特許第6241461号(P6241461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241461
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20171127BHJP
   B22D 41/54 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B22D11/10 330T
   B22D41/54
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-166633(P2015-166633)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-35728(P2017-35728A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2016年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-158930(P2015-158930)
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】大川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】森脇 宏治
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−314904(JP,A)
【文献】 特開昭51−033725(JP,A)
【文献】 特開平10−146655(JP,A)
【文献】 特開2000−042696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10,41/50−41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼と接するノズル内壁の一部または全部にノンカーボン材から構成される内孔体を配置してなる鋼の連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法において、ノンカーボン材がアルミナ含有量40〜80質量%、シリカ含有量20〜60質量%のアルミナ−シリカ質耐火物であり、かつバインダーとしてSiOとRO(R:アルカリ金属)のモル比(SiO/RO)が0.8〜3.8範囲内にあり、珪酸アルカリ水溶液の珪酸アルカリ濃度が5〜40質量%である珪酸アルカリ水溶液を、ノンカーボン材に対する珪酸アルカリ水溶液の添加量が外掛けで2〜15質量%で添加し、焼成したものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造工程に使用される連続鋳造用浸漬ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、溶鋼をタンディッシュからモールドへ導入するため、耐火物から構成される連続鋳造用浸漬ノズル(以下、単に「ノズル」と記載する)が用いられる。ノズルは、アルミナ、シリカおよびジルコニアなどの酸化物と黒鉛からなる複合材料から構成されるのが一般的である。しかしながら、このような複合材料から構成されるノズルをAlキルド鋼の鋳造に適用する場合は、溶鋼と接するノズル内壁にアルミナ付着層が形成され、ノズル内壁が閉塞する現象がしばしば生じる。この現象は連続鋳造の生産性を低下させ、また、操業の安定性および鋼の品質を悪化させるので、ノズル内壁の閉塞を防止することが必要となる。
【0003】
ノズル内壁の閉塞を防止するため、溶鋼ヘアルゴンなどの不活性ガスを吹き込む方法が広く採用されている。しかしながら、この方法は鋼鋳片に気泡欠陥を起こしやすいという問題がある。それゆえ、ノズル内壁へのアルミナの付着を防止するためのノズルを構成する耐火材料についての検討が従来からなされている。
【0004】
「ノズル内壁を構成する耐火材料をアルミナ付着物と反応させて低融点の液相を生成させ、この液相が溶鋼の流れとともに流出していくとすれば、ノズル閉塞が生じない」という考え方が従来から知られている。しかしながら、仮にノズルの稼動面に低融点の液相が生成し、稼動面が溶鋼へ流出するとすれば、ノズルの溶損が起こり、且つ溶鋼へ大型の介在物を発生させるという問題が生じる。したがって、この考え方を実際に適用することは難しい。
【0005】
例えば、特許文献1には、鋼の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、内孔部壁面、吐出孔壁面および少なくともパウダーライン部に至るまでの本体下部側の外壁面を、10〜50wt%のC、15〜30wt%のCaO、35〜65wt%のZrOを含む組成の耐火物原料から得られる耐火物で構成したことを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズルが開示されている。特許文献1は、ノズル本体下部側の外壁面に、CaOを含有する耐火物原料を配置することで、非金属介在物であるAlと反応させて、低融点化合物を作ることでアルミナの付着を抑制しようとするものであり、耐食性を維持しつつ、適度に溶損してアルミナの付着を抑制しようとするものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1のノズルでは、十分にアルミナ付着抑制を図ることができなかった。その理由は、非特許文献1に示されているように、耐火物中のZrO−CaO原料の鉱物相がZrOとCaO・ZrOであり、通常の鋳造温度の1550〜1600℃の範囲では、アルミナ付着物と反応しても液相は生成しないためである。そのため、特許文献1のノズルでノズル内壁の閉塞を防止することは困難であったが、このような評価が確定するまでの一定期間使用されてきた経緯がある。
【0007】
一方、アルミナ介在物付着機構が研究され、従来のノズルを構成するシリカおよび黒鉛を含有する耐火材料では、SiOとCが高温で反応してCOおよびSiOガスを発生させ、これらのガスがノズル内部からノズルと溶鋼の界面へ拡散し、そこで溶鋼中のAl成分と反応してノズルの稼動面に網目状のアルミナ層を生成させる。この網目状アルミナ層が溶鋼中アルミナ介在物粒子付着の起点になりやすく、その生成によってノズル閉塞が生じ易いということが判明した。
【0008】
このような知見から、ノズル内壁に、黒鉛の配合量を低減するか、もしくは黒鉛を含有しない耐火材料からなる内孔体を配置するノズルが提案されている。このような黒鉛の配合量を低減するか、もしくは黒鉛を含有しない耐火材料は、カーボンレス材、炭素レス材、ノンカーボン材などと呼ばれている。
【0009】
例えば、特許文献2には、本体耐火材および溶鋼と接する部分の耐火材から構成される鋼の連続鋳造耐火部材の少なくとも溶鋼と接する部分の耐火材として使用される耐火物が、CaO:5〜40質量%、SiO:2〜30質量%、ZrO:35〜80質量%で、カーボン:5質量%未満(ゼロを含む)であることを特徴とする鋼の連続鋳造耐火部材用耐火物が開示されている。また、特許文献2の実施例では、バインダーとして高残炭量のフェノール樹脂および残炭量の低いリグニンスルホン酸を用いた例が示されている。更に、特許文献3には、ドロマイトクリンカー、またはドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーが60〜97質量%と、ジルコニアが3〜40質量%とからなり、しかもCaO成分の含有量W1とMgO成分の含有量W2との質量比W1/W2が、0.33〜3.0になるように配合し、バインダーを添加して混練、成形、熱処理して得られる耐火物を少なくとも溶鋼と接する部位に配置したジルコニア含有難付着性連続鋳造ノズルが開示されている。また、特許文献3の実施例では、バインダーとしてカーボンブラックとフェノールレジンが用いられている。しかしながら、特許文献2および3に記載されている耐火材料を用いても、アルミナ介在物の付着を減ずることはできたが、その効果は十分とは言い難いものであった。
【0010】
一方、内孔体に、CaO化合物を含有しないノンカーボン材料として、例えば、特許文献4には、鋼の連続鋳造用ノズルにおいて、少なくとも溶鋼と接触するノズルの内孔部分が、BN含有ノン・カーボン耐火物で形成されていることを特徴とする連続鋳造用ノズル(請求項1);前記BN含有ノン・カーボン耐火物が、BN含有量:0.5〜10重量%、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、スピネルの少なくとも一種以上の耐火性骨材の含有量:90〜99.5重量%からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用ノズル(請求項2)が開示されている。また、特許文献4では、バインダーとして、フェノール樹脂を使うことが示されている。更に、特許文献5には、鋼の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、アルミナ−カーボン質ノズル本体の内周壁面に、35〜55質量%のシリカ粒および45〜65質量%のムライト粒から構成され、前記シリカ粒の粒度構成について0.2mm以下のものが80質量%以上で平均粒度が50〜200μmであり、前記ムライトの粒度構成について0.5mm以下のものが80質量%以上で平均粒度が10〜100μmであり、不可避不純物の合計量が5質量%以下である耐火物の内層を配置してなることを特徴とする鋼の連続鋳造用浸漬ノズルが開示されている。また、特許文献5の実施例においては、バインダーとしてフェノール樹脂が用いられている。しかしながら、特許文献4および5の所謂ノンカーボン材は、いずれも付着防止効果が十分とは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−138054号公報
【特許文献2】特開2003−40672号公報
【特許文献3】特開2006−68805号公報
【特許文献4】特開2000−158104号公報
【特許文献5】特開2010−253546号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】永田和宏:材料とプロセスVol.8(1995)、71−74頁、「CaO−ZrO2−Al2O3系の液相生成反応機構」、(社)日本鉄鋼協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、溶鋼へのガス吹きが不要で、ノズルの溶損を発生させることなく、ノズルの閉塞を十分に防止できる連続鋳造用浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、種々の耐火物と、Alキルド鋼の反応実験を行い、耐火物稼動面における付着物の生成を抑制する効果が高い材質について検討した。その結果、付着物の生成に対して、耐火物の組成だけでなく、出発原料の1つであるバインダーの種類も大きな影響を与えることを見出した。
ノズル製造において、バインダーとしてフェノール樹脂が一般的に使われている。フェノール樹脂は、ノズルを還元または不活性(非酸化)雰囲気で焼成中にカーボンボンドを形成し、ノズルに十分な耐スポーリング性を付与する。詳細には、約600℃以上でフェノール樹脂中のHO、H、COやCHなどのガス成分が揮発し、その残りはボンドの役割を果たすカーボンになる。それ故、特許文献2ないし5に開示されているノンカーボン材おいても、バインダーとしてフェノール樹脂が適用されている。
しかしながら、上述のように、フェノール樹脂は最終的には耐火物中に炭素を残すことになる。樹脂由来の炭素は、「残炭」と称されている。フェノール樹脂の残炭率は約40質量%、耐火物へのフェノール樹脂の添加量は5〜10質量%であることから、耐火物中の残炭含有量は2〜4質量%程度となる。この残炭含有量は、モル比率に換算すると約15モル%以上と非常に高い量といえる。また、残炭は、微細な炭素粒子から構成されるもので、反応性も非常に高い。したがって、残炭を含む耐火物では、黒鉛不含のノンカーボン材であっても、高温で耐火物中の残炭が、シリカなどの酸化物と反応して多量のCOなどのガスを発生させる。それ故、特許文献2ないし5に開示されているノンカーボン材は、黒鉛等の炭素原料を未添加であっても、耐火物がカーボンを含まないことを意味するものではなく、即ち、バインダー起因のカーボンについて考慮されておらず、単に、バインダー起因以外のカーボンを含まない、あるいは黒鉛などの炭素原料を含有しないということを意味しているに過ぎない。このため、ノンカーボン材と称する耐火物であっても、バインダー起因のカーボンを含む材料では、前述のような炭素原料を含有する耐火物と溶鋼の反応の場合と同様に、残炭を有する耐火物の溶鋼と接している稼動面に溶鋼中アルミナ介在物付着の起点となる網目状アルミナ層が形成される。
【0015】
そこで、本発明者らは、ノンカーボン材において、還元または不活性(非酸化)雰囲気下で焼成した際カーボンが残留しない種々のバインダーについて、探索、検討した。その結果、珪酸アルカリ水溶液をバインダーとしたノンカーボン材料、特に、珪酸アルカリ水溶液をバインダーとしたアルミナ−シリカ系ノンカーボン材質耐火物の付着防止効果が極めて大きいことを見出した。本発明は、これらの知見を基になされたものである。
【0016】
即ち、本発明は、溶鋼と接するノズル内壁の一部または全部にノンカーボン材から構成される内孔体を配置してなる鋼の連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法において、ノンカーボン材がアルミナ含有量40〜80質量%、シリカ含有量20〜60質量%のアルミナ−シリカ質耐火物であり、かつバインダーとしてSiOとRO(R:アルカリ金属)のモル比(SiO/RO)が0.8〜3.8範囲内にあり、珪酸アルカリ水溶液の珪酸アルカリ濃度が5〜40質量%である珪酸アルカリ水溶液を、ノンカーボン材に対する珪酸アルカリ水溶液の添加量が外掛けで2〜15質量%で添加し、焼成したものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のノズルによれば、珪酸アルカリ水溶液をバインダーとしたノンカーボン材を、溶鋼と接するノズル内壁の一部または全部に適用することによって、溶鋼へのガス吹きが不要で、また、ノズルの溶損を発生することなく、ノズルの閉塞を十分に防止できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のノズルの配材パターンの一例を示す断面図である。
図2】本発明のノズルの配材パターンの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のノズルは、溶鋼と接するノズル内壁の一部または全部に、バインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いたノンカーボン材から構成される内孔体を配置してなることを特徴とするものである。内孔体のバインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いることで、アルミナ介在物の付着を抑制することができる理由は、下記の3つの効果によると考えられる:
第1に、還元または不活性(非酸化)雰囲気での焼成でも、バインダー由来の残炭を生じないことである。炭素質原料に由来する炭素分や、バインダーに由来する炭素分を含まないため、ノズル使用中に内孔体からCOなどのガスが発生することはなく、前述したアルミナ介在物付着の起点となる網目状アルミナ層が形成されることがない;
第2に、内孔体内の通気性である。一般的に使用されるノズルにおいては、ノズルの本体およびスラグラインがアルミナ−黒鉛質やジルコニア−黒鉛質耐火物で構成されているため、高温下では、内孔体内でCOなどのガスが発生する。このようなガスは内孔体の気孔を通過して溶鋼の方へ拡散し、内孔体の稼動面に網目状アルミナ層を生成させる。しかし、珪酸アルカリ水溶液をバインダーに用いた場合には、溶鋼の温度で珪酸アルカリが内孔体中の酸化物と反応して溶融相を生成し、稼動面付近の気孔を塞ぎ、通気性を低下させることができる。そのため、ノズル本体およびスラグラインでCOなどのガスが発生したとしても、このようなガスが内孔体を通過して溶鋼へ拡散することはなく、ガスによる網目状アルミナ層の生成は抑制される;
第3に、内孔体と溶鋼との濡れ性である。内孔体と溶鋼との濡れ性が悪い場合は、稼動面へ接近してきたアルミナ介在物が稼動面に付着しやすいことが知られている。一方、珪酸アルカリをバインダーとして用いると、上述のように、溶融相を生成する。この溶融相の生成によって、内孔体稼動面と溶鋼の濡れ性が良くなる。このため、溶鋼中のアルミナ介在物が稼動面へ付着し難くなる。
【0022】
第1の効果は、残炭の少ないバインダーを探索したのであるから当然である。しかし、第1の効果だけでは不十分であり、第2、第3の効果と相俟って珪酸アルカリ水溶液をバインダーとして使用することによるアルミナ付着抑制効果が発揮される。
【0023】
以下、本発明のノズルについて詳述する。
まず、本発明のノズルの溶鋼と接するノズル内壁の一部または全部に配置されるノンカーボン材とは、黒鉛などの炭素原料を配合しない材質を意味するものである。
【0024】
次に、珪酸アルカリ水溶液は、SiOとRO(R:Na、K、Liなどのアルカリ金属)のモル比(SiO/RO)が0.8〜3.8の範囲内にあることが好ましく、1.0〜3.0の範囲内にあることがより好ましい。ここで、SiO/ROモル比が0.8未満であると、ノズル使用中に形成される内孔体内の溶融相の生成量が多くなり過ぎ、また、溶融相の粘度が低くなり過ぎて、稼動面が溶鋼へ流失してしまう恐れがあるため好ましくない。一方、SiO/ROモル比が3.8を超えると、溶融相の生成量が少な過ぎて、ノズル閉塞が生じることがあるため好ましくない。これは、内孔体の緻密性が低下して本体からのCOなどのガスが内孔体を通過して溶鋼へ拡散することや、内孔体の稼動面と溶鋼の濡れ性が悪くなることによるものである。
【0025】
また、珪酸アルカリ水溶液の珪酸アルカリ濃度は、5〜40質量%の範囲内にあることが好ましく、8〜35質量%の範囲内にあることがより好ましい。珪酸アルカリ濃度が5質量%未満であると,稼動面における溶融相の生成量が少な過ぎて、ノズル閉塞が生じることがあるため好ましくない。また、珪酸アルカリ濃度が40質量%を超えると、内孔体稼動面における溶融相の生成量が多くなり過ぎて、稼動面が溶鋼へ流失してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0026】
珪酸アルカリ水溶液の添加量は、ノンカーボン材に対して外掛けで2〜15質量%の範囲内であることが好ましく、3〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。珪酸アルカリ水溶液の添加量が2質量%未満であると、ノズル使用中に内孔体稼動面生成する溶融相の量が少な過ぎて、閉塞防止効果が低下するために好ましくない。また、珪酸アルカリ水溶液の添加量が15質量%を超えると、溶融相の生成量が多くなり過ぎて、稼動面が溶鋼へ流失してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0027】
なお、珪酸アルカリ水溶液には、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムおよび珪酸リチウムなどの水溶液があり、そのいずれを用いても差し支えないが、安価な珪酸ナトリウム水溶液および珪酸カリウム水溶液を使用することがより望ましい。
【0028】
また、ノンカーボン材は、アルミナ含有量が40〜80質量%、好ましくは45〜75質量%、シリカ含有量が20〜60質量%、好ましくは25〜55質量%のアルミナ−シリカ質耐火物であることが好ましい。黒鉛などの炭素原料は不含である。アルミナ−シリカ質耐火物は、溶鋼の温度で、珪酸アルカリとアルミナ、シリカが反応して生成される溶融相の量、粘度および稼動面と溶鋼の濡れ性がいずれも好適となり、それによって、内孔体の稼動面が溶鋼へ流失せず、同時に良好な付着防止効果を示す。アルミナ含有量が40質量%未満、即ち、シリカ含有量が60質量%を超えると、溶融相の生成量が多くなり過ぎて、内孔体が溶鋼へ流失する恐れがあるため好ましくない。アルミナ含有量が80質量%を超えると、即ち、シリカ含有量が20質量%未満であると、溶融相の生成量が少な過ぎて、ノズル閉塞が生じるため好ましくない。
【0029】
ノンカーボン材のアルミナおよびシリカ成分含有の骨材原料としては、コランダム、ムライト、石英、ロー石やバン土頁岩などの合成原料および天然原料を使用することができる。
【0030】
また、ノンカーボン材には、必要に応じて他の成分の原料を添加することもできるが、添加量は、酸化物(例えば、ZrO、Cr等)では10質量%以下、好ましくは8質量%以下、非酸化物(例えば、Si、SiC、BN等)では5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。
【0031】
なお、上記原料の中に工業的に不可避不純物が含まれるが、不可避不純物の含有量は3質量%以下、好ましくは1質量%以下である。特に、炭素成分のような不可避不純物の含有量は、1質量%以下でなければならない。
【0032】
上記の他の成分および不可避不純物の含有量がそれぞれの制限値を超えると、ノンカーボン材の付着防止効果が低下することがある。
【0033】
バインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いたノンカーボン材から構成される内孔体の厚みは特に限定されるものではないが、例えば、2〜15mmの範囲内が好ましく、4〜10mmの範囲内が特に好ましい。内孔体の厚みが2mmであると、内孔体がノズル使用中にノズルから剥離するため好ましくない。また、内孔体の厚みが15mmを超えると、内孔体が大きな熱膨張を生じてノズルがスポールするため好ましくない。
【0034】
本発明のノズルは、原料秤量、混練、成形、乾燥、焼成および加工などという通常のノズル製造プロセスにて製造することができる。珪酸アルカリ水溶液は、内孔体用ノンカーボン材の原料を混合する際に添加する。ノズルの成形としては、例えば、同時成形方法を採用することができる。即ち、ノズルの本体(例えば、アルミナ−黒鉛質)、スラグライン(例えば、ジルコニア−黒鉛質)および内孔体用各原料をそれぞれ混練し、得られた練土を所定の配置位置となるようにゴム枠内に充填した後、CIP法にて一体の筒状体となるように同時加圧成形する方法である。また,予め内孔体を成形し、得られた成形体を所定の配置位置となるようにゴム枠内に設置した後、本体およびスラグラインの練土を枠内に充填し、CIP法にて一体の筒状体となるように加圧成形するという方法も採用できる。
【0035】
また、ノズルの焼成は、大気、還元または不活性(非酸化)雰囲気にて行うことができる。焼成温度は、700〜1200℃、好ましくは800〜1100℃の範囲内である。
【0036】
なお、本発明のノズルの配材パターンの一例を図1および2に示す。図1および2は、ノズルの断面図であり、1は本体(母材)、2は内孔体、3はスラグラインをそれぞれ示すものであり、内孔体(2)に、バインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いたノンカーボン材が適用される。ここで、図1は、溶鋼と接するノズル内壁の全面にバインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いたノンカーボン材を使用した内孔体(2)を配置した例であり、図2は、溶鋼と接するノズル内壁の一部にバインダーとして珪酸アルカリ水溶液を用いたノンカーボン材を使用した内孔体(2)を配置した例である。なお、本発明のノズルの配材パターンは、図1および2に限定されるものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明のノズルを更に説明する。
表1〜3に示す配合割合にて、珪酸アルカリ水溶液をバインダーとしたノンカーボン材で内孔体を作成して溶鋼浸漬試験を行い、溶損の有無並びにアルミニウム介在物の付着量について評価した。
なお、配合用原料として、コランダム(純度:99.5質量%)、石英(純度99.6質量%)、ムライト(Al含量:72質量%、SiO含量:28質量%)および鱗状黒鉛(純度:98.5質量%)を用いた。
また、比較品用のバインダーである燐酸アルミニウム水溶液は、燐酸アルミニウム濃度20質量%のものを用い、フェノール樹脂は、残炭率40%のものを用い、リグニンスルホン酸は、残炭率5%のものを用いた。
【0038】
比較品1〜4の試験片は、一般的な混合→成形→還元雰囲気での焼成(1000℃)→加工の工程で作成され、寸法は30×30×200mmであった。これに対し、本発明品および比較品5、6は、成形の段階で、比較品2の配合を母材として、各配合品がその表面5mmに配置されるように成形し、焼成して得られた試験片を用いた。つまり、溶鋼と接する部分を本発明品または比較品5,6の配合となるように配置した。これらの場合も寸法は30×30×200mmであった。
【0039】
溶鋼浸漬試験は以下のように行った:
高周波炉を用いて20kgのAlキルド鋼(成分:C0.003質量%、Si0.01質量%、Mn0.15質量%、Al0.04質量%、Ti0.02質量%)をアルゴン雰囲気中で溶解し、1570℃に保持してから、試験片を100mmの深さで浸漬した。1時間後試験片を引き上げ、冷却して試験片の状況(溶損、付着)を調べた。
試験片の断面寸法が試験前より小さくなった場合、試料の溶損が生じたと判断した。この場合、溶融石英材質(比較品1)の溶損厚みを基準(1.0)として各試験片の溶損指数を算出した(浸漬部の中間位置における溶損厚みを使用)。すなわち、
溶損指数=(各試験片の溶損厚み/比較品1の溶損厚み)
溶損指数が小さいほど、該材質の耐溶損性が高くなると判断した。
一方、試験後試験片の断面寸法が試験前より大きくなった場合、付着層が形成されたと判断した。この場合は,通常のフェノール樹脂をバインダーとしたアルミナ(55質量%)−シリカ(20質量%)−黒鉛(25質量%)材質(比較品2)の付着層厚みを基準(1.0)として試験片の付着指数を算出した(浸漬部の中間位置における付着厚みを使用)。すなわち、
付着指数=(各試験片の付着層厚み/比較品2の付着厚み)
付着指数が小さいほど、材質の耐付着性が高くなると判断した。
溶鋼浸漬試験に使用したAlキルド鋼はAl成分を0.04質量%含有するため、一般的なアルミナ−シリカ−黒鉛質では、溶鋼と耐火物の反応による網目状アルミナ層の生成および溶鋼中アルミナ介在物の付着に起因して、試験片表面にアルミナ付着層が形成される。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
溶鋼浸漬試験の結果から、本発明品は、いずれの場合も溶損量が少なく、また、アルミナの付着が抑制されていることがわかる。
これに対し、比較品1は、溶融石英質であり、溶鋼と反応して溶損するため、アルミナの付着は起こらないが、溶損が大きく好ましいものではなかった。
比較品2は、一般的に使用されるアルミナ−シリカ−黒鉛質であり、黒鉛を25質量%含有するとともに、フェノール樹脂を外掛け8質量%添加して成形焼成しているため、耐食性は十分であるが、アルミナの付着が多く好ましいものではなかった。
比較品3は、所謂ノンカーボン材で、黒鉛を含有しないが、フェノール樹脂を外掛け8質量%添加して成形焼成しているため、黒鉛を含有する比較品2と比べればアルミナの付着量は低減しているものの、十分とは言い難いものであった。
比較品4は、バインダーとして特許文献2に例示されているリグニンスルホン酸を用いた例であるが、溶損指数が大きくなった。これは、還元焼成後にバインダーが消失して十分な結合強度が得られず、耐火物粒子が流出したことによると判断される。
比較品5は、ノンカーボン材のバインダーを無機バインダーである燐酸アルミニウムとした場合であるが、アルミナの付着が認められた。溶鋼と接する部分では原料及びバインダー起因の炭素成分を含まないため、アルミナの付着を低減できるものの、珪酸アルカリ水溶液の効果で説明したとおり、通気性を低下する効果と溶鋼との濡れ性を改善する効果が発揮できないために、アルミナ付着を抑制できなかったものである。
比較品6は、ノンカーボン材のバインダーとしてフェノール樹脂と珪酸ナトリウムを併用した場合である。アルミナの付着が認められたが、これはフェノール樹脂起因の残炭がアルミナ付着に影響したためである。
【0044】
次に、本発明品18を内孔体とし、図1に示す配材パターンを有する浸漬ノズルをAlキルド鋼の実機鋳造に用いた。浸漬ノズルの母材には、比較品2を用い、スラグラインには、ジルコニア87質量%、カーボン13質量%からなる耐火物を用いた。なお、内孔体の厚さは5mmとした。
また、比較品の浸漬ノズルは、比較品3を内孔体としたもので、浸漬ノズルの母材には、比較品2を用い、スラグラインには、ジルコニア87質量%、カーボン13質量%からなる耐火物を用いた。なお、内孔体の厚さは5mmとした。2ストランドの連続鋳造機において、本発明品および比較品の浸漬ノズルを同一タンディッシュの鋳造に使用し、使用後内孔体稼動面の付着状態を調査した。溶鋼は低炭アルミキルド鋼であった。
8chの溶鋼(2400t)を鋳造した結果、比較品の浸漬ノズルには、内孔体稼動面に厚み14mmの付着層が形成されているのに対して、本発明品の浸漬ノズルの内孔体は溶損と付着物ともほとんど生じなかった。
このように、本発明品の浸漬ノズルの優位性は明確である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のノズルは、特に、ノズル閉塞が起こりやすい鋼種の鋳造に適したものであり、例えば、Alキルド鋼の他、Ti含有鋼,Zr含有鋼、REM(レア・アース)含有鋼などの連続鋳造に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1:本体(母材)、2:内孔体、3:スラグライン
図1
図2