果を図8に示す。図8は、Stx2とStx2eのキメラ毒素を大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真である。図8中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1は、野生型のStx2e(図7中の「Stx2e」と示された遺伝子配列の組み合わせ)を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン2は、図7中の「Stx2A2eB」と示された遺伝子配列の組み合わせの変異タンパク質を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン3は、野生型のStx2(図7中の「Stx2」と示された遺伝子配列の組み合わせ)を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン4は、図7中の「Stx2eA2B」と示された遺伝子配列の組み合わせの変異タンパク質を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、それぞれ表す。なお、図8中、電気泳動写真の下側の写真は、各レーンに各菌体抽出液を供した場合のウエスタンブロット写真のうち、Bサブユニットの位置を抜き出したものであり、各菌体抽出液中に各タンパク質が発現していたことを示す。レーン1及びレーン2では一次抗体に実施例3と同様の抗Stx2eウサギ血清を、レーン3及びレーン4では一次抗体に抗Stx2ウサギ血清を、それぞれ用いた。
【0108】
図8に示す通り、各毒素についてSDS-PAGEを行った結果、レーン1及びレーン2では、それぞれ、Aサブユニット及びBサブユニットの位置に明瞭なバンドが検出されたのに対し、レーン3及びレーン4では、バンドが検出されなかった。
【0109】
図7に示す通り、レーン1及びレーン2の発現タンパク質は、BサブユニットがStx2eのBサブユニットで共通しており、レーン3及びレーン4の発現タンパク質は、BサブユニットがStx2のBサブユニットで共通している。従って、この結果は、Stx2eにおけるジビニルスルホン基への結合領域が、Stx2eのBサブユニット内に存在することを示す。
【実施例10】
【0110】
実施例10では、実施例9の結果に基づき、Stx2eにおけるジビニルスルホン基への結合領域の特定を試みた。
【0111】
図9は、本実施例において採用したStx2eとStx2の各Bサブユニットのアミノ酸配列を示す。図9中、「Stx2eB」は本実施例において採用したStx2eのBサブユニットのアミノ酸配列を、「Stx2B」は同Stx2のBサブユニットのアミノ酸配列を、それぞれ表す。図9において、Stx2eとStx2のアミノ酸配列は、Bサブユニット中、17位、24位、26位、31位、66位、69位、70位などで相違する(69位及び70位はStx2のみ)。なお、配列表中、配列番号1は本実施例において採用したStx2eのBサブユニットのアミノ酸配列を、配列番号2は同Stx2のBサブユニットのアミノ酸配列を、それぞれ表わす。
【0112】
そこで、実施例1で作製したStx2eを発現するプラスミドについて、上記の各位置のアミノ酸がStx2の同じ位置のアミノ酸に置換されたものを発現するように塩基配列に変異を加え、実施例1と同様の方法で、そのプラスミドベクターで大腸菌を形質転換し、菌体抽出液を得た。実施例3などと同様の手順で、各菌体抽出液とTAR担体とを混合し、洗浄・加熱などの処理を行った後、SDS-PAGEに供した。また、各菌体抽出液について、一次抗体に実施例3などと同様の抗Stx2eウサギ血清を用いてウエスタンブロットを行った。
【0113】
同様に、実施例9で作製したStx2を発現するプラスミドについて、上記の各位置のアミノ酸がStx2eの同じ位置のアミノ酸に置換されたものを発現するように塩基配列に変異を加え、実施例1と同様の方法で、そのプラスミドベクターで大腸菌を形質転換し、菌体抽出液を得た。実施例3などと同様の手順で、各菌体抽出液とTAR担体とを混合し、洗浄・加熱などの処理を行った後、SDS-PAGEに供した。また、各菌体抽出液について、一次抗体に実施例9と同様の抗Stx2ウサギ血清を用いてウエスタンブロットを行った。
【0114】
結果を図10及び図11に示す。
【0115】
図10は、所定位置のアミノ酸を置換した変異Stx2eを大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真である。図10中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1は、野生型のStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン2は、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギンをアスパラギン酸に変異させたStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン3は、同24位のセリンをアスパラギン酸に変異させたStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン4は、同26位のアルギニンをリシンに変異させたStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン5は、同31位のアスパラギンをセリンに変異させたStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン6は、同66位のリシンをグルタミンに変異させたStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン7は、Bサブユニットのアミノ酸配列中の末端に69位のアスパラギンと70位のアスパラギン酸を付加したStx2eを発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、それぞれ表わす。
【0116】
図11は、所定位置のアミノ酸を置換した変異Stx2を大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真である。図11中、レーンMは分子量マーカーを、レーン1は、野生型のStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン2は、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギン酸をアスパラギンに変異させたStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン3は、同24位のアスパラギン酸をセリンに変異させたStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン4は、同26位のリシンをアルギニンに変異させたStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン5は、同31位のセリンをアスパラギンに変異させたStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン6は、同66位のグルタミンをリシンに変異させたStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、レーン7は、Bサブユニットのアミノ酸配列中の末端の69位のアスパラギンと70位のアスパラギン酸を削除したStx2を発現させた場合のTAR吸着物を泳動した結果を、それぞれ表わす。
【0117】
なお、図10及び図11中、電気泳動写真の下側の写真は、各レーンに各菌体抽出液を供した場合のウエスタンブロット写真のうち、Bサブユニットの位置を抜き出したものであり、各菌体抽出液中に各タンパク質が発現していたことを示す。
【0118】
図10に示す通り、各変異Stx2eについてSDS-PAGEを行った結果、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギンをアスパラギン酸に変異させたStx2eを発現させた場合(レーン2)、それぞれ、Aサブユニット及びBサブユニットの位置のバンドが他のレーンと比較して不明瞭になった。また、図11に示す通り、各変異Stx2についてSDS-PAGEを行った結果、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギン酸をアスパラギンに変異させたStx2を発現させた場合(レーン2)、他のレーンよりも明瞭なバンドが検出された。
【0119】
これらの結果は、Stx2eのジビニルスルホン基への結合に、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位のアスパラギンが重要な役割を果たしていることを示す。
【0120】
また、本結果は、Stx2を含むStx2e以外のシガトキシン2型群タンパク質についても、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位をアスパラギンに変異させることにより、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて大量精製することが可能であること、即ち、例えば、Bサブユニットのアミノ酸配列中の17位をアスパラギンに変異したシガトキシン2型群タンパク質を人為的に大量発現させた後、ジビニルスルホン基を有する担体を用いて大量精製することにより、そのシガトキシン2型群タンパク質を簡易かつ大量に調製することが可能であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0121】
図1】本発明に係るシガトキシン2型群タンパク質精製方法のフローの例を示す図。
図2】実施例2において、D-ガラクトースゲルを用いて回収したStx2e精製物のSDS-PAGE電気泳動写真。
図3A】実施例3において、実施例1の菌体抽出液と各ガラクトース担体とを混合した場合における樹脂吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真。
図3B】実施例3において、実施例1の菌体抽出液と各ガラクトース担体とを混合した場合における樹脂吸着物のウエスタンブロット写真。
図4】実施例4において、TARを用いて回収したStx2e精製物のSDS-PAGE電気泳動写真。
図5】実施例8において、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでマウスに免疫した際の抗体価を示すグラフ。
図6】実施例8において、E167Q+R170L弱毒変異型Stx2eでマウスに免疫した後、攻撃毒素Stx2eを投与した場合の生存率を示すグラフ。
図7】実施例9において、Stx2とStx2eとのキメラ毒素を発現させるために用いた遺伝子配列について、各サブユニットのコード配列の位置及び組み合わせを示した模式図。
図8】実施例9において、Stx2とStx2eのキメラ毒素を大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真。
図9】実施例10において、該実施例において採用したStx2eとStx2の各Bサブユニットのアミノ酸配列を示す図。
図10】実施例10において、所定位置のアミノ酸を置換した変異Stx2eを大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真。
図11】実施例10において、所定位置のアミノ酸を置換した変異Stx2を大腸菌の形質転換により発現させた際におけるそのTAR吸着物のSDS-PAGE電気泳動写真。
【符号の説明】
【0122】
S0 前処理として試料を調製する手順
S1 担体を平衡化する手順
S2 担体に試料を供給し、担体にシガトキシン2型群タンパク質を結合又は吸着させる手順
S3 担体に結合又は吸着したシガトキシン2型群タンパク質を溶出させ、回収する手順
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]