(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の車体前部構造は、車両前方から衝撃荷重が入力されたときにクラッシュボックスが圧壊することによって入力荷重のエネルギーを吸収する。このため、クラッシュボックスは、フロントサイドフレーム等の車両の前部骨格部材が変形するより先に圧壊する必要があり、前部骨格部材よりも低い変形強度でなければならない。
また、上述した従来の車体前部構造では、バンパービームに入力される荷重が小さいときには、バンパービーム自体が変形することによって入力荷重のエネルギーを吸収する。このため、バンパービームの変形強度はある程度小さくする必要があるが、その変形強度は、小荷重の入力に対して車体前部のラジエータ等の機能部品を保護し得る範囲でなければならない。そして、バンパービームを支持するクラッシュボックスについても、変形強度は同様に車体前部の機能部品を保護し得る範囲でなければならない。
しかしながら、前部骨格部材に取り付けられるバンパービームとクラッシュボックスの材質や形状のみによって、各種の荷重入力の形態に適した変形強度に設定することは実際上難しい。
【0006】
そこでこの発明は、荷重入力の形態に適した各部の変形挙動を得ることができる車体前部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この
出願の発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
この
出願の一の発明に係る車体前部構造は、車両の前部骨格部材(例えば、実施形態のフロントサイドフレーム3、及び、補助サイドフレーム5)と、車両の前部に車幅方向に沿って配置されるバンパービーム(例えば、実施形態のバンパービーム9)と、前記バンパービームの後面に固定され、後端部が前記前部骨格部材の前端部に結合されるクラッシュボックス(例えば、実施形態のクラッシュボックス10)と、を備えた車体前部構造において、前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面との間に形成される角部にコーナー補強部材(例えば、実施形態のコーナー補強部材15)が配置され、該コーナー補強部材が前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面とに面で当接して接合され
、前記バンパービームは、車幅方向の端部に開口(例えば、実施形態の開口20)を有するとともに、該開口が蓋部材(例えば、実施形態の蓋部材21)によって閉塞され、前記蓋部材は、前記クラッシュボックス内に向かって延出する延長部(例えば、実施形態の延長部21b)を有するとともに、前記延長部が前記クラッシュボックスとともに前記前部骨格部材に結合されていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成により、バンパービームの前方から荷重が入力されると、その荷重はバンパービームの後面を通してクラッシュボックスの前端面に直接支持されるとともに、コーナー補強部材を介してクラッシュボックスの側面にも支持される。このため、バンパービームへの入力荷重が小さいときには、クラッシュボックスが圧壊せずに、主にバンパービームの変形によって荷重を吸収することができる。このとき、クラッシュボックスが圧壊しないため、車体前部に配置されているラジエータ等の機能部品を容易に保護することができる。また、クラッシュボックスに対して前面と側面から荷重が入力されるため、クラッシュボックスの広範囲の変形によって入力荷重のエネルキーを効率良く吸収することができる。
また、バンパービームに入力される荷重が大きい場合には、バンパービームの変形とともに、バンパービームからクラッシュボックスの前面に直接荷重が入力されるとともに、コーナー補強部材からクラッシュボックスの側面にその側面を押圧するように荷重が入力される。このため、クラッシュボックスは、コーナー補強部材の側面の押圧が契機となって車両前後方向に圧壊し易くなる。この結果、バンパビームに入力された入力荷重のエネルギーがクラッシュボックスの圧壊によって効率良く吸収される。また、上述のようにクラッシュボックスは、コーナー補強部材による側面の押圧が契機となって圧壊を開始するため、クラッシュボックスが圧壊する直前の耐荷重のピークは低く抑えられる。
また、この場合、バンパービームの車幅方向の一端側に大きなオフセット荷重が入力されると、一端側のクラッシュボックスに荷重が入力されてそのクラッシュボックスが圧壊するとともに、バンパービームの他端側の前方変位が他端側の蓋部材の延長部を通して車両の前部骨格部材によって拘束される。これにより、他端側のクラッシュボックスにも荷重が入力され易くなり、車幅方向の広い範囲で入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【0009】
前記蓋部材の前記延長部には、波形状の変形許容部(例えば、実施形態の変形許容部を21b−2)が形成されるようにしても良い。
この場合、前方からバンパービームに大きな荷重が入力されてクラッシュボックスが車体前後方向に圧潰しようとするときに、蓋部材の延長部が波形状の変形許容部で容易に変形するようになる。これにより、蓋部材の延長部がクラッシュボックスの圧壊の妨げにならないため、クラッシュボックスを設計通りの荷重範囲で圧潰させ易くなる。
【0010】
この出願の他の発明に係る車体前部構造は、車両の前部骨格部材(例えば、実施形態のフロントサイドフレーム3、及び、補助サイドフレーム5)と、車両の前部に車幅方向に沿って配置されるバンパービーム(例えば、実施形態のバンパービーム9)と、前記バンパービームの後面に固定され、後端部が前記前部骨格部材の前端部に結合されるクラッシュボックス(例えば、実施形態のクラッシュボックス10)と、を備えた車体前部構造において、前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面との間に形成される角部にコーナー補強部材(例えば、実施形態のコーナー補強部材15)が配置され、該コーナー補強部材が前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面とに面で当接して接合され、前記前部骨格部材は、車室の前部から前方に延出するフロントサイドフレーム(例えば、実施形態のフロントサイドフレーム3)と、車体のフロントピラーから車体前方側に延出して前端部が前記フロントサイドフレームの車幅方向外側に配置される補助サイドフレーム(例えば、実施形態の補助サイドフレーム5)と、を有し、前記フロントサイドフレームの側面の前端部から離間した位置には脆弱部(例えば、実施形態の脆弱部12)が設けられ、前記クラッシュボックスは、前記フロントサイドフレームの前端部と前記補助サイドフレームの前端部とに跨って結合され、前記補助サイドフレームの前端部と前記バンパービームの後面と前記フロントサイドフレームの側面には、上面視が略三角形状の補強ブロック(例えば、実施形態の補強ブロック13)が接合され、前記補強ブロックは、前記補助サイドフレームの前端部から前記フロントサイドフレームの前記脆弱部の近傍に向かって斜めに延出する荷重伝達壁(例えば、実施形態の荷重伝達壁13a)を有することを特徴とする。
この場合、バンパービームの車幅方向の一端側に大きなオフセット荷重が入力されると、その荷重は、車幅方向の一端側のクラッシュボックスを介してフロントサイドフレームと補助サイドフレームに伝達されるようになる。このとき、クラッシュボックスから上面視が略三角形状の補強ブロックにも荷重が伝達されるが、その荷重は補強ブロックの荷重伝達壁を通してフロントサイドフレームの脆弱部の近傍に作用する。このため、バンパービームを通した荷重入力が進行すると、クラッシュボックスが車体前後方向に圧潰した後にフロントサイドフレームが脆弱部を中心として中折れし易くなる。これにより、フロントサイドフレームと補助サイドフレームの変形によって入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【0011】
前記コーナー補強部材は、外側面の水平断面が多角形状の部材であり、前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面を斜めに結ぶように延出する傾斜壁(例えば、実施形態の傾斜壁15c)を少なくとも有する構成としても良い。
この場合、コーナー補強部材は、傾斜壁を有する多角形状の部材であるため、容易に製造することができるうえ、傾斜壁の肉厚を変更することによって、クラッシュボックスの圧壊のタイミング等を容易に設定調整することができる。
【0012】
前記コーナー補強部材は、前記バンパービームの後面に接合される第1側壁(例えば、実施形態の第1側壁15a)と、前記クラッシュボックスの側面に接合される第2側壁(例えば、実施形態の第2側壁15b)と、前記第1側壁と前記第2側壁を斜め結合する前記傾斜壁と、によって略三角形状の中空断面が形成され、前記第1側壁と前記第2側壁の間が断面略円弧状の弧状壁(例えば、実施形態の弧状壁15d)によって連結され、前記第1側壁と前記第2側壁の前記弧状壁と逆側の端部には、前記バンパービームの後面と前記クラッシュボックスの側面とにそれぞれ接合される延長フランジ(例えば、実施形態の延長フランジ15a−1,15b−1)が延設されるようにしても良い。
この場合、バンパービームの後面に接合される第1側壁と、クラッシュボックスの側面に接合される第2側壁の間が断面略円弧状の弧状壁によって連結されているため、バンパービームの後面とクラッシュボックスの側面の間の角部に溶接ビード等の隆起物があっても、コーナー補強部材をバンパービームの裏面とクラッシュボックスの側面とに容易に接合することができる。また、第1側壁と第2側壁の連接部分の応力集中を、断面略円弧状の弧状壁によって緩和することができる。また、第1側壁と第2側壁にはそれぞれ延長フランジが延設されているため、バンパービームやクラッシュボックスに対し、延長フランジを利用してコーナー補強部材を容易に接合することができるとともに、バンパービームやクラッシュボックスに対するコーナー補強部材の接合面積を増大させることができる。さらに、コーナー補強部材を金属の押し出しによって容易に製造することも可能になる。
【0013】
前記バンパービームは、車幅方向の端部に開口(例えば、実施形態の開口20)を有するとともに、該開口が蓋部材(例えば、実施形態の蓋部材21)によって閉塞され、前記蓋部材は、前記クラッシュボックス内に向かって延出する延長部(例えば、実施形態の延長部21b)を有するとともに、前記延長部が前記クラッシュボックスとともに前記前部骨格部材に結合されるようにしても良い。
この場合、バンパービームの車幅方向の一端側に大きなオフセット荷重が入力されると、一端側のクラッシュボックスに荷重が入力されてそのクラッシュボックスが圧壊するとともに、バンパービームの他端側の前方変位が他端側の蓋部材の延長部を通して車両の前部骨格部材によって拘束される。これにより、他端側のクラッシュボックスにも荷重が入力され易くなり、車幅方向の広い範囲で入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、バンパービームの後面とクラッシュボックスの側面の間の角部にコーナー補強部材が配置され、そのコーナー補強部材がバンパービームの後面とクラッシュボックスの側面とに面で当接して接合されているため、バンパービームに入力される荷重が小さいときには、バンピービームを優先させて変形させて入力荷重のエネルギーを吸収し、バンパービームに入力される荷重が大きいときには、コーナー補強部材による側面の押圧を契機としたクラッシュボックスの圧壊によって入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。したがって、この発明によれば、荷重入力の形態に適した各部の変形挙動を得ることができ、いずれの荷重入力の形態においても適切に入力荷重のエネルギーを吸収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面において、矢印FRは、車両の前方を指し、矢印UPは、車両の上方を指し、矢印LHは、車両の左側方を指す。
図1は、この実施形態に係る車両1の前部側の骨格部を模式的に示す図である。
同図中の符号2は、車室の前方に配置されるエンジンルームである。エンジンルーム2の車幅方向の両側には、車室の前部下方から前方に延出するフロントサイドフレーム3が配置されている。左右の各フロントサイドフレーム3の後部は、図示しないエクステンションを介して車両左右の強度部材であるサイドシルに連結されている。
【0018】
また、車体左右の図示しないセンターピラーには、車体前方に向かって延出する図示しないアッパメンバが延設されている。左右の各アッパメンバーの前部には、前端部が左右の対応するフロントサイドフレーム3の車幅方向外側に配置されるロアメンバ4が一体に結合されている。この実施形態においては、図示しないアッパメンバとロアメンバ4が補助サイドフレーム5を構成している。補助サイドフレーム5は、左右のフロントサイドフレーム3の車幅方向外側において、車体前方から入力された荷重をフロントサイドフレーム3ととも車体後方側に伝達する。
なお、左右のフロントサイドフレーム3の前縁部は、機能部品であるラジエータ6の下方側の支持部を兼ねるクロスメンバ7によって相互に連結されている。また、この実施形態においては、フロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5は車両の前部骨格部材を構成しいる。
【0019】
左右のフロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5の前端部には、バンパーユニット8が取り付けられている。
図2は、車両1の左前部の骨格部を左後部上方側から見た図であり、
図3は、
図2のIII−III線に沿った断面を示す図である。また、
図4は、バンパーユニット8を車両の左前部上方側から見た図であり、
図5は、
図4のV−V線に沿った断面を示す図である。
これらの図にも示すように、バンパーユニット8は、車幅方向に延出するバンパービーム9と、バンパービーム9の左右の端部の後面側に一体に取り付けられた一対のクラッシュボックス10と、を備えている。クラッシュボックス10は、規定以上の荷重が入力されたときに、車体前後方向に圧壊することによって入力荷重のエネルギーを吸収する。左右の各クラッシュボックス10の後面には、連結プレート11が結合されており、その連結プレート11がフロントサイドフレーム3の補助サイドフレーム5の前端部に跨って結合されるようになっている。
【0020】
図1,
図2に示すように、左右のフロントサイドフレーム3の外側側面のうちの、前端部から所定距離離間した位置には、車幅方向内側に向かって凹状窪んだ脆弱部12が設けられている。また、補助サイドフレーム5の前端部の一部と、連結プレート11(バンパービーム9の後面)と、フロントサイドフレーム3の外側側面には、上面視が略三角形状の補強ブロック13が接合されている。補強ブロック13は、中空の金属製のブロックであり、補助サイドフレーム5の前端部の車幅方向の内側寄り部分から、フロントサイドフレーム3の外側側面の脆弱部12の近傍に向かって斜めに延出する荷重伝達壁13aを有している。なお、
図2,
図3中の符号14は、フロントサイドフレーム3の前縁部の下面に結合され、図示しないサブフレームを支持するサブフレーム支持支柱である。
【0021】
図6は、バンパーユニット8の左側部分を下方側から見た斜視図であり、
図7は、バンパーユニット8の左側部分を水平方向で断面にして下方側から見た斜視図である。また、
図8は、バンパーユニット8の左側部分を前方から見た図である。
バンパービーム9は、車体の前面形状に沿って車幅方向の両縁部が後方側に緩やかに湾曲し、その両縁部の後面にクラッシュボックス10の前端部が結合されている。バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の車幅方向内側の側面とは略直角をなすように形成されている。バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の側面の間の角部には、外側面の水平断面が略直角三角形状であるコーナー補強部材15が配置されている。コーナー補強部材15は、バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の側面とに面で当接して溶接等によって接合されている。
【0022】
コーナー補強部材15は、例えば、アルミ押し出し等の金属の押し出しによって形成されている。コーナー補強部材15は、
図5〜
図7に示すように、バンパービーム9の後面に接合される第1側壁15aと、クラッシュボックス10の内側側面に接合される第2側壁15bと、第1側壁15aと第2側壁15bに対して斜めに傾斜して両者を連結する傾斜壁15cと、を有し、これらによって略直角三角形状の中空断面が形成されている。傾斜壁15cは、コーナー補強部材15がバンパービーム9とクラッシュボックス10に取り付けられた状態において、バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の側面を斜めに傾斜して結ぶように配置される。
【0023】
コーナー補強部材15の第1側壁15aと第2側壁15bとは、断面円弧状の弧状壁15dによって連結されている。そして、第1側壁15aの弧状壁15dと逆側の端部には、傾斜壁15cとの連結部よりも外側に延出する延長フランジ15a−1が延設されている。同様に、第2側壁15bの弧状壁15dと逆側の端部には、傾斜壁15cとの連結部よりも外側に延出する延長フランジ15b−1が延設されている。
【0024】
バンパービーム9は、
図5に示すように、車幅方向に略水平に延出する複数(実施形態の例では、2つ)の横壁16が、外壁の内側に上下に離間して配置されている。バンパービーム9の車体前後方向と上下方向に沿う断面は、内部が横壁16によって仕切られた複数の中空部17を有している。
【0025】
クラッシュボックス10は、
図7に示すように、車体前後方向に延出する複数(実施形態の例では、2つ)の縦壁18が、外壁の内側に左右に離間して配置されている。クラッシュボックス10の車幅方向と上下方向に沿う断面は、内部が縦壁18によって仕切られた複数の中空部19を有している。
【0026】
また、バンパービーム9は、
図7に示すように、車幅方向の両側の端部が後部側方に向かって斜めに傾斜し、その斜めに傾斜した部分に開口20が設けられている。開口20は、板金製の蓋部材21によって閉塞されている。蓋部材21は、
図4,
図7,
図8に示すように、開口20を閉塞する上下幅の広い蓋本体部21aと、蓋本体部21aの車幅方向外側の端部からクラッシュボックス10の中空部19内に向かって延出する、蓋本体部21aよりも幅の狭い延長部21bと、を有している。
【0027】
蓋本体部21aは、バンパービーム9の両側の各端部に対して溶接等の適宜手段によって接合されている。また、延長部21bの先端側には、車幅方向外側に向かって屈曲した接合フランジ21b−1が設けられている。延長部21bは、クラッシュボックス10の中空部19内に挿入され、接合フランジ21b−1がクラッシュボックス10の後部側で連結プレート11の上面に重ねられている。延長部21bの接合フランジ21b−1は、連結プレート11とともに、車両の前部骨格部材である補助サイドフレーム5の前端部にボルト結合されるようになっている。また、延長部21bには、
図4,
図7に示すように、車体前後方向に略沿って波形状に曲げられた変形許容部21b−2が設けられている。変形許容部21b−2は、延長部21bに車体の前後方向に沿う圧縮荷重が作用したときに、蛇腹状に変形することによって反力の発生を抑制する。
【0028】
つづいて、バンパービーム9の前方から荷重が入力されたときにおける車両前部の各部の挙動について説明する。
バンパービーム9の前方から荷重が入力されると、その荷重は、バンパービーム9の後面を通してクラッシュボックス10の前端面に直接支持されるとともに、剛性の高いコーナー補強部材15を介してクラッシュボックス10の内側側面にも支持される。
【0029】
図9は、バンパービーム9の前方から入力される荷重が小さい場合のバンパーユニット8の各部の応力分布をドットによる濃淡を付けて示した図である。図面においては、ドットが濃い部分ほど応力が高くなっている。後の説明で用いる
図10,
図11についても同様である。
バンパービーム9の前方から入力される荷重が小さい場合には、バンパービーム9に入力された荷重は、クラッシュボックス10の前端面に直接支持されるとともに、コーナー補強部材15を介してクラッシュボックス10の内側側面でも支持される。このため、
図9に示すように、バンパービーム9に入力された荷重は、クラッシュボックス10の前端面と内側側面によって受け止められ、これらの付近の応力が若干高まるものの、クラッシュボックス10の圧壊が開始されるほどの応力の高まりは生じない。
【0030】
このとき、クラッシュボックス10が圧壊せずにバンパービーム9のみが変形するため、車両前部の機能部品であるラジエータ6等に荷重が作用するのを防止することができる。したがって、車両前部に配置されている機能部品を容易に保護することができる。
また、このときクラッシュボックス10は、車体前後方向に圧壊しないものの、前端面と内側側面とで荷重を受けて僅かに変形するため、クラッシュボックス10の広範囲の変形によって入力荷重のエネルキーを効率良く吸収することができる。
【0031】
図10は、バンパービーム9の前方から入力される荷重が大きい場合のバンパーユニット8の各部の応力分布を、
図9と同様にして示した図である。また、
図11は、バンパービーム9の前方から入力される荷重が増大した場合のバンパーユニット8の各部の応力分布を、
図9と同様にして示した図である。
バンパービーム9に入力される荷重が大きい場合には、バンパービーム9が変形しつつ、バンパービーム9からクラッシュボックス10の前端面に直接荷重が入力されるとともに、
図10に示すように、コーナー補強部材15の傾斜壁15cからクラッシュボックス10の内側面に、その内側側面を押圧するように荷重が入力される。特に、バンパービーム9の幅方向の中央領域に大きな荷重が入力された場合には、コーナー補強部材15が傾斜して傾斜壁15cを内側面に喰い込ませるようにクラッシュボックスの内側面を強く押圧するようになる。
【0032】
このとき、クラッシュボックス10は、コーナー補強部材15による内側面の押圧が契機となって車両前後方向に圧壊し易くなる。したがって、バンパービーム9の前方からの荷重の入力が継続されると、
図11に示すように、クラッシュボックス10が圧壊を開始し、この圧壊によって入力荷重が効率良く吸収されるようになる。
【0033】
また、クラッシュボックス10は、コーナー補強部材15による内側面の押圧が契機となって比較的容易に圧壊を開始するため、クラッシュボックス10が圧壊する直前の耐荷重のピークは低く抑えられる。このため、例えば、車両に装備されるエアバッグ装置が、車両に作用する加速度(減速度)に基づいて作動判断を行っている場合に、一時的に加速度(減速度)が高まって望まないタイミングでエアバッグが作動するのを回避することができる。また、フロントサイドフレーム3、補助サイドフレーム5の耐荷重を越えないため、効率良くクラッシュボックス10を変形させることができる。
【0034】
図12は、車両の前方から荷重が入力されたときの、コーナー補強部材15を備えた本実施形態に係る車両と、コーナー補強部材15を備えない比較例の車両の変形ストロークと入力荷重の関係特性を示した図である。なお、
図12において、aは、本実施形態に係る車両の特性を示し、bは、比較例の車両の特性を示している。また、
図12において、c,dは、エアバッグ装置の作動の有無を判断するとともに、最適な衝突のシビリアリティの判断ができる荷重の上限値と下限値である。この衝突のシビアリティとは、衝突規模のことで、例えば、バンパービーム9だけの変形、バンパービーム9とクラッシュボックス10の変形、車体骨格のフロントサイドフレーム3の変形である。
図12中のcの水平部分のCfは、フロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5の耐荷重を示す。
図12に示すように、本実施形態に係る車両においては、クラッシュボックス10が圧壊する直前の耐荷重のピークが低く抑えられるため、荷重の入力時に、望まないタイミングでエアバッグ装置の加速度センサの検出値が上限値を超えるのを防止することができ、クラッシュボックス10を潰れ残りなく変形させることができる。
【0035】
また、バンパービーム9の前方から入力される荷重がさらに大きい場合には、クラッシュボックス10が前後方向に圧壊した後に、フロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5が変形することによって入力荷重のエネルギーを吸収するようになる。
【0036】
以上のように、この実施形態の車両前部構造においては、バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の側面の間の角部にコーナー補強部材15が配置され、コーナー補強部材15がバンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の内側面とに面で当接して接合されている。このため、入力荷重が小さいときには、バンパービーム9を優先させて変形させて入力荷重のエネルギーを吸収し、入力荷重が大きいときには、コーナー補強部材15による内側面の押圧によってクラッシュボックス10の圧壊の開始を促進して、入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することができる。
したがって、この実施形態に係る車両前部構造を採用した場合には、いずれの荷重入力の形態においても、荷重入力の形態に適した各部の変形挙動を得ることができる。
【0037】
また、この実施形態の車両前部構造では、コーナー補強部材15が、外側面の水平断面が多角形状の部材であり、傾斜壁15cを少なくても有している。このため、コーナー補強部材15を容易に製造することができるうえ、傾斜壁15cの肉厚を変更することによって、クラッシュボックス10の圧壊のタイミングや挙動を容易に設定調整することができる。
【0038】
特に、この実施形態の場合、コーナー補強部材15は、第1側壁15aと第2側壁15bと傾斜壁15cとを有する略三角形状の中空断面形状とされ、第1側壁15aと第2側壁15bが弧状壁15dによって連結され、第1側壁15aと第2側壁15bの弧状壁15dと逆側の端部にそれぞれ延長フランジ15a−1,15b−1が延設されている。このため、バンパービーム9の後面とクラッシュボックス10の側面の間の角部に隆起物等があっても、コーナー補強部材15が、この隆起物等と干渉するのを弧状壁15dの外側の円弧面によって回避することができる。したがって、コーナー補強部材15をバンパービーム9とクラッシュボックスの10とに容易に接合することができる。また、第1側壁15aと第2側壁15bの連接部分に応力が集中するのを、断面略円弧状の弧状壁15dによって緩和することができる。
さらに、この実施形態の場合、第1側壁15aと第2側壁15bにそれぞれ延長フランジ15a−1,15b−1が延設されているため、延長フランジ15a−1,15b−1を用いて、コーナー補強部材15をバンパービーム9のとクラッシュボックス10に容易に接合することができる。バンパービーム9やクラッシュボックス10に対するコーナー補強部材15の接合面積も増大させることができる。さらに、コーナー補強部材15をこのような形状にした場合には、アルミ押し出し等の金属の押し出しによってコーナー補強部材15を容易に製造することができる。
【0039】
また、この実施形態の車両前部構造は、バンパービーム9が、横壁16で仕切られた複数の中空部17を有し、クラッシュボックス10が、縦壁18で仕切られた複数の中空部19を有する構造とされているため、前方からバンパービーム9に入力された荷重を、内部が多層構造とされたバンパービーム9とクラッシュボックス10を通して、フロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5に効率良く伝達することができる。
【0040】
また、この実施形態の車両前部構造においては、バンパービーム9の両端部の開口20が蓋部材21によって閉塞され、蓋部材21に延設された延長部21bが、クラッシュボックス10内でクラッシュボックス10とともに補助サイドフレーム5の前端部に結合されている。このため、バンパービーム9の一端側に大きなオフセット荷重が入力されたときに、バンパービーム9が荷重入力方向に沿って傾斜して、バンパービーム9の他端側が前方に浮き上がるのを、他端側の蓋部材21の延長部21bによって拘束することができる。この結果、他端側のクラッシュボックス10にも荷重が入力され易くなるため、車幅方向の広い範囲で入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することがてきる。
【0041】
特に、この実施形態の場合、蓋部材21の延長部21bに波形状の変形許容部21b−2が形成されているため、バンパービーム9に荷重が入力されたときに、蓋部材21の延長部21bがクラッシュボックス10の圧壊の妨げになるのを抑制することができる。したがって、この構造を採用することにより、クラッシュボックス10を設計通りの荷重範囲で圧潰させることが可能になる。
【0042】
さらに、この実施形態の車両前部構造においては、クラッシュボックス10が、フロントサイドフレーム3の前端部と補助サイドフレーム5の前端部とに跨って結合され、補助サイドフレーム5の前端部とバンパービーム9の後面とフロントサイドフレーム3の側面に、上面視が略三角形状の補強ブロック13が接合され、補強ブロック13の荷重伝達壁13aが補助サイドフレーム5の前端部からフロントサイドフレーム3の脆弱部12の近傍に向かって斜めに延出している。このため、バンパービーム9の車幅方向の一端側に大きなオフセット荷重が入力されたときに、上面視が略三角形状の補強ブロック13の荷重伝達壁13aを通して、入力荷重をフロントサイドフレーム3の脆弱部12の近傍に作用させることができる。したがって、クラッシュボックス10が圧壊した後に、フロントサイドフレーム3が脆弱部12を中心として中折れし易くなる。よって、この構造を採用した場合、フロントサイドフレーム3と補助サイドフレーム5の変形によって入力荷重のエネルギーを効率良く吸収することが可能になる。
【0043】
ここで、上記の実施形態のコーナー補強部材15は、外側面の水平断面が略直角三角形状に形成されているが、コーナー補強部材は、外側面の水平断面が多角形状であって、バンパービームの後面とクラッシュボックスの外側側面を斜めに結ぶように延出する傾斜壁を有するものであれば、他の形状であっても良い。
【0044】
図13,
図14は、上記の実施形態と形状の異なるコーナー補強部材115,215の例を示す図である。
図13に示すコーナー補強部材115は、外側面の水平断面が略四角形状に形成され、内部に対角同士を連結するように傾斜壁115cが設けられている。
また、
図14に示すコーナー補強部材215は、外側面の水平断面が略三角形状に形成され、傾斜壁15cとその対角を結ぶように補強リブ215eが設けられている。この場合、補強リブ215eによってコーナー補強部材215の剛性が効率良く高められる。
【0045】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。