(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記本体部と前記基部とを可動自在に連結し、前記本体部が前記基部に対して所定の角度以上に拡がらないように前記本体部と前記基部とのなす角度を規制する規制手段を備えることを特徴とする請求項1、2又は3記載の滑落停止補助具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の滑落停止具を使用して滑落を効果的に停止させることができるのは、使用者が尻もちをついて滑落した場合だけである。使用者が前のめりに転倒して腹這いの状態になった場合には、その滑落停止具は滑落停止の機能を発揮することができない。この場合、使用者はピッケルを使って上述の滑落停止姿勢をとることにより滑落を停止させることになる。
【0006】
しかしながら、ピッケルは、それを使うための技術を練習して習得しないと、雪山で使用することは難しい。すなわち、雪山でのピッケルの扱いには熟練を要し、登山の初心者はピッケルを上手に扱うことができない。このため、登山の初心者が雪山で滑落した場合には、事故につながるケースが多い。このため、雪山で転倒して腹這い状態で滑落したときでも、滑落を自動的に停止することができる登山用品の実現が望まれている。
【0007】
また、雪山で滑落が生じた場合、ピッケルを用いて滑落を停止させようとしても、現実には滑落を停止できないことも多い。例えば、雪が軟らかい場合には、ピックを雪面に打ち込んでも、滑落のスピードを効果的に弱めることができない。また、雪が硬いアイスバーン状になっている場合には、ピックを雪面にうまく刺すことすらできない。ピッケルの初期動作が遅れると、滑落のスピードが増し、停止は非常に困難になっていく。このため、雪山で滑落が生じた場合に、滑落を自動的に、迅速且つ強力に止めることができる滑落停止補助具の実現が望まれている。
【0008】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、雪山で腹這いの状態での滑落停止姿勢をとったときでも、自動的に制動をかけて滑落を停止することができる滑落停止補助具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明に係る滑落停止補助具は、使用者の身体又は身体に装着する装着用品に取り付けられる板状又は棒状の基部と、滑落時に雪面に食い込ませるための本体部及びその本体部と一定の角度をなして連なっている延長部を有し、本体部と延長部とが連なる部位である屈曲部を中心として基部に揺動自在に支持されている揺動部と、を備え、使用者が滑落したときに、本体部が雪面に食い込むと共に延長部が基部に当接することにより、本体部を基部に対して一定の角度をなす状態に維持して、使用者の滑落状態に制動をかけることを特徴とするものである。
【0010】
上記の構成により、本発明の滑落停止補助具は、使用者の身体又は身体に装着する装着用品に取り付けられる基部と、本体部及びその本体部と一定の角度をなして連なっている延長部を有し、本体部と延長部とが連なる部位である屈曲部を中心として基部に揺動自在に支持されている揺動部とを備えている。このため、使用者が雪上で滑落した際に揺動部が雪面と対向し且つ延長部から本体部に向かう方向が滑落する方向となるような姿勢をとることにより、雪が本体部と基部との間に入り込んで本体部が基部に対して開いた状態になり、本体部を雪面に食い込ませることができる。また、このとき、延長部が基部に当接し、本体部は基部に対して一定の角度をなす状態のまま維持される。このように滑落時に本体部が雪面に食い込んだ状態になるので、瞬時に使用者の滑落状態に制動をかけることができ、滑落停止効果を得ることができる。特に、本発明の滑落停止補助具は、例えば上半身の前側に二つ取り付けておくことが望ましい。通常、使用者は滑落時にピッケルを用いた滑落停止姿勢をとるが、そのときに上半身の前側に取り付けた二つの滑落停止補助具も機能することになるので、ピッケルによる滑落停止効果に本発明の滑落停止補助具による滑落停止効果が加わることにより、滑落をより迅速且つ強力に停止させることができる。
【0011】
尚、本発明の滑落停止補助具において、本体部として、本体部をその長手方向に垂直な平面で切ったときの断面が凸状であるものを用いることができる。これにより、雪上で滑落したときに、雪が本体部の凸状部分に入り込みやすくなり、その入り込んだ雪の圧力で本体部は基部に対して容易に開いた状態になる。また、本発明の滑落停止補助具において、本体部として、板状のものであって、本体部の先端部が基部と反対側に反った状態になっているものを用いることができる。これにより、雪上で滑落したときに、本体部の先端部は雪の圧力を受けやすくなり、本体部は基部に対して容易に開いた状態になる。
【0012】
また、本発明の滑落停止補助具は、本体部に設けられた、本体部が基部に対して所定の角度以上に拡がらないように本体部と基部とのなす角度を規制する規制手段を備えることが望ましい。これにより、滑落時に本体部が基部に対して開いた状態になって、大きな雪の圧力を受けたときでも、規制手段は、本体部を補助して、本体部が基部に対して一定の角度以上に拡がってしまうのを防止することができる。
【0013】
更に、本発明の滑落停止補助具は、本体部が基部に対して閉じた状態になるように本体部を仮固定する仮固定手段を備えることが望ましい。これにより、使用者が通常の活動時に揺動部が基部上で揺動するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る滑落停止補助具によれば、使用者が雪上で滑落した際に揺動部が雪面と対向し且つ延長部から本体部に向かう方向が滑落する方向となるような姿勢をとることにより、雪が本体部と基部との間に入り込んで本体部が基部に対して開いた状態になり、本体部を雪面に食い込ませることができると共に、延長部が基部に当接するようになり、本体部を基部に対して一定の角度をなす状態に維持することができる。このため、瞬時に使用者の滑落状態に制動をかけることができ、滑落停止効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための形態について説明する。
図1(a)は本発明の一実施形態である滑落停止補助具の概略斜視図、
図1(b)はその滑落停止補助具の概略側面図である。
【0017】
本実施形態の滑落停止補助具1は、雪上で活動する際に身体又は身体に装着する装着用品に取り付けて使用されるものであり、
図1に示すように、板状の基部10と、揺動部20と、環状部材30とを備える。基部10及び揺動部20の材料としてはアルミニウム合金を使用している。アルミニウム合金は、軽量で、強度に優れているという特徴を有している。基部10は細長い略長方形状に形成されている。具体的に、基部10の長さは約16cm、その幅は約3cm、その厚さは約0.1cmである。また、基部10の各角部には丸め加工が施されている。これは使用者が滑落停止補助具1に触れたときに怪我をしないようにするためである。本実施形態の滑落停止補助具1を使用する際には、この基部10が、使用者の身体に対向するように配置されて、使用者の身体又は身体に装着する装着用品に取り付けられる。
【0018】
揺動部20は、本体部21と、延長部22とを有する。本体部21は、滑落時に雪面に食い込ませることを目的として使用されるものである。本体部21の一方の端部から延長している部位が延長部22である。本体部21と延長部22はともに細長い板状のものであるが、延長部22の長さは本体部21の長さよりも短い。具体的に、本体部21の長さは約14cm、延長部22の長さは約5cmであり、本体部21及び延長部22の幅は約3cm、本体部21及び延長部22の厚さは約0.1cmである。また、本体部21と延長部22とは一定の角度をなして連なっている。例えば、本体部21と延長部22とのなす角度は約140度である。具体的に、本実施形態では、揺動部20を、一枚の板状部材を曲げ加工することにより作製している。
【0019】
揺動部20は本体部21と延長部22とが連なる部位である屈曲部23を中心として基部10上で揺動自在となるように基部10に支持されている。具体的に、揺動部20の屈曲部23の凹側部には軸状部材24が接合されている。一方、基部10においてその中央部から右側に一定距離だけ離れた部位の両側部には、孔が形成された支持部11,11が設けられている。揺動部20を、その屈曲部23の凸側部が基部10と対向するように配置し、軸状部材24の両端部をそれぞれ、支持部11,11の孔に通すことにより、揺動部20が支持部11,11に軸支されている。ここで、支持部11,11が設けられている基部10の位置は、
図1において右端から約4.5cmの位置である。
【0020】
また、本体部21の先端部は基部10と反対側に反った状態に形成されている。本実施形態では、本体部21の先端から約3cmのところで本体部21を曲げてその先端部を反った状態にしている。尚、揺動部20の各角部にも、怪我防止のために、基部10の角部と同様に丸め加工を施している。
【0021】
また、本体部21の所定箇所には二つの小さな孔211,211が形成されている。環状部材30は、この二つの孔211,211を通って基部10を囲むように設けられている。ここで、環状部材30の形状は略円形状である。環状部材30は、基部10に規制されない限り、
図1(b)においてその上部を中心として自由に左右に動くことができる。このような環状部材30を設けたことにより、本体部21は基部10に対して所定の角度以上に拡がることはできない。実際、本体部21と基部10とのなす角度が最大約40度となるように環状部材30のサイズを設計している。このように、環状部材30は、本体部21と基部10とを可動自在に連結し、本体部21と基部10とのなす角度を規制する規制手段としての役割を果たしている。
【0022】
次に、本実施形態の滑落停止補助具1の使い方について説明する。
まず、滑落停止補助具1の取付位置及び取付方法を説明する。以下では、使用者が、滑落時に本実施形態の滑落停止補助具1とピッケルの両方を用いて、滑落を停止させる場合を考える。通常、雪山で滑落した際には、使用者はうつ伏せの状態になってピッケルを使った滑落停止姿勢をとる。この点を考慮すると、滑落停止補助具1は、使用者の前側に取り付ける必要がある。具体的には、揺動部20が基部10を介して身体の外側に位置するように、基部10(滑落停止補助具1)を身体又は、ザック等の、身体に装着する装着用品に取り付ける。
図2は使用者に取り付けられた本実施形態の滑落停止補助具1,1の概略図である。
図2の例では、二つの滑落停止補助具1,1を、ザックの腰ベルトにおける連結具(バックル)の左右両側の位置に取り付けている。ここで、揺動部20の本体部21が下側に位置し、その延長部22が上側に位置するように滑落停止補助具1を配置している。また、基部10はザックの腰ベルトにしっかり固定する必要がある。滑落時に雪から大きな圧力を受けても基部10が腰ベルトに対して動かないようにするためである。基部10を固定するための道具(固定手段)としては、例えば、紐やベルト等を用いることができる。具体的に、例えば固定手段として紐(又はベルト)を用いる場合には、紐を揺動部20と基部10との間に通し、屈曲部23を取り囲むようにして紐で基部10と腰ベルトとを縛り付ける。尚、
図2では、滑落停止補助具1を腰ベルトに固定する固定手段を省略して示している。
【0023】
尚、一般に、本実施形態の滑落停止補助具1は、ザックの腰ベルトではなく、ザックの肩ベルトに取り付けることも可能である。但し、この場合は、使用者が滑落停止姿勢をとったときに滑落停止補助具1が雪面から離れないように、滑落停止補助具1を肩ベルトの下側に取り付けることが望ましい。また、滑落停止補助具1を、腰と太ももに装着する安全帯である登山用ハーネスに固定しておき、使用者がその登山用ハーネスを装着することにより、滑落停止補助具1を使用者の身体に取り付けるようにしてもよい。また、滑落停止補助具1は専用のベルトを利用して身体に取り付けるようにしてもよい。
【0024】
次に、滑落時に滑落停止補助具1がどのように機能するかについて説明する。
図3(a)は雪山で滑落した際に使用者がピッケルを用いた滑落停止姿勢をとっているときの様子を示す概略図、
図3(b)は使用者が同図(a)に示す姿勢をとっているときの本実施形態の滑落停止補助具1の様子を示す概略図である。
【0025】
通常時、本実施形態の滑落停止補助具1における本体部21は、
図1(b)において破線で示すように、自重により基部10に当接している。そして、滑落すると、使用者は、瞬時にうつ伏せの姿勢になって、ピッケルのピックを雪面に打ち込み、
図3(a)に示すような滑落停止姿勢をとる。すなわち、使用者は、揺動部20が雪面と対向し且つ延長部22から本体部21に向かう方向が滑落する方向となるような姿勢をとる。このとき、使用者は、アイゼンが雪面に引っ掛からないようにするため足を上に上げる。使用者がこのような姿勢をとれば、必然的に延長部22と基部10とのなす角度が小さくなり、本体部21が基部10に対して開くようになる。また、本実施形態では、本体部21の先端部を基部10と反対側に反った状態にしているので、滑落の際に本体部21の先端部が雪の圧力を受けやすく、このことによっても本体部21は基部10に対して開くようになる。そして、雪が本体部21と基部10との間(本体部21と身体との間)に入り込むことにより、
図1(b)において一点鎖線で示すように、本体部21は基部10に対して完全に開いた状態になる。このとき、延長部22が基部10に当接し、本体部21は基部10に対して一定の角度をなす状態に維持される。すなわち、延長部22及び基部10は、本体部21が予め定めた角度以上に開かないように規制する役割を果たす。ここで、本体部21と延長部22とは一定の角度(約140度)をなして連なっているので、本体部21は基部10に対して一定角度(約40度(=180度−140度))以上は開くことはない。また、本実施形態では、本体部21と基部10とのなす角度を規制する環状部材30を設けているので、この環状部材30によっても本体部21が基部10に対して一定角度以上開かないようになっている。この環状部材30は、本体部21が雪の圧力を受けて大きく曲がってしまわないように、本体部21を補助する役割をも果たしている。
【0026】
こうして、本体部21が基部10に対して開いた状態になると、
図3(b)に示すように、本体部21が雪面に突き刺さり、本実施形態の滑落停止補助具1は滑落を停止させるブレーキの役割を果たすようになる。特に、本実施形態では、本体部21が板状のものであるので、雪が軟らかい場合にあっては、本体部21の広い面積で多くの雪を受け止めることができ、滑落のスピードを効果的に弱めることができる。また、雪が硬いアイスバーン状になっている場合にあっては、本体部21が雪面にうまく刺さらなくても、本体部21の先端部が雪面を引っかくようになり、大きなブレーキがかかるようになる。したがって、ピッケルによる滑落停止効果に本実施形態の滑落停止補助具1による滑落停止効果が加わることにより、滑落をより迅速且つ強力に止めることができる。尚、ここでは、滑落停止補助具1を使用者の前側に二つ取り付けた場合について説明したが、滑落停止補助具1を一つ又は三つ以上取り付けるようにしてもよい。
【0027】
ところで、滑落時に雪の圧力で滑落停止補助具1の全体が
図2において時計方向又は反時計方向に回転したり延長部22の方向に外れたりしてしまう可能性もある。このようなことが起こらないようにするには、基部10としてある程度長いものを用いるようにすればよい。本実施形態では、基部10の長さを揺動部20の長さと略同じにしている。長い基部10を用いることにより、滑落時に基部10と身体との接する面積が大きくなり、身体で滑落停止補助具1をしっかりと押さえつけることができるからである。また、滑落時に本体部21と基部10との間に入った雪が基部10を身体側に押圧するので、これによっても滑落停止補助具1の全体が回転したり外れたりしてしまうのを防ぐことができる。尚、上述のように、本実施形態では、基部10の長さを揺動部20の長さと略同じにしているが、一般に、基部10の長さは揺動部20の長さよりも長くても短くてもよい。ここで、基部10の長さを揺動部20の長さよりも短くする場合には、滑落停止補助具1を腰ベルト等にしっかりと固定しておく必要がある。
【0028】
本実施形態の滑落停止補助具は、使用者の身体又は身体に装着する装着用品に取り付けられる基部と、本体部及びその本体部と一定の角度をなして連なっている延長部を有し、本体部と延長部とが連なる部位である屈曲部を中心として基部に揺動自在に支持されている揺動部とを備えている。使用に際しては、滑落停止補助具を、例えば上半身の前側に二つ取り付けておくようにする。使用者は雪上で滑落した際にピッケルを用いた滑落停止姿勢をとるが、このとき、揺動部が雪面と対向し、延長部から本体部に向かう方向が滑落する方向となる。これにより、雪が本体部と基部との間に入り込んで本体部が基部に対して開いた状態になり、本体部を雪面に食い込ませることができる。また、このとき、延長部が基部に当接し、本体部は基部に対して一定の角度をなす状態のまま維持される。このように滑落時に本体部が雪面に食い込んだ状態になるので、瞬時に使用者の滑落状態に制動をかけることができ、滑落停止効果を得ることができる。このため、ピッケルによる滑落停止効果に本実施形態の滑落停止補助具による滑落停止効果が加わることにより、滑落をより迅速に止めることができる。したがって、本実施形態の滑落停止補助具を使用すれば、雪山で滑落が生じた場合にピッケルと併用してより強力な滑落停止効果を得ることができる。
【0029】
尚、本実施形態の滑落停止補助具は、ピッケルと併用するのではなく、単独で使用することも可能である。使用者がピッケルを持たず、本実施形態の滑落停止補助具を身体又は身体に装着する装着用品に取り付けておきさえすれば、滑落時に滑落停止補助具によるブレーキがかかり、滑落停止効果を得ることができる。しかしながら、本来的には、本実施形態の滑落停止補助具はピッケルと併用するのが望ましい。
【0030】
また、本実施形態の滑落停止補助具では、本体部として、板状のものであって、その本体部の先端部が基部と反対側に反った状態になっているものを用いたことにより、雪上で滑落したときに、本体部の先端部が雪の圧力を受けやすくなり、本体部を基部に対して容易に開いた状態にして本体部を雪面に食い込ませることができる。このため、滑落停止補助具によるブレーキが瞬時にかかるので、滑落を素早く止めることができる。
【0031】
更に、本実施形態の滑落停止補助具は、本体部が基部に対して所定の角度以上に拡がらないように本体部と基部とのなす角度を規制する環状部材を備えることにより、滑落時に本体部が基部に対して開いた状態になって、大きな雪の圧力を受けたときでも、環状部材は、本体部を補助して、本体部が基部に対して所定の角度以上に拡がってしまうのを防止することができる。
【0032】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0033】
例えば、上記の実施形態では、基部として細長い板状のものを用いた場合について説明したが、基部としては板状であれば、その形状は長方形状に限られるものではなく、正方形や楕円形状等であってもよい。また、基部としては棒状のものを用いてもよい。
【0034】
また、上記の実施形態において、滑落停止補助具の各部のサイズを具体的に示したが、そこで示したサイズは一例であり、常識的な範囲内で適宜設計を変更することができる。例えば、揺動部や基部の長さがあまりにも長いと、使用者の歩行の邪魔になってしまい、しかも、重量も重くなってしまう。一方、本体部の長さがあまりにも短いと、十分な滑落停止効果を得ることができなくなってしまう。また、基部の長さがあまりに短いと、滑落停止補助具を身体等にしっかり固定することができないおそれがあり、滑落時にあっては滑落停止補助具が回転したり外れたりしてしまうおそれもある。そこで、これらの点を考慮すると、揺動部の長さは10cm以上20cm以下であるのが望ましく、基部の長さは6cm以上20cm以下であるのが望ましい。更に、本発明者等は、本体部と延長部とのなす角度を110度から170度までの範囲内の角度に設定して、本発明の滑落停止補助具を使用したところ、ピッケルと併用すると強力な滑落停止効果が得られることを確認した。
【0035】
更に、上記の実施形態では、滑落停止補助具の材料としてアルミニウム合金を用いた場合について説明したが、これに限らず、強度に優れた材料、例えば、ステンレス鋼、チタン合金、エンジニアリングプラスチック等を用いるようにしてもよい。
【0036】
また、上記の実施形態では、滑落停止補助具が、本体部が基部に対して所定の角度以上に拡がらないように本体部と基部とのなす角度を規制する環状部材(規制手段)を備える場合について説明したが、例えば本体部が非常に頑丈な材料で作製されており、大きな雪の圧力に耐えることできるのであれば、滑落停止補助具は必ずしも規制手段を備えている必要はない。尚、この環状部材がなくても、本体部が基部に対して開いた状態になったときに延長部が基部に当接することにより、本体部の開く角度は規制される。
【0037】
更に、上記の実施形態において、滑落停止補助具は、通常の活動時に本体部が基部に対して閉じた状態になるように本体部を仮固定する仮固定手段を備えていてもよい。
図4は仮固定手段を備える滑落停止補助具の概略側面図である。
図4に示す滑落停止補助具1Aでは、仮固定手段として、二つの磁石40a,40bを用いている。一方の磁石40aは基部10と対向する側における本体部21の所定箇所に設けられ、他方の磁石40bは磁石40aに対応する基部10の箇所に設けられている。これにより、使用者が通常の活動をしているときには、二つの磁石40a,40bが引きつけあって本体部21と基部10とが閉じた状態になるので、揺動部20が基部10上で揺動するのを防止することができる。但し、磁石40a,40bとしてはその強さがあまり強力でないものを用いている。このため、滑落時に、本体部21に雪の圧力が加われば、二つの磁石40a,40bは簡単に引き離され、本体部21は基部10に対して直ちに開いた状態になる。
【0038】
上記の実施形態では、本体部として板状のものを用いた場合について説明したが、本体部としては他の形状のものも用いることができる。いま、本発明の変形例である滑落停止補助具について説明する。
図5(a)は本発明の変形例である滑落停止補助具の概略斜視図、
図5(b)はその滑落停止補助具の概略側面図、
図5(c)はその滑落停止補助具における本体部のA−A矢視方向概略断面図である。尚、本変形例において、上述した実施形態のものと同一の機能を有するものには、同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0039】
本変形例の滑落停止補助具1Bは、
図5に示すように、基部10と、揺動部20aと、環状部材30とを備える。この基部10は上記実施形態のものと同じものである。また、揺動部20aは、本体部21aと延長部22とを有する。この変形例の滑落停止補助具1Bが上記実施形態の滑落停止補助具1と異なる主な点は、
図5(c)に示すように、本体部21aをその長手方向に垂直な平面で切ったときの断面が凸状である点である。すなわち、本体部21aは、その長手方向における中心線で折り曲げられ、切妻屋根のように山形の形状に形成されている。一方、延長部22は、上記実施形態のものと同様に、細長い板状のものである。
【0040】
本体部21aの長さは延長部22の長さよりも長い。具体的に、本体部21aの長さは約14cm、その高さは約1cm、その幅は約1.5cmである。延長部22の長さは約5cm、その幅は約3cmである。また、本体部21aと延長部22とは一定の角度(例えば、約140度)をなして連なっている。例えば、本体部21aと延長部22とは溶接で接合されている。更に、本体部21aの先端部は、先端に向かうにしたがって徐々に細くなるように、斜めにカットされている。これにより、本体部21aの先端部において基部10と対向する側の端縁は、基部10と反対側に反った状態になっている。但し、本体部21aの先端には丸め加工が施されている。使用者が本体部21aの先端に触れて怪我をしてしまうのを防止するためである。
【0041】
揺動部20aは本体部21aと延長部22とが連なる部位である屈曲部23aを中心として基部10上で揺動自在となるように基部10に支持されている。ここで、本変形例では、本体部21aの端部が屈曲部23aである。具体的に、揺動部20aの屈曲部23aには軸状部材24が固着されている。軸状部材24の両端部をそれぞれ、基部10に設けられた支持部11,11の孔に通すことにより、揺動部20aが支持部11,11に軸支される。
【0042】
また、本体部21aの所定箇所には二つの小さな孔211が形成されている。環状部材30はこの二つの孔211を通って基部10を囲むように設けられている。
【0043】
本変形例の滑落停止補助具では、上記実施形態の滑落停止補助具と同様に、使用者が雪上で滑落した際に揺動部が雪面と対向し且つ延長部から本体部に向かう方向が滑落する方向となるような姿勢をとることにより、雪が本体部と基部との間に入り込んで本体部が基部に対して開いた状態になり、本体部を雪面に食い込ませることができる。また、このとき、延長部が基部に当接し、本体部は基部に対して一定の角度をなす状態のまま維持される。このように滑落時に本体部が雪面に食い込んだ状態になるので、瞬時に使用者の滑落状態に制動をかけることができ、滑落停止効果を得ることができる。特に、本変形例では、本体部として、本体部をその長手方向に垂直な平面で切ったときの断面が凸状であるものを用いているので、上記実施形態の滑落停止補助具と比べて、雪上で滑落したときに、雪が本体部の凹状部分に入り込みやすくなり、その入り込んだ雪の圧力で本体部は基部に対して容易に開いた状態になる。また、本変形例の滑落停止補助具では、本体部の先端部が尖っているので、雪が硬いアイスバーン状になっている場合でも、本体部が雪面に刺さりやすいという利点や、屈曲部が雪の圧力に対して頑丈になるという利点がある。
【0044】
更に、上記の実施形態では、本発明の滑落停止補助具を身体の前側に取り付け、滑落時にピッケルと併用する場合について説明したが、本発明の滑落停止補助具を、ピッケル以外の滑落停止具、例えば前述の特許文献1に記載された滑落停止具と併用することも可能である。特許文献1に記載された滑落停止具と併用する場合には、本発明の滑落停止補助具は身体の後側に取り付けられることになる。