【文献】
NIFANT'YEV E Y,HYDROPHOSPHORYLATION OF SYNTHETIC RUBBERS,POLYMER SCIENCE U.S.S.R.,PERGAMON PRESS,1983年,VOL:25, NR:2,PAGE(S):472 - 479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジエン系ゴムが、ポリイソプレン、ポリブタジエン、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム及び天然ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載のリン酸変性ポリマー。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明のリン酸変性ポリマー(本発明のポリマー)は、
炭素原子に直接結合するリン原子を含むリン置換基と二重結合とを有する、リン酸変性ポリマーである。
本発明において、「リン酸変性ポリマー」とは、リン置換基の構造として、リン酸:O=P(OH)
3から1つのヒドロキシ基を除いた残基又はそのエステル若しくは塩を有するポリマーを意味する。
【0010】
本発明のポリマーは、リン原子が炭素原子に直接結合することによって、リン酸エステル結合と二重結合とを有するポリマーよりも、熱的安定性に優れ、加水分解しにくく耐水性に優れると考えられる。
【0011】
<リン置換基>
本発明のポリマーが有するリン置換基は、炭素原子に直接結合するリン原子を含む。リン置換基はリン原子を含み、リン原子が炭素原子と直接結合して、P−C結合を形成する。
【0012】
リン置換基は、コスト面、入手容易性に優れるという観点から、下記式(1)で表されるものであるのが好ましい。
【化2】
【0013】
式(1)中、R
1及びR
2は、置換基を有してもよい炭化水素基、アルカリ金属又は水素原子を表し、同一であっても異なってもよく、リン原子が*において前記炭素原子と結合する。
炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状のいずれであってもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。
炭化水素基の炭素数は、1〜30とすることができる。
炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基(不飽和結合を含んでもよい。具体的には例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、脂環式炭化水素基(不飽和結合を含んでもよい。)、芳香族炭化水素基(炭素数6〜24のアリール基が好ましい。)、これらの組合せが挙げられる。
炭化水素基は、例えば、酸素、窒素、硫黄、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ホウ素原子のようなヘテロ原子を含む官能基を有していても良い。
【0014】
アルキル基としては、例えば、炭素数1〜30のアルキル基が挙げられ、熱的安定性に優れるという観点から、炭素数10〜30であるのが好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、オレイル基、ラウリル基が挙げられる。なかでも、エチル基、2−エチルヘキシル基、オクタデシル基、オレイル基、ラウリル基が好ましい。
炭素数6〜24のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ノニルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
【0015】
本発明において、リン原子と直接結合する炭素原子は、リン置換基以外の部分が有する炭素原子とすることができる。
上記炭素原子は、本発明のポリマーが有する、主鎖、側鎖及び末端のうちの少なくともいずれかにあるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。つまり、リン置換基は、本発明のポリマーの主鎖、側鎖及び末端のうちの少なくともいずれかの部分にある炭素原子に結合することができる。
また、上記炭素原子は、飽和結合を形成するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のポリマーは、1分子中、リン置換基を1個以上有し、分子量によっても異なるが、1〜100個有するのが好ましい。
【0016】
<二重結合>
本発明のポリマーは二重結合を有する。
本発明のポリマーは、二重結合を、主鎖、側鎖及び末端のうちの少なくともいずれかに有するのが好ましい。
【0017】
本発明のポリマーは、その骨格として、例えば、ジエン系ゴム、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタンなどの単独重合体あるいは2種以上の共重合体が挙げられる。
本発明のポリマーの骨格は、弾性に優れ、本発明のポリマーの硫黄架橋反応や本発明のポリマーとシランカップリング剤との反応における反応性に優れると言う観点から、ジエン系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリイソプレン、ポリブタジエン、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムのような合成ゴム;天然ゴムが挙げられる。
上記の各種ジエン系ゴムは特に制限されない。
本発明のポリマーは、本発明のポリマーの硫黄架橋反応や本発明のポリマーとシランカップリング剤との反応における反応性に優れると言う観点から、シス構造、トランス構造、1,2−ビニル構造及び3,4−ビニル構造からなる群から選ばれる少なくとも1種のミクロ構造を有することができる。
【0018】
本発明のポリマーは、室温(5〜45℃)下で液状又は固体であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のポリマーは、粘性に優れるという観点から、重量平均分子量が400以上であるのが好ましく、1,000〜3,000,000であるのがより好ましい。本発明のポリマーの重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算値である。
【0019】
本発明のポリマーの製造方法としては、例えば、原料ポリマーと、H
3PO
3、H
3PO
2及びこれらのエステル又は塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のリン化合物と、触媒とを、有機溶剤中、あるいは無溶媒で、5〜200℃で反応させる方法が挙げられる。
反応後、反応溶液から有機溶媒を留去し、本発明のポリマーを得ることができる。
【0020】
上記において、リン化合物は、触媒の存在下、原料ポリマーが有する二重結合の一部と反応する。この反応によって、上記の二重結合には、水素原子とリン原子が付加される(ヒドロフォスフィネーション反応)。その結果、原料ポリマーにリン置換基が結合したリン酸変性ポリマーを得ることができる。
【0021】
本発明のポリマーの製造方法に使用される原料ポリマーは、二重結合を有するものであれば特に制限されない。二重結合の位置は特に制限されない。例えば、本発明のポリマーと同様とすることができる。
原料ポリマーとしては例えば、ジエン系ゴム、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタンなどの単独重合体あるいは2種以上の共重合体が挙げられる。
原料ポリマーは、なかでも、ジエン系ゴム(これを原料ジエン系ゴムということがある。)が好ましい。
原料ポリマーとしての原料ジエン系ゴムは特に制限されない。例えば、ポリイソプレン、ポリブタジエン、芳香族ビニル−共役ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムのような合成ゴム;天然ゴムが挙げられる。
原料ポリマーの重量平均分子量、ミクロ構造は、本発明のポリマーと同様とすることができる。
【0022】
本発明のポリマーの製造方法に使用されるリン化合物は、P−H結合を形成することができる化合物であれば特に制限されない。リン化合物としては、例えば、H
3PO
3、H
3PO
2及びこれらのエステル又は塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。リン化合物が有することができるエステル結合又は塩の数は、リン化合物1分子中、1個または複数であってもよい。リン化合物は互変異性(例えば、ケト−エノール互変異性)するものであってもよい。リン化合物は互変異性体(例えば、ケト互変異性体、エノール互変異性体)のいずれか又は混合物であってもよい。
互変異性平衡の平衡定数は例えば、温度、エステル残基、溶媒等に依存する。互変異性体は、水素結合によってダイマー、トリマー又はオリゴマーとなっていてもよい。
【0023】
本発明において、H
3PO
3は、互変異性体の関係にある、亜リン酸(トリヒドロキシ型:P(OH)
3及びホスホン酸(ジヒドロキシ型:H(O)P(OH)
2)のうちのいずれであってもよく、互変異性体の混合物であってもよい。
H
3PO
3のエステル又は塩についても同様である。
H
3PO
2(次亜リン酸、ホスフィン酸が互変異性体の関係にある。)、そのエステル、塩についても同様である。
【0024】
H
3PO
3のエステル又は塩としては、例えば、H
3-nPO
3R
nで表されるものが挙げられる。
式中、nは1〜2の整数であり、Rは置換基を有してもよい炭化水素基、アルカリ金属が挙げられる。置換基を有してもよい炭化水素基は具体的には例えば、式(1)で表される基が有するR
1及びR
2としての炭化水素基(置換基を有してもよい炭化水素基)と同様とすることができる。アルカリ金属についても同様である。
【0025】
上記H
3-nPO
3R
nにおいて、nが2である場合、その互変異性体として、例えば、下記式(I)で表されるケト互変異性体、式(II)で表されるエノール互変異性体が挙げられる。
【化3】
式(I)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に置換基を有してもよい炭化水素基又はアルカリ金属を表す。置換基を有してもよい炭化水素基、アルカリ金属は上記Rと同様である。
式(II)のR
1、R
2について、式(I)と同様である。
【0026】
本発明において、亜リン酸エステルの例示は、互変異性体の関係にあるとホスホン酸エステルを含むものとする。この逆も同様とする。亜リン酸及びホスホン酸の塩についても同様である。H
3PO
2についても同様である。
【0027】
亜リン酸のエステル(ホスファイト)としては、例えば、
ジメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、ビス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジラウリルホスファイトのようなジアルキルホスファイト;
ジオレイルホスファイトのようなジアルケニルホスファイト;
ジフェニルホスファイトのようなジ芳香族系ホスファイトが挙げられる。
【0028】
ホスファイトジエステルはリン原子に結合するヒドロキシ基を1つ有することができる。
【0029】
ホスホン酸エステルは、そのリン原子に例えば、水素原子、ヒドロキシ基を結合することができる。
【0030】
ホスホン酸エステル(ホスホナート)としては、例えば、ハイドロゲンホスホン酸ジエステル、ハイドロゲンホスホン酸モノエステルが挙げられる。ハイドロゲンホスホン酸モノエステルはリン原子に結合するヒドロキシ基を1つ有することができる。
【0031】
ハイドロゲンホスホン酸ジエステルとしては、例えば、
ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ジブチル、ホスホン酸ジヘキシル、ホスホン酸ジオクチル、ホスホン酸ジ(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジデシル、ホスホン酸ジドデシル(ホスホン酸ジラウリル)、ホスホン酸ジオクタデシルのようなハイドロゲンホスホン酸ジアルキルエステル;
ホスホン酸ジオレイルのようなハイドロゲンホスホン酸ジアルケニルエステル;
ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジトリルのような、ハイドロゲンホスホン酸ジ芳香族系エステルが挙げられる。
【0032】
ハイドロゲンホスホン酸モノエステルとしては例えば、
ホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル、ホスホン酸モノオクチル、ホスホン酸モノ−1−メチルヘプチルのようなハイドロゲンホスホン酸モノアルキルエステル;
ホスホン酸モノオレイルのようなハイドロゲンホスホン酸モノアルケニルエステル;
ホスホン酸モノ−p−ノニルフェニルのようなハイドロゲンホスホン酸モノ芳香族系エステルが挙げられる。
【0033】
H
3PO
3の塩(例えば金属塩)としては、例えば、亜リン酸ナトリウムのようなアルカリ金属塩が挙げられる。
H
3PO
2の塩(例えば金属塩)としては、例えば、次亜リン酸ナトリウムのようなアルカリ金属塩が挙げられる。
【0034】
なかでも、取扱・コスト・原料安定性・入手容易性に優れるという観点から、
HPO
3R
2が好ましく、
HPO
3(アルキル)
2(例えば、ハイドロゲンホスホン酸ジアルキルエステル及び/又はジアルキルホスファイト。以下同様)、
HPO
3(アルケニル)
2(例えば、ハイドロゲンホスホン酸ジアルケニルエステル及び/又はジアルケニルホスファイト。以下同様)がより好ましく、
HPO
3(エチル)
2、HPO
3(2−エチルヘキシル)
2、HPO
3(ラウリル)
2、HPO
3(オレイル)
2が更に好ましい。
【0035】
リン化合物の量は、取扱い・反応性に優れるという観点から、原料ポリマー100質量部に対して、0.1〜200質量部であるのが好ましく、0.2〜150質量部であるのがより好ましい。
【0036】
本発明のポリマーの製造方法に使用される触媒は、マンガン触媒であるのが好ましく、2価又は3価のマンガン触媒であるのがより好ましい。
マンガン触媒としては、例えば、マンガンの、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、又は、オキソ酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸若しくはこれらの塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H
2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH
3(アンミン)、NO、NO
2(ニトロ)、NO
3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0037】
具体的には例えば、水酸化マンガン、酸化マンガン、塩化マンガンや臭化マンガンなどのハロゲン化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、リン酸マンガン、炭酸マンガン、マンガン酸塩、過マンガン酸塩、マンガンモリブデン酸等のマンガンを含むヘテロポリ酸又はその塩などの無機化合物;ギ酸マンガン、酢酸マンガン、プロピオン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、2‐エチルヘキサン酸マンガン、ステアリン酸マンガン、チオシアン酸マンガンなどの有機酸塩やマンガンアセチルアセトナトなどの錯体等の有機化合物が例示される。マンガンの価数は2価又は3価の何れであってもよく、マンガンを含む二核錯体以上の多核錯体であってもよい。
【0038】
触媒の量は、コスト、製造安定性に優れるという観点から、原料ポリマー100質量部に対して、0.01〜100質量部であるのが好ましく、0.02〜50質量部であるのがより好ましい。
【0039】
本発明のポリマーの製造に使用される有機溶剤は特に制限されない。例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;トルエンのような芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0040】
本発明のポリマーのリン置換基はヒドロキシ基を有してもよい。ヒドロキシ基は本発明のポリマーの製造方法に使用されるリン化合物に由来するものであってもよい。また、リン置換基が加水分解してP−OHを形成してもよい。加水分解の方法は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0041】
本発明のポリマーとこれを製造する際使用された原料ポリマーとについて、TGA測定(熱重量測定)によって50%重量減少温度を測定すると、両者の50%重量減少温度にはほとんど差がなく、このことから本発明のポリマーが原料ポリマーと同程度の優れた熱的安定性を有することが分かった。
【0042】
また、モノドデシルホスフェートの熱分解温度が212℃であり、その分解がP−O−C結合のC−O結合を主な分解としてP−O結合の分解も生じていること等を参考とすると(油化学,第40巻 第12号(1991),P1095−1099,「長鎖アルキルリン酸エステルの熱分解」,日本油化学会出版)、上述のとおり本発明のポリマーの50%重量減少温度は原料ポリマーと同程度に高いので、本発明のポリマーの50%重量減少温度はリン酸エステルをP−O−C結合で有するジエン系ポリマーよりも高いと推測される。よって、本発明のポリマーは、リン酸エステルをP−O−C結合で有するジエン系ポリマーよりも、熱的安定性に優れ、加水分解しにくく耐水性に優れると考えられる。
【0043】
また、本発明のポリマーが有するリン置換基は、カルボン酸よりも酸性度が高く、フィラー表面との水素結合性もあると考えられる。リン置換基が酸素原子を複数有する場合、水素結合性はより高くなると考えられる。
そのため、本発明のポリマーをゴム組成物に配合することによって、フィラー分散向上に伴う低発熱化、親水性向上に伴うWETグリップ向上、3次元ネットワークの構築性に伴う強靭性の向上、ゲル化率の上昇から耐摩耗性などの向上が期待できる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。また、実施例においてリン化合物を便宜上亜リン酸ジエチルのように亜リン酸エステルとして記載したが、リン化合物はケト−エノール互変異性体のいずれでもよく、互変異性体の混合物であってもよい。
本明細書において、実施例1、2、4、5を参考例1、2、4、5と読み替えるものとする。
<実施例1>亜リン酸ジエチル変性液状ポリイソプレン1の合成
50mLの一口ナスフラスコ中に液状ポリイソプレン(商品名LIR−30、クラレ社製、数平均分子量:28000、0.32g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジエチル(HP(O)(OEt)
2、東京化成工業社製;0.13g)、酢酸マンガン(II)(大崎工業化学社製;0.06g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジエチル変性液状ポリイソプレン1(茶色。20℃条件下で液状のゴム。この温度条件は以下同様。)を定量的に得た。
【0045】
反応生成物の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OEt)
2)を形成していることを確認した。
【0046】
亜リン酸ジエチル変性液状ポリイソプレン1の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=33.0(br).
【0047】
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、亜リン酸ジエチル変性液状ポリイソプレン1について、ポリマー鎖に由来するプロトン(ポリマー鎖プロトン)と生成物由来のリンの相関を確認した。
このような相関は、リン原子が炭素原子と直接結合することを示すと考えられる(以下同様)。
【0048】
<実施例2>亜リン酸ジエチル変性液状ポリブタジエン2の合成
50mLの一口ナスフラスコ中に液状ポリブタジエン(商品名NISSO−PB B−2000、日本曹達社製、数平均分子量:2100、0.32g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジエチル(東京化成工業社製;0.16g)、酢酸マンガン(II)(大崎工業化学社製;0.07g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジエチル変性液状ポリブタジエン2(茶色。液状のゴム)を定量的に得た。
【0049】
反応生成物の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OEt)
2)を形成していることを確認した。
【0050】
亜リン酸ジエチル変性液状ポリブタジエン2の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=33.5(br).
【0051】
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、亜リン酸ジエチル変性液状ポリブタジエン2について、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
【0052】
<実施例3>亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3の合成
亜リン酸ジエチルを亜リン酸ジオレイル(HP(O)(O
C18H
35)
2、SC有機化学社製;0.55g)に代えた他は実施例1と同様に実験を行い、亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3(茶色。液状のゴム)を定量的に得た。
【0053】
反応生成物の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(O
C18H
35)
2)を形成していることを確認した。
【0054】
亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=34.1(br).
【0055】
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3について、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
【0056】
亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3の重量平均分子量:43,000(ただし、上記はテトラヒドロフラン(THF)に可溶した分のみのデータである。亜リン酸ジオレイル変性液状ポリイソプレン3の大半はTHFに不溶であった。)
【0057】
<実施例4>亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4の合成
50mLの一口ナスフラスコ中にポリイソプレン(商品名NIPOL IR2200、日本ゼオン社製、Tg:−67℃、0.32g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジエチル(東京化成工業社製;0.13g)、酢酸マンガン(II)(大崎工業化学製;0.06g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。
反応溶液の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OEt)
2)を形成していることを確認した。
また、
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4(茶色。固体のゴム)を定量的に得た。
【0058】
亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=33.8(br).
【0059】
亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4及び未変性のポリイソプレン(NIPOL IR2200)について、TGA測定(熱重量測定)によって50%重量減少温度を測定した。
本明細書において、TGA測定は、熱重量/示差熱同時測定装置を使用し、窒素ガス気流下、20℃/分の昇温条件で行われた。
亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4のTGA測定による50%重量減少温度は382℃であった。未変性のポリイソプレン(NIPOL IR2200)の50%重量減少温度は388℃であった。両者の50%重量減少温度にほとんど差がなかったことは、亜リン酸ジエチル変性ポリイソプレン4が、未変性のポリイソプレンと同等程度の高い熱安定性を有することを示すと考えられる。
【0060】
<実施例5>亜リン酸ジエチル変性スチレンブタジエンゴム5の合成
50mLの一口ナスフラスコ中にスチレンブタジエンゴム(商品名タフデン1000、旭化成ケミカルズ社製、数平均分子量:430,000、0.32g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジエチル(東京化成工業社製;0.11g)、ナフテン酸マンガン(II)(東京化成工業社製;0.04g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。
反応溶液の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OEt)
2)を形成していることを確認した。
また、
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジエチル変性スチレンブタジエンゴム5(茶色。固体のゴム)を定量的に得た。
【0061】
亜リン酸ジエチル変性スチレンブタジエンゴム5の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=34.8(br).
【0062】
<実施例6>亜リン酸ジラウリル変性天然ゴム6の合成
50mLの一口ナスフラスコ中に天然ゴム(NATURAL RUBBER TSR20、PT.NUSIRA社製、0.32g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジラウリル(HP(O)(OC
12H
25)
2、SC有機化学社製;0.13g)、酢酸マンガン(II)(大崎工業化学社製;0.03g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。
反応溶液の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OC
12H
25)
2)を形成していることを確認した。
また、
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジラウリル変性天然ゴム6(茶色。固体のゴム)を定量的に得た。
【0063】
亜リン酸ジラウリル変性天然ゴム6の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=34.4(br).
【0064】
<実施例7>亜リン酸ジラウリル変性ポリブタジエン7の合成
50mLの一口ナスフラスコ中にポリブタジエン(商品名UBEPOL BR−150、宇部興産社製、Tg:−107℃、0.96g)、トルエン(関東化学社製;4mL)を室温で加えた。その溶液に亜リン酸ジラウリル(SC有機化学社製;1.48g)、ナフテン酸マンガン(II)(東京化成工業社製;0.81g)を滴下し、70℃で3時間攪拌した。
反応溶液の
31P−NMRスペクトルから、原料ポリマーの炭素原子に、リン化合物が有するリン原子が直接結合し、リン酸エステル基(−P(=O)(OC
12H
25)
2)を形成していることを確認した。
また、
31P−
1H NMR(HMBC法)スペクトルでも、ポリマー鎖プロトンと生成物由来のリンの相関を確認した。
その後、反応溶液からトルエンを留去し、亜リン酸ジラウリル変性ポリブタジエン7(茶色。固体のゴム)を定量的に得た。
【0065】
亜リン酸ジラウリル変性ポリブタジエン7の
31P−NMR(CDCl
3,20℃),δ=33.7(br).
【0066】
亜リン酸ジラウリル変性ポリブタジエン7のTGA測定による50%重量減少温度は454℃であった。未変性のポリブタジエン(UBEPOL BR−150)の50%重量減少温度は452℃であった。両者の50%重量減少温度にほとんど差がなかったことは、亜リン酸ジラウリル変性ポリブタジエン7が、未変性のポリブタジエンと同等程度の高い熱安定性を有することを示すと考えられる。
【0067】
添付の図面を用いて、以下に、実施例で得られたリン酸変性ポリマーについて以下に説明する。
図1は、本願実施例のリン酸変性ポリマーを用いて測定された
31P−NMRスペクトルの結果を示すチャートである。
図1において2つのチャートが示されているが、下段のチャート20は、実施例1で得られた亜リン酸ジエチル変性液状ポリイソプレンゴム1の結果であり、上段のチャート10は、実施例6で得られた亜リン酸ジラウリル変性天然ゴム6の結果である。
【0068】
チャート20において、33.0ppm付近にピーク22が確認された。ピーク22は、C−P結合に由来する。
チャート10において、34.4ppm付近にピーク12が確認された。ピーク12は、C−P結合に由来する。
なお、ピーク24、14は原料の亜リン酸エステル自体、その加水分解物、又は二量体に由来すると考えられる。