特許第6241432号(P6241432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241432
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】難加工材の継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 25/00 20060101AFI20171127BHJP
   B21B 19/04 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B21B25/00 A
   B21B19/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-26573(P2015-26573)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-147301(P2016-147301A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】白▲崎▼ 公人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 城吾
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 誠二
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/066631(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/134957(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/052569(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 25/00,19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が軸方向後端に向かうに従って増大する円弧回転面であるワーク部と、このワーク部に連続して外径が軸方向後端の最大外径部に向かうに従って直線的に増大するテーパ円柱部とで構成される砲弾形状のプラグの先端部に外径が軸方向後端に向かうに従って増大するテーパ角度θ(°)、軸方向長さA2(mm)、先端面が半径r(mm)の半球面で形成されるテーパ円柱状の突起を有する全長A(mm)、最大外径D(mm)のプラグを用い、難加工性の素材からなる中実丸ビレットを傾斜ロール式の穿孔圧延機で穿孔圧延する継目無鋼管の製造方法であって、
前記プラグの全長A、最大外径D、前記突起のテーパ角度θ、軸方向長さA2、および先端面の曲率半径rが下記(1)ないし(3)式を満足することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。

0.110 ≦ r/D ≦ 0.182 (1)
0.023 ≦ A2/A ≦ 0.093 (2)
5° ≦ θ ≦ 20° (3)
【請求項2】
前記難加工性の素材が5質量%以上のCrを含有する高Cr鋼であることを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記難加工性の素材が0.5質量%以上のCrを含有し、前記中実丸ビレットが丸断面形状の鋳造まま素材であることを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造方法に関し、より詳しくは難加工性の素材からなる中実丸ビレットを傾斜ロール式の穿孔圧延機で穿孔圧延する継目無鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造方法には一般に押出法とマンネスマン穿孔法があり、近年、高合金鋼やステンレス鋼等の難加工性材料であってもマンネスマン穿孔法を用いて鋼管の圧延加工が行われるようになっている。
【0003】
マンネスマン穿孔法では、所定の温度に加熱された中実の丸ビレットを素材とし、相対するバレル状あるいはコーン状のロールで圧下を加えつつ、被圧延材横断面の中心軸線上に配した穿孔プラグによって軸心部に穴を明けて中空素管を得る。次いで、得られた中空素管をプラグミル、マンドレルミル等の延伸圧延機で延伸圧延した後、ストレッチレデューサ、リーラ、サイザ等の仕上圧延機で定径することで鋼管が製造される。
【0004】
前記中空素管を得る穿孔工程において、被圧延材である丸ビレットは、一般に、プラグに接触する前に回転しているロールと接触することで回転を開始し、同時に傾斜配置されたロールにより推進力を与えられるためプラグが配置されている圧延方向に圧下されつつ前進する。この時、圧下されている丸ビレットの軸心近傍にはロールからの圧縮力に対応して幅方向に広がろうとする引張力が生じ、この繰り返しによる回転鍛造効果によりいわゆるマンネスマン割れが発生することがある。このマンネスマン割れは、被圧延材の有する加工性と密接に関連があり、普通炭素鋼ビレットを穿孔する場合に比べ、高合金鋼やステンレス鋼などの難加工性材料が素材である場合に発生しやすく、その結果、製品にかぶれ疵やラップ疵と呼ばれる内面疵が残ることが多い。
【0005】
また、連続鋳造されたままの丸ビレットを素材として穿孔圧延により中空素管を製造した場合、鋼管製品の内面疵は、前記マンネスマン割れだけでなく穿孔圧延前の丸ビレット中心部に存在する引け巣(中心ポロシティ)を起因としても発生する。そこで、従来、ステンレス鋼等の連続鋳造において中心ポロシティが発生しやすい鋼材は、鋳造素材に予め高圧下率の加工を加えた前加工の後に、穿孔圧延に供することとしていた。
【0006】
しかしながら、製造コスト低減の観点からは、上述の前加工を省略することが望ましく、連続鋳造したままの丸ビレットを穿孔圧延に供しても内面疵を発生させない高合金鋼またはステンレス鋼の継目無鋼管の製造方法が求められ種々検討されている。
【0007】
そこで、特許文献1には、高Cr鋼またはステンレス鋼を連続鋳造したままの丸ビレットを穿孔圧延前に施す加熱処理の設定温度および均熱性の最適化を図ることにより、また、連続鋳造の凝固末期において有効な軽圧下を実施することにより、傾斜ロールで穿孔圧延する際に発生する内面疵を抑制できることが開示されている。
【0008】
一方、高合金鋼やステンレス鋼等の難加工性材料の穿孔圧延においては、上述の内面疵だけでなく、プラグの寿命も大きな課題である。長寿命プラグとして非特許文献1に提案されたプラグ形状を図4に示す。このプラグは、曲率半径r、軸方向長さL1の先端部と曲率半径Rの円弧回転面である軸方向長さL3のワーク部との間に、外径d、軸方向長さL2の円柱状の平行部を形成し、この平行部と前記の先端部とからなる先端圧延部を形成した構造である。この形状のプラグは、先端圧延部のワーク部近傍部分に被穿孔材が接触しない隙間が形成され、この隙間によりプラグの内部に蓄積された熱が放出される構造であるため、プラグの先端部が溶損しにくく、プラグ寿命が向上することになると記載されている。
【0009】
さらに、特許文献2には、上記のプラグ形状および先端圧延部の材質を改良して、噛み込み不良の発生を低減し、内面疵の少ない内面品質が良好な製品を高い生産性で製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−361304号公報
【特許文献2】特許第4155267号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Neumann、「Stahlrohrherstellung(鋼管の製造)」、Verlag fur Grundstoffindustrie、1970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記した従来技術は、各々に次のような問題を有している。
【0013】
特許文献1では、鋳造されたままのビレットの中心ポロシティを減少または圧着する技術が開示されているが、プラグに関しては、穿孔圧延において中心ポロシティを進展させるマンネスマン割れを低減するために、プラグ先端のドラフト率[{(素材径−プラグ先端におけるロール間隔)/素材径}×100%]を小さくすることが記載されているだけで、プラグの寿命は全く考慮されていない。
【0014】
特許文献2では、内部に欠陥のない丸ビレットを穿孔圧延する場合を前提としたもので、中空素管に発生する内面疵の原因をマンネスマン割れの発生と円周方向せん断歪の発生に限定した内面疵防止技術であり、丸ビレットが鋳造されたままの素材であって中心ポロシティ等の内部欠陥が存在する場合については考慮されていない。
【0015】
したがって、本発明の目的は、鋳造されたままで中心ポロシティ等の内部欠陥が存在する難加工性材料の丸ビレットを穿孔圧延した場合にもプラグ寿命を低下することなく、かつ、中空素管に発生する内面疵を低減する継目無鋼管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために、中心部にザクやポロシティ等の内部欠陥が存在する丸ビレットを穿孔圧延している際のプラグ先端部と前記内部欠陥との接触状況に着目し、プラグの先端形状を適正化することで製品の内面疵を低減するとともにプラグの寿命を向上できることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の要旨からなる。
[1]先端部に外径が軸方向後端に向かうに従って増大するテーパ角度θ(°)、軸方向長さA2(mm)、先端面が半径r(mm)の半球面で形成されるテーパ円柱状の突起を有する全長A(mm)、最大外径D(mm)のプラグを用い、難加工性の素材からなる中実丸ビレットを傾斜ロール式の穿孔圧延機で穿孔圧延する継目無鋼管の製造方法であって、
前記プラグの全長A、最大外径D、前記突起のテーパ角度θ、軸方向長さA2、および先端面の曲率半径rが下記(1)ないし(3)式を満足することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。

0.110 ≦ r/D ≦ 0.182 (1)
0.023 ≦ A2/A ≦ 0.093 (2)
5° ≦ θ ≦ 20° (3)
【0018】
[2]前記難加工性の素材が5質量%以上のCrを含有する高Cr鋼であることを特徴とする[1]に記載の継目無鋼管の製造方法。
[3]前記難加工性の素材が0.5質量%以上Crを含有し、前記中実丸ビレットが丸断面形状の鋳造まま素材であることを特徴とする[1]に記載の継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、鋳造されたままで中心ポロシティ、ザク巣等の内部欠陥が存在する難加工性材料の丸ビレットを穿孔圧延した場合にも、中空素管に発生する内面疵を低減でき、かつ、プラグの寿命を向上できるため、内面疵の少ない内面品質が良好な高合金鋼継目無鋼管を高い生産性および低コストで製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るプラグ形状を示す図である。
図2】一般的な砲弾形状のプラグで丸ビレットを穿孔圧延中のプラグ先端の状況を示す図である。
図3】プラグ前方に発生する開口部の形状を模式的に示す図である。
図4】非特許文献1に提案されたプラグ形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図2は、モデルミルを用いて13Cr鋼の穿孔圧延実験を行い、穿孔圧延を途中止めして得られた材料を縦割れして穿孔圧延におけるプラグ先端近傍の状況を調べた結果の一例である。使用したプラグは一般的な砲弾形状のプラグであり、図2(a)は鋳造まま素材で中心部にザク巣等の内部欠陥が存在する丸ビレットを穿孔圧延した場合であり、図2(b)は鋳造後高圧下率の加工を行って中心部の内部欠陥を圧着した丸ビレットを穿孔圧延した場合である。
【0023】
図2(a)と(b)の比較から明らかなように、丸ビレットの中心部にザク巣等の内部欠陥が存在する場合には、プラグ前方の丸ビレット中心部に発生するマンネスマン割れが助長されており、プラグ前方の丸ビレット中心部に大きな開口部が生じている。そのため、プラグの先端部近傍が丸ビレットに存在する内部欠陥部の凸凹状の表面と直接接触し、プラグと被圧延材である丸ビレットが部分的に点接触した状態となっている。穿孔圧延中では点接触部の面圧が局所的に高くなるため、その箇所のプラグ表層スケールが集中的に削り取られてプラグ先端部が局部的に損傷するとともに、穿孔圧延後の中空素管に発生する内面疵の原因となっていた。また、モデルミルによる実験を繰り返し、丸ビレットの中心部にザク巣等の内部欠陥が存在する場合に生じるプラグ前方のマンネスマン割れ等による開口部について詳細に調べた結果、前記開口部の形状は、図3に示すような一定の形状に近づいていることが明らかになった。すなわち、プラグの前方にマンネスマン割れが生じた場合、あるいは素材の持つ欠陥が開口する変形が生じた場合、前記開口部は前記プラグの形状に沿うように、あるいは、前記プラグの先端部を回り込むように変形することを見出した。
【0024】
そこで、図4に示すように、従来の砲弾形状のプラグの先端に、前記開口部に相当する外径が軸方向後端に向かうに従って増大するテーパ角度θ(°)、軸方向長さA2(mm)、先端面が半径r(mm)の半球面で形成されるテーパ円柱状の突起を設けたプラグを作製し、鋳造まま素材で中心部にザク巣等の内部欠陥が存在する丸ビレットの穿孔圧延実験を行った。
【0025】
その結果、前記突起が、前記内部欠陥の表面とプラグ本体が接触する前に前記内部欠陥の開口部に進入し、前記内部欠陥の凸凹状の表面を圧延して滑らかにすることで、従来の砲弾形状のプラグで穿孔圧延した場合に多く発生していた中空素材の内面疵が著しく減少していることが判明した。さらに、図4に示した形状のプラグでは、先端曲率の小さい突起の存在によりビレットの噛み込み限界が大きくなり、プラグ先端ドラフト率を低減させた状態で穿孔圧延できるため、マンネスマン割れの発生が抑制された。
【0026】
しかしながら、上述の効果を得るためには、全長A(mm)、最大外径D(mm)、テーパ角度θ(°)、軸方向長さA2(mm)、および先端面の曲率半径r(mm)が下記(1)ないし(3)式を満足する必要があった。
【0027】

0.110 ≦ r/D ≦ 0.182 (1)
0.023 ≦ A2/A ≦ 0.093 (2)
5° ≦ θ ≦ 20° (3)
/Dが、0.110未満ではプラグ先端に設けた突起が溶損あるいは溶損状の変形をしてプラグ寿命が低下し、0.182超えでは突起が内部欠陥の開口部に進入して前記内部欠陥の凸凹状の表面を圧延することによって該表面を滑らかにする効果が得られない。また、A2/Aが、0.023未満ではプラグ先端に設けた突起がプラグ前方のマンネスマン割れ等による開口部の凸凹状の表面を圧延する効果が得られず、0.093超えでは突起に加わる負荷が大きくなりプラグ寿命が低下する。さらに、突起のテーパ角度θが、5°未満では突起がプラグ前方のマンネスマン割れ等による開口部の凸凹状の表面を均一に圧延する効果が得られず、20°超えでは突起としての効果が得られずマンネスマン割れを助長する。
【0028】
さらに、本発明に係るプラグの先端部に設けられた突起の先端面を形成する半径r(mm)の半球部とテーパ角度θ(°)のテーパ円柱部との接続部の表面は、滑らかな連続面ではなく一定の角度を有する不連続面となっている。これにより、突起がプラグ前方の開口部の凸凹状の表面を圧延する際に最も負荷が集中する前記接続部と圧延される前記開口部の凸凹状の表面との間に隙間が生じ、空間の断熱作用による温度上昇の抑制効果などの負荷分散効果が得られ、プラグ寿命が向上する。
【0029】
また、本発明により得られる効果を顕著にするため、本発明に係る難加工性の素材は、熱間加工性が低下する5質量%以上のCrを含有する高Cr鋼であることが好ましい。
【0030】
同様に、本発明に係る難加工性の素材は、鋳造時の粘性が高く鋳造欠陥が発生しやすい0.5質量%以上のCrを含有する鋳造まま素材であることが好ましい。
【実施例】
【0031】
表1に示す丸ビレット(径:58mm、長さ:250mm)を1250℃に加熱し、表1に示す種々の形状のプラグを用いてモデルミルによる穿孔圧延実験を行い、圧延後の中空素材の内面疵発生率とプラグ寿命を評価した。なお、プラグの材質は、従来の砲弾形状のプラグと同じ0.5Cr−1.5Mo−3.0W系の低合金鋼である。また、ロール入側面角は2.5°または4°とし、傾斜角は8°または11°とした。
【0032】
その結果、表1に示すように、本発明例は内面疵発生率が低く、プラグ寿命も5本以上となり、難加工性の丸ビレットを用いた穿孔圧延であっても、加工性を改善するために前加工された丸ビレットを用いた参考例と同等の穿孔圧延結果が得られた。
【0033】
【表1】
【符号の説明】
【0034】
A 本発明に係るプラグの全長
D プラグの最大外径
A2 本発明に係るプラグの突起の軸方向長さ
本発明に係るプラグの突起先端面の曲率半径
θ 本発明に係るプラグの突起のテーパ角度
図1
図2
図3
図4