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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6240848
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】修飾キチンナノファイバー
(51)【国際特許分類】
   A61Q 17/04 20060101AFI20171127BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20171127BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20171127BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20171127BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20171127BHJP
【FI】
   A61Q17/04
   B32B5/02 A
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   B82Y5/00
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-170275(P2013-170275)
(22)【出願日】2013年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-58661(P2014-58661A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-184265(P2012-184265)
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】伊福 伸介
(72)【発明者】
【氏名】斎本 博之
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036283(WO,A1)
【文献】 特開2000−281703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収基で修飾したキチンナノファイバーを含む、UV吸収あるいはカット用化粧品であって、紫外線吸収基がフタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である化粧品
【請求項2】
紫外線吸収基がブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、請求項1記載の化粧品
【請求項3】
紫外線吸収基で修飾したキチンナノファイバーを含む、UV吸収あるいはカット用コーティング剤であって、紫外線吸収基がフタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体であるコーティング剤
【請求項4】
紫外線吸収基がブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、請求項3記載のコーティング剤
【請求項5】
請求項3または4記載のコーティング剤を基材に適用することを含む、UV吸収あるいはカット用フィルムの製造方法
【請求項6】
紫外線吸収基で修飾したキチンナノファイバーを添加することを含む、UV吸収あるいはカット能を有するコンポジットの製造方法であって、紫外線吸収基がフタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である方法
【請求項7】
紫外線吸収基がブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、請求項6記載の方法
【請求項8】
疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを含むコーティング剤を基剤に適用することを含む、補強されたフィルムの製造方法であって、疎水性基がマレイル基、フタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である方法
【請求項9】
疎水性基がマレイル基、ブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、請求項8記載の方法
【請求項10】
疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを添加することを含む、補強されたコンポジットの製造方法であって、疎水性基がマレイル基、フタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である方法
【請求項11】
疎水性基がマレイル基、ブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、請求項10記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性基で修飾されたキチンナノファイバー、それを含む化粧品、コーティング剤、コンポジット等に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの作用効果を有する化粧品が開発され、販売されている。とりわけ、シミ、ソバカス、シワの抑制、あるいは皮膚癌予防を謳った化粧品の種類は多く、その大部分は紫外線カットあるいは吸収効果を有するものである。しかし、これらの化粧品に添加されている紫外線カットあるいは吸収効果を有する物質は有害なものもあり、効果も万全であるとはいえない。
【0003】
塗料やコーティング剤についても、紫外線による分解、変色等の劣化から基材を保護する効果が求められる場合が多い。
【0004】
これらの理由により、紫外線を効率よく吸収あるいはカットする物質であって、化粧品やコーティング剤に応用できる物質の検索が続けられている。
【0005】
本発明者らは、豊富なバイオマス資源として、エビ、カニ等の甲殻類や昆虫に多く含まれるキチンに着目し、細くて均質で極めて長いキチンナノファイバーを得ることに成功した(特許文献1参照)。本発明者らにより得られたキチンナノファイバーは、保水性がよく、強度が高くしかも柔軟性に富むという、塗料や化粧品への応用に適した特性を有していた(特許文献1、特許文献2参照)。しかし、キチンナノファイバーは紫外線吸収機能がなく、水への分散性には優れているが有機溶媒には分散し難いという特徴を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2010/073758
【特許文献2】国際公開WO2012/036283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紫外線を効率よく吸収あるいはカットし、有機溶媒にも均一に分散するキチンナノファイバーを開発すること、ならびにそれらの用途を見出すことが本発明の解決課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、疎水性基で修飾されたキチンナノファイバー、特に、紫外線吸収基で修飾されたキチンナノファイバーを得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記のものを提供する。
(1)疎水性基で修飾したキチンナノファイバー。
(2)疎水性基がマレイル基、フタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である(1)記載のキチンナノファイバー。
(3)疎水性基がマレイル基、ブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、(1)または(2)記載のキチンナノファイバー。
(4)キチンナノファイバーが下記方法:
キチン含有生物由来の材料を、少なくとも1回の脱蛋白工程および少なくとも1回の
脱灰工程に付し、次いで、解繊工程に付すことを特徴とする方法
により製造されたものである、(1)〜(3)のいずれかに記載のキチンナノファイバー。
(5)疎水性基が紫外線吸収基である、(1)〜(4)のいずれかに記載のキチンナノファイバー。
(6)紫外線吸収基がフタロイル基、ナフタロイル基、あるいはそれらの修飾体である(5)記載のキチンナノファイバー。
(7)紫外線吸収基がブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基ならびにこれらの基の修飾体からなる群より選択される基である、(5)または(6)記載のキチンナノファイバー。
(8)(5)〜(7)のいずれかに記載のキチンナノファイバーを含む化粧品。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載のキチンナノファイバーを含むコーティング剤。
(10)(9)記載のコーティング剤を基材に適用して得られるフィルム。
(11)(1)〜(7)のいずれかに記載のキチンナノファイバーを含む補強されたコンポジット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紫外線吸収能および有機溶媒への分散能に優れた修飾キチンナノファイバーが得られる。該修飾キチンナノファイバーを含む化粧品やコーティング剤も得られる。該修飾キチンナノファイバーを含む化粧品は紫外線をよく吸収し、美白効果、シミ、ソバカス、シワの抑制効果、皮膚癌の予防効果等に優れている。該修飾キチンナノファイバーを含むコーティング剤は紫外線をよく吸収し、基材表面の保護、強化効果も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1の左パネルは国際公開WO2010/073758に記載の方法に従ってカニ殻から得られたキチンナノファイバー(キチンNF)の電子顕微鏡写真、右パネルは本発明のフタロイル化キチンナノファイバーの電子顕微鏡写真である。フタロイル化してもナノファイバー(NF)の形状が維持されていることがわかる。
図2図2は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーの紫外線吸収効果を示す図である。実線はフタロイル化キチンナノファイバー、破線は脱アセチル化キチンナノファイバーの透過率を示す。横軸は光の波長(nm)、縦軸は透過率%である。フタロイル化キチンナノファイバーが紫外線吸収をよく吸収することがわかる。
図3図3は本発明のマレイル化キチンナノファイバーおよびナフタロイル化キチンナノファイバーの元素分析結果を示す図である。
図4図4は本発明のマレイル化キチンナノファイバーのFT−IR分析の結果を示す図である。
図5図5は本発明のナフタロイル化キチンナノファイバーのFT−IR分析の結果を示す図である。
図6図6は本発明のナフタロイル化キチンナノファイバーの紫外線吸収効果を示す図である。太線はナフタロイル化キチンナノファイバー、細線は脱アセチル化キチンナノファイバーの透過率を示す。横軸は光の波長(nm)、縦軸は透過率%である。フタロイル化キチンナノファイバーが紫外線吸収をよく吸収することがわかる。
図7図7は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーの有機溶媒への分散性を示す図である。
図8図8は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーの芳香族系溶媒に対する挙動を示す図である。
図9図9は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーおよび原料であるキチンの広角X線散乱プロファイルである。それぞれの結晶化度を散乱強度より求めた。
図10図10は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーを溶剤に分散した後に、基材に塗布して得られるフィルムの紫外線吸収効果を示す図である。縦軸はフィルムの透過率(%)を示す。横軸は光の波長(nm)である。フタロイル化キチンナノファイバーのフィルムについても紫外線をよく吸収することが分かる。
図11図11は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーで補強したポリスチレンの3点曲げ試験の結果を示す図である。
図12図11は本発明のフタロイル化キチンナノファイバーで補強したポリスチレンの線熱膨張率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において使用する用語は、本発明が属する分野の当業者によって認識され理解されている意味に解される。
【0013】
本発明は、1の態様において、疎水性基で修飾したキチンナノファイバーに関するものである。キチンナノファイバーを疎水性基で修飾することにより、有機溶媒への分散性を高めることができ、キチンナノファイバーの新たな利用が期待できる。
【0014】
本発明において、疎水性基はいずれの種類のものであってもよく、キチンナノファイバーの用途、必要な物性等に応じて選択されうる。典型的な疎水性基を例示すると、マレイル基、フタロイル基、ナフタロイル基など、ならびにそれらの誘導体や修飾体等が挙げられる。これらの疎水性基の具体例としては、マレイル基、ブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2―ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基等ならびにこれらの基の修飾体が挙げられるがこれらに限らない。
【0015】
上記の基の修飾体とは、上記の基が1個またはそれ以上の置換基により置換されている基をいい、置換基の非限定的な例としてはハロゲン、OH、NO、NH、COOH、SOH、SH、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、フェニル基、アリール基、アシル基、ニトロ基、スルホ基、エーテル基などが挙げられ、これらの基がさらに置換されていてもよい。
【0016】
疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを化粧品やコーティング剤に適用する場合、それが紫外線カット(または吸収)効果を有することは化粧品やコーティング剤の付加価値を高めるので、極めて重要なことである。そのためには、疎水性基が紫外線吸収能を有するものであることが好ましい。フタロイル基、ナフタロイル基など、およびそれらの誘導体や修飾体等のベンゼン環を有する疎水性基は紫外線吸収能が高く、有機溶媒、とりわけ芳香族系の有機溶媒への分散性に優れているので、好ましい。疎水性基であって紫外線吸収能が高い基の例としては、ブロモフタロイル基、クロロフタロイル基、3−ニトロフタロイル基、4−ニトロフタロイル基、4−トリフルオロメチルフタロイル基、4−(N−(2−エトキシフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−(N−(2−メトキシ−5−ニトロフェニル)カルバモイル)フタロイル基、4−ブロモ−1,8−ナフタロイル基、4−tert−ブチルフタロイル基、1−シクロヘキセン、4−エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、メチルフタロイル基、1,2−ナフタロイル基、4−フェニルエチニルフタロイル基、テトラブロモフタロイル基、テトラクロロフタロイル基、テトラフルオロフタロイル基、フタロイル基、4−ターシャリブチルフタロイル基、ジクロロフタロイル基、エチニルフタロイル基、フルオロフタロイル基、ニトロフタロイル基、スルホナフタロイル基等ならびにこれらの基の修飾体が例示されるが、これらに限らない。
【0017】
上記の基の修飾体とは、上記の基が1個またはそれ以上の置換基により置換されている基をいい、置換基の非限定的な例としてはハロゲン、OH、NO、NH、COOH、SOH、SH、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、フェニル基、アリール基、アシル基、ニトロ基、スルホ基、エーテル基などが挙げられ、これらの基がさらに置換されていてもよい。
【0018】
疎水性基でのキチンナノファイバーの修飾は、当業者に公知の方法にて行うことができる。キチンナノファイバーの構造は堅固であり、通常は、疎水性基はファイバー表面に導入される。キチンナノファイバーの修飾は、キチン糖鎖のいずれかの水酸基あるいはN−アセチル基あるいはアミノ基において行われうる。修飾方法は当業者に公知である。
【0019】
疎水性基での修飾は、キチンナノファイバーを構成するキチンのN−アセチル基に疎水性基を結合させる、あるいは当該N−アセチル基を疎水性基にて置換することにより行ってもよい。また、キチンナノファイバーに脱アセチル化処理を施すことによって得られるアミノ基に対して修飾してもよい。また、キチンの水酸基に疎水性基を結合させる、あるいは当該水酸基を疎水性基にて置換することにより修飾を行ってもよい。修飾に用いる疎水性基は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。上記のような疎水性基に加えて、疎水性基以外の基によりキチンナノファイバーが修飾されていてもよい。例えば、本発明で得られた修飾キチンナノファイバーを化粧品に用いる場合には、水性溶媒に対する分散性を増加させるために、キチンのN−アセチル基の一部をフタロイル基などの疎水性基で置換してもよく、あるいは疎水性基と親水性基でN−アセチル基を置換してもよい。このような部分的あるいは選択的置換は、当業者に公知の保護基の導入などの手法により行われうる。
【0020】
キチンの糖鎖骨格の修飾位置、修飾に用いる疎水性基や他の基の選択、修飾の程度の調節は、当業者が適宜決定し、行いうることである。例えば、キチンナノファイバーをフタロイル基で修飾する場合には、キチンナノファイバーをグラインダー等にて解繊し、NaOH等のアルカリ試薬にてN−アセチル基を脱アセチル化してアミノ基に変換し、水系にて無水フタル酸を添加して還流することによりフタロイル基をアミノ基に導入して、フタロイル化キチンナノファイバーを得ることができる(S. Ifuku et al., Carbohydrate Polymer, 2010, 81, 134-139、S. Ifuku, T. Miwa et al., Green Chemistry, 2011, 13, 1499-1502)。
【0021】
紫外線吸収能を有する疎水性基だけでなく、紫外線吸収能を有する基でキチンナノファイバーを修飾してもよい。紫外線吸収能を有する基としては上述のフタロイル基、ナフタロイル基、およびそれらの誘導体などが挙げられる。とりわけ、紫外線吸収能を有する親水性基は、水性の製品、例えば紫外線カット用ローションなどの化粧水への添加に適している。紫外線球収能を有する親水性基としてはヒドロキシフタロイル基、3−ヒドロキシ−1,8−ナフタロイル基、トリメリチル基などが挙げられる。
【0022】
本発明に用いるキチンナノファイバーはいずれの方法・手段にて製造されたものであってもよい。本発明のキチンナノファイバーは天然界から、例えばキチン含有生物由来の材料から得ることができる。キチン含有生物としては、エビ、カニなどの甲殻類、昆虫類またはオキアミなどが例示されるが、これらに限定されない。好ましくは、キチン含量の多い生物、例えばエビ、カニなどの甲殻類の殻および外皮から本発明のキチンナノファイバーを得てもよい。
【0023】
本発明に用いる好ましいキチンナノファイバーは、幅(または径)が比較的揃っており、通常は、幅(または径)が約2nm〜約200nm、好ましくは約2nm〜約100nm、より好ましくは約2nm〜約50nm、例えば、約5nm〜約20nmである。好ましくは、その繊維は伸びきり鎖微結晶である。本明細書において、例えば、「キチンナノファイバーの幅(または径)は約2nm〜約20nm」とは、電子顕微鏡観察にて観察した場合に、幅(または径)が約2nm〜約20nmであるファイバーが全体の約50%以上、好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上を占める状態をいう。
【0024】
上記のようなキチンナノファイバーは、保水性がよく、溶媒への分散性も均一であり優れている。本発明において特に好ましいキチンナノファイバーは、国際公開WO2010/073758(参照により本明細書に一体化させる)に記載された方法により得られたものである。すなわち、キチン含有生物由来の材料を、少なくとも1回の脱蛋白工程および少なくとも1回の脱灰工程に付し、次いで、解繊工程に付すことを特徴とする方法により得られたキチンナノファイバーである。国際公開WO2010/073758に記載されたキチンナノファイバーの製造方法につき、以下に説明する。
【0025】
脱蛋白により、キチンナノファイバーを囲んでマトリックスを形成している蛋白が除去
される。脱蛋白処理には、アルカリ処理法、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素法な
どがあるが、アルカリ処理法が好適である。アルカリ処理による脱蛋白において、水酸化
カリウム、水酸化ナトリウム、などのアルカリの水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約2〜約10%(w/v)、好ましくは約3〜約7%(w/v)、例えば約5%(w/v)である。アルカリ処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約80℃以上、好ましくは約90℃以上、さらに好ましくはアルカリ水溶液を還流しながら行う。処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は数時間〜約3日間、好ましくは数時間〜約2日間行ってもよい。
【0026】
脱灰により、キチンナノファイバーを囲んでいる灰分、主に炭酸カルシウムが除去され
る。脱灰処理には、酸処理法、エチレンジアミン4酢酸処理法などがあるが、酸処理法が
好適である。酸処理による脱灰において、塩酸の酸の水溶液が好ましく用いられ、その濃
度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選
択されうるが、通常は約4〜約12%(w/v)、好ましくは約5〜約10%(w/v)
である。酸処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物
の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約10〜約50℃、好ましくは約
20〜約30℃、例えば室温であってもよい。酸処理による脱灰時間も、キチン含有生物
由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は
数時間〜数日間、好ましくは約1〜約3日、例えば2日間行ってもよい。
【0027】
次いで、上記工程で得られたキチンを解繊処理し、目的のキチンナノファイバーを得る。キチンナノファイバーは乾燥すると水素結合して強固に凝集するため、本発明のキチンナノファイバーの製造方法の各工程を、材料を常に乾燥させずに行うことが好ましい。酸の添加により解繊処理には、石臼式摩砕器、湿式微粒化装置、高圧ホモジナイザー、凍結粉砕装置などの装置を用いることができ、好ましくは石臼式磨砕機、湿式微粒化装置などによりグラインダー処理を行う。石臼式磨砕機などのような、より強い負荷をかけることができる装置を用いれば、カニやエビなどの殻由来のアルファキチンでも速やかに解繊することができる。
【0028】
上記のキチンナノファイバーの製造方法において、必要ならば、あるいは所望により、
脱色工程を行ってもよい。脱色工程は、上記方法のいずれの段階において行ってもよいが
、好ましくは、脱蛋白および脱灰処理が終わった後に行う。脱色はいずれの方法で行って
もよいが、アルコール等の有機溶剤による抽出、塩素系漂白剤や酸素系漂白剤、還元系漂
白剤の使用が好ましく、例えば、酢酸緩衝液などの緩衝液中約1〜約2%の次亜塩素酸ナ
トリウムを用いて、約70〜約90℃で数時間行ってもよい。
【0029】
さらに、脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、解繊工程および以下に説明する酸性試
薬での処理を効率よく行うために、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程は、上記方法のい
ずれの段階において行ってもよいが、好ましくは、解繊工程の直前に行う。粉砕工程はい
ずれの方法で行ってもよいが、ホモジナイザー処理やミキサー処理などの方法が好ましく
、例えば、家庭用フードプロセッサーにより行ってもよい。
【0030】
上記の脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、粉砕工程などの工程は、繰り返し、複数
回、あるいは交互に行ってもよい。また、それぞれの行程は順序を問わない。
【0031】
さらに、必要ならば、あるいは所望により、脱灰処理されたキチン含有材料を酸性試薬
にて処理することにより、キチンナノファイバーの水分散性を向上させてもよい。酸性試
薬にて処理を行うことによって、解繊工程で得られるキチンナノファイバー繊維が細く均
一なものとなるので、キチンナノファイバーの水分散性が向上する。繊維が細くなり、水
分散性が向上すると、皮膚に塗布した場合に形成される膜が均一なものとなり、保湿効果
などの有利な効果が発揮される。酸性試薬はキチン繊維表面に正の電荷を生じさせるため
、強固に凝集したキチン繊維を効率的にほぐすために都合がよい。よって、酸性試薬を用
いることにより、上記の脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程を行った後、乾燥して得ら
れるキチン凝集体も容易に解すことが可能である。酸性試薬での処理方法は特に限定され
ず、材料に酸性試薬を浸透させる方法であればよい。酸性試薬での処理は、典型的には酸
の水溶液に脱灰処理されたキチン含有材料を浸漬することにより行うことができる。この
工程では、水分散性の向上のみならず、キチンナノファイバーの繊維の幅(または径)の
ばらつきを抑えることもできる。この工程に使用できる酸はいずれの酸であってもよく特
に限定されないが、弱酸が好ましい。弱酸としては、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、フルオロ
酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、クエン酸、マロン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸などが挙げられるがこれらに限らない。この工程に使用される好ましい弱酸は酢酸、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸である。この工程において弱酸の水溶液のpHを通常は約2〜約5、好ましくは約2.5〜約4.5、例えば、約3〜約4に調節する。この工程の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約10〜約50℃、好ましくは約20〜約30℃、例えば、室温であってもよい。この工程の処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は1時間〜約1日、好ましくは約3〜約12時間、例えば、一晩であってもよい。この酸による処理工程は、解繊工程の前であればいずれの段階で行ってもよいが、脱蛋白および脱灰の後、キチンナノファイバーの精製がある程度進んだ段階で行うことが好ましく、例えば、解繊工程の直前に行ってもよい。
【0032】
上記製造方法により得ることのできるキチンナノファイバーは、細くて均質であり、し
かも極めて長く、繊維が伸びきり鎖結晶である。上記製造方法により得られるキチンナノ
ファイバーの幅(または径)は比較的揃っており、通常は、幅(または径)が約2nm〜
約200nm、好ましくは約2nm〜約100nm、より好ましくは約2nm〜約50n
m、例えば、約5nm〜約20nmである。上記製造方法により得ることのできるキチンナノファイバーは、保水性がよく、溶媒への分散性も均一であり、強度も十分であるので、化粧品やコーティング剤への応用に適している。上記製造方法により得ることのできるキチンナノファイバーを疎水性基で修飾した場合にも、上記繊維幅(または径)はほとんど変わらない。
【0033】
本発明は、さらなる態様において、疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを含有する化粧品に関するものである。かかる修飾キチンナノファイバーを化粧品等に用いた場合には、その好ましい性質、例えば、媒体への分散性が優れていること、皮膚や肌へよく馴染むこと、保湿性が高いこと、抗菌性があること、生体適合性があることなどにより、様々な好ましい効果がもたらされる。これらの効果としては、皮膚や肌、頭皮あるいは毛髪が潤う、肌にハリが出る、弾力が増す、つややかになる、しなやかになる、清潔に保たれる、ダメージから保護される、老化が防止される等が挙げられるが、これらの効果に限定されない。これらの効果は、WO2010/073758に記載された方法により得られたキチンナノファイバーを用いた場合に増強される。
【0034】
紫外線吸収能を有する基で修飾した本発明のキチンナノファイバーを化粧品等に添加して、紫外線カット(吸収)能を化粧品等に付与することができる。従前より、紫外線カット(吸収)能を有する化粧品が数多く出回っているが、使用されている紫外線カット(吸収)物質には有害なものもあり、効果も万全であるとはいえない。本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーは天然由来物質であるため、安全性が高い。とりわけ紫外線吸収基で修飾されたキチンナノファイバーを含有する本発明の化粧品は、上記効用だけでなく、紫外線カット(吸収)効果に基づくシミ、ソバカス、シワの抑制、日焼けおよびそれに伴う熱傷の予防、あるいは皮膚癌予防などの効果を有するものであり、極めて有用である。
【0035】
本発明の化粧品は、様々な種類、形態のものを包含する。本発明の化粧品は、皮膚に有害でない水性担体(例えば、水、エタノール、グリセロール、これらの混合物などが挙げられるが、特に限定されない)またはエマルジョンなどの公知の担体に適量の修飾キチンナノファイバーを配合し、分散させたものであってもよい。あるいは本発明の化粧品は、マイクロカプセル、リポソームなどに封入された修飾キチンナノファイバーを含むものであってもよい。また本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバー、とりわけ紫外線吸収基で修飾されたキチンナノファイバーは、軟膏やクリームなどの油性の化粧品への添加にも好ましいものといえる。
【0036】
本発明の化粧品への修飾キチンナノファイバーの配合量は、化粧品の形状、適用部位、その他の使用態様に応じて適宜決定されうる。本発明の化粧品への修飾キチンナノファイバーの配合量は、一般的には0.1〜5%、例えば0.2%〜3%程度とするのが一般的であるが、これらの配合量に限定されない。
【0037】
本発明の化粧品には、他の公知の化粧品成分、例えば、アルコール類、抗酸化剤、抗炎症剤、保湿剤、美白剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、皮膚活性化剤、防腐剤、香料、着色料、収れん剤、界面活性剤、増粘剤、抗菌剤、乳化剤、pH調整剤、洗浄剤、柔軟剤などの成分を適宜配合してもよい。
【0038】
本発明の化粧品は、皮膚に適用するものであってもよく、頭皮や毛髪に適用するものであってもよい。したがって、本発明の化粧品の形態は、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ゲル、シャンプー、リンス、粉末、スプレイなどであってもよく、特に制限はない。これらの形態の製造は、当該分野において公知の方法にて行うことができる。
【0039】
本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーは、有機溶媒に対する馴染みが良い(分散性が高い)ので、塗料をはじめとするコーティング剤などへの用途がある。したがって、本発明は、さらなる態様において、疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを含有するコーティング剤に関するものである。キチンナノファイバー、特にWO2010/073758に記載の方法により得られたキチンナノファイバーは結晶性が高いので高強度、高弾性、低熱膨張であり、エレクトロスピニング法によって得られるような他のナノファイバーを上回る優れた物性を有している。このような特徴は、塗料などのコーティング剤に配合した場合に有用である。
【0040】
一般に、コーティング剤は、樹脂、添加剤および溶剤を混合することにより製造される。塗料の場合は、通常、顔料を添加する。コーティング剤や塗料の製造方法は当業者に公知である。かかる製造方法に用いられる樹脂、添加剤、溶剤、顔料も当業者によく知られており、コーティング剤や塗料の用途や必要とされる物性等に応じて適宜選択して用いられる。本発明のコーティング剤は、公知のコーティング剤の製造過程において、あるいは最終製品に上記の修飾キチンナノファイバーを添加することにより得ることができる。
【0041】
加えて、紫外線吸収能を有する基で修飾した本発明のキチンナノファイバーをコーティング剤に添加して、紫外線カット(吸収)能をコーティング剤に付与することできる。コーティングを施すべき基材のなかには紫外線に感受性のものがある。紫外線吸収基で修飾したキチンナノファイバーを含有するコーティング剤は、塗膜の強度が十分でしかも柔軟性に富むという利点のほかに、紫外線による基材の損傷(分解、変色など)を防止する効果も有しているので、極めて有用である。
【0042】
本発明のコーティング剤中の修飾キチンナノファイバーの配合量は、一般的には0.1〜10%、例えば0.2%〜5%程度とするのが一般的であるが、これらの配合量に限定されない。また、分散したキチンナノファイバーは透明度が高いので、透明度の高いコーティング剤を得ることができる。
【0043】
本発明のコーティング剤の形状は特に限定されず、例えば、液状、スプレイ、半固形、シールなどの形状とすることができる。本発明のコーティング剤をポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの基材に適用(塗布、噴霧など)してフィルムを製造してもよい。
【0044】
本発明のコーティング剤は、あらゆる基材に適用可能であり、例えば、プラスチック等の樹脂類、繊維、木材、ガラス、金属などに適用してもよい。具体例としては、日よけ、テント、日傘、自動車のボディー、窓材、メガネレンズ、建材、外壁、看板、農業用フィルム等に適用してもよい。
【0045】
本発明は、さらなる態様において、本発明の本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを含む補強されたコンポジット、ならびに本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバー添加することを特徴とする、補強されたコンポジットの製造方法を提供する。コンポジットとは複合材料を意味する。コンポジットとしては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリビニル、ポリウレタン、フェノール樹脂等の高分子材料や合成樹脂、木材、植物繊維、樹液、ゴム、布、不織布、紙、カーボン、キチン、キトサン、多糖類材料などに本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを混合したコンポジットが例示されるが、これらに限らない。また、コンポジットの形状も必要に応じて様々なものにすることができることは言うまでもない。
【0046】
本発明の本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーは、スチレンなどの疎水性のコンポジット原料モノマーとのなじみが良く、疎水的な条件下で均一に分散するので、特に様々な形状の高分子コンポジットを容易に製造することができる。
【0047】
また、本発明のキチンナノファイバーが紫外線吸収能を有する疎水性基を有するキチンナノファイバーである場合には、コンポジットに紫外線吸収能を付与することができる。
【0048】
キチンナノファイバーは強度がありしかも柔軟性に富むので、上記コンポジットは補強されたものとなる。例えば、モノマーと本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーを混合し、混合物に重合開始剤を添加して重合させることにより補強された高分子コンポジットを製造することができる。高分子コンポジットを製造する場合は、本発明の疎水性基で修飾したキチンナノファイバーの添加量は、所望のコンポジットの物性に応じて変化させることができ、典型的にはコンポジットに対して約0.01w/v%〜10w/v%、好ましくは約0.1w/v%〜約1w/v%である。
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であって、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0050】
実施例1. フタロイル化キチンナノファイバーの製造
国際公開WO2010/073758に記載の方法に従ってカニ殻からキチンナノファイバーを得た。得られたキチンナノファイバーの繊維は細く、長く、均質であり、繊維幅は平均20nmであった(図1の左パネル)。得られたキチンナノファイバーをグラインダーで解繊し、20% NaOH中で6時間還流して部分的脱アセチル化を行って、脱アセチル化キチンを得た。部分的脱アセチル化はYimin Fan et al., Carbohydrate Polymers, 2010, 79, 1046-1051.に記載の方法を修正して行った。得られた表面脱アセチル化キチンを無水フタル酸とともに24時間還流してフタロイル化キチンナノファイバーを得た。フタロイル化はS. Ifuku, T. Miwa et al., Green Chemistry, 2011, 13, 1499-1502に記載の方法によった。収率は46%であった。キチンナノファイバーの表面に存在するアミノ基はほぼ全てがフタロイル基に変換されていることが元素分析によるCとN元素の存在比およびFT−IRスペクトル法によって確かめられた。得られたフタロイル化キチンナノファイバーは、もとのキチンナノファイバーの形状を維持しており、繊維は細く、長く、均質であり、繊維幅は平均21nmであった(図1の右パネル)。
【実施例2】
【0051】
実施例2. フタロイル化キチンナノファイバーの紫外線および可視光線の透過率
実施例1で得られたフタロイル化キチンナノファイバーをDMSO中に0.1(w/v)%となるよう分散させ、分散液の紫外線および可視光線の透過率を測定した。比較のため、実施例1に記載の脱アセチル化キチンの分散液を用いて同様の測定を行った。結果を図2に示す。脱アセチル化キチンは可視光線および紫外線をよく透過するのに対し、フタロイル化キチンナノファイバーは、可視光線はよく透過するが、UVA領域の紫外線のうち波長約340nm以下のものは透過性が低く、UV−B領域の紫外線は殆ど透過せず、UV−C領域の紫外線は透過しないことがわかった。
【0052】
このように、フタロイル化キチンナノファイバーは、わずか0.1%の濃度で、人体に悪影響を及ぼす紫外線、すなわちUV−B(315−280nm)およびUV−C(280nm未満)をほぼ100%カットすることがわかった。日焼けやシミ・シワ、皮膚癌の原因、ならびにプラスチックをはじめとする様々な素材の劣化の原因となる有害な紫外線領域は280〜315nm(UV−B)であるため、フタロイル化キチンナノファイバーはUVカット機能を付与した化粧品やコーティング剤あるいはコンポジットにおける使用に好適である。
【実施例3】
【0053】
実施例3. マレイル化キチンナノファイバーおよびナフタロイル化キチンナノファイバーの製造
実施例1に記載の方法に従って脱アセチル化キチンナノファイバーを得た。Ifuku, T. Miwa et al. Green Chemistry, 2011, 13, 1499-1502に記載された方法に準じて、無水マレイン酸を脱アセチル化キチンナノファイバーと反応させてマレイル化キチンナノファイバーを合成した。また、無水1,8−ナフタル酸を脱アセチル化キチンナノファイバーと反応させてナフタロイル化キチンナノファイバーを合成した。
【0054】
得られたマレイル化キチンナノファイバーおよびナフタロイル化キチンナノファイバーを元素分析(図3)およびFT−IR分析(図4図5)に供した。キチンナノファイバーの表面に存在するアミノ基はほぼ全てがマレイル基およびナフタロイル基に変換されていることが元素分析によるCとN元素の存在比およびFT−IRスペクトル法によって確かめられた。得られたマレイル化キチンナノファイバーおよびナフタロイル化キチンナノファイバーは、もとのキチンナノファイバーの形状を維持しており、繊維は細く、長く、均質であり、繊維幅は平均10nmであった。
【0055】
マレイル化はキチンナノファイバーの疎水性向上の効果が期待される。また、マレイル基は二重結合を持つため、重合反応によって他の重合性モノマーと共に重合することが可能である。したがって、高分子コンポジットの補強にマレイル化はキチンナノファイバーを用いた場合、マレイル基が他の重合性モノマーと共に重合することにより、重合物とナノファイバーとの界面における結合が強固になるため、高分子コンポジットの効率的な補強が可能になると考えられる。
【実施例4】
【0056】
実施例4. ナフタロイル化キチンナノファイバーの紫外線および可視光線の透過率
実施例3で得られたナフタロイル化キチンナノファイバーをDMSO中に0.1(w/v)%となるよう分散させ、分散液の紫外線および可視光線の透過率を測定した。比較のため、実施例2に記載の脱アセチル化キチンの水懸濁液を用いて同様の測定を行った。結果を図6に示す。脱アセチル化キチンは可視光線および紫外線をよく透過するのに対し、ナフタロイル化キチンナノファイバーは、可視光線はよく透過するが、紫外線は透過性が低く、UV−A領域の紫外線の大部分は透過せず、UV−BおよびUV−C領域の紫外線は全く透過しないことがわかった。
【0057】
このように、ナフタロイル化キチンナノファイバーは、わずか0.1%の濃度で、人体に悪影響を及ぼす紫外線、すなわちUV−B(315−280nm)およびUV−C(280nm未満)を100%カットすることがわかった。日焼けやシミ・シワ、皮膚癌の原因、ならびにプラスチックをはじめとする様々な素材の劣化の原因となる有害な紫外線領域は280〜315nm(UV−B)であるため、ナフタロイル化キチンナノファイバーはUVカット機能を付与した化粧品やコーティング剤あるいはコンポジットにおける使用に好適である。
【実施例5】
【0058】
実施例5. フタロイル化キチンナノファイバーの有機溶媒への分散性
実施例1で得られたフタロイル化キチンナノファイバーを、常温にて各種有機溶媒中に0.1(w/v)%となるよう添加して、分散の様子を観察した。使用した有機溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ピリジン、N−メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、メタノールであり、比較のために水についても調べた。結果を図7に示す。従来のキチンナノファイバーは水中に均一分散するが、上記の代表的な有機溶剤には分散せずに沈殿を生じた。一方でフタロイル化キチンナノファイバーはDMSOに均一に分散し、透明な液が得られた。DMF、DMA、ピリジン、NMPおよびTHFに対しては膨潤し、均一に分散してやや白濁した液を生じた。メタノールおよび水には分散あるいは膨潤せず、白色沈殿を生じた。このように、フタロイル化キチンナノファイバーは、その表面が疎水性であるため、水やメタノール以外の多くの種類の有機溶媒に対して均一に分散することができる。
【0059】
実施例1で得られたフタロイル化キチンナノファイバーの芳香族系溶媒に対する挙動についても調べた。用いた溶媒はベンゼン、トルエンおよびキシレンであった。フタロイル化キチンナノファイバーを各溶媒中に0.1(w/v)%となるよう添加して、加熱および冷却して分散の様子を観察した。結果を図8に示す。フタロイル化キチンナノファイバーはベンゼン、トルエンおよびベンゼンに対して比較的高い温度では均一に分散し、透明な液が得られたが、18〜25℃以下においては分散あるいは膨潤せず白色沈殿を生じた。このように、フタロイル化キチンナノファイバーはベンゼンやトルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族系有機溶剤との相性が良く、均一に分散することが出来る。また、興味深いことにこのナノファイバーはこれらの溶媒中にて一定の温度において沈殿と均一分散の相転移を生じることがわかった。
【表1】
相転移温度は示差走査熱量計によって評価した。
【実施例6】
【0060】
実施例6. フタロイル化キチンナノファイバーの結晶構造の解析
実施例1で得られたフタロイル化キチンナノファイバーおよび原料であるキチンの広角X線散乱プロファイルとその散乱強度から見積もった結晶化度を図9に示す。フタロイル化キチンナノファイバーのプロファイルは原料のそれとよく一致していた。また、フタロイル化に伴う結晶化度の低下はほとんど見られなかった。これらの結果はフタロイル基が表面にのみ導入されていることを示唆している。
【実施例7】
【0061】
実施例7. フタロイル化キチンナノファイバーフィルムの製造およびその透過率
上記実験からわかるように、フタロイル化キチンナノファイバーは、多彩な有機溶媒に均一に分散できる。有機溶媒に均一に分散したフタロイル化キチンナノファイバーを基材に塗布することによって、基材表面の強化や紫外線をカットするためのコーティングを行うことができる。また、フタロイルを行ってもキチンナノファイバーに特徴的な伸びきり鎖の高い結晶性は損なわれていないため、高強度および高弾性は保持されている。よって、基材に塗布することによって表面を効果的に保護することが可能である。
【0062】
有機溶剤(ジメチルスルホキシド)に分散(0.1 wt.%)したフタロイル化キチンナノファイバーを基材(テフロン製シャーレ)に塗布したものを乾燥させてフィルムを作製した。その透過率を図10に示す。図2に示す分散液の結果と同様に、フタロイル化キチンナノファイバーフィルムについても肌の健康に害を及ぼすUV−B(280〜315nm)およびUV−C(280nm以下)をほぼ100%カットした。
【実施例8】
【0063】
実施例8. UVカット化粧品の製造
下表に示す配合にて日焼け止めクリームを製造した。
精製水にプロピレングリコール、実施例1で得られたフタロイル化キチンナノファイバーを加え、70℃に加熱する。他の成分を混合し、加熱融解して70℃とし、これを上述の精製水部に加えて予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化し、熱交換器により室温まで冷却した。
【表2】
【実施例9】
【0064】
実施例9. コーティング剤の製造
メラミンアルキド樹脂にトルエン中に分散させたキチンナノファイバー(1wt.%)を8:2(重量比)の割合で混合し十分に攪拌した。この混合物にトルエンを100:30となるように混合しコーティング剤を製造した。
【実施例10】
【0065】
実施例10. 補強された高分子コンポジットの製造
まず、0〜1.0%(w/v)のフタロイル化キチンナノファイバー/スチレン分散液を調製した。フタロイル化キチンナノファイバーを所望の含有量になるようビーカーに注ぎ、そこにスチレンを20mL加えた。その後、超音波ホモジナイザーで解繊処理を行い、脱泡撹拌装置で撹拌、脱泡することで分散液を得た。次いで、この分散液にラジカル重合開始剤を加え、テフロンシャーレに注ぎ、70℃で24時間、窒素雰囲気の条件で重合することによりポリスチレンコンポジットを得た。
【0066】
上記のごとく製造したポリスチレンコンポジットの3点曲げ試験を強度試験機(AG−X;SHIMADZU)により測定した。3点曲げ試験の試験片は長さ40mm、幅10mmで、下部支点距離を30mmとし、測定条件はクロスヘッド速度1mm/minとした。引張試験の試験片は長さ50mm、幅10mmで、治具間距離を30mmとし、測定条件はクロスヘッド速度1mm/minとした。結果を図11に示す。わずか0.1w/v%のフタロイル化キチンナノファイバーの添加により、強度が約10%向上し、1.0%w/v%のフタロイル化キチンナノファイバーの添加により、強度が約30%向上した。
【0067】
上記のごとく製造したポリスチレンコンポジットの線熱膨張率を熱機械分析装置(Q400;TA instruments)により測定した。試験片は長さ30mm、幅3mmで、測定距離は16mm、測定温度範囲は30〜70℃、昇温速度5℃/minで、N雰囲気下、引張モード、試験力0.05Nで、どの試料も少なくとも3回測定し、その平均値を求めた。結果を図12に示す。わずか0.5w/v%のフタロイル化キチンナノファイバーの添加により、熱膨張が約40%抑制され、1.0%w/v%のフタロイル化キチンナノファイバーの添加により、熱膨張が約50%抑制された。
【0068】
これらの結果から、極めて少量のフタロイル化キチンナノファイバーの添加により、ポリスチレンコンポジットの強度が大幅に高められることが確認された。また、フタロイル化キチンナノファイバーは、わずか0.1%の濃度で、人体に悪影響を及ぼす紫外線、すなわちUV−B(315−280nm)およびUV−C(280nm未満)をほぼ100%カットするので(実施例2参照)、フタロイル化キチンナノファイバーにて補強されたポリスチレンコンポジットは優れた紫外線吸収能を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、化粧品、コーティング剤、塗料、複合材料その他の分野において利用可能である。
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