特許第6241472号(P6241472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241472
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】内面品質に優れた継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 25/04 20060101AFI20171127BHJP
   B21B 19/04 20060101ALI20171127BHJP
   B21B 25/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B21B25/04 B
   B21B19/04
   B21B25/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-213743(P2015-213743)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-107338(P2016-107338A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-243271(P2014-243271)
(32)【優先日】2014年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】市野 健司
(72)【発明者】
【氏名】岩井 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 城吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−043215(JP,A)
【文献】 特開2013−043214(JP,A)
【文献】 特開平10−130687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 25/00,25/04,19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管素材に、穿孔圧延用工具を用いて穿孔圧延を施し継目無鋼管とするに当たり、
前記穿孔圧延用工具を、スケール付け熱処理を施し表面に酸化スケール被膜を形成した穿孔圧延用工具とし、
前記スケール付け熱処理を施した後で前記穿孔圧延の前に、前記穿孔圧延用工具表面の少なくとも一部に、潤滑材全量に対する質量%で、Li含有化合物をLiO換算で3〜20%、Si含有化合物をSiO換算で30〜80%、酸化鉄含有物質をFeO換算で0.01%以上20%未満、からなる組成で、前記Li含有化合物がLi酸化物またはLi炭酸塩、前記Si含有化合物がSi酸化物、前記酸化鉄含有物質がFeO、FeO、FeOのいずれかあるいはそれらの混合物を含有する物質、である潤滑材をコーティングし、
該コーティングした前記穿孔圧延用工具で、複数回の前記穿孔圧延を行う、
ことを特徴とする内面品質に優れた継目無鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記複数回の穿孔圧延を行ったのちの前記穿孔圧延用工具に、再度、前記スケール付け熱処理を施し、該スケール付け熱処理の直後に、前記穿孔圧延用工具表面の少なくとも一部に、前記組成の前記潤滑材をコーティングし、
該コーティングした前記穿孔圧延用工具で、さらに複数回の穿孔圧延を行う工程を、さらに1回ないし複数回繰返す、
ことを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記潤滑材が、前記組成に加えてさらに、調整物質として、潤滑材全量に対する質量%で、Al含有化合物をAlO換算で5%以下、Ca含有化合物をCaO換算で10%以下、Mg含有化合物をMgO換算で5%以下、Ba含有化合物をBaO換算で10%以下、Mn含有化合物をMnO換算で5%以下、Na含有化合物をNaO換算で30%以下、K含有化合物をKO換算で10%以下、のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、前記Al含有化合物がAlO、前記Ca含有化合物がCaO、前記Mg含有化合物がMgO、前記Ba含有化合物がBaO、前記Mn含有化合物がMnO、前記Na含有化合物がNaO、前記K含有化合物がKO、であることを特徴とする請求項1または2に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記した組成の潤滑材を、一旦、溶解してガラス状にし、粉砕して、100メッシュより細かい粒状あるいは粉末状としてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記潤滑材が、前記Li含有化合物、前記Si含有化合物、あるいはさらに前記調整物質を混合し、一旦、溶解してガラス状にし、粉砕して、100メッシュより細かい粒状あるいは粉末状としたのち、前記酸化鉄含有物質を混合してなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記酸化鉄含有物質が、150メッシュより細かい粉末であることを特徴とする請求項5に記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項7】
前記潤滑材に代えて、前記潤滑材を水、または水とアルコールを混合した溶剤、に配合してなる潤滑コーティング材、あるいは、前記潤滑材を粘結剤、分散剤、界面活性剤のうちの1種以上とともに水、または水とアルコールを混合した溶剤、に配合してなる潤滑コーティング材、とすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記潤滑材を粉末状とし、さらに熱硬化樹脂粉末を配合してなる潤滑材とすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔圧延用工具を用いる穿孔圧延法を利用した継目無鋼管の製造方法に係り、とくに、内面疵が発生しやすい13%Cr系鋼管を主とした、5〜30質量%程度のCrを含有する高合金継目無鋼管における内面品質の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、継目無鋼管の製造方法として、マンネスマン式製管法が広く用いられている。この方法は、所定の温度に加熱された鋼管素材(丸鋼片あるいは丸鋳片)を、まず、ピアサミル等の穿孔圧延機による穿孔圧延工程を経て中空素材としたのち、エロンゲータミル、プラグミル、リーラーミル等の展伸圧延機と、サイザーミル等の絞り圧延機を組み合わせた圧延工程、またはマンドレルミル等の展伸圧延機と、レデューサーミル等の絞り圧延機を組み合わせた圧延工程など、により所望の寸法の継目無鋼管を得る方法である。
【0003】
穿孔圧延機としては、2本の傾斜ロールと穿孔用プラグおよび2個のガイドシュウを組み合わせた、いわゆるマンネスマンピアサ、3本の傾斜ロールと穿孔用プラグを組み合わせた、いわゆるロールピアサ、あるいは2本の孔型ロールと穿孔用プラグとを組み合わせた、いわゆるプレスロールピアサが知られている。このような穿孔圧延機による穿孔圧延工程では、穿孔圧延用プラグは、高温の鋼管素材や中空素材との絶え間ない接触により、高温、高負荷の環境下に長時間晒される。そのため、穿孔圧延用プラグには摩耗、溶損等の欠陥を生じやすく、得られる鋼管の内面性状に悪影響を及ぼす。
【0004】
このようなことから、従来は、穿孔圧延用プラグに高温でのスケール付け処理を施し、プラグ表面に数十μm〜2mm厚程度の酸化スケール被膜を形成させて、プラグの損耗を防止していた。しかし、プラグ表面に形成されたこのような酸化スケール被膜は、熱処理時や穿孔圧延中に剥離してプラグ表面が凹凸になり、鋼管内面に肌荒れや疵の内面疵を発生させるという問題があった。
【0005】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、鋼製基体の表面に酸化スケールを生成させて使用する酸化スケール型の熱間製管工具が使用限界に至る以前に使用を停止し、デスケール処理を行った後に再びスケール付け熱処理を施す処理を繰返して、使用する熱間製管方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、内面品質の良好な継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、プラグの表面に形成されたスケール被膜のうち、プラグの地金表面外方に形成されるFeO、FeO層を主体とする、剥離しやすい外層スケールを除去したプラグを用いて、ビレットを穿孔して継目無鋼管を製造する継目無鋼管の製造方法である。
【0007】
また、特許文献3には、金属管の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術は、プラグ素材を1.0vol.%以上の酸素を含む熱処理雰囲気中で950℃以上1050℃未満の熱処理温度で熱処理し、プラグ素材表面に内層スケールと内層スケール上に形成される外層スケールを有する酸化スケール層を含むプラグとし、該酸化スケール層のうち、外層スケールを除去したプラグを用いて金属素材を穿孔圧延して継目無金属管とする金属管の製造方法である。
【0008】
特許文献1に記載された技術のように、使用限界前のプラグに、デスケール処理と再スケール付け処理を行う方法によれば、プラグ寿命は延長できるが、再スケール付け熱処理によりプラグ表面の凹凸が顕著となり、鋼管内面疵の発生を防止できず、鋼管の安定生産に問題を残していた。また、特許文献2、3に記載された技術のように、局部剥離を起こしやすい外層スケールだけを除去するには非常に手間がかかるうえ、外層スケールだけを完全に除去することは困難であり、またプラグ表面を保護する内層スケールまで除去することもあり、継目無鋼管の内面疵を十分に防止できないか、あるいは工具寿命が低下することも多いという問題がある。とくに最近では、継目無鋼管の内面品質の向上が要望され、内面品質の評価基準が厳格化されつつあるため、従来では合格範囲であったものまでが、不合格と判定される場合が多くなっている。
【0009】
また、特許文献4には、穿孔圧延時の噛み込み性を悪化させることなく、内面品質の良好な継目無鋼管を製造する継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献4に記載された技術では、スケール付け熱処理を行ったプラグの表面に、プラグ表面スケール中のFeOとの共晶温度が1200℃以下のスケール溶融物質を塗布して穿孔圧延に供するとしている。そして、FeOとの共晶温度が1200℃以下のスケール溶融物質としては、BOに代表される硼酸系、SiOに代表される珪酸系、WOに代表される酸化タングステン系、NaOに代表される酸化ナトリウム系等の酸化物等が例示されている。
【0010】
これとは別に、特許文献5には、穿孔圧延用工具にスケール付け熱処理を施したのち、該穿孔圧延用工具を、質量%で4〜40%の低融点化合物粉を含み、残部が酸化鉄分からなる主剤と、硬化剤とを水性溶剤またはアルコール性溶剤に混合し、スラリー状を呈する溶液とした表面保護剤中に浸漬し、プラグ表面の少なくとも先端部に表面保護剤を塗布する処理を施して、穿孔圧延に供する継目無鋼管穿孔圧延用工具の使用方法が記載されている。特許文献5に記載された技術では、含まれる低融点化合物粉は、Liと、Na、Si、Ba、Al、Ca、Kのうちから選ばれた1種以上を含み、軟化温度が600〜1000℃である粉末とすることが好ましいとしている。これにより、穿孔圧延用工具(プラグ)の長寿命化が図れるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−150207号公報
【特許文献2】特開2002−273505号公報
【特許文献3】国際公開WO 2008/096708号パンフレット
【特許文献4】特開2002−248507号公報
【特許文献5】特開2013−43214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献4に好ましいスケール溶融物質として例示された、SiOに代表される珪酸系、WOに代表される酸化タングステン系、NaOに代表される酸化ナトリウム系等の酸化物を、プラグ表面に塗布して使用すると、プラグ表面に形成されたスケールと過剰に反応してプラグ損耗を助長したり、製品鋼管に付着し脆化させる等の問題があることが知られている。また、BOに代表される硼酸系の酸化物をプラグ表面に塗布して穿孔圧延を行うと、Bが還元されて製品鋼管に侵入し製品鋼管を硬化させる場合があるという問題もある。また、Bは環境に悪影響を及ぼすことが知られており、B含有物質の使用は環境問題となる可能性がある。
【0013】
また、特許文献5に記載された技術では、穿孔圧延用工具(プラグ)の長寿命化を図ることはできても、酸化鉄が過度に含有されると内面疵の抑制が困難になり、継目無鋼管の内面疵発生を防止できるまでに至っていないという問題がある。近年では、とくに鋼管の内面の判定が厳格化され、これまで合格判定されていたような肌荒れ状の内面疵や小さなヘゲ、あるいは薄い小さな鱗片状の鋼片が内面に付着したように見える疵でも、不合格と判定されるようになっている。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、肌荒れ、カブレ、ヘゲ疵などの継目無鋼管内面疵の発生を抑制し、内面品質に優れた継目無鋼管とすることができる、内面品質に優れた継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、継目無鋼管の内面疵発生に影響する各種要因について鋭意研究した。その結果、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性を非常に高めた状態で穿孔圧延を行うことにより、継目無鋼管の内面疵発生を抑制することができることを知見した。そして、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性を高めるには、表面に、Li含有化合物(酸化物系化合物)を含む潤滑材をコーティングすることがよいことに想到した。表面に、Li含有化合物(酸化物系化合物)を含む潤滑材をコーティングしたプラグ(穿孔圧延用工具)を使用して穿孔圧延すると、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に形成された酸化スケール被膜のうち、外層の酸化スケール被膜の表層部が溶融してプラグ(穿孔圧延用工具)表面が滑らかになり、そのため、継目無鋼管内面が美麗になることを見出した。
【0016】
また、とくに、Li含有化合物をSi含有化合物(酸化物系化合物)とともに含む潤滑材を、表面にコーティングしたプラグ(穿孔圧延用工具)を使用して穿孔圧延を行うと、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に形成された酸化スケール被膜の表面に極めて流動性の高い化合物が形成され、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性が顕著に向上して、肌荒れ、カブレ、ヘゲ疵などの継目無鋼管内面の疵発生が抑制できることを知見した。さらに、プラグ(穿孔圧延用工具)表面にコーティングする潤滑材として、Li含有化合物、Si含有化合物に加えてさらに、20質量%未満の酸化鉄を加えた組成の潤滑材を用いると、潤滑効果がさらに増加することも知見した。
【0017】
なお、このような、継目無鋼管内面の疵発生が抑制できるメカニズムの詳細については、現在までには明らかになってはいないが、本発明者らは、つぎのように考えている。
【0018】
Li含有化合物とSi含有化合物を含む潤滑材をプラグ(穿孔圧延用工具)表面にコーティングすると、穿孔圧延時に、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に形成されたスケールの表面が溶融しガラス状物質が生成し、これにより、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の凹凸が滑らかになり、穿孔圧延の初期から、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性が向上して、肌荒れ、カブレ、ヘゲ疵などの継目無鋼管内面の疵発生を抑制するものと考えられる。また、少量(20質量%未満)の酸化鉄の添加は、潤滑材とプラグ(穿孔圧延用工具)スケール表面との速やかな反応とプラグ(穿孔圧延用工具)表面に形成されたスケール表面の適度な溶融を促進する作用を有し、これにより、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性がさらに向上するためと考えられる。一方、20質量%以上の酸化鉄の添加は、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に形成されたスケール表面の溶融を不完全とし、プラグ(穿孔圧延用工具)表面の潤滑性を低下させるためと考えられる。
【0019】
そして、本発明者らは、スケール付け熱処理を施した後に、表面に酸化スケール被膜を有するプラグ(穿孔圧延用工具)の表面に、上記したような組成の潤滑材をコーティングして、穿孔圧延を繰り返し実施することが、継目無鋼管の内面疵発生の抑制に有効であることに思い至った。これにより、従来、内面疵の減少が困難であった、13%Cr継目無鋼管等の高合金継目無鋼管の内面疵が減少し、内面品質に優れた継目無鋼管が得られることを見出した。
【0020】
また、本発明者らは、プラグ(穿孔圧延用工具)を繰り返し使用するに際し、途中で潤滑材のコーティングを追加したり、あるいは、追加処理として再度、スケール付け熱処理を行いプラグ(穿孔圧延用工具)表面の酸化スケール被膜を再生させたのち、さらに、上記した組成の潤滑材を適宜、コーティングしてから、穿孔圧延を繰り返し実施すれば、プラグ(穿孔圧延用工具)寿命が延長され、13%Cr系等の高合金組成の鋼管素材であっても、内面品質に優れた継目無鋼管を継続して製造できることを知見した。
【0021】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)鋼管素材に、穿孔圧延用工具を用いて穿孔圧延を施し継目無鋼管とするに当たり、前記穿孔圧延用工具を、スケール付け熱処理を施し表面に酸化スケール被膜を形成した穿孔圧延用工具とし、前記スケール付け熱処理を施した後で前記穿孔圧延の前に、前記穿孔圧延用工具表面の少なくとも一部に、潤滑材全量に対する質量%で、Li含有化合物をLiO換算で3〜20%、Si含有化合物をSiO換算で30〜80%、酸化鉄含有物質をFeO換算で0.01%以上20%未満を含有してなる組成の潤滑材をコーティングし、該コーティングした前記穿孔圧延用工具で、複数回の前記穿孔圧延を行う、ことを特徴とする内面品質に優れた継目無鋼管の製造方法。
(2)(1)において、前記複数回の穿孔圧延を行ったのちの前記穿孔圧延用工具に、再度、前記スケール付け熱処理を施し、該スケール付け熱処理の直後に、前記穿孔圧延用工具表面の少なくとも一部に、前記組成の前記潤滑材をコーティングし、該コーティングした前記穿孔圧延用工具で、さらに、複数回の穿孔圧延を行う工程を、さらに1回ないし複数回繰返す、ことを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記潤滑材が、前記組成に加えてさらに、調整物質として、潤滑材全量に対する質量%で、Al含有化合物をAlO換算で5%以下、Ca含有化合物をCaO換算で10%以下、Mg含有化合物をMgO換算で5%以下、Ba含有化合物をBaO換算で10%以下、Mn含有化合物をMnO換算で5%以下、Na含有化合物をNaO換算で30%以下、K含有化合物をKO換算で10%以下、のうちから選ばれた1種または2種以上を含むことを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記した組成の潤滑材を、一旦、溶解してガラス状にし、粉砕して、100メッシュより細かい粒状あるいは粉末状としてなることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(5)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記潤滑材が、前記Li含有化合物、前記Si含有化合物、あるいはさらに前記調整物質を混合し、一旦、溶解してガラス状にし、粉砕して、100メッシュより細かい粒状あるいは粉末状としたのち、前記酸化鉄含有物質を混合してなることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(6)(5)において、前記酸化鉄含有物質が、150メッシュより細かい粉末であることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記潤滑材に代えて、前記潤滑材を水、または水とアルコールを混合した溶剤、に配合してなる潤滑コーティング材とすることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
(8)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記潤滑材を粉末状とし、さらに熱硬化樹脂粉末を配合してなる潤滑材とすることを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、13Cr系継目無鋼管等の高合金継目無鋼管の内面疵の発生を抑制でき、内面品質に優れた継目無鋼管を生産性高く、製造することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】穿孔圧延用工具への、潤滑材の好ましいコーティング方法を模式的に示す説明図である。
図2】実施例で使用したスケール付け熱処理のパターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、穿孔圧延用工具(プラグ)を使用して、鋼管素材に穿孔圧延を施し継目無鋼管とする。なお、本発明で使用する穿孔圧延用工具(プラグ)は、スケール付け熱処理を施して表層に酸化スケール被膜を形成した工具(プラグ)とする。
【0025】
また、本発明では、鋼管素材の種類は、とくに限定する必要はなく、いずれの鋼種にも適用できるが、なかでも変形抵抗が高く管内面に疵が発生しやすい鋼種や、あるいは、連続的な(あるいは断続的な)穿孔圧延が難しい鋼種など、例えば5〜30質量%程度のCrを含有する鋼種に適用でき、とくに13Cr鋼管等の高合金鋼管の製造に好適である。このような鋼種としては、例えば、SUS420が、またSUS410、SUS430、SUS440、SUS329等が例示できる。
【0026】
また、使用するプラグ(穿孔圧延用工具)は、通常、質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜1.0%、Ni:0.5〜5.0%、Cr:0.1〜1.0%を含み、その他、Mo、Co、Nb、V、W等を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋳造品とすることが好ましい。しかし、使用できるプラグ(穿孔圧延用工具)は、このような組成に限定されないことは言うまでもない。
【0027】
このようなプラグ(穿孔圧延用工具)に施すスケール付け熱処理は、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に酸化スケール被膜が0.5〜2mm程度形成されればよく、とくにその条件は限定されるものではないが、未使用のプラグ(穿孔圧延用工具)に、酸化性雰囲気中で、830〜1200℃の温度に加熱し、0.5〜8h程度保持したのち、冷却する処理を1回から3回程度行なうことが好ましい。
【0028】
本発明では、上記したスケール付け熱処理を施され、表層に酸化スケール被膜を形成されたプラグ(穿孔圧延用工具)は、スケール付け熱処理を施した直後に、室温〜300℃程度の温度で、表面に潤滑材をコーティングされる。スケール付け熱処理を施され、表層に酸化スケール被膜を形成されたプラグ(穿孔圧延用工具)表面に、潤滑材をコーティングすることにより、プラグ(穿孔圧延用工具)の潤滑性が向上する。
【0029】
本発明で使用する潤滑材は、潤滑材全量に対する質量%で、基材物質として、Li含有化合物をLiO換算で3〜20%、Si含有化合物をSiO換算で30〜80%、酸化鉄含有物質をFeO換算で0.01%以上20%未満を含有し、あるいはさらに、調整物質として、Al含有化合物をAlO換算で5%以下、Ca含有化合物をCaO換算で10%以下、Mg含有化合物をMgO換算で5%以下、Ba含有化合物をBaO換算で10%以下、Mn含有化合物をMnO換算で5%以下、Na含有化合物をNaO換算で30%以下、K含有化合物をKO換算で10%以下、のうちから選ばれた1種または2種以上を、含む組成を有する潤滑材である。なお、上記した質量%は、乾燥状態での潤滑材全量に対するものである。なお、以下、質量%は単に%で記す。
【0030】
つぎに、使用する潤滑材の組成限定理由について説明する。以下、組成における質量%は単に%で記す。
【0031】
Li含有化合物:LiO換算で3〜20%
Li含有化合物は、Si含有化合物とともに配合されると、穿孔圧延等の熱間圧延時に、プラグ表面に形成された酸化スケールの表面が溶融し、ガラス状物質を生成し、プラグ表面を滑らかで高い潤滑性を有する状態にして、継目無鋼管内面の疵発生を抑制する作用を有する。このような効果を得るためにはLi含有化合物をLiO換算で3%以上の配合を必要とする。Li含有化合物がLiO換算で3%未満では、継目無鋼管の内面疵発生を防止できない。一方、Li源(Li含有化合物)は高価であり、多量の含有は経済性を低下させるうえ、Li含有化合物をLiO換算で20%を超えて配合すると、プラグ表面のスケールが過剰に溶融し、プラグ寿命が低下する場合がある。このようなことから、Li含有化合物の配合量は、LiO換算で3〜20%の範囲に限定した。なお、Li含有化合物の配合量は、プラグの潤滑性の観点から、好ましくはLiO換算で5%超え、スケールの過剰溶融防止の観点から、18%以下である。なお、Li含有化合物としては、ガラス類やその他の複合酸化物、炭酸塩等を例示できるが、これらに限定されないことはいうまでもない。
【0032】
Si含有化合物:SiO換算で30〜80%
Si含有化合物は、Li含有化合物とともに配合されることにより、穿孔圧延等の熱間圧延時に、プラグ表面に形成された酸化スケール表面に溶融したガラス状物質を形成し、プラグ表面に潤滑性を付与する作用を有する。このような効果を確保するためには、Si含有化合物はSiO換算で30%以上の配合を必要とする。Si含有化合物がSiO換算で30%未満では、溶融したガラス状物質の形成が少なく、所望のプラグの潤滑性を確保できなくなる。一方、80%を超える多量の配合は、Liによる溶融したガラス状物質の形成が抑制されて、継目無鋼管の内面疵の発生を抑制できなくなる。このようなことから、Si含有化合物の配合量はSiO換算で30〜80%に限定した。なお、Si含有化合物は、SiO等のSi酸化物、SiO等を含んだ天然鉱石類やガラス類を例示できるが、これらに限定されないことはいうまでもない。
【0033】
酸化鉄含有物質:FeO換算で0.01%以上20%未満
酸化鉄含有物質は、穿孔圧延等の熱間圧延時に、プラグ表面に形成された酸化スケール表面の速やかな溶融を促進する作用を有し、穿孔圧延の初期から、所望のプラグ表面の潤滑性確保に寄与する。このような効果を得るためには、FeO換算で0.01%以上含有させる必要がある。一方、20%以上含有すると、プラグ表面のスケールの凹凸が激しくなり、潤滑性が不足し、継目無鋼管内面の疵発生を抑制することが困難になる。このため、酸化鉄含有物質の配合量はFeO換算で0.01%以上20%未満に限定した。なお、継目無鋼管内面の疵発生を十分に抑制するためには、酸化鉄含有物質の配合量はFeO換算で0.05%以上17%以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは0.10%以上17%以下である。
【0034】
なお、ここでいう「酸化鉄含有物質」は、FeO、FeO、FeOのいずれか、あるいはそれらの混合物を含有する物質をいうものとする。また、不純物として金属Feが混入しても酸化鉄含有物質全量に対する質量%で10%以下であればとくに問題はない。
【0035】
また、酸化鉄含有物質としては、砂鉄、人工酸化鉄粉、天然の酸化鉄鉱石、あるいはSiO等とともに鉄分を含んだ天然鉱石類、ガラス類を例示できるが、これに限定されないことはいうまでもない。砂鉄や人工酸化鉄粉を用いる場合は、少なくとも150メッシュより細かい(150メッシュアンダー)粉末として用いることが好ましい。
【0036】
本発明に用いる潤滑材には、上記した基材物質としての、Li含有化合物、Si含有化合物、酸化鉄含有物質に加えて、さらに、調整物質を配合してもよい。上記した基材物質に加えて、さらに、調整物質を配合することにより、穿孔圧延時の潤滑材の粘性やスケールの溶融状態を微調整でき、継目無鋼管の内面疵の発生が有効に抑制される。
【0037】
調整物質としては、Al含有化合物、Ca含有化合物、Mg含有化合物、Ba含有化合物、Mn含有化合物、Na含有化合物、K含有化合物が例示でき、それらの物質のうちから選らばれた1種または2種以上とすることが好ましい。また、調整物質の配合量は、Al含有化合物ではAlO換算で5%以下、Ca含有化合物ではCaO換算で10%以下、Mg含有化合物ではMgO換算で5%以下、Ba含有化合物ではBaO換算で10%以下、Mn含有化合物ではMnO換算で5%以下、Na含有化合物ではNaO換算で30%以下、K含有化合物ではKO換算で10%以下、とすることが好ましい。なお、調整物質の含有量が上記した値を超えると、酸化スケールの溶融状況に過不足が発生して、継目無鋼管内面疵の発生を促進する場合がある。このため、調整物質の配合量は上記した値に限定することが好ましい。
【0038】
上記した調整物質の原料は、天然鉱石やガラス類(ガラス屑)、炭酸塩等を用いることが好ましい。とくに、天然鉱石やガラス類(ガラス屑)は、AlO、NaO等以外に、SiOなどをも含み、調整物質および基材物質の安価な供給源ともいえる。
【0039】
なお、上記した組成を有する潤滑材は、基材物質および/または調整物質の粉末原料を混合したままのものより、いったん溶解してガラス状にしたものを粉砕して、100メッシュアンダー(−100メッシュ)、好ましくは150メッシュアンダー(−150メッシュ)とした粉末とすることが好ましい。一旦、ガラス化することにより、熱間圧延時に溶融が早く、化学反応による吸熱がなく、均一な特性を有するようになるとともに、圧延中にガス発生量が少なくなるなどの利点がある。また、100メッシュアンダー(−100メッシュ)の粉末とすることにより、数s〜数十sという短時間の穿孔圧延中に溶融することができ、潤滑作用の早期の出現に有効に寄与する。100メッシュより粗い粉末では、反応が遅れ、穿孔初期位置に相当する継目無鋼管内面に疵が発生する。なお、100メッシュアンダーの粉末とは、ISO規格に規定する篩(目開き:100メッシュ)を通過する粒径の粉末をいう。
【0040】
なお、潤滑性向上の観点からは、基材物質のうち酸化鉄含有物質を除いて、一旦、溶解したのち、粉砕して−100メッシュ粉末とすることが好ましい。除かれた酸化鉄含有物質は単独で−150メッシュの粉末としておき、上記の−100メッシュ粉末と混合することが好ましい。これにより、潤滑性が著しく向上する。
【0041】
なお、上記した潤滑材は、ガラス化せずに、基材物質および/または調整物質の粉末原料を混合したままの状態で使用することも可能であるが、その場合には、予め所定の粒径(−100メッシュ)に調整された基材物質、調整物質を配合するか、あるいは配合したのちに、粉砕して所定の粒径(−100メッシュ)に調整し、粉末として用いることが好ましい。
【0042】
上記した潤滑材をプラグ(穿孔圧延用工具)表面にコーティングする方法としては、潤滑材(粉末)を、溶剤に配合しコーティング材(潤滑コーティング材)として、該コーティング材をスプレー、どぶ漬け、刷毛塗り等で、プラグ(穿孔圧延用工具)表面にコーティングする方法が好ましい。なお、コーティング厚さとしては、乾燥後の厚さで、0.05〜2mmとすることが望ましい。
【0043】
また、潤滑材(粉末)を、溶剤に配合しコーティング材(潤滑コーティング材)として、プラグ(穿孔圧延工具)表面にコーティングする方法では、溶剤として、水、または水とアルコールの混合、とし、潤滑材をスラリー状とすることが好ましい。なお、本発明で使用する上記した潤滑材は、水と混合すると、Liなどが水和反応を起こし、粘結剤や硬化剤を混合しなくてもコーティング性に優れたスラリー状を呈し、また、室温でも、あるいは300℃未満の温間でも硬化する。なお、スラリーが水を含んだままの状態で熱間圧延に供してもなんら問題はない。
【0044】
なお、本発明で使用する潤滑材を含んだ溶剤(水)にアルコールを混合すると、粘性や硬化時間が変化する。このため、使用する圧延工程や所望の操作性に応じて、溶剤(水)にアルコールを混合してもよい。必要以上に硬化時間を長くしないこと、および、アルコールの早期蒸発による増粘を防止することなどのコーティング性向上のためには、アルコールの混合量は、水100質量部に対してアルコール70質量部以下とすることが好ましい。
【0045】
なお、溶剤(水)に混合するアルコールとしては、エチルアルコール、プロパノール、メチルアルコール等が例示できるが、これらに限定されないことはいうまでもない。また、水やアルコールの配合量は、塗布性が確保できればよく、とくに限定する必要はないが、潤滑材の塗布性(コーティング性)という観点からは、潤滑材100質量部に対し、20〜70質量部とすることが好ましい。
【0046】
なお、潤滑材(粉末)を、水、あるいは水とアルコールを混合した溶剤に配合し、コーティング材とするに際しては、粘性の調節のために粘結剤を添加してもよい。粘結剤としては、粘土、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸系樹脂、スチレン系樹脂、水ガラス、ポリエチレン系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等が例示できる。なお、加熱してコーティングする場合の熱硬化性樹脂としては、石炭酸系合成樹脂、フェノール樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂が例示できる。なお、粘結剤の種類と量によっては、塊状となって、スラリーの性状が劣化することがある。このような場合には、水、あるいは、水とアルコールの配合を増すと改善される場合がある。
【0047】
また、コーティング材には、水やアルコールに加えて分散剤を配合してもよい。分散剤として、ベントナイト、粘土、モンモリナイト、アニオン化合物、カチオン化合物、高分子化合物等が例示できる。なお、これらの分散剤も、種類と量によっては、塊状となってスラリーの性状が劣化する場合がある。
【0048】
また、コーティング材には、水やアルコールに加えて、必要に応じて、さらに、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、増粘剤等を適宜含有することができる。界面活性剤、消泡剤、防腐剤等は、常用の界面活性剤、消泡剤、防腐剤等がいずれも適用できる。
【0049】
なお、本発明で使用する潤滑材は、水を加えた場合、含まれる基材物質の一部が水和してスラリー状となり、乾燥後に結合力を発揮するため、粘結剤、分散剤、界面活性剤等の配合は必ずしも必要としない。
【0050】
また、潤滑材を粉末のまま、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に積層して焼き付ける方法を用いてもよい。潤滑材を粉末のまま、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に積層して焼き付ける方法では、潤滑材粉末をプラグ表面に積層するか、あるいはさらに、潤滑材粉末にフェノール樹脂、石炭酸系合成樹脂粉末等を混合してプラグ表面に積層して、加熱硬化させる方法が例示できる。積層厚さとしては、0.05〜2mmとすることが望ましい。
【0051】
なお、本発明で使用する潤滑材は、図1に示すように、(a)プラグ等穿孔圧延用工具の外表面全体にコーティングしてもよいが、(b)プラグの先端部(頭頂部)や肩部など鋼管内面と強く接触する部分にコーティングしても、あるいは(c)スケールが摩滅しやすい頭頂部や肩部などを除いて、継目無鋼管の内面をならすように接触するプラグの下部にコーティングして、もよい。コーティング方法は、疵の発生状況等により、適宜決定すればよい。
【0052】
上記のように、潤滑材がコーティングされた、未使用のプラグ(穿孔圧延用工具)は、複数回の穿孔圧延、好ましくは鋼管素材2〜20本の穿孔圧延に供される。
【0053】
なお、スケール付け熱処理後の第1回目の穿孔圧延後に、プラグ(穿孔圧延用工具)表面を観察し、表面が滑らかでないと判断された場合、すなわち、目視判定でおおよそ0.3mm以上の凹凸が認められた場合には、つぎの穿孔圧延(スケール付け熱処理後の第2回目の穿孔圧延)に供する前に、再度、プラグ表面に潤滑材をコーティングすることが好ましい。なお、本発明で使用する潤滑材を、穿孔圧延ごとに、コーティングすると、プラグ表面の酸化スケール被膜が損耗してプラグ寿命が低下する場合がある。このため、プラグ表面が滑らかであると判断された場合には、本発明で使用する潤滑材をコーティングしないことが望ましい。
【0054】
穿孔圧延された鋼管素材は、マンドレルミル圧延、レデューサ圧延などによる減肉縮径圧延を経て、長尺の継目無鋼管となり、長手方向にカットされて、複数の定尺あるいは定尺に近い寸法の鋼管(製品鋼管)を得る。上記したように、酸化スケール被膜が形成された穿孔圧延用工具(プラグ)表面に、本発明で使用する潤滑材をコーティングして穿孔圧延等を行えば、得られる継目無鋼管では、内面疵の発生が抑制され、内面品質に優れた継目無鋼管を生産性高く製造できる。
【0055】
本発明では、上記した複数回の穿孔圧延を行ったのち、あるいは各穿孔圧延の終了ごとに、プラグ(穿孔圧延用工具)表面を観察し、表面の凹凸が大きくなったと判断された場合、すなわち目視判定でおおよそ0.5mm以上の凹凸があると認識されたプラグ(穿孔圧延用工具)は、穿孔圧延に供することを中止し、スケール付け熱処理を再度施す。なお、スケール付け熱処理は、未使用工具に施すスケール付け熱処理と同様、短時間化、低温化あるいは熱処理回数減少など、熱処理条件を自由に設定することができる。
【0056】
なお、表面の凹凸が大きくなったと判断された場合、すなわち目視判定でおおよそ0.5mm以上の凹凸が認められたプラグ(穿孔圧延用工具)を使用して穿孔圧延すると、製造された継目無鋼管の内面にヘゲ、肌荒れが多発するようになる。
【0057】
そして、スケール付け熱処理を施した直後で穿孔圧延に供する前に、室温〜300℃程度の温度で、表層に酸化スケール被膜を形成されたプラグ(穿孔圧延用工具)表面に、上記した潤滑材を再度、コーティングする。プラグ(穿孔圧延用工具)酸化スケール表面に潤滑材をコーティングされたプラグ(穿孔圧延用工具)は、さらに複数回の穿孔圧延に供される。なお、プラグ(穿孔圧延用工具)表面に、焼付き、えぐれ疵、変形等の損傷が発生した場合には、「プラグは寿命である」と判定されて廃却される。プラグに上記したような損傷が発生し「寿命である」と判定されるまでは、プラグは、上記したような工程を繰り返し施され、穿孔圧延に供される。
【0058】
本発明では、このような工程を1回、あるいは、連続的にあるいは断続的に複数回、繰返し行う。これにより、安定して、内面品質にすぐれた継目無鋼管を効率よく、生産性高く製造することが可能となる。
【0059】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
表1に示す組成のプラグ(穿孔圧延用工具:未使用)に、まず、酸化雰囲気中で、図2(a)に示すスケール付け熱処理を施し、プラグ表面に厚さ:約1mmの酸化スケール被膜を形成した。なお、プラグの大きさは、外径174mmφ×長さ400mmである。そして、スケール付け熱処理後、プラグ表面温度がおおよそ250℃以下になったのちに、プラグ表面に潤滑材(コーティング材)をコーティングした。
【0061】
まず、使用した潤滑材は下記の要領で用意した。
基材物質(Li含有化合物、Si含有化合物、および酸化鉄含有物質)と、あるいはさらに調整物質とを、表2に示す配合量で、配合し、潤滑材とした。なお、Li含有化合物は炭酸リチウム粉を、Si含有化合物はシリカ粉を、酸化鉄含有物質は市販の酸化鉄粉(FeO、FeOと10質量%以下のFeOとFeを含む混合物)を、それぞれ用いた。
【0062】
なお、潤滑材No.E、No.Fでは、表2に示す配合量で、配合したのち、溶融してガラス状にしたのち、粉砕して表2に示す粒径(メッシュ)の潤滑材とした。また、潤滑材No.A、No.B、No.D、No.G、No.Hでは、酸化鉄含有物質を除く基材物質と調整物質とを配合し、溶融してガラス状にしたのち、粉砕して表2に示す粒径(メッシュ)の粉末とした。ついで、該粉砕した粉末に、基材物質である−280メッシュの酸化鉄含有物質(酸化鉄粉)を混合した。
【0063】
また、潤滑材No.Cでは、基材物質である、Li含有物質(炭酸リチウム)、Si含有物質(シリカ)を混合し、粉砕して表2に示す粒径(−150メッシュ)としたのち、これに、基材物質である、−280メッシュの酸化鉄含有物質(酸化鉄粉)を混合して潤滑材とした。
【0064】
また、潤滑材No.Iでは、基材物質と調整物質とを、潤滑材No.Kでは基材物質を、表2に示す粒径に粉砕し、潤滑材とした。また、潤滑材No.Jでは、基材物質のうち、Si含有物質と、調整物質とを表2に示す粒径に粉砕し、これに、基材物質である、−280メッシュの酸化鉄含有物質を混合して潤滑材とした。
【0065】
得られた表2に示す配合の潤滑材(粉末)を、表3に示す種類、配合量の溶剤に、あるいはさらに表3に示す種類、配合量の粘結剤、界面活性剤、分散材を配合して、スラリー状のコーティング材とした。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
そして、スケール付け熱処理を施したプラグ表面に、はけ塗り、スプレー塗布あるいはドブ漬け法で、コーティングした。なお、コーティング時に、潤滑材の粘性や濃度などが適正でなくてコーティング性に難点がある場合には、適宜、さらに水やアルコール、あるいは潤滑材を加えてコーティング性を調節した。
【0070】
なお、一部では、粉末のままの潤滑材(潤滑材No.C)に、熱硬化性樹脂である石炭酸系合成樹脂粉末を潤滑材100質量部に対し3〜4質量部添加した粉末状のコーティング材(コーティング材No.l)を、加熱して表面温度150〜280℃とした工具表面に、噴射し熱硬化させて、熱硬化コーティングした。また、潤滑材をコーティングしない場合(従来例)も実施した。
【0071】
なお、コーティング領域は、ドブ漬け塗布、スプレー塗布の場合、プラグ表面全域(図1(a))とし、熱硬化コーティングの場合、頭頂部100mmまで(図1(b))とし、はけ塗りの場合、頭頂部100mmを除くプラグの下部(図1(c))とした。コーティング厚さは、約0.5mmを目標とした。
【0072】
上記したように、潤滑材を表面にコーティングされたプラグを、約1180℃に加熱された13%Cr鋼(SUS420)鋼管素材(207mmφ)の穿孔圧延に供した。第1回工程として、4本の穿孔圧延を連続して行った。
【0073】
この第1回工程後に、プラグには、図2(a)に示す二段階の熱処理のうちのいずれか片方のスケール付け熱処理を施し、そして該スケール付け熱処理の直後に、第1回工程と同様の種類、方法で潤滑材をコーティングして、4本の穿孔圧延を連続して行う第2回工程に供した。このような工程を、同一プラグで、少なくとも5回繰り返し、計20本の穿孔圧延に供した。
【0074】
なお、試験No.7とNo.10では、第1回工程後のプラグ表面に0.3mm程度の凹凸が認められたので、第1回工程後で第2回工程前に、図2(a)に示す二段階のスケール付け熱処理を実施した。
【0075】
計20本の穿孔圧延に供すことができたプラグは、プラグ表面の損傷が認められない場合でも、その時点で廃却とした。
【0076】
なお、穿孔圧延後のプラグ表面の目視観察で、損傷が発生することが予想されたプラグは、その時点で廃却とし、新品のプラグと交換した。コーティングが本発明範囲を外れる比較例(試験No.8〜No.11)のプラグでは、計20本の穿孔圧延に供すことができず、損傷が発生することが予想されたため、計12本(第1回工程から第3回工程まで)の穿孔圧延を行った後、廃却とし、新品プラグと交換した。
【0077】
穿孔圧延された中空素管には、マンドレルミル圧延、レデューサ圧延を施して減肉縮径して、外径178mmφ×肉厚8mmの継目無鋼管(製品管)とした。得られた製品管については、全数、管内面をサンドブラスト処理して、目視観察及び超音波探傷試験を実施して、ヘゲ、肌荒れ、カブレ等の内面疵の有無を確認し、内面品質を評価した。製品管の内面品質は、次式
内面不良率(%)={(内面疵あり鋼管本数)/全製造本数}×100
で定義される内面不良率で評価した。内面不良率が5%以下である場合を○として、内面品質に優れていると評価した。なお、それ以外の場合を×として、内面品質が低下していると評価した。
【0078】
得られた結果を表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
本発明例はいずれも、従来では内面疵が発生しやすい13%Cr系鋼においても、内面不良率が5%未満と、内面疵の発生が抑制され、内面品質の良好な継目無鋼管(13%Cr継目無鋼管)を製造できている。一方、本発明の範囲を外れる比較例では、内面不良率が5%超えて高く、内面疵の抑制効果が不十分となっている。
(実施例2)
表5に示す組成のプラグ(穿孔圧延用工具:未使用の新品)に、まず、酸化雰囲気中で、図2(b)に示す二段階のスケール付け熱処理を施し、プラグ表面に厚さ:約0.6mmの酸化スケール被膜を形成した。なお、プラグの大きさは、外径174mmφ×長さ400mmである。そして、スケール付け熱処理後、プラグが室温まで冷却したのち、プラグ表面に潤滑材(コーティング材)をコーティングした。
【0081】
使用した潤滑材は下記の要領で用意した。
まず、基材物質(Li含有化合物、Si含有化合物、および酸化鉄含有物質)と調整物質とを、表6に示す配合量で配合したのち、溶融してガラス状とし、粉砕して粒径:−320メッシュの潤滑材(プリメルトガラス粉末)とした。なお、Li含有化合物としては炭酸リチウム粉を、Si含有化合物としてはシリカ(酸化ケイ素)粉を、酸化鉄含有物質としては市販の酸化鉄粉をそれぞれ用いた。なお、市販の酸化鉄粉は、FeO、FeOと10質量%以下のFeOとFeを含む混合物である。
【0082】
上記したように製造した潤滑材(プリメルトガラス粉末)を基礎潤滑材とし、さらに、この基礎潤滑材に、基材物質である酸化鉄含有物質として市販の粒径:−320メッシュの酸化鉄粉(FeO、FeOと10質量%以下のFeOとFeを含む混合物)を、配合量を変えて混合して、表7に示す配合の潤滑材(粉末)を得た。
【0083】
得られた表7に示す配合の潤滑材(粉末)を、表8に示す種類、配合量の溶剤(水:潤滑材100質量部に対する配合量で40質量部)に配合して、スラリー状のコーティング材とした。なお、使用した潤滑材はいずれもNaOを含むことから、水を混合するだけで、粘結性のあるスラリー状となり乾燥すると硬化するため、とくに粘結剤は配合しなかった。
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
上記した配合のコーティング材を、上記したスケール付け熱処理済みのプラグ表面に、スプレーを用いてコーティングした。コーティング領域は、図1(c)に示すように、頭頂部100mmを除くプラグの下部とした。なお、コーティング厚さは、スケールが見えになくなる程度(おおよそ0.1〜0.2mm)とした。
【0089】
上記したように、潤滑材(コーティング材)を表面にコーティングされたプラグを、約1200℃に加熱された13%Cr系鋼(SUS420)鋼管素材(外径:207mmΦ)の穿孔圧延に供した。第1回工程として、4本の穿孔圧延を連続して行った。この第1回工程後に、プラグには、図2(b)に示す二段階の熱処理のうちの第二段目の熱処理のみを施す、スケール付け熱処理を施した。そして、該スケール付け熱処理の直後に、第1回工程と同様の種類、方法で潤滑材(コーティング材)をコーティングして、さらに4本の穿孔圧延を連続して行う第2回工程に供した。このような工程を、同一プラグで、少なくとも5回繰り返し、少なくとも計20本の穿孔圧延に供した。
【0090】
穿孔圧延された中空素管には、マンドレルミル圧延、レデューサ圧延を施して減肉縮径して、外径178mmφ×肉厚8mmの継目無鋼管(製品管)とした。得られた製品管については、全数、管内面をサンドブラスト処理して、目視観察及び超音波探傷試験を実施して、ヘゲ、肌荒れ、カブレ等の内面疵の有無を確認し、内面品質を評価した。製品管の内面品質は、得られた製品管全数について評価した。製品管の内面品質は、次式
内面不良率(%)={(内面疵あり鋼管本数)/全製造本数}×100
で定義される内面不良率で評価した。内面不良率が5%以下である場合を○として、内面品質に優れるとし、内面不良率が3%以下である場合を◎として、内面品質に極めて優れると評価した。なお、それ以外の場合を×として、内面品質が低下していると評価した。
【0091】
得られた結果を表9に示す。
【0092】
【表9】
【0093】
酸化鉄含有物質をFeO換算で20%未満含有する潤滑材をコーティングした本発明例はいずれも、従来では内面疵が発生しやすい13%Cr系鋼においても、内面不良率が5%未満と、内面疵の発生が抑制され、内面品質の良好な継目無鋼管(13%Cr継目無鋼管)が製造できている。とくに、酸化鉄含有物質をFeO換算で17%以下含有する潤滑材をコーティングした場合には、内面不良率が3%以下(◎)と内面品質が極めて良好となっている。一方、酸化鉄含有物質をFeO換算で20%以上となる本発明の範囲を外れる比較例では、内面不良率が5%超えて高く、内面疵の抑制効果が不十分となっている。
図1
図2