(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241540
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/10 20060101AFI20171127BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20171127BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20171127BHJP
H01C 17/28 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
H01F41/10 C
H01F15/10 C
H01G4/30 311D
H01C17/28
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-510278(P2016-510278)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058157
(87)【国際公開番号】WO2015146758
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-63168(P2014-63168)
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】長田 孝則
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤史
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−249900(JP,A)
【文献】
特開2004−100011(JP,A)
【文献】
特開2012−4330(JP,A)
【文献】
特開2007−204822(JP,A)
【文献】
特開2010−21523(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/086397(WO,A1)
【文献】
特開2013−4569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00−19/08、27/29、30/00−38/12
H01F 38/16、38/42、41/10
H01G 4/228−4/252、4/30
H01C 1/14−1/148、7/00−7/22、17/28
C25D 5/00−9/12、13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック素体と、前記セラミック素体上に形成される外部電極と、を備え、前記外部電極の少なくとも一部が、電解めっきを施すことによって形成されるめっき膜によって与えられる、セラミック電子部品を製造する方法であって、
製造しようとするセラミック電子部品について、セラミック素体の表面抵抗値と、電解めっき時の印加電荷量と、前記表面抵抗値を有する前記セラミック素体に対して前記印加電荷量のもとでめっきを施したときに得られる実際のめっき成長寸法との間の相関関係を予め把握する、事前把握工程と、
これから電解めっきを施すことによって外部電極の少なくとも一部となるめっき膜を形成しようとするセラミック素体の表面抵抗値を測定する、抵抗値測定工程と、
前記抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値および目的とするめっき成長寸法の設計値を、前記相関関係に適用することによって、めっき時に必要とする印加電荷量を決定する、印加電荷量決定工程と、
前記めっき膜を形成するため、前記印加電荷量決定工程により求めた前記印加電荷量のもとで、前記セラミック素体に電解めっきを施す、めっき工程と、
を備える、セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記抵抗値測定工程は、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体の中から選ばれた特定数のセラミック素体に対して実施され、前記特定数のセラミック素体についてそれぞれ測定された特定数の表面抵抗値の平均値が、前記抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値とされ、
前記めっき工程では、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体に対しては、前記特定数の表面抵抗値の平均値に基づいて決定された同じ印加電荷量のもとで電解めっきが施される、
請求項1に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記セラミック素体には、めっき成長の起点となるシード電極が形成されていて、
前記めっき工程は、前記シード電極を起点としてめっき成長させるように実施される、
請求項1または2に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記めっき工程は複数回実施され、複数回の前記めっき工程の各々について、前記印加電荷量決定工程による印加電荷量が決定され、
前記事前把握工程で把握された前記相関関係および前記抵抗値測定工程で測定された前記表面抵抗値は、複数回の前記めっき工程の各々についての印加電荷量を決定するために用いられる、
請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記印加電荷量決定工程の前に、前記目的とするめっき成長寸法の設計値を決定する目標値決定工程をさらに備える、請求項1ないし4のいずれかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
セラミック素体と、前記セラミック素体上に形成される外部電極と、を備え、前記外部電極の少なくとも一部が、電解めっきを施すことによって形成されるめっき膜によって与えられる、セラミック電子部品を製造する方法であって、
製造しようとするセラミック電子部品のための、それぞれが異なった表面抵抗値を示す複数のセラミック素体を用意し、前記複数のセラミック素体を用いて、セラミック素体の表面抵抗値と、電解めっき時の印加電荷量と、前記表面抵抗値を有する前記セラミック素体に対して前記印加電荷量のもとでめっきを施したときに得られる実際のめっき成長寸法との間の相関関係を予め把握する、事前把握工程と、
前記事前把握工程で用いられた前記複数のセラミック素体以外のセラミック素体であって、これから電解めっきを施すことによって外部電極の少なくとも一部となるめっき膜を形成しようとするセラミック素体の表面抵抗値を測定する、抵抗値測定工程と、
目的とするめっき成長寸法の設計値を決定する目標値決定工程と、
前記抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値および前記目標値決定工程で決定されためっき成長寸法の設計値を、前記相関関係に適用することによって、めっき時に必要とする印加電荷量を決定する、印加電荷量決定工程と、
前記めっき膜を形成するため、前記印加電荷量決定工程により求めた前記印加電荷量のもとで、前記セラミック素体に電解めっきを施す、めっき工程と、
を備える、セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記事前把握工程で用いられた前記複数のセラミック素体と前記抵抗値測定工程で表面抵抗値が測定された前記セラミック素体とは、互いに同じ製品ロットに含まれるものである、請求項6に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミック電子部品の製造方法に関するもので、特に、電解めっきによって外部電極の少なくとも一部を形成する工程を備えるセラミック電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5には、この発明にとって興味あるセラミック電子部品1の外観が斜視図で示されている。セラミック電子部品1は、チップ状のセラミック素体2を備えている。セラミック素体2は、外形が4つの側面3、4、5および6ならびに2つの端面7および8で規定される直方体形状を有している。
【0003】
図示しないが、セラミック素体2の内部には、セラミック電子部品1の機能に応じた形態の内部導体が設けられる。たとえば、セラミック電子部品1がコイル部品である場合、セラミック素体2の内部には、コイル導体が設けられ、セラミック電子部品1が積層セラミックコンデンサである場合には、互いに対向する複数組の内部電極が設けられる。
【0004】
セラミック素体2上には、上述した内部導体に電気的に接続される外部電極9および10が形成される。外部電極9および10の各々の少なくとも一部、すなわち、図示の例では、外部電極9および10の各々の表面層は、電解めっきによって形成されるめっき膜11および12によって与えられる。このようなめっき膜11および12の形成のため、図示しないが、めっき成長の起点となるシード電極がめっき膜13および14の下地を構成するように形成されている。
【0005】
シード電極は、たとえば、特開平11-67554号公報(特許文献1)に記載されるように、セラミック素体2の端面7および8上に導電性ペーストの焼付けによって形成される端面下地電極によって与えられたり、セラミック素体2が複数のセラミック層からなる積層構造を有する場合、セラミック層間に形成された電極層の一部を側面3〜6に露出させた側面下地電極によって与えられたりする。
【0006】
以上のようなセラミック電子部品1において、外部電極9および10の表面層を与えるめっき膜11および12の各々の端縁13および14の各位置は、めっき膜11および12の各々が側面3〜6に沿ってどれだけめっき成長したかによって決まる。より詳細には、端面7側に形成されるめっき膜11では、対向する端面8に向かって、めっきが側面3〜6に沿って、どれだけ成長したかで、端縁13の位置が決まる。端面8側に形成されるめっき膜12では、対向する端面7に向かって、めっきが側面3〜6に沿って、どれだけ成長したかで、端縁14の位置が決まる。この側面3〜6に沿うめっき成長の度合い、すなわち、めっき成長寸法Lは、めっき成長の始端ではなく、めっき成長の終端が重要である。
【0007】
上述しためっき成長寸法Lを決める要素として、電解めっき時に印加される電荷量(電流値×めっき時間)がある。したがって、従来、製造しようとする製品ごとに、目的とするめっき成長寸法Lを得るための印加電荷量を設定し、当該製品を製造する間は、この設定された電荷量を印加して電解めっきを実施していた。しかしながら、同一製品でありながら、製品ロットが変わると、めっき成長寸法Lも変わるといったばらつきが、製品ロット間で生じることがあった。すなわち、製品ロット間で、めっき成長寸法Lにばらつきが生じていた。
【0008】
めっき成長寸法Lは、製品ロット間で、できるだけばらつかないことが望まれる。なぜなら、めっき成長寸法Lのばらつきは、セラミック電子部品1の特性のばらつきをもたらすことがあるためである。たとえば、セラミック電子部品1がコイル部品である場合、めっき成長寸法Lが大きすぎると、コイルにより形成される磁束とめっき膜11および12との干渉度合いが大きくなり、セラミック電子部品1の特性に影響を及ぼすことがある。また、めっき成長寸法Lのばらつきは、外観不良をもたらすことがある。
【0009】
なお、めっき成長寸法Lを制御する方法として、たとえば特開平7-90675号公報(特許文献2)に記載された方法がある。特許文献2には、電子部品のめっき処理時にパルス電源が用いられ、パルス電源のパルス電流条件を適宜設定することにより、めっき成長寸法を制御できる技術が記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の技術は、製品ロット間でのめっき成長寸法のばらつきを抑制することには向いていない。特許文献2に記載の技術によれば、目的とするめっき成長寸法に基づいて、供給すべき電流のパルス制御パラメータ(カットオフ値)を決定し、このカットオフ値の下でめっき処理を行なうようにしているにすぎず、製品ロットごとにめっき成長寸法を予測して、予測しためっき成長寸法から目的とするめっき成長寸法を得るための補正を、パルス電源のパルス電流条件において加えることは行なっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11-67554号公報
【特許文献2】特開平7-90675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、この発明の目的は、外部電極の少なくとも一部がめっき膜によって与えられる場合において、このめっき膜のめっき成長寸法のばらつきを抑制し得る、セラミック電子部品の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、セラミック素体と、セラミック素体上に形成される外部電極と、を備え、外部電極の少なくとも一部が、電解めっきを施すことによって形成されるめっき膜によって与えられる、セラミック電子部品を製造する方法に向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、第1の局面では、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0014】
まず、この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、製造しようとするセラミック電子部品について、セラミック素体の表面抵抗値と、電解めっき時の印加電荷量と、表面抵抗値を有するセラミック素体に対して上記印加電荷量のもとでめっきを施したときに得られる実際のめっき成長寸法との間の相関関係を予め把握する、事前把握工程を備える。
【0015】
そして、この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、これから電解めっきを施すことによって外部電極の少なくとも一部となるめっき膜を形成しようとするセラミック素体の表面抵抗値を測定する、抵抗値測定工程と、この抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値および目的とするめっき成長寸法の設計値を、上述した相関関係に適用することによって、めっき時に必要とする印加電荷量を決定する、印加電荷量決定工程とを備える。
【0016】
その後、めっき膜を形成するため、上記印加電荷量決定工程により求めた印加電荷量のもとで、セラミック素体に電解めっきを施す、めっき工程が実施される。
【0017】
電解めっきによってめっき膜を形成する場合、めっき成長寸法に対しては、セラミック素体の表面抵抗値が大きく影響する。すなわち、表面抵抗値が高くなるほど、めっき成長寸法がより短くなり、逆に、表面抵抗値が低くなるほど、めっき成長寸法がより長くなる傾向がある。この発明によれば、前述したように、セラミック素体の表面抵抗値と印加電荷量とめっき成長寸法との相関関係を予め把握しておき、その上で、めっき膜を形成しようとするセラミック素体の表面抵抗値を測定し、この表面抵抗値および目的とするめっき成長寸法の設計値を上述の相関関係に当て嵌めて求めた印加電荷量のもとで、電解めっきを施すようにしているので、めっき成長寸法のばらつきを抑制することができる。
【0018】
この発明において、好ましくは、上記抵抗値測定工程は、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体の中から選ばれた特定数のセラミック素体に対して実施され、特定数のセラミック素体についてそれぞれ測定された特定数の表面抵抗値の平均値が、抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値とされる。そして、めっき工程では、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体に対しては、上記のように、特定数の表面抵抗値の平均値に基づいて決定された同じ印加電荷量のもとで電解めっきが施される。
【0019】
上記の好ましい実施形態は、同じ製品ロット内のセラミック素体については、表面抵抗値にそれほどばらつきがなく、よって、特定数の表面抵抗値の平均値に基づいて決定された同じ印加電荷量のもとで電解めっきが施されても、めっき成長寸法のばらつきの抑制を保証し得るとの推測に基づくものである。この好ましい実施形態を採用すれば、同じ製品ロット内では、印加電荷量決定工程を1回だけ実施するだけで済み、また、めっき工程では、たとえばバレルめっき法を採用するなどして、多数のセラミック素体に対して同時に電解めっきを能率的に施すことができる。
【0020】
この発明において、一実施形態では、セラミック素体には、めっき成長の起点となるシード電極が形成されていて、めっき工程は、シード電極を起点としてめっき成長させるように実施される。典型的には、シード電極は、たとえば導電性ペーストの焼付けによって形成された下地電極によって与えられる。後述するように、めっき工程が複数回実施される場合には、前のめっき工程で形成されためっき膜が、後のめっき工程でのシード電極となり得る。
【0021】
この発明において、めっき工程は複数回実施されてもよい。この場合、複数回のめっき工程の各々について、印加電荷量決定工程による印加電荷量が決定される。そして、事前把握工程で把握された相関関係および抵抗値測定工程で測定された表面抵抗値は、複数回のめっき工程の各々についての印加電荷量を決定するために用いられる。
【0022】
上記の実施形態によれば、めっき工程が複数回実施されても、各々のめっき工程において、めっき成長寸法のばらつきを抑制することができる。
【0023】
上述した印加電荷量決定工程において決定される印加電荷量は、目的とするめっき成長寸法に基づいて決定されるので、通常は、印加電荷量決定工程の前に、目的とするめっき成長寸法の設計値を決定する目標値決定工程がさらに実施される。
【0024】
この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、第2の局面では、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0025】
この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、第2の局面では、製造しようとするセラミック電子部品のための、それぞれが異なった表面抵抗値を示す複数のセラミック素体を用意し、複数のセラミック素体を用いて、セラミック素体の表面抵抗値と、電解めっき時の印加電荷量と、表面抵抗値を有するセラミック素体に対して上記印加電荷量のもとでめっきを施したときに得られる実際のめっき成長寸法との間の相関関係を予め把握する、事前把握工程を備える。
【0026】
そして、この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、第2の局面では、事前把握工程で用いられた複数のセラミック素体以外のセラミック素体であって、これから電解めっきを施すことによって外部電極の少なくとも一部となるめっき膜を形成しようとするセラミック素体の表面抵抗値を測定する、抵抗値測定工程と、目的とするめっき成長寸法の設計値を決定する目標値決定工程と、抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値および目標値決定工程で決定されためっき成長寸法の設計値を、上述した相関関係に適用することによって、めっき時に必要とする印加電荷量を決定する、印加電荷量決定工程とを備える。
【0027】
その後、第1の局面の場合と同様、めっき膜を形成するため、上記印加電荷量決定工程により求めた印加電荷量のもとで、セラミック素体に電解めっきを施す、めっき工程が実施される。
【0028】
上記第2の局面に係るセラミック電子部品の製造方法において、事前把握工程で用いられた複数のセラミック素体と抵抗値測定工程で表面抵抗値が測定されたセラミック素体とは、互いに同じ製品ロットに含まれるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、外部電極の少なくとも一部となるめっき膜について、めっき成長寸法のばらつきを抑制することができる。したがって、この発明に従って製造されるセラミック電子部品において、その特性のばらつきを抑制することができるとともに、外観不良の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明に係る製造方法によって製造されるセラミック電子部品の一例としてのコイル部品21を模式的に示す断面図である。
【
図2】この発明の第1の実施形態を説明するためのもので、
図1に示したコイル部品21に備えるセラミック素体22の表面抵抗値を測定している状態を示す正面図である。
【
図3】
図1に示したコイル部品21に備えるセラミック素体22に対して、バレルめっき法によって電解めっきを施している状態を図解的に示す正面図である。
【
図4】この発明の第2の実施形態による製造方法において複数回実施されるめっき工程を説明するためのセラミック素体52の正面図である。
【
図5】この発明にとって興味あるセラミック電子部品1の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1を参照して、この発明に係る製造方法によって製造されるセラミック電子部品の構造について説明する。
図1には、セラミック電子部品の一例としてのコイル部品21が示されている。
【0032】
コイル部品21は、たとえばNi−Zn−Cu系フェライトのような磁性体セラミックからなるチップ状のセラミック素体22を備えている。セラミック素体22は、外形が4つの側面23、24、25および26(側面24は
図2に示す。側面26はセラミック素体22の裏面側に現れる。)ならびに2つの端面27および28で規定される直方体形状を有している。
【0033】
セラミック素体22は、詳細には図示されないが、複数のセラミック層29によって与えられる積層構造を有している。この積層構造の積層方向は、
図1における左右方向に向けられる。
【0034】
セラミック素体22の内部には、たとえば、Ag、CuまたはPdを導電成分として含むコイル導体30が設けられる。なお、
図1では、コイル導体30は記号的な表示をもって省略的に図示されている。コイル導体30は、全体としてコイル状に延びるもので、実際には、セラミック層29間に延びるライン状導体と、各ライン導体の端部に接続されながら、セラミック層29を厚み方向に貫通する層間接続導体と、をもって構成されている。
【0035】
セラミック素体22上には、外部電極31および32が形成される。外部電極31および32の少なくとも各一部は、それぞれ、電解めっきによって形成されるめっき膜33および34によって与えられる。なお、図示したコイル部品21では、外部電極31および32は、それぞれ、めっき膜33および34のみから構成されている。めっき膜33および34は、たとえば、NiまたはCuから構成される。なお、めっき膜が複数のめっき層からなる場合については、後述する。セラミック素体22には、めっき膜33および34の形成のため、めっき成長の起点となるシード電極が形成される。
【0036】
シード電極としては、セラミック素体22の端面27および28上に形成された端面下地電極35および36、ならびに、側面23〜26において端面27および28に対してそれぞれ平行に延びるように形成された各々複数の側面下地電極37および38がある。
【0037】
端面下地電極35および36は、たとえば、AgまたはCuを導電成分として含む導電性ペーストを端面27および28上に塗布し、これを焼き付けることによって形成される。図示した端面下地電極35および36は、端面27および28の各全面に形成されているが、全面ではなく、たとえばメッシュ状またはストライプ状に形成されてもよい。
【0038】
側面下地電極37および38は、たとえば、セラミック素体22の積層構造を与える複数のセラミック層29となるべき複数のセラミックグリーンシートの特定のものに、側面下地電極37および38となるべき導電性ペースト膜を印刷しておくことによって、焼成工程を経て得られたセラミック素体22に形成される。図示した側面下地電極37および38は、4つの側面23〜26を周回するように形成されている。
【0039】
好ましくは、複数の側面下地電極37相互間ならびに側面下地電極37と端面下地電極35とは、少なくとも1つの接続用導体39によって電気的に接続される。同様に、複数の側面下地電極38相互間ならびに側面下地電極38と端面下地電極36とは、少なくとも1つの接続用導体40によって電気的に接続される。接続用導体39および40は、後述するバレルめっき法によって電解めっきを実施するとき、導電性メディアの接触によるシード電極への電気的導通状態が生じる確率を高めるように作用する。これら接続用導体39および40は、たとえば、セラミック素体22の積層構造を与える複数のセラミック層29となるべき複数のセラミックグリーンシートの特定のものに貫通孔を設け、そこに導電性ペーストを充填することによって形成される。
【0040】
上述した側面下地電極37および38ならびに接続用導体39および40を形成するために用いられる導電性ペーストとしては、たとえば、AgまたはCuを導電成分として含むものが用いられる。
【0041】
前述した外部電極31および32を与えるめっき膜33および34が有するめっき成長寸法は、
図1において、「L1」で示されており、そのうち側面下地電極37および38を起点として側面23および25の中央向きに形成されるめっき成長寸法は「L1a」で示されている。めっき膜33および34を電解めっきによって形成するにあたり、同一製品でありながら、製品ロットが変わると、印加電荷量が同じであっても、めっき成長寸法L1が、製品ロットごとにばらつくことがあることは前述したとおりである。
【0042】
なお、めっき成長寸法L1は、端面下地電極35または36の端部を起点として、それぞれ、側面23〜26の中央方向に向かって成長しためっき膜33および34の各端縁までの長さを指す。また、めっき成長寸法L1aは、各々複数の側面下地電極37および38のうち、セラミック素体22の最も中央寄りに位置する側面下地電極37および38をそれぞれ起点として、側面23〜26の中央方向に向かって成長しためっき膜33および34の端縁までの長さを指す。
【0043】
めっき成長寸法L1のばらつきの要因は、セラミック素体22の表面比抵抗値のばらつきにあることがわかっている。すなわち、表面抵抗値が低いほど、大きなめっき成長寸法が得られる。
【0044】
セラミック素体22の表面比抵抗値は、もちろん、セラミック素体22の材質によって変わる。たとえば、サーミスタ材料とフェライト材料と誘電体材料とを比べた場合、この列挙した順序で表面比抵抗値が高くなる。また、たとえばフェライト材料の中でも、その組成によって表面比抵抗が異なる。
【0045】
また、セラミック素体22の表面比抵抗値は、焼結度合いによっても変動する。そのため、焼成直後のセラミック素体22において、その表面と内部とでは、表面比抵抗値が異なり、そのため、セラミック素体22を表面研磨するか、しないか、あるいは、研磨の度合いによっても、表面比抵抗値は異なる。
【0046】
本件発明者による実験では、セラミック素体に対して、12Aの電流値で60分間の電荷量を印加する共通のめっき条件で電解めっきを施したとき、表面研磨を施さない試料では、測定端子間距離が0.3mmである場合の表面抵抗値が0.6[TΩ]であり、22[μm]のめっき成長寸法L1aが得られたのに対し、表面研磨を施した試料では、同じ測定端子間距離での表面抵抗値が0.3[TΩ]であり、55[μm]のめっき成長寸法L1aが得られた。このことから、セラミック素体の表面抵抗値は、表面研磨の有無(あるいは度合い)によって左右され、かつ、めっき成長寸法は、表面抵抗値によって左右されることがわかる。
【0047】
このようなめっき成長寸法についてのばらつきを抑制するため、この実施形態では、以下のような製造方法が採用される。
【0048】
まず、本格的な量産に入る前に、製造しようとするコイル部品21について、以下のような事前把握工程が実施される。
【0049】
事前把握工程では、まず、セラミック素体22の表面抵抗値を測定する工程が実施される。この工程では、
図2に示すように、市販の高絶縁抵抗測定器のような絶縁抵抗計41が用いられ、測定端子としての1対のプローブ42および43をセラミック素体22の表面に一平面上で、たとえば側面23上で接触させることによって、セラミック素体22の表面抵抗値が測定される。この場合、セラミック素体22の表面の比抵抗値を必ずしも求める必要はなく、1対のプローブ42および43間の距離を一定に保った上で測定した相対値としての表面抵抗値を求めれば十分である。
【0050】
上記の表面抵抗値の測定に関して、セラミック材料のような絶縁体の表面比抵抗を測定する場合は、日本工業規格「JIS C 2525:セラミック素材の表面比抵抗の測定」に基づき、二重リング電極法にて計測するのが一般的である。二重リング電極法では、試験片形状が直径100mm×厚み2mmと決められており、かつ測定回路や測定条件(500V印加×1分間計測)が決められている。しかしながら、この発明の対象となるセラミック電子部品の場合、寸法や形状が製品ごとに異なるため、上述したJISに基づく表面比抵抗測定方法を適用することは能率的ではない。この実施形態では、煩雑かつ高コストとも言えるJISに基づく測定方法を採用することなく、絶縁抵抗計41による簡易な測定方法で表面抵抗値が能率的に求められる。
【0051】
次に、事前把握工程では、上述のようにして求めた表面抵抗値を有するセラミック素体22に対して、印加電荷量の条件を種々に変えて、電解めっきが実施される。
【0052】
図3には、セラミック素体22に対して、バレルめっき法によって電解めっきを施している状態が図解的に示されている。電解液44が収容されためっき槽45内には、矢印46方向に回転するバレル47が配置される。バレル47内には、電解めっきの対象となる複数のセラミック素体22が導電性の複数のメディア48とともに装填される。電解液44内には陽極49が配置され、バレル47内のメディア48と接触し得るように、陰極50が配置される。
【0053】
バレルめっき法によれば、バレル47が回転することによって、その中のセラミック素体22およびメディア48が攪拌され、この攪拌によって、シード電極としての端面下地電極35および36ならびに側面下地電極37および38へのメディア48の接触が促進される。そして、メディア48が接触している間、端面下地電極35および36ならびに側面下地電極37および38に通電され、これらシード電極を起点として電解めっきが進行する。
【0054】
上述した、たとえばバレルめっき法によって電解めっきを実施し、それによって、表面抵抗値と、印加電荷量と、当該印加電荷量のもとでめっきを施したときに得られる実際のめっき成長寸法L1(
図1参照)との間の相関関係を把握することが行なわれる。この相関関係によって、たとえば、製品Aについて、セラミック素体の表面抵抗値がa[Ω]であるとき、b[μm]のめっき成長寸法L1を得ようとすると、c[A]の電流をd[分間]付与する印加電荷量が必要であることを予め知ることができる。なお、印加電荷量は電流値とめっき時間との積で表わされるが、印加電荷量を変えるため、電流のみを変えても、めっき時間のみを変えても、これら両方を変えてもよい。また、上述した相関関係を把握するにあたり、実際のめっき成長寸法L1の代わりに、側面下地電極37および38を起点として側面23および25の中央向きに形成されるめっき成長寸法L1aを用いて相関関係を把握してもよい。
【0055】
以上の事前把握工程を終えた後、コイル部品21が本格的に量産される。事前把握工程は、通常、1種類の製品に対して、1回実施されるだけでよい。
【0056】
なお、事前把握工程において、表面抵抗値と印加電荷量とめっき成長寸法との間の相関関係を把握するために用いられる複数のセラミック素体22としては、意図的に、それぞれが異なった表面抵抗値を示すものを用意しなければならない。前述した、それぞれのセラミック素体22に対する表面研磨の有無および度合いによる表面抵抗値の変更操作は、それぞれが異なった表面抵抗値を示すセラミック素体22の準備にとって有利である。
【0057】
コイル部品21の量産体制下での製造にあたっては、まず、これから電解めっきを施すことによってめっき膜33および34を形成しようとするセラミック素体22の表面抵抗値を測定する、抵抗値測定工程が実施される。この工程では、前述した事前把握工程の場合と同様、
図2に示すように、絶縁抵抗計41が用いられ、測定端子としての1対のプローブ42および43をセラミック素体22の4つの側面23〜26のうちのいずれかの同じ側面に接触させることによって、セラミック素体22の表面抵抗値が測定される。
図2では、セラミック素体22の側面23に、プローブ42および43を接触させている。
【0058】
好ましくは、この抵抗値測定工程は、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体22の中から選ばれた複数のセラミック素体、たとえば20個のセラミック素体22に対して実施され、これら20個のセラミック素体22についてそれぞれ測定された20個の表面抵抗値の平均値が、抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値とされる。
【0059】
次に、印加電荷量決定工程が実施される。すなわち、上記抵抗値測定工程により求めた表面抵抗値および目的とするめっき成長寸法の設計値を、上述した表面抵抗値と印加電荷量とめっき成長寸法L1(またはL1a)との間の相関関係に適用することによって、めっき時に必要とする印加電荷量が決定される。
【0060】
なお、上述した印加電荷量決定工程において決定される印加電荷量は、目的とするめっき成長寸法に基づいて決定されるので、通常は、印加電荷量決定工程の前に、目的とするめっき成長寸法の設計値を決定することが行なわれる。
【0061】
その後、めっき膜33および34を形成するため、決定された上記印加電荷量のもとで、セラミック素体22に電解めっきを施す、めっき工程が実施される。このめっき工程では、同じ製品ロット内の複数のセラミック素体22に対しては、前述の複数のセラミック素体、ここでは20個のセラミック素体22について測定された表面抵抗値の平均値に基づいて決定された同じ印加電荷量のもとで電解めっきが施される。そのため、このめっき工程でも、
図3に示したバレルめっき法が有利に適用される。
【0062】
次に、製品ロットが切り替えられ、前とは異なる製品ロットのセラミック素体22に対する電解めっき工程が開始される場合には、再び、抵抗値測定工程が実施され、この工程で求められた表面抵抗値およびめっき成長寸法L1の設計値が前述した相関関係に当て嵌められ、めっき時に必要とする印加電荷量が決定される。そして、この印加電荷量のもとで、
図3に示したバレルめっき法によって、セラミック素体22に電解めっきが施される。
【0063】
以上のように、この実施形態によれば、セラミック素体22の表面抵抗値と印加電荷量とめっき成長寸法L1との相関関係を予め把握しておき、その上で、めっき膜33および34を形成しようとするセラミック素体22の表面抵抗値を測定し、この表面抵抗値および目的とするめっき成長寸法L1の設計値を上述の相関関係に当て嵌めて求めた印加電荷量のもとで、電解めっきを施すようにしているので、特に、異ロット間でのめっき成長寸法L1のばらつきを抑制することができる。
【0064】
以上、この発明の対象となるセラミック電子部品として、コイル部品21を例にとって説明した。コイル部品21の場合、セラミック素体22はフェライト材料からなるが、フェライト材料は、たとえば積層セラミックコンデンサの場合のセラミック素体を構成する誘電体材料より表面抵抗値が低い。よって、めっき成長寸法のばらつきの幅は、フェライト材料の方が誘電体材料よりも広くなると推測できる。この点で、この発明は、積層セラミックコンデンサに適用される場合よりも、コイル部品に適用されたとき、より意義が大きいと言える。
【0065】
しかしながら、この発明は、コイル部品に限らず、積層セラミックコンデンサ、サーミスタ等の他のセラミック電子部品にも適用することができる。また、この発明は、外部電極の数が2つのセラミック電子部品に限らず、外部電極を3つ以上有するセラミック電子部品にも適用することができる。
【0066】
セラミック電子部品の外部電極を得るため、めっき工程が複数回実施されることがある。たとえば、Niめっきおよびその上にSnめっき、あるいは、Cuめっき、その上にNiめっきおよびさらにその上にSnめっきというように、めっき工程が複数回実施されることがある。この場合、複数回のめっき工程の各々について、前述した印加電荷量決定工程が実施され、印加電荷量が決定される。そして、事前把握工程で把握された相関関係および抵抗値測定工程で測定された表面抵抗値は、複数回のめっき工程の各々についての印加電荷量を決定するために用いられる。
【0067】
図4を参照して、より具体的に説明する。
図4には、1回目のめっき工程を終えた後のセラミック素体52が示されている。セラミック素体52の両端部には、1回目のめっき工程で形成された第1のめっき膜53および54が形成されている。第1のめっき膜53および54を形成するにあたって、この発明の特徴となる前述のめっき成長寸法のばらつきを抑制するための対策が講じられる。
【0068】
次に、上記第1のめっき膜53および54をシード電極として、2回目のめっき工程が実施され、
図4において点線で示すように、第2のめっき膜55および56が、それぞれ、第1のめっき膜53および54上およびセラミック素体52の一部の領域上に形成される。この場合においても、この発明の特徴となるめっき成長寸法L2(またはL2a)のばらつきを抑制するための対策が講じられる。すなわち、事前把握工程で把握された相関関係および抵抗値測定工程で測定された表面抵抗値が、この2回目のめっき工程における印加電荷量を決定するために用いられる。
【0069】
3回目以降のめっき工程が実施される場合にも、同様の対策が講じられる。
【0070】
なお、上記説明では、
図4おいて「53」および「54」で示した要素を、「めっき膜」としたが、これらを導電性ペーストの焼付けによって形成される導体膜としてもよい。この場合には、導体膜53および54をシード電極として、点線で示しためっき膜55および56が電解めっきによって形成され、このめっき膜55および56を形成する段階で、この発明の特徴となるめっき成長寸法L2のばらつきを抑制するための対策が講じられることになる。
【符号の説明】
【0071】
21 コイル部品(セラミック電子部品)
22,52 セラミック素体
31,32 外部電極
33,34,53,54,55,56 めっき膜
35,36 端面下地電極(シード電極)
37,38 側面下地電極(シード電極)
41 絶縁抵抗計
42,43 プローブ
44 電解液
45 めっき槽
47 バレル
48 メディア
49 陽極
50 陰極
L1,L2 めっき成長寸法