【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のオイル分離構造では、吐出室101と分離室102とを連通させ、吐出室101に吐出された冷媒を分離室102へ導入する導入通路103,104をリヤハウジング105に形成しなければならず、リヤハウジング15の設計自由度に制約が生じている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、設計自由度に制約が生じてしまうことを抑制しつつも、冷媒からのオイルの分離能力を向上させることができる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する圧縮機は、ハウジングに形成される吐出室と、前記ハウジングとは別部材であるとともに前記吐出室から吐出された冷媒からオイルを分離するオイル分離部材と、前記ハウジングに形成され、前記オイル分離部材によりオイルが分離された冷媒を外部冷媒回路に吐出する吐出通路と、前記ハウジングに形成され、前記オイル分離部材により分離されたオイルを貯油室に導入するオイル通路と、を備え、前記オイル分離部材は、前記吐出室と前記吐出通路とを区画する区画部材を有し、前記区画部材には、円環状に形成される円環部が前記吐出通路に向けて延設され、前記円環部には、前記吐出室と前記吐出通路とを連通する導入孔が形成されており、前記導入孔は、前記円環部の接線方向に沿って延在している。
【0009】
これによれば、導入孔が円環部の接線方向に沿って延在しているため、導入孔を介して吐出通路に導入された冷媒は、円環部の内側で旋回し易い。そして、オイル分離部材は、ハウジングとは別部材であり、吐出室と吐出通路とを連通する導入孔が形成された円環部を有しているため、従来技術のような導入通路をハウジングに形成する必要が無い。よって、圧縮機の設計自由度に制約が生じてしまうことを抑制しつつも、冷媒からのオイルの分離能力を向上させることができる。
【0010】
上記圧縮機において、前記オイル分離部材は、前記区画部材の前記吐出通路側に設けられる円柱状の旋回軸を備えていることが好ましい。これによれば、導入孔を介して吐出通路に導入された冷媒は、旋回軸の周りで旋回し易い。よって、冷媒からのオイルの分離能力をさらに向上させることができる。
【0011】
上記圧縮機において、前記吐出通路には、絞りを有する絞り部材が設けられており、前記絞り部材は、前記絞りの絞り量を可変させるために開閉動作するリード弁を有することが好ましい。これによれば、オイル分離部材によって旋回された冷媒の流れを、冷媒が絞りを通過する際にリード弁によって整流させることができ、吐出通路における冷媒の流れをスムーズにすることができる。
【0012】
上記圧縮機において、前記区画部材は、前記旋回軸を支持する支持部を有し、前記円環部は、前記支持部の外縁から突出しており、前記旋回軸における前記支持部が設けられる側とは反対側の端面は、前記円環部における前記支持部が設けられる側とは反対側の端面と同一面上、又は、前記旋回軸の軸方向において、前記円環部における前記支持部が設けられる側とは反対側の端面よりも前記支持部側に位置していることが好ましい。
【0013】
これによれば、旋回軸における支持部が設けられる側とは反対側の端面が、円環部における支持部が設けられる側とは反対側の端面よりも突出している場合に比べると、オイル分離部材における旋回軸の軸方向の体格をコンパクトにすることができる。
【0014】
上記圧縮機において、前記吐出通路は、前記オイル分離部材によりオイルが分離された冷媒が排出される冷媒排出空間を含み、前記オイル通路は、前記ハウジングにおける前記冷媒排出空間よりも前記円環部の径方向の外側に形成され、前記オイル分離部材により冷媒から分離されたオイルが貯油される貯油空間を含み、前記貯油空間の前記円環部の延設方向に沿った幅が、前記冷媒排出空間の前記円環部の延設方向に沿った幅よりも狭くなっていることが好ましい。
【0015】
これによれば、冷媒排出空間に排出された冷媒が、貯油空間に向けて流れ込み難くなる。よって、貯油空間に貯油されたオイルが、冷媒排出空間に排出された冷媒によって巻き上げられて、オイルと冷媒とが再び混ざり合ってしまうことを抑制することができる。
【0016】
上記圧縮機において、前記円環部には、前記導入孔が複数形成されていることが好ましい。
これによれば、複数の導入孔の流路断面積の合計を大きく設定することで、各導入孔の流路断面積を小さく設定することができる。よって、例えば、円環部に導入孔が一つだけ形成されており、流路断面積を確保するために導入孔の流路断面積を大きく設定した場合に、冷媒の流線の乱れや、導入孔における吐出通路側の大きな開口が、冷媒の旋回の妨げになってしまうといった問題を回避することができる。
【0017】
上記圧縮機において、前記導入孔は、前記円環部の延設方向に対して直交する方向に延在していることが好ましい。
これによれば、導入孔が、円環部の延設方向に対して斜交する方向に延在している場合に比べると、冷媒の旋回回数を増やすことができるため、冷媒からのオイルの分離能力をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、設計自由度に制約が生じてしまうことを抑制しつつも、冷媒からのオイルの分離能力を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、圧縮機を可変容量型の斜板式圧縮機に具体化した一実施形態を
図1〜
図3にしたがって説明する。なお、斜板式圧縮機は車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、斜板式圧縮機10のハウジング11は、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の前端に連結されるフロントハウジング13と、シリンダブロック12の後端に弁・ポート形成体14を介して連結されるリヤハウジング15とから構成されている。ハウジング11内において、フロントハウジング13とシリンダブロック12とで囲まれた空間にはクランク室16が区画形成されている。シリンダブロック12及びフロントハウジング13には、回転軸17がラジアルベアリング18を介して回転可能に支持されるとともに、回転軸17はクランク室16を貫通するように支持されている。
【0021】
回転軸17には、車両の走行駆動源であるエンジンEが、クラッチレスタイプ(常時伝達型)の動力伝達機構PTを介して作動連結されている。従って、エンジンEの稼動時においては、エンジンEから動力の供給を受けて回転軸17が常時回転される。
【0022】
クランク室16において、回転軸17には回転支持体19が一体回転可能に止着されている。回転支持体19はスラストベアリング20を介してフロントハウジング13に支持されている。また、回転軸17には、斜板21が、回転軸17に対してその回転軸線Lが延びる方向(回転軸17の軸方向)へスライド移動可能で且つ傾動可能に支持されている。回転支持体19と斜板21との間には、ヒンジ機構22が介在されている。そして、斜板21は、回転支持体19との間でのヒンジ機構22の介在により、回転軸17の回転軸線Lに対して傾動可能で且つ回転軸17と一体的に回転可能となっている。
【0023】
シリンダブロック12には複数のシリンダボア12aが回転軸17の周囲に配列されるとともに、各シリンダボア12aには片頭型のピストン23が往復動可能に収容されている。ピストン23は、一対のシュー24を介して斜板21の外周部に係留されるとともに、ピストン23は、斜板21の回転運動によりシリンダボア12a内で往復運動される。そして、シリンダボア12a内には、ピストン23の往復運動に応じて容積変化する圧縮室25が形成されている。
【0024】
ハウジング11内において、弁・ポート形成体14とリヤハウジング15との間には、環状の吸入室26が区画形成されるとともに、この吸入室26の内側に吐出室27が区画形成されている。そして、弁・ポート形成体14には、圧縮室25と吸入室26との間に位置するように、吸入ポート28及び吸入弁29がそれぞれ形成されているとともに、圧縮室25と吐出室27との間に位置するように、吐出ポート30及び吐出弁31がそれぞれ形成されている。
【0025】
リヤハウジング15には、吸入室26に連通する吸入通路32が形成されている。また、吐出室27は、リヤハウジング15に形成される収容室40を含む。収容室40には、冷媒(本実施形態では二酸化炭素)に含まれるオイルを分離する円板状のオイル分離部材50が収容されている。さらに、リヤハウジング15には、オイル分離部材50によりオイルが分離された冷媒を外部冷媒回路35に吐出する吐出通路33が形成されている。吐出通路33は、リヤハウジング15に形成されるとともにオイル分離部材50によりオイルが分離された冷媒が排出される冷媒排出空間45を含む。また、リヤハウジング15には、オイル分離部材50により冷媒から分離されたオイルをクランク室16に導入するオイル通路48が形成されている。オイル通路48は、リヤハウジング15に形成されるとともにオイル分離部材50により冷媒から分離されたオイルが貯油される貯油空間46を含む。
【0026】
吸入通路32と吐出通路33とは外部冷媒回路35により接続されている。外部冷媒回路35は、吐出通路33に接続された凝縮器35a、凝縮器35aに接続された膨張弁35b、及び膨張弁35bに接続された蒸発器35cを備えるとともに、蒸発器35cには吸入通路32が接続されている。そして、斜板式圧縮機10は、冷凍回路に組み込まれている。
【0027】
外部冷媒回路35における蒸発器35cの出口側から吸入室26に導入された冷媒は、各ピストン23の上死点位置から下死点位置側への移動により、吸入ポート28及び吸入弁29を介して圧縮室25に吸入される。圧縮室25に吸入された冷媒は、ピストン23の下死点位置から上死点位置側への移動により所定の圧力にまで圧縮され、吐出ポート30及び吐出弁31を介して吐出室27に吐出される。
【0028】
シリンダブロック12及びリヤハウジング15には、吸入室26とクランク室16を接続する抽気通路36が形成されている。また、シリンダブロック12及びリヤハウジング15には、吐出室27とクランク室16を接続する給気通路37が形成されるとともに、この給気通路37には容量制御弁38が配設されている。容量制御弁38は電磁弁よりなり、ソレノイド(図示せず)の励磁・消磁によって給気通路37を開閉する。
【0029】
そして、容量制御弁38が給気通路37を開閉することで、吐出室27からクランク室16への高圧な冷媒の供給量が変更され、抽気通路36を介したクランク室16から吸入室26への冷媒の排出量との関係から、クランク室16の圧力が変更される。その結果、クランク室16とシリンダボア12aとのピストン23を介した圧力差が変更され、斜板21の傾角が変更されて吐出容量が調節される。
【0030】
具体的には、容量制御弁38のソレノイドの励磁・消磁は図示しない制御コンピュータによって制御されるとともに、この制御コンピュータにはエアコンスイッチが信号接続されている。制御コンピュータは、エアコンスイッチがOFFされると、容量制御弁38のソレノイドを消磁する。すると、容量制御弁38によって給気通路37が開かれ、吐出室27とクランク室16とが連通される。したがって、吐出室27の高圧な冷媒が給気通路37を介してクランク室16へ供給される。さらに、クランク室16の圧力が抽気通路36を介して吸入室26に抜ける。その結果、クランク室16の圧力とシリンダボア12aの圧力とのピストン23を介した差が変更され、斜板21の傾角が最小となって吐出容量が最小となる。
【0031】
一方、エアコンスイッチがONされ、ソレノイドが励磁されると容量制御弁38によって給気通路37の開度が小さくなり、クランク室16の圧力が抽気通路36を介した吸入室26への放圧に基づいて低下していく。この減圧により、斜板21が最小傾角から離脱されて傾角が大きくなり、斜板式圧縮機10では、最小吐出容量を越えた吐出容量で圧縮が行われる。
【0032】
図2に示すように、収容室40は、幅広部40aと、幅広部40aにおける吐出通路33側に連続するとともに幅広部40aよりも幅狭の幅狭部40bとから構成されている。幅狭部40bの底面40eには、第1凹部41が形成されている。第1凹部41の底面41eには第2凹部42が形成されている。そして、第1凹部41及び第2凹部42によって冷媒排出空間45が区画されている。幅狭部40bの底面40eであって、且つ第1凹部41における幅狭部40b寄りの内周面には、環状溝部43が形成されている。
【0033】
オイル分離部材50は平面視真円状であるとともに、リヤハウジング15とは別部材である。オイル分離部材50は、吐出室27(収容室40)と吐出通路33とを区画する区画部材51を有する。区画部材51には、円環状に形成される円環部53が吐出通路33に向けて延設されている。そして、円環部53の内側は分離空間54となっている。分離空間54は吐出通路33の一部を形成している。円環部53の延設方向は、回転軸17の軸方向に一致している。
【0034】
円環部53における区画部材51とは反対寄りの外周縁部には、外側に突出する円環板状のフランジ部56が形成されている。そして、オイル分離部材50は、フランジ部56における区画部材51とは反対側の端面56aが、幅狭部40bの底面40eに当接した状態で、収容室40に収容され、幅狭部40bに圧入されている。
【0035】
フランジ部56における区画部材51とは反対側の端面56aの一部、及び円環部53における区画部材51とは反対側の端面53eの一部は環状溝部43の底面と対向配置されている。そして、フランジ部56の端面56aの一部、及び円環部53の端面53eの一部と、環状溝部43とによって、貯油空間46が区画形成されている。貯油空間46は、冷媒排出空間45に連続するとともに、リヤハウジング15における冷媒排出空間45よりも円環部53の径方向の外側に位置している。貯油空間46の円環部53の延設方向に沿った幅H1は、冷媒排出空間45の円環部53の延設方向に沿った幅H2よりも狭くなっている。また、貯油空間46は、通路48aを介して容量制御弁38に接続されている。
【0036】
収容室40における円環部53の外側には円環状の間隙47が形成されている。さらに、円環部53には、間隙47(吐出室27)と分離空間54(吐出通路33)とを連通させる導入孔57が複数(本実施形態では四つ)形成されている。
【0037】
各導入孔57は、フランジ部56における径方向の外側から円環部53の外周面に向けて、円環部53の延設方向に対して直交する方向へドリルを挿入することにより円環部53に穿孔される。このとき、ドリルの一部がフランジ部56における区画部材51側の端面56bに接触する。これにより、フランジ部56の端面56bの一部が抉られ、フランジ部56の端面56bに、導入孔57における間隙47側の開口に連続する案内溝58が形成されている。
【0038】
また、円環部53を貫通したドリルの一部は、区画部材51における分離空間54の端面51aの一部に接触する。これにより、区画部材51の端面51aの一部が抉られ、区画部材51の端面51aに、導入孔57における分離空間54側の開口に連続する溝59が形成されている。各導入孔57は、円環部53の延設方向に対して直交する方向に延在している。よって、各導入孔57における分離空間54側の開口は、円環部53の延設方向に対して直交する方向に向けて開口している。
【0039】
図3に示すように、各導入孔57は、円環部53を直線状に貫通するように形成されており、円環部53の接線方向に沿って延在している。よって、各導入孔57における分離空間54側の開口は、円環部53の内周面に対して接線方向に向けて開口している。各導入孔57は、円環部53の周方向において隣り合う導入孔57同士が互いに略直交する方向に向けて開口するように所定の間隔を置いて離間して形成されている。
【0040】
図2に示すように、吐出通路33には、絞り60aを有する絞り部材60が設けられている。絞り部材60は、第1凹部41に圧入されている。絞り部材60は、絞り60aの絞り量を可変させるために開閉動作する一対のリード弁60vを有する。そして、本実施形態では、容量制御弁38は、絞り60aの上流側の圧力と下流側の圧力との差に応じて変位動作される。この差圧には、外部冷媒回路35における冷媒流量が反映されている。
【0041】
次に、本実施形態の作用について説明する。
吐出室27に吐出された冷媒は、区画部材51及び円環部53により間隙47に案内され、各導入孔57を介して分離空間54に導入される。分離空間54に流入した冷媒は、分離空間54に沿って旋回されることで、冷媒に含まれるオイルが遠心分離されて円環部53の内周面に付着する。円環部53の内周面に付着したオイルは、円環部53を伝って貯油空間46に排出される。また、オイルが分離された冷媒は、分離空間54から冷媒排出空間45に排出される。
【0042】
各導入孔57は、円環部53の接線方向に沿って延在しているため、各導入孔57を介して分離空間54に導入された冷媒は、円環部53の内側で旋回し易くなっている。また、各導入孔57は、円環部53の延設方向に対して直交する方向に延在している。このため、各導入孔57が、円環部53の延設方向に対して斜交する方向に延在している場合に比べると、各導入孔57から分離空間54に導入された冷媒の旋回回数が増え、冷媒からのオイルの分離能力が向上する。
【0043】
貯油空間46に貯油されたオイルは、通路48a、容量制御弁38及び給気通路37を介してクランク室16へ供給され、各摺動部分を潤滑する。よって、貯油空間46、通路48a及び給気通路37はオイル通路48を形成しており、クランク室16は、オイル分離部材50により分離されたオイルが導入される貯油室に相当する。一方、オイル分離部材50によりオイルが分離された冷媒は、吐出通路33を介して外部冷媒回路35へ供給される。
【0044】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)オイル分離部材50は、吐出室27と吐出通路33とを区画する区画部材51を有する。区画部材51には、円環状に形成される円環部53が吐出通路33に向けて延設されている。円環部53には、吐出室27と吐出通路33とを連通する導入孔57が形成されており、導入孔57は、円環部53の接線方向に沿って延在している。これによれば、導入孔57が円環部53の接線方向に沿って延在しているため、導入孔57を介して吐出通路33に導入された冷媒は、円環部53の内側で旋回し易い。そして、オイル分離部材50は、リヤハウジング15とは別部材であり、吐出室27と吐出通路33とを連通する導入孔57が形成された円環部53を有しているため、従来技術のような導入通路をハウジングに形成する必要が無い。よって、斜板式圧縮機10の設計自由度に制約が生じてしまうことを抑制しつつも、冷媒からのオイルの分離能力を向上させることができる。
【0045】
(2)吐出通路33には、絞り60aを有する絞り部材60が設けられている。絞り部材60は、絞り60aの絞り量を可変させるために開閉動作するリード弁60vを有する。これによれば、オイル分離部材50によって旋回された冷媒の流れを、冷媒が絞り60aを通過する際にリード弁60vによって整流させることができ、吐出通路33における冷媒の流れをスムーズにすることができる。
【0046】
(3)貯油空間46の円環部53の延設方向に沿った幅H1が、冷媒排出空間45の円環部53の延設方向に沿った幅H2よりも狭くなっている。これによれば、冷媒排出空間45に排出された冷媒が、貯油空間46に向けて流れ込み難くなる。よって、貯油空間46に貯油されたオイルが、冷媒排出空間45に排出された冷媒によって巻き上げられて、オイルと冷媒とが再び混ざり合ってしまうことを抑制することができる。
【0047】
(4)円環部53には、導入孔57が複数形成されている。これによれば、複数の導入孔57の流路断面積の合計を大きく設定することで、各導入孔57の流路断面積を小さく設定することができる。よって、例えば、円環部53に導入孔57が一つだけ形成されており、流路断面積を確保するために導入孔57の流路断面積を大きく設定した場合に、分離空間54へ導入される冷媒の流線の乱れや、導入孔57における分離空間54側の大きな開口が、冷媒の旋回の妨げになってしまうといった問題を回避することができる。
【0048】
(5)導入孔57は、円環部53の延設方向に対して直交する方向に延在している。これによれば、導入孔57が、円環部53の延設方向に対して斜交する方向に延在している場合に比べると、導入孔57から分離空間54に導入された冷媒の旋回回数を増やすことができるため、冷媒からのオイルの分離能力をさらに向上させることができる。
【0049】
(6)フランジ部56における区画部材51側の端面56bには、導入孔57における間隙47側の開口に連続する案内溝58が形成されている。これによれば、間隙47に流れ込んだ冷媒は、案内溝58に案内されながら導入孔57に向けて流れ易くなるため、冷媒の流れをスムーズにすることができる。
【0050】
(7)例えば、導入孔57の大きさを変えずに、ドリルの一部が、フランジ部56の端面56b及び区画部材51の端面51aに接触しないように、円環部53に導入孔57を穿孔する場合、円環部53の延設方向の長さを長く設定しなければならない。そこで、本実施形態では、導入孔57は、ドリルの一部がフランジ部56の端面56bに接触するとともに、円環部53を貫通したドリルの一部が、区画部材51の端面51aの一部に接触するように穿孔される。これによれば、円環部53の延設方向の長さを極力短くしつつも、所望の大きさの導入孔57を円環部53に形成することができる。
【0051】
(8)斜板式圧縮機10は、リヤハウジング15に吸入室26及び吐出室27が形成されているため、リヤハウジング15に、従来技術のような導入通路を形成するだけのスペースを確保することが困難な場合が多い。本実施形態では、収容室40にオイル分離部材50を収容するだけで、冷媒からのオイルの分離能力を向上させることができるため、リヤハウジング15に従来技術のような導入通路を穿設することが困難な斜板式圧縮機10に、本実施形態のオイル分離部材50を用いることは有効である。
【0052】
(9)従来から知られているオイル分離構造として、旋回軸に、その軸方向に貫通する内部通路が形成されており、その内部通路が吐出通路を介して外部冷媒回路に繋がっている構成のものがある。このようなオイル分離構造においては、オイルを含んだ冷媒が旋回軸の周りを旋回して、冷媒からオイルが分離されると、オイルが分離された冷媒は、旋回軸の内部通路を通過した後、外部冷媒回路に吐出される。この場合、オイルが分離された冷媒は、旋回軸の周りを旋回した後、内部通路に向かって冷媒の流れが折り返されるように流れることになるため、冷媒がスムーズに流れ難い。しかし、本実施形態では、円環部53の内側で旋回した冷媒は、冷媒の流れが折り返されることなく、吐出通路33に流れていくため、冷媒がスムーズに流れ易く、斜板式圧縮機10の運転効率が良い。
【0053】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○
図4及び
図5に示すように、オイル分離部材50は、区画部材51の吐出通路33側に設けられる円柱状の旋回軸52を備えていてもよい。区画部材51は、旋回軸52を支持する支持部55を有している。円環部53は、支持部55の外縁から突出している。円環部53は旋回軸52を外側から覆っている。旋回軸52は、区画部材51の端面51aに対して直交する方向に直線状に延びている。旋回軸52は、円環部53の延設方向に平行に延びている。旋回軸52の軸方向は、回転軸17の軸方向に一致している。フランジ部56の端面56aと、円環部53における支持部55が設けられる側とは反対側の端面53eと、旋回軸52における支持部55が設けられる側とは反対側の端面52eとは同一面上に位置している。
【0054】
導入孔57を介して吐出通路33に導入された冷媒は、旋回軸52の周りで旋回し易い。よって、冷媒からのオイルの分離能力がさらに向上する。また、旋回軸52の端面52eは、円環部53の端面53eと同一面上に位置している。これによれば、旋回軸52の端面52eが、円環部53の端面53eよりも突出している場合に比べると、オイル分離部材50における旋回軸52の軸方向の体格をコンパクトにすることができる。また、旋回軸52の端面52eが、円環部53の端面53eよりも突出して冷媒排出空間45に入り込むことで冷媒排出空間45の領域が狭くなり、冷媒排出空間45の冷媒が貯油空間46に流れ込み易くなる結果、貯油空間46のオイルが冷媒によって巻き上げられてしまうといった問題を回避することができる。
【0055】
○ 実施形態において、導入孔57が、円環部53の延設方向に対して斜交する方向に延在していてもよい。
○ 実施形態において、オイル分離部材50のフランジ部56を削除してもよい。この場合、円環部53の端面53eの一部と、環状溝部43とによって、貯油空間46を区画形成してもよい。
【0056】
○ 実施形態において、オイル分離部材50の一部を、貯油空間46を区画する部材として利用せずに、リヤハウジング15に、貯油空間46を形成する溝を別途形成してもよい。
【0057】
○ 実施形態において、貯油空間46の円環部53の延設方向に沿った幅H1が、冷媒排出空間45の円環部53の延設方向に沿った幅H2よりも広くてもよい。
○ 実施形態において、貯油空間46の円環部53の延設方向に沿った幅H1と冷媒排出空間45の円環部53の延設方向に沿った幅H2とが同じであってもよい。
【0058】
○
図4及び
図5に示す実施形態において、旋回軸52における支持部55が設けられる側とは反対側の端面52eが、旋回軸52の軸方向において、円環部53における支持部55が設けられる側とは反対側の端面53eよりも支持部55側に位置していてもよい。
【0059】
○
図4及び
図5に示す実施形態において、旋回軸52における支持部55が設けられる側とは反対側の端面52eが、旋回軸52の軸方向において、円環部53における支持部55が設けられる側とは反対側の端面53eよりも突出していてもよい。
【0060】
○ 実施形態において、導入孔57の数は特に限定されるものではない。
○ 実施形態において、貯油空間46は、リヤハウジング15に形成される通路を介して吸入室26に接続されていてもよい。この場合、貯油空間46に貯油されたオイルは、通路を介して吸入室26へ供給されるとともに、外部冷媒回路35における蒸発器35cの出口側から吸入室26に導入された冷媒と混合され、斜板式圧縮機10の各摺動部分を潤滑する。
【0061】
○ 実施形態において、吐出通路33に、絞り部材60が設けられていなくてもよい。
○ 実施形態において、円環部53の延設方向が、回転軸17の軸方向に対して交差する方向となるようにオイル分離部材50を配置してもよい。
【0062】
○ 実施形態において、オイル分離部材50が平面視楕円状であってもよい。
○ 実施形態において、例えば、外部冷媒回路35に絞りを設けるとともに、この絞りの上流側の圧力と下流側の圧力との差に応じて容量制御弁38が変位動作されるようにしてもよい。
【0063】
○ 実施形態において、容量制御弁38は、吸入圧力を感知することにより変位動作される構成であってもよい。
○ 実施形態において、斜板式圧縮機10を可変容量型に具体化したが、固定容量型としてもよい。
【0064】
○ 実施形態において、斜板式圧縮機10を片頭ピストンタイプとしたが、両頭ピストンタイプとしてもよい。
○ 実施形態において、斜板式圧縮機10は、車両空調装置に用いられなくてもよく、その他の空調装置に用いられてもよい。
【0065】
○ 実施形態において、圧縮機は、斜板式圧縮機10に限らず、例えば、スクロール型、ベーン型、又はルーツ式の圧縮機であってもよい。
○ 実施形態において、冷媒として二酸化炭素を用いたが、冷媒として、例えば、フロンを用いてもよい。