特許第6241460号(P6241460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000002
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000003
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000004
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000005
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000006
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000007
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000008
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000009
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000010
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000011
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000012
  • 特許6241460-電動機の制御装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241460
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20171127BHJP
【FI】
   H02P6/182
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-165549(P2015-165549)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-46399(P2017-46399A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 剛志
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/058281(WO,A1)
【文献】 特開2001−339999(JP,A)
【文献】 特開2014−68528(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0070746(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0093370(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の磁極位置に基づいて電動機(5)の駆動を制御する電動機の制御装置(10)であって、
前記電動機に電力を供給する駆動回路の動作を制御する制御部(11)と、
前記電動機に生じる電流を検出する電流センサ(8)と、を備え、
前記制御部は、
前記磁極位置を推定するための基本高周波電圧を前記駆動回路を介して前記電動機に印加することにより前記電動機に生じる基本高周波電流を前記電流センサを介して検出するとともに、前記基本高周波電流の検出値に基づいて前記磁極位置のd軸方向に対応する第1電気角と第2電気角とを選定し、
前記駆動回路を介して前記第1電気角の位置に特定高周波電圧を印加した際に前記電動機に生じる第1特定高周波電流と、前記駆動回路を介して前記第2電気角の位置に前記特定高周波電圧を印加した際に前記電動機に生じる第2特定高周波電流とを前記電流センサを介して検出し、
前記第1特定高周波電流の検出値と前記第2特定高周波電流の検出値との比較により前記磁極位置の正のd軸方向を推定することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記駆動回路を介して前記基本高周波電圧を前記電動機に印加することにより前記電動機に生じる前記基本高周波電流を前記電流センサを介して所定の電気角毎に検出し、
前記電気角毎の基本高周波電流の検出値に基づいて前記基本高周波電流の大きさを前記所定の電気角毎に演算し、
前記基本高周波電流の大きさが極大値となる電気角を前記第1電気角として用いるとともに、
前記第1電気角から180°ずれた電気角を前記第2電気角として用いることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記駆動回路を介して前記基本高周波電圧を前記電動機に印加することにより前記電動機に生じる前記基本高周波電流を前記電流センサを介して所定の電気角毎に複数周期検出し、
複数周期検出した前記電気角毎の基本高周波電流の検出値に基づいて前記基本高周波電流の大きさの平均値を前記所定の電気角毎に演算し、
前記基本高周波電流の大きさの平均値が極大値となる電気角を前記第1電気角として用いるとともに、
前記第1電気角から180°ずれた電気角を前記第2電気角として用いることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記基本高周波電流の検出値に基づいて前記磁極位置のd軸方向に対応する第3電気角及び第4電気角を更に推定し、
前記駆動回路を介して前記第3電気角の位置に前記特定高周波電圧を印加した際に前記電動機に生じる第3特定高周波電流と、前記駆動回路を介して前記第4電気角の位置に前記特定高周波電圧を印加した際に前記電動機に生じる第4特定高周波電流とを前記電流センサを介して検出し、
前記第1特定高周波電流の検出値と、前記第2特定高周波電流の検出値と、前記第3特定高周波電流の検出値と、前記第4特定高周波電流の検出値との比較により前記磁極位置の正のd軸方向を推定することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記駆動回路を介して前記基本高周波電圧を前記電動機に印加することにより前記電動機に生じる前記基本高周波電流を前記電流センサを介して所定の電気角毎に検出し、
前記電気角毎の基本高周波電流の検出値に基づいて前記基本高周波電流の大きさを前記所定の電気角毎に演算し、
前記基本高周波電流の大きさが極大値となる2つの電気角を前記第1電気角及び前記第3電気角として用い、
前記第1電気角から180°ずれた電気角を前記第2電気角として用いるとともに、
前記第3電気角から180°ずれた電気角を前記第4電気角として用いることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記駆動回路を介して前記基本高周波電圧を前記電動機に印加することにより前記電動機に生じる前記基本高周波電流を前記電流センサを介して所定の電気角毎に複数周期検出し、
複数周期検出した前記電気角毎の基本高周波電流の検出値に基づいて前記基本高周波電流の大きさの平均値を前記所定の電気角毎に演算し、
前記基本高周波電流の大きさの平均値が極大値となる2つの電気角を前記第1電気角及び前記第3電気角として用い、
前記第1電気角から180°ずれた電気角を前記第2電気角として用いるとともに、
前記第3電気角から180°ずれた電気角を前記第4電気角として用いることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記基本高周波電圧の周波数は、前記電動機を駆動させるために用いられる駆動電圧の周波数よりも高い周波数であることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記磁極位置のd軸方向の推定を複数回行うとともに、
この複数回の推定結果に基づいて前記磁極位置のd軸方向を推定することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記制御部は、
前記磁極位置の正のd軸方向の推定を複数回行うとともに、
この複数回の推定結果に基づいて前記磁極位置の正のd軸方向を推定することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記基本高周波電圧は、時間に対して正弦波状に変化することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記特定高周波電圧は、時間に対して方形波状に変化することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の電動機の制御装置において、
前記電動機は、車載用電動圧縮機の動力源として用いられていることを特徴とする電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子の磁極位置に基づいて電動機の駆動を制御する電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子の磁極位置を検出する位置センサを用いることなく電動機の駆動を制御する、いわゆる位置センサレスの制御装置が知られている。従来、電動機の駆動電圧の周波数よりも高い高周波電圧を電動機に印加することにより回転子の磁極位置を推定する高周波電圧推定方式がある。まず、この高周波電圧推定方式について説明する。
【0003】
突極型の同期電動機では、電機子コイルのインダクタンスが回転直交座標(dq軸座標)系上のd軸方向にて最小となる。したがって、一定振幅で所定周波数にて回転する高周波電圧を電機子コイルに印加すると、その時の固定直交座標(αβ軸座標)系上の高周波電流の軌跡は図11に示されるようになる。図11は、αβ軸座標系における高周波電圧Vhの軌跡と高周波電流Ihの軌跡とを示したグラフである。図11に示されるように、高周波電流Ihの軌跡は楕円形状になる。以下、この楕円を電流楕円軌跡とも称する。図11において、回転子の磁極位置は、α軸に対するd軸のなす角度θとして決定される。この場合、高周波電圧1周期の電流楕円軌跡における高周波電流Ihの振幅の最大値Imaxのα軸成分及びβ軸成分をそれぞれ「Imaxα」及び「Imaxβ」とすると、「tanθ=Imaxβ/Imaxα」の関係が成立する。この関係を用いることにより、「Imaxα」及び「Imaxβ」の検出値に基づいて回転子の磁極位置θを演算することができる。
【0004】
ところで、電流楕円軌跡が図11に示されるような対称形状を有する場合、高周波電圧Vhの1周期において、電流楕円軌跡1周期分の長径軸方向に2つの最大振幅値Imax1,Imax2が存在する。「Imax1」は、長径軸方向の正側の最大値、換言すれば長径軸方向N極向きの最大振幅値である。「Imax2」は、長径軸方向の負側の最大値、換言すれば長径軸方向S極向きの最大振幅値である。すなわち、高周波電流Ihの最大値は電流楕円軌跡1周期分から2つ抽出される。
【0005】
都合の良いことに、PM型同期電動機(磁石回転子式同期電動機)では、高周波電流に対して磁気回路が磁気飽和傾向を有する状況において、高周波電流による磁束の方向と回転子の磁石磁束の方向とが一致する場合、それらの方向が逆方向になる場合と比較して電機子コイルのインダクタンスが減少する。電機子コイルのインダクタンスが減少する分だけ電流楕円軌跡の長径が長くなる。すなわち、図12に示されるように、電流楕円軌跡は、長径軸方向N極向きに伸びた、いびつな形状になる。そのため、電流楕円軌跡1周期分の高周波電流Ihの各データからその最大振幅値を選択すれば、長径軸方向S極向きの最大振幅値Imax2は自ずと排除され、長径軸方向N極向きの最大振幅値Imax1を抽出することができる。よって、抽出された長径軸方向N極向きの最大振幅値Imax1に基づいて上記の演算式から回転子の磁極位置θを推定することができる。
【0006】
しかしながら、このような推定方法を用いた場合、長径軸方向N極向きの最大振幅値Imax1と長径軸方向S極向きの最大振幅値Imax2との差が小さいと、「Imax2」を長径軸方向N極向きの最大振幅値と誤判定する可能性がある。この場合、「Imax2」に基づいて回転子の磁極位置θが演算されると、回転子の磁極位置が電気角で180°ずれた位置であると誤判定される可能性がある。
【0007】
そこで、特許文献1に記載の制御装置では、一方の最大振幅値Imax1と他方の最大振幅値Imax2との差分値ΔI(=Imax1−Imax2)を演算するとともに、この差分値ΔIが好適範囲となるように高周波電圧の振幅を調整している。これにより、一方の最大振幅値Imax1と他方の最大振幅値Imax2との差が大きい状態を維持することができる。したがって、電流楕円軌跡1周期分の高周波電流Ihの各データからその最大振幅値を選択する際に、より確実に長径軸方向N極向きの最大振幅値Imax1を抽出することができる。よって、回転子の磁極位置θの推定精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−124835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載の制御装置において回転子の磁極位置の推定精度を高めるためには、電気角の全領域に亘って高周波電圧の振幅を大きくする必要があり,これにより高周波電流の振幅も大きくなる。高周波電流の振幅が大きくなると、例えば電動機の駆動回路(インバータ回路)の発熱量や電動機そのものの発熱量が増加する懸念がある。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁極位置の推定精度を高めつつ、発熱を抑制することのできる電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、回転子の磁極位置に基づいて電動機(5)の駆動を制御する電動機の制御装置(10)は、電動機に電力を供給する駆動回路の動作を制御する制御部(11)と、電動機に生じる電流を検出する電流センサ(8)と、を備える。制御部は、磁極位置を推定するための基本高周波電圧を駆動回路を介して電動機に印加することにより電動機に生じる基本高周波電流を電流センサを介して検出するとともに、基本高周波電流の検出値に基づいて磁極位置のd軸方向に対応する第1電気角と第2電気角とを選定する。また、制御装置は、駆動回路を介して第1電気角の位置に特定高周波電圧を印加した際に電動機に生じる第1特定高周波電流と、駆動回路を介して第2電気角の位置に特定高周波電圧を印加した際に電動機に生じる第2特定高周波電流とを電流センサを介して検出する。そして、制御装置は、第1特定高周波電流の検出値と第2特定高周波電流の検出値との比較により磁極位置の正のd軸方向を推定する。
【0012】
この構成によれば、第1電気角の位置に印加される特定高周波電圧と、第2電気角の位置に印加される特定高周波電圧とを大きくするだけで、磁極位置の正のd軸方向の推定精度を高めることができる。したがって、推定精度の向上のために高周波電圧を電気角の全領域に亘って大きくする必要のある従来の電動機の制御装置と比較すると、駆動回路や電動機の発熱を抑制することができる。
【0013】
一方、基本高周波電流の検出値に基づいて磁極位置のd軸方向に対応する第1電気角と第2電気角とを選定すれば、第1電気角及び第2電気角のいずれか一方が磁極位置の正のd軸方向である可能性が高い。したがって、上記構成のように、第1電気角の位置に特定高周波電圧を印加した際に電動機に生じる第1特定高周波電流と、第2電気角の位置に特定高周波電圧を印加した際に電動機に生じる第2特定高周波電流とを取得した上で、それらの比較により磁極位置の正のd軸方向を推定すれば、磁極位置の推定精度を高めることができる。
【0014】
なお、上記手段、及び特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁極位置の推定精度を高めつつ、発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電動機の制御装置の一実施形態についてその構成を示すブロック図である。
図2】実施形態の制御装置により実行される処理の手順を示すフローチャートである。
図3】実施形態の制御装置により実行される初期位置推定処理の手順を示すフローチャートである。
図4】基本高周波電圧Vhbの波形の一例を示すグラフである。
図5】基本高周波電流の大きさ|Ihb|の推移の一例を示すグラフである。
図6】基本高周波電流の大きさ|Ihb|の推移の一例を示すグラフである。
図7】(A)は、1周期目の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の推移を示すグラフである。(B)は、2周期目の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の推移を示すグラフである。(C)は、基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値の推移を示すグラフである。
図8】固定直交座標系上における高周波電流のベクトル軌跡を示すグラフである。
図9】(A)は、特定高周波電圧Vhsの波形の一例を示すグラフである。(B)は、特定高周波電流Ihsの推移の一例を示すグラフである。
図10】他の実施形態の電動機の制御装置により実行される初期位置推定処理の手順を示すフローチャートである。
図11】固定直交座標系上における高周波電圧及び高周波電流のベクトル軌跡を示すグラフである。
図12】飽和状態における固定直交座標系上の高周波電圧及び高周波電流のベクトル軌跡を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、電動機の制御装置の一実施形態について説明する。はじめに、電動機及び制御装置により構成される車両の制御システムについて説明する。
【0018】
図1に示される制御システム1は車両に搭載されている。制御システム1は、車両に搭載された高電圧バッテリBTと、リレー回路2と、インバータ回路4と、電動機5と、圧縮機6とを備えている。
【0019】
高電圧バッテリBTの高電位側配線LH及び低電位側配線LLはリレー回路2を介してインバータ回路4に接続されている。
【0020】
リレー回路2は、3つのリレー20,21,22と、プリチャージ抵抗R1とを備えている。リレー20は、高電圧バッテリBTの高電位側配線LHに配置されている。プリチャージ抵抗R1は、リレー20に並列に接続されている。リレー21は、プリチャージ抵抗R1に直列に接続されている。リレー22は、低電位側配線LLに配置されている。リレー回路2は、リレー20,21,22の開閉動作により、高電圧バッテリBTから電動機5への電力供給経路を接続及び遮断する。リレー回路2は、インバータ回路4に高電圧を印加する際に突入電流の発生を抑制する機能を有している。また、リレー回路2は、制御システム1に異常が生じた場合には、高電圧バッテリBTから電動機5への電力供給経路を遮断する。
【0021】
リレー回路2とインバータ回路4との間には、平滑コンデンサC1,C2と、コイルL1とが設けられている。平滑コンデンサC1,C2は高電位側配線LH及び低電位側配線LLの間に配置されている。平滑コンデンサC1,C2は、高電圧バッテリBTからインバータ回路4に供給される直流電力を平滑化する。コイルL1及び平滑コンデンサC2はLCフィルタを構成している。
【0022】
インバータ回路4は、スイッチング素子40及びスイッチング素子41の直列回路、スイッチング素子42及びスイッチング素子43の直列回路、並びにスイッチング素子44及びスイッチング素子45の直列回路を有している。インバータ回路4は、それらの直列回路が並列に接続された構成からなる。スイッチング素子40,42,44によりインバータ回路4の上アームが構成されている。スイッチング素子41,43,45によりインバータ回路4の下アームが構成されている。スイッチング素子40〜45は例えばIGBTからなる。なお、スイッチング素子40〜45のそれぞれに並列に接続されるダイオードは、環流ダイオードを示している。インバータ回路4は、各スイッチング素子40〜45のオン/オフ動作により、高電圧バッテリBTから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。この三相交流電力は各相の給電線Wu,Wv,Wwを介して電動機5に供給される。このように、インバータ回路4は、電動機5に電力を供給する駆動回路としての機能を有している。
【0023】
電動機5は、突極性を有し、界磁に永久磁石を用いた永久磁石同期電動機である。永久磁石は、電動機5の図示しない回転子に設けられている。電動機5は、インバータ回路4から給電線Wu,Wv,Wwを介して供給される三相交流電力に基づいて駆動する。電動機5は連結軸7を介して圧縮機6に機械的に連結されている。電動機5の動力が連結軸7を介して圧縮機6に伝達されることにより、圧縮機6が動作する。
【0024】
圧縮機6は、電動機5を動力源とする機器である。圧縮機6は、例えば車両の空調装置に用いられる圧縮機である。この圧縮機は、空調装置において冷媒を圧縮して循環させるためのポンプとして機能する。圧縮機としては、スクロール式の圧縮機や、ロータリ式の圧縮機が用いられる。
【0025】
制御システム1は、ECU(Electronic Control Unit)10とを備えている。本実施形態では、ECU10が制御装置に対応している。ECU10は、電流センサ8と、電圧センサ9とを備えている。
【0026】
電流センサ8は、給電線Wu,Wv,Wwに流れる各相電流、すなわち電動機5に生じる電流を検出する。電流センサ8としては、変流器(カレントトランス)方式の電流センサや、ホール素子方式の電流センサ、シャント抵抗方式の電流センサ等を用いることができる。電流センサ8は、検出された各相電流に応じた信号をECU10に出力する。
【0027】
電圧センサ9は、コンデンサC2の両端子間電圧、換言すればインバータ回路4に入力される直流電圧を検出する。電圧センサ9としては、抵抗分圧方式の電圧センサ等を用いることができる。電圧センサ9は、検出されたインバータ回路4の入力電圧に応じた信号をECU10に出力する。
【0028】
インバータ回路4には、温度センサ46が設けられている。温度センサ46は、インバータ回路4の温度を検出するとともに、検出された温度に応じた信号をECU10に出力する。
【0029】
ECU10は、マイクロコンピュータ11と、プリドライバ12と、検出回路13とを備えている。以下、マイクロコンピュータ11を「マイコン11」と略記する。本実施形態では、マイコン11が制御部に対応している。
【0030】
プリドライバ12は、マイコン11から送信されるPWM(パルス幅変調)信号に応じたパルス状の駆動信号を生成する。駆動信号は、インバータ回路4のスイッチング素子40〜45をオン及びオフさせることの可能な信号である。すなわち、スイッチング素子40〜45は、プリドライバ12から送信される駆動信号に基づいてオン及びオフされる。
【0031】
検出回路13は、電流センサ8、電圧センサ9、温度センサ46等の出力信号を受信するとともに、それらの出力信号を、制御演算に用いられる状態量の情報に変換してマイコン11に出力する。検出回路13は、例えば電流センサ8の出力信号を各相電流値Iu,Iv,Iwの情報に変換してマイコン11に出力する。各相電流値Iu,Iv,Iwは、電動機5に供給されるU相、V相、W相のそれぞれの電流値である。検出回路13は、電圧センサ9の出力信号をインバータ回路4の入力電圧値Vの情報に変換してマイコン11に出力する。検出回路13は、温度センサ46の出力をインバータ回路4の温度Tの情報に変換してマイコン11に出力する。
【0032】
マイコン11は、上位ECU20からの指示に基づいて電動機5の駆動を制御する。上位ECU20は、例えば車両制御用のECUや、空調制御用のECUである。上位ECU20は回転速度指令値ω*をマイコン11に送信する。回転速度指令値ω*は、電動機5の回転子の回転速度の目標値である。また、上位ECU20は動作フラグFbをマイコン11に送信する。上位ECU20は、電動機5の駆動を許可する場合、動作フラグFbをオン状態に設定する。上位ECU20は、電動機5の駆動を禁止する場合、動作フラグFbをオン状態に設定する。
【0033】
マイコン11は、各相電流値Iu,Iv,Iw、インバータ回路4の入力電圧値V、及びインバータ回路4の温度T等の各種状態量を検出回路13から取り込む。マイコン11は、検出回路13から取り込んだ各種状態量に加え、上位ECU20から送信される回転速度指令値ω*及び動作フラグFb等に基づいてPWM信号を生成する。マイコン11は、PWM信号をプリドライバ12に送信することによりインバータ回路4の動作を制御し、電動機5をPWM制御する。すなわち、本実施形態のマイコン11は、電動機5の回転子の位置を検出する位置センサを用いることなく、換言すれば位置センサレスで電動機5の駆動を制御する。
【0034】
次に、図2を参照して、マイコン11により実行される電動機5の駆動制御について説明する。マイコン11は、上位ECU20から送信される起動信号に基づいて図2に示される処理を開始する。起動信号は、停止状態の電動機5を起動させる際に上位ECU20からECU10に送信される信号である。
【0035】
マイコン11は、まず、初期位置推定処理を実行する(ステップS1)。初期位置推定処理は、電動機5の起動時における回転子の磁極位置(電気角)を推定する処理である。以下、電動機5の起動時における回転子の磁極位置を「回転子の初期位置」とも称する。具体的には、マイコン11は、電動機5に高周波電圧が印加されるようにインバータ回路4を駆動させる。マイコン11は、電動機5に高周波電圧が印加された際に電動機5に生じる高周波電流に基づいて回転子の初期位置を推定する。
【0036】
マイコン11は、ステップS1の処理に続いて、電動機5の起動制御を実行する(ステップS2)。具体的には、マイコン11は、ステップS1で得られた回転子の初期位置を基準に、例えば一定の振幅及び徐々に動作周波数が増加する各相電流値Iu,Iv,Iwが電動機5に供給されるようなPWM信号を生成し、このPWM信号をプリドライバ12に送信することによりインバータ回路4を駆動させる。これにより、回転子が強制転流され、回転を始める。マイコン11は、回転子の回転速度が所定回転速度まで上昇すると、ステップS3の処理に移行する。
【0037】
マイコン11は、ステップS3の処理として、電動機5の通常制御を実行する。具体的には、マイコン11は、回転子が回転している際に検出される各相電流値Iu,Iv,Iwから、例えば拡張誘起電圧を用いた回転子の位置推定法により回転子の磁極位置を推定するとともに、推定された磁極位置の微分値を演算することにより回転子の実際の回転速度を推定する。マイコン11は、推定された回転子の実際の回転速度と、上位ECU20から送信される回転速度指令値ω*との偏差に基づくフィードバック制御を実行することによりPWM信号を生成する。マイコン11は、生成したPWM信号をプリドライバ12に送信することによりインバータ回路4を駆動させる。これにより、電動機5の回転速度が回転速度指令値ω*に追従するように制御される。
【0038】
マイコン11は、ステップS3の処理に続いて、上位ECU20から動作フラグFbを取得するとともに(ステップS4)、動作フラグFbがオン状態であるか否かを判断する(ステップS5)。マイコン11は、動作フラグFbがオン状態である場合(ステップS5:YES)、すなわち上位ECU20が電動機5の駆動を許可している場合には、電動機5の通常制御を継続する(ステップS3)。
【0039】
マイコン11は、動作フラグFbがオフ状態である場合(ステップS5:NO)、すなわち上位ECU20が電動機5の駆動を禁止している場合には、電動機5の停止制御を行うことにより(ステップS6)、電動機5を停止させる。
【0040】
なお、マイコン11は、図2に示される処理とは別に、インバータ回路4の入力電圧値Vや温度T等に基づいてインバータ回路4の動作状態を監視している。マイコン11は、インバータ回路4の入力電圧値Vや温度T等に基づいてインバータ回路4の異常が検出された場合には、電動機5の駆動制御を停止する処理も実行する。
【0041】
次に、マイコン11により実行される初期位置推定処理の手順について具体的に説明する。
【0042】
図3に示されるように、マイコン11は、まず、仮想的な電気角θevを「0°」を設定する(ステップS10)。電気角θevは、回転子の磁極位置の推定が完了するまで用いられる仮想的な電気角である。電気角θevは「0°≦θev<360°」の範囲に設定されている。電気角θevの「0°」の位置は、例えば固定座標系であるαβ座標系上の予め定められた位置に設定されている。
【0043】
マイコン11は、ステップS10に続いて、インバータ回路4を介して電動機5に基本高周波電圧Vhbを印加する(ステップS11)。基本高周波電圧Vhbとしては、例えば図4に示されるようなd軸電圧Vd1と、q軸電圧Vq1とを用いることができる。d軸電圧Vd1は、回転子の仮想的な磁極位置の方向の電圧を示す。q軸電圧Vq1は、回転子の仮想的な磁極位置の方向に直交する方向の電圧を示す。d軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1は、時間tに対して正弦波状に変化する。d軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1は以下の式f1及び式f2でそれぞれ表すことができる。なお、「ω」は周波数を示し、「Va」は振幅を示す。
Vd1=Va×sin(ω・t+π/2)
=Va×sin(θev+π/2) (f1)
Vq1=Va×sin(ω・t)
=Va×sin(θev) (f2)
【0044】
マイコン11は、電気角θevに基づき式f1及び式f2からd軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1を演算する。マイコン11は、演算されたd軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1を電気角θevを用いて2相/3相変換することにより3相電圧指令値Vu,Vv,Vwを取得するとともに、この3相電圧指令値Vu,Vv,VwからPWM信号を生成する。マイコン11は、生成されたPWM信号をプリドライバ12に送信することによりインバータ回路4を駆動させ、d軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1を基本高周波電圧Vhbとして電動機5に印加する。
【0045】
図3に示されるように、マイコン11は、ステップS11の処理に続いて、基本高周波電圧Vhbを電動機5に印加した際に電動機5に生じる基本高周波電流Ihbを電流センサ8を介して検出する(ステップS12)。具体的には、マイコン11は、基本高周波電圧Vhbを電動機5に印加した際の各相電流値Iu,Iv,Iwを電流センサ8により検出するとともに、検出した各相電流値Iu,Iv,Iwを電気角θevを用いて3相/2相変換することによりd軸電流Id、及びq軸電流Iqを演算する。マイコン11は、演算されたd軸電流Id、及びq軸電流Iqを基本高周波電流Ihbとして検出する。
【0046】
マイコン11は、ステップS12の処理に続いて、ステップS11の処理で得られた基本高周波電流Ihbの検出値から基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算する(ステップS13)。マイコン11は、例えば以下の式f3により基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算する。
|Ihb|=Id2+Iq2 (f3)
【0047】
マイコン11は、ステップS13の処理に続いて、電気角θevの回転回数が所定回数nを超えたか否かを判断する(ステップS14)。所定回数nは1以上の整数であって、予め定められた値に設定されている。マイコン11は、電気角θevの値が「0°」から増加して再度「0°」になった場合に電気角θevが1回転したと判断する。
【0048】
マイコン11は、電気角θevの回転数が所定回数n以下である場合には(ステップS14:NO)、電気角θevを所定角Δθev(>0)だけずらす(ステップS15)。具体的には、マイコン11は、電気角θevの現在の値に所定角Δθevを加算することにより電気角θevをずらす。
【0049】
マイコン11は、ステップS15の処理に続いてステップS11の処理に戻り、ステップS11〜S14の処理を再度実行する。これにより、電気角θevが所定角Δθevだけ順次ずれるとともに、マイコン11は、電気角θevが所定角Δθevだけずれる都度、基本高周波電流Ihbの検出値、及びその大きさ|Ihb|を取得する。マイコン11は、電気角θevの回転数が所定回数nに達するまで、ステップS11〜S14の処理を繰り返し実行する。これにより、例えば所定回数nが1に設定されている場合、マイコン11は、基本高周波電流Ihbの検出値、及びその大きさ|Ihb|を所定の電気角Δθev毎に一周期分取得することができる。図5及び図6は、マイコン11により取得される基本高周波電流の大きさ|Ihb|の一例を示したものである。なお、図5及び図6では、回転子の初期位置が異なる場合について例示しているため、基本高周波電流の大きさ|Ihb|の波形が異なっている。図5及び図6に示されるように、基本高周波電流の大きさ|Ihb|は、電気角θevの一周期の変化に対して極大値を2つ有している。また、回転子の初期位置が異なる場合、基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値を示す電気角θevがずれる。所定回数nが2以上の整数に設定されている場合、マイコン11は、基本高周波電流Ihbの検出値、及びその大きさ|Ihb|を所定の電気角Δθev毎に複数周期分取得することができる。
【0050】
図3に示されるように、マイコン11は、電気角θevの回転数が所定回数nを超えた場合(ステップS14:YES)、基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値となる2つの電気角θev10及び電気角θev20を選定する(ステップS16)。
【0051】
具体的には、マイコン11は、図5に示されるような基本高周波電流の大きさ|Ihb|を取得できた場合には、図5に示されるように2つの電気角θev10及び電気角θev20を選定する。マイコン11は、図6に示されるような基本高周波電流の大きさ|Ihb|を取得できた場合には、図6に示されるように2つの電気角θev10及び電気角θev20を選定する。
【0052】
一方、所定回数nが2以上の整数に設定されている場合、マイコン11は、図5及び図6に示されるような電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|を複数周期検出することができる。この場合、マイコン11は、複数周期検出した電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|から電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値を演算する。例えば「n」が2に設定されている場合、図7(A),(B)に示されるように、マイコン11は、電気角θev(a)に対応する基本高周波電流の大きさ|Ihb|として、一周期目に「|Ihb(a1)|」を取得し、2周期目に「|Ihb(a2)|」を取得したとする。この場合、図7(C)に示されるように、マイコン11は、それらの平均値「{|Ihb(a1)|+|Ihb(a2)|}/2」を演算し、その演算値を電気角θev(a)に対応する基本高周波電流の大きさ|Ihb(a)|として用いる。このような演算により、マイコン11は、電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値を取得する。マイコン11は、取得した電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値が極大値となる2つの電気角θev10及び電気角θev20を取得する。
【0053】
マイコン11は、図3に示されるステップS16の処理を実行することにより、図8に示されるような基本高周波電流Ihbの楕円状軌跡において極大値を示す2つの電気角θev10及び電気角θev20を取得することができる。
【0054】
図3に示されるように、マイコン11は、ステップS16の処理に続いて、電気角θev10及び電気角θev20から180°ずれた電気角θev11及び電気角θev21を演算する(ステップS17)。具体的には、マイコン11は、以下の式f4,f5に基づいて電気角θev11及び電気角θev21を演算する。
θev11=θev10+180° (f4)
θev21=θev20+180° (f5)
【0055】
これにより、マイコン11は、図8に示されるような4つの電気角θev10,θev11,θev20,θev21を取得することができる。本実施形態では、4つの電気角θev10,θev11,θev20,θev21が第1電気角、第2電気角、第3電気角、及び第4電気角にそれぞれ対応している。
【0056】
図3に示されるように、マイコン11は、ステップS17の処理に続いて、インバータ回路4を介して電気角θev10,θev11,θev20,θev21の位置に特定高周波電圧Vhsを印加する(ステップS18)。特定高周波電圧Vhsとしては、例えば図9(A)に示されるような時間に対して方形波状(パルス状)に変化するd軸電圧Vd2を用いることができる。具体的には、d軸電圧Vd2は、電圧の印加開始時t10から所定時間T10が経過する時刻t11までの期間において所定の電圧値Vd20に設定されるとともに、時刻t11以降は「0」に設定される。なお、q軸電圧Vq2は「0」に設定されている。マイコン11は、d軸電圧Vd2及びq軸電圧Vq2を各電気角θev10,θev11,θev20,θev21を用いて2相/3相変換することにより3相電圧指令値Vu,Vv,Vwを取得するとともに、この3相電圧指令値Vu,Vv,VwからPWM信号を生成する。マイコン11は、生成されたPWM信号をプリドライバ12に送信することによりインバータ回路4を駆動させ、電気角θev10,θev11,θev20,θev21の位置に特定高周波電圧Vhsを印加する。
【0057】
電気角θev10,θev11,θev20,θev21の位置に特定高周波電圧Vhsが印加されると、図9(B)に示されるように電動機5の電流Ihsが変化する。この電流Ihsが特定高周波電流に対応している。本実施形態では、特定高周波電流Ihsはd軸電流である。特定高周波電流Ihsは、d軸電圧Vd2が所定の電圧値Vd20に設定されている期間において徐々に増加して最大値Ihsmaxを示した後、「0」付近に減少する。
【0058】
図3に示されるように、マイコン11は、ステップS18の処理に続いて、各電気角θev10,θev11,θev20,θev21の位置に特定高周波電圧Vhsを印加した際の特定高周波電流Ihs10,Ihs11,Ihs20,Ihs21を電流センサ8を介して検出する(ステップS19)。本実施形態では、特定高周波電流Ihs10,Ihs11,Ihs20,Ihs21のそれぞれの検出値が、第1特定高周波電流の検出値、第2特定高周波電流の検出値、第3特定高周波電流の検出値、第4特定高周波電流の検出値にそれぞれ対応している。
【0059】
マイコン11は、ステップS19の処理に続いて、特定高周波電流Ihs10,Ihs11,Ihs20,Ihs21のそれぞれの大きさ|Ihs10|、|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|を演算する(ステップS20)。具体的には、マイコン11は、図9(B)に示されるように変化する特定高周波電流Ihsの検出値を取得した場合、その最大値Ihsmaxを特定高周波電流の大きさ|Ihs|として演算する。マイコン11は、このような演算を、各特定高周波電流Ihs10,Ihs11,Ihs20,Ihs21の検出値に対して行うことにより、電気角θev10,θev11,θev20,θev21毎に特定高周波電流の大きさ|Ihs10|,|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|を演算する。
【0060】
図3に示されるように、マイコン11は、ステップS20の処理に続いて、特定高周波電流の大きさ|Ihs10|,|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|を比較することにより磁極位置の正のd軸方向を推定する(ステップS21)。具体的には、マイコン11は、特定高周波電流の大きさ|Ihs10|、|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|のうち、最大値のものを選定する。マイコン11は、選定された特定高周波電流の大きさに対応する電気角の位置を磁極位置の正のd軸方向と推定する。例えば特定高周波電流の大きさ|Ihs10|が最大値である場合、マイコン11は、特定高周波電流の大きさ|Ihs10|に対応する電気角θev10の位置が磁極位置の正のd軸方向であると推定する。
【0061】
マイコン11は、ステップS21の処理に続いて、推定された磁極位置の正のd軸方向に基づいて回転子の初期位置を推定する(ステップS22)。例えば、マイコン11は、推定された磁極位置の正のd軸方向に対応する電気角と、固定座標系に対して電気角θevの「0°」の位置がなす電気角とから回転子の初期位置を演算する。
【0062】
以上説明した本実施形態の電動機5のECU10によれば、以下の(1)〜(3)に示される作用及び効果を得ることができる。
【0063】
(1)本実施形態のECU10では、各電気角θev10,θev11,θev20,θev21の位置に印加される特定高周波電圧Vhsの電圧値Vd20を大きくすれば、各特定高周波電流の大きさ|Ihs10|,|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|の差が大きくなる。そのため、磁極位置の正のd軸方向の推定精度を高めることができる。これにより、高周波電圧を電気角の全領域に亘って大きくする必要のある従来の電動機のECUと比較すると、例えばインバータ回路4や電動機5の発熱を抑制することができる。また、発熱の抑制により、放熱対策を含めた装置の大型化を回避することができる。すなわち、本実施形態のECU10では、従来の電動機のECUと比較すると、装置の小型化やコストの低減を図ることができる。なお、高周波電圧を電気角の全領域に亘って大きくする必要のある従来の電動機のECUと比較すると、消費電力を低減させることも可能である。
【0064】
(2)マイコン11は、基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値となる2つの電気角θev10及び電気角θev20を取得する。また、マイコン11は、2つの電気角θev10及び電気角θev20から180°ずれた電気角θev11及び電気角θev21を演算する。そして、マイコン11は、4つの電気角θev10,θev11,θev20,θev21の中から磁極位置の正のd軸方向を推定する。これにより、電流楕円軌跡から得られる電気角だけで磁極位置の正のd軸方向を推定する場合と比較すると、磁極位置の正のd軸方向をある程度特定した電気角で推定するため、推定精度を向上させることができる。また、4つの電気角θev10,θev11,θev20,θev21は、磁極位置のd軸方向に対応しているため,特定高周波電流の大きさを比較するのに適切な特定高周波電圧を印加することができるため,磁極位置の正のd軸方向の推定精度を向上させることができる。
【0065】
(3)マイコン11は、図3のステップS14の処理で用いられる所定回数nが2以上の整数に設定されている場合、複数周期検出した電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|から電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値を演算する。また、マイコン11は、電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|の平均値が極大値となる2つの電気角θev10及び電気角θev20を選出することとした。これにより、所定回数nが「1」に設定されている場合、すなわち電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|を一周期分しか取得しない場合と比較すると、基本高周波電流の大きさ|Ihb|の2つの極大値をより精度良く選定することができる。結果的に磁極位置の正のd軸方向の推定精度を向上させることができる。
【0066】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
図3のステップS11で用いられる基本高周波電圧Vhbは、d軸電圧Vd1及びq軸電圧Vq1で表されるものに限らず、適宜変更可能である。例えば、基本高周波電圧Vhbは、例えば固定座標系であるαβ座標系上のα軸電圧Vα及びβ軸電圧Vβで表されるものであってもよい。α軸電圧Vα及びβ軸電圧Vβは以下の式f6及び式f7でそれぞれ表すことができる。
Vα=V×sin(θev+π/2) (f6)
Vβ=V×sin(θev) (f7)
【0067】
図3のステップS15において電気角θevをずらす方法は、電気角θevに所定角Δθevを加算する方法に限らず、例えば電気角θevから所定角Δθevを減算する方法等、適宜の方法を採用することができる。
【0068】
図3のステップS13において基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算する方法は、式f3に基づく方法に限らず、適宜変更可能である。例えば、マイコン11は,以下の式f8に基づいて基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算してもよい。
|Ihb|=√(Id2+Iq2) (f8)
【0069】
また、マイコン11は、d軸電流Idや、その二乗値Id2を基本高周波電流の大きさ|Ihb|として用いてもよい。さらに、図3のステップS13において基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算する方法は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを用いる方法に限らず、適宜変更可能である。例えば、マイコン11は、固定座標系であるαβ座標系上のα軸電流及びβ軸電流を用いて基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算してもよい。また、マイコン11は、固定座標系である三相座標系(UVW座標系)の各相電流値を用いて基本高周波電流の大きさ|Ihb|を演算してもよい。同様に、図3のステップS20の特定高周波電流の大きさ|Ihs10|、|Ihs11|,|Ihs20|,|Ihs21|を演算する方法も適宜変更することも可能である。
【0070】
・基本高周波電圧Vhbの周波数ωは、電動機5を駆動させるために用いられる駆動電圧の周波数よりも高い周波数に設定することが有効である。これにより、回転子の初期位置を推定するために用いられる電圧と、電動機5を駆動させるために用いられる電圧とを周波数で分離することができる。よって、マイコン11は、図2のステップS2の起動制御を実行する初期の段階で、初期位置推定処理と電動機5の起動制御とを分離して実行することができるため、初期位置推定処理から起動制御への切り替えをスムーズに行うことができる。
【0071】
・マイコン11は、図3に示されるステップS11〜ステップS16までの処理を複数回行うとともに、その複数回の処理結果に基づいて基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値となる2つの電気角θev10及び電気角θev20を選定してもよい。換言すれば、マイコン11は、磁極位置のd軸方向の推定を複数回行うとともに、その推定結果に基づいて磁極位置のd軸方向に対応する2つの電気角θev10及び電気角θev20を選定してもよい。これにより、磁極位置のd軸方向に対応する電気角の推定精度を向上させることができる。
【0072】
・マイコン11は、図2に示されるステップS1の初期位置推定処理を複数回実行するとともに、その複数回の処理の推定結果に基づいて回転子の初期位置を推定してもよい。これにより、回転子の初期位置、換言すれば磁極位置の正のd軸方向の推定精度を向上させることができる。
【0073】
・マイコン11は、電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値を示す2つの電気角θev10及び電気角θev20のいずれか一方のみに基づいて磁極位置の正のd軸方向を判定してもよい。例えば、図10に示されるように、マイコン11は、電気角Δθev毎の基本高周波電流の大きさ|Ihb|が極大値を示す1つの電気角θev10を選定する(ステップS23)。具体的には、マイコン11は、極大値を示す一方の電気角に対応する基本高周波電流の大きさと、極大値を示す他方の電気角に対応する基本高周波電流の大きさとを比較し、より大きい基本高周波電流に対応する電気角を電気角θev10として選出する。すなわち、電気角θev10は、基本高周波電流の大きさ|Ihb|の最大値に対応する電気角である。マイコン11は、ステップS23の処理に続いて、図3のステップS17〜S20の処理に準じたステップS24〜S27の処理を実行した後、特定高周波電流の大きさ|Ihs10|,|Ihs11|を比較することにより磁極位置の正のd軸方向を推定する(ステップS21)。このような方法であっても、磁極位置の正のd軸方向を推定することは可能である。
【0074】
・マイコン11は、電気角θev11として、電気角θev10から所定角度θαだけずれた電気角を用いてもよい。所定角度θαは、例えば180°から若干ずれた角度である。同様に、マイコン11は、電気角θev21として、電気角θev20から所定角度θαだけずれた電気角を用いてもよい。
【0075】
・基本高周波電圧Vhbは、時間に対して正弦波状に変化する高周波電圧に限らず、任意の波形を有する高周波電圧を用いることができる。要は、基本高周波電圧Vhbは、磁極位置のd軸方向に対応する電気角を判定することのできる高周波電圧であればよい。
【0076】
・特定高周波電圧Vhsは、時間に対して方形波状に変化する高周波電圧に限らず、例えば正弦波状や台形状等の任意の波形を有する高周波電圧を用いることができる。要は、特定高周波電圧Vhsは、磁極位置のd軸方向に対応する電気角の複数の候補の中から磁極位置の正のd軸方向に対応する電気角を選定することのできる高周波電圧であればよい。
【0077】
・実施形態の電動機5のECU10の構成は、圧縮機6を駆動させるための制御システム1に限らず、任意の機器を駆動させるための制御システムに適用することができる。なお、車載用電動圧縮機は、広い電圧範囲を高効率で駆動可能にするために、突極比が比較的小さい設計になっている場合が多い。実施形態の電動機5のECU10の構成は、このような突極比の小さい同期電動機に用いると特に効果的である。
【0078】
・本発明は上記の具体例に限定されるものではない。すなわち、上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置や条件等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0079】
5:電動機
8:電流センサ
10:ECU(制御装置)
11:マイコン(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12