(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大径部、小径部の何れか一方が中間部を形成し、かつ前記中間部を形成しない大径部、小径部の何れか他方が両方の端部を形成することで、前記中間部と前記両方の端部とが同軸上に隣接して成るワークを誘導加熱する方法であって、
前記ワークの大径部よりも大きい径を有するリング状の一次コイルと、前記ワークの小径部よりも大きくかつ前記大径部よりも小さい径を有するリング状の二次コイルと、を備え、前記一次コイルが前記二次コイルと比べ軸方向の寸法が長い、誘導加熱装置を用い、
前記中間部又は前記両方の端部のそれぞれを構成する前記小径部の周面から離間して前記二次コイルを配置するステップと、
前記二次コイルの径方向外側に前記一次コイルを位置させ、前記一次コイル及び前記二次コイルを同期させて、前記ワークの軸方向に沿って移動させながら、前記一次コイルに高周波電流を流すことで前記二次コイルを介して二次誘導により前記小径部を加熱するステップと、
を含む、誘導加熱方法。
前記一次コイルが前記二次コイルの径方向外側に位置するようになった直後の状態では、前記一次コイルに高周波電流を流すことで、前記大径部と前記小径部の間に在る段部の領域を二次誘導により加熱する、請求項7又は8に記載の誘導加熱方法。
前記一次コイルが前記二次コイルの径方向外側に位置するようになった直後の状態では、前記一次コイルに高周波電流を流した状態で前記一次コイルの移動を所定の時間停止させる、請求項11に記載の熱処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
[第1実施形態]
(ワーク)
本発明の各実施形態において、加熱対象となるワークについて説明する。ワーク10は、
図1に示すように、中心軸に沿って大径部11と小径部12とが同軸状に隣接し連続して構成されている。大径部11は直径d1を有し、小径部12は直径d2を有する。大径部11と小径部12とは中心軸に垂直な段部13を介在して隣接している。すなわち、段部13は内径d1で外径d2の円環状を呈している。
【0014】
(誘導加熱装置及び熱処理装置)
図1は本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置を模式的に示す図である。第1実施形態に係る誘導加熱装置20は熱処理装置20Aに組み込まれており、ワーク10の大径部11及び小径部12を誘導加熱したり熱処理したりするために用いられる。誘導加熱装置20は、
図1に示すように、加熱コイル21及び同期手段26を備えている。
【0015】
加熱コイル21は、一次コイル22と二次コイル23とからなる。一次コイル22は、大径部11よりも大きい径を有しリング状を呈している。二次コイル23は、小径部12よりも大きくかつ大径部11よりも小さい径を有しリング状を呈している。二次コイル23は、段部13よりも内側に収まる外径を有するように設計されることが好ましい。
【0016】
図2は
図1に示す一次コイルを示し、(a)は平面図、(b)は右側面図である。一次コイル22は、平面視でリング状を呈する例えば2ターンの巻線部22aに対して、リード22b及び22cが取り付けられて構成されている。リード22b,22cはトランス(図示せず)を介在して電力供給装置27に接続される。
【0017】
図3は
図1に示す二次コイルの斜視図である。二次コイル23は、両端23a,23bが近接した円環状であり、各端23a,23b同士がスリット23cを形成している。一次コイル22の内側に二次コイル23がある状態において、一次コイル22に高周波電流が流れると二次コイル23に誘導電流が流れる。これにより、二次コイル23の誘導電流によりその内側にあるワーク10の小径部12の外周領域が二次誘導され易くなる。
【0018】
一次コイル22は、ワーク10に対してセッティングする際には、ワーク10の大径部11の周面から離間して配置され、ワーク10の軸方向に沿って第1駆動機構24により移動する。二次コイル23は、ワーク10へセッティングする際には、ワーク10の小径部12の周面から離間して配置され、ワーク10の軸方向に沿って第2駆動機構25により移動する。
【0019】
一次コイル22と二次コイル23とはワーク10に対してセットされたときにはワーク10の軸方向に離れて配置される。第1駆動機構24により一次コイル22が軸方向に沿って移動し、一次コイル22が二次コイル23の径方向外側で重なり合う領域に移動してくると、同期手段26が第1駆動機構24からの信号を受けて第2駆動機構25を作動させ、二次コイル23を一次コイル22の移動に同期させて同じ方向に移動させる。よって、二次コイル23は一次コイル22の移動と共に同じ速度で移動する。
【0020】
従って、一次コイル22がワーク10に対してどの位置にあるかに応じて、一次コイル22への高周波電力の供給を制御することにより、ワーク10の大径部11及び小径部12の各外周領域に対して軸方向に沿って連続的にも非連続的にも誘導加熱することができる。
【0021】
これにより、ワーク10の大径部11に対して大径部用加熱コイルをセットし大径部用加熱コイルに電力供給装置から高周波電流を供給し、これとは別に、ワーク10の小径部12に対して小径部用加熱コイルをセットし小径部用加熱コイルに電力供給装置から高周波電流を供給する必要性がなくなる。よって、ワーク10の加熱領域毎に複数の加熱コイルを準備しておき、各加熱コイルを交換してセットし直す必要がない。
【0022】
また、ワーク10の大径部11の外周領域を誘導加熱する際の電力供給装置27から見た負荷は、ワーク10の小径部12の外周領域を誘導加熱する際の電力供給装置27から見た負荷と比べ大きく変化しないため、周波数の調整や負荷整合を取り直す必要がない。
【0023】
さらに好ましくは、
図1に示すように、誘導加熱装置20を備える熱処理装置20Aは、一次コイル22の後段に冷却ジャケット28を備える。そして第1駆動機構24が一次コイル22をワーク10の軸方向へ移動するのと同時に、冷却ジャケット28を同一の方向に移動する。
図1に示すように、冷却ジャケット28はワーク10の大径部11を囲むように円環状を呈しており、内側には斜め後方に向くように傾斜面28aが周状に設けられている。
【0024】
よって、ワーク10の大径部11及び小径部12が加熱コイル21により誘導加熱されていた領域に対し、傾斜面28aから冷却液を斜め後方に向けて噴射させることができる。冷却ジャケット28がこのような傾斜面28aを有することで、一次コイル22及び二次コイル23に冷却液が可及的に噴射されない。よって、加熱コイル21の寿命をより延ばすことができる。
【0025】
(誘導加熱方法及び熱処理方法)
以下、
図1に示す誘導加熱装置20を用いてワーク10を誘導加熱する方法について説明する。
図4は、
図1に示す誘導加熱装置による誘導加熱方法を説明するための図である。
図4の(a)〜(d)では、ワーク10の中心軸Lより左側だけを示している。
図1に示すように、先ず、熱処理の対象となるワーク10を鉛直方向に沿って配置し、ワークの小径部12が大径部11よりも上方となるようにする。この状態において、ワーク10の大径部11から離間する位置に一次コイル22を配置すると共に、ワーク10の小径部12から離間する位置に二次コイル23を配置する。その際、一次コイル22の下側に冷却ジャケット27を設置することが好ましい。そして、一次コイル22にトランスを経由して電力供給装置27を接続する。
【0026】
この状態から、
図4(a)に示すように、第1駆動機構24により一次コイル22と冷却ジャケット28を同時にワーク10の軸方向である上方向に移動させ、一次コイル22に高周波電流を流す。すると、ワーク10の大径部11の外周領域のうち一次コイル22の内周面と向き合う領域が、順に誘導加熱され、冷却ジャケット28から冷却液が噴射されることで、焼入処理等の熱処理が施される。なお、
図4では熱処理される領域を符号15で示している。
【0027】
その後、
図4(b)に示すように、一次コイル22が段部13を通過して二次コイル23の径方向外側に移動する。この状態では、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28からの冷却液の噴射とを停止する。
【0028】
その後、同期手段26が第1駆動手段24からの信号により第2駆動手段25を作動させる。よって、第2駆動手段25によって二次コイル23が軸方向に沿って一次コイル22の移動方向と同じ方向に向けて移動を開始する。それと共に、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28からの冷却液の噴射とが再開される。すると、
図4(c)に示すように、小径部12にも軸方向に沿って熱処理領域が順に延びる。
【0029】
図4(d)に示すように、小径部12の先端部側に一次コイル22及び二次コイル23が到達すると、電力供給装置27から一次コイル22への高周波電流の供給を停止し、熱処理領域の端部まで冷却液が噴射されると、冷却ジャケット28からの冷却液の噴射を停止する。
【0030】
その後、第1駆動手段24及び第2駆動手段25による一次コイル22及び二次コイル23の移動を停止する。
【0031】
このように、本発明の第1実施形態では、ワーク10の大径部11の周面から離間してリング状の一次コイル22を配置し、小径部12の周面から離間してリング状の二次コイル23を配置する。
そして、一次コイル22をワーク10の軸方向に移動させながら、一次コイル22に高周波電流を流すことで、大径部11の外周領域を加熱する。
次に、一次コイル22をワーク10の軸方向に移動させることで、二次コイル23の径方向外側に一次コイル22を位置させる。
続いて、一次コイル22及び二次コイル23を同期させてワーク10の軸方向に移動させながら、一次コイル22に高周波電流を流すことにより、二次コイル23を介して二次誘導により小径部12の外周領域を加熱する。
【0032】
よって、一次コイル22と二次コイル23をワーク10の各位置に対して同時に設置し、先ず、一次コイル22により大径部11だけを誘導加熱し、一次コイル22の移動に伴い二次コイル23の径方向外側に一次コイル22を位置させる。そして、一次コイル22の移動に同期させて二次コイル23を移動させる。その際には一次コイル22の内側には二次コイル23が必ず存在するので、一次コイル22に高周波電流を流すことにより二次コイル23を経由してワーク10の小径部12を誘導加熱する。
【0033】
好ましくは、一次コイル22が二次コイル23の径方向外側に位置するようになった状態で、一次コイル22に高周波電流を流すことにより、大径部11と小径部12との境目の段部13の領域及びその近傍を二次誘導により加熱してもよい。これにより、ワーク10の大径部11から小径部12まで連続した領域を熱処理することができる。
【0034】
さらには、一次コイル22が二次コイル23の径方向外側に位置する状態において、一次コイル22の移動を所定時間の間停止させてもよい。このとき、一次コイル22に高周波電流を流しておくことで、段部13の領域及びその近傍を所望の温度まで誘導加熱することができる。
【0035】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態とは同期手段の点で異なっている。
図5は、第2実施形態に係る誘導加熱装置を模式的に示す図である。第2実施形態に係る誘導加熱装置30は熱処理装置30Aに組み込まれており、第1実施形態のそれと基本的な思想は同じであるので、同一又は対応する要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0036】
同期手段は、一次コイル22及び二次コイル33の少なくとも一方に設けた係合部36で構成される。これにより、一次コイル22が二次コイル33の外側に移動してきたとき、係合部36が係合部36を有さない一次コイル22又は二次コイル33と係合することにより、即ち係合部36によって一次コイル22と二次コイル33とが係合することにより、ワーク10の軸方向への一次コイル22の移動に伴って、二次コイル33がワーク10の軸方向に移動する。
【0037】
第2実施形態に係る誘導加熱装置30では、加熱コイル31が一次コイル22と二次コイル33とで構成され、一次コイル22が第1駆動機構24でワーク10の軸方向に移動する点、同期手段によって一次コイル22の移動に同期して二次コイル33を移動する点、好ましい形態では冷却ジャケット28が設けられ、冷却ジャケット28が一次コイル22に追従して移動する点で共通している。
【0038】
誘導加熱装置30では、
図1に示す第2駆動機構25を備えておらず、具体的な同期手段が異なる。すなわち、第2実施形態にあっては、一次コイル22には鉛直方向の上端又は下端に、係合部36が巻線部22aよりも内側に突出して設けられている。
図5では、係合部36が一次コイル22の下端に設けられている場合を示している。二次コイル33はワーク10の太径部11よりも外側に大きく寸法選定され、二次コイル33の下端が一次コイル22に設けた係合部36と接触して、一次コイル22がワーク10の軸方向へ移動するに伴って、二次コイル33が同じ方向に同期して移動する。
【0039】
図5に示す形態とは逆に、図示を省略するが、二次コイル33の一端、例えば上端に、巻線部の外側に張り出した、例えば鍔状の係合部を設け、この係合部で一次コイル22と接触させるようにしてもよい。
【0040】
さらには、一次コイル22と二次コイル33との何れにも係合部をそれぞれ設け、各係合部を係合させることにより、一次コイル22の移動に伴って同期して二次コイル33が移動するようにしてもよい。
【0041】
これらのように、係合部は、二次コイル33が一次コイル22に連動して同期して移動するために設けられる。何れの態様であっても、係合部は巻線部と絶縁されており、電力供給装置37から供給される高周波電流やそれにより生じる誘導電流の影響を受けないようにする。
【0042】
また、
図5に示すように、二次コイル33には、ワーク10の段部13に向うように円環状に張り出した突条部33aを設けてもよい。二次コイル33をワーク10の小径部12に対向するように、かつ、段部13に最も近い領域であって突条部33aがワーク10の大径部11と小径部12と連続している部位に対向するように、ワーク10にセットすることで、突条部33aが有効に作用する。
【0043】
すなわち、一次コイル22が二次コイル33の径方向外側に移動してきたときであって、一次コイル22に高周波電流を流すと二次コイル33に誘導電流が流れ、その結果、突条部33aにより小径部12の付け根にも二次誘導による誘導電流が流れる。これにより、小径部12の付け根の部位を効率良く昇温させることができる。このような突条部33aは第1実施形態でも適用することができる。
【0044】
図6は第2実施形態に係る誘導加熱装置30を用いた誘導加熱方法を示す図である。
図4に示す場合と異なり、一次コイル22が二次コイル33の外側に位置する状態でも、一次コイル22に高周波電流を流す場合を示している。そのため、
図6(b)に示すように、大径部11と小径部12の間に在る段部13の領域及びその近傍が二次誘導により加熱される。よって、
図6(a)乃至(d)の流れに沿って、ワーク10の大径部11から小径部12に沿って連続した領域を熱処理することもできる。
【0045】
段部13及びその近傍において加熱すべき領域が第1実施形態に比べ大きいため、一次コイル22が段部13を通過して二次コイル23の径方向外側に位置させた際、高周波電流を流した状態で一次コイル22の移動を所定時間の間停止させてもよい。これにより段部13の領域及びその近傍を所望の温度まで誘導加熱することができる。
【0046】
なお、第1実施形態で説明したその他の誘導加熱方法を第2実施形態に係る誘導加熱装置30でも行うことができる。
【0047】
[第3実施形態]
図7ないし
図9を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態及び第2実施形態では小径部が大径部の一端に設けられているが、第3実施形態では小径部が大径部の両端に設けられている。それゆえワークの配置、一次コイルの動作、二次コイルの数が異なる。
図7は、第3実施形態に係る誘導加熱装置を模式的に示す図である。第3実施形態に係る誘導加熱装置40は、熱処理装置40Aに組み込まれており、第1及び第2実施形態のそれらと基本的な思想は同じであるので、同一又は対応する要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0048】
ワーク10は、大径部11の軸方向の両端に小径部12をそれぞれ備えている。すなわち、ワーク10は、大径部11の一端に一方の小径部12Rが隣接し、大径部11の他端に他方の小径部12Lが隣接し、大径部11、一方の小径部12R及び他方の小径部12Lが同軸状に設けられて成る。つまり、ワーク10は、大径部11が中間部を形成し、かつ中間部を形成しない小径部12L,12Rが端部を形成することで、中間部と左右の端部とが同軸上に隣接して成る。第1及び第2実施形態ではワーク10の軸方向が略鉛直方向となるよう棒状のワーク10を図示しない支持機構で支持している。第3実施形態ではワーク10の軸方向が略水平方向となるように棒状のワーク10を支持機構49L,49Rによって支持する。支持機構49L,49Rはワーク10を軸周りに回転させる機能を有していてもよい。ワーク10の加熱領域が軸周りに均等になるからである。
【0049】
誘導加熱装置40は、
図1及び
図5に示す第1及び第2実施形態のように、一次コイル22と二次コイルを備えるが、左右の小径部12L,12Rにそれぞれ配置されるように二次コイル43L,43Rを備える。一次コイル22及び二次コイル43L,43Rは軸に沿って略水平方向へ移動可能となっている。熱処理装置40Aは、誘導加熱装置40において冷却ジャケット28L,28Rを一次コイル22の両側にさらに設けて構成されている。
【0050】
以下、具体的に説明する。ワーク10のうち一方の小径部12Lには一方の二次コイル43Lが配置され、一方の二次コイル43Lは第2駆動機構25Lにより軸方向に移動可能となっている。他方の小径部12Rには他方の二次コイル43Rが配置され、他方の二次コイル43Rは第2駆動機構25Rにより一方の二次コイル43Lとは独立に軸方向に移動可能となっている。
【0051】
冷却ジャケット28Lと冷却ジャケット28Rは、ワーク10の大径部11を囲める大きさの円環状に形成されており、一次コイル22に対して軸方向両側に対称に設けられ、一次コイル22と同時に必要により同期して移動可能となっている。冷却ジャケット28L,28Rは、何れも一次コイル22から離間する方向に斜めに冷却液を噴射するように噴射面を有する。
【0052】
その他の構成は第1実施形態と略同様であり、加熱コイル41が一次コイル22と二次コイル43L、43Rとで構成されている点、一次コイル22を第1駆動機構24によりワーク10の軸方向に移動する点、同期手段26によって一次コイル22の移動に同期して二次コイル43L,43Rの何れかを移動する点、熱処理装置40Aでは冷却ジャケット28L,28Rが一次コイル22に追従して移動する点で共通している。
【0053】
なお、第2実施形態と同様に、二次コイル43L、43Rの段部13に対向する側には小径部12L,12Rと大径部11との間の隅部に向けて突出した突条部43a,43bが設けられていてもよい。
【0054】
(誘導加熱方法及び熱処理方法)
図8は
図7に示す第3実施形態に係る誘導加熱装置による誘導加熱方法の前半を説明するための図であり、
図9は
図7に示す誘導加熱装置による誘導加熱方法の後半を説明するための図である。先ず、支持機構49L,49Rによりワーク10を略水平状態で配置し、
図8(a)に示すように、一次コイル22の左右に冷却ジャケット28L,28Rを連結した状態で一方の小径部12L近傍の大径部11の周囲に配置する。
【0055】
この状態から、第1駆動機構24により一次コイル22と冷却ジャケット28L,28Rを一緒にワーク10の一端側へ、即ち、大径部11から一方の小径部12Lの方へ軸方向に移動させながら、一次コイル22に高周波電流を流し、ワーク10の大径部11の外周領域のうち一次コイル22の内周面と向き合う領域を、順に誘導加熱する。進行方向後段の冷却ジャケット28Rから冷却液がワーク10に向けて噴射されることで、焼入処理等の熱処理が施される。符号15Lは、熱処理された領域を示す(
図8(b)参照)。
【0056】
図8(b)に示すように、一次コイル22が段部13を通過して二次コイル43Lの径方向外側に移動する。一次コイル22を二次コイル43Lの径方向外側に位置させる間は、第2実施形態と同様に、一次コイル22への高周波電流の供給を行いつつ、一次コイル22及び冷却ジャケット28L,28Rの移動を所定時間停止し、加熱体積が大きい段部13の領域及び付近を十分に加熱するのがよい。
【0057】
次いで、
図8(c)及び
図8(d)に示すように、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rからの冷却液の噴射とを行いつつ、同期手段26により第1駆動手段24からの信号に応じ第2駆動手段25Lを作動させ、二次コイル43Lを一次コイル22と同期させて移動させる。これにより第2実施形態と同様に大径部11の一端側から段部13を経由して小径部12の所定領域まで連続した熱処理領域15Lを形成する。
【0058】
その後、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rからの冷却液の噴射とを停止し、
図8(e)に示すように、一次コイル22及び冷却ジャケット28L,28Rを再び一端側の大径部11の周囲に配置する。
【0059】
続いて、
図9(a)に示すように、一次コイル22へ高周波電流を供給しつつ、第1駆動手段24により一次コイル22を他端側へ移動させ、大径部11を順に誘導加熱する。進行方向後段で追従する冷却ジャケット28Lから冷却液を噴射することで、大径部11の所定領域に熱処理領域15Mを形成する。
【0060】
その後、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Lからの冷却液の噴射とを停止し、一次コイル22及び冷却ジャケット28L,28Rを、大径部11の径方向外側であって他方の小径部12R寄りの近傍に配置する。
【0061】
その後、
図8(a)乃至(d)と同様に、
図9(b)乃至(d)に示すように、大径部11の他端側から段部13を経由して他方の小径部12Rの所定領域まで連続する熱処理領域15Rを形成する。なお
図8及び
図9では、大径部15の熱処理領域15Mと一方の熱処理領域15Lとの間が離間し、大径部15の熱処理領域15Mと他方の熱処理領域15Rとの間が離間している。しかしながら、熱処理領域15Lと熱処理領域15Mと熱処理領域15Fとが近接していても、連続していても、熱処理の仕様に応じて適宜対応することができる。
【0062】
このように、第3実施形態にあっては、大径部11の両端側に小径部12L,12Rを有するワーク10において、小径部12L、12Rにそれぞれ二次コイル43L,43Rを配置する。そして、ワーク10の一端側では、一次コイル22を大径部11から一端側の一方の小径部12Lへ移動させて一端側の大径部11、段部13の領域及び小径部12Lを加熱する。また、ワーク10の他端側では、一次コイル22を大径部11から他端側の他方の小径部12Rへ移動させて他端側の大径部11、段部13の領域及び小径部12Rを加熱する。
【0063】
本発明の第3の実施形態は、大径部11の一端に一方の小径部12Lが隣接し、大径部11の他端に他方の小径部12Rが隣接し、大径部11、一方の小径部12L及び他方の小径部12Rが同軸状に設けられて成るワーク10を誘導加熱する誘導加熱方法に関する。その方法は、次のステップで構成される。
1)一方の小径部12Lの周面から離間してリング状の一方の二次コイル43Lを配置し、他方の小径部12Rの周面から離間してリング状の他方の二次コイル43Rを配置する。
2)一次コイル22を、大径部11から一方の小径部12Lに向けてワーク10の軸方向に移動させることにより、一方の二次コイル43Lの径方向外側に一次コイル22を位置させる。
3)一次コイル22及び一方の二次コイル43Lを同期させて、ワーク10の軸方向の一端側に移動させながら、一次コイル22に高周波電流を流すことで一方の二次コイル43Lを介して二次誘導により一方の小径部12Lを加熱する。
4)一次コイル22を、大径部11から他方の小径部12Rに向けてワーク10の軸方向に移動させることにより、他方の二次コイル43Rの径方向外側に一次コイル22を位置させる。
5)一次コイル22及び他方の二次コイル43Rを同期させて、ワーク10の軸方向の他端側に移動させながら、一次コイル22に高周波電流を流すことで他方の二次コイル43Rを介して二次誘導により他方の小径部12Rを加熱する。
【0064】
これにより、第1実施形態及び第2実施形態と同様、一次コイル22に高周波電流を流すことにより二次コイル43L,43Rでワーク10の一方の小径部12L及び他方の小径部23Rを誘導加熱できる。またワーク10の大径部11から一方の小径部12L,他方の小径部12Rまで連続して誘導加熱したり、熱処理したりすることができる。
【0065】
特に、第3実施形態では、ワーク10の一端側でも他端側でも、一次コイル22を大径部11から一方の小径部43Lへ向けて移動したり、他方の小径部43Rへ向けて移動したりすることで、大径部11の端部を誘導加熱した後で段部13の領域及びその近傍の小径部43L,43Rを加熱している。そのため段部13の領域やその付近へ加わる加熱量の不足、過不足を防止することができる。また、大径部11の端に一方の小径部12Lと他方の小径部12Rとを有するワーク10を誘導加熱して熱処理を行っても、ワーク10を略水平に支持していることから一端側の熱処理時の冷却液が他端側に流動するようなことがなく、ワーク10の配置を変えることなく両端側の熱処理を行うことができる。その結果、大径部11の両側に一方の小径部12L,他方の12Rが同軸状に隣接して設けられて成るワーク10を効率よく適切に加熱したり熱処理したりすることができる。なお、第3実施形態において、同期手段26を用いて第2駆動機構27L,27Rを駆動せず、第1実施形態のように係合部を設けてもよい。
【0066】
[第4実施形態]
第4実施形態について説明する。第4実施形態では、第3実施形態と異なり、大径部が小径部の両端に設けられている。
図10は、第4実施形態に係る誘導加熱装置を模式的に示す図である。第4実施形態に係る誘導加熱装置50は、熱処理装置50Aに組み込まれており、第3実施形態のそれらと基本的な思想は同じであるので、同一又は対応する要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0067】
第4実施形態では、第3実施形態とは異なり、ワーク10は、小径部12の軸方向の両端に大径部11をそれぞれ備えている。すなわち、ワーク10は、小径部12の一端に一方の大径部11Lが隣接し、小径部12の他端に他方の大径部11Rが隣接し、一方の大径部11L、他方の大径部11R及び小径部12が同軸状に設けられて成る。つまり、ワーク10は、大径部11が中間部を形成し、かつ中間部を形成しない小径部12L,12Rが端部を形成することで、中間部と左右の端部とが同軸上に隣接して成る。第4実施形態では、第3実施形態と同様、ワーク10の軸方向が略水平方向となるように棒状のワーク10を支持機構49L,49Rによって支持する。支持機構49L,49Rはワーク10を軸周りに回転させる機能を有していてもよい。ワーク10の加熱領域が軸周りに均等になるからである。
【0068】
誘導加熱装置50は、
図10に示すように、一次コイル22と二次コイル53を備える。一次コイル22及び二次コイル53は軸に沿って略水平方向へ移動可能となっている。熱処理装置50Aは、誘導加熱装置50において、冷却ジャケット28L,28Rを一次コイル22の両側に設けて構成されている。なお、傾斜面が第3実施形態と逆になっている。
【0069】
以下、具体的に説明する。ワーク10のうち中間部の小径部には二次コイル53が配置され、二次コイル53は第2駆動機構25により軸方向に移動可能となっている。
【0070】
冷却ジャケット28Lと冷却ジャケット28Rは、ワーク10の大径部11を囲める大きさの円環状に形成されており、一次コイル22に対して軸方向両側に対称に設けられ、一次コイル22と同時に必要により同期して移動可能となっている。冷却ジャケット28L,28Rは、何れも一次コイル22から離間する方向に斜めに冷却液を噴射するように噴射面を有する。
【0071】
その他の構成は第3実施形態と略同様であり、加熱コイルが一次コイル22と二次コイル53とで構成されている点、一次コイル22を第1駆動機構24によりワーク10の軸方向に移動する点、同期手段26によって一次コイル22の移動に同期して二次コイル53を移動する点、熱処理装置50Aでは冷却ジャケット28L,28Rが一次コイル22に追従して移動する点で共通している。また、二次コイル53の段部13L,13Rに対向する側には小径部12と大径部11L,11Rとの間の隅部に向けて突出した突条部53a,53bが設けられていてもよい。
【0072】
(誘導加熱方法及び熱処理方法)
図11は
図10に示す誘導加熱装置による誘導加熱方法の前半を説明するための図であり、
図12は
図10に示す誘導加熱装置による誘導加熱方法の後半を説明するための図である。先ず、支持機構49L,49Rによりワーク10を略水平状態で配置し、
図11(a)に示すように、二次コイル53を一方の大径部11Lの近傍の小径部12の径方向外側の周囲に配置すると共に、一次コイル22の左右に冷却ジャケット28L,28Rを連結した状態で、一次コイル22を二次コイル53の径方向外側に位置させる。その際、一次コイル22は、冷却ジャケット28L,28Rと一緒に第1駆動機構24により軸方向に移動させることで、二次コイル53の径方向外側に位置させてもよい。
【0073】
この状態から、第1駆動機構24により一次コイル22を軸方向に移動させることに同期させて第2駆動機構25により二次コイル53を同じ方向に移動させながら、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rから冷却液の噴射とを行う。一次コイル22への高周波電流の供給により二次コイル53に誘導電流が流れ、二次コイル53の誘導電流により、二次コイル53に対向する小径部12の部位に二次誘導電流が流れ、加熱する。一次コイル22と二次コイル53とを同期して移動させる。
【0074】
一次コイル22及び二次コイル53の左端が段部13近傍に到達すると、第2駆動機構25による二次コイル43の移動を停止し(
図11(b)ご参照)、第1駆動機構24による一次コイル22を同じく同軸方向に移動させ続ける。その際、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rから冷却液の噴射とは続けて行う(
図11(c)及び(d)ご参照)。また、第2駆動機構25が二次コイル43を逆向きに移動させるなどして、冷却ジャケット28Rからワーク15の熱処理領域15Lの部分に噴射させるようにする。
【0075】
これらの一連の流れにより、小径部12から一方の大径部11Lまでの所定の領域が熱処理領域15Lとして連続して形成される。
【0076】
次に、第1駆動機構24は一次コイル22を逆方向に移動させ、二次コイル53の径方向外側に達すると、第2駆動機構25は二次コイル53を一次コイル22の移動方向と同一の方向に移動させて、次の熱処理領域である中間の熱処理領域15Mの熱処理開始位置まで移動させる(
図11(e)ご参照)。
【0077】
一次コイル22及び二次コイル53が次の熱処理領域の一端に達すると、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Lから冷却液の噴射とを開始して、第1駆動機構24及び第2駆動機構25が一次コイル22及び二次コイル53を移動し続ける(
図12(a)ご参照)。これにより、小径部12の中間部の所定の領域が熱処理領域15Mとして連続して形成される。
【0078】
第1駆動機構24及び第2駆動機構25は、一次コイル22及び二次コイル53を熱処理領域15Mの熱処理終了位置に達すると、一次コイル22への高周波電流の供給を停止する(
図12(b)ご参照)。
【0079】
その後、第1駆動機構24及び第2駆動機構25により一次コイル22及び二次コイル53が次の熱処理領域の一端に達すると、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rから冷却液の噴射とを開始して、第1駆動機構24及び第2駆動機構25が一次コイル22及び二次コイル53を移動し続ける。
【0080】
一次コイル22及び二次コイル53の右端が段部13R近傍に到達すると、第2駆動機構25による二次コイル43の移動を停止し(
図12(c)ご参照)、第1駆動機構24による一次コイル22を同じく同軸方向に移動させ続ける。その際、一次コイル22への高周波電流の供給と冷却ジャケット28Rから冷却液の噴射とは続けて行う(
図12(d)ご参照)。また、第2駆動機構25が二次コイル43を逆向きに移動させるなどして、冷却ジャケット28Lからワーク15の熱処理領域15Rの部分に噴射させるようにする。
【0081】
これらの一連の流れにより、小径部12から他方の大径部11Rまでの所定の領域が熱処理領域15Rとして連続して形成される。
【0082】
このように、第4実施形態にあっては、小径部12の両端側に大径部11L,11Rを有するワーク10において、小径部12に二次コイル53を配置する。そして、ワーク10の中間部では、一次コイル22を小径部12から一方の大径部11Lへ移動させて一端側の小径部12、段部13Lの領域及び一方の大径部11Lを加熱する。また、ワーク10の他端側では、一次コイル22を小径部12から他方の大径部11Rへ移動させて他端側の小径部12、段部13Rの領域及び一方の大径部11Rを加熱する。
【0083】
これにより、第1実施形態及び第2実施形態と同様、一次コイル22に高周波電流を流すことにより二次コイル53でワーク10の中間部の小径部12を誘導加熱できる。またワーク10の小径部12から一方の大径部11L,他方の大径部11Rまで連続して誘導加熱したり、熱処理したりすることができる。
【0084】
第4実施形態は、ワーク10の一端側でも他端側でも、一次コイル22を小径部12から一方の大径部53Lへ向けて移動したり、他方の大径部53Rへ向けて移動したりすることで、小径部12の端部を誘導加熱した後で段部13L,13Rの領域及びその近傍の大径部43L,43Rを加熱している。そのため段部13の領域やその付近へ加わる加熱量の不足、過剰を防止することができる。
【0085】
[その他の実施形態]
本発明の実施形態としては、図示した形態に限定されることなく、一次コイルのターン数、二次コイルの形状については、ワーク10の形状、熱処理の仕様により適宜設定される。また、一次コイルや二次コイルを構成する中空管寸法についても、熱処理の仕様により設定される。
【0086】
また、
図1、
図5、
図7及び
図10に示す一次コイル22は、図示のように巻線部22aを二ターンとせず三ターンとしてもよい。四ターン以上の巻数であってもよい。以下、
図5に示す一次コイル22が三ターンで構成されている場合で説明すると、一次コイル22がワーク10の軸方向に移動して一次コイル22が二次コイル33の外側で重なり始めてから、二次コイル33が一次コイル22の移動に同期して移動するまでの時間を長くすることができる。すると、一次コイル22の径方向内側に二次コイル33がありかつ二次コイル33が移動していない状態で、ワーク10の太径部11と小径部12との段部13を誘導加熱する時間が長くなる。よって、一次コイル22と二次コイル33が重なっている状態において、一次コイル22の移動を停止する必要が少なくなる。これにより、ワーク10をさらに効率良く誘導加熱することができる。
【0087】
なお、図示した形態では、ワーク10の太径部11及び小径部12の外周領域を誘導加熱する場合を示しているが、ワークの太さや使用する周波数を調整することにより、外周領域だけでなく表面から深い領域まで加熱することもできる。