特許第6240903号(P6240903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6240903
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】印鑑
(51)【国際特許分類】
   B41K 1/00 20060101AFI20171127BHJP
   B41K 1/02 20060101ALI20171127BHJP
   B41K 1/04 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B41K1/00 B
   B41K1/02 B
   B41K1/02 G
   B41K1/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-183570(P2016-183570)
(22)【出願日】2016年9月21日
【審査請求日】2017年5月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100170494
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 匡弘
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−118770(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3013167(JP,U)
【文献】 実開昭61−150162(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3043348(JP,U)
【文献】 特開2004−181932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の印材を備える印鑑。
【請求項2】
前記印材は、タングステンの含有率が99.6重量%以上の金属材料からなる請求項1に記載の印鑑。
【請求項3】
前記印材が印面側の端部から前記印面とは反対側の端部に向けて先細り形状である
請求項1又は2に記載の印鑑。
【請求項4】
前記印材が部位によって比重が異なるように構成された、
請求項1から3のいずれか1項に記載の印鑑。
【請求項5】
前記印材は、部位によって前記金属材料のタングステンの含有率が異なり、前記印面側の端部におけるタングステンの含有率が前記印面とは反対側の端部におけるタングステンの含有率よりも高い、
請求項1から4のいずれか1項に記載の印鑑。
【請求項6】
前記印材は、部位によって前記金属材料のタングステンの含有率が異なり、前記印面側の端部におけるタングステンの含有率が前記印面とは反対側の端部におけるタングステンの含有率よりも低い、
請求項1から4のいずれか1項に記載の印鑑。
【請求項7】
前記印材には、加熱処理することで前記印材の表面に酸化皮膜を形成して色彩が加えられている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の印鑑。
【請求項8】
タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の第1の印材と、
タングステンの含有率が99.6重量%以下の材料からなる第2の印材と、
を備え、
前記第1の印材には印面が形成されており、
前記第2の印材は前記第1の印材の前記印面とは反対側の端部に取り付けられていることを特徴とする印鑑。
【請求項9】
前記第2の印材は前記第1の印材の前記印面とは反対側の端部に螺合されていることを特徴とする請求項8に記載の印鑑。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印鑑に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印鑑の材料として、象牙、水晶、牙・角類、つげ等の天然材料や、アクリル、ポリエステル等の合成樹脂材料が用いられている。
【0003】
また、近年、印鑑の耐久性を高めるために、チタン等の金属材料も印鑑の材料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−169785号公報
【特許文献2】特許第2801736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、印鑑を捺印した際に、印影にかすれやずれが生じる場合がある。そのようなかすれやずれを防止するため、捺印する紙の下に柔軟性を有する捺印マットを敷くことが行われている。
【0006】
しかしながら、毎回捺印マットを敷いて捺印することは煩わしい。また、くっきりしたかすれのない印影となるよう捺印するためには、それなりの捺印力が必要であるが、力をいれすぎると印影にずれが生じる原因となってしまう。このため、使用者にとっては、かすれもずれもない鮮明な印影を得ることは容易ではない。
【0007】
本開示は、小さな捺印力で鮮明な印影を得ることができる印鑑を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る印鑑は、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の印材を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る印鑑は、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の印材を備えるため、同サイズの従来の印鑑と比べて重い。したがって、本開示に係る印鑑は、小さな捺印力で鮮明な印影を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る印鑑を示す斜視図
図2】実施の形態に係る印鑑を示す側面図
図3】印影の比較試験結果を示す図
図4】変形例に係る印鑑を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る印鑑の実施の形態を、図面に基づき説明する。なお、下記に開示される実施の形態はすべての点で例示であって、本開示に係る印鑑に制限を加える意図はない。
【0012】
なお、下記に開示される実施の形態では、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細な説明や、実質的に同一の構成についての重複する説明を、省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になるのを避けることで、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
[実施の形態]
図1は、実施の形態に係る印鑑を示す斜視図である。図1に示すように、本実施の形態に係る印鑑10は、略円柱状の印材11のみで構成される。印材11は一方の端部に印面12を備える。なお、印鑑10は、印材11のみで構成されるものに限定されず、印材11に所謂アタリとしての突起物などが取り付けられたものであってもよいし、印材11の表面にコーティングなどにより色彩を有するコーティング層を形成したものであってもよい。
【0014】
印材11は、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料のみからなり、比重が12.0以上である。ここでいう金属材料としては、純金属、合金金属、繊維などの非金属を添加した繊維強化金属などを意味する。
【0015】
具体的には、本実施の形態の場合、印材11は、印材11(金属材料)の重量を100重量%としたとき、タングステンの含有率が99.6重量%以上である金属材料のみからなる。また、印材11は比重が19.3である。
【0016】
また、金属材料には、添加物として、カリウムが33ppm以上53ppm以下含まれている。さらに、金属材料は、不純物として、鉄が0.005重量%以下、モリブデンが0.005重量%以下、その他不揮発分含有率が0.03重量%以下含まれている。
【0017】
なお、金属材料にカリウムを添加すると、金属材料の加工性が向上するという効果が得られる。
【0018】
印面12は、目的の印影と表裏反転した印影を彫った面のことをいう。タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる印材11は、非常に硬いため、印面12を形成するための彫刻はレーザ彫刻機を使用する。使用するレーザとしてはYAGレーザやファイバレーザなどがある。なお、印影としては、氏名や社名といった文字、図形、記号、或いはそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0019】
図2は、実施の形態に係る印鑑を示す側面図である。図2に示すように、印面12の径方向の幅W1は、天面(印面12の反対側の面)13の径方向の幅W2より長くなっている。つまり、印鑑10は、印面12側の端部14から天面13側の端部15に向けて先細り形状である。これにより、捺印の際に印鑑10を掴持した指が下側に滑りにくくなり、印面12に対し正確に力を加えることができる。つまり、小さな捺印力で、かすれやずれのない鮮明な印影を得ることができる。
【0020】
ここでいう先細り形状とは、図2に示す側面図において印材11の側面16の輪郭線が直線のものに限定されず、幅W1が幅W2より長く全体として先細り形状であれば、側面16の輪郭線が曲線や屈曲線であってもよい。例えば、印鑑10の側面16に印鑑10を掴持する指を嵌める凹部や指を掛ける凸部が設けられていてもよいし、側面16の形状が左右対称でなくてもよい。
【0021】
いわゆる丸型と呼ばれる印鑑10のサイズは、認印、銀行印、実印、会社印用としては、高さが60.0mm、幅W1が10.5mm、12.0mm、13.5mm、15.0mm、16.5mm、18.0mmのいずれかであるのが一般的である。ここでいう高さとは、印面12側の端部14から天面13側の端部15までの長さである。
【0022】
なお、印鑑10の高さおよび幅W1は、上記一般的なサイズに限定されない。また、印面12の形状は、本実施の形態では丸型であるが、小判型など他の形状であってもよい。また、印鑑10の印面12以外の表面は、本実施の形態では鏡面加工またはサンドブラスト加工されているが、これに限定されない。例えば、印材11を加熱処理することで印材11の表面に酸化皮膜を形成し、印材11に色彩を加えてもよい。
【0023】
[効果]
(捺印性能)
以上に説明した本実施の形態に係る印鑑10によれば、小さな捺印力で、かすれやずれの少ない鮮明な印影を得やすい。例えば、高さが60.0mm、幅W1が18.0mmのサイズにおいて、象牙製の印鑑の重量は約27gであり、チタン製の印鑑の重量は約69gである。これに対し、本実施の形態に係る印鑑10の重量は約295gであり、チタン製の印鑑に対して約4倍の重量を有する。この重量により、小さな捺印力で、かすれやずれの少ない鮮明な印影を得ることができる。
【0024】
ここで、比重の異なる印材を用いた印鑑について、印影の比較試験を行ったのでその結果について説明する。
【0025】
比較試験は、以下5つのサンプル1〜5の印鑑を用いて行った。
【0026】
サンプル1の印鑑は、チタン製である(比重4.5)。サンプル2の印鑑は、コバルト−クロム−モリブデン合金製である(比重8.4)。サンプル3の印鑑は、タングステン−ニッケル−銅合金製である(比重12.0、タングステンの含有率が65.0重量%)。サンプル4の印鑑は、銀−タングステン合金製である(比重14.9、タングステンの含有率が65.0重量%)。サンプル5の印鑑は、タングステン製である(比重19.3、タングステンの含有率が99.6重量%含む)。
【0027】
サンプル1〜5の印鑑の印影は下記手順に従って採取した。なお、サンプル1〜5の印鑑のサイズは全て同一(高さが60.0mm、幅W1が13.5mm)であり、印面につける朱肉や、捺印する紙も同一である。また、捺印時に捺印マットは用いていない。
【0028】
まず、印鑑の印面に朱肉をしっかりとつける。次に、印鑑を、印面を下にして、捺印する紙に対し真っ直ぐに置く。このとき、捺印方向に対し一切力を加えないものとし、捺印時間(放置時間)は10秒とする。10秒経過後、静かにサンプルを紙から持ち上げる。
【0029】
図3は、印影の比較試験結果を示す図である。図3に示すように、印材の比重が12.0以上であるサンプル3〜5の印鑑では、かすれの少ない鮮明な印影を得ることができた。特に、印材が、タングステンの含有率が99.6重量%以上の金属材料からなるサンプル5の印鑑では、かすれのない鮮明な印影が得られた。一方、印材が、タングステンを含まない金属材料からなるサンプル1〜2の印鑑では、印影がかすれてしまった。
【0030】
本比較試験では、捺印の際、捺印方向に対し印鑑に一切力を加えていないため、印影にずれは生じない。したがって、サンプル3〜5の印鑑では、置くだけでかすれやずれの少ない印影を得ることができるといえる。一方、サンプル1〜2の印鑑では、置くだけでは印影がかすれてしまう。サンプル1〜2の印鑑でかすれのない印影を得るためには、それなりの捺印力が必要となるが、力を入れすぎると印影がずれてしまう。
【0031】
以上に説明した印影の比較試験結果より、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の印材を備える印鑑であれば、かすれやずれの少ない印影を得ることができることがわかった。
【0032】
なお、かすれやずれのない鮮明な印影を得るためには、印材の比重は、14.9以上が好ましく、18.0以上がより好ましい。また、金属材料に含まれるタングステンの含有率は、70.0重量%以上が好ましく、90.0重量%以上がより好ましい。
【0033】
特に、タングステンの含有率が99.6重量%以上の金属材料からなる比重が19.3の印材を備える印鑑であれば、さらにかすれやずれのない鮮明な印影を安価に得ることができる。
【0034】
(その他の効果)
タングステンは、チタンの約2倍の硬度(ビッカース硬さ)を有するため、本実施の形態に係る印鑑10は、欠損、摩耗、変形に強い。つまり、印面12が欠損、摩耗、変形に強いため、本実施の形態に係る印鑑10は半永久的に同じ印影を保ち続けることができる。
【0035】
さらに、従来から使用されている、天然材料製、合成樹脂製、チタン製等の印鑑は、高温や燃焼に弱く火事にあうと使用不可能になるという問題がある。これに対し、タングステンの融点は3380℃と金属内で高い水準にあるため、本実施の形態に係る印鑑10は、火事にあった場合でも影響を受けることが少ない。
【0036】
[変形例]
以上、本実施の形態に係る印鑑10について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態に施したものも、本開示の範囲内に含まれる。
【0037】
(1)本実施の形態では、印材11の形状が略円柱状であったが、略角柱状など他の形状であってもよい。印材11の形状が略円柱状の印鑑10は、一般的に丸寸胴と呼ばれるが、印鑑10はこれに限定されず、例えば、丸天丸、角寸胴、角天丸であってもよい。
【0038】
(2)本実施の形態では、印材11に、捺印の際に印面12を見なくても文字の上下が判断できるアタリと呼ばれる目印を追加してもよい。このアタリは突起物であってもよいし、くぼみであってもよいし、貫通孔であってもよい。
【0039】
(3)本実施の形態では、印材11は、全体において比重が均一であったが、捺印性をより向上させるために、印材11は、部位によって比重が異なるように構成されてもよい。
【0040】
例えば、印材11は、部位によって金属材料のタングステンの含有率が異なり、印面12側の端部14におけるタングステンの含有率が天面13側の端部15におけるタングステンの含有率よりも高い構成としてもよい。この構成によれば、印材11の重心が印面12側に寄るため、捺印時における印鑑10の操作性および安定性が向上する。つまり、小さな捺印力でよりかすれやずれの少ない鮮明な印影を得ることができる印鑑10となる。
【0041】
なお、印材11は、印面12側の端部14におけるタングステンの含有率が天面13側の端部15におけるタングステンの含有率よりも低い構成としてもよい。この構成によれば、印材11の印面12側の端部14は、実施の形態に係る印材11の印面12側の端部14を構成する金属材料より軟らかい。つまり、印材11全体としての重量は、実施の形態に係る印材11と同じであるため、印鑑10は、小さな捺印力でかすれやずれの少ない鮮明な印影を得られることに加え、印面12を形成する際の加工性が向上する。
【0042】
図4は、第1の印材11aと第2の印材11bとで構成される印鑑10の斜視図である。図4に示すように、印鑑10は、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の第1の印材11aと、タングステンの含有率が99.6重量%以下の材料からなる第2の印材11bを備える。第1の印材11aには印面12が形成されており、第2の印材11bは第1の印材11aの印面12とは反対側の端部17に取り付けられている。また、第1の印材11aの側面16aと、第2の印材11bの側面16bとで印材11の側面16が構成されている。
【0043】
第1の印材11aには、印面12とは反対側の端面17に雄ねじ18が設けられており、第2の印材11bには、天面13とは反対側の端面19に雌ねじ20が設けられている。第1の印材11aと、第2の印材11bとは、雄ねじ18を雌ねじ20に螺合させることで接続される。なお、第1の印材11aの端面17に雌ねじ20を設け、第2の印材11bの端面19に雄ねじ18を設ける構成であってもよい。
【0044】
この構成によれば、認印、銀行印、実印、会社印用など用途に応じて第1の印材11aを付け替えるだけで、所望の印影を得ることができ、持ち運びに便利である。また、第1の印材11aと第2の印材11bとは、ねじにより螺合させることで接続されているが、これに限定されない。
【0045】
例えば、接着や圧入などの方法により接続されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 印鑑
11 印材
11a 第1の印材
11b 第2の印材
12 印面
13 天面
14 印面側の端部
15 天面側の端部(印面とは反対側の端部)
16 側面
16a 第1の印材の側面
16b 第2の印材の側面
17 端面(第1の印材の印面とは反対側の端面)
18 雄ねじ
19 端面(第2の印材の天面とは反対側の端面)
20 雌ねじ
【要約】
【課題】小さな捺印力で鮮明な印影を得ることができる印鑑を提供する。
【解決手段】印鑑10は、タングステンの含有率が65.0重量%以上の金属材料からなる比重が12.0以上の印材11を備える。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4