(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X60〜X80級の板厚20mm以上の鋼板を円筒状に成型して、あらかじめ開先加工を施した突合せ面を、多電極サブマージアーク溶接により、内面から一層、外面から一層により溶接して製造するUO鋼管の溶接部であって、板表面下7mmの溶接金属中央部における溶接金属の吸収エネルギーが、板表面下7mmの溶融線から0.5mmの位置の溶接熱影響部の吸収エネルギーを上回る溶接部において、
(x)溶接金属止端部から、板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、板表面から板厚方向の距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値より大きく、
(y)溶接金属止端部から、板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、15°以上、80°以下であり、
(z)板表面からの板厚方向距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、5°以上、25°以下である
ことを特徴とする低温靱性に優れたサブマージアーク溶接部。
前記表面下7mmの溶接金属中央部における溶接金属の吸収エネルギーが、板表面下7mmの溶融線から0.5mmの位置の溶接熱影響部の吸収エネルギーの2.0倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温靱性に優れたサブマージアーク溶接部。
【背景技術】
【0002】
近年、極寒冷地でのエネルギー源の開発の進行に伴い、ラインパイプ用UO鋼管には、極寒冷地でも耐え得る低温靱性が要求されている。最近では、−60℃での低温靱性が要求されている。これに伴い、ラインパイプ用UO鋼管のシーム溶接部にも、母材と同様の、極寒冷地でも耐え得る低温靱性が要求される。さらに、耐座屈性能の確保から、鋼管の厚肉化の要望もある。
【0003】
UO鋼管のシーム溶接には、一般に、生産性と品質の観点から複数の電極を用いた、多電極サブマージアーク溶接が用いられる。シーム溶接部は、大きく、溶接金属、溶融線、及び、溶接熱影響部(HAZ)からなる。HAZにおいては、溶接入熱により母材の組織が変質及び/又は粗大化し、多くの場合は靱性が低下する。特に、厚肉鋼管になると入熱も相対的に大きくなり、HAZ靱性に対しては不利に作用する。
【0004】
例えば、板厚方向に、溶融線と交差してノッチ等の疵が板表面から入り、ノッチを起点として亀裂が進展する場合を想定する。その場合、溶融線近傍のHAZ部の靱性が低いと、そこを亀裂が伝播し、溶接金属に沿って破壊が進展することが想定される。そのため、特に、鋼管の外表面側におけるHAZ部の靱性は、使用上の安全性を確保するうえで重要である。
【0005】
ここでいうHAZ部とは、溶接金属、溶融線、及び、HAZを含んだHAZを中心とした溶融線近傍を意味する。HAZの靱性は、加熱される最高温度により変化する。実際の溶接部において、HAZ組織は、溶融線から母材原質部まで連続的に変化するので、最も靱性の低いHAZ組織は、溶接部の一部である。
【0006】
そのため、HAZそのものの靱性でなく、溶融線近傍の全体的な種々の特性の混合体としても検討する必要があるため、本発明では、個々のHAZと区別してHAZ部という。
【0007】
このように、UO鋼管のシーム溶接部においては、HAZ部の低温靱性の改善が一つの課題であり、これまで、冶金的側面及びプロセス的側面から改善手法が数多く提案されている。
【0008】
特許文献1には、内面及び外面の溶接を、それぞれ1層行う通常の溶接に対して、外面を2層溶接する方法が提案されている。即ち、溶接を低入熱化することで、HAZ部の靱性低下を抑制しようとする方法である。
【0009】
この方法では、多層溶接によるスラグ残りを防ぐために、金属形状やスラグ剥離の良好なフラックスの使用、又は、2段開先等を活用して生産性を確保しているが、いずれにしても溶接回数の増加や加工の複雑化による生産コストの増大は避けられない。
【0010】
特許文献2には、溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板の製造方法が提案されている。この製造方法では、鋼板が実質的にAlを含有せず、Ti及びMgで微細酸化物を形成し、HAZ組織の粗大化を防止している。
【0011】
しかし、鋼板の成分組成が規定されているため、鋼板に要求される強度、靱性、耐食性、又は、製造性が制限されることになる。また、極低Al鋼であるので、他の脱酸元素を使用することになり、製造コストが高くなるという問題もある。
【0012】
特許文献3には、内外面各の各1層でシーム溶接を完了する、厚さ25mm以上のUO鋼管を想定して、溶融線の傾斜、及び、後続溶接(Final側)の溶融線近傍のHAZの粒径を規定して、HAZ部の靱性を改善する方法が提案されている。しかし、この方法では、単純に溶融線を寝かすと、溶け込みが浅くなる問題がある。
【0013】
UO鋼管等の内外面2層溶接では、内面溶接金属と外面溶接金属が接触しないと欠陥に繋がるので、この接触を確保する必要がある。そのためには、適切な溶込み深さが必要である。溶融線を寝かせて、かつ、溶込みを深くするためには、溶接金属の断面積そのものを広くする必要があるが、その場合は、入熱が増加し、溶接熱影響部の靱性が低下する可能性がある。
【0014】
また、粒径を規定するためには、母材の成分組成を規定する必要があり、母材設計の自由度を低くなるという欠点もある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述したように、本発明者らは、多電極サブマージアーク溶接部の形状に注目した。
図1に、溶接金属形状の一例を示す。
【0026】
溶融線が金属表面近傍で折れ曲がっていることが解る。本発明者らは、溶接金属形状が、溶接条件によっては、溶融線が金属表面近傍で折れ曲がる形状となることに注目し、HAZ部の靭性を改善するため、溶接金属形状と2mmVノッチシャルピー衝撃試験(以下、単に「衝撃試験」ということがある。)の結果との関係を調査した。
【0027】
図2に、2mmVノッチシャルピー衝撃試験片の採取要領を示す。
図2に示すように、溶融線7の折曲点7aを、衝撃試験片6のノッチ5の 中央5aと一致させ、かつ、折曲点7aから上の溶融線7とノッチ5のなす角度を変えて衝撃試験片6を採取して、その吸収エネルギーを測定した。
【0028】
実際には、溶融線の折曲点は明瞭でないので(
図1、参照)、
図3に示す採取要領で、衝撃試験片を採取した。
【0029】
即ち、板表面から2mmの深さの位置での溶融線7(図では点線)の接線7bと、板表面から10mmの深さの位置での溶融線7の接線7cの交点7dを通り、かつ、溶接金属3の二つの止端部3a、3bを結んだ線分aと平行な線を、衝撃試験片6の中心線6aとし、中心線6aと溶融線7の交点7dがノッチ5の中心5aとなるように、衝撃試験片6を採取した。
【0030】
衝撃試験片のノッチ部には、溶接金属が50%、HAZが50%含まれることになる。上記採取要領で採取した衝撃試験片の場合、衝撃試験片のノッチの中央が溶融線と交差しているので、溶融線の吸収エネルギーを評価するようにみえるが、破壊は、最も靭性が低い箇所から発生するので、溶融線近傍の最も靭性の低いHAZを含む上記衝撃試験片を用いて衝撃試験を行えば、実際のHAZ部近傍の靱性を総合的に評価することができる。
【0031】
以下、50%溶融金属、50%HAZを含むノッチを形成した衝撃試験片を用いる衝撃試験の結果を、HAZ部の衝撃試験における吸収エネルギーを示すものとして、HAZ部の吸収エネルギーという。また、HAZ組織そのものの吸収エネルギーは、HAZの吸収エネルギーという。
【0032】
図4に、ノッチと溶融線のなす角度θを示す。
図4に示すように、ノッチ5と溶融線7のなす角度θは、衝撃試験片に対し溶接金属の表面側に位置する溶融線7’の接線とノッチ5の角度をθとし、θを変えて衝撃試験片を採取した。θが大きい場合は、
図5に示す採取要領で、衝撃試験片6を採取する。
【0033】
溶接部は、UO鋼管のシーム溶接部を模擬して、鋼板に形成した、即ち、溶接部は、板厚30mmの両面1層ずつの多電極サブマージアーク溶接で形成した溶接部である。
図6に、板厚30mmの鋼板に形成した開先形状を示す。開先は、深さ12mm、開き角度60°の片側V開先である。表1に、溶接条件を示す。
【0035】
母材は、強度600MPa級の高強度鋼板を用い、溶接材料は、市販のワイヤとフラックスを組み合わせて用いて溶接を行った。溶接金属の靱性は、溶接材料の組み合わせで、3レベル作製して評価した。母材及びワイヤの化学組成を表2に示す。フラックスの組成を表3に示す。
【0039】
表4に、溶接金属と母材の引張強度と、溶接金属と母材の−60℃の吸収エネルギーを示す。
図7に、溶接金属からの衝撃試験片の採取要領を示す。
図7に示すように、板表面から7mmの位置に、衝撃試験片の中心線が位置するように、また、衝撃試験片6に形成するノッチ5の位置が、溶接金属の中央に位置するように、衝撃試験片を採取して、衝撃試験を行った。
【0040】
以下、このノッチ位置での衝撃試験による吸収エネルギーを、溶接金属の吸収エネルギーという。
【0041】
衝撃試験片は、溶接金属から3本採取し、各値及び平均値を求めた。溶接金属の−60℃の吸収エネルギーは、ワイヤの組合せを変更することにより、38Jから144Jまで変化した(表4、参照)。
【0042】
次に、上記靱性を有する溶接部から、
図4に示す採取要領で、θを変えて衝撃試験片を採取して衝撃試験を行い、HAZ部の靱性に及ぼすθの影響を調査した。衝撃試験の結果を、
図8〜11に示す。
【0043】
図8〜10に示すように、溶接金属s、t、及び、uでは、いずれも、θが15°以上で、HAZ部の吸収エネルギーが改善されている。しかし、
図11に示すように、靭性が低い溶接金属wの場合は、θが増加してもHAZ部の靭性は改善されていない。
【0044】
そこで、溶接金属の影響を調査することとした。表5に示す4種類のワイヤとフラックスの組合せと、化学成分の異なる母材で溶接部を形成し、溶接金属、HAZ部、及び、0.5mmHAZの靱性を測定した。
【0045】
溶接金属の靱性は、
図7に示す採取要領で採取した衝撃試験片を用いて測定した。HAZの靱性は、HAZが最も粗大化する溶融線近傍を狙い、溶融線から0.5mm離れたHAZにノッチを加工した衝撃試験片を用いて測定した。ノッチは、
図12に示すように、衝撃試験片の中心線と溶融線の交点における溶融線の接線と平行に、溶融線から0.5mmHAZ側の位置に形成した。
【0046】
以下、上記位置にノッチを形成したHAZを0.5mmHAZといい、このノッチ位置の吸収エネルギーを0.5mmHAZの吸収エネルギーという。
【0047】
衝撃試験は、−60℃で3回繰り返して実施し、各値及び平均値を求めた。
図13に、溶接金属の吸収エネルギー/0.5mmHAZの吸収エネルギーと、HAZ部の靱性の関係を示す。横軸に、溶接金属の吸収エネルギーの平均値をHAZの吸収エネルギーの平均値で除した値をとり、縦軸に、溶接金属とHAZの組合せにおけるHAZ部の吸収エネルギーの各値をとった。
【0048】
図13から、−60℃のHAZ部に要求される吸収エネルギーの基準を50Jとすると、溶接金属の吸収エネルギーの平均値をHAZの吸収エネルギーの平均値で除した値が2.0以上であれば、HAZ部の靱性が50Jを上回ることが解る。
【0049】
しかし、実際の溶接部のマクロ断面を観察すると、板表面から溶融線の折曲点までの距離は、溶接状況により変化し、溶融線の折曲点が、必ずしも衝撃試験片の中央に位置するとは限らない。そこで、同じ溶接部を用いて、DNV規格に準拠して、板表面から2mmの位置にノッチの中央部が位置するように衝撃試験片を採取して、θと−60℃の吸収エネルギーの関係を調査した。
【0050】
その際の溶融線とノッチの角度θは、板表面から3mmの位置の溶融線の接線とノッチのなす角度とした。板表面から3mmとしたのは、種々の溶接条件で形成した溶接部の形状を観察した結果、溶融線が折れ曲がる溶接金属の場合(
図1、参照)は、折曲点は、板表面から4〜8mmの位置にあり、板表面から3mmと固定しても、溶融線の傾斜の代表値として支障がないためである。
【0051】
上記調査結果を、
図14〜17に示す。
図14〜16に示す、溶接金属s、t、及び、uの吸収エネルギーは、
図8〜10に示す吸収エネルギーと同様に、θが15°以上で安定して改善されている。実際の規格に沿った試験方法においても、θが15°以上であれば、HAZ部の靱性が、安定的に改善されることが解る。
【0052】
しかし、
図17に示すように、靭性が低い溶接金属wの場合は、θが増加してもHAZ部の靭性は改善されていない。
【0053】
図18に、溶接金属の靱性/HAZ靭性と、HAZ部の吸収エネルギーの改善代の関係を示す。
図18に示すように、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が0.5mmHAZの吸収エネルギーの平均値を上回ると(横軸で1.0超)、HAZ部の吸収エネルギーが改善されることが解る。
【0054】
以上の調査結果から、溶融線とノッチのなす角度が15°以上で、かつ、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が0.5mmHAZの吸収エネルギーを上回ると、HAZ部の吸収エネルギーが改善されることが解る。また、溶接金属の吸収エネルギーの平均値が、0.5mmHAZの吸収エネルギーの2.0倍以上であれば、HAZ部の靱性がより改善されることが解る。
【0055】
ただし、θを、単純に大きくすると溶込みが浅くなる。先行溶接の溶接金属と後続溶接の溶接金属を十分に接触させる必要があるUO鋼管の溶接では、溶込みが浅いと、溶接金属が安定して接触しない可能性がでてくる。溶込みを深くするためには、開先の深さを深くする方法や、電流値を増加する方法があるが、いずれも入熱が増大し、逆に、HAZ靱性の低下を招く。
【0056】
しかし、溶融線に、
図1に示すような折曲点がある溶融金属の形状の場合は、折曲点以下の溶融線の傾斜を小さくすることで、溶込み深さを深くすることができる。
【0057】
本発明者らは、種々の板厚で溶接部を形成して、断面を観察した。その結果、溶融線の折曲点以下の溶融線の傾斜角を25°以下にすれば、深い溶け込みが得られ、不要な入熱増加を避けることができることを知見した。
【0058】
本発明の低温靱性に優れたサブマージアーク溶接部(以下「本発明溶接部」ということがある。)は、上記知見に基づいてなされ、次の特徴を有するものである。
【0059】
X60〜X80級の板厚20mm以上の鋼板を円筒状に成型して、あらかじめ開先加工を施した突合せ面を、多電極サブマージアーク溶接により、内面から一層、外面から一層により溶接して製造するUO鋼管の溶接部であって、板表面下7mmの溶接金属中央部における溶接金属の吸収エネルギーが、板表面下7mmの溶融線から0.5mmの位置の溶接熱影響部の吸収エネルギーを上回る溶接部において、
(x)溶接金属止端部から、板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、板表面から板厚方向の距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値より大きく、
(y)溶接金属止端部から、板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、15°以上、80°以下であり、
(z)板表面からの板厚方向距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と、溶接金属の中心線のなす角度の、最大値と最小値を除いた5点の平均値が、5°以上、25°以下である
ことを特徴とする。
【0060】
以下に、上記特徴要件における数値の限定理由について説明する。
【0061】
(1) (x)要件について
本発明溶接部においては、溶融線と溶接金属の中心線とのなす角度が、溶接金属の板厚方向で、板表面付近と板中心付近で異なり、さらに、板表面付近が、溶融線と溶接金属の中心線のなす角度θがより大きいことが重要である。しかし、溶融線を詳細に観察すると、単純な曲線でないので、特定の位置を指定することは現実的ではない。
【0062】
そこで、溶接金属の止端部から、板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と溶接金属の中心線のなす角度の最大値と最小値を除いた5点の平均値、及び、板表面からの板厚方向距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と溶接金属の中心線とのなす角の最大値と最小値を除いた5点の平均値を、各箇所の溶融線と溶接金属の中心線とのなす角度における代表値とした。
【0063】
なお、最大値と最小値を除いたのは、測定箇所による誤差を排除するためである。
【0064】
板表面から7mmの位置を基準としたのは、通常、UO鋼管のシーム溶接部の靱性を評価するために衝撃試験片を採取する際、衝撃試験片の中心線が板表面から7mmの位置に位置するように採取するからである。このように採取した衝撃試験片を用いることにより、工業的にも妥当な試験結果を得ることができる。
【0065】
(2) (y)要件について
溶接金属止端部から板表面から板厚方向の距離が7mmまでの間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と溶接金属の中心線のなす角度の最大値と最小値を除いた5点の平均値が15°未満であると、HAZ部の靭性改善効果が得られないので、該平均値は15°以上とする。好ましくは20°以上である。
【0066】
一方、上記平均値が80°を超えると、溶接金属の幅が過剰に広くなり、やはり、HAZ部の靭性改善効果が得られないので80°以下とする。好ましくは70°以下である。
【0067】
(3) (z)要件について
表面からの板厚方向距離が7mm以上、12mm以下の間の板厚方向の間隔が0.5mmの任意の7点における溶融線の接線と溶接金属の中心線とのなす角度の最大値と最小値を除いた5点の平均値が5°未満であると、HAZ部の靭性改善効果が得られないので、該平均値は5°以上とする。好ましくは10°以上である。
【0068】
一方、上記平均値が25°を超えると、溶融線の傾斜が大きく、溶接金属の溶込みが浅くなり、内外面各1層の溶接の場合に、外面溶接と内面溶接の接触が困難になる可能性があるので、25°以下とする。好ましくは20°以下である。
【0069】
本発明溶接部においては、さらに、表面下7mmの溶接金属中央部における溶接金属の吸収エネルギーの値が、板表面下7mmの溶融線から0.5mmの位置の溶接熱影響部の吸収エネルギー値の2.0倍以上であることが好ましい。
【0070】
本発明溶接部では、溶接金属の靭性がHAZ部の靭性向上に寄与している。HAZ部の靱性向上効果を得るためには、溶接金属の靭性が、HAZの靭性の2.0倍以上あることが有効である。
【0071】
そのため、表面下7mmの溶接金属中央部における溶接金属の吸収エネルギーの値は、板表面下7mmの溶融線から0.5mmの位置の溶接熱影響部の吸収エネルギー値の2.0倍以上とする。好ましくは2.5倍以上である(
図18)。靱性向上効果の確保の点で、上限は、特にないが、現実的には、10.0程度が上限となる。
【0072】
本発明溶接部において靱性向上効果を安定的に確保し得る溶接金属の化学組成は、溶接ワイヤの化学組成と母材の溶込み分を考慮して、下記の化学組成が好ましい。
【0073】
質量%で、
C :0.03%以上、0.12%以下、
Si:0.05%以上、0.50%以下、
Mn:0.80%以上、2.20%以下、
P :0.015%以下、
S :0.010%以下、
Cu:1.00%以下、
Nb:0.050%以下、
V :0.020%以下、
O :0.015%以上、0.045%以下、
N :0.0080%以下、
Al:0.003%以上、0.035%以下、
Ti:0.005%以上、0.030%以下、
B :0.0004%以上、0.0040%以下、
かつ、必要に応じて、
Ni:2.0%以下
Cr:1.5%以下
Mo:1.0%以下の一種又は二種以上、
残部:Fe及び不可避的不純物からなり、さらに、
下記式(1)で定義するP
CMが、0.120以上、0.300以下であり、
下記式(2)で算出するα’が、−10以上、30以下。
【0074】
P
CM=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20
+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5[B] ・・・(1)
[A]は、元素Aの質量%
α’=(1.5×([O]−0.89×[Al])+3.4×[N]−[Ti])
×1000 ・・・(2)
[A]は元素Aの質量%
【0075】
上記化学組成の限定理由について説明する。以下、5は質量%を意味する。
【0076】
C:0.03%以上、0.12%以下
Cは、溶接金属の強度の確保に有効な元素である。0.03%未満であると、所要の強度が得られず、また、溶接時に高温割れが発生する可能性があるので、0.03%以上とする。好ましくは0.04%以上である。一方、0.10%を超えると、強度が過度に上昇して靱性が低下し、また、凝固割れの可能性も出てくるので、0.12%以下する。好ましくは0.10%以下である。
【0077】
Si:0.05%以上、0.50%以下
Siは、溶接金属の脱酸と強度の向上に有効な元素である。0.05%未満であると、添加効果が十分に発現しないので、0.05%以上とする。好ましくは0.09%以上である。一方、0.50%を超えると、溶接金属の靱性が低下するので、0.50%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
【0078】
Mn:0.80%以上、2.20%以下
Mnは、Siと同様に、溶接金属の脱酸と強度の向上に有効な元素である。0.80%未満であると、添加効果が十分に発現しないので、0.80%以上とする。好ましくは1.00%以上である。一方、2.20%を超えると、靱性が低下するので、2.20%以下とする。好ましくは2.00%以下である。
【0079】
P:0.015%以下
Pは、溶接金属の靱性を阻害する元素である。少ないほど好ましいが、0.015%を超えると溶接金属が著しく脆化するので、0.015%以下とする。好ましくは0.012%以下である。下限は0%を含むが、母材から不可避的に0.002%程度混入する。
【0080】
S:0.010%以下
Sは、溶接金属の靱性を阻害する元素である。少ないほど好ましいが、0.010%を超えると溶接金属が著しく脆化するので、0.010%以下とする。好ましくは0.007%以下である。下限は0%を含むが、母材から不可避的に0.002%程度混入する。
【0081】
Cu:1.00%以下
Cuは、溶接金属の焼入れ性を高め、強度と靱性の改善に有効な元素である。しかし、1.00%を超えると、靭性を阻害し、さらに、高温割れの発生を誘発するので、1.00%以下とする。好ましくは0.75%以下である。下限は特に限定しないが、母材からの溶込み分や溶接ワイヤの不純物から、少なくとも0.01%程度は混入する。
【0082】
Nb:0.050%以下
Nbは、強度の向上に有効な元素である。しかし、0.050%を超えると、靱性を阻害するので、0.050%以下とする。好ましくは0.040%以下である。下限は特に限定しないが、母材からの溶込み分や溶接ワイヤの不純物から、少なくとも0.001%程度は混入する。
【0083】
V:0.020%以下
Vは、強度の向上に有効な元素である。しかし、0.020%を超えると、靱性を阻害するので、0.020%以下とする。好ましくは0.015%以下である。下限は特に限定しないが、母材からの溶け込み分や溶接ワイヤの不純物から、少なくとも0.001%程度は混入する。
【0084】
O:0.015%以上、0.045%以下
Oは、粒内変態の核となる酸化物を形成し、溶接金属の組織を制御する作用をなす元素である。0.015%未満では、強度が500〜850MPa級のX60〜X80クラスの鋼管の溶接金属において、組織をアシキュラーフェライト主体の組織にするために必要な、粒内変態の核となる酸化物の形成が不十分となるので、0.015%以上とする。好ましくは0.018%以上である。
【0085】
一方、0.045%を超えると、溶接金属中の酸化物が粗大化して、上部棚エネルギーが低下し、溶接金属の極低温靱性が低下するので、0.045%以下とする。好ましくは0.040%以下である。
【0086】
N:0.0080%以下
Nは、0.0080%を超えると、固溶Nが増加し、また、窒化物の生成量も増大して、溶接金属の靱性が低下するので、0.0080%以下とする。好ましくは0.0060%以下である。下限は、特に限定しないが、不可避的に0.0010%程度は混入する。
【0087】
Al:0.003%以上、0.035%以下
Alは、酸化物を形成し、溶接金属のO量を制御する作用をなす元素である。0.003%未満では、溶接金属中の酸素の量が過剰となるとともに、生成する酸化物が粗大化して、溶接金属の極低温靱性が低下するので、0.003%以上とする。好ましくは0.005%以上である。
【0088】
一方、0.035%を超えると、生成する酸化物が粗大化して靱性が低下するので、0.035%以下とする。好ましくは0.025%以下である。
【0089】
Ti:0.005%以上、0.030%以下
Tiは、粒内変態の核となる酸化物を形成して、溶接金属の組織を制御する作用をなす元素である。0.005%未満では、強度がX65〜X80クラスの鋼管の溶接金属において、組織をアシキュラーフェライト主体の組織にするために必要な、粒内変態の核となる酸化物の形成が不十分となるので、0.005%以上とする。好ましくは0.007%以上である。
【0090】
一方、0.030%を超えると、溶接金属のち極低温靱性が低下するので、0.030%以下とする。好ましくは0.025%以下である。
【0091】
B:0.0004%以上、0.0040%以下
Bは、溶接金属の焼入れ性を高め、粒界フェライトの生成を抑制する元素である。0.0004%未満であると、添加効果が充分に発現しないので、0.0004%以上とする。好ましくは0.0006%以上である。一方、0.0040%を超えると、固溶Bが増加して、溶接金属の靱性が低下するので、0.0040%以下とする。好ましくは0.0035%以下である。
【0092】
本発明溶接部においては、溶接金属の強度の向上のため、溶接金属の溶接性や極低温靭性を阻害しない範囲で、Ni、Cr、及び、Moの1種又は2種以上を含有してもよい。
【0093】
Ni:2.0%以下
Niは、溶接金属の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素である。しかし、2.0%を超えると、凝固割れが発生する可能性が高くなり、靱性を阻害するので、2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下である。下限は、特に限定しないが、母材及び/又はワイヤから、不可避的に0.01%程度混入する。
【0094】
Cr:1.5%以下
Crは、溶接金属の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素である。1.5%を超えると、靱性を阻害するので、1.5%以下とする。好ましくは1.0%以下である。下限は、特に限定しないが、母材及び/又はワイヤから、不可避的に0.01%程度混入する。
【0095】
Mo:1.0%以下
Moは、溶接金属の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素である。1.0%を超えると、靱性を阻害するので、1.0%以下とする。好ましくは0.5%以下である。下限は、特に限定しないが、母材及び/又はワイヤから不可避的に0.01%程度混入する。
【0096】
(4) 下記式(1)で定義するP
CMが、0.120以上、0.300以下
P
CMは、溶接金属の強度を推定する指標として使用する。P
CMが0.120未満であると、X65〜X80級のUO鋼管に適した500〜850MPaの強度の溶接金属を得るのが難しくなるので、0.120以上とする。好ましくは0.140以上である。
【0097】
一方、0.300を超えると、強度が上昇しすぎて靭性が低下するので0.300以下とする。好ましくは0.250%以下である。
P
CM=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu]+[Cr])/20
+[Ni]/60+[Mo]/15+[V]/10+5[B] ・・・(1)
[A]は、元素Aの質量%
【0098】
(5) 下記式(2)で算出するα’が、−10以上、30以下
溶接金属の組織を微細化し、靱性向上効果を安定して得るには、O、Al、N、及び、Tiのバランスが重要である。それ故、α’は、溶接金属の組織を制御するための指標である。
【0099】
α’が−10未満であると、酸素不足となり、組織が十分微細化せず、靱性が低下するので、−10以上とする。好ましくは−5以上である。一方、30を超えると、酸素過剰となり、組織の粗大化及び酸化物の粗大化が生じ、溶接金属の靱性が低下するので、30以下とする。好ましくは28以下である。
【0100】
α’=(1.5×([O]−0.89×[Al])+3.4×[N]−[Ti])
×1000 ・・・(2)
[A]は、元素Aの質量%
【実施例】
【0101】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0102】
(実施例1)
表5に化学組成を示す母材及びワイヤと、表3に化学組成を示すフラックスを用いて、内外面各1層のサブマージアーク溶接部を形成した。また、表3に化学組成を示すフラックスに適量の酸化物等を添加して、溶接金属の化学組成を調整した。
【0103】
【表5】
【0104】
図19に、用いた一段開先形状を示し、
図20に、用いた二段開先形状を示す。表6に、母材とワイヤの組合せを示す。
【0105】
【表6】
【0106】
表7に、
図19で示す指標の数値を示す。表8に、
図20で示す指標の数値を示す。一部の溶接において、溶融線の形状を制御するため、二段開先を用いた。
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
表に示す母材、ワイヤ、及び、開先を用いて溶接部を形成した。一段開先の場合は、表9に示す溶接条件で溶接部を形成し、二段開先の場合は、表10に示す溶接条件で溶接部を形成し、2層溶接部を持つ溶接継手を完成した。
【0110】
実際のUO鋼管の工場では、先行溶接の前に、鋼管の形状を保持するために、後続溶接側の開先に、仮付けの溶接を行うこともあるが、その後の先行溶接及び後続溶接で、この仮付け溶接部は消滅するため、本発明の効果にはなんら影響を与えない。
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
表11に、得られた溶接金属の引張強度と、−60°の吸収エネルギーを示す。
【0114】
【表11】
【0115】
溶接金属の靱性は、
図21に示すように、溶接金属の中央から、試験片に形成するノッチが溶接金属の中央に位置するように2mmVノッチ衝撃試験片を採取して測定した。一つの溶接金属につき、3本の試験片を採取し、各値及び平均値を求めて、その溶接金属の靱性とした。
【0116】
また、先行溶接及び後続溶接の溶接金属の中央部より溶接線方向にJIS A2号引張試験片を採取し引張強度を測定した。測定は1回とした。
【0117】
溶接金属A〜C、及び、溶接金属Dは、化学組成が本発明の範囲内であるので、いずれも良好な低温靱性を示している。一方、溶接金属E、溶接金属A1、溶接金属A2、溶接金属B1、溶接金属C1、及び、溶接金属D1は、化学組成、α’、又は、Pcmが本発明の範囲を外れていて、溶接金属の靱性が低い、強度が上昇しすぎ、又は、溶接時の凝固割れの発生などの問題が生じている。
【0118】
HAZ部の靭性は、
図22に示すように、JIS Z2202の規格に準拠して、先行溶接及び後続溶接のHAZ部より試験片を採取し、−60℃の試験温度で評価した。衝撃試験片は、先行溶接、後続溶接ともに、衝撃試験片の中心線が板表面から7mmの位置で、試験片に形成するノッチが溶融線に交差するように採取した。
【0119】
表12に、衝撃試験結果を示す。
【0120】
【表12】
【0121】
発明例1〜8では、いずれも溶融線の折曲点より母材表面側の溶融線と、溶接金属の中心線のなす角度が本発明の範囲を満足しているので、HAZ部の靱性が良好で、かつ、先行溶接の溶接金属と後続溶接の溶接金属の接触も十分にできている。
【0122】
比較例1及2では、溶融線の傾斜が急であるため、HAZ部の靱性が低くなっている。比較例3は、溶融線の傾斜は全体的に大きいため、先行溶接の溶接金属と後続溶接の溶接金属の接触ができていない。
【0123】
比較例4では、溶接金属の靱性そのものが低いため、HAZ部の靱性も低い。比較例5では、溶接金属C1のα‘が本発明の範囲外であるため、溶接金属の靱性が低い。そのため、HAZ部の靱性が改善されていない。また、溶接金属のC量が多いため、溶接時に凝固割れが発生している。
【0124】
比較例6では、HAZ部の靱性は改善されているが、Bの多い溶接金属を使用しているため、溶接時に凝固割れが発生している。比較例7では、Ni、Mo、及び、N量が多い溶接金属D1を使用しているため、溶接金属の強度が高すぎて靱性が低い。そのため、HAZ部の靱性が改善されていない。
【0125】
比較例8では、Cr量の多い溶接金属A2を使用しているため、溶接金属の靱性が低い。そのため、HAZ部の靱性が改善されていない。比較例9では、先行溶接の溶接金属にはTiを添加し、後続溶接の溶接金属にはフラックスからAlを添加しているため、いずれの溶接金属も、α’が本発明の範囲外で靱性が低い。そのため、HAZ部の靱性が改善されていない。