特許第6241545号(P6241545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241545
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】圧延システム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/74 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   B21B37/74 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-514616(P2016-514616)
(86)(22)【出願日】2014年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2014061448
(87)【国際公開番号】WO2015162728
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】井波 治樹
(72)【発明者】
【氏名】久保 直博
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−128423(JP,A)
【文献】 特開昭62−185829(JP,A)
【文献】 特開2003−275804(JP,A)
【文献】 特開2005−068553(JP,A)
【文献】 特開2010−247234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/26,37/74,45/00
B21C 51/00
C21D 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送テーブルによって搬送される材料を加熱する誘導加熱装置と、
前記誘導加熱装置より上流の第1位置で材料の温度を検出する第1温度検出器と、
前記誘導加熱装置より下流に設けられ、材料を圧延する仕上げ圧延機と、
前記誘導加熱装置より下流且つ前記仕上げ圧延機より上流の第2位置で材料の温度を検出する第2温度検出器と、
前記誘導加熱装置に必要な電力を計算する設定電力計算装置と、
を備え、
前記設定電力計算装置は、
前記第1温度検出器によって検出された温度に基づいて、前記第1位置における材料の板厚方向の温度分布パターンを生成する生成手段と、
前記生成手段によって生成された温度分布パターンに基づいて、材料が前記第1位置から前記第2位置に移動した時の前記第2位置における材料の体積平均温度を計算する第1計算手段と、
前記第1計算手段によって計算された体積平均温度が前記第2位置における材料の目標温度に追従するように、前記誘導加熱装置に必要な電力を計算する第2計算手段と、
を備え、
前記第1計算手段は、材料を板厚方向にノード分割し、放射冷却、空気対流による抜熱、前記搬送テーブルのテーブルロールへの抜熱、隣接するノード間の温度差から生じる熱伝導及び前記誘導加熱装置からの熱量変化に基づいて各ノードの温度変化を算出し、その算出結果に基づいて、各ノードの体積と温度との積の和を各ノードの体積の和で除した値に相当する材料の体積平均温度を計算する圧延システム。
【請求項2】
前記搬送テーブルによって搬送される材料の速度を検出する速度検出器と、
を更に備え、
前記第1計算手段は、
材料が前記仕上げ圧延機によって圧延される前は、材料の搬送速度として予め設定された予測速度パターンを用いて材料の全長に渡る体積平均温度を計算し、
前記仕上げ圧延機による圧延が開始された後は、材料の搬送速度として前記速度検出器によって検出された速度を用いて又は前記速度検出器によって検出された速度と前記予測速度パターンとの双方を用いて、材料の全長に渡る体積平均温度を計算する
請求項1に記載の圧延システム。
【請求項3】
昇温パターン設定を決定するための昇温パターン設定決定装置と、
を更に備え、
前記第2計算手段は、前記昇温パターン設定決定装置によって決定された昇温パターン設定と前記誘導加熱装置による加熱が行われない時の前記第2位置における材料の体積平均温度とに基づいて、前記第2位置における材料の目標温度を設定する請求項1又は請求項2に記載の圧延システム。
【請求項4】
前記第2計算手段は、前記生成手段によって生成された温度分布パターンに基づいて、前記誘導加熱装置による加熱が行われない時の前記第2位置における材料の体積平均温度を計算する請求項3に記載の圧延システム。
【請求項5】
前記第2位置は、前記仕上げ圧延機の入側に近接する位置であり、
前記第1計算手段は、材料を長手方向に一定長のセグメントに分割した時の各セグメントに対して体積平均温度を計算し、
前記第2計算手段は、材料の各セグメントに対して目標温度を設定する
請求項3又は請求項4に記載の圧延システム。
【請求項6】
前記第2計算手段は、前記第1計算手段によって計算された体積平均温度と前記第2位置における材料の目標温度との差が基準の範囲から外れる場合は、前記第1計算手段に、体積平均温度を計算する際に使用した電力の値を再設定して体積平均温度を再計算させる請求項1から請求項5の何れか一項に記載の圧延システム。
【請求項7】
前記搬送テーブルによって搬送される材料の速度を検出する速度検出器と、
を更に備え、
前記第1計算手段は、前記第1温度検出器によって検出された温度と前記速度検出器によって検出された速度と前記誘導加熱装置に実際に供給された電力とに基づいて前記第2位置における材料の表面温度を計算し、計算された表面温度と前記第2温度検出器によって検出された温度とに基づいて、体積平均温度を計算する際に使用するパラメータを修正する請求項1に記載の圧延システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘導加熱装置を備えた圧延システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、誘導加熱装置は他の加熱装置と比較して、省エネルギー性に優れる、急速加熱が可能である、温度制御性・応答性が良い、作業環境が良いといった特徴がある。
【0003】
圧延ライン(例えば、熱間圧延ライン)において誘導加熱装置を用いることにより、粗バーのスキッドマークを低減させることができ、材料の全長に渡って板厚及び板幅の精度を向上させることができる。また、加熱炉からの低温抽出と誘導加熱装置のサーマルランダウン補償とを組み合わせれば、材料の先端から尾端までの高速圧延が可能となる。誘導加熱装置によって材料の尾端の温度を上昇させれば、従来では圧延が不可能だった材料(例えば、薄物で長い材料)でも圧延が可能となる。このような様々な利点を有するため、設備毎に多様な誘導加熱装置の使用方法が提案され、実際に適用されている。
【0004】
例えば、特許文献1に、誘導加熱装置によって材料を加熱することにより、誘導加熱装置を通過した直後の材料の表面温度をある目標温度以上にし、材料の内部温度をある目標温度以下にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特許第4631247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧延ラインでは、仕上げ圧延機の出側において材料の温度が所望の範囲に入っていることが重要である。仕上げ圧延機の出側において材料の温度を所望の範囲に入れるためには、仕上げ圧延機の入側における材料の温度を正確に管理しなければならない。仕上げ圧延機の入側において材料の温度を正確に制御することができれば、仕上げ圧延機の出側において材料の温度は安定する。
【0007】
特許文献1は、仕上げ圧延機の入側において材料の温度をどのように安定させるかといった具体的な内容は開示していない。誘導加熱装置と仕上げ圧延機との間には一定の距離があり、誘導加熱装置を通過した後、材料内部の熱伝導、搬送テーブルのテーブルロールへの抜熱、空気対流等によって材料の温度は変化してしまう。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされた。この発明の目的は、仕上げ圧延機の入側において材料が最適な温度になるように誘導加熱装置を制御することができる圧延システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る圧延システムは、搬送テーブルによって搬送される材料を加熱する誘導加熱装置と、誘導加熱装置より上流の第1位置で材料の温度を検出する第1温度検出器と、誘導加熱装置より下流に設けられ、材料を圧延する仕上げ圧延機と、誘導加熱装置より下流且つ仕上げ圧延機より上流の第2位置で材料の温度を検出する第2温度検出器と、誘導加熱装置に必要な電力を計算する設定電力計算装置と、を備える。設定電力計算装置は、第1温度検出器によって検出された温度に基づいて、第1位置における材料の板厚方向の温度分布パターンを生成する生成手段と、生成手段によって生成された温度分布パターンに基づいて、材料が第1位置から第2位置に移動した時の第2位置における材料の体積平均温度を計算する第1計算手段と、第1計算手段によって計算された体積平均温度が第2位置における材料の目標温度に追従するように、誘導加熱装置に必要な電力を計算する第2計算手段と、を備える。第1計算手段は、材料を板厚方向にノード分割し、放射冷却、空気対流による抜熱、搬送テーブルのテーブルロールへの抜熱、隣接するノード間の温度差から生じる熱伝導及び誘導加熱装置からの熱量変化に基づいて各ノードの温度変化を算出し、その算出結果に基づいて、各ノードの体積と温度との積の和を各ノードの体積の和で除した値に相当する材料の体積平均温度を計算する。


【発明の効果】
【0010】
この発明に係る圧延システムであれば、仕上げ圧延機の入側において材料が最適な温度になるように誘導加熱装置を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施の形態1における圧延システムを示す構成図である。
図2】設定電力計算装置の動作を示すフローチャートである。
図3】誘導加熱装置の直下における鋼材の速度パターンの例を示す。
図4】鋼材の温度実績値に基づく温度分布パターンの生成方法の例を示す図である。
図5】鋼材断面のノード分割例を示す図である。
図6】各設備位置で考慮しなければならない熱量要素を示す図である。
図7】この発明の実施の形態2における圧延システムの要部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図面を参照し、本発明を説明する。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図において、同一の符号は、同一の部分又は相当する部分を示す。
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における圧延システムを示す構成図である。圧延ラインの一例として、熱間圧延ラインを示している。
【0014】
熱間圧延ラインは、鋼材(材料)1を搬送テーブル2によって搬送しながら、鋼材1を圧延する。3は搬送テーブル2に備えられたテーブルロールである。テーブルロール3は、電動機(図示せず)によって駆動される。鋼材1はテーブルロール3に載せられ、テーブルロール3が回転することによりその回転方向に応じた方向に搬送される。4は搬送テーブル2によって搬送される鋼材1の速度を検出するための速度検出器である。速度検出器4は、例えば、テーブルロール3の回転動力に基づいて鋼材1の搬送速度を検出する。速度検出器4による速度の検出方法は、これに限定されない。速度検出器4は、検出した速度の情報を設定電力計算装置7と電力制御装置8とに出力する。
【0015】
鋼材1の圧延は、例えば、粗圧延機(図示せず)と粗圧延機より下流に設けられた仕上げ圧延機5とによって行われる。熱間圧延ラインに粗圧延機が備えられていなくても良い。鋼材1を加熱するための誘導加熱装置6は、粗圧延機より下流且つ仕上げ圧延機5より上流に配置される。誘導加熱装置6は、電磁誘導によって鋼材1を加熱する。設定電力計算装置7は、誘導加熱装置6に必要な電力を計算し、計算した電力パターンを電力制御装置8に出力する。電力制御装置8は、設定電力計算装置7から入力された電力パターン通りに誘導加熱装置6に電力が供給されるように、誘導加熱装置6に供給する電力を制御する。
【0016】
温度検出器9は、鋼材1の温度を検出する。温度検出器9は、誘導加熱装置6より上流に設定されたある位置を通過する鋼材1の表面温度を検出する。温度検出器9によって検出された鋼材1の温度の情報は、設定電力計算装置7に入力される。
【0017】
温度検出器10は、鋼材1の温度を検出する。温度検出器10は、誘導加熱装置6より下流且つ仕上げ圧延機5より上流に設定されたある位置を通過する鋼材1の表面温度を検出する。温度検出器10は、例えば、仕上げ圧延機5に入る直前の鋼材1の温度を検出する。温度検出器10によって検出された鋼材1の温度の情報は、設定電力計算装置7及び昇温パターン設定決定装置12に入力される。
【0018】
温度検出器11は、鋼材1の温度を検出する。温度検出器11は、仕上げ圧延機5より下流に設定されたある位置を通過する鋼材1の表面温度を検出する。温度検出器11は、例えば、仕上げ圧延機5から出た直後の鋼材1の温度を検出する。温度検出器11によって検出された鋼材1の温度の情報は、昇温パターン設定決定装置12に入力される。
【0019】
昇温パターン設定決定装置12は、工場作業者等が昇温パターン設定を鋼材1の圧延前に決定するための装置である。工場作業者等によって決定された昇温パターン設定の情報は、昇温パターン設定決定装置12から設定電力計算装置7に出力される。
【0020】
温度検出器10によって検出された温度の情報と温度検出器11によって検出された温度の情報とは、圧延が行われる度に、昇温パターン設定決定装置12に入力される。昇温パターン設定決定装置12では、入力された温度の情報を記憶装置(図示せず)に記憶する。工場作業者等は、昇温パターン設定を決定する際に、記憶装置に記憶されている温度の情報を参照する。また、工場作業者等は、鋼材1の通板性、仕上げの温度制御及び材質制御の観点から、鋼材1の種別に基づいて昇温パターン設定を決定する。
【0021】
設定電力計算装置7は、温度検出器9によって検出された鋼材1の温度と予め計算或いは設定された鋼材1の速度パターンと昇温パターン設定決定装置12から入力された昇温パターン設定とに基づいて、誘導加熱装置6に対する電力パターンを計算する。電力制御装置8は、速度検出器4によって検出された実際の搬送速度を用いて、予め計算された鋼材1の速度パターンとの偏差分を補正することにより、最終的な出力電力を計算する。
【0022】
次に、図2乃至図6も参照し、設定電力計算装置7の機能について具体的に説明する。図2は設定電力計算装置7の動作を示すフローチャートである。設定電力計算装置7は、図2に示す処理を行い、誘導加熱装置6によって鋼材1の全長を適切に加熱するための電力パターンを決定する。
【0023】
設定電力計算装置7は、先ず、下流側温度管理位置における鋼材1の昇温パターン設定を昇温パターン設定決定装置12から取り込む(S1)。下流側温度管理位置は、鋼材1の温度を管理するための位置である。下流側温度管理位置は、誘導加熱装置6の下流、例えば仕上げ圧延機5の入側に設定される。図1に示す例では、温度検出器10が鋼材1の温度を検出する位置を下流側温度管理位置に設定している。
【0024】
昇温パターン設定は、下流側温度管理位置における鋼材1の温度予測値(平均温度)からの温度上昇量(平均温度)と定義する。この温度予測値は、誘導加熱装置6による加熱が行われない場合の鋼材1の平均温度である。S1において設定電力計算装置7に取り込まれる昇温パターン設定は、偏差としての情報である。設定電力計算装置7は、S1において、鋼材1の全長に対する昇温パターン設定を取得する。
【0025】
なお、鋼材1の平均温度は、次式で与えられる。平均温度とは、鋼材1の内部ノードの温度を体積平均によって求めた温度を意味する。
【0026】
【数1】
【0027】
ここで、
va:体積平均温度
T[i]:ノードiの温度
:ノードiの体積
i:ノード番号(1、2、・・・、2N−1)
である。
【0028】
設定電力計算装置7は、S2において鋼材1の速度パターンを取り込む。図3は、搬送テーブル2によって搬送されている時の誘導加熱装置6の直下における鋼材1の速度パターンの例を示す。粗圧延機(或いは、誘導加熱装置6)から仕上げ圧延機5までの鋼材1の速度パターンは、簡単な手順によって予め計算することができる。鋼材1の速度は、先端が仕上げ圧延機5に噛み込まれると、仕上げ圧延機5の速度に支配される。このため、鋼材1の速度パターンは、先端が仕上げ圧延機5に噛み込まれると、一般に減速方向に変化する。また、その後の鋼材1の速度パターンは、仕上げ圧延機5が加速することに伴い、加速方向に変化する。設定電力計算装置7は、S2において、鋼材1の全長に対する速度パターンを取得する。
【0029】
設定電力計算装置7は、S3において、上流側温度管理位置における鋼材1の板厚方向の温度分布パターンを取り込む。上流側温度管理位置は、鋼材1の温度を管理するための位置である。上流側温度管理位置は、誘導加熱装置6の上流に設定される。図1に示す例では、温度検出器9が鋼材1の温度を検出する位置を上流側温度管理位置に設定している。
【0030】
設定電力計算装置7は、S4において、上流側温度管理位置で測定された鋼材1の温度(実績値)を取り込む。具体的に、設定電力計算装置7は、温度検出器9によって検出された鋼材1の表面温度をS4において鋼材1の温度実績値として取り込む。設定電力計算装置7は、S4において、鋼材1の全長に対する表面温度を取得する。
【0031】
設定電力計算装置7は、S5において、S3で取得した温度分布パターンとS4で取得した温度実績値とを用いて、上流側温度管理位置における鋼材1の板厚方向の温度分布パターンを生成する。S5において生成される温度分布パターンは、単なる偏差としての情報ではなく、鋼材1の実際の温度を加味した情報である。図4に、鋼材1の温度実績値に基づく温度分布パターンの生成方法の例を示す。設定電力計算装置7は、例えば、S3で取得した温度分布パターンのうち鋼材1の表面に相当する部分の温度を温度検出器9によって検出された表面温度に一致させることにより、温度実績値に基づく温度分布パターンを生成する。設定電力計算装置7は、S5において、鋼材1の全長に対する板厚方向の温度分布パターンを生成する。
【0032】
設定電力計算装置7は、S6において、鋼材1が上流側温度管理位置から下流側温度管理位置に移動した時の鋼材1の温度変化を計算する。この時、上流側温度管理位置における鋼材1の温度として、S5で生成した温度分布パターンを用いる。設定電力計算装置7がS6において計算する温度予測値(平均温度)は、誘導加熱装置6によって加熱が行われない時の下流側温度管理位置における温度である。設定電力計算装置7は、S6において、鋼材1の全長に対する温度予測を行う。
【0033】
鋼材1の温度予測の計算では、非定常熱伝導方程式に有限差分法を適用し、例えば、鋼材1の断面内の空間と搬送ライン上の搬送時間とに対して離散化して計算する。図5に、鋼材1のノード分割例を示す。図5に示すように、鋼材1を板厚方向に2N−1個のノード(要素)で分割する。また、鋼材1の長手方向については、一定長のセグメント(切板)に分割する。設定電力計算装置7は、各セグメントについて板厚方向の温度を計算することにより、鋼材1の全長に対する温度予測を行う。
【0034】
温度予測の計算において、最も外側に配置されたノードでは、鋼材1の表面を介して外部に伝わる熱移動を考慮する。即ち、ノード1及びノード2N−1に関しては、放射冷却Qrad、空冷却(空気対流による抜熱)Qconv、テーブルロール3への抜熱Qrollを考慮する。また、各ノード(最も外側に配置されたノードを含む)では、隣接するノード間の温度差から生じる熱伝導Qcond、誘導加熱装置6による熱量変化Qbhを考慮する。誘導加熱装置6による加熱がない場合は、Qbh=0として計算すれば良い。図6は、各設備位置で考慮しなければならない熱量要素を表している。設定電力計算装置7は、各ノードの温度変化を算出すると、その算出結果に基づいて温度予測値(平均温度)を計算する。
【0035】
【数2】
【0036】
【0037】
次に、設定電力計算装置7は、下流側温度管理位置における鋼材1の温度パターン設定値を生成する(S7)。S7で生成される温度パターン設定値は、下流側温度管理位置における鋼材1の目標温度である。設定電力計算装置7は、S6で計算した温度予測値(平均温度)に、S1で取得した昇温パターン設定(平均温度)を足し合わせることにより、温度パターン設定値(平均温度)を算出する。設定電力計算装置7は、例えば、各セグメントについて温度パターン設定値を算出することにより、鋼材1の全長に対する温度パターン設定値の計算を行う。
【0038】
設定電力計算装置7は、S8において、誘導加熱装置6の入側における鋼材1の温度(平均温度)を計算する。誘導加熱装置6の入側の温度とは、鋼材1が誘導加熱装置6に入る直前の温度である。この時、上流側温度管理位置における鋼材1の温度として、S5で生成した温度分布パターンを用いる。
【0039】
また、設定電力計算装置7は、S9において、誘導加熱装置6の出側における鋼材1の温度(平均温度)を計算する。誘導加熱装置6の出側の温度とは、鋼材1が誘導加熱装置6から出た直後の温度である。設定電力計算装置7は、S8で得た温度予測値と誘導加熱装置6に供給される電力とに基づいて、誘導加熱装置6の出側における鋼材1の温度を予測する。
【0040】
設定電力計算装置7は、S10において、下流側温度管理位置における鋼材1の温度(平均温度)を計算する。設定電力計算装置7は、S9で得た温度予測値に基づいて、下流側温度管理位置における鋼材1の温度を予測する。S10で得られる温度予測値は、誘導加熱装置6に供給される電力を考慮した場合の値である。
【0041】
即ち、設定電力計算装置7は、S8乃至S10に示す処理により、鋼材1が上流側温度管理位置から下流側温度管理位置に移動した時の下流側温度管理位置における鋼材1の温度予測値(平均温度)を得る。この予測値は、設定された電力によって誘導加熱装置6による鋼材1の加熱が行われた時の値である。
【0042】
S8乃至S10における計算は、上述した温度計算の組み合わせによって行うことができる。誘導加熱装置6からノードiへの熱量変化は、例えば、次式によって算出される。
【0043】
【数3】
【0044】
【0045】
浸透深さ係数は、電流の浸透深さを表す。浸透深さ係数は、例えば、次式に示す3次関数を利用して求めることができる。
【0046】
【数4】
【0047】
ここで、
i:ノード番号(1、2、・・・、2N−1)
:パラメータ
x[i]:ノードiの表面からの深さ
である。
【0048】
設定電力計算装置7は、S11において、S10で求めた鋼材1の体積平均温度とS7で生成した温度パターン設定値とを比較し、その偏差を求める。設定電力計算装置7は、求めた偏差が規定の範囲内であるか否かを判定する。求めた偏差が規定の範囲から外れている場合(S11のNo)、設定電力計算装置7は、誘導加熱装置6に対する電力の設定値を修正する(S12)。
【0049】
次に、設定電力計算装置7は、S12において修正した誘導加熱装置6の電力がリミット範囲内であるか否かを判定する(S13)。設定電力計算装置7は、誘導加熱装置6の電力がリミット範囲内であれば(S13のYes)、S12において再設定された誘導加熱装置6の電力に基づいてS8乃至S10の計算を再度行う。設定電力計算装置7は、S10で求めた鋼材1の体積平均温度とS7で生成した温度パターン設定値との偏差が規定の範囲に入るまで、S8乃至S13に示す処理を繰り返す。
【0050】
設定電力計算装置7は、S8乃至S13に示す処理を鋼材1の全長に対して実施する。例えば、設定電力計算装置7は、セグメントj(jはセグメント番号)に対してS8乃至S13に示す処理を行う。設定電力計算装置7は、S11において偏差が規定の範囲内になると、セグメントjに対する処理を終了し、その時点における電力をセグメントjに対する電力に設定する。また、S13において誘導加熱装置6の電力がリミット範囲から外れた場合もセグメントjに対する処理を終了し、その時点における電力をセグメントjに対する電力に設定する。設定電力計算装置7は、セグメントjに対する処理が終了すると、セグメントj+1に対する処理を開始する。誘導加熱装置6の電力設定が鋼材1の全長(全てのセグメント)に対して行われると、設定電力計算装置7は、その設定した電力パターンを電力制御装置8に出力する。
【0051】
上記構成を有する制御装置であれば、所望の昇温パターン設定を達成するために必要な誘導加熱装置6の電力パターンを精度良く求めることができる。即ち、仕上げ圧延機5の入側において鋼材1が最適な温度になるように誘導加熱装置6を適切に制御することができる。これにより、製品の品質を向上させることができ、付加価値を高めることが可能となる。
【0052】
なお、設定電力計算装置7は、鋼材1が仕上げ圧延機5によって圧延される前は、鋼材1の搬送速度として予め設定された速度パターンを用いて鋼材1の全長に渡る体積平均温度を計算する。また、設定電力計算装置7は、仕上げ圧延機5による圧延が開始された後は、鋼材1の搬送速度として速度検出器4によって検出された速度を用いて鋼材1の全長に渡る体積平均温度を計算する。或いは、設定電力計算装置7は、鋼材1の搬送速度として速度検出器4によって検出された速度と予め設定された速度パターンとの双方を用いても良い。上記双方の比率を時間の経過と共に変え、その得られた値を鋼材1の搬送速度として用いても良い。
【0053】
なお、設定電力計算装置7は、ハードウェア資源として、例えば入出力インターフェースとCPUとメモリとを含む回路を備える。設定電力計算装置7は、メモリに記憶されたプログラムをCPUによって実行することにより、図2に示す各処理(機能)を実現する。図2に示された設定電力計算装置7が有する各機能の一部又は全部をハードウェアによって実現しても良い。
【0054】
実施の形態2.
図7は、この発明の実施の形態2における圧延システムの要部の構成を示す図である。本実施の形態では、設定電力計算装置7が学習機能を有する場合について説明する。
【0055】
実施の形態1において説明した、鋼材1が上流側温度管理位置から下流側温度管理位置に移動する時の一連の温度計算を以下のように表す。下記式は、誘導加熱装置6による加熱が行われる時の温度計算を示している。
【0056】
【数5】
【0057】
【0058】
temp_cal{ }は、実施の形態1において示した非定常熱伝導方程式に有限差分法を適用し、鋼材1の断面内の空間と搬送ライン上の搬送時間とに対して離散化した一連の計算式を表す。鋼材1の圧延前は、上流側温度管理位置での温度実績値(全ノードの情報)と鋼材1の速度パターン(各時刻での速度情報)と誘導加熱装置6での電力設定値とを入力情報として、下流側温度管理位置での鋼材1の温度(全ノードの情報)を計算する。この温度のことをここでは「温度計算値」と呼ぶ。
【0059】
一方、鋼材1の圧延後も同様の計算方法により、上流側温度管理位置での温度実績値(全ノードの情報)と鋼材1の速度パターン実績値(各時刻での速度情報)と誘導加熱装置6での電力実績値とを入力情報として、下流側温度管理位置での鋼材1の温度(全ノードの情報)を計算することができる。この温度のことをここでは「温度実績計算値」と呼ぶ。
【0060】
【数6】
【0061】
【0062】
【0063】
【数7】
【0064】
得られた予測誤差に平滑化処理を施した学習項をZfetとし、温度計算temp_cal{ }の最終結果に加える。即ち、新しい温度計算は、次式で表される。
【0065】
【数8】
【0066】
例えば、鋼材1の圧延が終了した後、鋼材1の種別に紐付けて学習項Zfetを記録する。次回、同じ種別の鋼材を圧延する時にこの記録されている学習項Zfetを読み出して使用すれば良い。なお、学習項Zfetの利用方法はこれに限定されない。
【0067】
上記構成を有する制御装置であれば、鋼材1の圧延後に、鋼材1の温度及び速度、並びに誘導加熱装置6の電力の各実績値を使用して、電力パターンの計算に必要なパラメータを適切に補正することができる。即ち、設定電力計算装置7は、先ず、温度検出器9によって検出された鋼材1の温度と誘導加熱装置6に実際に供給された電力とに基づいて下流側温度管理位置における鋼材1の表面温度を計算する。そして、その計算された表面温度と温度検出器10によって検出された鋼材1の温度とに基づいて、体積平均温度を計算する際に使用するパラメータを修正する。これにより、次回加熱処理を行う際に、電力パターンを精度良く求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明は、誘導加熱装置を備えた圧延システムに適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 鋼材(材料)
2 搬送テーブル
3 テーブルロール
4 速度検出器
5 仕上げ圧延機
6 誘導加熱装置
7 設定電力計算装置
8 電力制御装置
9、10、11 温度検出器
12 昇温パターン設定決定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7