(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電動機の固定子に流す交流電流を電源角周波数に同期して回転する直交二軸座標系である磁束軸及びトルク軸に変換して調整することで電動機トルクを制御するベクトル制御を用いた電動機の制御装置において、
前記電動機の回転子磁束が磁束軸方向を向くように、すべり角周波数を演算するすべり角周波数制御部と、
前記すべり角周波数を補正する補正値を前記すべり角周波数制御部に出力する補正部と、を有し、
前記補正部は、
トルク軸成分の回転子磁束に基づいて回転子抵抗値を推定し、当該推定結果に基づいて前記補正値を出力する第1推定部と、
固定子温度に基づいて回転子抵抗値を推定し、当該推定結果に基づいて補正値を出力する第2推定部と、
前記電動機トルクの状態として、低トルク状態又は当該低トルク状態よりも高いトルク状態である非低トルク状態を判定する判定部と、
前記電動機トルクの状態が前記非低トルク状態である場合には、前記第1推定部による補正値を前記すべり角周波数制御部に出力し、前記電動機トルクの状態が前記低トルク状態である場合には、前記第2推定部による補正値を前記すべり角周波数制御部に出力する補正値出力部と、
を有することを特徴とする電動機の制御装置。
前記判定部は、トルク指令値、電流指令値及びすべり角周波数のうちいずれか一つ以上に基づいて前記電動機トルクの状態を判定することを特徴とする請求項1に記載された電動機の制御装置。
前記回転子温度推定部は、前記補正値出力部が前記補正値の出力を前記第1推定部から前記第2推定部へと切り換えた場合には、切換前に出力された前記補正値に基づいて推定される前記回転子温度を、前記回転子温度を推定するための初期値として推定演算を行うことを特徴とする請求項3に記載された電動機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本実施形態に係る電動機の制御装置について説明する。本明細書において、各パラメータに付与される添え字について、「s」は固定子側、「r」は回転子側、「γ」はγ軸(磁束軸)成分、「δ」はδ軸(トルク軸)成分を示す。
【0012】
図1は、本実施形態に係る電動機の制御装置の構成を模式的に示す説明図である。本実施形態では、電気自動車の駆動源として適用される電動機を制御する電動機の制御装置について説明を行う。電気自動車は、電動機1と、電源2と、制御装置10と、インバータ11とを備えている。
【0013】
電動機1は、例えば、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線を有する三相交流誘導モータ(以下「三相交流誘導モータ1」という)である。この三相交流誘導モータ1は、インバータ3内で変換された3相の交流電圧が各相に印加されることにより生じる磁界と、回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用により回転駆動する。
【0014】
電源2は、高電圧を印加可能な直流電源であり、例えば積層型リチウムイオンバッテリである。
【0015】
制御装置10は、三相交流誘導モータ1を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータ等を用いることができる。制御装置10は、インバータ11に対して駆動信号D
uu*,D
ul*,D
vu*,D
vl*,D
wu*,D
wl*を出力し、このインバータ11の制御を通じて三相交流誘導モータ1の制御を行う。
【0016】
インバータ11は、三相交流誘導モータ1の各相に対応する3つのスイッチング回路を主体に構成されている。インバータ11は、電源2の正極に接続される正極母線と、電源2の負極に接続される負極母線との間に、U相用のスイッチング回路と、V相用のスイッチング回路と、W相用のスイッチング回路とを備える。このインバータ11は、駆動信号D
uu*,D
ul*,D
vu*,D
vl*,D
wu*,D
wl*に応じて各相のスイッチング回路をオンオフ制御し、電源2の直流電圧を三相の交流電圧V
u,V
v,V
wにそれぞれ変換する。そして、インバータ11は、当該変換した交流電圧V
u,V
v,V
wを三相交流誘導モータ1の各相にそれぞれ印加する。
【0017】
制御装置10は、これを機能的にとらえた場合、電流指令値演算部12と、磁束電流制御部13と、トルク電流制御部14と、非干渉制御部15と、座標変換部16と、PWM変換部17と、座標変換部18と、すべり角周波数制御部19と、補正値演算部20とを主体に構成されている。
【0018】
電流指令値演算部12には、トルク指令値T
*、三相交流誘導モータ1の回転数に相当
する回転子機械角速度ω
rm及び電源2の電源電圧V
dcが入力される。電流指令値演算部12は、トルク指令値T
*、回転子機械角速度ω
rm及び電源電圧V
dcに基づいて、
γ軸電流(磁束軸成分の電流)の指令値に相当するγ軸電流指令値i
γs*と、δ軸電流
(トルク軸成分の電流)の指令値に相当するδ軸電流指令値i
δs*とを算出する。電流
指令値演算部12は、予めメモリに記憶したマップデータ又は演算式を参照して、γ軸電流指令値i
γs*とδ軸電流指令値i
δs*とをそれぞれ算出する。
【0019】
電流指令値演算部12において、トルク指令値T
*は、例えば電気自動車を制御するコ
ントローラ(図示せず)から入力され、回転子機械角速度ω
rmは、後述する角速度演算部25から入力される。また、電源電圧V
dcは、例えば電源2を管理するバッテリーコントローラ(図示せず)から入力される。
【0020】
磁束電流制御部13には、電流指令値演算部12において算出されたγ軸電流指令値i
γs*から、後述するγ軸電流i
γsを減算した値が入力される。磁束電流制御部13は
、γ軸電流指令値i
γs*がγ軸電流i
γsに対して定常偏差なく所望の応答性で追従す
るように、フィードバック演算によりγ軸電圧指令値(初期値)v
γs**を算出する。磁束電流制御部13では、例えばPI制御を用いる。
【0021】
トルク電流制御部14には、電流指令値演算部12において算出されたδ軸電流指令値i
δs*から、後述するδ軸電流i
δsを減算した値が入力される。トルク電流制御部1
4は、δ軸電流指令値i
δs*がδ軸電流i
δsに対して定常偏差なく所望の応答性で追
従するように、フィードバック演算によりδ軸電圧指令値(初期値)v
δs**を算出する。磁束電流制御部13では、例えばPI制御を用いる。
【0022】
磁束電流制御部13及びトルク電流制御部14において、γ軸電流i
γs及びδ軸電流i
δsは、後述する座標変換部18から入力される。
【0023】
非干渉制御部15には、γ軸電流i
γs、δ軸電流i
δs及び電源角周波数ωが入力される。ここで、γ軸電流i
γs及びδ軸電流i
δsは、座標変換部18から入力され、電源角周波数ωは、すべり角周波数制御部19から入力される。
【0024】
具体的には、非干渉制御部15は、直交二軸であるγδ軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧v
γs*_dcpl,v
γs*_dcplをγ軸及びδ軸についてそれぞれ算出する。γ軸に相当する非干渉電圧v
γs*_dcplは、数1により算出され、δ軸
に相当する非干渉電圧v
γs*_dcplは、数2により算出される。
【数1】
【数2】
【0025】
ここで、Mは相互インダクタンス、Lは自己インダクタンスであり、sはラプラス演算子である。また、σは漏れ係数であり、数3で示される。τ
rは回転子磁束の時定数であり、電流応答の時定数に比べ非常に大きい値である。
【数3】
【0026】
磁束電流制御部13において算出されたγ軸電圧指令値(初期値)v
γs**は、非干渉制御部15において算出された非干渉電圧v
γs*_dcplにより補正され、これにより、最終的なγ軸電圧指令値v
γs*が算出される。同様に、トルク電流制御部14におい
て算出されたδ軸電圧指令値(初期値)v
δs**は、非干渉制御部15において算出された非干渉電圧v
δs*_dcplにより補正され、これにより、最終的なδ軸電圧指令値v
δs*が算出される。
【0027】
座標変換部16には、電源角θと、非干渉制御後のγ軸電圧指令値v
γs*及びδ軸電
圧指令値v
δs*とが入力される。座標変換部16は、電源角周波数(電源角速度)ωで
回転する直交二軸の座標系(γδ軸)から、三相交流座標系(uvw軸)への変換を行なう。具体的には、座標変換部16は、電源角θと、γ軸電圧指令値v
γs*及びδ軸電圧
指令値v
δs*とに基づいて、数4に示す座標変換処理によりU相・V相・W相に係る三相の電圧指令値v
u*、v
v*、v
w*を算出する。
【数4】
【0028】
座標変換部16において、電源角θは、後述する変換用角度部26から入力される。数4において、θ’は、制御系の入出力遅れを考慮して電源角θを補正したものである。
【0029】
PWM変換部17には、座標変換部16において算出された三相の電圧指令値v
u*、
v
v*、v
w*が入力される。PWM変換部17は、三相の電圧指令値v
u*、v
v*、v
w*に応じて、インバータ11のスイッチング回路(IGBTなどのスイッチング素子を含
む)を駆動するための駆動信号D
uu*,D
ul*,D
vu*,D
vl*,D
wu*,D
wl*を生成する。
【0030】
座標変換部18には、電源角θと、u相電流i
us及びv相電流i
vsとが入力される
。座標変換部18は、三相交流座標系(uvw軸)から、直交二軸座標系(γδ軸)への変換を行なう。具体的には、座標変換部18は、電源角θと、u相電流i
us、v相電流i
vs及びw相電流i
wsとに基づいて、数5に示す座標変換処理により、三相交流誘導モータ1におけるγ軸電流i
γs及びδ軸電流i
δsを算出する。
【数5】
【0031】
座標変換部18において、u相電流i
us及びv相電流i
vsは、後述するAD変換部23から入力される。ここで、AD変換部23から出力されない、残りのw相電流i
wsは、数6で求めることができる。
【数6】
【0032】
すべり角周波数制御部19には、回転子電気角周波数(回転子電気角速度)ω
reと、γ軸電流i
γs及びδ軸電流i
δsと、補正値ΔR
rとが入力される。ここで、回転子電気角周波数ω
reは、後述する角速度演算部25から入力される。また、γ軸電流i
γs及びδ軸電流i
δsは、座標変換部18から入力される。補正値ΔR
rは、すべり角周波数ω
seを補正するための補正値であり、後述する補正値演算部20から入力される。
【0033】
すべり角周波数制御部19は、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、補正値ΔR
rとに基づいてすべり角周波数ω
seを算出する。そして、すべり角周波数制御部19は、回転子電気角周波数ω
reと、すべり角周波数ω
seとに基づいて、電源角周波数(電源角速度)ωを算出する。
【0034】
補正値演算部20には、非干渉制御後のδ軸電圧指令値v
δs*、γ軸電流i
γs、δ
軸電流i
δs、回転子電気角周波数ω
re、電源角周波数ωなどが入力される。補正値演算部20は、これらのパラメータに基づいて、すべり角周波数を補正する補正値を演算し、これをすべり角周波数制御部19に出力する。
【0035】
なお、すべり角周波数制御部19及び補正値演算部20の詳細については後述する。
【0036】
電流センサ21は、u相、v相及びw相の三相のうち少なくとも二相の電流(例えばu
相電流i
u、v相電流i
v)を検出する。座標変換部18には、AD変換部23を通して
サンプリングしたu相電流i
us及びv相電流i
vsが入力される。
【0037】
磁極位置検出部22は、回転子位置(角度)に応じたA相B相Z相のパルスを出力し、出力されたパルスは、パルスカウンタ24に入力される。このパルスカウンタ24を通じて、回転子機械角度θ
rmが出力される。
【0038】
角速度演算部25は、パルスカウンタ24から入力された回転子機械角度θ
rmに基づいて、その時間変化率より回転子機械角速度ω
rmを算出し、モータ極対数pを乗じた回転子電気角周波数ω
reを算出する。
【0039】
図2は、すべり角周波数制御部19の構成を示すブロック図である。一般に、直交二軸座標系(γδ軸)における誘導モータの伝達特性は、数7の状態方程式で示される(モータモデル)。また、モータトルクTは、数8で示される。同数式において、Rは抵抗値、L,Mは自己インダクタンス及び相互インダクタンス、φは磁束、σは漏れ係数、sはラ
プラス演算子、pはモータ極対数である。
【数7】
【数8】
【0040】
すべり角周波数ω
seを、数9に示すように、比率(δ軸電流i
δs/γ軸成分の回転子磁束φ
γr)に比例して制御することで、回転子磁束が、δ軸(トルク軸)と直交するγ軸(磁束軸)方向を向くこととなる。すなわち、軸ズレゼロ、つまりδ軸成分の回転子磁束φ
δrがゼロの状態となり(φ
δr=0)、ベクトル制御が成立する。
【数9】
【0041】
この場合、誘導モータの伝達特性は、数10のように簡素化された3次の状態方程式で扱うことができる。また、モータトルクTも簡素化されて、数11に示す通りとなる。
【数10】
【数11】
【0042】
上述したように、ベクトル制御が成立している場合、δ軸成分の回転子磁束φ
δrがゼロ、モータトルクTも数11となる。ここで、Rrは、回転子抵抗値であり、通常は固定値(ノミナル値)が用いられる。しかしながら、温度変動によって回転子抵抗値がノミナル値から乖離すると、すべり角周波数ω
seにもずれが生じ、その結果、δ軸成分の回転子磁束φ
δrがゼロではなくなる(φ
δr≠0)。そのため、モータトルクTは数8となり、トルク変動が生じることとなる。
【0043】
そこで、すべり角周波数制御部19は、補正値演算部20から出力される補正値を用いることで、回転子抵抗値を回転子温度の変化に応じた変数として扱い、すべり角周波数ω
seを算出する。
【0044】
具体的には、
図2に示すように、すべり角周波数制御部19は、γ軸電流i
γsと、δ
軸電流i
δsと、補正値ΔR
rとに基づいて、すべり角周波数ω
seを算出する。ここで、補正値ΔR
rは、回転子抵抗値の補正を通じてすべり角周波数ω
seを補正するための補正値であり、本ケースでは、回転子温度変化に応じてノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量として規定されている。数12に示すように、補正値ΔR
rが回転子抵抗値のノミナル値R
rに加算されることで、回転子抵抗値を回転子温度に応じた変数として扱うことができる。
【数12】
【0045】
すべり角周波数制御部19は、回転子電気角周波数ω
reにすべり角周波数ω
seを加算した値を電源角周波数(電源角速度)ωとして算出する。すべり角周波数制御を実施することで、モータトルクTは、γ軸成分の回転子磁束φ
γr(φ
γr∝i
γs)と、δ軸電流i
δsとの積に比例する。
【0046】
図3は、すべり角周波数制御部19の異なる構成を示すブロック図である。すべり角周波数制御部19は、上述した構成に限らず、次に示す構成であってもよい。具体的には、すべり角周波数制御部19は、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、補正値Kとに基づいて、すべり角周波数ω
seを算出する。ここで、補正値Kは、回転子抵抗値の補正を通じてすべり角周波数ω
seを補正するための補正値であり、本ケースでは、回転子温度変化に応じてノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量の比率(変化量/ノミナル値R
r)として規定されている。数13に示すように、補正値Kに「1」を加算した値が回転子抵抗値のノミナル値R
rに乗算されることで、回転子抵抗値を回転子温度に応じた変数として扱うことができる。
【数13】
【0047】
図4は、すべり角周波数制御部19の異なる構成を示すブロック図である。また、すべり角周波数制御部19は、次に示す構成であってもよい。具体的には、すべり角周波数制御部19は、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、補正値K’とに基づいて、すべり角周波数ω
seを算出する。ここで、補正値K’は、回転子抵抗値の補正を通じてすべり角周波数ω
seを補正するための補正値であり、回転子温度変化に応じてノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の比率(回転子抵抗値/ノミナル値R
r)である。数14に示すように、補正値K’が回転子抵抗値のノミナル値R
rに乗算されることで、回転子抵抗値を回転子温度に応じた変数として扱うことができる。
【数14】
【0048】
図5は、すべり角周波数制御部19の異なる構成を示すブロック図である。また、すべり角周波数制御部19は、次に示す構成であってもよい。具体的には、すべり角周波数制御部19は、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、補正値R
r^とに基づいて、すべり角周波数ω
seを算出する。ここで、補正値R
r^は、回転子抵抗値の補正を通じてすべり角周波数ω
seを補正するための補正値であり、本ケースでは、回転子温度変化に応じて変化した回転子抵抗値そのものである。数15に示すように、この補正値R
r^が回転子抵抗値のノミナル値R
rに代えて演算されることで、回転子抵抗値を回転子温度に応じ
た変数として扱うことができる。
【数15】
【0049】
図6は、補正値演算部20の構成を示すブロック図であり、
図2に示す構成のすべり角周波数制御部19と組み合わせて使用されるものである。補正値演算部20は、第1推定部20aと、第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cと、補正値出力部20dとで構成されている。
【0050】
第1推定部20aには、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、γ軸電圧指令値v
γs*と、電源角速度ωとが入力されている。第1推定部20aは、これらのパラメータに基
づいてδ軸成分の回転子磁束φ
δrを推定し、これに基づいて回転子抵抗値を推定する。そして、第1推定部20aは、この推定結果に基づいて、補正値、すなわち、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量ΔR
r_1を算出する。この変化量ΔR
r_1は、補正値ΔR
rの候補として補正値出力部20dに出力される。
【0051】
第2推定部20bには、図示しないセンサを通じて三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Tsが入力されている。第2推定部20bは、温度を回転子抵抗値Rr^に変換する変換部20b1を有している。第2推定部20bは、この変換部20b1により、固定子温度Tsから回転子抵抗値R
r^を推定する。そして、第2推定部20bは、推定した回転子抵抗値R
r^から回転子抵抗値のノミナル値R
rを減算した値を、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2として演算する。この変化量Δ
R
r_2は、補正値ΔR
rの候補として補正値出力部20dに出力される。
【0052】
制御フラグ設定部20cには、トルク指令値T
*が入力されている。制御フラグ設定部
20cは、モータトルクの状態として、低トルク状態であるのか、それともこの低トルク状態よりも高いトルク状態である非トルク状態であるのかを判定するものである(判定部)。制御フラグ設定部20cは、トルク指令値T
*が低トルク状態を規定する所定のトル
ク範囲に含まれている場合には、モータトルクの状態が低トルク状態であるとして制御フラグF
lagを「オフ」に設定する。一方、制御フラグ設定部20cは、トルク指令値T
*が上記の所定のトルク範囲から外れている場合には、モータトルクの状態が非低トルク
状態であるとして制御フラグF
lagを「オン」に設定する。本実施形態では、
図6に示すように、制御フラグF
lagの設定には、2つの閾値th1,th2を用いてヒステリシスが設定されている。なお、低トルク状態に相当するトルク範囲は、すべり角周波数ωseの補正ができなくなるような状態を考慮して、実験やシミュレーションを通じて予め定められている。
【0053】
なお、制御フラグ設定部20cは、低トルク状態を判定するため、上述のトルク指令値T
*以外にも、電流指令値i
γs*,i
δs*や、すべり角周波数ω
seといったパラメータを利用してもよい。
【0054】
補正値出力部20dには、第1推定部20aにおいて演算された変化量ΔR
r_1と、
第2推定部20bにおいて演算された変化量ΔR
r_2と、制御フラグ設定部20cにお
いて設定された制御フラグF
lagとが入力されている。補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオンの場合には、補正値ΔR
rとして第1推定部20aによる変化量ΔR
r_1を出力する。一方、補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオフの場合には
、補正値ΔR
rとして第2推定部20bによる回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2を出力す
る。
【0055】
図7は、補正値演算部20の異なる構成を示すブロック図であり、
図3に示す構成のすべり角周波数制御部19と組み合わせて使用されるものである。補正値演算部20は、第1推定部20aと、第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cと、補正値出力部20dとで構成されている。なお、制御フラグ設定部20cの構成は、
図6に示す構成と同様である。
【0056】
第1推定部20aには、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、γ軸電圧指令値v
γs*と、電源角速度ωとが入力されている。第1推定部20aは、これらのパラメータに基
づいて、δ軸成分の回転子磁束φ
δrを推定し、これに基づいて回転子抵抗値を推定する。そして、第1推定部20aは、この推定結果に基づいて、補正値、すなわち、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量の比率K
1を算出する。この比率K
1は、補正値Kの候補として補正値出力部20dに出力される。
【0057】
第2推定部20bには、図示しないセンサを通じて三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Tsが入力されている。第2推定部20bは、温度を回転子抵抗値Rr^に変換する変換部20b1を有している。第2推定部20bは、この変換部20b1により、固定子温度Tsから回転子抵抗値R
r^を推定する。そして、第2推定部20bは、推定した回転子抵抗値R
r^に回転子抵抗値のノミナル値R
rの逆数を乗算し、これに「1」を加算した値を、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量の比率K
2として演算する。この比率K
2は、補正値Kの候補として補正値出力部20dに出力される。
【0058】
補正値出力部20dには、第1推定部20aにおいて演算された比率K
1と、第2推定部20bにおいて演算された比率K
2と、制御フラグ設定部20cにおいて設定された制御フラグF
lagとが入力されている。補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオンの場合には、補正値Kとして第1推定部20aによる比率K
1を出力する。一方、補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオフの場合には、補正値Kとして第2推定部20bによる比率K
2を出力する。
【0059】
図8は、補正値演算部20の異なる構成を示すブロック図であり、
図4に示す構成のすべり角周波数制御部19と組み合わせて使用されるものである。補正値演算部20は、第1推定部20aと、第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cと、補正値出力部20dとで構成されている。なお、制御フラグ設定部20cの構成は、
図6に示す構成と同様である。
【0060】
第1推定部20aには、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、γ軸電圧指令値v
γs*と、電源角速度ωとが入力されている。第1推定部20aは、これらのパラメータに基
づいてδ軸成分の回転子磁束φ
δrを推定し、これに基づいて回転子抵抗値を推定する。そして、第1推定部20aは、この推定結果に基づいて、補正値、すなわち、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の比率K
1’を推定する。この比率K
1’は、補正値K’の候補として補正値出力部20dに出力される。
【0061】
第2推定部20bには、図示しないセンサを通じて三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Tsが入力されている。第2推定部20bは、温度を回転子抵抗値Rr^に変換する変換部20b1を有している。第2推定部20bは、この変換部20b1により、固定子温度Tsから回転子抵抗値R
r^を推定する。そして、第2推定部20bは、推定した回転子抵抗値R
r^に回転子抵抗値のノミナル値R
rの逆数を乗算した値を、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の比率K
2’として演算する。この比率K
2’は、補正値K’の候補として補正値出力部20dに出力される。
【0062】
補正値出力部20dには、第1推定部20aにおいて演算された比率K
1’と、第2推定部20bにおいて演算された比率K
2’と、制御フラグ設定部20cにおいて設定された制御フラグF
lagとが入力されている。補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオンの場合には、補正値K’として第1推定部20aによる比率K
1’を出力する。一方、補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオフの場合には、補正値K’として第2推定部20bによる比率K
2’を出力する。
【0063】
図9は、補正値演算部20の異なる構成を示すブロック図であり、
図5に示す構成のすべり角周波数制御部19と組み合わせて使用されるものである。補正値演算部20は、第1推定部20aと、第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cと、補正値出力部20dとで構成されている。なお、制御フラグ設定部20cの構成は、
図6に示す構成と同様である。
【0064】
第1推定部20aには、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、γ軸電圧指令値v
γs*と、電源角速度ωとが入力されている。第1推定部20aは、これらのパラメータに基
づいてδ軸成分の回転子磁束φ
δrを推定し、これに基づいて回転子抵抗値R
r_1^を
推定する。この回転子抵抗値R
r_1^は、補正値ΔR
^の候補として補正値出力部20
dに出力される。
【0065】
第2推定部20bには、図示しないセンサを通じて三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Tsが入力されている。第2推定部20bは、温度を回転子抵抗値Rr^に変換する変換部20b1を有している。第2推定部20bは、この変換部20b1により、固定子温度Tsから回転子抵抗値R
r_2^を推定する。この回転子抵抗値R
r_2^は、補正値R
r^の候補として補正値出力部20dに出力される。
【0066】
補正値出力部20dには、第1推定部20aにおいて演算された回転子抵抗値R
r_1
^と、第2推定部20bにおいて演算された回転子抵抗値R
r_2^と、制御フラグ設定
部20cにおいて設定された制御フラグF
lagとが入力されている。補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオンの場合には、補正値R
r^として第1推定部20aによる回転子抵抗値R
r_1^を出力する。一方、補正値出力部20dは、制御フラグF
la
gがオフの場合には、補正値R
r^として第2推定部20bによる回転子抵抗値R
r_2
^を出力する。
【0067】
このように本実施形態において、三相交流誘導モータ1の制御装置10は、回転子磁束がγ軸方向を向くように、すべり角周波数ω
seを演算するすべり角周波数制御部19と、すべり角周波数ω
seを補正する補正値をすべり角周波数制御部19に出力する補正部としての補正値演算部20と、を有している。この補正値演算部20は、δ軸成分の回転子磁束φ
δrに基づいて回転子抵抗値を推定し、当該推定結果に基づいて補正値を出力する第1推定部20aと、固定子温度Tsに基づいて回転子抵抗値R
r^を推定し、当該推定結果に基づいて補正値を出力する第2推定部20bと、モータトルクの状態として、低トルク状態又は非低トルク状態を判定する判定部としての制御フラグ設定部20cと、モータトルクの状態が非低トルク状態である場合には、第1推定部20aによる補正値をすべり角周波数制御部19に出力し、モータトルクの状態が低トルク状態である場合には、第2推定部20bによる補正値をすべり角周波数制御部19に出力する補正値出力部20dと、を有している。
【0068】
図10は、三相交流誘導モータ1の制御に係る各種のパラメータの推移を示す説明図である。同図において、一点鎖線は指令値を示し、破線は、第1推定部20aのみで回転子抵抗値を補正した制御手法についてのシミュレーション結果を示し、実線は、本実施形態
に係る制御手法についてのシミュレーション結果を示す。同図に示すように、三相交流誘導モータ1の回転子抵抗値が変動した場合にも、これを補正することができる。また、モータトルクの状態に応じて、補正値を出力する第1推定部20aと第2推定部20bとを切り換えることで、動作領域に適合した適切な回転子抵抗値を制御に反映することができる。これにより、三相交流誘導モータ1の動作領域に関わらず、安定性や応答性の向上を図ることができる。
【0069】
なお、上述した
図6に示す補正値演算部20の構成では、制御フラグFlagのオンオフ
により第1推定部20aの出力ΔR
r_1と、第2推定部20bの出力ΔR
r_2とを切り換えている。しかしながら、補正値出力部20dは、数16に示すように、重み付け係数Wを通じて、第1推定部20aの出力ΔR
r_1と、第2推定部20bの出力ΔR
r_2とを切り換えてもよい。ここで、重み付け係数Wは、0乃至1までの値をとる変数であり、上述の制御フラグFlagに代えて制御フラグ設定部20cから出力される。この重み付け
係数Wの設定により、(1)第2推定部20bの出力ΔR
r_2、(2)両出力ΔR
r_1,ΔR
r_2の組み合わせ、(3)第1推定部20aの出力ΔR
r_1、からなる3つのパターンの出力を得ることができる。
【数16】
【0070】
なお、重み付け係数Wを用いる手法は、
図6に示す補正値演算部20の構成に限らず、
図7乃至
図9に示す各補正値演算部20の構成にも適用することができる。
【0071】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係る三相交流誘導モータ1の制御装置10について説明する。この制御装置10が第1の実施形態のそれと相違する点は、補正値演算部20における第2推定部20bの演算手法である。以下、第1の実施形態と重複する点については説明を省略し、相違点を中心に説明を行う。
【0072】
図11は、第2の実施形態に係る第2推定部20bの構成を示すブロック図であり、第1の実施形態において
図6に示した補正値演算部20に対応するものである。この第2推定部20bは、変換部20b1に加え、回転子温度推定部20b2を備えている。回転子温度推定部20b2は、三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Tsに基づいて、回転子温度Trを推定する。回転子温度Trの推定手法としては、近似式を用いたり、ローパスフィルタを用いたりすることができる。
【0073】
変換部20b1は、回転子温度Trから回転子抵抗値R
r^を推定する。回転子抵抗値R
r^の推定は、マップ演算等を用いることができる。第2推定部20bは、推定した回転子抵抗値R
r^から回転子抵抗値のノミナル値R
rを減算した値を、ノミナル値R
rから変化した回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2として演算する。
【0074】
図12は、三相交流誘導モータ1の制御に係る各種のパラメータの推移を示す説明図である。同図において、一点鎖線は指令値を示し、破線は、第1の実施形態に係る制御手法についてのシミュレーション結果を示し、実線は、本実施形態に係る制御手法についてのシミュレーション結果を示す。本実施形態によれば、固定子温度Tsから回転子温度Trを推定し、これから回転子抵抗値R
r^を推定しているので、回転子抵抗値R
r^の推定精度の向上を図ることができる。このため、同図の領域Aで示すように、第1の実施形態に係る手法と比べて、電流応答やトルクの振動が低減する。これにより、三相交流誘導モータ1の動作領域に関わらず、制御の安定性や応答性の向上を図ることができる。
【0075】
なお、回転子温度Trの推定演算を用いる手法は、
図6に示す補正値演算部20の構成に限らず、
図7乃至
図9に示す各補正値演算部20の構成にも適用することができる。
【0076】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態に係る三相交流誘導モータ1の制御装置10について説明する。この制御装置10が第2の実施形態のそれと相違する点は、補正値演算部20における第2推定部20bの演算手法である。以下、第2の実施形態と重複する点については説明を省略し、相違点を中心に説明を行う。
【0077】
図13は、第3の実施形態に係る第2推定部20bの構成を示すブロック図であり、第1の実施形態において
図6に示した補正値演算部20に対応するものである。この第2推定部20bは、変換部(以下「第1変換部」という)20b1、回転子温度推定部20b2に加え、第2変換部20b3を備えている。
【0078】
回転子温度推定部20b2は、第2の実施形態と同様、固定子温度Tsに基づいて回転子温度Trを推定する。なお、後述するように、第2変換部20b3から回転子温度Trfが出力された場合には、当該温度Trfを回転子温度を推定するための初期値として用いる。変換部20b1は、回転子温度推定部20b2が推定した回転子温度Trに基づいて回転子抵抗値R
r^を推定する。
【0079】
本実施形態の特徴の一つとして、第2変換部20b3は、補正値出力部20dから出力される補正値(回転子抵抗値の変化量)ΔR
rが入力されている。第2推定部20bは、この補正値ΔR
rに回転子抵抗値のノミナル値R
rを加算し、この加算値から回転子温度T
r^を推定する。そして、第2推定部20bは、制御フラグF
lag、すなわち、補正値ΔR
rの出力が第1推定部20aから第2推定部20bへと切り換わった場合には、回転子温度Trfを回転子温度推定部20b2に出力する。
【0080】
このように本実施形態において、回転子温度推定部20b2は、補正値出力部20dが補正値ΔR
rの出力を第1推定部20aから第2推定部20bへと切り換えた場合には、切換前に出力された補正値ΔR
rに基づいて推定される回転子温度Trfを、回転子温度Trを推定するための初期値として推定演算を行うこととしている。
【0081】
図14は、三相交流誘導モータ1の制御に係る各種のパラメータの推移を示す説明図である。同図において、一点鎖線は指令値を示し、破線は、第2の実施形態に係る制御手法についてのシミュレーション結果を示し、実線は、本実施形態に係る制御手法についてのシミュレーション結果を示す。本実施形態によれば、回転子温度Trの推定演算において、補正値(回転子抵抗値の変化量)ΔR
rを通じて求めた回転子温度T
r^を初期値として利用している。このため、同図の領域Aで示すように、第1の実施形態に係る手法と比べて、切り換え時のショックも小さく、電流応答やトルクの振動が低減する。これにより、三相交流誘導モータ1の動作領域に関わらず、制御の安定性や応答性の向上を図ることができる。
【0082】
なお、回転子温度Trの推定演算を用いる手法は、
図6に示す補正値演算部20の構成に限らず、
図15乃至
図17に示すように、
図7乃至
図9に示す各補正値演算部20の構成にも適用することができる。
【0083】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態に係る三相交流誘導モータ1の制御装置10について説明する。この制御装置10が第3の実施形態のそれと相違する点は、補正値演算部20における第2推定部20bの演算手法である。以下、第3の実施形態と重複する点については説明を
省略し、相違点を中心に説明を行う。
【0084】
図18は、第4の実施形態に係る第2推定部20bの構成を示すブロック図であり、第1の実施形態において
図6に示した補正値演算部20に対応するものである。この第2推定部20bは、第3の実施形態に示す手法に加えて、温度オフセット演算部20b4を備えている。
【0085】
温度オフセット演算部20b4は、トルク指令値T
*、電流指令値i
γs*,i
δs*
、すべり角周波数ω
seのいずれか1つ以上を参照し、固定子温度Tsと回転子温度Trとの温度の相違である温度オフセットΔTを演算する。温度オフセットΔTは、マップ演算や、二次銅損の計算式に基づく演算を通じて取得することができる。そして、回転子温度推定部20b2は、温度オフセットΔTと、固定子温度Tsとを加算して、この加算値に基づいてロータ温度推定を行う。
【0086】
かかる構成によれば、固定子温度Tsから回転子温度Trを推定する際に、温度オフセットΔTを加味している。これにより、二次銅損などによる回転子温度Trへの熱損出などの影響を考慮することができるので、第3の実施形態に示す手法よりも電流やトルクの振動や偏差も低減する。これにより、三相交流誘導モータ1の動作領域に関わらず、制御の安定性や応答性の向上を図ることができる。
【0087】
なお、温度オフセットΔTを加算する手法は、
図6に示す補正値演算部20の構成に限らず、
図7乃至
図9に示す各補正値演算部20の構成にも適用することができる。また、第2の実施形態に示す手法に適用することもできる。
【0088】
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態に係る三相交流誘導モータ1の制御装置10について説明する。この制御装置10が第4の実施形態のそれと相違する点は、補正値演算部20の構成である。以下、第4の実施形態と重複する点については説明を省略し、相違点を中心に説明を行う。
【0089】
図19は、第5の実施形態に係る補正値演算部20の構成を示すブロック図である。補正値演算部20をPI制御とした場合には、2系統のそれぞれの出力ΔR
r_1,ΔR
r_2についてPI制御を共通して用いることとしている。具体的には、補正値演算部20は、軸ずれ推定部20eと、第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cと、補正値出力部20dとで構成されている。第2推定部20bと、制御フラグ設定部20cとの構成は、第4の実施形態に示すものと同様である。
【0090】
軸ずれ推定部20eには、γ軸電流i
γsと、δ軸電流i
δsと、γ軸電圧指令値v
γs*と、電源角速度ωとが入力されている。軸ずれ推定部20eは、これらのパラメータ
に基づいて、δ軸成分の回転子磁束φ
δrを推定する。このδ軸成分の回転子磁束φ
δrは、マップ演算等を用いて推定することができる。
【0091】
第2推定部20bには、第4の実施形態と同様に、図示しないセンサを通じて三相交流誘導モータ1において検出される固定子温度Ts等に基づいて回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2^を推定する。回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2^の推定は、マップ演算等を用いることができる。
【0092】
補正値出力部20dには、第2推定部20bにおいて演算された回転子抵抗値の変化量ΔR
r_2^と、制御フラグ設定部20cにおいて設定された制御フラグF
lagとが入
力されている。補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオンの場合には、PI制御
の制御ゲインKp,Kiとして予め定められたゲインKp
in,Ki
inを出力する。一方、補正値出力部20dは、制御フラグF
lagがオフの場合には、PI制御の制御ゲインKp,Kiとしてゼロを出力するとともに、積分値の初期値Ki0としてΔR
r_2^を出
力する。
【0093】
軸ずれ推定部20eから出力されたδ軸成分の回転子磁束φ
δrは、制御ゲインKpを加味した値と、制御ゲインKiと積分演算とをそれぞれ加味した値とが合算され、補正値ΔR
rとして出力される。
【0094】
かかる構成においても、電流やトルクの振動や偏差も低減する。これにより、三相交流誘導モータ1の動作領域に関わらず、制御の安定性や応答性の向上を図ることができる。
【0095】
なお、温度オフセットΔTを加算する手法は、
図6に示す補正値演算部20の構成に限らず、
図7乃至
図9に示す各補正値演算部20の構成にも適用することができる。また、第2の実施形態に示す手法に適用することもできるし、PI制御のみならず補正値演算部20がI制御を適用するような場合であっても適用可能である。
【0096】
以上、本発明の実施形態にかかる電動機の制御装置について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能であることはいうまでもない。電動機の適用は、電気自動車のみならず電動機を駆動源として搭載する各種の車両や、それ以外のものであってもよい。