【文献】
矢内 啓資,一酸化炭素放電を用いた真空紫外光源,日本,高知工科大学大学院工学研究科基礎工学専攻電子・光システムコース,2007年 2月19日,URL,http://kochi-tech.ac.jp/library/ron/2006/g13/M/1095320.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、波長200nm以下の真空紫外(Vacuum Ultra Violet:VUV)光は、半導体露光以外の様々な分野で用いられている。例えば、フォトレジストによるパターン形成工程を用いずに、VUVとマスクとを用いて、直接光で化学反応を引き起こして自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM膜)をパターニングする技術が開発されている。
例えば、非特許文献1には、VUV光を用いて、特定の官能基には依存しないSAM膜の光パターニング処理が可能であることが開示されている。具体的には、有機物からなる汚染物質を除去するのに使用される波長172nmのエキシマランプを露光用光源として用いている。SAM膜のVUV光による酸化分解除去反応に着目した方法であり、多種多様なSAM膜の光マイクロ加工への展開が期待できる。
【0003】
真空紫外光光源(以下、「VUV光源」ともいう)としては、従来、波長185nmに輝線を有する低圧水銀ランプが使用されてきた。一方、VUV光において特に波長180nm以下の波長域の光は、高速な表面改質(例えば、アッシング)などが実現可能であることが知られている。そこで、近年では、波長172nmの光を放出するキセノンエキシマランプがVUV光源として用いられる例が多い。
【0004】
しかしながら、VUV光を放出する上記のようなランプは、一般に発光部の長さ、即ち発光長が長い。例えば、低圧水銀ランプ(ウシオ電機株式会社製UL0−6DQ)は、発光長が10cmである。また、例えば、キセノンエキシマランプを内蔵するエキシマ光ユニット(ウシオ電機株式会社製SUS06)も、発光長は10cmである。
このようなVUVランプから放出されるVUV光は、発光領域の形状が略円柱状であるため発散光となる。発散光の場合、投影露光を行うことは難しく、コンタクト露光やプロキシミティ露光を行うことになる。この場合、被照射物への露光は、発散光の回り込みの影響で、解像可能なパターンサイズは、ラインパターン幅にして100μm程度が限界となる。
【0005】
パターン線幅の微細化を実現するためには、点光源とみなせるように十分発光長が短く、真空紫外光の強度が実用上十分な程度に高いランプを用いた光の回り込みが少ない露光を行う必要がある。そこで、SAM膜のパターニングに用いる光源として、発光長が12.5mm以下であり、実用上十分な強度のVUV光を放出するフラッシュランプを用いることが考えられる。当該フラッシュランプと放物面ミラーとを組み合わせて用いることで、VUV光であって、平行光もしくは略平行光である光を取り出す光源装置を実現することができる。そのため、この光源装置を搭載した光照射装置では、SAM膜のパターニングにおいて、パターン線幅の微細化を実現することができる。
【0006】
なお、VUV光源としては、上記のランプの他に半導体露光に用いられるエキシマレーザ装置がある。エキシマレーザ装置を搭載したエキシマレーザ露光装置によれば、SAM膜のパターニングにおいて、パターン線幅の微細化を実現することが可能となる。しかしながら、エキシマレーザ装置やエキシマレーザ露光装置は高価であり、既に量産段階にある半導体露光以外に使用するには、COO(costof ownership)の観点からは実際的ではない。言い換えると、エキシマレーザ装置は、COOに見合う産業分野での利用に限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、VUV光は、大気中では酸素に吸収されるため、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で使用する必要がある。しかしながら、このような酸素を含まない雰囲気中においてSAM膜にVUV光を照射した場合、VUV光によるSAM膜の直接分解しか行われず、パターニングレートを向上させることができない。
これに対して、大気等の酸素を含む処理雰囲気中においてSAM膜にVUV光を照射すると、SAM膜表面近傍の酸素がVUV照射により活性酸素となり、VUV光によるSAM膜の直接分解とともに、上記の活性酸素とSAM膜との酸化分解反応も行わせることができる。そして、この活性酸素による酸化分解反応の存在が、SAM膜のパターニングレートを向上させる要因となる。そのため、パターニングレートを確保するためには、大気中でVUVによるSAM膜のパターニングを行うことが好ましい。
【0009】
ところが、大気中にて、波長200nm以下のVUV光を用いたワークの光照射処理を行う場合、光照射表面や、当該表面を含む空間中においてオゾンが発生する。
オゾンは以下のような化学反応により生成されると考えられる。
まず、空気中の酸素分子が紫外線を吸収し励起状態となる。
O
2(
3Σ
g−:基底状態)+hν → O
2(
3Σ
u−:励起状態) ………(1)
【0010】
次に、励起状態の酸素分子が、励起状態の酸素原子となる。
O
2(
3Σ
u−:励起状態) → O(
3P:励起状態)+O(
1D:励起状態) ………(2)
あるいは、空気中の酸素分子が紫外線を吸収し、励起状態の酸素原子となる。
O
2(
3Σ
g−:基底状態)+hν → O(
1D:励起状態)+O(
1D:励起状態) ………(3)
【0011】
そして、励起状態の酸素原子O(
1D:励起状態)と、酸素分子と、周囲媒体M(窒素分子など)との三体衝突によりオゾンが生成される。
O(
1D)+O
2 +M → O
3 ………(4)
SAM膜にVUV光を照射してパターニング処理を行う場合、
図11に示すように、マスクMのマスクパターンを通過したVUV光源200からのVUV光(VUV)がワークW上のSAM膜(SAM)に照射され、VUV光が照射された部分においてSAM膜のVUV光による酸化分解除去反応等により、SAM膜がパターニングされるのが理想である。
【0012】
しかしながら、大気中でのVUV照射の場合、実際には、例えば
図12に示すようにオゾンO
3が生成する。生成されたオゾンO
3の寿命は数十秒に及ぶため、SAM膜のVUV光による酸化分解除去反応と並行して、オゾンO
3とSAM膜との酸化分解反応(
図11におけるオゾンエッチングOE)も発生する。そのため、SAM膜のパターニングは必ずしも所望なパターンが形成されるわけではない。すなわち、エッチング幅の拡大やSAM膜の部分的欠損(エッチング)が発生するといった不具合が生じる。
【0013】
したがって、大気等の酸素を含む雰囲気中でVUVによるSAM膜のパターニングを行う場合、VUV照射により生成するオゾンの影響を考慮する必要がある。しかしながら、上記非特許文献1に記載の技術にあっては、この点について全く考慮されていない。
そこで、本発明は、真空紫外光を含む光を放出する真空紫外光光源装置において、酸素を含む雰囲気中に真空紫外光を照射した際のオゾン発生量を抑制可能な真空紫外光光源装置、その真空紫外光光源装置を搭載した光照射装置、及びその光照射装置を用いた自己組織化単分子膜のパターニング方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る真空紫外光光源装置の一態様は、真空紫外光を含む光を放出する真空紫外光光源装置であって、前記真空紫外光を含む光として、パルス光であり、且つ発光のデューティ比が0.00001以上0.01以下である光を、酸素を含む雰囲気中に放出する。これにより、大気等の酸素を含む雰囲気中に真空紫外光を放出した際に当該雰囲気中の酸素分子が紫外線を吸収することにより発生するオゾンの量を抑制することができる。
【0015】
また、上記の真空紫外光光源装置において、前記発光のデューティ比が0.0001以上0.001以下であってもよい。これにより、比較的容易に実現可能な発光条件で、オゾン発生量を実用上問題のない程度に十分小さくすることができる。
さらに、上記の真空紫外光光源装置において、真空紫外光透過性材料からなる発光管と、該発光管内に配置された互いに対向する一対の電極とを有するフラッシュランプと、前記フラッシュランプに電力を供給する給電部と、を備えてもよい。このように、真空紫外光を含む光を放出する光源としてフラッシュランプを用いるので、適切に上記条件を満たす光を放出することができる。
【0016】
また、上記の真空紫外光光源装置において、前記フラッシュランプは、前記一対の電極の電極間距離が12.5mm以下であって、前記発光管内にキセノンガスを含むガスが封入されていてもよい。これにより、フラッシュランプは、点光源をみなせる程度に十分発光長が短い真空紫外光を放出することができる。したがって、当該フラッシュランプは、例えば、マスクを用いた微細なパターニングを行うためのランプとして用いることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る光照射装置の一態様は、自己組織化単分子膜が形成されたワークに対して離間して配置され、所定のパターンが形成されたマスクと、前記マスクを介して、前記ワーク上に真空紫外光を含む光を照射する上記のいずれかの真空紫外光光源装置と、前記真空紫外光光源装置から前記マスクまでの前記光の光路を包囲する包囲部材と、を備え、前記包囲部材の内部は不活性ガスによりパージされており、前記マスクと前記ワークとの間には酸素を含む気体層が形成されている。
【0018】
このように、光源装置からマスクまでの光路を包囲するハウジング内の酸素をパージするので、酸素による真空紫外光の吸収減衰を防止することができる。また、マスクからワークまでの光路を包囲するハウジング内を、酸素を含む気体によりパージするので、酸素を含む雰囲気中で真空紫外光による自己組織化単分子膜(SAM膜)のパターニング処理を行うことができる。そのため、SAM膜に真空紫外光が照射された際に、SAM膜表面近傍の酸素が活性酸素となり、当該活性酸素とSAM膜との酸化分解反応を行わせることができる。これにより、SAM膜のパターニングレートを向上させることができる。
【0019】
さらに、真空紫外光光源装置は、真空紫外光を含む光として、パルス光であり、且つ発光のデューティ比が0.00001以上0.01以下である光を放出するので、マスクとワークとの間の酸素分子が紫外線を吸収することにより発生するオゾンの量を抑制することができる。したがって、オゾンエッチングによるパターニングの変形を抑制し、良好なパターニングを実現することができる。
【0020】
また、本発明に係る自己組織化単分子膜のパターニング方法の一態様は、ワーク上に形成された自己組織化単分子膜に対し、所定のパターンが形成されたマスクを介して真空紫外光を含む光を照射する自己組織化単分子膜のパターニング方法であって、酸素を含む雰囲気中において、前記真空紫外光を含む光として、パルス光であり、且つ発光のデューティ比が0.00001以上0.01以下である光を照射する。
これにより、オゾン発生量を抑制しつつ、SAM膜のパターニング処理を行うことができる。したがって、オゾンエッチングを抑制し、良好なパターニングを実現することができる。
さらに、上記の自己組織化単分子膜のパターニング方法において、前記真空紫外光を含む光として、前記発光のデューティ比が0.0001以上0.001以下である光を照射してもよい。これにより、比較的容易に実現可能な光源装置を用いてオゾン発生量を実用上問題のない程度に十分小さくした状態で、SAM膜のパターニング処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の真空紫外光光源装置では、大気等の酸素を含む雰囲気中に真空紫外光を放出した際に発生するオゾンの量を抑制することができる。そのため、この真空紫外光光源装置を搭載した光照射装置では、酸素を含む雰囲気中におけるSAM膜のパターニング処理において、発生したオゾンとSAM膜との酸化分解反応に起因するオゾンエッチングを抑制することができ、良好なパターニングを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明者らは、大気等の処理雰囲気中の酸素分子が真空紫外光(VUV光)を吸収することにより生成されるオゾンの生成量を調査するために、以下のオゾン濃度測定実験を行った。
具体的には、中心波長172nmのVUV光を放出するエキシマランプと、VUV領域の光強度が強いVUVフラッシュランプ(VUVショートアークフラッシュランプ:VUV−SFL)とを用い、両者から空気中へのVUV光の積算照射量を同一としたときのオゾン発生量をそれぞれ調査した。
エキシマ光を照射するエキシマ光照射ユニットとしては、ウシオ電機株式会社製「Min−Excimer SUS713」を用いた。ランプの発光長は100mmであり、ランプに電力を供給する電源の周波数は140kHzである。このエキシマランプから放出される光のスペクトル分布を
図1に示す。なお、
図1において、横軸は波長(Wavelength)[nm]、縦軸は相対強度(Relative Intensity)[%]である。
【0024】
一方、VUV−SFLとしては、真空紫外光透過性材料からなる発光管(石英ガラス管等)内に配置される一対の電極間距離が12.5mm以下で、該発光管内に封入ガス圧力3atmでキセノンガスを含むガスが封入されたフラッシュランプを用いた。このVUV−SFLから放出される光のスペクトル分布を
図2に示す。なお、
図2において、横軸は波長[nm]、縦軸は分光放射強度[μJ/cm
2]である。
【0025】
ここで、VUV−SFLの構造について説明する。
図3は、VUV−SFLの一例として、ダブルエンド型ショートアークフラッシュランプの構造を示す図である。
図3に示すように、VUV−SFL11は、発光管111aを備える。発光管111aの両端には第一封止管111bと第二封止管111cとが連設されている。また、第二封止管111cには封止用ガラス管112が挿入されており、両者は溶着されている。
【0026】
発光管111a内には、一対の電極(第一の主電極113aと第二の主電極113b)が対向配置されている。第一の主電極113aから伸びるリード114aは、第一封止管111bに段継ぎガラスなどの手段により支持・封止されてその外方に導出されている。また、第二の主電極113bは、そのリード114bが封止用ガラス管112に段継ぎガラスなどの手段により支持・封止されてその外方に導出されている。
【0027】
また、発光管111a内の主電極113a及び113bの間には、一対の始動補助電極115a及び115bが配設されている。始動補助電極115aの内部リード116aと始動補助電極115aの外部リード117aとは、第二封止管111cと封止用ガラス管112との間の溶着領域において、金属箔118aを介して電気的に接続されている。同様に、始動補助電極115bの内部リード116bと始動補助電極115bの外部リード117bとは、第二封止管111cと封止用ガラス管112との間の溶着領域において、金属箔118bを介して電気的に接続されている。
【0028】
さらに、一対の内部リード116a及び116bの間にはサポータ119が設けられており、このサポータ119が始動補助電極115a及び115bの位置決めをする構成となっている。
リード114a,114b及び外部リード117a,117bは、それぞれ給電部15に接続されている。給電部15は、所定のエネルギーを蓄えるコンデンサ(不図示)を有する。給電部15は、当該コンデンサを充電することで一対の電極113aと113bとの間に高電圧を印加すると共に、その状態で一対の始動補助電極115aと115bとの間にトリガ電圧として高電圧パルスを供給する。これにより、給電部15は、一対の電極113a,113b間にアーク放電を発生させ、発光管111a内で閃光放電を生じさせる。このようにして、発光管111a外部にパルス光が放出される。
【0029】
すなわち、オゾン濃度測定実験に用いるVUV−SFLとしては、
図3に示す一対の電極113a及び113b間の距離が12.5mm以下であり、発光管111a内に封入ガス圧力3atmでキセノンガスを含むガスが封入されたものを用いる。これにより、このVUV−SFLは、点光源とみなせるように十分発光長が短く、十分な強度のVUV光を含む光を放出することができる。
なお、光強度の強いVUV光を放出するVUV−SFLとしては、電極間距離が12.5mm以下であって、発光管内にキセノンガスを含むガスが封入されており、当該封入ガス圧力が2atm〜8atmのものを適用することができる。
【0030】
図1及び
図2に示す通り、エキシマランプとVUV−SFLとでは、スペクトル分布が異なる。SAM膜のパターニングに寄与するのは、波長領域200nm以下のVUV光であるため、オゾン濃度測定実験では、この波長領域での光の照射量を等しくして、オゾン発生量の差異を確認する必要がある。
しかしながら、エキシマランプは、
図1に示すように、波長200nm以下の光のみを放出するが、VUV−SFLが放出する光には、
図2に示すように、波長200nmを超える波長成分が含まれる。そのため、VUV−SFLにおいては、単純に波長200nm以下の光の照度を測定することができない。
【0031】
そこで、本発明者らは、波長領域200nm以下のVUV光がSAM膜に照射されると、SAM膜の接触角が変化することに着目し、SAM膜への光照射開始からSAM膜の接触角の変化が安定するまでのエキシマランプの光照射量に占めるVUVの照射量が、SAM膜への光照射開始からSAM膜の接触角の変化が安定するまでのVUV−SFLの照射量と等しいと仮定した。そして、この仮定の下、VUV−SFLの波長200nm以下の光の照度を算出した。以下、この点について説明する。
【0032】
図4は、大気中で、ワーク(基板)上のSAM膜表面での照度が8.25mW/cm
2となるように、上記したエキシマランプを用いてエキシマ光を照射したときのSAM膜の接触角の変化を示す図である。なお、ここでは、SAM膜として、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン(FAS13:和光純薬工業株式会社製)を用いた。
図4に示すとおり、75s光照射することにより、SAM膜の接触角の変化が安定した。具体的には、SAM膜の接触角は、58°から42°に変化し、ほぼ安定した。
【0033】
図5は、大気中で、ワーク上のSAM膜にVUV−SFLからのパルス光を照射したときの、SAM膜の接触角の変化を示す図である。VUV−SFLには、600Vで充電された容量20μFのコンデンサの充電エネルギー(すなわち、1/2×20×10
−6×600
2=3.6J)を投入し、当該VUV−SFLを10Hzで点灯させた。
図5に示すとおり、120s光照射することにより、SAM膜の接触角の変化が安定した。具体的には、SAM膜の接触角は、58°から33°に変化し、ほぼ安定した。
【0034】
なお、
図4及び
図5に示すように、光照射開始時のSAM膜の接触角が同じであっても、接触角の変化が安定したときの接触角の大きさは、VUV−SFLの光をSAM膜に照射したときとエキシマランプの光をSAM膜に照射したときとで相違する。これは、
図1及び
図2のスペクトル分布から明らかなように、VUV−SFLから放出される光には、エキシマランプから放出される光よりもエネルギーが大きい波長200nm以下の波長成分(VUV)が多く含まれるためであり、VUV−SFLの光をSAM膜に照射したときの方が、SAM膜のVUV照射による分解がより進んだためであると考えられる。
【0035】
上記のように、SAM膜の接触角の変化が安定するまでの時間は、VUV−SFLで120秒、エキシマランプで75秒である。したがって、VUV−SFLの光を120秒間照射したときの波長200nm以下のVUV光照射量が、エキシマランプからの光を75秒間照射したときのVUV光照射量と等しいと仮定する。
エキシマランプにおけるSAM膜の接触角の変化が安定するまでの間の照射量は、75s×8.25mW/cm
2=618.25mJ/cm
2である。よって、VUV−SFLのSAM膜上での波長200nm以下の光の照度は、エキシマランプの照度に換算すると、75s/120s×8.25mW/cm
2=5.16mW/cm
2相当となる。
【0036】
すなわち、上記のVUV−SFLを入力エネルギー3.6J、10Hzで点灯させる場合、エキシマランプを照度5.16mW/cm
2で点灯させれば、両者からの波長200nm以下のVUV光の単位時間当たりの照射量が等しくなると考えられる。
そこで、オゾン濃度測定実験では、3.6J入力のVUV−SFLを10Hzで点灯した際に発生するオゾン濃度と、照度が5.16mW/cm
2となるように調整した中心波長172nm、点灯周波数140kHzのエキシマランプを点灯した際に発生するオゾン濃度とを測定し、両者を比較する実験を行った。
図6は、オゾン濃度測定実験に用いた実験系を示す図である。
ランプ41は、上記のエキシマランプ、またはVUV−SFLである。当該ランプ41はランプハウス42内に収容されており、当該ランプ41から放出される光は、ランプハウス42に設けたVUV透過性の窓部43より外部に照射される。
【0037】
また、ランプ41の光出射側には、VUV透過性材料からなるフローセル44を配置する。当該フローセル44の内部には、その一端に形成された開放端45から空気が導入され、フローセル44の他端にはオゾンメータ46が接続されている。フローセル44の肉厚は、例えば1mm、
図6における断面積は、例えば3mm×24mmである。
オゾンメータ46としては、荏原実業株式会社製「EG−2001 RAH035」を使用した。オゾンメータ46のガス吸引量は1.5リットル/minである。
フローセル44の光照射面には、1cm×1cm角の開口47aを有するアルミニウム箔をマスク47として設けた。すなわち、フローセル44内を流れる空気へのVUV照射面積は1cm
2となる。ランプハウス42の窓部43からマスクM表面までのギャップ長さDは、例えば2.5mmとした。
なお、
図6は理解を容易にするために誇張して描いており、大小関係は必ずしも実際の実験系を反映したものではない。
【0038】
以上のような実験系において、上述したように、3.6J入力のVUV−SFLを10Hzで点灯した際に発生するオゾン濃度と、フローセル表面での照度が5.16mW/cm
2となるように調整した中心波長172nm、点灯周波数140kHzのエキシマランプを点灯した際に発生するオゾン濃度とを測定した。その結果を
図7に示す。
図7において、実線がVUV−SFLのオゾン濃度測定結果であり、破線がエキシマランプのオゾン濃度測定結果である。
この
図7に示すように、VUV−SFL及びエキシマランプを点灯してから3分後のオゾン濃度は、それぞれ0.64ppm、4.78ppmであった。このように、VUV領域の照射量が同一となるようにエキシマランプ及びVUV−SFLを点灯したにもかかわらず、パルス点灯のVUV−SFLの方が、オゾン濃度が小さくなった。すなわち、大気中点灯において、パルス点灯のVUV−SFLの方がオゾン生成量は小さくなることが判明した。
【0039】
なお、エキシマランプを点灯した場合に、点灯開始から約30秒後にオゾン濃度がピークとなりその後徐々にオゾン濃度が減少しているのは、ランプ点灯開始から30秒後よりランプ温度が上昇して、エキシマランプバルブ内の封入ガス温度が上がり、封入ガスによるエキシマ光の自己吸収が増え、結果としてエキシマランプからのVUV放出量が徐々に減少していったためと考えられる。
ここで使用したエキシマランプの点灯周波数は140kHzであるので、
図8に示すように、当該エキシマランプの発光間隔Tは7×10
−6秒である。なお、
図8において、横軸は時間であり、縦軸は光出力(任意単位)である。また、発光パルス幅tpは、FWHM(半値全幅)で約2μsである。したがって、エキシマランプの発光のデューティ比(=発光パルス幅tp/発光間隔T)は、
2×10
−6/7×10
−6=0.29(29%)
となる。
【0040】
一方、VUV−SFLの点灯周波数は10Hzであるので、当該VUV−SFLの発光間隔は0.1秒である。また、発光パルス幅は、FWHMで約10μsである。したがって、VUV−SFLの発光のデューティ比は、
1×10
−5/0.1=1×10
−4(0.01%)
となる。
このように、エキシマランプとVUV−SFLとでは、発光のデューティ比が大幅に相違する。このことから、VUV領域の照射量が同一となるようにエキシマランプ及びVUV−SFLを点灯したにもかかわらず、VUV−SFLを点灯させたときの方が、エキシマランプを点灯させたときと比較してオゾン濃度が小さいのは、両者の発光のデューティが大幅に相違することが一因なのではないかと推察される。
すなわち、発光のデューティ比が小さい方が、励起状態の酸素原子O(
1D:励起状態)と、酸素分子と、周囲媒体(窒素分子など)との三体衝突によるオゾン生成反応が起こりにくいものと推察される。
【0041】
上記仮説を検証するために、上記ランプ(エキシマランプ、VUV−SFL)とはデューティ比の異なる複数のランプを用いて、それぞれオゾン濃度の発生量を調査した。なお、上記したエキシマランプをランプA、VUV−SFLをランプDと呼称する。
新たに発光時のオゾン発生量を調査したランプは、以下のランプB及びランプCである。
ランプBは、中心波長172nmのVUVを放出するエキシマランプであり、スペクトル分布は、
図1に示すランプAのスペクトル分布と同じである。点灯周波数は20kHz、発光パルス幅はFWHMで約2μsとした。
このランプBの発光間隔は5×10
−5秒であるので、当該ランプBの発光のデューティ比は、
2×10
−6/5×10
−5=0.04(4%)
である。
【0042】
ランプCは、波長200nm以下のVUV光を放出するVUV−SFLであり、スペクトル分布は、
図2に示すランプDのスペクトル分布と同じである。点灯周波数は100Hz、発光パルス幅はFWHMで約10μsとした。
このランプCの発光間隔は0.01秒であるので、当該ランプCの発光のデューティ比は、
1×10
−6/0.01=0.001(0.1%)
である。
なお、ここでは、ランプB及びランプCのVUV光の照射量が、上記したランプA及びランプDと同じになるように、ランプB及びランプCへの投入エネルギーを調整した。
各ランプA〜Dを点灯してから3分間経過後に発生しているオゾン濃度を測定したところ、表1に示す結果が得られた。
【0044】
なお、オゾン濃度の測定点を3分間経過後としたのは、各ランプA〜Dの動作が点灯後3分間でほぼ安定するためである。
図9は、上記表1に示す結果をもとに、発光デューティ比とオゾン濃度との関係を示した図である。
この
図9より、大気中においてVUV領域の光を含むパルス光を照射する場合、空気に対するVUV領域の照射量が同一であるとすると、発光のデューティ比が小さいほど、オゾンの発生量が少なくなることが分かった。
【0045】
また、各ランプA〜Dを用いて、それぞれ大気中にてSAM膜(FAS13:和光純薬工業株式会社製)のパターニングを実施した。その結果、ランプA及びランプBを用いた場合、発生したオゾンとSAM膜との酸化分解反応により、例えば
図12に示すように、エッチング幅の拡大やSAM膜の部分的欠損といった、所謂オゾンエッチングOEが無視できない程度に発生し、良好なパターニングができなかった。一方、ランプC及びランプDを用いた場合には、発生オゾン濃度が比較的小さいために、オゾンとSAM膜との酸化分解反応が小さく、例えば
図11に示すように、良好なパターニングを行うことができた。
【0046】
さらに、発生オゾン濃度とパターニング精度との関係を調査したところ、発生オゾン濃度が4ppm以上であると、オゾンエッチングによるパターニングの変形が顕著であることが確認できた。
図9に示すように、発光のデューティ比が0.01以下である場合、発生オゾン濃度を確実に4ppmよりも小さくすることができる。すなわち、VUV光を使用してSAM膜をパターニングする場合、ランプC及びD(VUV−SFL)のようにパルス発光し、且つ発光のデューティ比が0.01以下である光源を用いることで、精度のよいパターニングが可能となる。
【0047】
したがって、本実施形態では、VUV光を使用してSAM膜をパターニングする場合、パルス発光し且つ発光のデューティ比が0.01以下で0よりも大きいフラッシュランプを用いる。具体的には、上記発光のデューティ比は0.00001以上0.01以下とする。デューティ比が小さくなると単位時間あたりに発光する回数が減るので1発光あたりの出力を大きくする必要がある。すなわち、ランプへの投入電力を大きくする必要があり、所定のエネルギーを蓄えるコンデンサ(不図示)を有する給電部が大型化する。ここで、デューティ比の下限を0.00001としたのは、デューティ比が0.00001を下回ると、1回の発光における出力を大きくするために前記給電部15がかなり大型となり実用的でなくなるためである。
【0048】
さらに好ましくは、発光のデューティ比は0.0001以上0.001以下とする。これにより、上記のランプCやランプDのような比較的容易に実現可能な発光条件で、発生オゾン濃度を実用上問題のない程度に十分小さくすることができる。
図10は、VUV光を使用してSAM膜をパターニングする光照射装置の構成例を示す図である。
光照射装置100は、VUV光を放射する真空紫外光光源装置10を備える。真空紫外光光源装置10は、フラッシュランプ11と、放物面ミラー12と、ランプハウジング13と、ランプハウジング13に設けられた窓部14とを備える。
【0049】
フラッシュランプ11は、例えば
図3に示す構成を有するVUV−SFLである。すなわち、フラッシュランプ11は、真空紫外光透過性材料からなる発光管111aと、この発光管111a内に配置された互いに対向する一対の電極113a,113bとを備え、該一対の電極113a,113bの電極間距離が12.5mm以下であって、該発光管111a内に封入ガス圧力3atmでキセノンガスを含むガスが封入された構成を有する。
なお、
図10では特に図示しないが、真空紫外光光源装置10は、
図3に示す給電部15と同様の構成を有する給電部を備える。
【0050】
フラッシュランプ11は、デューティ比0.00001以上0.01以下(ここでは、例えば0.001)でパルス発光するように、制御部31によって駆動制御される。すなわち、制御部31は、真空紫外光光源装置10の給電部を駆動制御し、フラッシュランプ11に対して600Vで充電された容量20μFのコンデンサの充電エネルギー(3.6J)を投入し、当該フラッシュランプ11を10Hzで点灯させる。
フラッシュランプ11から放出されたVUV光は、放物面ミラー12によって反射されて平行光となり、ランプハウジング13に設けられた窓部14から出射する。窓部14は、例えば、VUV光に対して高い透過率を有する合成石英で形成する。なお、窓部14は、例えば、石英より短波長の透過率が良いサファイアガラスやフッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等により形成されていてもよい。
【0051】
当該窓部14は、ランプハウジング13と気密に組み立てられており、ランプハウジング13内部には、ランプハウジング13に設けられたガス導入口13aから窒素(N
2)ガスなどの不活性ガスが導入され、当該ランプハウジング13の内部は酸素がパージされている。これは、VUVが酸素による吸収減衰を激しく受けるためであり、ランプハウジング13内をN
2ガスなどの不活性ガスによりパージすることによりVUVの酸素による吸収減衰を防止することができる。また、ランプハウジング13内部に導入された不活性ガスは、フラッシュランプ11や放物面ミラー12を冷却した後ランプハウジング13に設けられた排気口13bから排気される。
なお、ランプハウジング13内部は酸素がパージされていればよく、例えば真空であってもよい。
【0052】
真空紫外光光源装置10から放出されたVUV光は、マスクMに入射される。マスクMは、例えば、ガラス等の透明基板上にクロム等の金属を蒸着・エッチングしてパターン(照射パターン)を形成したものであり、当該マスクMを通してVUV光がワークWに照射される。
真空紫外光光源装置10の光出射側には、真空紫外光光源装置10から放出されマスクMに入射される光が進行する光路を包囲する包囲部材21が設けられている。マスクMは、包囲部材21に固定されたマスクステージ22によって水平状態を保って吸着保持されている。
【0053】
真空紫外光光源装置10の窓部14、包囲部材21、マスクステージ22及びマスクMの内部は閉空間となっている。包囲部材21はガス導入口21aが設けられており、閉空間となった包囲部材21内部にはガス導入口21aからN
2ガスなどの不活性ガスが導入され、当該包囲部材21内部は酸素がパージされている。これは、ランプハウジング13内部の酸素がパージされているのと同じ理由による。また、包囲部材21内部に導入された不活性ガスは、包囲部材21に設けられた排気口21bから排気される。
なお、包囲部材21内部は酸素がパージされていればよく、例えば真空であってもよい。
【0054】
ワークWは、ワークステージ23上に載置され、例えば真空チャック機構によりワークステージ23に吸着保持されている。当該ワークW上には、SAM膜(SAM)が形成されており、マスクMから約100μm程度離して配置されている。そして、ワークWとマスクMとの間には空気層が形成されている。
具体的には、マスクMの光出射側に、マスクMを通過しワークWに照射される光が進行する光路を包囲する包囲部材24が設けられており、包囲部材24に形成された空気導入口24aからワークWとマスクMとの間に空気が導入されている。空気導入口24aから導入された空気は、排気口24bから排気される。なお、マスクMとワークWとの間は空気層に限定されるものではなく、酸素を含む気体層が形成されていればよい。
【0055】
また、ワークステージ23は、ステージ移動機構32によってXYZθ方向(
図10の左右、前後、上下方向、およびZ軸を中心とした回転方向)に移動可能に構成されている。ステージ移動機構32は、制御部31によって駆動制御される。
すなわち、ワークWのVUV照射処理は次のように行われる。
まず、制御部31は、真空チャック機構等を駆動制御し、マスクステージ22の所定の位置にセットされたマスクMを真空吸着により保持する。次に、制御部31はステージ移動機構32によりワークステージ23を下降し、ワークWをワークステージ23上に載置させた後、ステージ移動機構32によりワークステージ23を上昇し、ワークWを所定のVUV光照射位置にセットする。次に、制御部31は、ステージ移動機構32によりワークステージ23をXYθ方向に移動し、マスクMとワークWとの位置合わせ(アライメント)を行う。すなわち、マスクM上に印されたアライメント・マークとワークW上に印されたアライメント・マークを一致させる。
【0056】
マスクMとワークWの位置合わせが終了すると、真空紫外光光源装置10から平行光であるVUV光をマスクM上に照射し、ワークW上のSAM膜の光パターニング処理を行う。光パターニング処理が終了すると、制御部31は、ステージ移動機構32によりワークステージ23を下降し、ワークステージ23への真空の供給を停止し、照射済のワークWをワークステージ23から取り出し可能な状態とする。
【0057】
以上のように、本実施形態における光照射装置100では、パターンを形成したマスクMを用意し、マスクMとワークWを近接して平行に配置し、該マスクMを通してワークWの特性を変えたい部分のみに平行光のVUV光を照射する。このようにして、ワークWに対する光パターニング処理を行う。
このとき、光照射装置100は、大気等の酸素を含む雰囲気中でワークWにVUV光を照射する。そのため、SAM膜にVUV光を照射したとき、SAM膜表面近傍の酸素がVUV照射により活性酸素となり、VUV光によるSAM膜の直接分解とともに、当該活性酸素とSAM膜との酸化分解反応も行わせることができる。これにより、酸素を含まない不活性ガス雰囲気でのSAM膜へのVUV照射のように、活性酸素による酸化分解反応が行われない場合と比較して、パターニングレートを向上することができる。
【0058】
また、真空紫外光光源装置10は、ワークWに照射するVUV光として、パルス光であり、発光のデューティ比が0.01以下の光を放出する。これにより、大気雰囲気中の酸素分子がVUVを吸収することにより生成されるオゾンの生成量を抑制することができる。特に、上記発光のデューティ比を0.0001以上0.001以下に設定することで、比較的容易に実現可能な発光条件で、発生オゾン濃度を実用上問題のない程度に十分小さくすることができる。したがって、オゾンエッチングによるパターニングの変形を抑制し、良好なパターニングを実現することができる。
【0059】
さらに、パルス光であり、発光のデューティ比が0.01以下の光を放出する光源として、フラッシュランプ11を適用するので、上記条件を満たすVUV光を適切に放出することができる。
また、フラッシュランプ11としては、発光長(電極間距離)が12.5mm以下であり、発光管内にキセノンガスを含むガスが封入されているものを適用する。このように、略点光源とみなせる光源を用いることで、光の回り込みが少ない露光を行うことができる。したがって、パターン線幅の微細化を実現することができる。
【0060】
(変形例)
上記実施形態においては、ワークWに照射されるVUV光の照度分布の均一性が求められる場合、例えば、光照射装置100を以下のように構成してもよい。
真空紫外光光源装置10における放物面ミラー12を楕円集光ミラーとし、当該楕円集光ミラーの第1焦点にフラッシュランプ11の発光部を配置する。また、窓部14から放出される光が集光される第2焦点にインテグレータを配置し、インテグレータからの光をコリメータレンズもしくはコリメータミラーで平行光にしてマスクMに照射する。
なお、インテグレータやコリメータレンズもしくはコリメータミラーは、真空紫外光光源装置10から放出されワークWに照射される光が進行する光路上にあるので、これらはVUV領域の光透過性の良い材料で構成する必要があるとともに、これらも包囲部材21の内部に収容される。