特許第6241011号(P6241011)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6241011-浮体型風車係留装置 図000002
  • 特許6241011-浮体型風車係留装置 図000003
  • 特許6241011-浮体型風車係留装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241011
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】浮体型風車係留装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/50 20060101AFI20171127BHJP
   B63B 35/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B63B21/50 A
   B63B35/00 T
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-215404(P2013-215404)
(22)【出願日】2013年10月16日
(65)【公開番号】特開2015-77858(P2015-77858A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189589
【氏名又は名称】上野 康男
(72)【発明者】
【氏名】上野 康男
【審査官】 常盤 務
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−201191(JP,A)
【文献】 特表2012−515114(JP,A)
【文献】 特開平07−158014(JP,A)
【文献】 特開2003−118677(JP,A)
【文献】 特開2012−056333(JP,A)
【文献】 特開2011−245879(JP,A)
【文献】 特開昭50−020547(JP,A)
【文献】 特開2009−018671(JP,A)
【文献】 特開2014−101792(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0187693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/50
B63B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力を持つ基部と、
海底に設置した重錘と、
前記基部と重錘の中間部に中間フレームとを設け、
前記基部には上方に伸びるポールを設け、
前記ポールの上部に風車装置を設け、
前記基部から水平方向に放射線状に伸ばして植設した複数の浮体腕部材のそれぞれの先端に設けられた結合部材と、
前記重錘の中心部から水平方向に放射線状に伸び、前記結合部材と対応する位置に設けられた複数の重錘腕部材のそれぞれの先端に設けられた重錘結合部材とを、
前記中間フレームの外周部を貫通する如く固定するメイン係留索、及び前記中間フレームの中央部を貫通する如く固定するサブ係留索により結合したことを特徴とする浮体型風車係留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水深の深い洋上などに設置する浮体型風車係留装置に関するものであり、特に浮体の位置の移動を減少するとともに係留索に加わる張力の変動を軽減することで浮体及び係留用の重錘の小型化とコストダウンを可能とする浮体型風車係留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生可能な自然エネルギーの内最も有効とされている風力も地上での設置は騒音、景観等の制約から大きく発展することに制限が掛かっている。今後は広い洋上への設置が問題解決の早道とされている。特に水深の深い海でも設置可能な浮体式とすれば充分な広さと安定した風に恵まれ、上記のごとき騒音や景観の制約も少ない。しかし、気象状況によって大きな波が発生する為に現在は浮体自体の形状に工夫を凝らして揺れを防止する対策をとっている。更に、洋上では設置に要する費用が大きくなるのでこれを削減する為の技術が重要であるが、本案はその解決も含めたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−018671号公報
【特許文献2】特願2012−253844号(特開2014-101792号公報) 代表的なものとしては上記文献が示すとおりスパー型と呼ばれ、縦に長い形状の浮体の多くの部分が水中にあるごとく浮かべ、下部を鎖や鋼索等で海底に固定する方式のものである。 また、複数の浮体と海底に設置した重錘を係留索で繋ぎ、浮体の浮力で係留索に張力を与えて水底からの位置を安定させるいわゆるテンドン方式も提案されている。
【0004】
しかるに、スパー型とした場合は浅い海上を移動するのが極めて困難な為、製造時には分割したものとして設置場所にて洋上での組立作業が必要となり、作業は波のない静かなときに限られ、それでも多くの危険をはらんだ作業となる。また、一旦設置した後は保守作業時にも移動が困難な為に危険な洋上作業となり、設置及び保守の両方における作業コストが嵩む欠点が有る。しかも波による揺れは比較的大きくプロペラ型の風車へ適用した場合には悪天候での運用に制限が掛かることが予想される。
【0005】
テンドン方式は、波によって水面が上下した場合、浮体に発生する浮力が大きく変動し係留索の張力変化が大きくまた、風力や潮流による水圧によって生じる水平方向の力に対しての保持力が小さいために大きな位置移動を生じ、長期間には係留索の破断の恐れもあり、これを防ぐ為には係留索周辺の構造的な強度の向上が必要であり、海底に設置する必要重錘の重量が大きくなり結果的にコストアップの原因となっている。
【0006】
前者は、本来不安定な洋上での組立や保守作業は出来るだけ少なくしてドック内で完成したものを設置場所に移送して設置し、保守作業もドック内に移送して安全な状態で行えるものが望まれているのに対して最良の回答にはなっていない。
後者は、風力や潮流による水圧によって生じる水平方向の力に対しての保持力が小さいために大きな位置移動を生じ、現地での設置には前者より有利であるがワイヤーの張力変動が大きい為に浮体及び重錘が大型となり係留索周辺の構造強度を高める為などによりコストアップ要因が多い。
【0007】
特願2012−253844号(特開2014-101792号公報)によるものは出願人の特許出願であるが、テンドンのような緊張係留索ではなく緩く張った係留索による保持方法の為、比較的浅い湖沼などに小型の装置を設置する場合に安価で有効なものであるが、水流がある場合や水位変動が大きい場合には充分な性能を発揮できなくなる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
洋上での組立や保守作業は出来るだけ少なくしてドック内で完成したものを設置場所に移送して設置し、保守作業もドック内に移送して安全な状態で行えるごとき浮体型風車係留装置を可能にすることであり、風力や潮流による水圧によって生じる位置移動を少なくし、係留索の張力変動を小さくして浮体及び重錘を小型化して大幅なコストダウンを可能にする浮体型風車係留装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題を解決するための第1の手段は、テンドン方式における基部周辺に配置した複数個のフロートを廃し中心部に纏めることと基部から水平方向に伸ばして植設した複数の浮体腕部材と海底に設置した重錘の中心部から水平方向に伸ばした複数の重錘腕部材とを夫々主係留索で結ぶことで上記課題を解決する浮体型風車係留装置を提供することである。
【0010】
本発明の上記課題を解決するための第2の手段は、該浮体腕部材と重錘の中心部を補助係留索で接続することによって、風力や潮流による水圧によって生じる位置移動を少なくし、係留索の張力変動を小さくして浮体及び重錘を小型化して大幅なコストダウンを可能にする浮体型風車係留装置を提供することである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の効果は、フロートを中心部に纏めることと基部から水平方向に伸ばして植設した複数の浮体腕部材と海底に設置した重錘の中心部から水平方向に伸ばした複数の重錘腕部材とを夫々主係留索で結ぶことによって、浮体型風車係留装置自体を曳航するときの移動抵抗を大幅に軽減できる。また装置をドックで完成したあと設置現場まで曳航するときの曳航船の構造をテンドン方式における複数個のフロートを収納する為の特別な装置を必要としない為に大幅に簡略化できるため費用負担を軽減して結果的に設置現場における危険な洋上作業を少なくし、ドック内の安全な作業に切り替えることができる。
【0012】
本発明の第2の効果は、該浮体腕部材と重錘の中心部を補助係留索で接続することによって、風力や潮流による水圧によって生じる位置移動を少なくし、係留索の張力変動を小さくして浮体及び重錘を小型化して大幅なコストダウンを可能にする浮体型風車係留装置を提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の浮体型風車係留装置の構造を2次元化して示す模式側面図である。
図2図2は、テンドン式浮体型風車係留装置の構造を2次元化して示す模式側面図である。
図3図3は、本発明の浮体型風車係留装置の他の実施例の構造を2次元化して示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の浮体型風車係留装置を説明の簡略化のために2次元化した実施形態を示す。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の浮体型風車係留装置の構造を2次元化して示す模式側面図である。本来は立体的なものであるが説明を明確にするために2次元化して平面的な状態としている。
図1において、水上に浮かぶ基部1の上部にはポール2が設けられその上部に風車装置3が設けられている。図においてはアップウインド型のものとされているがこの形式に限定するものではない。4は基部1から水平方向に植設された浮体腕部材であり、該浮体腕部材4の先端には結合部材5が設けられている。結合部材5は特別に浮力を有するものではないが、体積に応じて多少の浮力を有していても良い。6は海底に設置する重錘腕部材であり、7は結合部材5と対応する位置に設けた重錘結合部材であり、8は重錘中心部である。9は結合部材5と重錘結合部材7とを結ぶメイン係留索であり、10は結合部材5と重錘中心部8を結ぶサブ係留索である。尚、図1においてはサブ係留索10は結合部材5と重錘中心部8を結んでいるが、逆に基部1の下部と重錘結合部材7とを結んでも理論的にはほぼ同様の効果を得ることができるものである。Wは風によって風車装置3が受ける力、Lは潮流によって係留装置全体が受ける力、Hは波の高さである。
[作用]
【0016】
上記実施形態に示す本発明の浮体型風車係留装置の作用について説明する。
図1において、風車装置3に風が当たりWの力が加わると係留装置は水平の力Wと風車装置3の結合部材とメイン係留索9及びサブ係留索10との結合部からの高さによるモーメントを受ける。水平方向の力Wは左右のサブ係留索10の張力の差によって支えられ、モーメントは左右のメイン係留索9の張力の差によって支えることができるので係留装置は流されたり傾いたりすることはない。但し、メイン係留索9には基部1の浮力によって充分な初期張力が加えられていることが条件であり、その条件を満たす為には重錘結合部材7及び重錘中心部8の重量は上記初期張力及び上記モーメントによって浮き上がらないだけの充分な重量が必要となる。
【0017】
また、潮流による流体抵抗によって係留装置に加わる力LはWと同様に係留装置を横に押し流そうとするがWのようなモーメントを生じることはない。従って、Lによる押し流し力は左右のサブ係留索10の張力の差によって支えられる。この場合多少の横移動が許されるならばサブ係留索10に初期張力を加えておく必要はない。
【0018】
尚、波による揺れに関しては水上に浮かぶ基部1の喫水の変化は左右の揺れモーメントとはならず左右のメイン係留索9に分散された張力変化として加わるため重錘結合部材7が単独でこれを支える必要はない。特にサブ係留索9が重錘中心部8に結合されている為に重錘全体の重量が該張力変化を支えることとなり、その分重錘の重量が小さくて済むこととなる。
【0019】
図1及び上記の説明においては、2次元化した形であるが、実際には基部1から水平方向に放射線状に植設された浮体腕部材4は該基部1の周辺に複数個あり、該浮体腕部材4の先端には夫々結合部材5が設けられている。重錘腕部材6も結合部材5と対応する海底位置に複数個設けられ、重錘中心部8から放射線状に設けられた形となっている。したがって図における紙面に直角な方向においても同様の機能が得られるものである。
【0020】
図2は、従来のテンドン式浮体型風車係留装置の構造を2次元化して示す模式側面図である。
図2において、水面上にある基部11の上部にはポール12が設けられその上部に風車装置13が設けられている。14は基部1から水平方向に植設された腕部材であり、該腕部材14の先端にはフロート部材15が設けられている。フロート部材15は体積に応じて充分な浮力を有するものである。16はフロート部材15と対応する位置に設けた重錘結合部材である。18は結合部材15と重錘結合部材16とを結ぶ係留索である。尚、Wは風によって風車装置13が受ける力、Lは潮流によって係留装置全体が受ける力、Hは波の高さである。
【0021】
図2の場合、風車装置13に風が当たりWの力が加わると係留装置は水平の力Wと風車装置13の結合部材16と係留索18との結合部からの高さによるモーメントを受ける。
水平の力Wは係留装置全体が横移動することで生じる幾何学的な水面からの距離変化dによって生じるフロート部材15の浮力の増加があり、該浮力の増加と係留索18の傾きによって生じる横方向の力のバランスによって支えられる。従って、Wによる横方向の移動は折込済みであり、これをなくすることは出来ない。また、モーメントに関しては左右の係留索18の張力変化によって支えることができる。
【0022】
また、潮流による流体抵抗によって係留装置に加わる力Lは風による力Wと同様に係留装置全体が横移動することで生じる幾何学的な水面からの距離変化dによって生じるフロート部材15の浮力の増加があり、該浮力の増加と係留索18の傾きによって生じる横方向の力のバランスによって支えられる。従って、Wによる横方向の移動は折込済みであり、これをなくすることは出来ない。
【0023】
尚、波による揺れに関してはフロート部材15の喫水の変化が直接係留索18の張力変化として加わるため大きな波があった場合、重錘結合部材16が単独でこれを支えて浮き上がらないだけの重量を備えていることが必要となる。
【0024】
図3は、本発明の浮体型風車係留装置の他の実施例の構造を2次元化して示す模式側面図である。
図3において水上に浮かぶ基部1と海底に設置する重錘腕部材6との間に中間フレーム31が設けられその外周部32にはメイン係留索9が貫通するごとく固定され、中央部33にはサブ係留索10が貫通するごとく固定されてその先が重錘結合部材7に固定されている。図3に示す実施例の場合水深が図1の場合の2倍になった状態に適すものである。
サブ係留索10の傾斜角が図1に示す実施例と同様なので風によって受ける力W及び潮流によって受ける力Lによるサブ係留索10の作用によってフロートの位置移動は制限され、図2に示す実施例の場合のように水深に比例してフロートの位置移動大きくなるようなことはない。更に基部1が風車のトルクなどによって回転方向にねじれるのを防ぐ場合には図1図3においては2次元的なものとして説明したので省略されているが、円周上に配置された結合部材5と同様に円周上に配置された重錘結合部材7とにおいて、お互いに隣接するもの同士を斜めに結合する係留索を追加することで防止できることを付記するものである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上の説明で明らかなごとく本発明の浮体型風車係留装置は風及び潮流による力での位置移動を防止でき、風力及び波による傾きモーメントが海底の重錘に加わる力も軽減できる為、全体の重量を大幅に軽減して製作を容易にし、コストを削減できる。この効果は係留索の中間に中間フレームを設けた場合、海底の深さが深くなるほど従来の方式に比べて位置移動の低減効果は高まる。更にフロート部分を中央に纏めた為、曳航する場合の曳航船がこれまでの方式で必要とされた複数のフロートの収容機能を削除できるものとなり、構造を大幅に簡略化できるので低コストでの曳航が可能となり、ドックでの製造、保守作業を拡大できる為安全性の向上に大きな効果を上げることが出来、その産業上の効果は極めて著しい。
【符号の説明】
【0026】
1 基部
2 ポール
3 風車装置
4 浮体腕部材
5 結合部材
6 重錘腕部材
7 重錘結合部材
8 重錘中心部
9 メイン係留索
10 サブ係留索
11 基部
12 ポール
13 風車装置
14 腕部材
15 フロート部材
17 重錘結合部材
19 係留索
20 大径部
21 フック
31 中間フレーム
32 外周部
33 中央部
W 風によって受ける力
L 潮流によって受ける力
H 波の高さ
d 水面からの距離変化
図1
図2
図3