(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る編物は、表編地と裏編地とを含む編物である。ここで表編地及び裏編地に用いられる主たる糸は、短繊維からなる紡績糸に、該短繊維よりも吸湿性が低い疎水性フィラメントを混合した複合紡績糸である。二層以上の編物は保温性が高い反面、蒸れやすい傾向がある。本発明に係る編物は、主たる糸が、短繊維と疎水性フィラメントとを混合した複合紡績糸であるため、二層以上の編物でありながら湿気を外気に放出しやすくなっており、蒸れによる不快感を押えることができる。よって、暖かく、且つ透湿放出性に優れた編地を提供することができる。ここで表編地と裏編地とを含む編物は、ダイヤル針とシリンダー針とをもつダブル編機で作られた丸編物でもよく、シングル丸編機で編まれた編物同士を貼り合せたり縫い合せて作ってもよい。また該編物は、経編機を使って2層以上に編上げてもよい。好ましくは、該編物はダブル編機で編まれたものである。
【0014】
さらに本発明に係る編物は、表編地と裏編地と、表及び裏編地を構成しないが表編地及び裏編地を連結する連結糸とを含む三層構造以上の編物(以下、「三層構造編物」という)であってもよい。ここで連結糸は、表編地と裏編地を構成する糸と同じ糸を用いてもよいが、標準状態における水分率が0〜5%の疎水性フィラメントを少なくとも含むことがより好ましい。本発明に係る編物は、連結糸に疎水性フィラメントを用いると、湿気を編地内部に溜め込むことなく、より透湿放出性に優れる編物を提供することができる。
三層構造編物は、汎用の2列の針列を有するダブルラッシェル機、ダブル丸編機、又は横編機等で編成することができる。表編地及び裏編地の組織は、ここでは平編の基本組織であるが、タック編、浮編、片畦編、レース編、及び添糸編等の変化組織であってもよいし、該変化組織に針抜きを組み合わせてもよい。
【0015】
<表編地及び裏編地に用いられる糸について>
表編地及び裏編地に用いられる繊維としては、公知の各種繊維を用いることができ、例えば綿、羊毛等の天然繊維や、キュプラ、レーヨン、リヨセル等の再生繊維、アセテート、ポリオレフィン、アクリル、アクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維のような半合成繊維や合成繊維である。なお、これらの公知の各種繊維を共重合したり、繊維改質したり、機能材を練り込むことにより所望の機能性を付与してもよい。
【0016】
本発明の発明者らは、吸湿性を備える短繊維と、疎水性フィラメントとを混合した長短複合紡績糸を編物に用いることにより、湿気を外気に放出し易くなることを見出した。
長短複合紡績糸の透湿放出性が高い理由は定かではないが、糸内部に疎水性フィラメントが存在することにより繊維内部に湿気を取込み過ぎなくなることや、毛羽が少なくなることにより通気性が向上すること等が要因であるものと推測される。
図1は、本発明に係る編物の表編地及び裏編地に使用される主たる糸の一例を示す糸断面の概略図である。
図1に示す主たる糸10は、短繊維11に、該短繊維11よりも吸湿性が低い疎水性フィラメント12を混合した長短複合紡績糸である。
【0017】
表編地及び裏編地には、必要に応じて二種類以上の繊維を混合して用いることができる。表編地及び裏編地における主たる糸10(長短複合紡績糸)の混率は50質量%以上であることが望ましく、70質量%以上であればより望ましい。主たる糸10(長短複合紡績糸)の混率が50質量%未満では、本発明において期待する十分な透湿放出性が得られ難い。
【0018】
主たる糸10は、室温20℃相対湿度65%RH(以下、「標準状態」という)における水分率が11〜60%である高吸湿繊維を含んでいることが好ましい。主たる糸10を標準状態における水分率が11〜60%の高吸湿繊維とするためには、短繊維11に、例えば、羊毛(水分率16%)、レーヨン等のセルロース系繊維(水分率12%)、及びアクリレート繊維を用いることができる。なお、改質することにより高吸湿化させた、改質羊毛、改質レーヨン、及び改質綿等を用いてもよい。
【0019】
なお本発明では、標準状態における水分率が11〜60%である高吸湿繊維に他の水分率11%未満である疎水性フィラメントを混合して用いることが好ましい。ここで吸湿性繊維の混合方法は、短繊維同士の場合には、混綿混紡、混繊、連条混紡、粗紡混紡、及び精紡混紡等が用いられる。疎水性フィラメントと高吸湿性繊維とを混合する場合は、精紡工程でコアスパンヤーンのように、ドラフト後のフリース(高吸湿性繊維を含む短繊維束)と疎水性フィラメントとを、フロントローラ上またはその前に混合した後に加撚して巻取る方法により混合してもよい。あるいは、ドラフト後のフリースがフロントローラを通過した後に、疎水性フィラメントと引き揃えて合撚して巻取ってもよい。あるいは高吸湿性繊維を紡績糸にした後に疎水性フィラメントと合撚してもよい。
標準状態における水分率が11〜60%の高吸湿繊維の場合には、20〜90質量%の混率で用いる必要があり、40〜90質量%での混率で用いるとより好ましい。高吸湿繊維の混率が20質量%未満であったり、90質量%を超えたりすると、本発明において期待する十分な透湿放出性が得られ難くなりやすい。
【0020】
特に、羊毛は吸放湿性が高い上に(標準状態での水分率16%)、水分を多く含んだとしても繊維表面に水分が残りにくく、汗冷えによって体温が奪われるのを防ぐ効果がある。主たる糸10における羊毛の好ましい混率は20〜80質量%であり、より好ましくは30〜60質量%である。羊毛の混率が20質量%以下であると、極寒時に運動して発汗したあとの汗冷えによって体温が奪われやすくなり、80質量%を超えると混合する疎水性フィラメントの混率が低下するため透湿放出性が低下し易い。
一方下着及び肌着は清潔に保つために頻繁に洗濯することが好ましいため、使用する羊毛は防縮加工を施された防縮ウールとすることが好ましい。
【0021】
さらに好ましい実施態様として、吸湿性がより高い標準状態における水分率が17〜60%である繊維を、単独、又は他の水分率11%以上17%未満である繊維と混合して用いることもできる。主たる糸10を標準状態における水分率が17〜60%である高吸湿性繊維とするためには、短繊維11に、例えば、アクリレート繊維(東洋紡製の「エクス(登録商標)」、「モイスケア(登録商標)」、「ブレスサーモ(登録商標)」)や、アクリル酸(メタクリル酸)等のグラフト重合により高吸湿性に改質された繊維(東洋紡製のレーヨン改質綿「リフレス(登録商標)」、改質した羊毛繊維の「オメガ(登録商標)」)を用いることができる。
【0022】
また、標準状態における水分率が17〜60%である高吸湿性繊維を、水分率が11%未満である繊維や、水分率が11%以上17%未満である繊維と混合して用いることもできる。水分率が17〜60%である高吸湿性繊維の好ましい混率は5〜40質量%であり、より好ましくは10〜35質量%である。水分率が17〜60%である高吸湿性繊維を、5〜40質量%の混率で用いると、本発明において期待する十分な透湿放出性が得られ易い。
【0023】
疎水性フィラメント12は水分率が0〜5%の長繊維であり、好ましくは水分率が1%以下の長繊維である。例えば疎水性フィラメント12は、ポリエステルマルチフィラメント(標準条件での水分率0.4%)や、ナイロン6又はナイロン66等(標準条件での水分率4%)の合成繊維からなる疎水性マルチフィラメントであり、好ましくはポリエステルマルチフィラメントである。主たる糸10における疎水性フィラメントの混率は10〜50%であり、好ましくは15〜35%である。該混率が10%未満であると透湿放出性が低下しやすく、50%を超えると吸湿性や保温性が低下しやすい。
【0024】
<主たる糸の総繊度>
主たる糸10の総繊度は、好ましくは10〜800dtex、より好ましくは100〜500dtex、さらに好ましくは150〜400dtexである。総繊度が10〜800dtexの範囲であると、保温性、及び適度な吸湿性と透湿放出性とが得られる。総繊度が10dtex未満であると保温性が不足し易い。総繊度が800dtexを超えると、編物が分厚くなりすぎて着用感が悪くなる。
【0025】
<連結糸について>
連結糸は、表編地と裏編地とを連結する機能を有しており、例えば、表編地と裏編地との間にループ状の編み目を形成してもよいし、表編地と裏編地との間でタック組織状に引っかけるような構造でもよい。
また連結糸には、主たる糸10と同一の長短複合紡績糸を用いてもよいが、比較的水分率が低い疎水性合繊フィラメントを単独で用いる方がより好ましい。ここで疎水性合繊フィラメントには、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ナイロン6及びナイロン66等のポリアミド系繊維、アクリル系繊維、あるいはポリオレフィン系繊維等を用いることができる。
【0026】
該長短複合紡績糸は標準状態における水分率が0〜5%(好ましくは1%以下)の長繊維である疎水性フィラメントを含むので、連結糸に主たる糸10と同一の長短複合紡績糸を用いても、疎水性合繊フィラメントを単独で用いたときと同様の効果が得られる。
すなわち表編地と裏編地との中間に位置する連結糸を疎水性の繊維にすると、肌側の面で吸収した湿気が外気側に、より放出され易くなるため湿気を編地内部に溜め込むことなくなり、より透湿放出性に優れる編物となる。
なお、疎水性合繊フィラメントは、生糸のままで用いてもよいが、仮撚加工糸等の糸加工を行ってもよいし、別のフィラメントと混繊して用いてもよい。
【0027】
<連結糸の総繊度>
連結糸は疎水性フィラメント単独でも、複合糸として用いてもよいが、連結糸の総繊度は、好ましくは10〜500dtex、より好ましくは20〜390dtex、さらに好ましくは30〜110dtexである。総繊度が10〜500dtexの範囲であると、繊維内空隙の径が小さくなりデッドエアーが多くなって、熱の逃散阻止能力が向上すると共に透湿放出効果が高まる。総繊度が10dtex未満であると中間層のデッドエアーが少な過ぎて保温性や透湿放出性が不足する。総繊度が500dtexを超えると、編物が分厚くなりすぎて着用感が悪くなる。
【0028】
<連結糸が複合紡績糸である場合に含まれる疎水性フィラメントの繊度範囲>
連結糸に含まれる疎水性フィラメントの総繊度は、好ましくは10〜200dtex、より好ましくは20〜150dtex、さらに好ましくは30〜110dtexである。総繊度が10dtex未満であると透湿放出性が不足する。総繊度が200dtexを超えると、連結糸の総繊度が太くなりすぎて、透湿放出性が低下したり、編物が分厚くなりすぎて着用感が悪くなる。
【0029】
<連結糸の単糸繊度>
連結糸に含まれる疎水性フィラメントの単糸繊度は、好ましくは0.1〜5dtex、より好ましくは0.3〜3dtex、さらに好ましくは0.5〜2.0dtexである。単糸繊度が0.1〜5dtexの範囲であると繊維内空隙の径が小さくなり、デッドエアーが多くなって熱の逃散阻止能力が向上すると共に、透湿放出効果が高まる。単糸繊度が0.1dtex未満であると透湿放出性が不足する。単糸繊度が5dtexを超えると、繊維が硬くなりすぎて、着用したときにチクツキ感が出易くなる。
【0030】
<編物の構造について>
本発明の表編地と裏編地とを含む編物には、例えば丸編では、タックリバース、鹿子リバース、ダブルフェイス、及びダンボールニット等のダブルニット組織がある。この中で三層構造の編物としてはダンボールニット等の組織がある。
タックリバース、鹿子リバース、及びダブルフェイスのような組織は、片側の層を構成する糸がもう一方の層の組織にタックで編込まれて連結する。例えばタックリバース組織は、
図2に示すように、F1で編まれた糸が一方の層(例えば表層)となり、F2で編まれた糸がもう一方の層(例えば裏層)となる。例えばF1のシリンダー針No.1でニット組織を編んだ表層を構成する糸に、裏層を構成する糸がF2のシリンダー針No.1でタック組織として編まれて連結する。このときF2で編まれた糸が裏層と連結糸とを兼ねる。
【0031】
ダンボールニットのような組織は、表と裏をそれぞれ別の糸で構成し、さらに表裏でループを作らずに、単独で表裏を連結する連結糸を備える。ダンボールニット組織は、
図3に示すように、F2で編まれた糸が表側の層となり、F3で編まれた糸が裏側の層となる。例えば、F2のシリンダー針No.1でニット組織を編んだ表側の層を構成する糸に、連結糸がF1のシリンダー針No.1にタック組織として編まれて連結する。また、F3のダイヤル針No.1でニット組織を編んだ裏側の層を構成する糸に、同じく連結糸がF1のダイヤル針No.1でタック組織として編まれて連結する。このときF1で編まれた糸が単独で表裏を連結する連結糸となる。
【0032】
さらに、一方の面(外気側又は表面)におけるインチあたりの長短複合紡績糸のコース数が、他方の面(肌側又は裏面)における長短複合紡績糸のコース数の90〜300%となり、かつ、一方の面(外気側又は表面)におけるインチあたりの長短複合紡績糸のウェール数が、他方の面(肌側又は裏面)における長短複合紡績糸のウェール数の20〜100%となるよう表裏層のニードルループ数を設計するのが好ましい。これにより肌側面で吸収した湿気を、連結糸及び外側面を通して放出し易くなる。より好ましくは該コース数が100〜250%、該ウェール数が30〜80%である。更に好ましくは該コース数が150〜230%、該ウェール数が40〜70%である。
【0033】
このように表裏層のループ数に設計された編地を、ダブルフェイス組織を一例にとって説明する。
図4はダブルフェイス組織の一形態であるが、F1、3、4、6で編まれた糸が一方の層(例えば表層)となり、F2、5で編まれた糸がもう一方の層(例えば裏層)となる。また、F2のダイヤル針No.1でニット組織を編んだ裏層を構成する糸に、表層を構成する糸がF4のダイヤル針No.1でタック組織として編まれて連結する。このときF1、F4が表層と連結糸とを兼ねる。ここでF1〜6の全ての糸に長短複合紡績糸(主たる糸)を用いた場合、他方の面(ダイヤル針の面)に比べて、一方の面(シリンダー針の面)における長短複合紡績糸のニット率は100%となり、コース数は200%、ウェール数は50%となる。また、F2、3、5、6に長短複合紡績糸(主たる糸)を用いて、F1、4に疎水性フィラメント糸を用いた場合、他方の面(ダイヤル針の面)に対して、一方の面(シリンダー針の面)における長短複合紡績糸のニット率は50%となり、コース数は100%、ウェール数は50%となる。
【0034】
<丸編条件>
編機のゲージや編機口径は使用目的によって適宜選定すればよく、例えば10〜40ゲージを使用することができる。編成糸長も編組織と使用する糸に合わせて適宜設定することができる。
三層構造編物の厚さや目付は希望に応じて適宜選定すればよく、例えば、厚みは2〜20mm程度、好ましくは3〜10mm程度であり、目付は80〜1200g/m
2程度、好ましくは150〜500g/m
2程度である。また、三層構造編物は必要に応じて所望のサイズに裁断したり、裁断後の編地片を縫製又は熱成形により所望の形状にして用いてもよい。
また本発明の三層構造編物の保温性は、見掛けのclo値が0.8〜1.9であり、透湿放出性は13〜25である。
【0035】
<長短複合紡績糸の製造方法>
短繊維と疎水性フィラメントとの複合方法は、例えば短繊維の粗糸を作製して粗糸と疎水性フィラメントとを精紡工程において複合して紡績糸を作る方法、短繊維のみの紡績糸を作りこれを疎水性フィラメントと交撚する方法、及び紡績糸に疎水性フィラメントをカバーリングする方法等用いることができる。本発明では、この中で精紡工程において複合する方法が最も好ましい。
なお、このような方法により複合される長短複合紡績糸の一例を挙げると、疎水性長繊維を芯にしたコアスパンヤーン形態や、
図1に示すような短繊維11と疎水性フィラメント12とが実質的に均一に混合されてなる紡績形態が好ましい形態である。ここで「実質的に均一に混合される」とは、コアヤーンや交撚糸のようにフィラメントが一部分に集中して存在する状態とは異なり、短繊維11と疎水性フィラメント12とがそれぞれ分散して存在する状態を意味する。
【0036】
図5は、長短複合紡績糸の製造装置の一例を示す概略図である。
(1)パーン1に捲かれた疎水性フィラメントA1が、ガイド2を経て電極3を用いて静電気が印加されて開繊されて開繊フィラメントA2となり、環状ガイド4に通して開繊幅及び供給位置を規制されつつフロントローラ5cに供給される。
(2)梳毛粗糸B1をバックローラ5aに供給し、クレードル5b、フロントローラ5c間でドラフトされてフリース状の短繊維フリースB2となり、フロントローラ5cに供給される。
【0037】
(3)フロントローラ5cに供給された開繊フィラメントA2と短繊維フリースB2は、フロントローラ5cのニップ点で混合される。この時、開繊フィラメントA2の開繊幅を、短繊維フリースB2の最大幅と同等かあるいは該最大幅以上に開繊させ、開繊フィラメントA2の中心と短繊維フリースB2の中心とを重ね合わせて混合される。
(4)フロントローラ5cを通過した開繊フィラメントA2と短繊維フリースB2とは加撚されて、均一混合層を形成する特異な糸構造をなす長短複合紡績糸C1が生成される。
(5)長短複合紡績糸C1が、スネルワイヤ6を経てリングトラベラ7により管糸8に捲き取られる。
【0038】
以上のように、本発明に係る編物は、保温性が高い二層以上の構造の編地において、紡績糸に疎水性フィラメントを混合した複合紡績糸を用いるという特有の構造を備えることにより、湿気を外気に放出し易くなるので、衣料用インナー(下着及び肌着)に好適に用いられる。特に極寒時に3枚以上の重ね着をしたときには、体温を積極的に維持することができると共に、身体から発散した湿気を積極的に外気側へ放出することができるので、快適に着用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
<測定方法>
(1)水分率%(ワタ、紡績糸及び編物)
1.試料の絶乾質量の測定
試料を温度90℃の乾燥機中に3時間静置後、絶乾質量(W0)(単位:g)を測定する。
2.試料の湿潤質量の測定
試料を温度20℃相対湿度(A)%RHの恒温恒湿漕に24hr以上静置後、試料の質量(WA)(単位:g)を測定する。
3.水分率の算出
以下の(式1)より水分率(HA)%を算出する。
水分率(HA)%={(WA−W0)/W0}×100 ・・・(式1)
【0041】
(2)保温性(見掛けのclo値)
ASTM−D1518法に準拠して測定する。株式会社大栄化学精器製作所製、保温性試験機を用い測定する。20℃65%RH、風速0.3m/sec以下の環境下において、36℃一定温度で制御した熱板(25cm×25cm)を50cm×50cmの試料で覆い、2時間静置中、熱板温度を36℃に保つために熱板に電力供給された積算時間(sec)を用い(式2)により、Iclo値を算出する。
Iclo値=((Ts−Ta)×A)/(0.18×W)×(72000/S)
・・・(式2)
Ts:熱板温度=36℃
Ta:環境温度=20℃
A:熱板面積=0.0625m
2
W:熱板供給電力=34.4kcal/h
S:熱板に供給された積算時間(sec)
0.18:定数、1clo=0.18m
2・℃・h・kcal
−1
吸水率:JIS L1018メリヤス生地試験方法に準じる。
但し、ローラー絞り機に替えて、遠心脱水機1000G、10分間絞りとする。
【0042】
(3)透湿放出性
発汗シミュレーション測定装置を用い、水供給量:200g/m
2・h、熱板温度:37℃、試料−熱板間隔:1cm、環境温湿度:15℃50%RH、発汗パターン:試験開始より無発汗で10分経過した後、5分発汗を実施、測定項目:発汗開始直後から発汗5分後までの湿度上昇度(%RH)を測定する。
【0043】
なお、発汗シミュレーション装置は、発汗孔を有する基体及び産熱体からなる産熱発汗機構、発汗孔に水を供給するための送水機構、産熱体の温度を制御する産熱制御機構、及び温湿度センサーから構成されている。該基体は黄銅製で面積120cm
2であり、発汗孔が6個設けられ、面状ヒーターからなる産熱体により一定温度に制御される。該送水機構はチューブポンプを用いて一定量の水を該基体の発汗孔に送り出す。該基体の表面には、厚み0.1mmのポリエステルマルチフィラメント織物からなる模擬皮膚が貼り付けられており、これにより発汗孔から吐出された水が基体表面に広げられ、発汗状態が作り出される。該基体の周囲には高さ1cmの外枠が設けられており、試料を基体から1cm離れた位置に容易にセットすることができる。該温湿度センサーは該基体と試料との間の空間に設置され、該基体が発汗状態の時の「基体と試料と外枠で囲まれた空間」の湿度を測定する。
【0044】
(4)単位面積あたりのニットループ数
編物を平面上に張力が掛らないように拡げた状態で、ルーペを用いて編物表面もしくは編物裏面における1inch
2面積中に存在するニードルループの数を目視で数える。
(5)編物の目付
JIS L1018 8.4.2により標準状態における単位面積あたりの質量に準じて測定する。
(6)編物の厚み(mm)
JIS L1018 8.5.1により編地の厚さに準じて測定する。
【0045】
<実施例1>
メリノウールを原料として20.0MICの防縮加工トップを生成した。東洋紡製モイスケア(アクリレート繊維、繊度2.2dtex、繊維長76mm、標準状態での水分率50.8%)と、防縮加工トップを混綿及びリコームして、常法の通り前紡工程までを行い梳毛粗糸B1(番手1/5.0Nm、羊毛80質量%、モイスケア20質量%)を生成した。
【0046】
図5に示す長短複合紡績糸の製造装置に、梳毛粗糸B1をバックローラ5aから供給し、バックローラ5aおよびクレードル5bとフロントローラ5cとの間において、全ドラフト倍率18.0倍でドラフトし、短繊維フリースB2とした。
一方、疎水性フィラメントA1としてポリエステルフィラメント56デシテックス/24フィラメント(丸断面、セミダル、標準状態での水分率0.4%を用い、ガイド2を経て開繊電極3へ供給した。
【0047】
スネルワイヤ6により疎水性フィラメントA1に−3000Vを印加して開繊させ、開繊フィラメントA2とした。
次いで開繊フィラメントA2をリングトラベラ7に通して、開繊幅をフリースの最大幅の150%程度に広げ、短繊維フリースB2の中心に開繊フィラメントA2の中心が重なる様に、開繊フィラメントA2と短繊維フリースB2との供給位置を規制しつつ、フロントローラ3に供給した。
【0048】
フロントローラ5cのニップ点において、開繊フィラメントA2と短繊維フリースB2とを重ね合わせて、実質的に均一に混合した。
フロントローラ5cを通過した開繊マルチフィラメントA2と短繊維フリースB2とを撚数510T/m(Z撚り)に加撚して、ポリエステル23質量%/モイスケア15質量%/羊毛62質量%、番手1/52Nmの長短複合紡績糸C1を生成し、管糸8に巻き上げた。この長短複合紡績糸C1を2本交撚して2/52Nm(約385dtex)の長短複合紡績双糸C2として使用した。
【0049】
2/52Nmの長短複合紡績双糸C2を、表層、裏層、及び連結糸に100%使用し、口径30inch、14ゲージの両面丸編機LEC(福原製)を用いて、
図4のようなダブルフェイス組織で編上げた。次いで編上げた編物を常法にて染色整理工程に通して一般的な染色加工を施して仕上げた。仕上った編物の目付は310g/m
2で、厚み1.48mmであった。実施例1の編物の評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<実施例2>
前紡工程まで実施例1と同様にして得られた梳毛粗糸B1(番手1/5.0Nm)に、疎水性フィラメントA1としてポリエステルフィラメント糸56デシテックス/24フィラメント(丸断面、セミダル、標準状態での水分率0.4%)を精紡工程において混繊し、ポリエステルフィラメントが収束して紡績糸内部に混紡されている番手1/52Nmのコアスパン長短複合紡績糸を生成した。このコアスパン長短複合紡績糸を実施例1と同様に2本交撚してコアスパン長短複合紡績双糸とした。さらに編物組織を
図3のようなダンボールニットに変更し、該コアスパン長短複合紡績双糸を100%使用して製編した後、一般的な染色加工を施して仕上げた。実施例2の編物の評価結果を表1に示す。
【0052】
<実施例3>
実施例1において生成した長短複合紡績双糸C2を表層、及び裏層に100%使用し、編物組織を
図3のようなダンボールニットにし、ダンボールニットの連結糸を、ポリエステルフィラメント84デシテックス/36フィラメント(丸断面、セミダル、標準状態での水分率0.4%)にして製編した後、一般的な染色加工を施して仕上げた。実施例3の編物の評価結果を表1に示す。
【0053】
<実施例4>
実施例1において生成した長短複合紡績双糸C2を表層、及び裏層に100%使用し、連結糸(
図4のF1、4)としてポリエステルフィラメント84デシテックス36フィラメント(丸断面、セミダル、標準状態での水分率0.4%)を使用し、実施例1と同様にダブルフェイス組織で編上げた。このときF2、3、5、6に番手2/52Nmの長短複合紡績糸を配置し、F1、4にポリエステルフィラメントを配置した。次いで編上げた編物に一般的な染色加工を施して仕上げた。実施例4の編物の評価結果を表1に示す。
【0054】
<比較例1>
実施例1において長短複合紡績双糸C2を、オーストラリア綿100%英式番手30/1s紡績糸に変更し、その他の部分は実施例1と同様にダブルフェイス組織で編上げた。次いで編上げた編物に一般的な染色加工を施して仕上げた。比較例1の編物の評価結果を表1に示す。
【0055】
<比較例2>
前紡工程まで実施例1と同様にして得られた梳毛粗糸B1(番手1/5.0Nm)に、疎水性フィラメントA1を混紡せず、そのままドラフトをかけて番手1/52Nmの紡績糸を生成した。この紡績糸を実施例1と同様に2本交撚して紡績双糸とし、該紡績双糸を100%使用して製編した後、一般的な染色加工を施して仕上げた。比較例2の編物の評価結果を表1に示す。
【0056】
表1によれば、実施例1〜4は、比較例1〜2に較べて、透湿放出性が高く、湿気を外気に放出し易くなっていることがわかる。よって、保温性が高い多層構造の編物において、吸湿性を備える紡績糸の内部に疎水性フィラメントを混合した複合紡績糸を使用するという特有の構造により、暖かい上に湿気を外気に放出しやすくなり、蒸れによる不快感を押えることができる。