特許第6241102号(P6241102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241102反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241102
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20171127BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   G02B1/115
   C23C14/06 P
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-151037(P2013-151037)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-22187(P2015-22187A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀雄
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−164120(JP,A)
【文献】 特開2009−282296(JP,A)
【文献】 特開2000−111702(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/029219(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/115
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
He光源のd線(波長587.56 nm)における屈折率が1.43以上2.01以下の光学基材の表面上に、第1層〜第14層を前記基材側からこの順に積層してなる反射防止膜であって、
前記第1層,前記第3層,前記第5層,前記第7層,前記第9層,前記第11層及び第13層は前記d線における屈折率が2.201以上2.7以下の高屈折率材料により形成された高屈折率層からなり、
前記第2層,前記第4層,前記第6層,前記第8層,前記第10層及び前記第12層は前記d線における屈折率が1.501以上1.7以下の中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、
前記第14層は前記d線における屈折率が1.37以上1.44以下の低屈折率材料により形成された低屈折率層であり、
前記第1層の光学膜厚が5nm以上45 nm以下であり、
前記第2層の光学膜厚が15 nm以上125 nm以下であり、
前記第3層の光学膜厚が40 nm以上130 nm以下であり、
前記第4層の光学膜厚が1nm以上45 nm以下であり、
前記第5層の光学膜厚が135 nm以上175 nm以下であり、
前記第6層の光学膜厚が20 nm以上50 nm以下であり、
前記第7層の光学膜厚が30 nm以上65 nm以下であり、
前記第8層の光学膜厚が155 nm以上180 nm以下であり、
前記第9層の光学膜厚が10 nm以上35 nm以下であり、
前記第10層の光学膜厚が45 nm以上75 nm以下であり、
前記第11層の光学膜厚が147 nm以上170 nm以下であり、
前記第12層の光学膜厚が5nm以上28 nm以下であり、
前記第13層の光学膜厚が55 nm以上85 nm以下であり、
前記第14層の光学膜厚が120 nm以上145 nm以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜において、前記光学基材は光学ガラス、樹脂材料又は光学結晶からなることを特徴とした反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜において、
前記高屈折率材料はTiO2又はNb2O5の単体又はTiO2とNb2O5の混合材料であり、
前記中間屈折率材料はAl2O3の単体,SiO2とTiO2の混合材料,SiO2とNb2O5の混合材料,Al2O3とTiO2の混合材料又はAl2O3とNb2O5の混合材料であり、
前記低屈折率材料はMgF2の単体であることを特徴とした反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜を施したことを特徴とする光学部材。
【請求項5】
請求項4に記載の光学部材を有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載するレンズ、プリズム、フィルター等の光学部材に適用される反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
写真用や放送用等に広く用いられている単焦点レンズやズームレンズは、一般的に多数枚のレンズからなる鏡筒構成を有しており、そのレンズ数は10枚程度から40枚程度にもなる。
【0003】
レンズ枚数が多くなると各レンズ表面の反射光の総量が増加し、またその反射光が多重反射を繰り返して感光面に入射することでフレアやゴーストといった光学特性を著しく劣化させる弊害を発生させる原因となる。そのためこれらのレンズの表面には、レンズとは異なる屈折率をもつ誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定して干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0004】
例えば、特開2000-111702号公報(特許文献1)は、屈折率1.6以上と屈折率1.5以下の14層膜で波長330〜710 nmにおける反射率1%以下、400〜680 nmにおける反射率0.25%以下の広帯域反射特性を有する反射防止膜を提案している。しかし、この反射防止膜は、反射防止帯域の特に可視域付近における反射率がせいぜい0.25%以下であり、近年のデジタルカメラレンズにおいて要求される可視域の反射率0.1%を満たしていない。
【0005】
特開2002-14203号公報(特許文献2)は、屈折率2.407のTiO2と屈折率1.450のSiO2による14層〜17層膜で波長400〜700 nmにおける反射率0.1%以下の超低反射率特性を有する反射防止膜を提案している。この反射防止膜は、反射防止の波長帯が、一般的に可視域とされる波長帯380〜780 nmに対して300 nm程度の幅に留まっている。しかし、人間の目にはこれらの可視域の中でも波長390〜720 nmの範囲において色みを強く感じる視覚感度を持つ。それは明所視の際に働く視細胞である錯体の分光視感効率から分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-111702号公報
【特許文献2】特開2002-14203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、垂直に入射する光に対して、従来の反射防止域の波長帯300 nmを越える、波長390〜720 nmの可視域の範囲の広い波長帯330 nmにおける反射率が0.1%以下である反射防止膜を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、かかる反射防止膜を施した光学部材を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、かかる光学部材を有する光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、He光源のd線(波長587.56 nm)における屈折率が1.43〜2.01の光学基材の表面上に、所定の光学膜厚を有する第1層〜第14層を基材側からこの順に積層し、第1層,第3層,第5層,第7層,第9層,第11層及び第13層をd線における屈折率が2.201〜2.7の高屈折率材料により形成された高屈折率層とし、第2層,第4層,第6層,第8層,第10層及び第12層をd線における屈折率が1.501〜1.7の中間屈折率材料により形成された中間屈折率層とし、第14層をd線における屈折率が1.37〜1.44の低屈折率材料により形成された低屈折率層とすることにより、垂直に入射する光に対して波長390〜720 nmの波長帯330 nmにおける反射率が0.1%以下である反射防止膜が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明の反射防止膜、光学部材及び光学機器は以下の特徴を有している。
[1] He光源のd線(波長587.56 nm)における屈折率が1.43以上2.01以下の光学基材の表面上に、第1層〜第14層を前記基材側からこの順に積層してなる反射防止膜であって、
前記第1層,前記第3層,前記第5層,前記第7層,前記第9層,前記第11層及び第13層は前記d線における屈折率が2.201以上2.7以下の高屈折率材料により形成された高屈折率層からなり、
前記第2層,前記第4層,前記第6層,前記第8層,前記第10層及び前記第12層は前記d線における屈折率が1.501以上1.7以下の中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、
前記第14層は前記d線における屈折率が1.37以上1.44以下の低屈折率材料により形成された低屈折率層であり、
前記第1層の光学膜厚が5nm以上45 nm以下であり、
前記第2層の光学膜厚が15 nm以上125 nm以下であり、
前記第3層の光学膜厚が40 nm以上130 nm以下であり、
前記第4層の光学膜厚が1nm以上45 nm以下であり、
前記第5層の光学膜厚が135 nm以上175 nm以下であり、
前記第6層の光学膜厚が20 nm以上50 nm以下であり、
前記第7層の光学膜厚が30 nm以上65 nm以下であり、
前記第8層の光学膜厚が155 nm以上180 nm以下であり、
前記第9層の光学膜厚が10 nm以上35 nm以下であり、
前記第10層の光学膜厚が45 nm以上75 nm以下であり、
前記第11層の光学膜厚が147 nm以上170 nm以下であり、
前記第12層の光学膜厚が5nm以上28 nm以下であり、
前記第13層の光学膜厚が55 nm以上85 nm以下であり、
前記第14層の光学膜厚が120 nm以上145 nm以下であることを特徴とする反射防止膜。
[2] 上記[1] に記載の反射防止膜において、前記光学基材は光学ガラス、樹脂材料又は光学結晶からなることを特徴とした反射防止膜。
[3] 上記[1] 又は[2] に記載の反射防止膜において、
前記高屈折率材料はTiO2又はNb2O5の単体又はTiO2とNb2O5の混合材料であり、
前記中間屈折率材料はAl2O3の単体,SiO2とTiO2の混合材料,SiO2とNb2O5の混合材料,Al2O3とTiO2の混合材料又はAl2O3とNb2O5の混合材料であり、
前記低屈折率材料はMgF2の単体であることを特徴とした反射防止膜。
[4] 上記[1] 〜[3] のいずれかに記載の反射防止膜を施したことを特徴とする光学部材。
[5] 上記[4] に記載の光学部材を有することを特徴とする光学機器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、垂直に入射する光に対して、従来の反射防止域の波長帯300 nmを越える、波長390〜720 nmの可視域の範囲の広い波長帯330 nmにおける反射率が0.1%以下である反射防止膜、それを用いたフレアやゴースト等の光学特性を著しく劣化させる弊害を発生しない高性能な光学部材、及びそれを有する光学機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例による反射防止膜を示す図である。
図2】(A) は実施例1-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図3】(A) は実施例1-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図4】(A) は実施例1-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図5】(A) は実施例1-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図6】(A) は実施例1-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図7】(A) は実施例1-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図8】(A) は実施例1-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図9】(A) は実施例2-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図10】(A) は実施例2-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図11】(A) は実施例2-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図12】(A) は実施例2-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図13】(A) は実施例2-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図14】(A) は実施例2-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図15】(A) は実施例2-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図16】(A) は比較例1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図17】(A) は比較例2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図18】本発明の実施例による反射防止膜に用いるコーティング材料の屈折率分散を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一実施例による基材10の表面上に基材10から順に第1層21〜第14層34を積層してなる反射防止膜20を示す図である。
【0015】
図1に示す基材10は平板であるが、本発明はこれに限らず、レンズ、プリズム、ライトガイド、フィルム又は回折素子でも良い。基材10は、波長587.56 nmのHe光源のd線(以下、単に「d線」とする。)に対して屈折率が1.43〜2.01であるものが好適に用いられる。基材10の材料は、ガラス、結晶性材料、樹脂材料(プラスチック等)等の透明材料を用いても良い。具体的には、FK03、FK5、BK7、SK20、SK14、LAK7、LAK10、LASF016、LASF04 SFL03、LASF08、NPH2、TAFD4、S-FPL53(登録商標)、S-PSL5(登録商標)、S-BSL7(登録商標)、S-BAL50(登録商標)、S-BSM14(登録商標)、S-LAL7(登録商標)、S-LAL10(登録商標)等の光学ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英、青板ガラス、白板ガラス、ルミセラ(登録商標)、ゼロデュア(登録商標)、蛍石、サファイア、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アペル(登録商標)、ゼオネクス(登録商標)、アートン(登録商標)等が挙げられる。
【0016】
反射防止膜20の奇数層(第1層21,第3層23,第5層25,第7層27,第9層29,第11層31,第13層33)はd線に対して2.201以上2.7以下の屈折率を示す高屈折率材料により形成された高屈折率層であり、第14層34を除く偶数層(第2層22,第4層24,第6層26,第8層28,第10層30,第12層32)はd線に対して1.501以上1.7以下の屈折率を示す中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、第14層34はd線に対して1.37以上1.44以下の屈折率を示す低屈折率材料により形成された低屈折率層である。
【0017】
本発明の反射防止膜としての特性に影響を与えない範囲であれば反射防止膜20にさらに膜を追加しても良い。例えば、反射防止膜の特性に影響を与えない範囲であれば、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層の間に屈折率の異なる薄い膜を挿入しても良い。また、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層と同じ光学特性が得られるのであれば、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層のうち少なくとも1層を複数の膜で置き換えても良い。
【0018】
基材10の表面上に上記層構成を有する反射防止膜20を形成することにより、可視域の長波長側の波長域を含む広い波長帯に亘って反射率を十分に低減することができる。具体的には、基材10の表面に対して垂直に入射する光に対して波長390〜720 nmの波長帯330 nmにおける反射率を0.1%以下に抑えることができる。
【0019】
高屈折率層の屈折率は2.201〜2.500であるのが好ましく、中間屈折率層の屈折率は1.501〜1.690であるのが好ましく、低屈折率層の屈折率は1.370〜1.430であるのが好ましい。これにより、波長390〜720 nmの波長帯330 nmに亘って反射率をより抑えることができる。
【0020】
高屈折率材料としては、TiO2又はNb2O5の単体又はTiO2とNb2O5の混合材料を用いることができる。中間屈折率材料としては、Al2O3の単体,SiO2とTiO2の混合材料,SiO2とNb2O5の混合材料,Al2O3とTiO2の混合材料又はAl2O3とNb2O5の混合材料を用いることができる。低屈折率材料としては、MgF2の単体を用いることができる。
【0021】
なお高屈折率材料、中間屈折率材料及び低屈折率材料は上記のものに限定されず、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層の所望の屈折率が得られるものであれば、適宜用いることができる。
【0022】
第1層21の光学膜厚[屈折率(n)×物理膜厚(d)]は5nm以上45 nm以下であり、第2層22の光学膜厚は15 nm以上125 nm以下であり、第3層23の光学膜厚は40 nm以上130 nm以下であり、第4層24の光学膜厚は1nm以上45 nm以下であり、第5層25の光学膜厚は135 nm以上175 nm以下であり、第6層26の光学膜厚は20 nm以上50 nm以下であり、第7層27の光学膜厚は30 nm以上65 nm以下であり、第8層28の光学膜厚は155 nm以上180 nm以下であり、第9層29の光学膜厚は10 nm以上35 nm以下であり、第10層30の光学膜厚は45 nm以上75 nm以下であり、第11層31の光学膜厚は147 nm以上170 nm以下であり、第12層32の光学膜厚は5nm以上28 nm以下であり、第13層33の光学膜厚は55 nm以上85 nm以下であり、第14層34の光学膜厚は120 nm以上145 nm以下である。第1層21〜第14層34の光学膜厚は、基材10及び反射防止膜20の各層21〜34の屈折率に応じてコンピュータを用いて最適値として求めた値である。
【0023】
第1層21〜第14層34はスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法により形成するのが好ましい。特に第1層〜第6層をスパッタリング法又はイオンプレーティング法により形成し、第7層を加工精度の良い真空蒸着法により形成するのが好ましい。それにより屈折率が安定した反射防止膜20を効率良く形成することができる。
【0024】
本発明の反射防止膜を施した光学部材は、優れた屈折率特性を有し、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載するレンズ、プリズム、フィルター等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜7
図1に示す基材10及び反射防止膜20を用いて分光反射率のシミュレーションを行った。図2〜8の表(A) は、実施例1〜7の基材10としてそれぞれ光学ガラスS-FPL53(株式会社オハラ製、nd=1.4388)、S-BSL7(株式会社オハラ製、nd=1.5163)、S-BSM15(株式会社オハラ製、nd=1.6230)、S-LAL10(株式会社オハラ製、nd=1.72000)、S-LAH54(株式会社オハラ製、nd=1.8155)、S-NPH2(株式会社オハラ製、nd=1.9229)、TAFD40(HOYA株式会社製、nd=2.0007)を使用したときの反射防止膜20の各層21〜34の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。
【0027】
高屈折率層21,23,25,27,29,31及び33は、高屈折率材料としてd線に対して屈折率2.312を示すNb2O5を使用し、スパッタリング法により形成したものとする。中間屈折率層22,24,26,28,30及び32は、中間屈折率材料としてd線に対して屈折率1.501を示すNb2O5とSiO2の混合材料を使用し、スパッタリング法により形成したものとする。低屈折率層34は、低屈折率材料としてd線に対して屈折率1.388を示すMgF2使用し、真空蒸着法により形成したものとする。
【0028】
各実施例1〜7の反射防止膜20の表面に対して垂直に入射する光(0°入射光)に対する分光反射率をシミュレーションにより求めた。その際、基材10及び反射防止膜20の各層21〜34の屈折率分散を考慮した。反射防止膜20に用いる材料の屈折率分散を図18に示す。また基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。得られた計算結果を図2〜8のグラフ(B) に示す。
【0029】
実施例8〜14
図9〜15の表(A) に示すように、高屈折率材料をTiO2とし、中間屈折率材料をAl2O3とした以外は実施例1〜7と同様の条件で反射防止膜20の各層21〜34の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。各実施例8〜14の反射防止膜20の表面に対して垂直に入射する光(0°入射光)に対する分光反射率を実施例1〜7と同様にシミュレーションにより求めた。得られた計算結果を図9〜15のグラフ(B) に示す。
【0030】
比較例1
特許文献1の実施態様4を参照し、S-BSL7からなる基材に第1層〜第14層からなる反射防止膜を真空蒸着法により形成したときの各層の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。その際、Ta2O5の屈折率を2.233とし、SiO2の屈折率を1.487とし、MgF2の屈折率を1.388とした。得られた結果を図16の表(A) に示す。この反射防止膜の表面に対して垂直に入射する光(0°入射光)に対する分光反射率を実施例1〜14と同様にシミュレーションにより求めた。得られた計算結果を図16のグラフ(B) に示す。
【0031】
比較例2
特許文献2の実施態様3を参照し、S-BSL7からなる基材に第1層〜第14層からなる反射防止膜を真空蒸着法により形成したときの各層の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。その際、Ta2O5の屈折率を2.233とし、TiO2の屈折率を2.455とし、SiO2の屈折率を1.450とした。得られた結果を図17の表(A) に示す。この反射防止膜の表面に対して垂直に入射する光(0°入射光)に対する分光反射率を実施例1〜14と同様にシミュレーションにより求めた。得られた計算結果を図17のグラフ(B) に示す。
【0032】
図2(B)〜図15(B) から分かるように、本発明の反射防止膜の分光反射率の計算結果は、波長390〜720 nm(波長幅330 nm)において0.1%以下の反射率を達成した。一方、比較例1及び2の反射防止膜の分光反射率の計算結果は、図16(B) 及び17(B) に示すように、波長390〜720 nmにおいて目標である0.1%以下の反射率を達成できなかった。
【符号の説明】
【0033】
10・・・基材
20・・・反射防止膜
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