特許第6241566号(P6241566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6241566
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】情報記録媒体の作成方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 7/26 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   G11B7/26 501
   G11B7/26 511
   G11B7/26 521
【請求項の数】6
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2017-174156(P2017-174156)
(22)【出願日】2017年9月11日
(62)【分割の表示】特願2017-536376(P2017-536376)の分割
【原出願日】2016年9月9日
【審査請求日】2017年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-185640(P2015-185640)
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】有 塚 祐 樹
(72)【発明者】
【氏名】中 田 尚 子
(72)【発明者】
【氏名】小 田 博 和
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−282495(JP,A)
【文献】 特開2009−277267(JP,A)
【文献】 特開平03−108141(JP,A)
【文献】 特開2004−288845(JP,A)
【文献】 特開2008−269724(JP,A)
【文献】 特開2009−098370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 7/26
G11B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を作成する情報記録媒体の作成方法であって、
保存対象となるデジタルデータを、第1の記録用媒体(G1)の記録面上に、凹凸構造パターンとして記録する工程を行うことにより、原版媒体(M1)を作成する原版媒体作成段階と、
前記原版媒体(M1)に記録されている凹凸構造パターンを、第2の記録用媒体(G2)の記録面上に転写する工程を行うことにより、中間媒体(M2)を作成する中間媒体作成段階と、
前記中間媒体(M2)に記録されている凹凸構造パターンを、第3の記録用媒体(G3)の記録面上に転写する工程を行うことにより、複製媒体(M3)を作成する複製媒体作成段階と、
を有し、
前記原版媒体作成段階では、前記第1の記録用媒体(G1)として石英ガラス基板(10)を含む媒体を用い、前記第1の記録用媒体(G1)の表面にレジスト層(20)を形成し、前記レジスト層の表面にビーム露光を行うことにより、保存対象となるデジタルデータのビット情報を示す図形パターンを描画し、前記レジスト層を現像することによりその一部を除去し、前記レジスト層の残存部(23)をマスクとするエッチング処理を行うことにより、表面に第1の凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板(11)を含む原版媒体(M1)を作成し、
前記中間媒体作成段階では、前記原版媒体(M1)の表面に形成された前記第1の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、前記第2の記録用媒体(G2)の記録面上に、前記第1の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第2の凹凸構造パターンを形成し、
前記複製媒体作成段階では、前記第3の記録用媒体(G3)として石英ガラス基板(70)を含む媒体を用い、前記中間媒体(M2)の表面に形成された前記第2の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、前記第3の記録用媒体(G3)の記録面上に、前記第2の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第3の凹凸構造パターンを形成し、
前記第1の記録用媒体(G1)および前記第3の記録用媒体(G3)を第1属性媒体と呼び、前記第2の記録用媒体(G2)を第2属性媒体と呼んだときに、前記第1属性媒体が剛性を有し且つ前記第2属性媒体が可撓性を有し、前記中間媒体作成段階の賦形工程および前記複製媒体作成段階の賦形工程において、可撓性を有する媒体を湾曲させることにより媒体相互を剥離させ、
前記原版媒体作成段階では、
コンピュータが、保存対象となるデジタルデータ(D)を入力するデータ入力段階(S11)と、
コンピュータが、前記デジタルデータを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データ(U1)を生成する単位データ生成段階(S12)と、
コンピュータが、個々の単位データを構成するデータビットを二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列(B(U1))を生成する単位ビット行列生成段階(S13)と、
コンピュータが、前記単位ビット行列を、所定のビット記録領域内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより単位ビット図形パターン(P(U1))を生成する単位ビット図形パターン生成段階(S14)と、
コンピュータが、前記単位ビット図形パターンに位置合わせマークを付加することにより、単位記録用図形パターン(R(U1))を生成する単位記録用図形パターン生成段階(S15)と、
コンピュータが、前記単位記録用図形パターンを描画するための描画データ(E)を生成する描画データ生成段階(S16)と、
前記描画データに基づいて、第1の記録用媒体(G1)上にレジスト層(20)を付加した基板に対して、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光による描画を行うビーム露光段階(S17)と、
露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、前記描画データに応じた物理的構造パターンが形成された原版媒体(M1)を生成するパターニング段階(S18)と、
を行うことを特徴とする特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階(S14)で、単位ビット行列(B(U1))を構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方を、閉領域からなる個々のビット図形に変換し、
描画データ生成段階(S16)で、前記個々のビット図形の輪郭線を示す描画データ(E)を生成し、
ビーム露光段階(S17)で、前記個々のビット図形の輪郭線の内側部分に対してビーム露光を行い、
パターニング段階(S18)で、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す凹部(C)と他方を示す凸部(V)とからなる凹凸構造を有する物理的構造パターンを形成することを特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の情報記録媒体の作成方法において、
個々のビット図形の内部が凹部(C)、外部が凸部(V)となる原版媒体(M1)が形成されるように、パターニング段階(S18)のパターニング処理を行うことを特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の情報記録媒体の作成方法において、
単位データ生成段階(S12)で、デジタルデータ(D)を(m×n)ビットからなる単位データに分割し、
単位ビット行列生成段階(S13)で、m行n列からなる単位ビット行列(B(U1))を生成し、
単位ビット図形パターン生成段階(S14)で、単位ビット行列(B(U1))を構成する個々のビットをm行n列の行列状に配置された格子点に対応づけ、ビット”1”またはビット”0”に対応する格子点上に所定形状のビット図形を配置することにより単位ビット図形パターン(P(U1))を生成することを特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階(S14)で、矩形状のビット記録領域(Ab)内に配置された単位ビット図形パターン(P(U1))を生成し、
単位記録用図形パターン生成段階(S15)で、前記矩形状のビット記録領域の外部に位置合わせマーク(Q)を付加することにより、前記ビット記録領域および前記位置合わせマークを包含する矩形状の単位記録領域(Au)内に配置された単位記録用図形パターン(R(U1))を生成し、
描画データ生成段階(S16)で、前記矩形状の単位記録領域(Au)を二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターン(R(U1))を含んだ描画用パターン(P(E))を生成し、当該描画用パターンを描画するための描画データ(E)を生成することを特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【請求項6】
請求項4に記載の情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階(S14)で、矩形状のビット記録領域(Ab)内に配置された単位ビット図形パターン(P(U1))を生成し、
単位記録用図形パターン生成段階(S15)で、前記矩形状のビット記録領域の外部に位置合わせマーク(Q)を付加することにより、前記ビット記録領域および前記位置合わせマークを包含する矩形状の単位記録領域(Au)内に配置された単位記録用図形パターン(R(U1))を生成し、
描画データ生成段階(S16)で、前記矩形状の単位記録領域(Au)を上下左右に一部重畳させて二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターン(R(U1))を含んだ描画用パターン(P(E))を生成し、当該描画用パターンを描画するための描画データ(E)を生成するようにし、
左右に隣接配置された一対の単位記録領域(Au(U1),Au(U2))の重量領域において、左側の単位記録領域(Au(U1))の右端に包含される位置合わせマークと右側の単位記録領域(Au(U2))の左端に包含される位置合わせマークとが重なり合って左右共通の位置合わせマーク(Q2,Q5)が形成されるようにし、上下に隣接配置された一対の単位記録領域(Au(U1),Au(U3))の重量領域において、上側の単位記録領域(Au(U1))の下端に包含される位置合わせマークと下側の単位記録領域(Au(U3))の上端に包含される位置合わせマークとが重なり合って上下共通の位置合わせマーク(Q4,Q5)が形成されるようにしたことを特徴とする情報記録媒体の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルデータを記録した情報記録媒体の作成方法に関し、特に、同一のデジタルデータを耐久性をもった複数枚の情報記録媒体に記録する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、様々な情報を記録する媒体として古くから利用されてきており、現在でも、多くの情報が紙面上に記録されている。一方、産業の発達とともに、画像情報を記録するためのフィルムや、音の情報を記録するためのレコード盤などが利用されるようになり、近年では、コンピュータの普及とともに、デジタルデータを記録する媒体として、磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体などが利用されるに至っている。
【0003】
上述した情報記録媒体は、その用途に応じて、それぞれ利用に支障が生じない程度の耐久性を備えている。たとえば、紙の印刷物、フィルム、レコード盤などの情報記録媒体は、数年といった時間尺度においては、十分な耐久性を有する媒体と言える。しかしながら、数十年といった時間尺度でみると、経年変化による劣化は避けられず、記録した情報が滅失する可能性が出てくる。また、経年変化だけでなく、水の作用や熱の作用によって損傷を受ける可能性がある。
【0004】
また、コンピュータ用の磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体などは、一般的な電子機器の利用にあたって支障が生じない程度の耐久性を備えているが、そもそも数十年といった時間尺度での耐久性を考慮した設計はなされていないため、恒久的な情報保存の用途には適していない。
【0005】
一方、下記の特許文献1には、記録容量を高めつつ、石英ガラスのような耐久性ある媒体に情報を記録する方法として、円柱状の媒体内の微小セルに光透過率の違いとして三次元的にデータを記録しておき、この媒体を回転させながらコンピュータトモグラフィの技術を利用して情報の読み出しを行う方法が開示されている。また、特許文献2には、同様の目的を達成するために、円柱状の記録媒体に対して照射角度を変えながら電磁波を照射して透過率の違いを測定し、やはりコンピュータトモグラフィの技術を利用して情報の読み出しを行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4991487号公報
【特許文献2】特許第5286246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、現在一般に利用されている情報記録媒体は、数年〜数十年程度の耐久性を考慮して設計されたものであるため、数百年〜数千年といった長い時間尺度で情報を後世に残すためには不適切である。たとえば、紙、フィルム、レコード盤といった物理的もしくは化学的に脆弱な情報記録媒体には、数百年〜数千年といった長い期間の耐久性を期待することはできない。もちろん、磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体といったコンピュータ用の情報記録媒体も、そのような用途には不適切である。
【0008】
人類史上では、数百年〜数千年の時間尺度を経た情報記録媒体として、石碑が現存しているが、石盤に高集積度をもって情報を記録することは非常に困難であり、コンピュータ用のデジタルデータなど、大容量の情報を記録する媒体として石盤は不適当である。
【0009】
一方、前掲の特許文献1および2に開示されている技術のように、円柱上の石英ガラスを媒体として、その内部に三次元的に情報を記録する方法を採用すれば、かなり長期的な耐久性を維持しつつ、高集積化を図ることが可能な情報記録方法が実現できる。しかしながら、読み出し時には、媒体内に三次元的に分散したセルから情報を抽出する必要があるため、コンピュータトモグラフィの技術を利用し、フーリエ変換処理などを行う必要がある。別言すれば、数百年〜数千年といった長い時間尺度を経た後にも、記録時と同じコンピュータトモグラフィの技術が継承されていなければ、情報を読み出すことができないことになる。
【0010】
そこで本発明は、長期的な耐久性をもって情報保持が可能な媒体上に、高い集積度をもってデジタルデータを記録し、しかも同一のデジタルデータを記録した複数の媒体を効率的に作成することが可能な情報記録媒体の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 本発明の第1の態様は、同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を作成する情報記録媒体の作成方法において、
保存対象となるデジタルデータを、第1の記録用媒体の記録面上に、凹凸構造パターンとして記録する工程を行うことにより、原版媒体を作成する原版媒体作成段階と、
原版媒体に記録されている凹凸構造パターンを、第2の記録用媒体の記録面上に転写する工程を行うことにより、中間媒体を作成する中間媒体作成段階と、
中間媒体に記録されている凹凸構造パターンを、第3の記録用媒体の記録面上に転写する工程を行うことにより、複製媒体を作成する複製媒体作成段階と、
を行い、
原版媒体作成段階では、第1の記録用媒体として石英ガラス基板を含む媒体を用い、第1の記録用媒体の表面にレジスト層を形成し、レジスト層の表面にビーム露光を行うことにより、保存対象となるデジタルデータのビット情報を示す図形パターンを描画し、レジスト層を現像することによりその一部を除去し、レジスト層の残存部をマスクとするエッチング処理を行うことにより、表面に第1の凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板を含む原版媒体を作成し、
中間媒体作成段階では、原版媒体の表面に形成された第1の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、第2の記録用媒体の記録面上に、第1の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第2の凹凸構造パターンを形成し、
複製媒体作成段階では、第3の記録用媒体として石英ガラス基板を含む媒体を用い、中間媒体の表面に形成された第2の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、第3の記録用媒体の記録面上に、第2の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第3の凹凸構造パターンを形成し、
第1の記録用媒体および第3の記録用媒体を第1属性媒体と呼び、第2の記録用媒体を第2属性媒体と呼んだときに、第1属性媒体および第2属性媒体のうちの少なくとも一方が可撓性を有し、中間媒体作成段階の賦形工程および複製媒体作成段階の賦形工程において、可撓性を有する媒体を湾曲させることにより媒体相互を剥離させるようにしたものである。
【0012】
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
第1属性媒体として、剛性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体として可撓性を有する媒体を用いることにより、剛性を有する原版媒体および剛性を有する複製媒体を作成するようにしたものである。
【0013】
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第2の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
原版媒体作成段階では、
第1の記録用媒体として石英ガラス基板の上面にクロム層を形成した媒体を用い、第1の記録用媒体の表面にレジスト層を形成し、
レジスト層の表面にビーム露光を行うことにより、保存対象となるデジタルデータのビット情報を示す図形パターンを描画し、レジスト層を現像することによりその一部を除去し、
レジスト層の残存部をマスクとしてクロム層に対するエッチング処理を行い、
レジスト層の残存部を剥離除去した後、クロム層の残存部をマスクとして石英ガラス基板に対するエッチング処理を行い、
クロム層の残存部を剥離除去することにより、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板からなる原版媒体を作成するようにしたものである。
【0014】
(4) 本発明の第4の態様は、上述した第2または第3の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
中間媒体作成段階では、
原版媒体の表面に形成された凹凸構造の上面に、光の照射により硬化する性質をもった樹脂層を、硬化後に可撓性を呈する厚みに塗布し、この樹脂層の上面に可撓性をもった樹脂支持層を積層し、樹脂層および樹脂支持層からなる積層構造体を第2の記録用媒体として利用し、
樹脂層に光を照射することによりこれを硬化させ、
硬化させた樹脂層および樹脂支持層からなる積層構造体を、その可撓性を利用して湾曲させることにより原版媒体から剥離し、剥離した積層構造体からなる中間媒体を作成するようにしたものである。
【0015】
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第2〜第4の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
複製媒体作成段階では、
第3の記録用媒体として石英ガラス基板の上面にクロム層を形成した媒体を用い、第3の記録用媒体のクロム層の表面に光の照射により硬化する性質をもった樹脂層を塗布し、
中間媒体を、その凹凸構造面の凹部に樹脂層の樹脂が充填されるように、樹脂層の上面に被せて押圧し、
樹脂層に光を照射することによりこれを硬化させ、
中間媒体を、その可撓性を利用して湾曲させることにより、硬化した樹脂層から剥離し、
硬化した樹脂層の凹凸構造により形成される肉厚部をマスクとして利用して、クロム層に対するエッチング処理を行い一部を除去し、
樹脂層の残存部を剥離除去した後、クロム層の残存部をマスクとして石英ガラス基板に対するエッチング処理を行い、
クロム層の残存部を剥離除去することにより、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板からなる複製媒体を作成するようにしたものである。
【0016】
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第1の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
第1属性媒体として、可撓性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体として剛性を有する媒体を用いることにより、可撓性を有する原版媒体および可撓性を有する複製媒体を作成するようにしたものである。
【0017】
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第1の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
第1属性媒体として、可撓性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体として可撓性を有する媒体を用いることにより、可撓性を有する原版媒体および可撓性を有する複製媒体を作成するようにしたものである。
【0018】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第1〜第7の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
原版媒体作成段階では、
コンピュータが、保存対象となるデジタルデータを入力するデータ入力段階と、
コンピュータが、デジタルデータを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データを生成する単位データ生成段階と、
コンピュータが、個々の単位データを構成するデータビットを二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列を生成する単位ビット行列生成段階と、
コンピュータが、単位ビット行列を、所定のビット記録領域内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより単位ビット図形パターンを生成する単位ビット図形パターン生成段階と、
コンピュータが、単位ビット図形パターンに位置合わせマークを付加することにより、単位記録用図形パターンを生成する単位記録用図形パターン生成段階と、
コンピュータが、単位記録用図形パターンを描画するための描画データを生成する描画データ生成段階と、
描画データに基づいて、第1の記録用媒体上にレジスト層を付加した基板に対して、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光による描画を行うビーム露光段階と、
露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、描画データに応じた物理的構造パターンが形成された原版媒体を生成するパターニング段階と、
を行うようにしたものである。
【0019】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第8の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階で、単位ビット行列を構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方を、閉領域からなる個々のビット図形に変換し、
描画データ生成段階で、個々のビット図形の輪郭線を示す描画データを生成し、
ビーム露光段階で、個々のビット図形の輪郭線の内側部分に対してビーム露光を行い、
パターニング段階で、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す凹部と他方を示す凸部とからなる凹凸構造を有する物理的構造パターンを形成するようにしたものである。
【0020】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第9の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
個々のビット図形の内部が凹部、外部が凸部となる原版媒体が形成されるように、パターニング段階のパターニング処理を行うようにしたものである。
【0021】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第8〜第10の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
単位データ生成段階で、デジタルデータを(m×n)ビットからなる単位データに分割し、
単位ビット行列生成段階で、m行n列からなる単位ビット行列を生成し、
単位ビット図形パターン生成段階で、単位ビット行列を構成する個々のビットをm行n列の行列状に配置された格子点に対応づけ、ビット”1”またはビット”0”に対応する格子点上に所定形状のビット図形を配置することにより単位ビット図形パターンを生成するようにしたものである。
【0022】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第11の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階で、矩形状のビット記録領域内に配置された単位ビット図形パターンを生成し、
単位記録用図形パターン生成段階で、矩形状のビット記録領域の外部に位置合わせマークを付加することにより、ビット記録領域および位置合わせマークを包含する矩形状の単位記録領域内に配置された単位記録用図形パターンを生成し、
描画データ生成段階で、矩形状の単位記録領域を二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターンを含んだ描画用パターンを生成し、当該描画用パターンを描画するための描画データを生成するようにしたものである。
【0023】
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第11の態様に係る情報記録媒体の作成方法において、
単位ビット図形パターン生成段階で、矩形状のビット記録領域内に配置された単位ビット図形パターンを生成し、
単位記録用図形パターン生成段階で、矩形状のビット記録領域の外部に位置合わせマークを付加することにより、ビット記録領域および位置合わせマークを包含する矩形状の単位記録領域内に配置された単位記録用図形パターンを生成し、
描画データ生成段階で、矩形状の単位記録領域を上下左右に一部重畳させて二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターンを含んだ描画用パターンを生成し、当該描画用パターンを描画するための描画データを生成するようにし、
左右に隣接配置された一対の単位記録領域の重量領域において、左側の単位記録領域の右端に包含される位置合わせマークと右側の単位記録領域の左端に包含される位置合わせマークとが重なり合って左右共通の位置合わせマークが形成されるようにし、上下に隣接配置された一対の単位記録領域の重量領域において、上側の単位記録領域の下端に包含される位置合わせマークと下側の単位記録領域の上端に包含される位置合わせマークとが重なり合って上下共通の位置合わせマークが形成されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、保存対象となるデジタルデータは、まず、石英ガラス基板を含む原版媒体に凹凸構造パターンとして記録され、この原版媒体を用いた転写工程により中間媒体が作成され、更に、この中間媒体を用いた転写工程により、石英ガラス基板を含む複製媒体が作成される。原版媒体および複製媒体は、いずれも石英ガラス基板を含む媒体であり、同一のデジタルデータを長期的な耐久性をもって、物理的な凹凸構造として保持し続けることができる。
【0025】
しかも、当該凹凸構造は、電子線やレーザ光を用いたビーム露光によって形成される微細構造であるため、高い集積度をもった情報記録が可能になる。このような物理的な凹凸構造自身は三次元構造であるが、そこに記録されている情報は、二次元的なパターンであるため、普遍的な方法で読み出すことが可能である。
【0026】
このように、本発明によれば、長期的な耐久性をもって情報保持が可能な媒体上に、高い集積度をもってデジタルデータを記録することができる。しかも、賦形工程による凹凸構造の転写により、原版媒体から複製媒体を作成することができるため、同一のデジタルデータを記録した複数の媒体を効率的に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の原版媒体作成段階に用いられる情報保存装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す情報保存装置による具体的な情報保存プロセスの一例を示す模式図である。
図3図3は、図2に示す単位記録用図形パターンR(U1)の拡大図である。
図4図4は、図1に示すビーム露光装置200による露光工程およびパターニング装置300によるパターニング工程の具体例を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図5図5は、本発明によって情報の書き込みが行われた情報記録媒体のバリエーションを示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図6図6は、本発明に係る方法で作成された情報記録媒体から情報を読み出すための情報読出装置の構成を示すブロック図である。
図7図7は、本発明による情報記録時に用いる位置合わせマークのバリエーションを示す平面図である。
図8図8は、図7に示す位置合わせマークの配置形態のバリエーションを示す平面図である。
図9図9は、図7に示す位置合わせマークの別なバリエーションを示す平面図である。
図10図10は、図9に示す位置合わせマークの配置形態のバリエーションを示す平面図である。
図11図11は、本発明の原版媒体作成段階の基本処理手順を示す流れ図である。
図12図12は、本発明に係る方法で作成された情報記録媒体から情報を読み出す基本処理手順を示す流れ図である。
図13図13は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の中間媒体作成段階および複製媒体作成段階の概要を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図14図14は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の原版媒体作成段階の具体的な処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図15図15は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の中間媒体作成段階の具体的な処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図16図16は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の複製媒体作成段階の具体的な前半処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図17図17は、本発明に係る情報記録媒体の作成方法の複製媒体作成段階の具体的な後半処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図18図18は、位置合わせマークの更に別なバリエーションを示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。なお、本発明は、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する技術を前提としたものであり、そのような技術の一例は先願発明として特開2015−185184号公報に記載されている。そこで、ここでは説明の便宜上、§1〜§5において、当該先願発明についての説明を行うことにする。なお、以下の§1〜§5の内容および図1図12の内容は、上記先願発明の公報の「発明を実施するための形態」の§1〜§5の内容および図1図12と実質的に同一である。
【0029】
<<< §1. 先願発明に係る情報保存装置の基本的実施形態 >>>
図1は、先願発明に係る情報保存装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報保存装置は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する機能を果たす装置であり、図示のとおり、保存処理用コンピュータ100、ビーム露光装置200、パターニング装置300によって構成される。
【0030】
ここで、保存処理用コンピュータ100は、保存対象となるデジタルデータDに基づいて、描画データEを作成する処理を実行する。ビーム露光装置200は、この描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光による描画を行う装置であり、このビーム露光によって、基板S上には描画用パターンが形成される。パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンを形成し、情報記録媒体Mを作成する。結局、情報記録媒体Mには、デジタルデータDに応じた情報が物理的構造パターンとして記録される。
【0031】
保存処理用コンピュータ100は、図示のとおり、データ入力部110、単位データ生成部120、単位ビット行列生成部130、単位ビット図形パターン生成部140、単位記録用図形パターン生成部150、描画データ生成部160を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、保存処理用コンピュータ100は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
【0032】
まず、データ入力部110は、保存対象となるデジタルデータDを入力する機能をもった構成要素であり、入力したデジタルデータDを一時的に格納する機能も備えている。保存対象となるデジタルデータDは、文書データ、画像データ、音声データなど、どのような形態のものであってもかまわない。
【0033】
単位データ生成部120は、データ入力部110が入力したデジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データを生成する構成要素である。ここでは、説明の便宜上、図2の上段に示すように、デジタルデータDをビット長uの単位で分割することにより、4組の単位データが生成された場合を例にとって以下の説明を行うことにし、第i番目の単位データを符号Uiで示す(この例では、i=1〜4)。以下の説明において用いられる「単位」なる語句を冠した用語は、いずれも「1つの単位データ」について作成されたものであることを示す。
【0034】
個々の単位データUiのビット長は、必ずしも等しくする必要はなく、互いに異なるビット長をもった複数の単位データを生成してもかまわない。ただ、実用上は、後述するビット記録領域Abを同一形状同一面積の領域とするのが好ましく、そのためには、予め共通のビット長uを定めておき、すべての単位データUiが同じビット長uをもつデータになるようにするのが好ましい。
【0035】
共通のビット長uは、任意の値に設定することができるが、実用上は、m行n列の単位ビット行列を構成することができるように、u=m×nに設定し、単位データ生成部120が、デジタルデータを(m×n)ビットからなる単位データに分割するようにすればよい。ここでは説明の便宜上、m=n=5に設定して、5行5列の単位ビット行列を構成することができるように、u=25ビットに設定した例を示す(実用上は、uの値はより大きな値に設定するのが好ましい。)。図2に示す第1番目の単位データU1は、このような設定に基づいて生成された単位データであり、25ビットのデータから構成されている。
【0036】
単位データ生成部120は、たとえば、入力したデジタルデータDを先頭からuビットずつに区切って分割してゆき、それぞれを単位データU1,U2,U3,... とすればよい。この場合、デジタルデータD全体の長さがビット長uの整数倍になっていないと、最後の単位データの長さがビット長uに満たなくなる。そこで、すべての単位データの長さを共通のビット長uに揃えたい場合には、デジタルデータDの末尾にダミービットを追加して、全体の長さがビット長uの整数倍になるように調整すればよい。
【0037】
なお、デジタルデータDの分割方法は、必ずしも先頭から所定のビット長uごとに区切ってゆく方法に限定されるものではなく、たとえば、4分割する場合、第1,5,9,... 番目のビットを抽出したものを第1の単位データU1とし、第2,6,10,... 番目のビットを抽出したものを第2の単位データU2とし、第3,7,11,... 番目のビットを抽出したものを第3の単位データU3とし、第4,8,12,... 番目のビットを抽出したものを第4の単位データU4とする、というような分割方法を採ることも可能である。
【0038】
単位データ生成部120によって生成された個々の単位データUiは、単位ビット行列生成部130に与えられる。単位ビット行列生成部130は、個々の単位データUiを構成するデータビットをm行n列の二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する処理を行う。
【0039】
図2には、第1番目の単位データU1を構成する25ビットのデータを先頭から5ビットずつに区切って、「11101」,「10110」,「01001」,「11001」,「10110」なる5グループを形成し、個々のグループを1行に配置した5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)を生成した例が示されている。もちろん、単位データU2,U3,U4についても同様の方法により、単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)が生成されることになる。
【0040】
こうして単位ビット行列生成部130で生成された個々の単位ビット行列B(Ui)は、単位ビット図形パターン生成部140に与えられる。単位ビット図形パターン生成部140は、個々の単位ビット行列B(Ui)を、二次元平面上の所定のビット記録領域内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより、単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行う。
【0041】
図2の中段には、5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)に基づいて作成された単位ビット図形パターンP(U1)の実例が示されている。この実例の場合、二次元平面上に正方形のビット記録領域Ab(図に破線で示す領域)が定義され、その中に黒く塗りつぶした小さな正方形状のドット(以下、ビット図形と呼ぶ)を配置することにより、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されている。
【0042】
ここで、個々のビット図形は、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”1”に対応している。別言すれば、ビット記録領域Ab内には、単位ビット行列B(U1)に対応して5行5列の行列が定義され、単位ビット行列B(U1)内のビット”1”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”0”に対応する位置には何も配されていない。したがって、この単位ビット図形パターンP(U1)は、5行5列の行列を構成する各位置におけるビット図形の有無によって、単位ビット行列B(U1)を構成する25ビットの情報を表現していることになる。
【0043】
もちろん、個々のビット図形を、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”0”に対応させて配置するようにしてもかまわない。この場合は、単位ビット行列B(U1)内のビット”0”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”1”に対応する位置には何も配置されないことになる。要するに、単位ビット図形パターン生成部140は、単位ビット行列B(U1)を構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方を、閉領域からなる個々のビット図形に変換する処理を行えばよい。なお、個々のビット図形を示すデータの形式は、任意の形式でかまわない。たとえば、1つのビット図形を矩形によって構成する場合であれば、単位ビット図形パターンP(U1)を示すデータとして、個々のビット図形の4頂点の座標値(対角2頂点の座標値でもよい)を示すデータを用いることもできるし、個々のビット図形の中心点(左下隅点等でもよい)の座標値を示すデータと共通の矩形形状を有するビット図形の縦横の辺の長さを示すデータとを用いることもできる。あるいは、円形のビット図形を採用する場合であれば、個々のビット図形の中心点の座標値を示すデータと共通の半径値を示すデータとを用いることもできる。
【0044】
もちろん、単位データU2,U3,U4について生成された単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)も、同様の方法で幾何学的なパターンに変換され、単位ビット図形パターンP(U2),P(U3),P(U4)が生成される。こうして生成された各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)を何らかの方法で媒体上に形成すれば、デジタルデータDの情報を媒体に記録することができる。ただ、先願発明では、後に行われる読出処理の便宜を考慮して、各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)にそれぞれ位置合わせマークを付加している。
【0045】
単位記録用図形パターン生成部150は、この位置合わせマークの付加を行う構成要素であり、本願では、この位置合わせマークが付加された状態の単位ビット図形パターンP(Ui)を、単位記録用図形パターンR(Ui)と呼んでいる。結局、単位記録用図形パターン生成部150は、単位ビット図形パターン生成部140が生成した単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークを付加し、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する処理を行うことになる。
【0046】
図2の中段には、単位ビット図形パターンP(U1)の外側4隅に十字状の位置合わせマークQを付加し、単位記録用図形パターンR(U1)を生成した例が示されている。ここでは、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されたビット記録領域Ab(破線の正方形)と、その外側4隅に配置された位置合わせマークQとを包含する領域を、単位記録領域Au(一点鎖線の正方形)と呼ぶことにする。単位記録用図形パターンR(U1)は、この単位記録領域Au内に形成された図形パターンということになる。
【0047】
位置合わせマークQは、§3で述べる読出処理において、個々のビット記録領域Abを認識するために利用される。そのため、位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置(図示の例では、ビット記録領域Abの外側4隅の位置)に配置される。図示の例では、十文字状の位置合わせマークQを用いた例が示されているが、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と区別することができる図形であれば、どのような形状の図形を用いてもかまわない。
【0048】
また、図示の例では、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置しているが、ビット記録領域Abの内側に位置合わせマークQを配置することも可能である。ただ、ビット記録領域Abの内側に配置する場合は、個々のビットを表すビット図形と干渉するおそれがあるため、実用上は、図示の例のように、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置するのが好ましい。この位置合わせマークQの形状や配置のバリエーションについては、§4で改めて述べることにする。
【0049】
こうして、単位記録用図形パターン生成部150が、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を生成したら、描画データ生成部160が、これらを描画するための描画データEを生成する処理を行う。具体的には、描画データ生成部160は、図2の下段に示されているように、4組の単位記録領域R(U1)〜R(U4)を二次元行列状に配置することにより(この例の場合は2行2列)、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)をすべて含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成する処理を行う。
【0050】
以上、図1に示す保存処理用コンピュータ100の個々の構成要素の処理機能を述べた。こうして生成された描画データEは、ビーム露光装置200に与えられる。ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、露光対象基板S上にビーム露光を行う装置であり、種々の電子デバイスの製造プロセスに利用される半導体フォトリソグラフィ用の電子線描画装置やレーザ描画装置を利用して構成することができる。ビーム露光装置200として電子線描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上に電子線によって描画用パターンP(E)が描かれ、ビーム露光装置200としてレーザ描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上にレーザビームによって描画用パターンP(E)が描かれる。
【0051】
なお、図2には、説明の便宜上、ビット記録領域Abの輪郭線を破線で示し、単位記録領域Auの輪郭線を一点鎖線で示してあるが、これらの線は、描画用パターンP(E)の構成要素ではない。実際に露光対象基板S上に描かれる図形パターンは、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と十文字状の位置合わせマークQである。
【0052】
このように、描画データEは、ビーム露光装置200に与えて、露光対象基板S上に描画用パターンP(E)を描画させるために用いられるデータであるため、そのデータフォーマットは、用いるビーム露光装置200に依存したものにする必要がある。現在、一般的なLSI設計に用いられている電子線描画装置やレーザ描画装置を用いて任意の図形パターンを描画させる場合、当該図形パターンの輪郭線を示すベクトル形式の描画データが用いられている。したがって、実用上、描画データ生成部160は、個々のビット図形や位置合わせマークの輪郭線を示す描画データEを生成すればよい。
【0053】
図3は、図2に示す単位記録用図形パターンR(U1)の拡大図である。図2では、ビット”1”を示すビット図形として、黒く塗りつぶした小さな正方形の例を示したが、図3に示す例では、個々のビット図形Fは、正方形の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。同様に、4隅に配置された位置合わせマークQ1〜Q4は、十文字状の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。ビーム露光装置200は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の輪郭線を示す描画データEに基づいて、当該輪郭線の内側部分に対してビーム露光を行う処理を行う。したがって、露光対象基板S上には、図2に示すように、黒く塗りつぶされた正方形や十文字状の図形パターンが形成されることになる。
【0054】
図3には、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが描かれている。これらの各格子線は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の配置位置を決定する役割を果たす。すなわち、横方向格子線X1〜X7と縦方向格子線Y1〜Y7との各交点を格子点Lと呼ぶことにすると、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。
【0055】
たとえば、位置合わせマークQ1は、格子線X1,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ2は、格子線X1,Y7が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ3は、格子線X7,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ4は、格子線X7,Y7が交わる格子点上に配置されている。
【0056】
また、5本の横方向格子線X2〜X6と5本の縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点は、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)に対応し、この単位ビット行列B(U1)におけるビット”1”に対応する格子点位置に、ビット図形Fが配置されている(前述したとおり、ビット”0”に対応する格子点位置に、ビット図形Fを配置してもかまわない)。
【0057】
一般論として説明すれば、単位ビット図形パターン生成部140は、m行n列からなる単位ビット行列B(Ui)を構成する個々のビットを、m行n列の行列状に配置された格子点Lに対応づけ、ビット”1”またはビット”0”に対応する格子点L上に所定形状のビット図形Fを配置することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行えばよい。
【0058】
もちろん、実際の描画データEに含まれる図形、すなわち、描画用パターンP(E)に含まれる図形は、個々のビット図形Fと個々の位置合わせマークQ1〜Q4のみであり、図示されている各格子線X1〜X7,Y1〜Y7、ビット記録領域Abの輪郭線(破線)、単位記録領域Auの輪郭線(一点鎖線)は、実際には描画されない。
【0059】
なお、描画データEには、露光対象基板S上に描画される描画用パターンP(E)の実寸を示す情報も含まれることになるが、この実寸は、用いるビーム露光装置200の描画精度を考慮して設定すればよい。
【0060】
現在、一般的なLSI設計に用いられている高精度の電子線描画装置を用いたパターニング処理では、基板S上に40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成することができる。したがって、このような電子線描画装置をビーム露光装置200として用いれば、図示の格子線間隔(格子点Lのピッチ)を100nm程度に設定することが可能になり、一辺が50nm程度のビット図形Fを形成することが十分に可能である。このように微細な図形パターンを描画する場合、実際には、ビット図形Fは正確な正方形にはならず、位置合わせマークQ1〜Q4は正確な十文字にはならないが、実用上の支障は生じない。
【0061】
そもそもビット図形Fは、格子点Lの位置に図形が有るか無いかの二値状態を判定する役割を果たせば足りるので、その形状は矩形でも、円でも、任意形状でもかまわない。また、位置合わせマークQ1〜Q4は、ビット記録領域Abの位置を示す役割を果たせば足りるので、その形状は、ビット図形Fと区別可能であれば、どのような形状であってもかまわない。したがって、40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成可能な性能をもった電子線描画装置を利用すれば、上述したように、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置することが可能であり、高い集積度をもった情報記録が可能になる。
【0062】
一方、レーザ描画装置をビーム露光装置200として用いる場合、レーザビームのスポット径は使用するレーザ光の波長に依存し、その最小値は波長と同程度になる。たとえば、ArFエキシマレーザを用いた場合、スポット径は200nm程度であるため、電子線描画装置を利用した場合に比べれば、情報記録の集積度は若干低下するが、それでも、一般的な光学的記録媒体と同程度の集積度をもった情報記録が可能である。
【0063】
図3に示す例の場合、単位ビット図形パターンP(U1)は、矩形状(正方形状)のビット記録領域Ab内に配置されたパターンになっており、これに位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより構成される単位記録用図形パターンR(U1)も、矩形状(正方形状)の単位記録領域Au内に配置されたパターンになっている。先願発明を実施するにあたって、ビット記録領域Abや単位記録領域Auは、必ずしも矩形状の領域にする必要はないが、図2の下段に示すように、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を並べて描画用パターンP(E)を生成することを考慮すると、ビット記録領域Abおよび単位記録領域Auを、いずれも矩形状の領域にしておくのが効率的である。
【0064】
したがって、実用上は、単位ビット図形パターン生成部140が、矩形状のビット記録領域Ab内に配置された単位ビット図形パターンP(Ui)を生成し、単位記録用図形パターン生成部150が、この矩形状のビット記録領域Abの外部に位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、ビット記録領域Abおよび位置合わせマークQ1〜Q4を包含する矩形状の単位記録領域Au内に配置された単位記録用図形パターンR(Ui)を生成するようにするのが好ましい。そうすれば、描画データ生成部160は、これら矩形状の単位記録領域Auを二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成することができる。
【0065】
単位記録領域Auのサイズは、任意に設定してかまわない。たとえば、図3に示す例の場合、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを定義し、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置するようにすれば、1つの単位記録領域Au内に約30KBの情報を記録することができる。そこで、たとえば、一辺が150mm程度の正方形状の基板を情報記録媒体として用い、この基板上に、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを二次元行列上に配置すれば、当該情報記録媒体1枚に270GBものデータを記録することができる。
【0066】
<<< §2. 媒体上における物理的構造パターンの形成 >>>
ここでは、図1に示すビーム露光装置200による露光プロセスと、パターニング装置300によるパターニングプロセスとを、より詳細に説明する。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光による描画を行う装置であり、パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターン(描画用パターンP(E))が形成された情報記録媒体を生成する装置である。
【0067】
これらの装置は、実際には、LSIの製造プロセスで利用されている半導体リソグラフィ用の装置をそのまま転用することができる。別言すれば、ビーム露光装置200によるビーム露光プロセスや、パターニング装置300によるパターニングプロセスは、従来の一般的なLSIの製造プロセスをそのまま利用して実施することが可能である。ただ、LSIを製造する場合に用いる描画データは、たとえば、チャネル領域、ゲート領域、ソース領域、ドレイン領域、配線領域など、半導体素子の各領域を構成するための図形パターンを示すデータであるのに対して、先願発明で用いられる描画データEは、データビット”1”もしくは”0”を示すビット図形Fと、読み出し時に用いる位置合わせマークQを構成するための図形パターンを示すデータということになる。
【0068】
図4は、図1に示すビーム露光装置200による露光工程およびパターニング装置300によるパターニング工程の具体例を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。まず、図4(a) に示すような露光対象基板Sを用意する。この例の場合、露光対象基板Sは、被成形層10とレジスト層20によって構成されている。なお、ここでは一層からなるレジスト層20を用いた例を示すが、後述するパターニング工程において必要となる場合には、二層以上からなるレジスト層を用いるようにしてもかまわない。また、レジストのような有機膜だけでなく、金属膜のような無機膜(エッチングストッパとして機能するいわゆるハードマスク)を併せて用いるようにしてもよい。
【0069】
ここで、被成形層10は、パターニング工程において成形対象となる層であり、最終的には、デジタルデータが記録された情報記録媒体Mとなる部分である。既に述べたとおり、先願発明の目的は、本発明の目的と同様に、長期的な耐久性を維持する情報記録を可能とする点にあるので、被成形層10には、このような目的達成に適した材料からなる基板を利用すればよい。具体的には、透明な材料としては、ガラス基板、特に石英ガラス基板を被成形層10として用いるのが最適である。石英ガラス基板は、物理的な損傷を受けにくく、化学的な汚染も受けにくい材質であり、デジタルデータを微細な物理的構造として記録するのに最適な材質である。なお、シリコン基板のような不透明な材料を被成形層10として用いることも可能である。
【0070】
一方、レジスト層20としては、被成形層10に対するパターニングを行うのに適した材料を用いればよい。すなわち、電子線もしくはレーザビームの露光によって組成が変化し、かつ、被成形層10に対するエッチング工程において保護膜として機能する性質を有する材料を用いればよい。もちろん、現像時に露光部が溶解する性質をもったポジ型レジストを用いてもよいし、現像時に非露光部が溶解する性質をもったネガ型レジストを用いてもよい。
【0071】
なお、露光対象基板Sの形状や大きさは任意でかまわない。現在、フォトマスクとして一般に用いられている石英ガラス基板は、152×152×6.35mmといった標準規格の矩形状の基板が用いられることが多い。また、シリコン基板としては、直径6インチ,8インチ,12インチなどの規格に応じた厚み1mm程度の円盤状ウエハが用いられることが多い。露光対象基板Sとしては、これらの標準的な基板を被成形層10として、その上面にレジスト層20を形成したものを用いればよい。
【0072】
以下、説明の便宜上、被成形層10として石英ガラス基板を用い、レジスト層20としてポジ型レジストを用いた実施例を述べることにする。したがって、図4(a) に示す露光対象基板Sは、石英ガラス基板10上にポジ型レジスト層20を形成した基板ということになる。もっとも、被成形層10は、必ずしも単層からなる石英ガラス基板に限定されるものではなく、たとえば、後に述べる実施例のように、石英ガラス基板の上面にクロム層を形成した複層からなる基板を用いてもかまわない。
【0073】
図1に示すビーム露光装置200は、被成形層10とこれを覆うレジスト層20とを有する露光対象基板Sに対して、レジスト層20の表面にビーム露光を行うことになる。図4(b) は、ビーム露光装置200による露光プロセスを示している。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200による露光は、ビット図形Fの内部および位置合わせマークQの内部に対してのみ行われる。したがって、レジスト層20は、露光プロセスを経ることにより、露光部21と非露光部22とに分けられる。ここで、非露光部22の化学的組成は元のままであるが、露光部21の化学的組成は変化する。
【0074】
パターニング装置300は、このような露光プロセスが完了した後の基板Sに対してパターニングを行う装置であり、図1に示すとおり、現像処理部310とエッチング処理部320とを有している。
【0075】
現像処理部310は、レジスト層の露光部21(ポジ型レジストを用いた場合)または非露光部22(ネガ型レジストを用いた場合)を溶解する性質をもった現像液に、露光後の基板Sを含浸させてその一部を残存部とする現像処理を行う。図4(c) は、図4(b) に示す基板Sに対して、このような現像処理を施した状態を示している。ここに示す実施例では、ポジ型レジストが用いられているため、現像処理によって露光部21が現像液に溶解し、非露光部22が残存部23として残ることになる。
【0076】
一方、エッチング処理部320は、現像後の基板Sに対してエッチング処理を行う。図4(c) に示す実施例の場合、残存部23をマスクとして被成形層10に対するエッチング処理が行われることになる。具体的には、図4(c) に示す基板Sを、被成形層10に対する腐食性が、レジスト層の残存部23に対する腐食性よりも強いエッチング液に含浸させればよい(もちろん、ドライエッチングなど、エッチング液に含浸させない方法を採用してもかまわない)。
【0077】
図4(d) は、エッチング処理部320によるエッチング処理が行われた状態を示している。被成形層10の上面のうち、マスクとなる残存部23に覆われている部分は腐食を受けないが、露出している部分は腐食を受け、凹部が形成される。こうして、被成形層10は、上面に凹凸構造が形成された被成形層11に加工されることになる。エッチング処理部320は、この後、レジスト層の残存部23を剥離除去し、被成形層11を洗浄乾燥する処理機能を有している。
【0078】
このようなプロセスを経て、最終的に図4(e) に示すような加工後の被成形層11が得られる。こうして得られた被成形層11が、先願発明に係る情報保存装置によってデジタルデータが書き込まれた情報記録媒体Mに他ならない。図示のとおり、この情報記録媒体Mの上面には物理的な凹凸構造が形成されており、凹部Cと凸部Vとによって、ビット”1”およびビット”0”が表現されている。したがって、図に太い一点鎖線で示す位置(図3に示す格子点Lに対応する位置)について、媒体表面が凹部Cを構成しているか、凸部Vを構成しているかを検出することにより、ビット”1”およびビット”0”の読み出しが可能になる。
【0079】
もちろん、図示の例とは逆に、凹部Cをビット”0”とし、凸部Vをビット”1”とする記録方式を採ることも可能である。いずれをビット”0”とし、いずれをビット”1”とするかは、これまで述べてきたプロセスに応じて定まる事項である。たとえば、§1で述べた例の場合、単位ビット図形パターン生成部140において、単位ビット行列のビット”1”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置しているが、逆に、ビット”0”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置するようにすれば、凹部と凸部のビット情報は逆転することになる。また、レジスト層20として、ポジ型レジストではなくネガ型レジストを用いた場合も、凹部と凸部の関係は逆転する。
【0080】
こうして作成された情報記録媒体Mは、長期的な耐久性をもち、高い集積度をもって情報記録が行われており、しかも普遍的な方法で情報を読み出せる、という特徴を有している。
【0081】
すなわち、被成形層10として、石英ガラス基板やシリコン基板のような材料を用いれば、従来の紙、フィルム、レコード盤などの情報記録媒体に比べて、経年変化による劣化や、水や熱の作用による損傷を受けにくく、古代の石盤などと同様に数百年といった半永久的な時間的尺度での耐久性が得られる。もちろん、コンピュータ用のデータ記録媒体として一般に利用されている磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体などと比較しても、格段に長い期間にわたって耐久性が得られる。したがって、先願発明は、たとえば、半永久的に情報を記録しておくことが望ましい公文書などの情報保存に利用するのに最適である。
【0082】
また、§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、電子線またはレーザ光によって、微細な露光を行うことが可能なため、きわめて高い集積度をもって情報記録を行うことが可能である。たとえば、高精細な電子線描画装置を用いれば、ビット図形Fを100nm程度のピッチで書き込むことが可能であり、上述した標準的なサイズのフォトマスクやシリコン基板に、100GB〜1TB程度の容量をもった情報を保存することが可能になる。
【0083】
更に、先願発明に係る情報記録媒体では、ビットの二値情報が、凹凸等の物理的構造として直接記録されるため、普遍的な方法で情報を読み出せるという特徴をもっている。すなわち、前掲の特許文献1および2には、円柱状の石英ガラスを媒体として、その内部に三次元的に情報を記録する技術が開示されているが、媒体内に三次元的に記録された情報を読み出すためには、コンピュータトモグラフィ等を利用した専用の読出装置が必要になり、フーリエ変換処理などの特殊な演算処理が必要になる。したがって、たとえば、数百年後に円柱状の記録媒体が無傷のまま残っていたとしても、専用の読出装置の技術が継承されていなければ、情報を読み出すことはできない。
【0084】
これに対して、先願発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体には、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているので、記録面を何らかの方法で拡大して画像として認識することができれば、少なくともビットの情報自体は読み出すことが可能である。別言すれば、先願発明に係る情報記録媒体それ自体は三次元の構造体であるが、ビット情報の記録はあくまでも二次元的に行われているため、先願発明に係る情報記録媒体が、仮に、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、普遍的な方法によってビット情報を読み出すことが可能になる。
【0085】
以上、先願発明に係る情報保存装置によって、石英ガラス基板やシリコン基板の表面に、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す凹部と他方を示す凸部とからなる凹凸構造を有する物理的構造パターンを形成する例を述べた。ただ、先願発明を実施するにあたって、ビット情報を示す物理的構造は、必ずしも凹凸構造に限定されるものではない。そこで、図5の側断面図(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)を参照しながら、媒体上に物理的構造を形成する手法のバリエーションをいくつか述べておく。
【0086】
図5(a) は、パターニング装置300によって、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す貫通孔Hと他方を示す非孔部Nとからなる網状構造を有する物理的構造パターンを形成した例を示す側断面図である。図示の網状構造体12では、太い一点鎖線で示す位置が図3に示す格子点Lに対応する位置であり、当該位置が貫通孔Hになっているか、非孔部N(貫通孔が形成されていない部分)になっているか、によって、図示のとおりビット”1”およびビット”0”が表現されている。
【0087】
このように、図5(a) に示す情報記録媒体の場合、凹凸構造ではなく、貫通孔の有無によってビットが表現されているため、媒体自体は網状構造体を構成することになるが、格子点Lの位置にビット情報を記録するという根本原理は、図4(e) に示す基本的な実施例と全く同様である。もちろん、貫通孔Hによりビット”0”を表現し、非孔部Nによりビット”1”を表現してもかまわない。図5(a) に示す網状構造体12を情報記録媒体Mとする場合は、エッチング処理部320によるエッチング工程(図4(d) )において、被成形層10の下面に達するまでエッチング処理を続けて貫通孔Hを形成すればよい。
【0088】
一方、図5(b) 〜(d) は、図4(e) に示す情報記録媒体Mの凹部Cもしくは凸部Vまたはその双方の表面に付加層を形成した変形例を示す側断面図である。図5(b) に示す変形例の場合、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31が形成されており、図5(c) に示す変形例の場合、凸部Vの表面にのみ付加層32が形成されており、図5(d) に示す変形例の場合、凹部Cの表面にのみ付加層33が形成されている。
【0089】
付加層31,32,33としては、光反射性の材料(たとえば、アルミニウム、ニッケル、チタン、銀、クロム、シリコン、モリブデン、白金などの金属、これらの金属の合金、酸化物、窒化物など)もしくは光吸収性の材料(たとえば、金属の酸化物や窒化物といった化合物からなる材料。クロムを例にとれば、酸化クロムや窒化クロムなど)を用いることができる。光反射性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に反射光の振る舞いの相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができ、光吸収性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に光の吸収態様の相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができる。したがって、このような付加層を形成すれば、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。
【0090】
また、付加層のように明快な境界面を有する別層を形成する代わりに、凹部Cや凸部Vの表面に不純物をドープすることにより同様の効果を得ることもできる。たとえば、凹凸構造を有する情報記録媒体を石英によって構成し、その表面に、硼素、燐、ルビジウム、セレン、銅などをドーピングし、表面部分の不純物濃度を異ならせれば、付加層を設けた場合と同様に、表面部分に光反射性もしくは光吸収性をもたせることができ、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。具体的には、上例の不純物の場合、濃度が約100ppm以上になると紫外線に対する吸収効果が得られ、約1000ppm以上になると反射率が上昇する効果が得られる。
【0091】
特に、図5(c) に示す例のように、凸部Vにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層32を形成するようにすれば、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビット”1”とビット”0”とを容易に識別可能になる。同様に、図5(d) に示す例のように、凹部Cにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層33を形成するようにしても、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビットの識別が容易になる。
【0092】
図5(b) に示す例のように、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31を形成するには、エッチング処理により図4(e) に示す情報記録媒体Mを得た後、更に、記録媒体の上面全面に付加層31を堆積させる処理を行えばよい。また、図5(c) に示す例のように、凸部Vの表面のみに付加層32が形成された構造を得るには、図4(a) に示す露光対象基板Sの代わりに、被成形層10とレジスト層20との間に付加層が挟まれた構造を有する基板を用いればよい。そして、図5(d) に示す例のように、凹部Cの表面のみに付加層33が形成された構造を得るには、図4(d) に示すエッチングプロセスが完了した時点で、レジスト層の残存部23をそのまま残した状態にして、上面全面に付加層を堆積させる処理を行い、その後、残存部23を剥離除去すればよい。
【0093】
一方、図5(e) に示す変形例は、支持層40の上面に形成された被成形層51自身を、光反射性もしくは光吸収性の材料によって構成したものである。たとえば、支持層40を石英ガラス基板によって構成し、その上面にアルミニウムからなる付加層を形成し、更にその上面にレジスト層を形成して、図4に例示したプロセスに準じたプロセスを行えば、図5(e) に示すような構造体を得ることができる。この場合、エッチングプロセスは、アルミニウムに対して腐食性を有する腐食液を用いればよい。この構造体では、凹部Cの表面は石英ガラス、凸部Vの表面はアルミニウムによって形成されているため、やはり読み出し時にビットの識別が容易になるという効果が得られる。
【0094】
なお、実用上、図5(a) に示す変形例を採用する場合は、網状構造体12を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、貫通孔Hの部分は光を透過する部分となり、非孔部Nの部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
【0095】
一方、図5(c) 〜(e) に示す変形例を採用する場合は、被成形層11もしくは支持層40を透明な材料によって構成し、付加層32,33,51を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、付加層が形成されていない部分は光を透過する部分となり、付加層が形成されている部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に、光の透過率に関して顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
【0096】
<<< §3. 先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態 >>>
§1および§2では、情報記録媒体へ情報を保存するための情報保存装置の構成と動作を説明した。ここでは、こうして記録された情報を読み出すために用いられる情報読出装置の構成と動作を説明する。
【0097】
図6は、先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報読出装置は、図1に示す情報保存装置を用いて情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す機能を果たす装置であり、図示のとおり、画像撮影装置400と読出処理用コンピュータ500によって構成される。
【0098】
ここで、画像撮影装置400は、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む構成要素であり、図示のとおり、撮像素子410、拡大光学系420、走査機構430を有している。
【0099】
撮像素子410は、たとえば、CCDカメラによって構成することができ、所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして取り込む機能を有している。拡大光学系420は、レンズなどの光学素子から構成され、情報記録媒体Mの記録面の一部分を構成する所定の撮影対象領域を拡大し、撮像素子410の撮像面に当該拡大画像を形成する役割を果たす。そして、走査機構430は、撮影対象領域が、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動するように、撮像素子410や拡大光学系420に対して走査処理(位置や角度の変更)を行う役割を果たす。
【0100】
図5には、情報記録媒体Mのバリエーションを示したが、図5(a) に示す網状構造体12からなる情報記録媒体Mであれば、材料の透明/不透明を問わず、上下いずれの面についても情報の読み出しが可能であり、上下いずれの面も記録面を構成することになる。これに対して、図4(e) および図5(b) 〜(e) に示すように、上面に凹凸構造が形成された情報記録媒体Mの場合、上面が記録面ということになる。したがって、被成形層11もしくは支持層40が透明な材料によって構成されている場合は、上方および下方のいずれの側から撮影しても情報の読み出しが可能であるが、これらが不透明な材料によって構成されている場合は、必ず上方から撮影する必要がある。
【0101】
読出処理用コンピュータ500は、図示のとおり、撮影画像格納部510、ビット記録領域認識部520、単位ビット行列認識部530、走査制御部540、データ復元部550を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、読出処理用コンピュータ500は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
【0102】
まず、撮影画像格納部510は、画像撮影装置400によって撮影された撮影画像を格納する構成要素である。すなわち、撮像素子410によって撮影された所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして格納する機能を有する。上述したとおり、画像撮影装置400には、走査機構430が設けられており、撮影対象領域は、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動することになり、その都度、撮像素子410によって新たな撮影画像が取得される。撮影画像格納部510は、こうして撮像素子410から順次与えられる画像データをそれぞれ格納する機能を果たす。
【0103】
一方、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像から、個々のビット記録領域Abを認識する処理を行う。先願発明では、図2を参照して説明したとおり、保存対象となるデジタルデータDは複数の単位データU1,U2,U3,... に分割され、それぞれ単位ビット図形パターンP(U1),P(U2),P(U3),... として個々のビット記録領域Ab内に記録される。したがって、読出処理時にも、まず、個々のビット記録領域Abを認識した上で、その中に記録されている個々の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、単位データUiを構成する各ビットを読み出すことになる。
【0104】
§2で述べたとおり、情報記録媒体Mの記録面上には、凹凸構造や貫通孔の有無などの物理的構造パターンとして、位置合わせマークQやビット図形Fが記録されている。このため、撮影画像上には、明暗分布として、これら位置合わせマークQやビット図形Fもしくはその輪郭が表現されていることになり、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQやビット図形Fを認識することが可能である。
【0105】
まず、個々のビット記録領域Abの認識は、位置合わせマークQを検出することにより行われる。位置合わせマークQには、ビット図形Fとは異なる図形が用いられているため、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像内を検索することにより、位置合わせマークQを検出できる。たとえば、図2の下段に示す例の場合、ビット図形Fが正方形であるのに対して、位置合わせマークQは十文字状であるので、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQを認識し、その位置を決定することができる。
【0106】
位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置に配置されているので、撮影画像上で位置合わせマークQを認識することができれば、ビット記録領域Abの位置を特定することができる。たとえば、撮影画像内に、図3に示すような単位記録用図形パターンR(U1)が含まれていた場合、4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができれば、これら4組の位置合わせマークQ1〜Q4を4隅近傍にもつ正方形状のビット記録領域Abを認識することができる。
【0107】
画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、撮影画像内を検索することにより、図3に示すような4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができ、更に、ビット記録領域Abを認識することができる。
【0108】
もちろん、撮影対象領域が、互いに隣接する単位記録領域Auに股がった位置に設定されていると、同一のビット記録領域Abの位置を示す4組の位置合わせマークQ1〜Q4を正しく認識できない。この場合、ビット記録領域認識部520は、認識された位置合わせマークの相互関係に基づいて、撮影対象領域の位置ずれを把握することができるので、走査制御部540に対して当該位置ずれを報告する処理を行う。
【0109】
走査制御部540は、このような位置ずれの報告を受けた場合、画像撮影装置400に対して当該位置ずれを調整する制御を行う。具体的には、撮影対象領域を所定の補正方向に所定の補正量だけ移動させるよう、走査機構430に対して指示を与える。このような調整を行えば、図3に示すように、4隅の適切な場所に、位置合わせマークQ1〜Q4が配置された正しい撮影画像を得ることができ、ビット記録領域Abに対して正しい読出処理を行うことができるようになる。このように、走査制御部540の第1の役割は、撮影対象領域が単位記録領域Auに対して位置ずれを生じていた場合に、この位置ずれを補正するための調整処理である。
【0110】
走査制御部540の第2の役割は、1つの単位記録領域Auを撮影対象領域とする撮影が終了した後、次の単位記録領域Auを新たな撮影対象領域として設定する走査処理である。たとえば、図2の下段に示す例の場合、単位記録用図形パターンR(U1)が記録されている単位記録領域Au(U1)についての撮影が完了したら、続いて、単位記録用図形パターンR(U2)が記録されている単位記録領域Au(U2)についての撮影を行う必要があり、その後、更に、単位記録用図形パターンR(U3)が記録されている単位記録領域Au(U3)、単位記録用図形パターンR(U4)が記録されている単位記録領域Au(U4)と、順次、撮影対象領域を移動させてゆく必要がある。
【0111】
結局、走査制御部540は、読出対象となるすべてのビット記録領域についての撮影画像が得られるように、画像撮影装置400による撮影対象領域を変更する制御を行う構成要素ということができる。当該制御は、ビット記録領域認識部520による位置合わせマークQの検出結果に基づくフィードバック制御によって行うことができ、位置ずれが生じた場合にも、上述したような微調整が可能である。
【0112】
さて、ビット記録領域認識部520が、撮影画像から第i番目のビット記録領域Ab(i)を認識したら、この第i番目のビット記録領域Ab(i)の情報は単位ビット行列認識部530へ与えられる。単位ビット行列認識部530は、このビット記録領域Ab(i)内のパターンに基づいて、単位ビット行列を認識する処理を行う。たとえば、図3に示す例の場合、ビット記録領域Ab内に記録されている単位ビット図形パターンP(U1)に基づいて、図2の中段に示すような5行5列からなる単位ビット行列B(U1)を認識することができる。
【0113】
図3に示す例の場合、§1で述べたとおり、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが定義され、これらの各交点として格子点Lが定義され、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。したがって、単位ビット行列認識部530による単位ビット行列B(U1)の認識処理は、次のような手順によって行うことが可能である。
【0114】
まず、ビット記録領域認識部520によって認識された4組の位置合わせマークQ1〜Q4の中心点位置に基づいて、横方向格子線X1,X7と縦方向格子線Y1,Y7とを認識する。続いて、横方向格子線X1,X7の間を等分するように、横方向格子線X2〜X6を定義し、縦方向格子線Y1,Y7の間を等分するように、縦方向格子線Y2〜Y6を定義する。そして、横方向格子線X2〜X6と縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点位置を決定し、これら各格子点位置に、ビット図形Fが存在するか否かを判定する処理を行えばよい。上述したように、ビット図形Fは、撮影画像上の明暗分布に基づいて認識することができるので、ビット図形Fが存在する格子点位置にはビット”1”を対応づけ、存在しない格子点位置にはビット”0”を対応づければ、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)を得ることができる。
【0115】
単位ビット行列認識部530は、こうして第i番目のビット記録領域Ab(i)内に記録されている第i番目の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、第i番目の単位ビット行列B(Ui)を認識する処理を行い、その結果を、データ復元部550に与える。単位ビット行列認識部530は、ビット記録領域認識部520によって認識されたすべてのビット記録領域について、同様の方法で単位ビット行列の認識処理を繰り返し実行することになる。
【0116】
データ復元部550は、こうして単位ビット行列認識部530が認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元する処理を実行する。たとえば、図2に示す例の場合、4組の単位ビット行列B(U1)〜B(U4)から4組の単位データU1〜U4を生成し、これらを連結することにより、元のデジタルデータDが復元されることになる。
【0117】
以上、図6のブロック図を参照しながら、先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態を説明したが、先願発明に係る情報保存装置によって作成された情報記録媒体Mからの情報の読み出しは、必ずしもこのような情報読出装置を用いて行う必要はない。たとえば、光学式測定器、走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて情報を読み出すことも可能である。
【0118】
先願発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体Mは、前述したとおり、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているという普遍性を有しているため、記録面を何らかの方法で拡大してビット図形Fの有無を示す画像を取得することができれば、ビット情報を読み出すことができる。したがって、当該情報記録媒体Mが、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、その時代に、何らかの物理的構造認識手段が存在すれば、ビット情報を読み出すことが可能である。もちろん、地中に埋もれた状態で保管されていた場合には、記録面に異物が付着して汚染されている可能性があるが、これらの異物は洗浄により容易に除去することが可能であり、情報の読み出しに支障は生じない。
【0119】
いずれの読出方法を採用しても、情報記録面に対して非接触状態で読み出しが可能になるため(原子間力顕微鏡を用いた場合でも、ノンコンタクトモードを用いれば、非接触状態での読み出しが可能である)、読出処理時に記録面が物理的損傷を受けることがなく、読出処理を繰り返し実行したとしても、情報記録面が摩耗するおそれはない。
【0120】
また、図6に示す情報読出装置を図1に示す情報保存装置と組み合わせれば、情報記録媒体Mの一部の記録済領域から情報を読み出しつつ、当該記録済領域に隣接した未記録領域に新たな情報保存を行うことも可能になる。したがって、1枚の情報記録媒体に、順次、新たな情報記録を行う追記式の情報保存装置を実現することも可能になる。もちろん、情報保存装置と情報読出装置とを組み合わせた装置を用いれば、情報保存装置を用いて媒体上に情報を書き込む保存処理を行った後、情報読出装置を用いて保存された情報の検証を行うこともでき、必要に応じて、修正を施すこともできる。
【0121】
<<< §4. 位置合わせマークのバリエーション >>>
§3では、情報読出装置の基本的実施形態を説明した。そこで、ここでは、この情報読出時の便宜を考慮して、情報保存時に記録する位置合わせマークのバリエーションを述べておく。ビット図形Fが保存対象となる本来の情報を示す役割を果たすのに対して、位置合わせマークQは、情報読出時の位置決めに利用されるメタ情報ということになる。
【0122】
これまで述べてきた実施形態では、単位記録用図形パターン生成部150が、たとえば図3に例示するように、矩形状のビット記録領域Abの4隅の外側に、それぞれ十文字状の位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成する処理を行っている。これらの位置合わせマークQ1〜Q4は、図6に示す情報読出装置におけるビット記録領域認識部520が、ビット記録領域Abを認識するための位置合わせに利用される。
【0123】
しかしながら、これら位置合わせマークQの形状、配置位置、数は、上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、位置合わせマークQの形状は、ビット図形Fと区別可能な形状であれば任意の形状でかまわない。また、配置する位置は、必ずしもビット記録領域Abの4隅の外側に配置する必要はなく、たとえば、ビット記録領域Abの4辺の中央位置に配置してもかまわない。更に、位置合わせマークQの数も、必ずしも4組である必要はない。
【0124】
図7は、先願発明に用いる位置合わせマークQのバリエーションを示す平面図である。いずれも、破線の正方形はビット記録領域Ab(便宜上、内側には、ビット図形を描く代わりに斜線を施してある)を示し、一点鎖線の正方形は単位記録領域Auを示しており、両者の間に配置されている円形のマークが位置合わせマークQである。
【0125】
図7(a) は、矩形状のビット記録領域Abの左上隅近傍および右上隅近傍に、位置合わせマークQ11およびQ12を配置した例である。この2組の位置合わせマークQ11,Q12の中心点を結ぶ方向を横方向座標軸Xと定義すれば、ビット記録領域Abの配置に関する一座標軸方向を示すことができる。読み出し時には、2組の位置合わせマークQ11,Q12に基づいて横方向座標軸Xを認識することができ、更に、この横方向座標軸Xに直交する軸として縦方向座標軸Yを定義することができるので、ビット記録領域Abが正しい矩形をしていれば、各ビットの読出処理に支障は生じない。このような観点からは、1つのビット記録領域Abについて、2組の位置合わせマークを付加しておけば、実用上、読出処理に支障は生じないことになる。
【0126】
もちろん、ビット記録領域Abの左上隅近傍と左下隅近傍に、それぞれ位置合わせマークを配置して、縦方向座標軸Yを定義するようにしてもよい。要するに、単位記録用図形パターン生成部150は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの対角にない2隅の外側近傍に配置された合計2組の位置合わせマークを付加することにより、単位記録用図形パターンを生成すればよい。
【0127】
一方、図7(b) は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの3隅の外側近傍に配置された合計3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成した例である。このように3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を用いれば、図示のように横方向座標軸Xと縦方向座標軸Yとの双方を定義することができ、各ビットの読出処理の精度を更に高めることが可能である。
【0128】
このように3組の位置合わせマークを用いる場合は、図8に示す例のように、相互に隣接する単位記録用図形パターンについて、3組の位置合わせマークの配置態様を異ならせるようにするのが好ましい。図8には、複数の単位記録領域Auを二次元行列状に配置した状態が示されている。ここで、単位記録領域Au(11),Au(13),Au(22),Au(31),Au(33)については、図7(b) に示す配置態様(すなわち、右下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されているが、単位記録領域Au(12),Au(21),Au(23),Au(32)については、図7(b) に示す配置態様とは左右逆転させた配置態様(すなわち、左下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されている。
【0129】
要するに、単位記録領域Auの配列について、行番号i(i=1,2,3,... )と列番号j(j=1,2,3,... )を定義して、個々の単位記録領域を、図示のとおりAu(ij)と表現した場合に、(i+j)が偶数になる第1のグループについては、図7(b) に示すように、右下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用し、(i+j)が奇数になる第2のグループについては、図7(b) を左右逆転させたように、左下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用している。
【0130】
このように、3組の位置合わせマークの配置態様として2通りの態様を定義し、上下もしくは左右に隣接する単位記録用図形パターンについて、互いに異なる配置態様を採用するようにすれば、走査制御部540が撮影対象領域の走査を行う際に、隣接する単位記録領域についての撮影をスキップさせてしまう誤りを防ぐことができる。
【0131】
たとえば、図8に示す例において、走査制御部540が、まず、単位記録領域Au(11)を撮影対象領域として撮影し、続いて、撮影対象領域を図の右方向に移動させ、右に隣接する単位記録領域Au(12)を撮影対象領域とする制御を行ったとしよう。通常、単位記録領域Auのピッチに相当する距離だけ移動させる制御を行えば、次の撮影対象領域を単位記録領域Au(12)の位置へもってゆくことが可能である。ところが、何らかの事情により移動距離に誤差が生じ、撮影対象領域が単位記録領域Au(13)の位置まで移動してしまった場合、単位記録領域Au(12)に対する読出処理はスキップされてしまうことになる。
【0132】
図8に示すような配置態様を採用しておけば、このような事態が生じても、誤りであることを検出できる。すなわち、単位記録領域Au(11)を撮影した後、単位記録領域Au(12)の撮影をスキップして単位記録領域Au(13)の撮影が行われたとすると、位置合わせマークの配置態様が同じになるため、単位記録領域Au(12)がスキップされてしまったことを認識できる。そこで、撮影対象領域を図の左方向へと戻す処理を行い、単位記録領域Au(12)の撮影が行われるような修正を行うことができる。縦方向に関するスキップが生じた場合も同様の修正が可能である。
【0133】
このようなスキップが生じたことを認識させるための方法としては、2通りの配置態様を用意しておく方法の他、位置合わせマークの形状を変える方法を採ることも可能である。たとえば、図9(a) ,(b) には、位置合わせマークの形状を変えたバリエーションの一例が示されている。図9(a) に示す例の場合、十文字状のマークQ31、三角形のマークQ32、四角形のマークQ33が、図示の位置に配置されているのに対して、図9(b) に示す例の場合、円形のマークQ41、菱形のマークQ42、×印のマークQ43が、図示の位置に配置されている。このような2通りの位置合わせマークを縦横交互に用いるようにすれば、図8に示す例と同様に、スキップが生じたことを認識することができる。
【0134】
図10は、先願発明おける位置合わせマークの配置形態の更に別なバリエーションを示す平面図である。このバリエーションは、図8に示す例における単位記録領域Au(11)についての位置合わせマークを、図9(a) に示す位置合わせマークに変更したものである。すなわち、二次元行列状に配置された複数の単位記録領域Auのうち、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)のみ、用いる位置合わせマークの形状が異なっている。これは、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)を、最初に読み出すべき基準単位記録領域として設定しておき、読出処理時には、この基準単位記録領域を容易に識別できるようにするための配慮である。
【0135】
この図10に示すバリエーションを採用する場合、単位記録用図形パターン生成部150は、特定の単位記録領域を基準単位記録領域に設定し、当該基準単位記録領域については、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いた単位記録用図形パターンを生成するようにすればよい。図示の例の場合、基準単位記録領域Au(11)については、図9(a) に示す基準位置合わせマークが用いられ、その他の単位記録領域については、図8に示す通常の位置合わせマークが用いられているため、読出処理時には、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索する処理を行うことにより、最初に読み出すべき基準単位記録領域Au(11)を特定することができる。
【0136】
すなわち、図6に示す情報読出装置における画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索することが可能になるので、走査制御部540は、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークに基づいて基準単位記録領域Au(11)を包含する領域の撮影画像が得られるように、画像撮影装置400に対して撮影対象領域を調整させる制御を行えばよい。こうして、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)から正しいビット情報の読み出しが完了したら、走査制御部540によって、単位記録領域Auの配置ピッチに応じて、撮影対象領域を順次移動させる制御を行うようにすればよい。
【0137】
もちろん、この場合も、図8を参照して説明したように、何らかの事情により単位記録領域Au(13)がスキップされる誤りが生じても、当該誤りを認識して修正することができる。また、微細な位置ずれが生じていた場合にも、微調整することができる。
【0138】
また、基準単位記録領域Au(11)を示す方法として、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いる方法を採る代わりに、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)に、ビット図形Fを配置せずに特有の識別マークを配置する方法を採ることも可能である。ビット記録領域Abは、本来はビット図形Fを配置して保存対象となるデータを記録するために用いられる領域であるが、基準単位記録領域についてのみ、特有の識別マークを配置するようにすれば、当該特有の識別マークを確認することにより、基準単位記録領域を容易に認識することができる。
【0139】
たとえば、図8に示す領域Au(11)内に、大きな星印を描画しておけば、当該領域Au(11)が基準単位記録領域であることを容易に認識することができる。この場合、領域Au(11)内には、本来の情報は記録されていないが、まず、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置調整を行った後、撮影対象領域を順次移動させる走査を行うようにすればよい。基準単位記録領域Auのサイズが目視しうるサイズであれば、上例の場合、星印を目視確認することも可能であり、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置合わせを、オペレータの目視による手動操作で行うことも可能になる。
【0140】
<<< §5. 先願発明に係る情報保存方法および情報読出方法 >>>
ここでは、先願発明を情報保存方法および情報読出方法という方法発明として把握した場合の基本的な処理手順を説明しておく。
【0141】
図11は、先願発明に係る情報保存方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する情報保存方法の実行手順であり、ステップS11〜S16は、図1に示す保存処理用コンピュータ100によって実行される手順であり、ステップS17は、図1に示すビーム露光装置200によって実行される手順であり、ステップS18は、図1に示すパターニング装置300によって実行される手順である。
【0142】
まず、ステップS11では、保存処理用コンピュータ100が、保存対象となるデジタルデータDを入力するデータ入力段階が実行される。続くステップS12では、保存処理用コンピュータ100が、当該デジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データUiを生成する単位データ生成段階が実行される。そして、ステップS13では、保存処理用コンピュータ100が、個々の単位データUiを構成するデータビットを二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する単位ビット行列生成段階が実行され、ステップS14では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット行列B(Ui)を、所定のビット記録領域Ab内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する単位ビット図形パターン生成段階が実行される。
【0143】
続いて、ステップS15では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークQを付加することにより、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する単位記録用図形パターン生成段階が実行される。そして、ステップS16では、保存処理用コンピュータ100が、単位記録用図形パターンR(Ui)を描画するための描画データEを生成する描画データ生成段階が実行される。
【0144】
そして最後に、ステップS17において、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光による描画を行うビーム露光段階が実行され、ステップS18において、露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンが形成された情報記録媒体Mを生成するパターニング段階が実行される。
【0145】
これに対して、図12は、先願発明に係る情報読出方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、図11に示す手順により情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す情報読出方法の実行手順であり、ステップS21は、図6に示す画像撮影装置400によって実行される手順であり、ステップS22〜S27は、図6に示す読出処理用コンピュータ500によって実行される手順である。
【0146】
まず、ステップS21では、画像撮影装置400を用いて、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む画像撮影段階が実行される。そして、ステップS22では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像を格納する撮影画像格納段階が実行され、ステップS23では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像格納段階で格納された撮影画像から位置合わせマークを検出することにより、個々のビット記録領域Abを認識するビット記録領域認識段階が実行される。
【0147】
このビット記録領域認識段階において、ビット記録領域Abの認識に成功した場合には、ステップS24を経てステップS25へ進むことになるが、ビット記録領域Abの認識に失敗した場合、すなわち、撮影時に位置ずれが生じており、撮影画像内に完全なビット記録領域Abが含まれていない場合には、ステップS21へ戻り、再び画像撮影段階が実行される。このとき、正しい撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する処理が行われることになる。
【0148】
ステップS25では、読出処理用コンピュータ500が、ビット記録領域Ab内のパターンに基づいて単位ビット行列B(Ui)を認識する単位ビット行列認識段階が実行される。このような処理が、ステップS26を介して、全必要領域についての認識が完了するまで繰り返し実行される。すなわち、読出処理用コンピュータ500によって、読出対象となるすべてのビット記録領域Abについての撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する制御を行いつつ、ステップS21の画像撮影段階からの一連の処理が繰り返されることになる。
【0149】
最後に、ステップS27において、読出処理用コンピュータ500が、ステップS25の単位ビット行列認識段階で認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元するデータ復元段階が実行される。
【0150】
<<< §6. 本発明に係る情報記録媒体の作成方法 >>>
これまで、§1〜§5において、先願発明(特開2015−185184号公報に記載された発明)の説明を行った。この先願発明に係る情報保存方法によれば、長期的な耐久性をもった情報記録媒体に高い集積度をもってデジタルデータを記録することができる。しかしながら、当該情報記録媒体がどれほどの耐久性をもっていたとしても、情報の滅失を完全に防ぐことはできない。石英ガラス基板のような耐久性をもった媒体であっても、破損する可能性はあり、また、紛失する可能性もある。
【0151】
本発明の特徴は、先願発明を利用して作成した情報記録媒体を原版として利用して、その複製を作成することにより、同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を作成する点にある。もちろん、記録に用いる媒体として、長期的な耐久性をもった情報記録媒体を用いる点は先願発明と同じであり、この媒体に、データが高い集積度をもって記録されている点も同じである。ただ、本発明では、同一のデジタルデータが複数枚の情報記録媒体のそれぞれに記録されるため、冗長性が高まることになる。したがって、1枚の媒体について破損や紛失といった事故が発生しても、別な媒体からデータの読み出しが可能であるため、情報の滅失は避けられる。
【0152】
本発明に係る情報記録媒体の作成方法では、同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を作成するために、原版媒体作成段階、中間媒体作成段階、複製媒体作成段階、という3段階が実行される。ここで、原版媒体作成段階は、保存対象となるデジタルデータを、第1の記録用媒体G1の記録面上に、凹凸構造パターンとして記録する工程を行うことにより、原版媒体M1を作成する段階であり、中間媒体作成段階は、原版媒体M1に記録されている凹凸構造パターンを、第2の記録用媒体G2の記録面上に転写する工程を行うことにより、中間媒体M2を作成する段階であり、複製媒体作成段階は、中間媒体M2に記録されている凹凸構造パターンを、第3の記録用媒体G3の記録面上に転写する工程を行うことにより、複製媒体M3を作成する段階である。
【0153】
このように、本発明に係る情報記録媒体の作成方法は、原版媒体M1を作成する原版媒体作成段階、中間媒体M2を作成する中間媒体作成段階、複製媒体M3を作成する複製媒体作成段階によって構成される。以下、これら各段階の具体的な内容を順に説明する。
【0154】
まず、原版媒体作成段階は、これまで§1〜§5において、先願発明として述べてきた情報保存方法をそのまま利用することができる。すなわち、図4(a) に示すように、第1の記録用媒体G1として石英ガラス基板10を用い、この第1の記録用媒体G1(石英ガラス基板10)の表面にレジスト層20を形成し、図4(b) に示すように、レジスト層20の表面にビーム露光を行うことにより、保存対象となるデジタルデータのビット情報を示す図形パターンを描画し、露光部21と非露光部22とを形成する。そして、図4(c) に示すように、このレジスト層を現像することによりその一部(図示の例の場合は、露光部21)を除去し、図4(d) に示すように、レジスト層の残存部23をマスクとするエッチング処理を行い、レジスト層の残存部23を剥離除去して、石英ガラス基板からなる情報記録媒体Mを作成すればよい。
【0155】
§2で述べたとおり、この情報記録媒体Mの上面には物理的な凹凸構造が形成されており、凹部Cと凸部Vとによって、ビット”1”およびビット”0”が表現されている。ここでは、こうして得られた情報記録媒体Mを原版媒体M1と呼ぶことにし、その表面に形成された物理的な凹凸構造パターンを第1の凹凸構造パターンと呼ぶことにする。図4(e) に示す例の場合、原版媒体M1は、上面に”10110”なるデジタルデータを示す第1の凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板11によって構成されることになる。
【0156】
こうして、原版媒体M1が用意できたら、続いて、中間媒体作成段階および複製媒体作成段階が実行される。図13は、この中間媒体作成段階および複製媒体作成段階の概要を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。図13(a) は、図4に示す方法で作成された原版媒体M1を示している。すなわち、図13(a) に示す原版媒体M1は、図4(e) に示す情報記録媒体M(加工後の石英ガラス基板11)と同じものであり、上面に”10110”なるデジタルデータを示す第1の凹凸構造パターンが形成されている。
【0157】
図13(b) 〜(d) は、中間媒体作成段階の工程を示す側断面図である。この中間媒体作成段階では、原版媒体M1の表面に形成された第1の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、第2の記録用媒体G2の記録面上に、第1の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第2の凹凸構造パターンを形成し、中間媒体M2を作成する処理が行われる。
【0158】
図示の例の場合、第2の記録用媒体G2として、図13(b) に示すように、硬化前のUV硬化性樹脂層61を樹脂支持層65の上面に塗布した2層構造を有する媒体を用意し、UV硬化性樹脂層61の上面に、原版媒体M1の凹凸構造面を接触させて押圧し、UV硬化性樹脂層61の上面に第1の凹凸構造パターンを賦形により転写している。図13(c) に示すように、この状態で、紫外線を照射することによりUV硬化性樹脂を硬化させ、硬化したUV硬化性樹脂層62が形成されれば、凹凸構造パターンの転写工程は完了である。図13(d) に示すように、原版媒体M1を剥離すれば、硬化したUV硬化性樹脂層62と樹脂支持層65との2層構造を有する媒体からなる中間媒体M2が得られる。この中間媒体M2の上面には、第1の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第2の凹凸構造パターンが形成されている。
【0159】
続いて、図13(e) 〜(h) に示す複製媒体作成段階が行われる。この複製媒体作成段階では、第3の記録用媒体G3として石英ガラス基板70を用い、中間媒体M2の表面に形成された第2の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、第3の記録用媒体G3の記録面上に、第2の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第3の凹凸構造パターンを形成する処理が行われる。
【0160】
図示の例の場合、図13(e) に示すように、第3の記録用媒体G3を構成する石英ガラス基板70の上面に、硬化前のUV硬化性樹脂層80を塗布した2層構造体を用意し、その上に中間媒体M2を配置し、中間媒体M2の凹凸構造面をUV硬化性樹脂層80の上面に接触させて押圧し、UV硬化性樹脂層80の上面に第2の凹凸構造パターンを賦形により転写している。図13(f) に示すように、この状態で、紫外線を照射することによりUV硬化性樹脂を硬化させ、硬化したUV硬化性樹脂層81が形成されれば、凹凸構造パターンの転写工程は完了である。
【0161】
続いて、図13(g) に示すように、中間媒体M2を剥離すれば、硬化したUV硬化性樹脂層81と石英ガラス基板70との2層構造を有する媒体が作成される。ここで、硬化したUV硬化性樹脂層81の上面には、第2の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第3の凹凸構造パターンが形成されており、当該凹凸構造により、UV硬化性樹脂層81には、肉厚部と肉薄部とが形成されている。そこで、この肉厚部をマスクとして利用して、石英ガラス基板70に対するエッチング処理を行い、UV硬化性樹脂層81を剥離除去すれば、図13(h) に示すように、表面に第3の凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板71からなる複製媒体M3が得られる。
【0162】
ここで、図13(a) に示す原版媒体M1に形成されている第1の凹凸構造パターンと、図13(e) に示す中間媒体M2に形成されている第2の凹凸構造パターンとを比べると、賦形による転写を行ったため、両者は凹凸の状態を反転させた関係にある。また、図13(e) に示す中間媒体M2に形成されている第2の凹凸構造パターンと、図13(h) に示す複製媒体M3に形成されている第3の凹凸構造パターンとを比べると、賦形による転写を行ったため、やはり両者は凹凸の状態を反転させた関係にある。したがって、必然的に、図13(a) に示す原版媒体M1に形成されている第1の凹凸構造パターンと、図13(h) に示す複製媒体M3に形成されている第3の凹凸構造パターンとは、同一の凹凸構造を有することになる。
【0163】
なお、図13に示す各媒体の配置は、説明に都合のよい形態で描いたものであり、実際の工程では、必ずしもこのような配置(特に、上下の関係)をとる必要はない。たとえば、図13(b) 〜(d) に示す中間媒体作成段階の工程では、原版媒体M1を上方、第2の記録用媒体G2を下方に配置した例が描かれているが、両者の上下の関係を逆にしてもかまわない。同様に、図13(e) 〜(g) に示す複製媒体作成段階の工程では、中間媒体M2を上方、第3の記録用媒体G3を下方に配置した例が描かれているが、両者の上下の関係を逆にしてもかまわない。また、本発明の工程説明における上方/下方や上面/下面という文言は、説明の便宜上の相対的な概念を示しており、実際の工程における絶対的な上下を示すものではない。
【0164】
結局、図13(h) に示す複製媒体M3は、文字通り、図13(a) に示す原版媒体M1の複製ということになり、この複製媒体M3から読み出された情報は、原版媒体M1から読み出された情報(図示の例の場合は”10110”)と同一になる。ここで、原版媒体M1から複製媒体M3を作成する工程は何回でも繰り返し行うことができる。また、中間媒体M2から複製媒体M3を作成する工程も繰り返し行うことができる。もちろん、原版媒体M1の代わりに複製媒体M3を用いることにより、中間媒体M4や複製媒体M5を作成することも可能である。
【0165】
このように、本発明では、保存対象となるデジタルデータが、媒体表面に露出した凹凸構造として記録されるので、当該凹凸構造を賦形工程により別な媒体に転写することができる。原版媒体M1に基づいて1回目の転写を行うことにより得られる中間媒体M2には、反転した凹凸構造が形成されることになるが、この中間媒体M2に基づいて2回目の転写を行うことにより得られる複製媒体M3には、2回の反転によって元の原版媒体M1と同じ凹凸構造が形成される。かくして、複製媒体M3は、原版媒体M1と同一の情報記録媒体としての機能を果たすことができる。
【0166】
図13に示す実施例では、原版媒体M1および複製媒体M3として、石英ガラス基板が用いられており、いずれについても、長期的な耐久性を得ることができる。このように、本発明によれば、同一のデジタルデータが記録された複数の情報記録媒体を作成することにより冗長性を確保することができ、しかも個々の情報記録媒体は長期的な耐久性をもつものになる。
【0167】
なお、原版媒体M1および複製媒体M3は、必ずしも単層からなる石英ガラス基板によって構成する必要はなく、§8(1) で述べる変形例のように、石英ガラス基板の上面にクロム層を形成した複層からなる基板を用いてもかまわない。要するに、原版媒体作成段階では、第1の記録用媒体G1として、石英ガラス基板を含む媒体を用い、石英ガラス基板を含む原版媒体を作成するようにし、複製媒体作成段階では、第3の記録用媒体G3として、石英ガラス基板を含む媒体を用い、石英ガラス基板を含む複製媒体を作成するようにすればよい。
【0168】
また、図13に示す実施例では、樹脂支持層65として、可撓性を有する媒体を用い、UV硬化性樹脂層61の厚みを、硬化後に可撓性を呈する厚みに設定しているため、中間媒体作成段階によって作成される中間媒体M2が可撓性をもった媒体となるようにしている(本願の各図は、説明の便宜上、各部の寸法比がデフォルメされており、実際の寸法比を忠実に示す図にはなっていない。)。このため、原版媒体M1および複製媒体M3として、剛性をもった石英ガラス基板を用いたとしても、中間媒体M2の可撓性を利用した剥離が可能になり、原版媒体M1および複製媒体M3の表面に形成された凹凸構造の破損を防ぐことができる。
【0169】
具体的には、図13(d) に示す工程では、原版媒体M1と中間媒体M2(樹脂支持層65および硬化したUV硬化性樹脂層62)とを相互に剥離する必要があるが、可撓性を有している中間媒体M2を湾曲させることにより、両者を容易に分離することが可能である。このため、原版媒体M1の表面に形成された凹凸構造の破損を防ぐことができる。同様に、図13(g) に示す工程では、硬化後のUV硬化性樹脂層81と中間媒体M2とを相互に剥離する必要があるが、やはり可撓性を有している中間媒体M2を湾曲させることにより、両者を容易に分離することが可能である。このため、UV硬化性樹脂層81の表面に形成された凹凸構造の破損を防ぐことができる。また、両媒体の間に何らかの異物が挟まったとしても、中間媒体M2が可能性を有していれば、相手方の媒体が傷つくことも避けられる。
【0170】
<<< §7. 本発明のより具体的な実施例 >>>
ここでは、図14図17を参照しながら、本発明のより具体的な実施例を述べる。ここで述べる実施例は、原版媒体作成段階で用いる第1の記録用媒体G1および複製媒体作成段階で用いる第3の記録用媒体G3として、石英ガラス基板の上面にクロム層を形成した複層からなる基板を用いた実施例である。後述するように、クロム層を介在させることにより、石英ガラス基板に対するエッチングをより適切に行うことができるようになる。
【0171】
図14は、本発明における原版媒体作成段階の具体的な処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。原版媒体作成段階の基本手順は、既に図4を参照しながら§2で述べたとおりである。ただ、図4に示す手順は、図4(a) に示すように、単層の石英ガラス基板10を第1の記録用媒体G1として用いた手順である。これに対して、図14に示す手順は、石英ガラス基板10上面にクロム層15を形成した複層からなる基板を第1の記録用媒体G1として用いた手順になる。
【0172】
したがって、ここで述べる処理工程では、まず、図14(a) に示すように、石英ガラス基板10の上面にクロム層15を形成した媒体を、第1の記録用媒体G1として用意し、この第1の記録用媒体G1の上面(クロム層15の上面)にレジスト層20を形成している。ここに示す実施例の場合、一辺が152mmの正方形状をした厚み6.35mmの石英ガラス基板10の上面に、厚み100nmのクロム層15を形成し、更にその上面に、厚み400nmのポジ型のレジスト層20を形成している。この厚みの石英ガラス基板10は、十分に剛性をもった基板になる。
【0173】
続いて、図14(b) に示すように、図1に示すビーム露光装置200を用いて、このレジスト層20の表面にレーザ光によるビーム露光を行うことにより、保存対象となるデジタルデータのビット情報を示す図形パターンを描画した後、レジスト層20を現像することによりその一部を除去する。レジスト層20としてポジ型レジストを用いた場合、現像により露光部が溶解して除去されることになり、クロム層15の上面には、非露光部22が残存する。
【0174】
次に、図14(c) に示すように、レジスト層の残存部23をマスクとしてクロム層15に対するエッチング処理を行う。具体的には、たとえば、塩素ガス(Cl)を使用したドライエッチングにより、クロム層15の露出領域をエッチング除去することができる。レジスト層の残存部23は、その後、剥離除去する。
【0175】
そして、図14(d) に示すように、今度は、クロム層の残存部16をマスクとして、石英ガラス基板10に対するエッチング処理を所定の深さまで行い、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板11を形成する。具体的には、たとえば、四フッ化炭素ガス(CF)を使用したドライエッチングにより、石英ガラス基板10の露出領域をエッチング除去することができる。
【0176】
最後に、クロム層の残存部16を剥離除去すれば、図14(e) に示すように、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板11からなる原版媒体M1を作成することができる。この図14(e) に示す原版媒体M1は、図4(e) に示す情報記録媒体Mに相当するものであり、図示の例の場合、”10110”なるデジタルデータを記録した媒体になる。凹部の深さは、120nm程度である。
【0177】
一方、図15は、本発明における中間媒体作成段階の具体的な処理工程を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。中間媒体作成段階の基本手順は、図13(b) 〜(d) を参照しながら§6で述べたとおりであるが、ここでは押圧ローラを用いた、より具体的な処理工程を説明する。なお、この図15では、原版媒体M1と第2の記録用媒体G2との上下の配置関係が、図13(b) 〜(d) に示すものとは逆転した状態で描かれている。
【0178】
前述したように、ここで述べる実施例の場合、図14(e) に示す原版媒体M1は正方形状をした石英ガラス基板である。そこで、この原版媒体M1の上面を構成する正方形の一辺に沿って、硬化前のUV硬化性樹脂を線状に塗布して、図15(a) に示すようなUV硬化性樹脂溜り60を形成する(図15(a) に示す例の場合、UV硬化性樹脂溜り60は、紙面垂直方向に伸びる土手になる)。このUV硬化性樹脂は、紫外線(UV)の照射によって硬化する性質をもった樹脂であれば、どのような樹脂であってもかまわない。また、必ずしもUV硬化性樹脂を用いる必要はなく、任意の特定波長の光の照射によって硬化する樹脂を用いてもよい(この場合、後述するUV照射工程では、当該特定波長の光を照射することになる)。
【0179】
続いて、図15(b) に示すように、原版媒体M1の上方に、可撓性を有するシート状の部材からなる樹脂支持層65を配置し、その上面を押圧ローラによって押圧する。図には、押圧ローラを右端位置R1から左端位置R2へと転がすことにより、樹脂支持層65を上面から押圧した状態が示されている。この圧延工程により、UV硬化性樹脂溜り60は、原版媒体M1の表面に形成された凹凸構造の上面に圧延されて塗布され、UV硬化性樹脂層61を形成する。すなわち、押圧ローラの押圧力により、UV硬化性樹脂が、原版媒体M1の表面に塗布され、その凹部にも充填されることになる。ここに示す実施例の場合、押圧ローラを0.3MPaの圧力で下方へ押圧し、速度2.0mm/secの速度で移動させながら圧延を行っている。必要に応じて、UV硬化性樹脂を加熱してもよい。
【0180】
このとき、UV硬化性樹脂層61の塗布厚は、硬化後に可撓性を呈する厚みになるようにする。要するに、この圧延工程では、原版媒体M1の表面に形成された凹凸構造の上面に、光の照射により硬化する性質をもった樹脂層を、硬化後に可撓性を呈する厚みに塗布すればよい。
【0181】
なお、実用上は、この圧延工程を行う前に、原版媒体M1上の凹凸構造形成面には、何らかの離型処理を施しておくようにし、後に中間媒体M2を剥離する工程が容易になるようにしておくのが好ましい。具体的には、UV硬化性樹脂の剥離に有効な離型剤を凹凸構造形成面に塗布しておけばよい。
【0182】
樹脂支持層65は、可撓性を有するシート状の部材であれば、どのような材質のものを用いてもよいが、ここでは、厚みが0.1mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを樹脂支持層65として用いている。樹脂支持層65のサイズは、原版媒体M1上の凹凸構造形成面を十分に覆うことができるサイズであればどのようなサイズでもよい。ここでは、原版媒体M1が一辺152mmの正方形状をしているため、これを十分に覆うことができるように、210×297mmのサイズのPETフィルムを樹脂支持層65として用いている。
【0183】
ここでも、実用上は、PETフィルム(樹脂支持層65)の下面には、UV硬化性樹脂層61との密着性を向上させるため、何らかの密着性向上処理を施しておくのが好ましい。たとえば、コロナ放電照射により表面の改質を図るコロナ処理は、密着性向上に有効である。
【0184】
結局、図15(b) に示す圧延工程により、原版媒体M1の上面に、UV硬化性樹脂層61が、硬化後に可撓性を呈する厚みに塗布され、更に、このUV硬化性樹脂層61の上面に、可撓性をもった樹脂支持層65が積層されることになる。このUV硬化性樹脂層61および樹脂支持層65からなる積層構造体は、図13(b) に示した、中間媒体M2を作成するための第2の記録用媒体G2に相当する。
【0185】
続いて、硬化前のUV硬化性樹脂層61に紫外線UVを照射することによりこれを硬化させれば、図15(c) に示すように、硬化後のUV硬化性樹脂層62が得られる。図示の例の場合、UV照射を下方(原版媒体M1の下面)から行っているが、UV照射を上方から行うことも可能であるし、上下両方から行うようにしてもかまわない。原版媒体M1は石英ガラス基板によって構成されているため、紫外線UVに対する十分な透過性を有しており、紫外線UVを下方から照射しても樹脂に対して効率的なUV照射が可能になる。
【0186】
最後に、図15(d) に示すように、硬化させた樹脂層62および樹脂支持層65からなる積層構造体を、その可撓性を利用して湾曲させることにより、原版媒体M1から剥離する。剥離して得られた積層構造体によって、中間媒体M2が形成される。
【0187】
なお、図15に示す実施例では、図15(b) に示すように、押圧ローラによる圧延工程を完了させ、原版媒体M1上にUV硬化性樹脂層61を十分に圧延塗布した後に、図15(c) に示すようにUV照射を行っているが、図15(b) に示す圧延工程を行いながら、同時にUV照射を行うようにしてもかまわない。
【0188】
最後に、図16および図17の側断面図(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)を参照しながら、本発明における複製媒体作成段階の具体的な処理工程を説明する。複製媒体作成段階の基本手順は、図13(e) 〜(h) を参照しながら§6で述べたとおりであるが、ここでは石英ガラス基板70の上面にクロム層75を形成し、押圧ローラを用いた処理工程を説明する。
【0189】
はじめに、図16(a) に示すように、石英ガラス基板70の上面にクロム層75を形成した媒体を、第3の記録用媒体G3として用意し、この第3の記録用媒体G3の上面(クロム層75の上面)にUV硬化性樹脂層80を形成する。ここに示す実施例の場合、一辺が152mmの正方形状をした厚み6.35mmの石英ガラス基板70の上面に、厚み100nmのクロム層75を形成し、更にその上面に、厚み85nmのUV硬化性樹脂層80を塗布している。この厚みの石英ガラス基板70は、十分に剛性をもった基板になる。UV硬化性樹脂層80の塗布方法としては、たとえば、スピン、インクジェット、スプレーによる方法や、スキージによる方法(スクリーン印刷による方法、具体的には、穴開きメッシュの上に塗布した材料をスキージにより穴から落とす方法)などを用いることができる。
【0190】
UV硬化性樹脂層80として塗布する樹脂は、紫外線(UV)の照射によって硬化する性質をもった樹脂であれば、どのような樹脂であってもかまわない。また、必ずしもUV硬化性樹脂を用いる必要はなく、任意の特定波長の光の照射によって硬化する樹脂を用いてもよい(この場合、後述するUV照射工程では、当該特定波長の光を照射することになる)。
【0191】
次に、図16(b) に示すように、中間媒体M2(図15(d) に示すもの)を、その凹凸構造面を下方に向けて、UV硬化性樹脂層80の上方に配置する。そして、中間媒体M2の凹凸構造面の凹部にUV硬化性樹脂層80の樹脂が充填されるように、UV硬化性樹脂層80の上面に被せて押圧する。ここでは、図示のとおり、中間媒体M2の上面を押圧ローラによって下方に押圧する方法を採っている。図には、押圧ローラを右端位置R3に配置した状態が示されているが、この後、押圧ローラを押下し、左端位置R4へと転がすことにより、UV硬化性樹脂層80の内部に中間媒体M2の凸部を埋め込み、中間媒体M2の凹部に樹脂を充填させることができる。ここに示す実施例の場合、押圧ローラを0.3MPaの圧力で下方へ押圧し、速度2.0mm/secの速度で移動させながら中間媒体M2の押圧を行っている。必要に応じて、UV硬化性樹脂を加熱してもよい。
【0192】
続いて、硬化前のUV硬化性樹脂層80に紫外線UVを照射することによりこれを硬化させれば、図16(c) に示すように、硬化後のUV硬化性樹脂層81が得られる。図示の例の場合、UV照射を下方(石英ガラス基板70の下面)から行っているが、UV照射を上方から行うことも可能であるし、上下両方から行うようにしてもかまわない。前述したとおり、石英ガラス基板は、紫外線UVに対する十分な透過性を有しており、紫外線UVを下方から照射しても樹脂に対して効率的なUV照射が可能になる。
【0193】
続いて、図17(a) に示すように、中間媒体M2をその可撓性を利用して湾曲させることにより、硬化したUV硬化性樹脂層81から剥離すれば、硬化したUV硬化性樹脂層81,クロム層75,石英ガラス基板70という3層構造を有する媒体が得られる。硬化したUV硬化性樹脂層81の上面には、転写された凹凸構造パターンが形成されており、当該凹凸構造により、UV硬化性樹脂層81には、肉厚部と肉薄部とが形成されている。そこで、この肉厚部をマスクとして利用して、クロム層75に対するエッチング処理を行い、クロム層75の一部を除去する。
【0194】
具体的には、図17(a) の下段に示すように、肉厚部と肉薄部とを有するUV硬化性樹脂層81の上面から、塩素ガス(Cl)を使用したドライエッチングを行えば、図17(b) に示すように、UV硬化性樹脂層81の肉薄部をエッチング除去した上で、更に、クロム層75の露出領域をエッチング除去することができる。この場合、塩素ガスによるエッチングにより、UV硬化性樹脂層81の肉厚部も腐食を受けて厚みを減じることになるが、肉薄部が完全に除去された後も、肉厚部は残存UV硬化性樹脂層82として残ることになり、クロム層75に対するマスクとして機能する。その結果、残存UV硬化性樹脂層82で覆われている部分が、クロム層の残存部76として残ることになる。
【0195】
なお、図17(a) の下段に示す状態から、図17(b) に示すクロム層75に対するエッチングを行うまでの別法として、まず、肉厚部と肉薄部とを有するUV硬化性樹脂層81の上面から、酸素ガス(O)を使用して、UV硬化性樹脂層81に対するドライエッチングを行い、肉薄部が除去されてクロム層75が露出した時点で、エッチングガスを酸素ガス(O)から塩素ガス(Cl)に切り替え、残存UV硬化性樹脂層82をマスクとしてクロム層75に対するエッチングを行うこともできる。
【0196】
次に、残存UV硬化性樹脂層82を剥離除去した後、図17(c) に示すように、今度は、クロム層の残存部76をマスクとして、石英ガラス基板70に対するエッチング処理を所定の深さまで行い、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板71を形成する。具体的には、たとえば、四フッ化炭素ガス(CF)を使用したドライエッチングにより、石英ガラス基板70の露出領域をエッチング除去することができる。
【0197】
最後に、クロム層の残存部76を剥離除去すれば、図17(d) に示すように、表面に凹凸構造パターンが形成された石英ガラス基板71からなる複製媒体M3を作成することができる。この図17(d) に示す複製媒体M3は、図14(e) に示す原版媒体M1と同一の”10110”なるデジタルデータを記録した媒体になる。凹部の深さは120nm程度である。
【0198】
<<< §8. 本発明の変形例 >>>
本発明は、同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を作成する情報記録媒体の作成方法に係るものであり、これまで、その代表的な実施形態を図を参照しながら説明してきた。ここでは、本発明のいくつかの変形例を述べておく。
【0199】
(1) クロム層の取り扱い
図14に示す原版媒体作成段階では、図14(a) に示すように、石英ガラス基板10の上面にクロム層15を形成した媒体を、第1の記録用媒体G1として用いている。同様に、図16に示す複製媒体作成段階では、図16(a) に示すように、石英ガラス基板70の上面にクロム層75を形成した媒体を、第3の記録用媒体G3として用いている。このように、クロム層を用いると、石英ガラス基板に対するエッチングをより適切に行うことができる。
【0200】
たとえば、図14(d) に示す石英ガラス基板11に関するエッチング工程では、クロム層の残存部16をマスクとして四フッ化炭素ガス(CF)を使用したドライエッチングを行うことができる。図17(c) に示す石英ガラス基板71に関するエッチング工程では、クロム層の残存部76をマスクとして同様のドライエッチングを行うことができる。
【0201】
このように、これまで述べてきた実施例では、クロム層を石英ガラス基板に対するエッチング工程におけるマスクとして利用しているため、最終的には、マスクとしての役割を終えたクロム層の残存部16,76は除去される。しかしながら、クロム層の残存部16,76は必ずしも除去する必要はなく、たとえば、図14(d) に示す石英ガラス基板11とクロム層の残存部16との2層構造からなる媒体を、そのまま原版媒体M1として利用してもかまわない。同様に、図17(c) に示す石英ガラス基板71とクロム層の残存部76との2層構造からなる媒体を、そのまま複製媒体M3として利用してもかまわない。
【0202】
§2では、図5(b) 〜(d) を参照して、情報記録媒体Mの凹部Cもしくは凸部Vまたはその双方の表面に付加層を形成した変形例を例示した。したがって、本発明に係る原版媒体M1や複製媒体M3は、必ずしも単層の石英ガラス基板によって構成する必要はなく、石英ガラス基板を含む媒体であれば、他の付加層を含んでいてもかまわない。したがって、図14(d) に示す2層構造体は、そのまま原版媒体M1として利用することができ、図17(c) に示す2層構造体は、そのまま複製媒体M3として利用することができる。
【0203】
もっとも、数百年の保存期間を想定した原版媒体M1や複製媒体M3を作成する際には、これまで述べてきた実施例のように、最終的にクロム層の残存部16,76を除去して、図14(e) に示す単層の石英ガラス基板からなる原版媒体M1や、図17(d) に示す単層の石英ガラス基板からなる複製媒体M3を作成するのが好ましい。これは、数百年の保存期間を考慮すると、金属であるクロム層は大気成分によって腐食する可能性があるためである。単層の石英ガラス基板であれば、数百年〜数千年という保存期間を想定しても、十分な堅牢性が期待できる。
【0204】
(2) 可撓性をもった原版媒体および複製媒体
§7で述べた実施例では、原版媒体作成段階で用いる第1の記録用媒体G1(図14(a) 参照)として、厚み6.35mmの石英ガラス基板10の上面にクロム層15を形成した媒体を用いているため、最終的に得られる原版媒体M1(図14(e) 参照)は十分に剛性をもった媒体になる。同様に、複製媒体作成段階で用いる第3の記録用媒体G3(図16(a) 参照)として、厚み6.35mmの石英ガラス基板70の上面にクロム層75を形成した媒体を用いているため、最終的に得られる複製媒体M3(図17(d) 参照)も十分に剛性をもった媒体になる。
【0205】
これに対して、中間媒体作成段階で用いる第2の記録用媒体G2(図15(b) 参照)としては、厚み0.1mmのPETフィルムからなる樹脂支持層65に、UV硬化性樹脂層61を、硬化後に可撓性を呈する厚みに塗布することに得られる2層構造の媒体を用いている。したがって、最終的に得られる中間媒体M2(図15(d) 参照)は可撓性をもった媒体になる。
【0206】
結局、原版媒体M1および複製媒体M3は剛性をもった媒体であり、中間媒体M2は可撓性をもった媒体になる。これは、本発明を実施する上で、最も好ましい実施形態と言える。すなわち、原版媒体M1および複製媒体M3は、本発明における本来の作成対象物(同一のデジタルデータが記録された複数枚の情報記録媒体を構成する媒体)であり、長期的な耐久性をもって情報保持を行う役割を担っている。このような役割を担う上では、一般的には、剛性をもった媒体であることが好ましい。
【0207】
これに対して、中間媒体M2は、原版媒体M1に記録されている第1の凹凸構造パターンを、一時的に第2の凹凸構造パターンとして写し取り、これを更に複製媒体M3に第3の凹凸構造パターンとして転写する役割を果たすものであり、長期的な耐久性をもって情報保持を行う役割を担うものではない。したがって、中間媒体M2は、剛体をもった媒体である必要はない。しかも、原版媒体M1および複製媒体M3を剛性をもった媒体で構成した場合、中間媒体M2は、可撓性を有する媒体とする必要がある。
【0208】
これは、中間媒体作成段階の賦形工程および複製媒体作成段階の賦形工程において、可撓性を有する中間媒体M2を湾曲させることにより媒体相互を剥離させることができるようにするためである。たとえば、図15(d) の中間媒体作成段階において、原版媒体M1から中間媒体M2を剥離する際、中間媒体M2が可撓性を有していれば、中間媒体M2を湾曲させることにより、剛体からなる原版媒体M1から容易に剥離することができる。同様に、図17(a) の複製媒体作成段階において、硬化したUV硬化性樹脂層81から中間媒体M2を剥離する際、中間媒体M2が可撓性を有していれば、中間媒体M2を湾曲させることにより、剛体からなる石英ガラス基板70上に形成されているUV硬化性樹脂層81から容易に剥離することができる。
【0209】
また、中間媒体M2が可撓性を有していれば、各段階の賦形工程において、媒体間に何らかの異物が挟まったとしても、相手方の媒体が傷つくことも避けられる。たとえば、図15(b) に示す中間媒体作成段階の圧延工程において、原版媒体M1の凹凸構造面に何らかの異物が混入して、硬化後のUV硬化性樹脂層62に当該異物が埋め込まれた状態になったとしても、図15(d) に示す剥離工程では、中間媒体M2が可撓性を有しているため、当該異物により原版媒体M1の凹凸面を傷つけることなしに剥離を行うことができる。図17(a) に示す複製媒体作成段階の剥離工程も同様である。
【0210】
結局、原版媒体M1の元になる第1の記録用媒体G1および複製媒体M3の元になる第3の記録用媒体G3を「第1属性媒体」と呼び、中間媒体M2の元になる第2の記録用媒体G2を「第2属性媒体」と呼べば、「第1属性媒体」は、長期的な耐久性をもって情報保持を行う役割を担う媒体であり、「第2属性媒体」は、凹凸構造パターンを転写する役割を担う媒体ということになる。そこで、これまで述べてきた実施例では、第1属性媒体として、剛性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体として可撓性を有する媒体を用いており、その結果、剛性を有する原版媒体M1および剛性を有する複製媒体M3の作成が行われることになる。
【0211】
もっとも、原版媒体M1および複製媒体M3としては、可撓性を有する媒体を用いることも可能である。上述したとおり、一般的には、長期的な耐久性をもって情報保持を行うための媒体としては、剛性をもった媒体が好ましいと考えられる。ただ、過度の物理的応力が加わる事態を考慮すると、剛性をもった媒体よりは、むしろ可撓性をもった媒体の方が高い耐久性を示す場合もありうる。このような観点では、原版媒体M1および複製媒体M3として、可撓性を有する媒体を用いてもよい。
【0212】
前述した実施例では、第1の記録用媒体G1および第3の記録用媒体G3として、厚み6.35mmの石英ガラス基板にクロム層を形成した媒体を用いている。このような厚みの媒体は十分に剛性をもった媒体になるが、石英ガラス基板であっても、厚みを350 μm以下にすると可撓性を呈するようになる。したがって、このような可撓性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を用いるようにすれば、可撓性を有する原版媒体M1および複製媒体M3を作成することも可能である。
【0213】
すなわち、第1属性媒体(第1の記録用媒体G1および第3の記録用媒体G3)として、可撓性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体(第2の記録用媒体G2)として剛性を有する媒体(たとえば、上例のPETフィルムの代わりに、合成樹脂板を用いる)を用いるようにすれば、可撓性を有する原版媒体M1および可撓性を有する複製媒体M3を作成することができる。この場合、中間媒体M2が剛性をもった媒体になるので、剥離工程では、中間媒体M2の相手方の可撓性媒体を湾曲させることにより媒体相互を剥離させることになる。
【0214】
もちろん、すべての媒体を可撓性媒体にしてもかまわない。すなわち、第1属性媒体(第1の記録用媒体G1および第3の記録用媒体G3)として、可撓性を呈する厚みをもった石英ガラス基板を含む媒体を用い、第2属性媒体(第2の記録用媒体G2)としても、やはり可撓性を有する媒体(たとえば、上例のようにPETフィルムを用いた媒体)を用いるようにすれば、可撓性を有する原版媒体M1を作成し、更に、可撓性を有する中間媒体M2を用いることにより、可撓性を有する複製媒体M3を作成することができる。
【0215】
要するに、本発明を実施する上では、第1属性媒体(第1の記録用媒体G1と第3の記録用媒体G3)および第2属性媒体(第2の記録用媒体G2)のうちの少なくとも一方が可撓性を有する媒体となるようにし、中間媒体作成段階の賦形工程および複製媒体作成段階の賦形工程において、可撓性を有する媒体を湾曲させることにより媒体相互を剥離させるようにすればよい。
【0216】
(3) ビット図形の記録方法
図14(e) に示す原版媒体M1では、凹凸構造面を構成する凹部Cがビット”1”を示し、凸部Vがビット”0”を示しており、上面に”10110”なるデジタルデータを示す凹凸構造パターンが形成されている。図17(d) に示す複製媒体M3についても同様である。この”10110”なるデジタルデータは、図2の単位ビット行列B(U1)の2行目のデータに対応するものであり、図3に示す単位記録用図形パターンR(U1)の横方向格子線X3と縦方向格子線Y2〜Y6との交点に定義された5つの格子点Lに記録されたデータである。
【0217】
図3に示す例の場合、各格子点Lの位置に太線の正方形で示すビット図形Fが配置されている場合はビット”1”を示し、ビット図形Fが配置されていない場合はビット”0”を示すことになる(もちろん、その逆の定義を行ってもかまわない)。そして、図14(e) や図17(d) に示す例は、原版媒体M1や複製媒体M3の凹凸構造面上において、ビット図形Fの内部を凹部Cで表し、外部を凸部Vで表した例ということになる。別言すれば、原版媒体M1や複製媒体M3の凹凸構造面を観察すると、図3に示すパターンにおいて、太線で囲ったビット図形Fおよび位置合わせマークQ1〜Q4の内部が凹部Cになっており、外部が凸部Vになっている。
【0218】
もちろん、変形例として、この凹部Cと凸部Vの関係を逆転させた原版媒体M1や複製媒体M3を作成することも可能である。そのような変形例に係る原版媒体M1や複製媒体M3の凹凸構造面を観察すると、ビット図形Fおよび位置合わせマークQ1〜Q4の内部が凸部Vになっており、外部が凹部Cになる。
【0219】
このように、理論的には、原版媒体M1や複製媒体M3の凹凸構造面上において、個々のビット図形Fの内部が凹部、外部が凸部となるようにしてもよいし、逆に、ビット図形F(および位置合わせマークQ1〜Q4)の内部が凸部、外部が凹部となるようにしてもよい。しかしながら、実用上は、これまで述べた実施例のように、個々のビット図形F(および位置合わせマークQ1〜Q4)の内部が凹部、外部が凸部となる原版媒体M1が形成されるように、ビーム露光段階の描画およびパターニング段階のパターニング処理を行うようにするのが好ましい(必然的に、同様の複製媒体M3が形成されることになる)。
【0220】
これは、ビット図形F(および位置合わせマークQ1〜Q4)の内部を凹部として表現すれば、媒体の破損に起因して誤ったデータが読み出される可能性を低減するメリットが得られるためである。その理由は、図3において、太線の正方形で示されている各ビット図形Fの内部が凸部として紙面の上方に突き出していた場合と、逆に凹部として紙面の下方に窪んでいた場合とについて、媒体の破損に対して、いずれの耐久性が高いかを考えれば理解できる。
【0221】
まず、前者の場合、すなわち、各ビット図形Fの内部が凸部として上方に突き出していた場合、この凹凸構造面に何らかの物理的な衝撃が加わると、凸部については、物理的な力が加わりやすいため、凹部に比べて破損しやすいと考えられる。したがって、もし、このビット図形F内部の凸部が損傷し、格子点Lの位置の高さが失われることになると、誤ったデータが読み出されることになる。
【0222】
§3で述べたとおり、データの読出しは、各格子点Lの位置に、ビット図形Fが存在するか否かを判定する処理によって行われる。図3に示す例の場合、各格子点Lの位置に、ビット図形Fが存在すればビット”1”と解釈され、ビット図形Fが存在しなければビット”0”と解釈される。したがって、上例の場合、ビット図形F内部の凸部が損傷し、格子点Lの位置の高さが失われると、本来はビット”1”(ビット図形Fが存在する)と解釈されるべきところ、誤ってビット”0”(ビット図形Fが存在しない)と解釈されることになる。
【0223】
これに対して、後者の場合、すなわち、各ビット図形Fの内部が凹部として下方に窪んでいた場合、この凹凸構造面に何らかの物理的な衝撃が加わっても、凹部自体には物理的な力が加わりにくく、損傷しにくい。実際には、凹部の周囲を構成する境界壁(図3の太線の正方形の輪郭部分)に物理的な力が加わることになるので、この境界壁が破損する可能性はある。ただ、境界壁が破損したとしても、図3に示す太線の正方形の形状が若干外側に広がるだけであり、格子点Lの位置(凹部の底)の高さが変化するわけではない。
【0224】
したがって、ビット”1”を凹部として記録しておけば、境界壁が破損しても、格子点Lの位置(凹部の底)は依然として凹部として認識され、正しいビット”1”の読出しが行われる。一方、ビット”0”を示す格子点Lの位置は、凸部ではあるが、周囲とともに平坦な平面を構成している面であるため、物理的な力の作用によって、その位置が窪むような損傷を受ける可能性は低い。
【0225】
このような理由から、実用上は、これまで述べてきた実施例のように、原版媒体M1や複製媒体M3の凹凸構造面には、個々のビット図形Fの内部が凹部、外部が凸部となるような記録を行うのが好ましい。この場合、中間媒体M2の凹凸構造面上では、凹凸が逆転して、個々のビット図形Fの内部が凸部、外部が凹部となるが、そもそも中間媒体M2は長期保存の役割を果たすものではないので問題は生じない。
【0226】
(4) 中間媒体M2の材質
§7では、PETフィルムとUV硬化性樹脂層との2層構造体によって中間媒体M2を構成する例を述べた。本発明における中間媒体M2は、原版媒体M1の表面に形成された第1の凹凸構造パターンを利用した賦形工程により、当該第1の凹凸構造パターンの凹凸関係を反転させた第2の凹凸構造パターンを表面に形成した媒体であればよい。したがって、本発明に用いる中間媒体M2は、上例の2層構造体に限定されるものではない。ここでは、この中間媒体M2の材質に関する変形例を述べておく。
【0227】
まず、中間媒体M2を構成する樹脂支持層としては、上例のPET(ポリエチレンテレフタレート)の代わりに、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリオレフィン、シクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、セルロースアシレートなどの組成からなるフィルムを用いることができる。もちろん、これらのフィルムを積層した積層構造物を用いるようにしてもよい。
【0228】
また、UV硬化性樹脂としては、たとえば、重合性モノマーとして、アクリレートモノマー、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどを用い、光重合開始剤として、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系などの材料を利用したラジカル重合型樹脂を用いることができる。
【0229】
あるいは、重合性モノマーとして、ビニルエーテルモノマー、ビニルエーテルオリゴマー、グリシジルエーテルエポキシ、脂環式エポキシなどを用い、光重合開始剤として、ヨードニウム系、スルホニウム系などの材料を利用したカチオン重合型樹脂をUV硬化性樹脂として用いることもできる。
【0230】
樹脂支持層としては、石英ガラス,ソーダライムガラスなどのガラスや、アルミニウム,ニッケル,鉄,SUSなどの金属を用いることも可能である。但し、剥離時に湾曲するように可撓性をもたせた中間媒体M2を作成するためには、樹脂支持層の厚みは、可撓性が得られる程度に薄くしておく必要がある。
【0231】
なお、上述したガラスや金属などの硬い層を樹脂支持層として用いる場合は、樹脂層の厚みを十分に厚くしておくのが好ましい。これは、中間媒体作成段階や複製媒体作成段階の賦形工程において、媒体間に何らかの異物が挟まった場合、樹脂支持層がガラスや金属などの硬い層からなり、しかも樹脂層が薄いと、当該異物により相手方の媒体が傷つく可能性があるためである。樹脂層を十分に厚くしておけば、挟まった異物に起因して生じる応力を樹脂層で吸収することができるため、媒体を傷つけるおそれはなくなる。
【0232】
<<< §9. 石英ガラス基板を用いる利点 >>>
これまで述べてきたとおり、本発明では、石英ガラス基板を含む媒体(単層の石英ガラス基板や、その上にクロム層を付加した媒体)に対して、デジタルデータを凹凸構造パターンとして記録する手法を採っており、本発明によって作成される原版媒体M1および複製媒体M3は、石英ガラス基板を含む媒体によって構成されることになる。もちろん、理論的には、石英ガラス基板の代わりにシリコン基板などを用いてもデジタルデータの記録は可能である。しかしながら、実用上は、これまで述べてきたように、石英ガラス基板を含む媒体を用いるのが好ましい。そこで、以下、原版媒体M1および複製媒体M3として、石英ガラス基板を含む媒体を用いる利点を述べておく。
【0233】
ここで、石英ガラス基板とは、組成SiOによって構成される基板であり、実質的に不純物を含まないものを指している。一般的に用いられているガラスは、SiOに様々な不純物を添加した組成からなり、石英ガラスに比べて割れやすく、耐熱性、耐腐食性、透明性も低下する。本願発明者が知る限り、石英ガラス基板は、本発明に係る工程でデジタルデータを記録し、長期保存するための媒体として最適なものである。
【0234】
既に述べたとおり、現在一般に利用されている情報記録媒体は、数百年〜数千年といった長い時間尺度で情報を後世に残すためには不適切である。たとえば、一般的なマイクロフィルムの原料となるセルロースアセテートは、その寿命が30年以下とされている。もちろん、保管環境によって寿命は増減するが、温度や湿度の変化によって材料の分解が生じるものとされ、表面に酢酸が生成されてデータの読出しが不可能となるビネガーシンドロームという現象が問題となっている。これを改善するため、材料としてポリエステルを使用すると、寿命を500年程度まで延ばすことが可能とされているが、そのためには、ISO 18901:2002やJIS Z 6009:2011といった規格で定められた厳格な環境下で保存を行う必要があり、保護環境が常にリスク要因となることに変わりはない。
【0235】
一方、半導体を用いた記憶装置も、その寿命は限られている。たとえば、フラッシュメモリに代表されるEEPROMの場合、記憶の保持は、フローティングゲートへの電荷の保持によってなされることになるが、その保持時間は、保護環境によって大きく左右される。また、書込処理を繰り返し行うと、絶縁層が損傷し、電荷が保持できなくなるという問題も有している。これに対して、ROMは、比較的長寿命な半導体メモリであるが、後にその複製を作成することが非常に困難である。すなわち、複製が必要になった場合、元のROMから読み出したデジタルデータに基づいて、再度、新たなROMを製造するプロセスを行う必要があるが、ROMの製造には多大な費用がかかる。このため、ROMは、一般的なデジタルデータの記録媒体としては不適切である。
【0236】
ハードディスク装置は、コンピュータで用いるデジタルデータの保存装置として普及しており、情報の複製も容易であるが、その寿命は数年程度である。これは、ハードディスク装置は、磁気に弱く、複数の部品で構成されているため、不具合が生じるリスクが高いという欠点を有しているためである。実際、磁気ディスクの駆動を円滑にするためのグリース、駆動制御を行う半導体チップ、磁気ヘッドやサスペンションなどの機械部品など、それぞれ寿命をもつ部品の集合体から構成されているため、故障のリスクを避けることはできない。このため、信頼性が必要な情報保存を行うためには、冗長性を付加したRAIDシステムなどを構築することが前提となり、長期保存には、定期的に装置交換を行うなどのメインテナンスも必要になる。
【0237】
更に、上述した従来の情報記録媒体には、いずれも耐火性や耐熱性が低いという共通した問題がある。たとえば、ISO834には、発生から60分後に約930°Cに達する火災条件が規定されているが、このような高温では、マイクロフィルムは溶解し、磁性体は消磁され、金属は流動を引き起こすことになるので、上述した既存の媒体で情報を保持しつづけることは不可能である。
【0238】
このような事情を考慮すると、石英ガラス基板が、本発明に係る工程でデジタルデータを記録し、長期保存するための媒体として最適であることがわかる。まず第1に、石英ガラスは極めて高い耐熱性を有しているため、本発明で作成した原版媒体M1や複製媒体M3を1000°Cを超える環境下においたとしても、凹凸構造として記録した情報はそのまま保持され、支障なく読出しが可能である。また、耐熱性が高いため、硬化前のUV硬化性樹脂として、高温の溶融状態の樹脂を接触させたとしても問題は生じない。
【0239】
一般に、石英ガラスの熱膨張係数は、1×10−7〜6×10−7/K程度の低い値とされており、熱膨張による割れが生じにくい材質である。そのため、急激な温度変化による熱衝撃の影響を受けにくく、急熱や急冷による割れは生じにくい。また、酸化物であるため、大気中で加熱されても化学的構造が変化することもないので、化学的構造変化に起因した体積膨張により、凹凸構造が歪められることもない。
【0240】
実際、本願発明者は、約700min の時間をかけて、本発明に係る原版媒体M1や複製媒体M3を、1170°Cまで徐々に熱してから冷却する実験を行い、記録したデジタルデータの読み出しを試みたところ、データは支障なく読み出すことができた。また、光学顕微鏡を用いて、凹凸構造の観察を行ったが、実験前後の媒体を比較しても、有意な差は認められなかった。したがって、本発明に係る方法で作成された媒体は、ISO834に規定する火災に遭遇した場合でも、支障なく情報を保存する機能を果たすことができる。
【0241】
また、石英ガラスは、極めて高い耐腐食性を有しており、硫酸浴に浸しても腐食することはない。実際、石英を腐食することができる材料はアルカリとフッ酸のみであり、これ以外の材料によって腐食を受けることはない。フッ酸は、工業的には、蛍石(フッ化カルシウム)に硫酸を混合して製造しているが、自然界には存在しない化合物である。このため、石英ガラス基板は、数百年〜数千年といった長い時間尺度で情報を後世に残すことが可能である。
【0242】
このような高い耐腐食性は、用いる洗浄剤の自由度を高めるという利点も与えることになる。たとえば、石英ガラス基板にアルカリやアルカリ土類金属が付着した状態で高温に達すると、結晶化が進み、石英ガラス基板に亀裂が生じる可能性がある。また、中間媒体作成段階や複製媒体作成段階において、石英ガラス基板に樹脂などが付着する場合もある。したがって、石英ガラス基板の表面は、必要に応じて洗浄を行うようにするのが好ましいが、石英ガラスは耐腐食性が高いため、水だけでなく、酸や有機溶媒など、多様な洗浄剤を用いた洗浄が可能になる。
【0243】
更に、石英ガラスは、紫外線やX線などの電磁波に対しても高い耐性を有しており、これらの電磁波を受けても変質することはない。石英ガラスは、ガンマ線の照射により変質するおそれがあるが、少なくとも自然界に存在する電磁波や、人為的に照射されるX線(たとえば、空港での手荷物検査等で照射される可能性がある)の照射により変質する可能性はない。
【0244】
なお、§8(1) では、変形例として、石英ガラス基板の上面にクロム層の残存部16,76をそのまま残す例を述べたが、クロムは酸による腐食を受けてしまうため、数百年〜数千年といった長期間にわたる保存を意図している場合には、クロム層を除去し、単層の石英ガラス基板によって原版媒体M1や複製媒体M3を作成するのが好ましい。
【0245】
更に、石英ガラスは、高い透明性を有しており、中間媒体作成段階や複製媒体作成段階において、光の照射により硬化する性質をもった樹脂を用いる場合でも、石英ガラス基板を通した光の照射が可能になる、という利点がある。上述した実施例に用いた石英ガラス基板(厚み6.35mm)の場合、波長260〜1000nmの広い波長域にわたって、90%以上の光透過率を呈する(たとえば、波長650nmの光の透過率が94.3%、波長300nmの光の透過率が93.5%である)。したがって、UV硬化性樹脂を硬化させるために紫外線UVを照射する際に、石英ガラス基板を通して照射を行ったとしても、樹脂層に効率的に光照射を行うことが可能である。また、広い波長域にわたって高い透過率を呈するため、光吸収による発熱も少なく、熱の発生による各工程への悪影響も低く抑えることができる。
【0246】
以上、原版媒体M1や複製媒体M3として、石英ガラス基板を含む媒体を用いるのが好ましい理由を説明した。また、実用上は、原版媒体M1や複製媒体M3として、剛体を呈する厚みをもった石英ガラス基板を用いるのが好ましいことも、§8(2) で説明した。これに対して、これまで述べた実施例で用いられている中間媒体M2は、これら原版媒体M1や複製媒体M3とは全く逆の特徴を有する媒体ということになる。
【0247】
§7では、厚みが0.1mmのPETフィルムとUV硬化性樹脂層との2層構造体を中間媒体M2として用いる例を述べた。このような中間媒体M2は、可撓性を有しているため、剛体からなる原版媒体M1や複製媒体M3を作成する際の剥離工程において、媒体を湾曲させることにより容易に剥離が可能になる利点がある点も、既に述べたとおりである。
【0248】
また、このような材質からなる中間媒体M2は、耐熱性や耐腐食性に乏しく、加熱により溶融し、酸などによって変質する。したがって、上記中間媒体M2は、長期間の保存には適していないことになるが、本発明を実施する上では、その方がむしろ好都合である。なぜなら、中間媒体M2に形成されている凹凸構造は、原版媒体M1や複製媒体M3に形成されている凹凸構造を反転させたものであるため、保存対象となるデジタルデータを正しく記録した情報にはなっていないためである。
【0249】
もちろん、凹凸構造が反転していることを認識した上であれば、中間媒体M2から情報の読み出しを行うことは可能である。しかしながら、数百年〜数千年といった長い時間尺度で情報を後世に残すための媒体として捉えた場合、反転した凹凸構造を有する中間媒体M2が残っていると、混乱を招く可能性があり好ましくない。このような観点では、中間媒体M2は、耐熱性や耐腐食性に乏しい材料で構成し、容易に廃棄できるようにしておくのが好ましい。実際、上述したPETフィルムとUV硬化性樹脂層とによって構成された中間媒体M2は、熱で変形し、酸に溶けるため、廃棄処分を行うには適している。
【0250】
<<< §10. 位置合わせマークの更に別な実施例 >>>
最後に、本発明に係る情報記録媒体の作成方法における位置合わせマークの形成方法について、更にいくつかの実施例を述べておく。図2の最下段には、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を二次元行列状に配置することにより生成された描画用パターンP(E)の例が示されている。図18(a) ,(b) は、この図2に示す描画用パターンP(E)の変形例を示す平面図である。なお、図18(a) ,(b) では、説明の便宜上、ビット”1”を小さな黒い正方形で示し、ビット”0”を小さな白い正方形で示しているが、実際には、小さな白い正方形は実在パターンとしては描画されない。
【0251】
図18(a) に示す変形例は、図2に示す例と同様に、4組の単位記録用図形パターンを二次元行列状に配置したものである。図に破線で囲われた4組の正方形の領域は、それぞれ単位記録領域Au(U1)〜Au(U4)であり、これらの領域の内部には、それぞれ単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)が配置されている。また、各単位記録領域Au(U1)〜Au(U4)の中央部分には、それぞれビット記録領域Ab(U1)〜Ab(U4)が設けられ、小さな白黒の正方形を5行5列に配置した単位ビット図形パターンが配置されている。また、各ビット記録領域Ab(U1)〜Ab(U4)の周囲4隅には、十文字状の位置合わせマークQが配置されている。
【0252】
この図18(a) に示す変形例は、図2に示す例と比べて、十文字状の位置合わせマークQがかなり大きく目立つ存在になっている。図2に示す例の場合、十文字状の位置合わせマークQは、個々のビットを示す小さな正方形とほぼ同じ大きさになっている。図3に示す例も同様である。これに対して、図18(a) に示す例では、位置合わせマークQがかなり大きな十文字状のマークに設定されており、図12に示す情報読出処理におけるビット記録領域認識段階S23を実行する際に、位置合わせマークQの認識がより容易に行えるようになっている。
【0253】
このように、位置合わせマークQの形状、サイズ、配置は、情報読出処理の便宜を考慮して任意に設定することができる。たとえば、形状に関しては、図9に例示するような様々なバリエーションを採用することができる。また、サイズに関しては、情報読出時の認識を容易にするためには、図18(a) に示すように、できるだけ大きな位置合わせマークQを用いるのが好ましいが、情報記録密度を高めるためには、図2に示すように、できるだけ小さな位置合わせマークQを用いるのが好ましい。一方、配置に関しても、特に制約はないが、個々のビット図形と混同するおそれを排除するためには、ビット記録領域Abの外側に配置するのが好ましい。なお、図3には、4つの位置合わせマークQ1〜Q4を格子線X1,X7,Y1,Y7の上に配置した例を示したが、各位置合わせマークQとビット図形との位置関係を定めておけば、各位置合わせマークQは、必ずしも格子線上に配置する必要はない。
【0254】
一方、図18(b) に示す変形例は、複数の単位記録領域を上下左右に一部重畳させて配置することにより、共通の位置合わせマークを形成するようにした例である。具体的には、図18(b) には、正方形状をした4組の単位記録領域Au(U1)〜Au(U4)を上下左右に一部重畳させて二次元行列状に配置することにより、4組の単位記録用図形パターンを含んだ描画用パターンを生成した例が示されている。なお、図に示されている各矢印dx1〜dx4およびdy1〜dy4は、各単位記録領域Au(U1)〜Au(U4)の縦横の寸法を示すためのものであり、描画用パターンを形成する要素ではない。
【0255】
まず、第1の単位記録領域Au(U1)は、横寸法dx1、縦寸法dy1をもった正方形状の領域であり、中央部分には、ビット記録領域Ab(U1)が配置されており、その4隅には位置合わせマークQ1,Q2,Q4,Q5が配置されている。このような基本構成は、図18(a) に示す第1の単位記録領域Au(U1)と同じである。また、第2の単位記録領域Au(U2)は、横寸法dx2、縦寸法dy2をもった正方形状の領域であり、中央部分には、ビット記録領域Ab(U2)が配置されており、その4隅には位置合わせマークQ2,Q3,Q5,Q6が配置されている。このような基本構成は、図18(a) に示す第1の単位記録領域Au(U2)と同じである。
【0256】
同様に、第3の単位記録領域Au(U3)は、横寸法dx3、縦寸法dy3をもった正方形状の領域であり、中央部分には、ビット記録領域Ab(U3)が配置されており、その4隅には位置合わせマークQ4,Q5,Q7,Q8が配置されている。このような基本構成は、図18(a) に示す第3の単位記録領域Au(U3)と同じである。また、第4の単位記録領域Au(U4)は、横寸法dx4、縦寸法dy4をもった正方形状の領域であり、中央部分には、ビット記録領域Ab(U4)が配置されており、その4隅には位置合わせマークQ5,Q6,Q8,Q9が配置されている。このような基本構成は、図18(a) に示す第4の単位記録領域Au(U4)と同じである。
【0257】
この図18(b) に示す変形例の特徴は、左右に隣接配置された単位記録領域Au(U1),Au(U2)が一部重畳して配置されており(矢印dx1,dx2の重畳区間)、左右に隣接配置された単位記録領域Au(U3),Au(U4)が一部重畳して配置されている(矢印dx3,dx4の重畳区間)点と、上下に隣接配置された単位記録領域Au(U1),Au(U3)が一部重畳して配置されており(矢印dy1,dy3の重畳区間)、上下に隣接配置された単位記録領域Au(U2),Au(U4)が一部重畳して配置されている(矢印dy2,dy4の重畳区間)点である。その結果、重量領域において、左右の単位記録領域もしくは上下の単位記録領域に共通して利用可能な位置合わせマークを配置することが可能になる。
【0258】
具体的には、図18(b) に示す例の場合、左右に隣接配置された一対の単位記録領域Au(U1),Au(U2)の重量領域には、位置合わせマークQ2,Q5が配置されているが、これらの位置合わせマークQ2,Q5は、左側の単位記録領域Au(U1)の右端に包含される位置合わせマークでもあり、右側の単位記録領域Au(U2)の左端に包含される位置合わせマークでもあり、左右共通の位置合わせマークになっている。また、左右に隣接配置された一対の単位記録領域Au(U3),Au(U4)の重量領域には、位置合わせマークQ5,Q8が配置されているが、これらの位置合わせマークQ5,Q8は、左側の単位記録領域Au(U3)の右端に包含される位置合わせマークでもあり、右側の単位記録領域Au(U4)の左端に包含される位置合わせマークでもあり、左右共通の位置合わせマークになっている。
【0259】
同様に、上下に隣接配置された一対の単位記録領域Au(U1),Au(U3)の重量領域には、位置合わせマークQ4,Q5が配置されているが、これらの位置合わせマークQ4,Q5は、上側の単位記録領域Au(U1)の下端に包含される位置合わせマークでもあり、下側の単位記録領域Au(U3)の上端に包含される位置合わせマークでもあり、上下共通の位置合わせマークになっている。また、上下に隣接配置された一対の単位記録領域Au(U2),Au(U4)の重量領域には、位置合わせマークQ5,Q6が配置されているが、これらの位置合わせマークQ5,Q6は、上側の単位記録領域Au(U2)の下端に包含される位置合わせマークでもあり、下側の単位記録領域Au(U4)の上端に包含される位置合わせマークでもあり、上下共通の位置合わせマークになっている。
【0260】
このように、複数の単位記録領域を上下左右に一部重畳させて配置し、重畳部分に共通の位置合わせマークを形成するようにすれば、位置合わせマークの総数を低減させることができるようになるので、情報記録密度を向上させることができる。実際、図18(a) に示す例と図18(b) に示す例とを比較すると、ビット記録領域Abの占有面積比率は、前者より後者の方が向上しており、情報記録密度の向上に寄与できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0261】
本発明に係る情報記録媒体の作成方法は、文字情報、画像情報、動画情報、音声情報などの様々なデジタルデータを、数十年といった非常に長い時間尺度で恒久的に保存する用途に利用可能である。
【要約】
長期的な耐久性をもって情報保持が可能な複数の媒体上に、高集積度をもって同一のデジタルデータを記録する。データのビット情報を示す微細な図形パターンを、石英ガラス基板上のレジスト層にビーム露光によって描画して現像し、残存部をマスクとするエッチングにより、微細な凹凸構造をもつ石英ガラス基板からなる原版媒体(M1)を作成する(図(a) )。原版媒体(M1)に記録されている凹凸構造を、UV硬化性樹脂層(61)が形成された可撓性記録媒体(G2)に賦形転写して中間媒体(M2)を作成する(図(b) 〜(d) )。中間媒体(M2)に転写された反転凹凸構造を、UV硬化性樹脂層(80)が形成された石英ガラス基板(70)からなる記録媒体(G3)に賦形転写して、原版媒体(M1)と同一の凹凸構造をもつ複製媒体(M3)を作成する(図(e) 〜(h) )。賦形転写時には、中間媒体(M2)の可撓性を利用して、媒体同士を剥離する。
【選択図】図1
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