特許第6241441号(P6241441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000002
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000003
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000004
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000005
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000006
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000007
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000008
  • 特許6241441-電動圧縮機 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241441
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 28/28 20060101AFI20171127BHJP
   F04B 49/02 20060101ALI20171127BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20171127BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F04C28/28 B
   F04B49/02 331B
   F04B49/10 331F
   F04C18/02 311X
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-64776(P2015-64776)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183622(P2016-183622A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河村 真一
(72)【発明者】
【氏名】市原 章光
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−145590(JP,A)
【文献】 特開2005−171843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 28/28
F04B 49/02
F04B 49/10
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを有する電動モータと、
低圧流体が吸入される吸入口が形成されたハウジングと、
前記低圧流体を圧縮し、その圧縮された高圧流体を吐出する圧縮部と、
前記電動モータを駆動させる駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御部と、
を備えた電動圧縮機において、
前記圧縮部は、
前記ハウジングに固定された固定スクロールと、
前記固定スクロールと噛み合うものであって前記固定スクロールに対して公転運動が可能な可動スクロールと、
前記固定スクロールと前記可動スクロールとによって区画された圧縮室と、
を有し、前記ロータが予め定められた正方向に回転する場合に前記可動スクロールが正方向に公転運動することにより、前記圧縮室に吸入される前記低圧流体を圧縮するものであり、
前記電動モータは三相モータであり、
前記電動圧縮機は、
前記低圧流体よりも高圧であって前記高圧流体よりも低圧の中間圧流体を前記圧縮室に導入するインジェクションポートと、
前記ロータのd軸の位置を把握する位置把握部と、
前記電動モータの各相の電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部の検出結果に基づいて、前記正方向とは逆方向に回転中の前記ロータの回転数を把握する回転数把握部と、
を備え、
前記制御部は、前記電動モータを起動させる場合において前記ロータが前記逆方向に回転している場合、前記位置把握部によって把握された前記ロータのd軸に電流が流れ、且つ、前記電動モータに流れる電流の周波数が、前記回転数把握部によって把握された前記ロータの回転数に対応した周波数となるように前記駆動回路を制御する減速前制御を行い、当該減速前制御を行った後に、前記位置把握部によって把握された前記ロータのd軸に電流が流れるように前記駆動回路を制御し、且つ、時間経過とともに前記電動モータに流れる電流の周波数が下がるように前記駆動回路を制御する減速制御を行うことを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記駆動回路は、複数のスイッチング素子を有するインバータであり、
前記制御部は、前記複数のスイッチング素子のON/OFF制御を行うものである請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記位置把握部は、前記電流検出部の検出結果に基づいて、3つの相電流のうち最大となる相電流が切り替わるポイントを把握し、その把握結果から前記ロータの回転位置として前記ロータのd軸の位置を把握する請求項1又は請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記電動圧縮機は、車両に搭載されるものであって、車両用空調装置に用いられるものである請求項1〜のうちいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固定スクロール及び固定スクロールに対して公転運動が可能な可動スクロールを有する圧縮部と、ロータを有するものであって可動スクロールを公転運動させる電動モータとを備えた電動圧縮機が知られている(例えば特許文献1参照)。また、例えば特許文献1には、電動圧縮機は、固定スクロールと可動スクロールとによって区画されたものであって低圧流体が吸入される圧縮室を有しており、可動スクロールが公転運動することにより圧縮室の低圧流体を圧縮し、その圧縮された高圧流体を吐出することが記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、圧縮室に対して、低圧流体よりも高圧の中間圧流体を導入するインジェクションポートが設けられた電動圧縮機と、当該電動圧縮機を有する空調装置とについて記載されている。空調装置は、例えばインジェクションポートに接続されたインジェクション配管と、インジェクション配管に接続された気液分離器とを備えている。気液分離器によって分離された中間圧流体が、インジェクション配管及びインジェクションポートを介して圧縮室に流入することにより、圧縮室に流入する流体流量が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−120555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような中間圧流体が圧縮室に導入される構成においては、電動圧縮機の運転停止時において、インジェクション配管に残存する中間圧流体が、インジェクションポートを介して、圧縮室に流入する場合がある。この場合、可動スクロールが正方向とは逆方向に公転運動し、ロータも逆回転する逆回転現象が発生し得る。
【0006】
ここで、例えば電動圧縮機を起動させる時に、上記逆回転現象が発生している場合、ロータの逆回転が停止するまで待機することが考えられる。しかしながら、ロータの逆回転が停止するまで待機する構成では、電動圧縮機の起動に要する期間が長くなり易いため、応答性の低下が懸念される。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的はロータが逆回転している場合であっても早期に起動させることができる電動圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する電動圧縮機は、ロータを有する電動モータと、低圧流体が吸入される吸入口が形成されたハウジングと、前記低圧流体を圧縮し、その圧縮された高圧流体を吐出する圧縮部と、前記電動モータを駆動させる駆動回路と、前記駆動回路を制御する制御部と、を備え、前記圧縮部は、前記ハウジングに固定された固定スクロールと、前記固定スクロールと噛み合うものであって前記固定スクロールに対して公転運動が可能な可動スクロールと、前記固定スクロールと前記可動スクロールとによって区画された圧縮室と、を有し、前記ロータが予め定められた正方向に回転する場合に前記可動スクロールが正方向に公転運動することにより、前記圧縮室に吸入される前記低圧流体を圧縮するものであり、前記電動圧縮機は、前記低圧流体よりも高圧であって前記高圧流体よりも低圧の中間圧流体を前記圧縮室に導入するインジェクションポートと、前記ロータのd軸の位置を把握する位置把握部と、を備え、前記制御部は、前記電動モータを起動させる場合において前記ロータが前記正方向とは逆方向に回転している場合、前記位置把握部によって把握された前記ロータのd軸に電流が流れるように前記駆動回路を制御し、且つ、時間経過とともに前記電動モータに流れる電流の周波数が下がるように前記駆動回路を制御する減速制御を行うことを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、逆回転現象が発生している場合には、減速制御を行うことにより、ロータの逆方向の回転が停止するのを待つことなく、電動圧縮機を起動させることができる。これにより、逆回転現象が発生し得る電動圧縮機の起動を早期に実現できる。
【0010】
特に、減速制御においては、位置把握部によって把握されたロータのd軸に電流が流れ、且つ、時間経過とともに電動モータに流れる電流の周波数が下がるように駆動回路が制御される。これにより、過度なトルクの発生を抑制しつつ、自然減速よりも速くロータを減速させることができる。よって、脱調等といった過度なトルクが発生することに起因する不都合を抑制しつつ、電動圧縮機を早期に起動できる。なお、d軸とは、ロータの磁極が形成する磁束の方向に沿った軸であり、q軸とはd軸と直交する方向の軸である。
【0011】
上記電動圧縮機について、前記駆動回路は、複数のスイッチング素子を有するインバータであり、前記制御部は、前記複数のスイッチング素子のON/OFF制御を行うものであるとよい。かかる構成によれば、複数のスイッチング素子のON/OFF制御を行うことにより、位置把握部によって把握されたd軸への通電や周波数制御を行うことができ、それを通じて、逆回転現象が発生する場合であっても、比較的早期に電動圧縮機を起動させることができる。
【0012】
上記電動圧縮機について、前記電動モータは三相モータであり、前記電動圧縮機は、前記電動モータの各相の電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出結果に基づいて、前記逆方向に回転中の前記ロータの回転数を把握する回転数把握部と、を備え、前記制御部は、前記電動モータを起動させる場合において前記ロータが前記正方向とは逆方向に回転している場合、前記減速制御を行う前に、前記位置把握部によって把握された前記ロータのd軸に電流が流れ、且つ、前記電動モータに流れる電流の周波数が、前記回転数把握部によって把握された前記ロータの回転数に対応した周波数となるように前記駆動回路を制御する減速前制御を行うとよい。かかる構成によれば、減速制御の前に、減速前制御を実行することにより、インジェクション配管に残存する中間圧冷媒を排出することができる。よって、電動圧縮機の起動が、インジェクション配管に残存した中間圧冷媒によって阻害される不都合を抑制できる。
【0013】
上記電動圧縮機について、前記位置把握部は、前記電流検出部の検出結果に基づいて、3つの相電流のうち最大となる相電流が切り替わるポイントを把握し、その把握結果から前記ロータの回転位置として前記ロータのd軸の位置を把握するとよい。かかる構成によれば、複雑な計算などを行うことなく、ロータのd軸の位置を把握することができる。
【0014】
上記電動圧縮機は、車両に搭載されるものであって、車両用空調装置に用いられるものであるとよい。かかる構成によれば、電動圧縮機を早期に起動させることを通じて、車両用空調装置を早期に起動させることができるため、快適性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、ロータが逆回転している場合であっても早期に起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電動圧縮機の概要を模式的に示す側断面図。
図2】圧縮部の縦断面図。
図3】車両用空調装置の概要を示す模式図。
図4】インバータの電気的構成を示す回路図。
図5】制御部にて実行される再起動制御処理を示すフローチャート。
図6】各相電流とu相誘起電圧との関係を模式的に示すグラフ。
図7】電動圧縮機の運転停止後から目標回転数となるまでの回転数の時間変化を示すグラフ。
図8】別例の起動態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、電動圧縮機の一実施形態について説明する。
図1に示すように、電動圧縮機10は、流体が吸入される吸入口11a及び流体が吐出される吐出口11bが形成されたハウジング11を備えている。ハウジング11は、全体として略円筒形状である。詳細には、ハウジング11は、有底円筒形状の2つのパーツ12,13を有している。第1パーツ12と第2パーツ13とは、互いに開口端同士が突き合わさった状態で組み付けられている。吸入口11aは、第1パーツ12の側壁部12a、詳細には当該側壁部12aのうち第1パーツ12の底部12b側の位置に設けられている。吐出口11bは、第2パーツ13の底部13aに設けられている。
【0018】
電動圧縮機10は、回転軸14と、吸入口11aから吸入された流体を圧縮して吐出口11bから吐出する圧縮部15と、圧縮部15を駆動する電動モータ16とを備えている。回転軸14、圧縮部15及び電動モータ16は、ハウジング11内に収容されている。電動モータ16は、ハウジング11内において吸入口11a側に配置されており、圧縮部15は、ハウジング11内において吐出口11b側に配置されている。
【0019】
回転軸14は、回転可能な状態でハウジング11内に収容されている。詳細には、ハウジング11内には、回転軸14を軸支する軸支部材21が設けられている。軸支部材21は、例えば圧縮部15と電動モータ16との間の位置にてハウジング11に固定されている。軸支部材21には、回転軸14が挿通可能なものであって第1軸受22が設けられた挿通孔23が形成されている。また、軸支部材21と第1パーツ12の底部12bとは対向しており、当該底部12bには円筒状のボス24が突出している。ボス24の内側には第2軸受25が設けられている。回転軸14は、両軸受22,25によって回転可能な状態で軸支されている。
【0020】
圧縮部15は、ハウジング11に固定された固定スクロール31と、固定スクロール31に対して公転運動が可能な可動スクロール32とを備えている。
固定スクロール31は、回転軸14と同一軸線上に設けられた円板状の固定側基板31aと、固定側基板31aから起立した固定側渦巻壁31bとを有する。同様に、可動スクロール32は、円板状であって固定側基板31aと対向する可動側基板32aと、可動側基板32aから固定側基板31aに向けて起立した可動側渦巻壁32bとを備えている。
【0021】
図1及び図2に示すように、固定スクロール31と可動スクロール32とは互いに噛み合っている。詳細には、固定側渦巻壁31bと可動側渦巻壁32bとは互いに噛み合っており、固定側渦巻壁31bの先端面は可動側基板32aに接触しているとともに、可動側渦巻壁32bの先端面は固定側基板31aに接触している。そして、固定スクロール31と可動スクロール32とによって圧縮室33が区画されている。図1に示すように、軸支部材21には、吸入口11aから吸入された流体を圧縮室33に吸入する吸入通路34が形成されている。
【0022】
可動スクロール32は、回転軸14の回転に伴って公転運動するように構成されている。詳細には、回転軸14の一部は、軸支部材21の挿通孔23を介して圧縮部15に向けて突出している。そして、回転軸14における圧縮部15側の端面のうち回転軸14の軸線Lに対して偏心した位置には、偏心軸35が設けられている。そして、偏心軸35にはブッシュ36が設けられている。ブッシュ36と可動スクロール32(詳細には可動側基板32a)とは軸受37を介して連結されている。
【0023】
また、電動圧縮機10は、可動スクロール32の公転運動を許容する一方、可動スクロール32の自転を規制する自転規制部38を備えている。なお、自転規制部38は、複数設けられている。
【0024】
かかる構成によれば、回転軸14が予め定められた正方向に回転すると、可動スクロール32の正方向の公転運動が行われる。詳細には、可動スクロール32は、固定スクロール31の軸線(すなわち回転軸14の軸線L)の周りで正方向に公転する。これにより、圧縮室33の容積が減少するため、吸入通路34を介して圧縮室33に吸入された流体が圧縮される。圧縮された流体は、固定側基板31aに設けられた吐出ポート41から吐出され、その後吐出口11bから吐出される。正方向とは、流体の圧縮が正常に行われる方向とも言える。
【0025】
なお、図1に示すように、固定側基板31aには、吐出ポート41を覆う吐出弁42が設けられている。圧縮室33にて圧縮された流体は、吐出弁42を押し退けて吐出ポート41から吐出される。
【0026】
図1及び図2に示すように、固定側基板31aには、吐出ポート41とは別に、インジェクションポート43が設けられている。インジェクションポート43は、例えば複数設けられており、詳細には2つ設けられている。インジェクションポート43は、固定側基板31aにおいて、吐出ポート41よりも径方向外側に配置されている。そして、インジェクションポート43にはインジェクション配管119が接続されている。インジェクション配管119の接続先等については後述する。
【0027】
電動モータ16は、回転軸14を回転させることにより、可動スクロール32を公転運動させるものである。図1に示すように、電動モータ16は、回転軸14と一体的に回転するロータ51と、ロータ51を取り囲むステータ52とを備えている。ロータ51は、回転軸14に連結されている。ロータ51には永久磁石(図示略)が設けられている。ステータ52は、ハウジング11(詳細には第1パーツ12)の内周面に固定されている。ステータ52は、筒状のロータ51に対して径方向に対向するステータコア53と、ステータコア53に捲回されたコイル54とを有している。
【0028】
電動圧縮機10は、電動モータ16を駆動させる駆動回路としてのインバータ55を備えている。インバータ55は、ハウジング11、詳細には第1パーツ12の底部12bに取り付けられた円筒形状のカバー部材56内に収容されている。インバータ55とコイル54とは電気的に接続されている。
【0029】
ここで、本実施形態では、電動圧縮機10は、車両に搭載され、車両用空調装置100に用いられる。すなわち、本実施形態では、電動圧縮機10の圧縮対象である流体は冷媒である。車両用空調装置100について以下に詳細に説明する。
【0030】
図3に示すように、車両用空調装置100は、配管切換弁101、第1熱交換器102、第2熱交換器103、第1膨張弁104、第2膨張弁105及び気液分離器106を備えている。
【0031】
配管切換弁101は、複数の口101a〜101dを有している。配管切換弁101は、第1口101aと第2口101bとが連通し、且つ、第3口101cと第4口101dとが連通する第1状態、又は、第1口101aと第3口101cとが連通し、且つ、第2口101bと第4口101dとが連通する第2状態に切り換わるものである。
【0032】
車両用空調装置100は、第1口101aと電動圧縮機10の吐出口11bとを接続する第1配管111と、第2口101bと第1熱交換器102とを接続する第2配管112と、第1熱交換器102と第1膨張弁104とを接続する第3配管113とを備えている。車両用空調装置100は、第1膨張弁104と気液分離器106とを接続する第4配管114と、気液分離器106と第2膨張弁105とを接続する第5配管115と、第2膨張弁105と第2熱交換器103とを接続する第6配管116と、第2熱交換器103と第3口101cとを接続する第7配管117とを備えている。更に、車両用空調装置100は、第4口101dと電動圧縮機10の吸入口11aとを接続する第8配管118を備えている。
【0033】
かかる構成において、インジェクションポート43に接続されたインジェクション配管119は、気液分離器106に接続されている。そして、インジェクション配管119上には、逆止弁120が設けられている。
【0034】
本実施形態の車両用空調装置100は、冷房運転と暖房運転との双方が可能となっている。詳細には、車両用空調装置100は、配管切換弁101を含めた車両用空調装置100の全体を制御する空調ECU121を備えている。空調ECU121は、例えば冷房運転時には、配管切換弁101を第1状態にする。この場合、吐出口11bから吐出された冷媒は、第1熱交換器102に流れ、当該第1熱交換器102にて外気と熱交換が行われることによって凝縮する。凝縮された冷媒は、第1膨張弁104にて減圧されて、気液分離器106に流れる。そして、気液分離器106にて液体と気体とに分離される。液体の冷媒は、第2膨張弁105にて減圧され、第2熱交換器103に流れる。そして、液体の冷媒は、第2熱交換器103にて車内の空気と熱交換されることにより蒸発し、その結果車内の空気が冷却される。そして、第2熱交換器103にて蒸発した冷媒は、電動圧縮機10の吸入口11aに向けて流れる。なお、冷房運転時には、逆止弁120は閉鎖状態となっている。
【0035】
一方、空調ECU121は、例えば暖房運転時には、配管切換弁101を第2状態にする。この場合、吐出口11bから吐出された冷媒は、第2熱交換器103に流れ、当該第2熱交換器103にて車内の空気と熱交換が行われることによって凝縮し、その結果車内の空気が加熱される。第2熱交換器103にて凝縮された冷媒は、第2膨張弁105によって減圧されて、気液分離器106に流れ、当該気液分離器106にて液体と気体とに分離される。分離された液体の冷媒は第1膨張弁104にて減圧されて、第1熱交換器102に流れ、当該第1熱交換器102にて外気と熱交換が行われることによって蒸発する。そして、蒸発した冷媒は吸入口11aに流れる。
【0036】
ここで、逆止弁120は、暖房運転時には、開放状態となっている。これにより、気液分離器106にて分離された気体の冷媒が、インジェクション配管119及びインジェクションポート43を介して、圧縮室33に流れる。これにより、圧縮室33に流れ込む冷媒の流量が増加する。
【0037】
ちなみに、気液分離器106にて分離された気体の冷媒、すなわちインジェクションポート43を介して圧縮室33に導入される冷媒の圧力は、吸入口11aから吸入される冷媒の圧力よりも高く、吐出口11bから吐出される冷媒の圧力よりも低い。説明の便宜上、以降の説明では、吸入口11aから吸入される冷媒を低圧冷媒とし、吐出口11bから吐出される冷媒を高圧冷媒とし、インジェクションポート43から圧縮室33に導入される冷媒を中間圧冷媒とする。
【0038】
上記のように構成された車両用空調装置100においては、電動圧縮機10の運転停止後、インジェクション配管119内に残留した中間圧冷媒が圧縮室33に流れ込むことによって、可動スクロール32が正方向とは逆方向に公転運動し、その結果ロータ51が正方向とは逆方向に回転する逆回転現象が発生し得る。
【0039】
これに対して、本実施形態の電動圧縮機10は、上記逆回転現象が発生している場合であっても好適に起動するための構成を備えている。当該構成について、電動モータ16のコイル54及びインバータ55の電気的構成等と合わせて説明する。
【0040】
まず、コイル54とインバータ55との電気的構成について説明すると、図4に示すように、コイル54は、例えばu相コイル54u、v相コイル54v及びw相コイル54wを有する三相構造となっている。すなわち、電動モータ16は三相モータである。各相コイル54u,54v,54wは例えばY結線されている。
【0041】
インバータ55は、u相コイル54uに対応するu相パワースイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル54vに対応するv相パワースイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル54wに対応するw相パワースイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。つまり、インバータ55は、所謂三相インバータである。
【0042】
各パワースイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2(以降単に各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2と示す)は例えばIGBTで構成されている。各u相パワースイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線は、u相コイル54uに接続されている。そして、各u相パワースイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体に対してDC電源Eからの直流電力が入力されている。なお、他のパワースイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相パワースイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様であるため、詳細な説明を省略する。
【0043】
また、インバータ55は、パワースイッチング素子Qu1〜Qw2に対して並列に接続された還流ダイオードDu1〜Dw2と、DC電源Eに対して並列に接続された平滑コンデンサC1とを有している。
【0044】
なお、説明の便宜上、以降の説明において、パワースイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1を単に上アームとも言い、パワースイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を単に下アームとも言う。
【0045】
電動圧縮機10は、インバータ55(詳細には各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のスイッチング動作)を制御する制御部60を備えている。制御部60は、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2を周期的にON/OFFさせることにより、電動モータ16を駆動、つまりロータ51を回転させる。
【0046】
制御部60は、インバータ55をPWM制御するものである。詳細には、制御部60は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部60は、生成された制御信号を用いて各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFFのデューティ比を可変制御することにより、DC電源Eからの直流電力を、所望の周波数の交流電力に変換させる。当該交流電力が電動モータ16に供給されることにより、ロータ51が回転する。
【0047】
ちなみに、制御部60は、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより、ロータ51の回転数及びロータ51の回転方向を制御できる。特に、制御部60は、ロータ51を正方向に回転させたり、正方向とは逆方向に回転させたりすることができるとともに、ロータ51を徐々に加速させたり、徐々に減速させたりすることができる。詳細には、制御部60は、電動モータ16に流れる電流、詳細には各相電流Iu,Iv,Iwの周波数を下げることにより、ロータ51を減速させることができる一方、各相電流Iu,Iv,Iwの周波数を上げることにより、ロータ51を加速させることができる。
【0048】
制御部60と空調ECU121とは、電気的に接続されており、互いに情報のやり取りを行うことができる。制御部60は、空調ECU121からの要求や異常判定結果等に応じて、電動圧縮機10の運転を開始したり、停止したりする。なお、電動圧縮機10の運転停止とは、電動モータ16への交流電力の供給を停止することであり、詳細には、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を停止することである。
【0049】
図4に示すように、電動圧縮機10は、各相電流Iu,Iv,Iwを検出する電流検出部としての電流センサ61を備えている。電流センサ61は、インバータ55と電動モータ16とを接続する3つの配線に接続されているとともに、下アームのいずれかに接続されている。電流センサ61は、定期的に、u相コイル54uに流れるu相電流Iuと、v相コイル54vに流れるv相電流Ivと、w相コイル54wに流れるw相電流Iwとを検出し、その検出結果を制御部60に送信する。これにより、制御部60は、各相電流Iu,Iv,Iwを把握できる。なお、電流センサ61の具体的な構成は任意であるが、例えば下アームに対して並列に接続されたシャント抵抗を用いたものが考えられる。
【0050】
制御部60は、予め定められた再起動条件が成立した場合には、電動圧縮機10を再起動させる再起動制御処理を実行する。再起動条件は、任意であるが、例えば電動圧縮機10の運転が停止してから予め定められた特定期間内に車両用空調装置100から起動要求があった場合等が考えられる。
【0051】
既に説明した通り、インジェクションポート43から圧縮室33に向けて中間圧冷媒が導入されている構成においては、ロータ51は、電動圧縮機10の運転停止後、上記特定期間よりも長い期間に亘って逆方向に回転している。このため、再起動制御処理の実行タイミングにおいて、ロータ51は逆方向に回転している。
【0052】
再起動制御処理について説明すると、図5に示すように、制御部60は、まずステップS101にて、電流センサ61の検出結果に基づいて、各相電流Iu,Iv,Iwを把握する。詳細には、制御部60は、電流センサ61のシャント抵抗が設けられていない側のアームである上アームを全てOFF状態に維持し、シャント抵抗が設けられている側のアームである下アーム(各パワースイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2)を所定の周期で順番にON/OFFさせる。そして、電流センサ61は、上記のように下アームのON/OFFが行われている状況における各相電流Iu,Iv,Iwを検出し、その検出結果を制御部60に送信する。これにより、制御部60は、ロータ51が逆方向に回転することによって各相コイル54u,54v,54wにて生じる各相の誘導電流を把握できる。
【0053】
その後、制御部60は、電流センサ61の検出結果、詳細には各相コイル54u,54v,54wにて生じる誘導電流に基づいて、ロータ51の回転位置、すなわちロータ51の回転位置のゼロ点(基準点)を推定する。
【0054】
ロータ51のゼロ点と、ロータ51の逆回転中における各相電流Iu,Iv,Iwとの関係について図6を用いて説明する。図6は、ロータ51が逆方向に回転している状況において把握される各相電流Iu,Iv,Iwを模式的に示したグラフである。また、図6においては、u相誘起電圧の波形を合わせて示す。なお、図示の都合上、図6においては、各相電流Iu,Iv,Iwの最小単位波形(1つの三角波)の周期を実際よりも長く示し、各相電流Iu,Iv,Iwの最小単位波形の位相を同一として示す。
【0055】
図6に示すように、各相電流Iu,Iv,Iw(詳細には各相電流Iu,Iv,Iwの包絡線)は互いに位相が異なっている。このため、瞬時値が最大となる相電流は、時間経過に伴い順次切り替わる。
【0056】
ここで、ロータ51のゼロ点と、u相誘起電圧と、各相電流Iu,Iv,Iwとには、一定の関係が存在する。詳細には、本実施形態では、ロータ51のゼロ点は、u相誘起電圧が正(+)から負(−)に切り替わるポイントP1である。そして、上記ポイントP1は、瞬時値の最大がw相電流Iwからv相電流Ivに切り替わるポイントP2に対して90度ずれている。なお、上記ポイントP2は、w相電流Iwの包絡線とv相電流Ivの包絡線との交点とも言える。
【0057】
制御部60は、上記関係と、ロータ51の逆回転中における各相電流Iu,Iv,Iwとに基づいて、ロータ51のゼロ点を推定する。
詳細には、図5に示すように、制御部60は、ステップS102にて、ロータ51の逆回転中における各相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、3つの相電流Iu,Iv,Iwのうち瞬時値の最大がw相電流Iwからv相電流Ivに切り替わるポイントP2を把握する。その後、制御部60は、ステップS103にて、上記ポイントP2から、u相誘起電圧が正から負に切り替わるポイントP1を推定し、その推定されたポイントP1に基づいてロータ51のゼロ点を推定する。
【0058】
更に、制御部60は、ステップS103にて、推定されたロータ51のゼロ点からd軸の位置を把握する。詳細には、制御部60は、ロータ51のゼロ点とロータ51のd軸の位置との相対位置関係に関する情報を有しており、当該情報を参照することにより、ゼロ点からd軸の位置を把握する。すなわち、制御部60は、上記ポイントP2に基づいて、ロータ51のd軸の位置を把握する。本実施形態では、制御部60が「位置把握部」に対応する。
【0059】
なお、念のため説明すると、ロータ51のd軸とは、ロータ51の磁極が形成する磁束と同一方向の軸である。また、q軸はd軸と直交する方向の軸である。ゼロ点とロータ51のd軸とが一致している場合、ゼロ点とはd軸の位置とも言える。
【0060】
続くステップS104では、制御部60は、各相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、ロータ51の回転数を把握する。詳細には、制御部60は、各相電流Iu,Iv,Iwの周期等からロータ51の回転数を推定する。ステップS104の処理を実行する制御部60が「回転数把握部」に対応する。
【0061】
そして、制御部60は、ステップS105にて、電動モータ16に流れる電流の周波数が、ステップS104にて把握されたロータ51の回転数に対応した周波数となるようにインバータ55を制御する減速前制御を行う。詳細には、制御部60は、ステップS103にて把握されたロータ51のd軸に電流が流れ、且つ、ロータ51がステップS104にて把握された回転数と同一回転数で逆方向に回転するように、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行う。換言すれば、制御部60は、把握されたロータ51のd軸に通電が行われるように各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより、インバータ55によって、ステップS104にて把握された回転数に対応した周波数の交流電力を生成させる。ステップS105の処理が「減速前制御」に対応する。
【0062】
ちなみに、制御部60は、減速前制御を所定期間に亘って実行する。すなわち、制御部60は、所定期間に亘って、ロータ51が一定の回転数で逆方向に回転する状態を維持するようにインバータ55を制御する。詳細には、制御部60は、所定期間に亘って、ステップS104にて把握された回転数に対応する周波数で各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行う。
【0063】
ここで、上記所定期間は、インジェクション配管119に残存する中間圧冷媒を、ある程度排出できれば任意であるが、例えば逆回転中のロータ51が自然減速して停止するまでの期間よりも充分に短く設定されているとよい。例えば、上記所定期間は、当該所定期間と減速制御の実行期間とを合わせた期間が、電動圧縮機10の運転が停止してからロータ51が自然に減速して停止するまでの期間よりも短くなるように設定されてもよい。
【0064】
制御部60は、減速前制御の実行後は、ステップS106に進み、ロータ51を減速させる減速制御を行う。詳細には、制御部60は、逆方向に回転しているロータ51を、自然に減速する場合の減速度よりも高い減速度で徐々に減速させる。具体的には、制御部60は、把握されたロータ51のd軸に電流が流れ、且つ、電動モータ16に流れる各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が徐々に下がるように、インバータ55を制御する。
【0065】
その後、制御部60は、ロータ51の回転数が「0」又は「0」に近い値となったことに基づいて、ステップS107に進み、加速制御を行う。詳細には、制御部60は、まずロータ51の回転方向が逆方向から正方向に切り替わるようにインバータ55(各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2)を制御する。その後、制御部60は、ロータ51の回転数が目標回転数に到達するまで、ロータ51を、所定の加速度で徐々に加速させる。詳細には、制御部60は、各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が徐々に上がるようにインバータ55を制御する。そして、制御部60は、ロータ51の回転数が目標回転数に到達したことに基づいて、再起動が完了したとして、本再起動制御処理を終了する。つまり、本実施形態において、再起動とは、電動圧縮機10が定常状態となるまで、詳細にはロータ51の回転数が目標回転数に到達するまでを意味する。
【0066】
なお、制御部60は、例えば車両用空調装置100から目標回転数に関する情報を受信することにより、目標回転数を把握するとよい。また、制御部60は、加速制御においては、トルクを発生させるべく、q軸に電流が流れるようにインバータ55を制御する。本実施形態では、減速度と加速度とは同一に設定されている。
【0067】
次に本実施形態の作用について図7を用いて説明する。図7は、電動圧縮機10が運転を停止してから目標回転数となるまでのロータ51の回転数の時間変化を示すグラフである。
【0068】
図7に示すように、電動圧縮機10の運転が停止すると、ロータ51は減速し、その後逆方向に回転する。この場合、例えばロータ51の回転が停止するまで待機してから再起動を行う構成においては、図7の二点鎖線に示すように、ロータ51の回転が停止するまでの待機期間が長くなり易い分だけ、ロータ51の回転数が目標回転数に達するまでに要する時間が長くなり易い。
【0069】
これに対して、本実施形態では、ロータ51の逆方向の回転中に減速前制御が行われる。そして、減速前制御が行われた後、減速制御が行われる。これにより、図7の実線に示すように、ロータ51は、自然に減速する場合よりも高い減速度で減速する。そして、ロータ51は、正方向に回転し、その後目標回転数まで加速する。このため、ロータ51の回転が停止するまで待機する場合と比較して、早期にロータ51の回転数が目標回転数に達する。
【0070】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)電動圧縮機10は、ロータ51を有する電動モータ16と、低圧流体としての低圧冷媒が吸入される吸入口11aが形成されたハウジング11と、低圧冷媒を圧縮し、その圧縮された高圧流体を吐出する圧縮部15と、電動モータ16を駆動させるインバータ55と、インバータ55を制御する制御部60とを備えている。圧縮部15は、ハウジング11に固定された固定スクロール31と、固定スクロール31と噛み合うものであって固定スクロール31に対して公転運動が可能な可動スクロール32と、固定スクロール31と可動スクロール32とによって区画された圧縮室33とを有している。そして、圧縮部15は、ロータ51が正方向に回転する場合に可動スクロール32が正方向に公転運動することにより、圧縮室33に吸入される低圧冷媒を圧縮するように構成されている。
【0071】
かかる構成において、電動圧縮機10は、低圧冷媒よりも高圧であって高圧冷媒よりも低圧の中間圧冷媒を圧縮室33に導入するインジェクションポート43を備えている。制御部60は、電動モータ16を起動させる場合においてロータ51が正方向とは逆方向に回転している場合には、ロータ51のd軸の位置を把握し、その把握されたd軸に電流が流れ、且つ、時間経過とともに電動モータ16に流れる電流である各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が下がるようにインバータ55を制御する減速制御を行う。
【0072】
かかる構成によれば、逆回転現象が発生した場合に、ロータ51の回転が停止するまで待機することなく、電動圧縮機10を起動させることができる。これにより、逆回転現象に起因する起動の遅延を抑制することができるため、電動圧縮機10の起動時間(電動圧縮機10が定常状態となるまでの時間)を短縮することができる。
【0073】
ここで、例えば逆回転中のロータ51の回転を強制的に停止させることも考えられる。しかしながら、この場合、ロータ51に過度な負担が付与され、脱調等といった不都合が生じ得る。
【0074】
これに対して、本実施形態では、電動モータ16のトルクは、q軸電流には依存する一方、d軸電流には依存しない点に着目して、制御部60は、減速制御においては、q軸ではなくd軸に電流が流れるようにインバータ55を制御し、且つ、各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が下がるようにインバータ55を制御する。この場合、把握されたロータ51のd軸の位置と、実際のロータ51のd軸の位置との間には誤差が生じ得る。このため、把握されたd軸に電流が流れるようにインバータ55を制御している場合であっても、実際にはq軸にも電流が流れ、過度に大きくならない程度のトルクは発生し得る。したがって、把握されたd軸に電流が流れ、且つ、時間経過とともに各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が下がるようにインバータ55を制御することにより、過度なトルクの発生を抑制しつつ、自然減速よりも速くロータ51を減速させることができる。したがって、脱調等が生じる事態を抑制しつつ、電動圧縮機10を早期に起動できる。よって、より好適に電動圧縮機10を起動させることができる。
【0075】
(2)インバータ55は、複数のパワースイッチング素子Qu1〜Qw2を有しており、制御部60は、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うものである。これにより、各パワースイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより、把握されたd軸への通電や各相電流Iu,Iv,Iwの周波数制御を行うことができ、それを通じて、ロータ51が逆方向に回転している場合であっても比較的早期に電動圧縮機を起動できる。
【0076】
(3)電動モータ16は三相モータであり、電動圧縮機10は、各相電流Iu,Iv,Iwを検出する電流センサ61を備えている。制御部60は、電流センサ61の検出結果に基づいて、逆方向に回転中のロータ51の回転位置(すなわちゼロ点)を把握する。そして、制御部60は、把握されたロータ51のゼロ点に基づいて減速制御を行う。これにより、把握されたロータ51のゼロ点から、逆方向に回転中のロータ51のd軸の位置を把握できるため、回転中のロータ51の回転位置を検出する位置センサ等を設けることなく、減速制御を実現できる。
【0077】
(4)制御部60は、各相電流Iu,Iv,Iwのうち最大となる相電流がw相電流Iwからv相電流Ivに切り替わるポイントP2を把握し、その把握結果からロータ51のd軸の位置を把握する。これにより、複雑な計算などを行うことなく、ロータ51のd軸の位置を把握することができる。
【0078】
(5)制御部60は、電動モータ16を起動させる場合においてロータ51が逆方向に回転している場合、減速制御を行う前に、減速前制御を実行する。制御部60は、減速前制御では、電流センサ61の検出結果に基づいて、逆方向に回転中のロータ51の回転数を把握する処理を実行し、把握されたロータ51のd軸に電流が流れ、且つ、各相電流Iu,Iv,Iwの周波数が、把握された回転数に対応した周波数となるようにインバータ55を制御する。これにより、減速前制御によって、インジェクション配管119に残存する中間圧冷媒を排出することができる。よって、電動圧縮機10の起動が中間圧冷媒によって阻害される不都合を抑制できる。
【0079】
(6)電動圧縮機10は車両に搭載されるものであって、車両用空調装置100に用いられるものである。ここで、電動圧縮機10を含む車両用空調装置100は、車両に搭載される関係上、例えば低温環境下に晒される場合がある。このような低温環境下においては、冷媒の密度が低下するため、電動圧縮機10の能力が低下し易い。これに対して、本実施形態では、上記のように、インジェクションポート43を介して圧縮室33に中間圧冷媒を吸入させることにより、電動圧縮機10の能力を向上させることができる。しかしながら、この場合、電動圧縮機10の運転停止時に逆回転現象が発生し得るため、電動圧縮機10の再起動時間が長くなり易い。
【0080】
また、電動圧縮機10が車両用空調装置100に用いられる場合、ユーザからの操作や車両の走行状況等、電動圧縮機10の運転停止及び再起動が行われる要因が複数存在する。そして、上記再起動時間が長くなれば、室内の快適性が低下する。
【0081】
これに対して、本実施形態では、上記のように減速制御を行うことにより、逆回転現象が発生し得る構成において比較的早期に電動圧縮機10を定常状態に復帰させることができる。これにより、低温時における車両用空調装置100の能力低下の抑制と快適性の向上との両立を図ることができる。
【0082】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
図8に示すように、減速前制御を省略してもよい。すなわち、制御部60は、電動モータ16を起動させる場合においてロータ51が正方向とは逆方向に回転している場合、減速前制御を実行することなく、減速制御を実行してもよい。この場合、より早期の起動を実現できる。
【0083】
○ 制御部60は、減速制御の減速度と加速制御の加速度とを異ならせてもよい。例えば、逆方向に回転中のロータ51を減速させる際の減速度が、正方向に回転中のロータ51を加速させる際の加速度よりも大きくてもよい。また、これに限られず、減速度と加速度との大小関係が逆であってもよい。
【0084】
○ 制御部60は、ステップS104にて把握された回転数が予め定められた閾値回転数以上である場合には、当該回転数が閾値回転数未満となるまで減速前制御又は減速制御の実行を待機してもよい。ロータ51の回転数が閾値回転数以上である場合のような回転数が比較的高い状況においては、把握されるロータ51の回転位置(ゼロ点)の誤差が大きくなり易い。このため、回転数が比較的高い状況において減速前制御又は減速制御を行うと、通電によって大きなトルクが発生したりする不都合が生じ得る。これに対して、本別例によれば、ロータ51の回転数が閾値回転数以上である場合には、当該回転数が閾値回転数未満となるまで減速前制御又は減速制御が待機されるため、誤差が大きい状況における減速前制御又は減速制御の実行を抑制できる。よって、上記不都合を抑制できる。
【0085】
○ 電動圧縮機10は、ロータ51の回転位置を検出する位置センサを備えていてもよい。この場合、制御部60は、位置センサの検出結果に基づいてロータ51の回転位置を把握する構成であってもよい。この場合であっても、位置センサによって把握されるd軸の位置と、実際のd軸の位置との間には誤差が生じ得る。
【0086】
○ 電動圧縮機10は、電流センサ61に代えて又は加えて、誘起電圧を検出可能な電圧センサを有する構成であってもよい。この場合、制御部60は、電圧センサの検出結果(例えばu相誘起電圧のゼロクロス点)に基づいて、ロータ51の回転位置を把握する構成であってもよい。
【0087】
○ 電流センサ61は上アームに接続されていてもよい。また、電動モータ16は三相モータに限られず任意である。同様に、インバータ55は三相インバータに限られず任意である。
【0088】
○ インジェクションポート43の位置や数は任意である。
○ 電動圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず、任意である。
○ 制御部60は、把握されたロータ51のd軸の位置と、把握されたロータ51の回転数から推定される進み角とに基づいて、予め定められた特定期間経過後におけるロータ51のd軸の位置を推定し、その推定されたロータ51のd軸の位置に対応させて減速制御又は減速制御を行う構成でもよい。
【0089】
○ 電動圧縮機10は、車両用空調装置100に用いられていたが、これに限られず、他の装置に用いられてもよい。例えば、車両が燃料電池を搭載した燃料電池車両(FCV)である場合には、当該電動圧縮機10は、上記燃料電池に空気を供給する供給装置に用いられてもよい。要は、圧縮対象の流体は、任意であり、冷媒であってもよいし空気などであってもよい。
【0090】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる好適な一例について以下に記載する。
(イ)前記制御部は、前記逆方向に回転している前記ロータの回転数が予め定められた閾値回転数以上である場合には、前記回転数が前記閾値回転数未満となるまで前記減速制御の実行を待機する請求項1に記載の電動圧縮機。
【0091】
(ロ)前記制御部は、前記減速制御の実行後、前記ロータの回転方向を前記逆方向から前記正方向に切り替え、その後前記ロータの回転数が目標回転数に到達するまで前記ロータを徐々に加速させる加速制御を行う請求項1〜及び(イ)のうちいずれか一項に記載の電動圧縮機。
【符号の説明】
【0092】
10…電動圧縮機、11…ハウジング、11a…吸入口、14…回転軸、15…圧縮部、16…電動モータ、31…固定スクロール、32…可動スクロール、33…圧縮室、43…インジェクションポート、51…ロータ、55…インバータ(駆動回路)、60…制御部、61…電流センサ(電流検出部)、100…車両用空調装置、119…インジェクション配管、Iu,Iv,Iw…相電流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8