(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ノズルが形成されたインク吐出面を有し、被記録媒体に対して前記インク吐出面と平行な所定の走査方向に往復移動しつつ、前記ノズルから前記被記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記被記録媒体を、前記走査方向に沿って、前記インク吐出面に近づく山部分と前記インク吐出面から遠ざかる谷部分とが交互に並んだ、所定の波形状に保持する波形状保持機構と、
前記インクジェットヘッドの前記走査方向における移動と、前記ノズルのインク吐出動作とを制御するヘッド制御手段と、を備え、
前記ヘッド制御手段は、前記インクジェットヘッドが所定の印刷範囲内を移動する間における、前記ノズルがそれぞれインクを吐出する吐出タイミングを決定する吐出タイミング決定手段を有し、
前記印刷範囲には、前記インクジェットヘッドの移動速度が増加する加速範囲と前記移動速度が減少する減速範囲との少なくとも一方が含まれ、
前記吐出タイミング決定手段は、
前記インクジェットヘッドが前記加速範囲又は前記減速範囲を移動する間における前記吐出タイミングを、前記被記録媒体の前記波形状に関する情報から取得される前記インク吐出面と前記被記録媒体との間の距離と、前記インクジェットヘッドの移動速度の変化量とに応じて決定し、
前記ヘッド制御手段は、
前記インクジェットヘッドを前記走査方向の一方向に移動させる際に、前記波形状が生じている前記被記録媒体の前記一方向に対して上り斜面となっている第1領域には前記ノズルからインクを吐出させる一方で、前記被記録媒体の前記一方向に対して下り斜面となっている第2領域には前記ノズルからインクを吐出させず、
前記インクジェットヘッドを前記走査方向の他方向に移動させる際に、前記被記録媒体の前記第2領域に前記ノズルからインクを吐出させることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、記録シートを上述したような波形状にしているため、記録ヘッドのインク吐出面と記録シートとの距離が、記録シートの部分毎に異なる。そのため、インク吐出面との距離がほぼ均一な記録シートに印刷を行う場合と同じ吐出タイミングで記録ヘッドからインクを吐出して記録シートに印刷を行うと、記録シートに着弾するインクに着弾位置ズレが生じ、画質の低下につながる。
【0005】
一方、特許文献1に記載のインクジェットプリンタでは、キャリッジを往復走査させつつ、記録ヘッドからインクを吐出させているが、キャリッジを往復走査させる場合、キャリッジは、その移動方向を反転する直前に減速し、その後、それまでの移動方向と反対方向に加速することとなる。そして、このようなインクジェットプリンタでは、キャリッジが加速又は減速する間に、記録ヘッドからインクを吐出させて印刷を行うことがある。
【0006】
しかしながら、キャリッジが加速又は減速する間に記録ヘッドからインクを吐出させる場合、インクの吐出タイミング毎に、キャリッジの移動速度が異なる。そのため、キャリッジの移動速度の変化を考慮せずにインクの吐出タイミングを決定すると、記録シートに着弾するインクに着弾位置ズレが生じ、これによっても画質の低下につながる。
【0007】
本発明の目的は、被記録媒体を、走査方向に沿って山部分と谷部分とが交互に並ぶ波形状にし、且つ、インクジェットヘッドが加速又は減速する間にもインクジェットヘッドからインクを吐出させて印刷を行う場合でも、被記録媒体の適切な位置にインクを着弾させることが可能なインクジェットプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係るインクジェットプリンタは、ノズルが形成されたインク吐出面を有し
、前記ノズルか
ら被記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記被記録媒体に対して前記インク吐出面と平行な所定の走査方向に前記インクジェットヘッドを往復移動させるヘッド走査手段と、前記被記録媒体を、前記走査方向に沿って、前記インク吐出面に近づく山部分と前記インク吐出面から遠ざかる谷部分とが交互に並んだ、所定の波形状に保持する波形状保持機構と、
制御部と、を備え、前記
制御部は、前記
ヘッド走査手段を制御
し、前記インクジェットヘッドの移動速度を、所定速度まで増加させた後、前記所定速度で一定に維持し、その後、前記所定速度から減少させ
、前記インクジェットヘッドが所定の印刷範囲内を移動する間における、前記ノズルがそれぞれインクを吐出する吐出タイミングを決定
し、前記印刷範囲には、前記移動速度が増加する加速範囲と前記移動速度が減少する減速範囲との少なくとも一方と、前記移動速度が前記所定速度で一定に維持される定速範囲とが含まれ、
さらに、前記制御部は、前記被記録媒体に着弾するインクの前記走査方向の解像度が第1解像度の場合は、前記解像度が前記第1解像度よりも低い第2解像度の場合に比べて、前記所定速度が低速になるように、前記ヘッド走査手段を制御し、前記走査方向に延びるエンコーダベルトに形成されたスリットを検出することによって前記インクジェットヘッドの位置を検出するエンコーダセンサからの信号を受信し、前記エンコーダセンサが検出した前記スリットの数をカウント
し、カウンタがカウントした前記スリットの数に基づいて、
前記解像度に対応した前記インクジェットヘッドの前記走査方向の位置である基準吐出位置と、前記移動速度に応じた第1遅延時間
と、前記波形状が生じている前記被記録媒体において前記走査方向に関するインクの着弾位置の間隔を一定とするために必要な第2遅延時間と、を算出
し、前記インクジェットヘッドが前記定速範囲にあるときは前記第1遅延時間を0とし、前記インクジェットヘッドが前記加速範囲又は前記減速範囲にあるときは前記移動速度が遅いときほど長くなるように前記第1遅延時間を算出
し、ある基準となる谷部分における前記第2遅延時間を0とし、前記谷部分以外の位置については前記谷部分を基準とした高さが高くなるほど長くなるように前記第2遅延時間を算出
し、前記波形状に関する情報から取得される前記インク吐出面と前記被記録媒体との間の距離と、前記移動速度の変化量とに応じて前記吐出タイミングを決定する際に、
算出した前記基準吐出位置でインクを吐出する場合の吐出タイミングである基準吐出タイミングから、前記第1遅延時間と前記第2遅延時間とを足し合わせた時間だ
け遅らせ
ることを特徴とする。
【0009】
波形状保持機構によって被記録媒体を走査方向に沿った波形状に保持すると、走査方向に沿ってインク吐出面と被記録媒体との距離が変動する。一方で、ヘッドの加減速中にインクを吐出させる場合にも、ヘッドの速度変化に応じて着弾ズレが生じる。これに対して本発明では、インク吐出面と被記録媒体との間の距離に応じて吐出タイミングを決定し、さらに、加減速範囲における吐出タイミングについては、ヘッドの速度変化をも考慮して決定するため、被記録媒体の適切な位置にインクを着弾させることができる。
また、加速範囲や減速範囲では、定速範囲と比べて、ヘッドの移動速度が遅い。即ち、加速範囲又は減速範囲では、定速範囲と比較して、インクを吐出するときの吐出タイミングの間隔が長くなる。従って、加速範囲や減速範囲では、被記録媒体の波形状に応じて吐出タイミングが補正される場合に、連続する吐出タイミングの間隔が多少短くなるように補正されたとしても、連続する吐出タイミングの間隔が非常に短くなることがない。
【0010】
第1の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記
制御部は、前記被記録媒体の前記波形状に関する情報に基づいて複数の前記吐出タイミングを決定する際には、まず、ある基準となる谷部分における前記距離で前記被記録媒体が前記インク吐出面から離れているとしたときの、前記複数の吐出タイミングをそれぞれ決定し、次に、前記谷部分以外の位置に吐出するときの前記吐出タイミングについては、前記谷部分以外の位置における前記距離の、前記基準となる谷部分における前記距離に対する距離差に応じて、遅延時間を決定する。
【0011】
谷部分ではインク吐出面と被記録媒体との距離が最大になる。本発明では、まず、谷部分を基準にして吐出タイミングを決定し、谷部分よりもインク吐出面との距離が小さい、谷部分以外の位置については、インク吐出面と被記録媒体との距離に応じて、上記基準の吐出タイミングに対する遅延時間を決定することにより、被記録媒体の各部分に対する吐出タイミングを決定することができる。
【0012】
第
2の発明に係るインクジェットプリンタは、第
1の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記印刷範囲には、前記減速範囲が含まれていることを特徴とする。
【0013】
本発明によると、減速範囲では、ヘッドの移動速度が減少していくために、吐出タイミングの遅延時間を大きくしていく必要がある。つまり、吐出タイミングの間隔は広がっていく。従って、被記録媒体の波形状に応じて吐出タイミングが補正される場合に、連続する吐出タイミングの間隔が多少短くなるように補正されたとしても、連続する吐出タイミングの間隔が非常に短くなることがない。
【0016】
第3の発明に係るインクジェットプリンタは、第
1又は第2の発明に係るインクジェットプリンタにおいて
、前記インクジェットヘッドが前記加速範囲又は前記減速範囲を移動する間に前記ノズルから吐出されたインクは、前記被記録媒体の所定の加減速印刷領域に着弾し、前記インクジェットヘッドが前記定速範囲を移動する間に前記ノズルから吐出されたインクは、前記被記録媒体の、前記走査方向に関して前記加減速印刷領域と隣接する定速印刷領域に着弾し、前記被記録媒体の前記加減速印刷領域に、前記定速印刷領域と比べて振幅が大きい前記山部分又は前記谷部分が形成され
ることを特徴とする。
【0017】
加速範囲又は減速範囲では、定速範囲と比較して、インクを吐出するときの吐出タイミングの時間間隔が長くなる。そのため、加速範囲や減速範囲では、定速範囲と比べて、吐出タイミングに対して大きな補正が許容されると言える。そこで、加速範囲や減速範囲の移動中に吐出されたインクが着弾する、加減速印刷領域の山部分や谷部分の振幅を大きくすることが可能となる。
【0018】
第
4の発明に係るインクジェットプリンタは、第
3の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記印刷範囲には、前記加速範囲、前記定速範囲、及び、前記減速範囲が全て含まれ、前記走査方向において前記定速印刷領域を挟むように、前記加速範囲と前記減速範囲にそれぞれ対応した2つの前記加減速印刷領域が位置することを特徴とする。
【0019】
山部分や谷部分の振幅が大きい加減速印刷領域では、被記録媒体は波形状保持機構により強く押さえつけられる。本発明では、波形状保持機構により強く押さえつけられる加減速印刷領域が、走査方向に関して定速印刷領域を挟むように配置されているため、端側の2つの加減速印刷領域を強く押さえつけて被記録媒体を安定させることができる。
【0020】
第5の発明に係るインクジェットプリンタは、第1〜第4の何れかの発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記
制御部は、前記インクジェットヘッドを前記走査方向の一方向に移動させる際に、
前記波形状が生じている前記被記録媒体の
、前記一方向に対して上り斜面となっている第1領域には前記ノズルからインクを吐出させる一方で、
前記波形状が生じている前記被記録媒体の
、前記一方向に対して下り斜面となっている第2領域には前記ノズルからインクを吐出させず、前記インクジェットヘッドを前記走査方向の他方向に移動させる際に、前記被記録媒体の前記第2領域に前記ノズルからインクを吐出させることを特徴とする。
【0021】
下り斜面にインクを吐出すると、液滴の飛翔方向と用紙のなす角度が小さく、着弾したときに形成されるドットが走査方向に延びる。これに対し、上り斜面にインクを吐出した場合には、液滴の飛翔方向と用紙のなす角度が大きく、着弾したときに形成されるドットの形状が、下り斜面のときに比べて走査方向に延びない。そこで、本発明では、インクジェットヘッドを一方向及び他方向に移動させるときに、それぞれ、上り斜面となる領域にのみインクを吐出させる。これによりドットの形状を安定させることができる。
【0022】
第6の発明に係るインクジェットプリンタは、第5の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記
制御部は、前記インクジェットヘッドが前記一方向に移動する際に、前記ノズルから前記被記録媒体の前記第1領域と前記第2領域の両方にインクを吐出させる第1吐出モードと、前記インクジェットヘッドが前記一方向に移動する際には前記ノズルから前記被記録媒体の前記第1領域にインクを吐出させる一方で、前記インクジェットヘッドが前記他方向に移動する際に前記被記録媒体の前記第2領域にインクを吐出させる、第2吐出モードの、何れか一方を選択的に実行させることを特徴とする。
【0023】
本発明によると、1回のインクジェットヘッドでの移動の間に第1領域と第2領域の両方にインクを吐出する第1吐出モードと、連続する2回のインクジェットヘッドの移動の間(インクジェットヘッドを1往復させる間)に、第1領域と第2領域にインクを吐出する第2吐出モードとを使い分けることができる。
【0024】
第7の発明に係るインクジェットプリンタは、第6の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記
制御部は
、決定
した複数の
前記吐出タイミングのうちの、何れか2つの連続する吐出タイミングの時間間隔が所定時間よりも小さくなる場合には、前記第2吐出モードを選択することを特徴とする。
【0025】
本発明によると、吐出タイミングの補正によって、連続する吐出タイミングの間の時間間隔が非常に小さくなると、吐出タイミングの時間間隔が、あるノズルからインクが吐出された後、当該ノズルから再度インクを吐出可能となるのに最低限必要な時間よりも短くなってしまい、ノズルから適切にインクを吐出させることができなくなる。ここで、上り斜面に吐出する場合には、ヘッドの移動に伴ってギャップが減少していくことになるから、ギャップの減少に応じて吐出タイミングを遅らせる補正をかけることになる。つまり、連続する吐出タイミングの時間間隔は大きくなっていく。逆に、下り斜面に吐出する場合は、ギャップが増加していくことから、連続する吐出タイミングの時間間隔が小さくなっていく。そこで、波形状に基づく補正によって、吐出タイミングの間の時間間隔が所定時間よりも小さくなる場合には、上り斜面にのみ吐出させる第2モードを選択する。
第8の発明に係るインクジェットプリンタは、第1〜第7の何れかの発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記
制御部は、前記インクジェットヘッドが前記加速範囲を移動する間における、
前記波形状が生じている前記被記録媒体の
、前記走査方向の一方向に対して上り斜面となっている第1領域にインクを着弾させるときの
複数の前記吐出タイミングを、
何れか2つの連続する吐出タイミングの時間間隔が、ある前記ノズルがインクを吐出してから再度安定してインクを吐出可能となるまでの時間よりも長くなるように決定することを特徴とする。
第9の発明に係るインクジェットプリンタは、第1〜第8の何れかの発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記制御部は、算出した前記基準吐出位置と、算出した前記第1遅延時間とに基づいて、参照吐出タイミングを決定し、
前記参照吐出タイミングと、算出した前記第2遅延時間とに基づいて、前記吐出タイミングを決定することを特徴とする。
第
10の発明に係るインクジェットプリンタは、ノズルが形成されたインク吐出面を有し、被記録媒体に対して前記インク吐出面と平行な所定の走査方向に往復移動しつつ、前記ノズルから前記被記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記被記録媒体を、前記走査方向に沿って、前記インク吐出面に近づく山部分と前記インク吐出面から遠ざかる谷部分とが交互に並んだ、所定の波形状に保持する波形状保持機構と、前記インクジェットヘッドの前記走査方向における移動と、前記ノズルのインク吐出動作とを制御するヘッド制御手段と、を備え、前記ヘッド制御手段は、前記インクジェットヘッドが所定の印刷範囲内を移動する間における、前記ノズルがそれぞれインクを吐出する吐出タイミングを決定する吐出タイミング決定手段を有し、前記印刷範囲には、前記インクジェットヘッドの移動速度が増加する加速範囲と前記移動速度が減少する減速範囲との少なくとも一方が含まれ、前記吐出タイミング決定手段は、前記インクジェットヘッドが前記加速範囲又は前記減速範囲を移動する間における前記吐出タイミングを、前記被記録媒体の前記波形状に関する情報から取得される前記インク吐出面と前記被記録媒体との間の距離と、前記インクジェットヘッドの移動速度の変化量とに応じて決定し、前記ヘッド制御手段は、前記インクジェットヘッドを前記走査方向の一方向に移動させる際に、前記波形状が生じている前記被記録媒体の前記一方向に対して上り斜面となっている第1領域には前記ノズルからインクを吐出させる一方で、前記被記録媒体の前記一方向に対して下り斜面となっている第2領域には前記ノズルからインクを吐出させず、前記インクジェットヘッドを前記走査方向の他方向に移動させる際に、前記被記録媒体の前記第2領域に前記ノズルからインクを吐出させることを特徴とする。
第11の発明に係るインクジェットプリンタは、第10の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記ヘッド制御手段は、前記インクジェットヘッドが前記一方向に移動する際に、前記ノズルから前記被記録媒体の前記第1領域と前記第2領域の両方にインクを吐出させる第1吐出モードと、前記インクジェットヘッドが前記一方向に移動する際には前記ノズルから前記被記録媒体の前記第1領域にインクを吐出させる一方で、前記インクジェットヘッドが前記他方向に移動する際に前記被記録媒体の前記第2領域にインクを吐出させる、第2吐出モードの、何れか一方を選択的に実行させることを特徴とする。
第12の発明に係るインクジェットプリンタは、第11の発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記ヘッド制御手段は、前記被記録媒体に着弾するインクの前記走査方向の解像度が第1解像度の場合は、前記第1吐出モードを実行させ、前記解像度が前記第1解像度よりも低い第2解像度の場合は、前記第2吐出モードを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インク吐出面と被記録媒体との間の距離に応じて吐出タイミングを決定し、さらに、加減速範囲における吐出タイミングについては、ヘッドの速度変化をも考慮して決定するため、被記録媒体の適切な位置にインクを着弾させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0029】
本実施の形態に係るインクジェットプリンタ1は、記録用紙Pに対する印刷のほか、画像の読み取りなども行うことが可能な、いわゆる複合機である。インクジェットプリンタ1は、印刷部2(
図2参照)、給紙部3、排紙部4、読取部5、操作部6、表示部7などを備えている。また、インクジェットプリンタ1の動作は、制御装置50(
図5参照)によって制御されている。
【0030】
印刷部2は、インクジェットプリンタ1の内部に設けられており、記録用紙Pに対する印刷を行う。なお、印刷部2の詳細な構成については、後程説明する。給紙部3は、印刷部2により印刷が行われる記録用紙Pを供給するための部分である。排紙部4は、印刷部2により印刷が行われた記録用紙Pが排出される部分である。読取部5は、スキャナなどであって、画像の読み取りを行う部分である。操作部6は、ボタンなどを備えており、ユーザは、操作部6のボタンなどを操作することによって、インクジェットプリンタ1に対して必要な操作を行う。表示部7は液晶ディスプレイなどであって、インクジェットプリンタ1の使用時に必要な情報を表示する。
【0031】
次に、印刷部2について説明する。印刷部2は、
図2〜
図4に示すように、キャリッジ11(ヘッド走査手段)、インクジェットヘッド12、給紙ローラ13、プラテン14、複数のコルゲートプレート15、複数のリブ16、排紙ローラ17、複数のコルゲート拍車18、19などを備えている。ただし、
図2では、図面を見やすくするために、キャリッジ11を二点鎖線で図示し、キャリッジ11の下方に位置する部分を実線で図示している。
【0032】
キャリッジ11は、図示しないガイドレールなどに案内されて走査方向に往復移動する。インクジェットヘッド12は、キャリッジ11に搭載されており、その下面であるインク吐出面12aに形成された複数のノズル10からインクを吐出する。給紙ローラ13は、一対のローラであって、給紙部3に供給された記録用紙Pを挟んで、走査方向と直交する紙送り方向に搬送する。プラテン14は、インク吐出面12aと対向するように配置されており、給紙ローラ13により搬送される記録用紙Pは、プラテン14の上面に沿って搬送される。
【0033】
複数のコルゲートプレート15は、プラテン14の紙送り方向上流側の端部の上面と対向するように配置されており、走査方向にほぼ等間隔に配列されている。給紙ローラ13に搬送される記録用紙Pは、プラテン14とコルゲートプレート15との間を通過し、複数のコルゲートプレート15は、その下面である押さえ面15aにより記録用紙Pを上から押さえる。複数のリブ16は、プラテン14の上面の、走査方向に関するコルゲートプレート15の間の部分に配置されており、走査方向にほぼ等間隔に配列されている。リブ16は、それぞれ、プラテン14の上面からコルゲートプレート15の押さえ面15aよりも上方まで突出しているとともに、プラテン14の紙送り方向に関する上流側の端部から紙送り方向下流側に向かって延びている。これにより、プラテン14上の記録用紙Pは、複数のリブ16によって下方から支持されている。
【0034】
排紙ローラ17は、一対のローラであって、記録用紙Pの走査方向に関して複数のリブ16と同じ位置にある部分を挟んで、記録用紙Pを排紙部4に向けて紙送り方向に搬送する。なお一対のローラである排紙ローラ17のうち上側の排紙ローラは、記録用紙Pに着弾したインクが付着しにくいように拍車となっている。複数のコルゲート拍車18は、排紙ローラ17の紙送り方向下流側の、走査方向に関してコルゲートプレート15とほぼ同じ位置に配置されている。複数のコルゲート拍車19は、複数のコルゲート拍車18の紙送り方向下流側の、走査方向に関してコルゲートプレート15とほぼ同じ位置に配置されている。また、複数のコルゲート拍車18、19は、上下方向に関して、排紙ローラ17が記録用紙Pを挟む位置よりも下方に位置しており、この位置で、記録用紙Pを上方から押さえている。なお、コルゲート拍車18、19は外周面が平坦なローラではなく拍車であるので、記録用紙Pに着弾したインクが付着しにくい。
【0035】
そして、プラテン14上の記録用紙Pは、複数のコルゲートプレート15及び複数のコルゲート拍車18、19により上から押さえられるとともに、複数のリブ16により下方から支持されることによって曲げられ、
図3、
図7に示すように、上側(インク吐出面12a側)に突出した山部分Pmと、下側(インク吐出面12aと反対側)に窪んだ谷部分Pvとが交互に並ぶ波形状となっている。また、山部分Pmは、走査方向に関して、リブ16の中央部とほぼ同じ位置にある部分が、上側に最も大きく突出した山頂部分Ptとなっている。また、谷部分Pvは、走査方向に関して、コルゲートプレート15及びコルゲート拍車18、19とほぼ同じ位置にある部分が、最も下側に窪んだ谷底部分Pbとなっている。なお、本実施の形態では、記録用紙Pを波形状にするコルゲートプレート15、リブ16及びコルゲート拍車18、19が、本発明に係る波形状保持機構に相当する。
【0036】
また、このとき、走査方向に関して最も外側に配置されたコルゲートプレート15は、その位置が調整されることで、他のコルゲートプレート15よりも強く記録用紙Pを押さえている。これにより、記録用紙Pの走査方向に関する両端部が強く押さえられ、記録用紙Pを安定させることができる。また、これにより、波形状となった記録用紙Pは、
図7に示すように、走査方向に関して最も外側に位置する山頂部分Pt1の高さHt1が、他の山頂部分Ptの高さHt2よりも高く、最も外側に位置する谷底部分Pb1の高さHb1が、他の谷底部分Pbの高さHb2よりも低い。これにより、山頂部分Pt1を含む山部分Pm1は他の山部分Pmの振幅よりも振幅が大きく、谷底部分Pb1を含む谷部分Pv1は他の谷部分Pvの振幅よりも振幅が大きい。
【0037】
エンコーダセンサ20は、キャリッジ11に搭載されている。エンコーダセンサ20は、走査方向に延びた図示しないエンコーダベルトとともにリニアエンコーダを形成しており、エンコーダベルトに走査方向に沿って形成されたスリットを検出することによって、インクジェットヘッド12の位置を検出する。
【0038】
そして、以上のような構成の印刷部2では、給紙ローラ13及び排紙ローラ17によって記録用紙Pを紙送り方向に搬送させつつ、キャリッジ11とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド12からインクを吐出させることにより、記録用紙Pに印刷を行う。
【0039】
このとき、キャリッジ11が走査方向の右側に移動するときには、記録用紙Pの左側の端部と対向する範囲R1(加速範囲)において所定速度まで加速し、続いて、範囲R1の右側に位置する、記録用紙Pの両端部を除く部分と対向する範囲R2(定速範囲)において上記所定速度で走行し、範囲R2の右側に位置する、記録用紙Pの右側の端部と対向する範囲R3(減速範囲)において減速する。反対に、キャリッジ11が走査方向の左側に移動するときには、範囲R3(加速範囲)において所定速度まで加速し、範囲R2(定速範囲)において所定速度で走行し、範囲R1(減速範囲)において減速する。
【0040】
また、本実施の形態では、記録用紙Pの範囲R1〜R3と対向する領域全てに印刷を行う。すなわち、記録用紙Pの印刷範囲Rpには、範囲R1〜R3が全て含まれている。そして、キャリッジ11が加速又は減速する範囲R1、R3にあるときにノズル10から吐出されたインクは、記録用紙Pの走査方向の両端部である2つの加減速印刷領域Pcに着弾し、キャリッジ11が定速で移動する範囲R2にあるときにノズル10から吐出されたインクは、2つの加減速印刷領域Pcの間に位置する定速印刷領域Peに着弾する。このとき、上述の山部分Pm1及び谷部分Pv1は、加減速印刷領域Pcに含まれている。
【0041】
次に、インクジェットプリンタ1の動作を制御するための制御装置50について説明する。制御装置50は、
図5に示すように、制御部51、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)52などからなる。制御部51は、バスによって互いに接続されたCPU(Central Processing Unit)56、ROM(Read Only Memory)57、RAM(Random Access Memory)58などからなり、CPU56が、ROM57やRAM58に記憶されているデータ値や制御プログラムにしたがって、ASIC52に対する指令や、後述する吐出モードの決定などを行う。
【0042】
ASIC52は、キャリッジ11を駆動するキャリッジモータ41を制御するキャリッジ制御回路61、インクジェットヘッド12を駆動するドライバIC42を制御するヘッド制御回路62、ローラ13、17を駆動する搬送モータ43を制御する用紙搬送制御回路63、ノズル10からのインクの吐出タイミングを決定する吐出タイミング決定回路64などの制御回路を備え、制御部51からの指令を受けて、インクジェットプリンタ1の各部分の動作を制御することによって、インクジェットプリンタ1に印刷を行わせる。なお、本実施の形態では、キャリッジ制御回路61とヘッド制御回路62とを合わせたものが、本発明に係るヘッド制御手段に相当する。
【0043】
吐出タイミング決定回路64について詳細に説明する。吐出タイミング決定回路64は、
図6に示すように、3つのカウンタ71a〜71c、解像度変換回路72、加減速遅延時間生成回路73、加減速補正吐出タイミング生成回路74、コルゲート遅延時間生成回路75、及び、コルゲート補正吐出タイミング生成回路76を備えている。
【0044】
カウンタ71a〜71cは、エンコーダセンサ20が検出した図示しないエンコーダベルトのスリットの数をカウントする。解像度変換回路72は、カウンタ71aによるスリットのカウント数から、印刷の解像度に対応したインクジェットヘッド12の走査方向の位置を算出する。
【0045】
加減速遅延時間生成回路73は、カウンタ71bによる単位時間当たりのスリットのカウント数から、後述するように、インクジェットヘッド12の移動速度に応じた遅延時間ΔT1を算出する。加減速補正吐出タイミング生成回路74は、解像度変換回路72によって算出される基準吐出位置(遅延時間を設けないとした場合の吐出位置)と、加減速遅延時間生成回路73によって算出された遅延時間ΔT1とから、インクの吐出タイミングを決定する。具体的には、基準吐出位置でインクを吐出する場合の吐出タイミング(基準吐出タイミングとする)から、加減速遅延時間生成回路73によって算出された遅延時間ΔT1だけ遅れたタイミングを、吐出タイミングとして決定する。
【0046】
コルゲート遅延時間生成回路75は、後述するように、波形状にした記録用紙Pにおいて、走査方向に関するインクの着弾位置の間隔を一定とするために必要な遅延時間ΔT2を算出する。具体的に説明すると、コルゲートプレート15、リブ16、コルゲート拍車18、19が上述したように配置されている場合、記録用紙Pの高さは、その走査方向の位置によって決まる。そこで、コルゲート遅延時間生成回路75は、カウンタ71cによるスリットのカウント数から、インクジェットヘッド12の走査方向の位置を取得し、当該位置から記録用紙Pの対応する部分の高さを取得する。そして、取得した記録用紙Pの高さに応じて、後述するように遅延時間ΔT2を算出する。
【0047】
コルゲート補正吐出タイミング生成回路76は、加減速補正吐出タイミング生成回路74によって決定された吐出タイミングをさらに調整して、最終的なインクの吐出タイミングを決定する。具体的には、加減速補正吐出タイミング生成回路74によって決定された吐出タイミングから、さらに上記遅延時間ΔT2だけ遅れたタイミングを、最終的な吐出タイミングとして決定する。すなわち、最終的な吐出タイミングは、基準吐出タイミングから、インクジェットヘッド12の移動速度に応じて算出された遅延時間ΔT1だけ遅れ、さらに、波形状となった記録用紙Pの高さに応じて算出された遅延時間ΔT2だけ遅れたタイミングとなっている。
【0048】
次に、遅延時間ΔT1、ΔT2について説明する。記録用紙Pが
図7(a)に示すような波形状になっている場合、上下方向に関するインク吐出面12aと記録用紙Pとの距離は、記録用紙Pの部分毎に変わってくる。したがって、例えば、
図8(a)に示すように、インク吐出面12aと記録用紙Pとの上下方向の距離がH1である場合に、吐出されたインクが、吐出位置から走査方向に距離D1だけずれた位置に着弾するのに対して、インク吐出面12aと記録用紙Pとの上下方向の距離がH2(<H1)である場合には、吐出されたインクは、走査方向に距離D1よりも小さい距離D2だけずれた位置に着弾する。そのため、インク吐出面12aと記録用紙Pとの上下方向の距離がH2である場合に、当該距離がH1である場合と走査方向に関して同じ位置にインクを着弾させるためには、
図8(a)に示すように、ノズル10からのインクの吐出位置を走査方向にD1−D2だけずらす必要がある。そして、そのためには、ノズル10からのインクの吐出タイミングを遅らせる必要がある。
【0049】
そこで、本実施の形態では、
図7(b)に示すように、最も高さの低い走査方向の両端の谷底部分Pb(谷底部分Pb1)における遅延時間ΔT2を0とし、それ以外の部分における遅延時間ΔT2を、谷底部分Pb1を基準とした高さが高くなるほど長くしている。すなわち、遅延時間ΔT2は、記録用紙Pが谷底部分Pb1と同じ高さにあるとしたときの吐出タイミングに対する、谷底部分Pb1を基準とする高さに応じた遅延時間となっている。
【0050】
また、本実施の形態では、
図7(c)に示すように、インクジェットヘッド12が範囲R1、R3に位置しているとき(加速又は減速するとき)に、範囲R2に位置しているとき(定速で移動するとき)よりも、キャリッジ11の移動速度が遅い。そして、キャリッジ11の移動速度が遅いほど、ノズル10から吐出されたインクの飛翔速度の走査方向の成分が小さくなり、走査方向に関するインクの吐出位置と着弾位置との差が小さくなる。
【0051】
具体的に説明すると、例えば、インクジェットヘッド12が右側に移動するとき、
図8(b)に示すように、インクジェットヘッド12が範囲R2にある状態では、インクジェットヘッド12の移動速度が一定であるので、インク吐出面12aと記録用紙Pとの距離が一定であれば、インクジェットヘッド12が一定の距離D3移動する毎にノズル10からインクを吐出させれば、記録用紙Pに走査方向に、距離D3と同じ一定の間隔D3でインクが着弾する。
【0052】
これに対して、インクジェットヘッド12が範囲R1、R3にある状態では、インクジェットヘッド12の移動速度は、範囲R2にあるときよりも遅く、また、走査方向の位置によって変わるため、インクの吐出速度の走査方向の成分が、インクジェットヘッド12の基準吐出位置毎に変わってくる。そのため、インクジェットヘッド12が距離D3移動する毎にノズル10からインクを吐出させると、
図8(b)に破線で示すように、記録用紙Pにおけるインクの着弾位置が変わってくる。
【0053】
したがって、記録用紙Pに走査方向に等間隔でインクを着弾させるために、インクジェットヘッド12が範囲R1、R3にある状態では、インクの吐出位置を、
図8(b)に示すように、基準吐出位置(
図8(b)の破線で示す位置)から走査方向にずらして、
図8(b)の実線で示す位置にする必要がある。そして、そのためには、ノズル10からのインクの吐出タイミングを遅らせる必要がある。
【0054】
そこで、本実施の形態では、記録用紙Pに波形状を生じさせていないとした場合の、ノズル10からインクが吐出されてから記録用紙Pにインクが着弾するまでの時間をTa、カウンタ71bによるスリットのカウント周期(単位時間当たりのスリットのカウント数の逆数)をTx、カウント周期Txの最小値として予め設定された最小カウント周期をTsとしたときに、遅延時間ΔT1を、以下のように算出する。ここで、最小カウント周期Tsは、範囲R2におけるインクジェットヘッド12の移動速度(インクジェットヘッド12の移動速度の最大値)やスリットの間隔等の設計値に基づいて設定され、インクジェットヘッド12が範囲R2を移動しているときのカウンタ71bによるスリットのカウント周期とほぼ同じ値となる。
【0056】
このとき、カウント周期Txは、インクジェットヘッド12が範囲R1、R3に位置しているとき(加速又は減速するとき)に移動速度が速いときほど短くなり、インクジェットヘッド12が範囲R2に位置しているとき(定速で移動するとき)に
最小カウント周期Tsと等しくなる。したがって、遅延時間ΔT1は、
図7(d)に示すように、インクジェットヘッド12が範囲R2にある状態で0となり、インクジェットヘッド12が範囲R1、R3にある状態で、インクジェットヘッド12の移動速度が遅いときほど長くなる。
【0057】
そして、このように範囲R1、R3でインクの吐出位置をずらすと、例えば、インクジェットヘッド12が右側に移動する場合に、
図8(b)に示すように、インクジェットヘッド12が加速するとき(範囲R1に位置しているとき)の連続する3回の吐出タイミングにおけるインクの吐出位置が、それぞれ、ΔDa、ΔDb(<ΔDa)、ΔDc(<ΔDb)となる。一方、インクジェットヘッド12が減速するとき(範囲R3に位置しているとき)の連続する3回の吐出タイミングにおけるインクの吐出位置が、それぞれ、ΔDd、ΔDe(>ΔDd)、ΔDf(>ΔDe)となる。
【0058】
そして、以上のようにして決定された遅延時間ΔT1と遅延時間ΔT2とを足し合わせた時間だけ吐出タイミングを遅らせることにより、記録用紙Pが波形状となっており、さらに、インクジェットヘッド12が定速で移動する間、及び、加減速する間のいずれにおいてもノズル10からインクを吐出させて印刷を行う場合に、記録用紙Pの適切な位置にインクを着弾させることができる。
【0059】
次に、インクジェットヘッド12の移動速度の変化と、吐出タイミングの時間間隔との関係について説明する。
【0060】
ここで、インクジェットヘッド12が範囲R2
にあり、定速で移動している場合には、記録用紙Pが最も低い谷底部分Pb1と同じ高さにあるとすると、記録用紙Pに走査方向に一定の間隔でインクを吐出させるために、
図9(a)に示すように、基準吐出位置でインクを吐出する。また、このとき、吐出タイミングの間隔は、一定の時間間隔Tk1となる。なお、このとき、遅延時間ΔT1、ΔT2がともに0となっている。また、記録用紙Pが別の高さにある場合でも、各基準吐出位置から一定距離だけ走査方向にずれた位置でインクを吐出するだけであるので、吐出タイミングの時間間隔はTk1となる。
【0061】
これに対して、インクジェットヘッド12が加速しているときには、インクジェットヘッド12の移動速度は、徐々に速くなり、且つ、定速で移動しているときよりも遅い。したがって、インクジェットヘッド12が加速しているときには、
図9(b)に示すように、後の吐出タイミングほど、遅延時間ΔT1の長さを短くする。
図9(b)では、一例として、連続する3回の吐出タイミングにおける遅延時間ΔT1を、先の吐出タイミングから順に、ΔT1a、ΔT1b(<ΔT1a)、ΔT1c(<ΔT1b)としている。そして、これにより、インクの吐出タイミングの時間間隔Tyは、基準吐出位置でインクを吐出させるとした場合の吐出タイミングの時間間隔Tk2よりも短くなる。なお、加速中に基準吐出位置でインクを吐出させるとした場合の吐出タイミングの時間間隔は、後の吐出タイミングの間ほど短くなるが、
図9(b)では、便宜上、これらの時間間隔を全てTk2で示している。
【0062】
一方、インクジェットヘッド12が減速しているときには、インクジェットヘッド12の移動速度は、徐々に遅くなり、且つ、定速で移動している場合よりも遅い。したがって、インクジェットヘッド12が減速しているときには、
図9(c)に示すように、後の吐出タイミングほど、遅延時間ΔT1の長さを長くする。
図9(c)では、一例として、連続する3回の吐出タイミングにおける遅延時間ΔT1を、先の吐出タイミングから順に、ΔT1d、ΔT1e(>ΔT1d)、ΔT1f(>ΔT1e)としている。そして、これにより、インクの吐出タイミングの時間間隔Tzは、基準吐出位置でインクを吐出させるとした場合の吐出タイミングの時間間隔Tk3よりも長くなる。なお、減速中に基準吐出位置でインクを吐出させるとした場合の吐出タイミングの時間間隔は、後の吐出タイミングの間ほど長くなるが、
図9(c)では、便宜上、これらの時間間隔を全てTk3で示している。
【0063】
ここで、インクジェットプリンタ1では、通常、時間間隔Tk1は、ノズル10からインクを吐出させた後、同じノズルから再度安定してインクを吐出可能となるのに要する最小の時間間隔Tmよりも長くなるように、インクジェットヘッド12の移動速度、インク吐出面12aと記録用紙Pの各部分との距離を決めるプラテン14、コルゲートプレート15、リブ16、コルゲート拍車18、19などの高さなどが決められる。
【0064】
インクジェットヘッド12が加速しているときには、上述したように、吐出タイミングの時間間隔Tyは、時間間隔Tk2よりも短くなる。しかしながら、インクジェットヘッド12が加速しているときには、定速で移動しているときよりも速度が遅いため、時間間隔Tk2は、時間間隔Tk1よりも長くなる。したがって、時間間隔Tyは、時間間隔Tk2より多少短くなってもある程度は長く、あるノズル10からインクが吐出された後、当該ノズル10が再度安定してインクを吐出可能な状態になる前に、次のインクの吐出タイミングがきてしまい、適切にインクを吐出させることができなくなるといった問題が生じにくい。
【0065】
さらに、記録用紙Pの高さに応じた遅延時間ΔT2を考慮すると、後述するように、遅延時間ΔT2の変化によって吐出タイミングの時間間隔が短くなることがある。しかしながら、上述したように、時間間隔Tyがある程度長いため、遅延時間ΔT2の変化によって吐出タイミングの時間間隔が短くなったとしても、上記問題は生じにくい。
【0066】
一方、インクジェットヘッド12が減速しているときには、上述したように、吐出タイミングの時間間隔Tzは、時間間隔Tk3よりも長くなる。さらに、インクジェットヘッド12が減速しているときには、定速で移動しているときよりも速度が遅いため、時間間隔Tk3は、時間間隔Tk1よりも長くなる。したがって、記録用紙Pの高さに応じた遅延時間ΔT2が0であるとすれば、確実に、あるノズル10からインクが吐出された後、当該ノズル10が再度安定してインクを吐出可能となってから、次のインクの吐出タイミングがくる。
【0067】
さらに、上述したように、時間間隔Tk3が時間間隔Tk1よりも長いため、上述したように、遅延時間ΔT2の変化によって吐出タイミングの時間間隔が短くなったとしても、上記問題は生じにくい。
【0068】
また、本実施の形態では、他の山部分Pmよりも振幅の大きい山部分Pm1、及び、他の谷部分Pvよりも振幅の大きい谷部分Pv1では、走査方向に沿った高さの変化が大きく、走査方向に沿った遅延時間ΔT2の変化量も大きくなる。このため、これらの部分においては、遅延時間ΔT2の変化により吐出タイミングの時間間隔が短くなるときには、吐出タイミングの時間間隔の変化量が大きくなる。
【0069】
しかしながら、インクジェットヘッド12が、山部分Pm1及び谷部分Pv1に着弾させるインクを吐出する範囲R1、R3にある状態では、上述したように、時間間隔Tk2、Tk3が時間間隔Tk1よりも長くなる。そのため、吐出タイミングの時間間隔が短くなるときの時間間隔の変化量は多少大きくなるものの、吐出タイミングの時間間隔は、インクジェットヘッド12が定速で移動しているとしたときほどは短くならない。したがって、上記問題は生じにくい。
【0070】
次に、インクジェットプリンタ1におけるインクの吐出モードについて説明する。インクジェットプリンタ1では、印刷を行う際に、制御装置50の制御により、以下に説明する、第1吐出モード、及び、第2吐出モードのいずれかの吐出モードにより選択的にノズル10からインクを吐出させることができるようになっている。
【0071】
ここで、インクジェットプリンタ1において印刷を行う際には、上述したように、キャリッジ11によりインクジェットヘッド12を走査方向に移動させつつ、ノズル10からインクを吐出させるが、このとき、記録用紙Pは、インクジェットヘッド12の移動方向に沿って上り斜面になる上り領域と下り斜面になる下り領域とに分けられる。
【0072】
具体的に説明すると、波形状にされた記録用紙Pでは、谷底部分Pbを左端、当該谷底部分Pbのすぐ右側の山頂部分Ptを右端とする領域S1と、山頂部分Ptを左端、当該山頂部分Ptのすぐ右側の谷底部分Pbを右端とする領域S2とが、走査方向に交互に並ぶ。そして、インクジェットヘッド12が
図7の右側に移動するときには、領域S1が上り領域になり、領域S2が下り領域になる。反対に、インクジェットヘッド12が左側に移動するときには、領域S2が上り領域になり、領域S1が下り領域になる。
【0073】
第1吐出モードでは、
図7(e)に示すように、インクジェットヘッド12を右側及び左側のいずれに移動させるときにも、領域S1、S2の両方、つまり、上り領域及び下り領域の両方にインクを吐出させる。なお、
図7(e)、(f)の矢印は、記録用紙Pの各領域S1、S2にインクを着弾させるときのインクジェットヘッド12の移動方向を示している。
【0074】
これに対して、第2吐出モードでは、
図7(f)に示すように、インクジェットヘッド12を右側に移動させるときには、領域S1にのみインクを吐出させ、インクジェットヘッド12を左側に移動させるときには、領域S2にのみインクを吐出させる。すなわち、第2吐出モードでは、上り領域にのみインクを吐出させる。
【0075】
ここで、上り領域にインクを吐出させる場合と、下り領域にインクを吐出させる場合とにおける、吐出タイミングの時間間隔の違いについて説明する。
【0076】
これらの違いを説明する前に、記録用紙Pの高さが一定である場合について説明すると、記録用紙Pがある一定の高さにある場合には、インクジェットヘッド12の速度が一定であれば、
図10(a)に示すように、基準吐出位置でインクを吐出させる場合の吐出タイミング(破線で示すタイミング)から、記録用紙Pの高さに応じた一定のΔT2aだけ遅れた吐出タイミングで、ノズル10からインクを吐出させる。この場合には、インクの吐出タイミングの時間間隔Trは、基準吐出位置でインクを吐出させる場合の吐出タイミングの時間間隔Tk1と同じとなる。
【0077】
一方、上り領域にインクを着弾させるときには、記録用紙Pの、後からインクが着弾する部分ほど、インク吐出面12aとの距離が近くなる。そのため、インクジェットヘッド12の移動速度が一定であるとすれば、
図10(b)に示すように、後の吐出タイミングほど、基準吐出タイミングからの遅延時間ΔT2が長くなる。
図10(b)では、一例として、連続する3回の吐出タイミングにおける遅延時間ΔT2を、先の吐出タイミングから順に、ΔT2b、ΔT2c(>ΔT2b)、ΔT2d(>ΔT2c)としている。そして、この場合には、インクの吐出タイミングの時間間隔Tiは、ΔT2を一定とした場合の、インク吐出タイミングの時間間隔Tr(=Tk1)よりも長くなる。
【0078】
一方、下り領域にインクを着弾させる場合には、記録用紙Pの、後からインクが着弾する部分ほどインク吐出面12aからの距離が大きくなる。そのため、インクジェットヘッド12の移動速度が一定であるとすれば、
図10(c)に示すように、後の吐出タイミングほど、基準吐出タイミングからの遅延時間ΔT2が短くなる。
図10(c)では、一例として、連続する3回の吐出タイミングにおける遅延時間ΔT2を、先の吐出タイミングから順に、ΔT2e、ΔT2f(<ΔT2e)、ΔT2g(<ΔT2f)としている。そして、この場合には、インクの吐出タイミングの時間間隔Tjは、ΔT2を一定とした場合の、インク吐出タイミングの時間間隔Tr(=Tk1)よりも短くなる。
【0079】
次に、インクジェットプリンタ1における第1吐出モードと第2吐出モードの選択について
図11のフローチャートを用いて説明する。本実施の形態に係るインクジェットプリンタ1では、制御装置50の制御により、印刷する画像のデータなどに応じて、着弾するインクの走査方向の間隔が小さい高解像度印刷と、当該間隔が大きい低解像度印刷のいずれかを選択的に行うことができるようになっている。高解像度印刷では、低解像度印刷と比べて、範囲R2におけるインクジェットヘッド12の移動速度が遅くなる。そして、
図11のフローは、印刷時にユーザが操作部6やインクジェットプリンタ1に接続された図示しないPCなどを操作することにより手動で、あるいは、印刷される画像の画像データに応じて自動的に、印刷の解像度が選択されたときに開始される。
【0080】
そして、
図11に示すように、高解像度印刷が選択された場合には(S101:NO)、第1吐出モードを選択し(S102)、低解像度印刷が選択された場合には(S101:YES)、第2吐出モードを選択する(S103)。
【0081】
ここで、インクジェットプリンタ1では、上述したように、通常、時間間隔Tk1は時間間隔Tmよりも長くなっているが、低解像度印刷の場合には、高解像度印刷の場合よりもインクジェットヘッド12の移動速度が速く、時間間隔Tk1が短い。
【0082】
一方、上り領域にインクを着弾させる場合には、上述したように、時間間隔Tk1よりも長い時間間隔Tiでノズル10からインクが吐出される。したがって、高解像度印刷及び低解像度印刷のいずれにおいても、上述の、あるノズル10からインクが吐出された後、当該ノズル10が再度安定してインクを吐出可能な状態になる前に、次のインクの吐出タイミングがきてしまうという問題が生じにくい。
【0083】
これに対して、下り領域にインクを着弾させる場合には、上述したように、時間間隔Tk1よりも短い時間間隔Tjでノズル10からインクが吐出される。このとき、高解像度印刷であれば、時間間隔Tk1が長いため、時間間隔Tiが時間間隔Tk1よりも多少短くなったとしても、上記問題は生じにくい。
【0084】
このとき、低解像度印刷では、高解像度印刷よりも時間間隔Tk1が短いため、時間間隔Tk1よりも短い時間間隔Tjが時間間隔Tmよりも短くなって、上記問題が発生してしまう虞がある。
【0085】
そこで、本実施の形態では、上述したように、高解像度印刷においては、第1吐出モードを選択して、インクジェットヘッド12を右側及び左側の何れに移動させるときにも、上り領域及び下り領域の両方にインクを吐出させる。一方、低解像度印刷においては、第2吐出モードを選択して、インクジェットヘッド12を右側及び左側に移動させるときに、それぞれ、上り領域にのみインクを吐出させる。これにより、上記問題が発生してしまうのを防止することができる。
【0086】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については、適宜その説明を省略する。
【0087】
上述の実施の形態では、高解像度印刷であるか低解像度印刷であるかによって、第1吐出モードと第2吐出モードとを切り換えたが、これには限られない。
【0088】
例えば、上述の実施の形態では、エンコーダセンサ20の検出結果から遅延時間ΔT1、ΔT2を決定しているが、遅延時間ΔT1、ΔT2は、このように実際に決定する前の段階で、インク吐出面12aの高さ、記録用紙Pの山部分Pm及び谷部分Pvの高さ、インクジェットヘッド12の移動速度、ノズル10からのインクの吐出速度などから、ある程度は推定することができる。
【0089】
そこで、推定される遅延時間ΔT1、ΔT2に応じて、ノズル10からインクが吐出されるまでの時間間隔を算出し、全ての時間間隔が、時間間隔Tmよりも長い場合には第1吐出モードを選択し、いずれかの時間間隔が上記時間間隔Tm以下となる場合には第2吐出モードを選択するなどしてもよい。
【0090】
また、上述の実施の形態では、吐出タイミングの時間間隔の観点から、高解像度印刷を行うときに第1吐出モードを選択し、低解像度印刷を行うときに第2吐出モードと選択したが、これには限られない。
【0091】
例えば、上り領域にインクを着弾させる場合には、
図12(a)に示すように、インクの飛翔方向と、走査方向に沿った記録用紙Pの延在方向とが為す角度αは、90°に近い角度になり、着弾したインクにより形成されるドットが走査方向に延びにくい。これに対して、下り領域にインクを着弾させる場合には、
図12(b)に示すように、インクの飛翔方向と、走査方向に沿った記録用紙Pの延在方向とが為す角度βは、角度αに比べて小さい角度になり、着弾したインクにより形成されるドットが走査方向に延びやすい。したがって、上り領域にインクを着弾させた場合の方が、下り領域にインクを着弾させたときよりも、着弾するインクの形状が安定する。
【0092】
そこで、例えば、上述の実施の形態において、高解像度印刷を行うときに第1吐出モードを選択してもよい。この場合には、高解像度印刷において、上述の実施の形態よりも印刷にかかる時間は長くなってしまうが、上り領域にのみインクを吐出するため、ドットの形状は安定し、印刷される画像の画質を向上させることができる。一方、低解像度印刷を行うときには、吐出タイミングの時間間隔が常に時間間隔Tmよりも長くなるようであれば、印刷の高速化の観点から第1吐出モードを選択してもよい。
【0093】
また、上述の実施の形態では、第1吐出モードと第2吐出モードとが切換可能となっていたが、これには限られず、印刷時には、常に、第1吐出モード及び第2吐出モードの何れか一方の吐出モードでインクを吐出させるようになっていてもよい。
【0094】
上り領域にインクを着弾させる場合には、
図12(a)に示すように、インクの飛翔方向と、走査方向に沿った記録用紙Pの延在方向とが為す角度αは、90°に近い角度になり、着弾するインクにより形成されるドットが上記延在方向に延びにくい。これに対して、下り領域にインクを着弾させる場合には、
図12(b)に示すように、インクの飛翔方向と、走査方向に沿った記録用紙Pの延在方向とが為す角度βは、角度αに比べて小さい角度になり、着弾するインクにより形成されるドットが上記延在方向に延びやすい。したがって、上り領域にインクを着弾させた場合の方が、下り領域にインクを着弾させたときよりも、ドットの形状が安定する。
【0095】
そこで、例えば、上述の実施の形態において、第1吐出モードと第2吐出モードの選択ができるようになっておらず、常に、第2吐出モードでノズル10からインクを吐出させてもよい。この場合には、高解像度印刷において、上述の実施の形態よりも印刷にかかる時間は長くなってしまうが、上り領域にのみインクを吐出するため、着弾するインクの形状は安定し、印刷される画像の画質を向上させることができる。
【0096】
また、上述の実施の形態では、範囲R1、R3及び範囲R2のいずれもが印刷範囲となっていたが、これには限られない。例えば、インクジェットヘッド12を右側又は左側に移動させるときにのみノズル10からインクを吐出させることによって印刷を行う場合に、範囲R2と、範囲R1、R3のいずれか一方のみが印刷範囲となっていてもよい。
【0097】
このとき、上述したように、インクジェットヘッド12が減速範囲に位置しているときには、インクの吐出タイミングの間隔が最も短くなりにくいため、範囲R1、R3のうちの一方のみを印刷範囲とする場合には、減速範囲となる範囲のみを印刷範囲とするほうが有利である。
【0098】
また、上述の実施の形態では、インクジェットヘッド12が定速で移動する範囲R2が設けられていたが、これには限られない。例えば、インクジェットヘッド12が最高速度まで加速した後、直ちに減速を開始するようになっていてもよい。
【0099】
また、上述の実施の形態では、山頂部分Pt1が他の山頂部分Ptよりも高さが高く、谷底部分Pb1が他の谷底部分Pbよりも高さが低くなっていたが、全ての山頂部分Ptの高さが同じであってもよいし、全ての谷底部分Pbの高さが同じであってもよい。
【0100】
また、上述の実施の形態では、基準吐出タイミングに対して、遅延時間ΔT1、ΔT2遅れたタイミングでノズル10からインクを吐出させていたが、これには限られない。
本発明の参考例において、エンコーダセンサ20の検出結果に応じて、吐出タイミングを決定する上述の実施の形態とはと異なり、予め吐出タイミングを全て決定してから印刷を開始させるような場合には、吐出タイミングを基準吐出タイミングよりも早めるようにしてもよい。