特許第6241582号(P6241582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6241582鋼板の冷間圧延方法および鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6241582
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】鋼板の冷間圧延方法および鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/22 20060101AFI20171127BHJP
   B21B 27/10 20060101ALI20171127BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B21B1/22 L
   B21B27/10 B
   B21B45/02 310
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-546746(P2017-546746)
(86)(22)【出願日】2017年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2017023155
【審査請求日】2017年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-160977(P2016-160977)
(32)【優先日】2016年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松原 行宏
(72)【発明者】
【氏名】福島 達人
(72)【発明者】
【氏名】長井 優
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−239430(JP,A)
【文献】 特開平03−151106(JP,A)
【文献】 特開2013−099757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00−11/00
B21B 27/00−27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延油を循環して供給する方式のタンデム圧延機により、鋼板を冷間圧延するに際し、
下記(1)式で計算される最終スタンドでのロールバイト導入油膜厚h、最終スタンドのワークロール粗さRN、及び、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さRN-1で表される下記(2)式の数値が0.5以上となるように圧延油を前記タンデム圧延機に供給することを特徴とする鋼板の冷間圧延方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
前記最終スタンドのワークロール粗さRNを0.03μmRa以上0.15μmRa以下、および/または、前記最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さRN-1を0.03μmRa以上0.25μmRa以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の冷間圧延方法。
【請求項3】
前記タンデム圧延機最終スタンドの入側に、圧延油を循環供給する圧延油循環系統とは別の圧延油供給系統を設置し、該別の圧延油供給系統から、前記圧延油循環系統よりも高濃度の圧延油を前記タンデム圧延機に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の冷間圧延方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板の冷間圧延方法を用いて、鋼板を製造することを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の冷間圧延方法および鋼板の製造方法に関するものである。特に、板厚精度に優れた電磁鋼板を高能率で製造するのに好適な鋼板の冷間圧延方法および鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は回転機などの電気機器の鉄心材料として使用される。近年、電気機器の省エネルギーの観点より、より鉄損が低く、より磁束密度が高い電磁鋼板が求められるようになっており、電磁鋼板の磁気特性の向上がますます重要になっている。また、電磁鋼板は、通常、所定の形状に打ち抜いた後にそれらを積層して、鉄心として使用される。積層して鉄心として使用する際に、製品の板厚バラツキが大きいと、鉄心としての特性が劣化するため、磁気特性と同等に高い板厚精度が求められおり、電磁鋼板は缶用鋼板や自動車用鋼板などに比べ、板厚精度に対する要求は厳しい。
【0003】
ところで、従来から、板厚を薄くすることにより、電磁鋼板の磁気特性が向上することが知られており、近年、電磁鋼板の薄物化がますます進展している。冷間圧延で板厚を薄くしようとすると、その分、生産能率が低下するので、生産性を維持するためには、圧延速度を早くする必要がある。また、板厚が薄くなると、積層する際の積み数も多くなるので、板厚バラツキが鉄心特性に及ぼす影響もより大きくなる。具体的には、3μmを超える板厚変動が発生すると、鉄心の特性が劣化することが確認されている。
【0004】
以上のように、電磁鋼板の磁気特性向上に対して、従来に比べ、より薄物を、優れた板厚精度で冷間圧延する必要がある。この際、生産性の観点から、より高速で圧延する必要があり、冷間圧延に求められる技術レベルは益々高いものになっている。
【0005】
鋼板を高速で圧延するすなわち高能率で冷間圧延するには、複数スタンドの圧延機からなるタンデム圧延機を用いて圧延することが好ましい。しかしながら、冷間タンデム圧延では、薄物・硬質材を高速で圧延すると、チャタリングと呼ばれるミル振動が生じ、板厚が周期的に変動する現象が生じ易くなることが知られている。チャタリングの発生原因は、潤滑不良に起因する場合が多いことが報告されており、例えば、缶用鋼板などでは、このようなチャタリング現象が起きないよう、特許文献1や特許文献2のように、摩擦係数を適正な範囲内に制御する方法が開示されている。
【0006】
ところで、益々厳格な製品要求に応えるため、冷間タンデム圧延機のミルハウジングなどにチャタリングを検出するミル振動計を設置する場合が増えている。このような振動計を設置することにより、微小な板厚振動を検出することが可能となり、板厚精度の低い製品の流出を防止することができるだけでなく、チャタリングを検知し、鋼帯破断などの大きなトラブルとなる前に、圧延速度を減速するなどの対応をとり、破断を回避することも可能となる。
【0007】
しかしながら、電磁鋼板では、先に述べたように、高い板厚精度が要求されており、振動計などで検出できない微小な板厚変動の場合も、鉄心の特性を劣化させてしまう。このため、特許文献1や2に記載の方法のように、摩擦係数を検出してチャタリング制御する方法では、電磁鋼板で要求される厳格な板厚精度を完全に抑制することは困難である。
【0008】
特許文献3には、ミルハウジングに振動計を設置し、その振動を周波数解析することにより、チャタリングを検出する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、チャタリングに起因する板厚精度の低い製品が下工程に流出することを抑制することは可能であるが、板厚精度の優れた製品を製造することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6-13126号公報
【特許文献2】特許第3368841号公報
【特許文献3】特開2015-9261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、板厚精度に優れた鋼板を高能率で冷間圧延する方法および製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、タンデム圧延機で鋼板を冷間圧延する際の、板厚変動とワークロール粗さの関係に着目した。その結果、最終スタンドのワークロール粗さ、および/または、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを所定の粗さ範囲とすることにより、板厚変動を3μm以下に抑制できることを知見した。また、高濃度の圧延油をタンデム圧延機に供給することにより、板厚変動を抑制できることも見出した。すなわち、タンデム圧延機により鋼板を冷間圧延するに際し、最終スタンドのワークロール粗さ、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さ、および、圧延油(導入油)、これらを制御することで板厚変動が抑えられ、板厚精度に優れた鋼板を高能率で製造することが可能となることを知見し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]圧延油を循環して供給する方式のタンデム圧延機により、鋼板を冷間圧延するに際し、下記(1)式で計算される最終スタンドでのロールバイト導入油膜厚h、最終スタンドのワークロール粗さRN、及び、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さRN-1で表される下記(2)式の数値が0.5以上となるように圧延油を前記タンデム圧延機に供給することを特徴とする鋼板の冷間圧延方法。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
[2]前記最終スタンドのワークロール粗さRNを0.03μmRa以上0.15μmRa以下、および/または、前記最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さRN-1を0.03μmRa以上0.25μmRa以下とすることを特徴とする上記[1]に記載の鋼板の冷間圧延方法。
[3]前記タンデム圧延機最終スタンドの入側に、圧延油を循環供給する圧延油循環系統とは別の圧延油供給系統を設置し、該別の圧延油供給系統から、前記圧延油循環系統よりも高濃度の圧延油を前記タンデム圧延機に供給することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の鋼板の冷間圧延方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の鋼板の冷間圧延方法を用いて、鋼板を製造することを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、板厚精度に優れた鋼板を高能率で冷間圧延し製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述したように、高濃度の圧延油をタンデム圧延機に供給することにより板厚変動を抑制することを、本発明の重要な要件の一つとする。例えば、別の圧延油供給系統からの高濃度の圧延油をタンデム圧延機(最終スタンド)に供給することで、最終スタンド、および、最終スタンドの1つ前のスタンドの圧延荷重を低くし、鋼板で発生する微小な板厚変動を抑制する。さらには、最終スタンドのワークロール粗さ、および/または、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを所定の範囲内に規定する。これも、本発明において重要な要件である。
【0018】
まずは、本発明において、最終スタンドのワークロール粗さ、及び、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを限定するに至った実験結果について説明する。
5スタンドからなるタンデム圧延機にて、板厚2.0mmの電磁鋼板を仕上げ厚0.25mmまで、圧延速度(最終スタンド出側の板速度)700mpmで冷間圧延し、板厚変動の発生状況を調査した。圧延油には、エステルを基油とする20cStの圧延油を濃度3%で使用した。この際、ワークロールの目標粗さを表1に示すように設定した。#4std.(4つ目のスタンドであり最終スタンドの1つ前のスタンド)を0.10μmRa、0.20μmRaの2水準、#5std.(5つ目のスタンドであり最終スタンド)を0.05μmRa、0.10μmRaの2水準で組み合わせ、それぞれの条件で10〜20コイルを圧延し、板厚変動を調査した。鋼板長手方向中央かつ板幅中央である箇所について長手方向500mmの板厚変動をダイヤルゲージで測定し、3μm以上の変動がある場合を板厚不良とした。得られた結果を表1に示す。
表1に示すように、#4std.、#5std.ともにワークロール粗さが小さい条件において、板厚変動が発生していないことが分かる。最終スタンドのワークロール粗さは小さければ小さいほど、圧延荷重は低下し、板厚変動抑制には有効と考えられる。また、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さは、鋼板表面に転写して、最終スタンド入側の鋼板表面粗さを小さくするため、最終スタンドの圧延荷重を小さくする効果により、板厚変動を抑制していると考えられる。
【0019】
次に、上記において、板厚変動の発生した#4std.、#5std.のワークロール粗さの組み合わせの場合に対し、別の圧延油供給系統(表1においては第2圧延油系統)から濃度8%(圧延油を循環供給する圧延油循環系統の圧延油濃度は3%)の圧延油を#5std.のワークロールに供給(導入)して同様の圧延を行い、板厚変動の調査を行った。ここで、板厚変動の調査を行うに際し、圧延油の供給の程度を示す指標として、ロールバイト導入油膜厚を用いた。ロールバイト導入油膜厚が大きいほど、ロールバイト内で鋼板とワークロールが直接接触する境界潤滑部の割合が小さくなり、鋼板とワークロールが圧延油を介して接触する流体潤滑部の割合が大きくなるため、圧延荷重の低下に寄与し、板厚変動に影響すると考えられる。
【0020】
ロールバイト導入油膜厚(h)の求め方は以下の通りとした。ロールバイト導入油膜厚(h)は、鋼板のプレートアウト膜厚(h1)を考慮し、式(1)を用いて計算した。鋼板のプレートアウト膜厚(h1)は、圧延油供給量(Q)とプレートアウト効率(A)によって決まると考えられる。また、ロールバイト導入油膜厚(h)は、式(1)にあるように、圧延油の粘度(η)や圧力粘度係数(α)などの圧延油性状、扁平ロール半径(R’)や最終スタンドのロール速度(V1)などの圧延条件によって変化する。そこで、これらを整理し、本発明では、式(1)によりロールバイト導入油膜厚(h)を求めることとする。なお、プレートアウト効率は、それぞれの圧延油供給条件で予め測定しておく数値である。
【0021】
【数1】
【0022】
表1に、各条件での、最終スタンドのワークロール粗さ、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さ、計算油膜厚(ロールバイト導入油膜厚(h))を示す。
【0023】
板厚変動と、最終スタンドのワークロール粗さ、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さ、計算油膜厚(ロールバイト導入油膜厚(h))との関係について、検討したところ、式(2)で整理できることがわかった。表1に式(2)の値、板厚変動発生数の結果を併せて示す。式(2)の数値が大きいほど、最終スタンドのワークロール粗さおよび最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さに対し、ロールバイト導入油膜厚(h)すなわち油膜が厚くなることを意味する。検討した結果、式(2)の数値が0.5以上の時に、板厚変動の発生率を低減できることが分かった。
【0024】
【数2】
【0025】
以上の実験結果より、式(2)で定義する、ロールバイト導入油膜厚とワークロールの粗さ(最終スタンドのワークロール粗さおよび最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さ)の比を0.5以上とすることにより、板厚変動を抑制できることがわかった。また、最終スタンドのワークロール粗さを0.03μmRa以上0.15μmRa以下、および/または、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを0.03μmRa以上0.25μmRa以下とすることで、より一層板厚変動を抑制できることがわかった。なお、ワークロール粗さの下限は特に限定する必要はない。しかし、最終スタンドのワークロール粗さを0.03μmRa未満、もしくは、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを0.03μmRa未満とすると、ワークロールの研磨負荷の増大を招くので、好ましくない。好適には、最終スタンドのワークロール粗さを0.03μmRa以上0.07μmRa以下、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを0.03μmRa以上0.16μmRa以下である。
【0026】
【表1】
【0027】
以上より、本発明の鋼板の冷間圧延方法を用いることで、板厚精度に優れた鋼板を高能率で製造することができる。
【実施例1】
【0028】
以下、本発明を、実施例に基いて具体的に説明する。
4重式圧延機を5スタンド備えたタンデム圧延機にて電磁鋼板を冷間圧延し、板厚変動の不良発生率を評価した。各条件において、Si含有量:3.1質量%以上3.7質量%以下、板厚1.8mmの電磁鋼板を100コイル用意し、圧延速度(最終スタンド出側の板速度)700mpmで板厚0.25mmに仕上げた。
条件を表2に示す。各条件ともに、20〜30コイル毎にワークロールを交換したが、ワークロール交換前後にロール粗さを測定し、表2に粗さ(Ra)の最大値と最小値を記載した。本発明例では、ワークロールの粗さに応じ、第2の圧延油系統(圧延油を循環供給する圧延油循環系統とは別の圧延油供給系統)を使用し、計算される油膜(ロールバイト導入油膜厚(h))を制御し、式(2)で定義する、ロールバイト導入油膜厚(h)とワークロール粗さの比が0.5以上になるように設定した。板厚変動を前述と同様の手法にて測定し、3μm以上の変動がある場合を板厚不良とし、全体(100コイル)に対する割合を不良率とした。
得られた結果を条件と併せて表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
比較例では、板厚変動の不良率が4.30〜9.40%であるのに対し、本発明例では、不良率が2.10%以下に低減されているのがわかる。
【0031】
以上より、本発明の冷間圧延方法を適用し、最終スタンドのワークロール粗さ、および/または、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さを適正に設定することに加え、第2の圧延油系統を用いて油膜厚(最終スタンドでのロールバイト導入油膜厚)を適正に制御することにより、板厚精度に特に優れた鋼板を高能率ですることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の冷間圧延方法は、厳しい板厚精度が要求される電磁鋼板に好適である。
【要約】
板厚精度に優れた鋼板を高能率で製造するための冷間圧延方法を提供する。
圧延油を循環して供給する方式のタンデム圧延機により、鋼板を冷間圧延するに際し、下記(1)式で計算される最終スタンドでのロールバイト導入油膜厚h、最終スタンドのワークロール粗さRN、及び、最終スタンドの1つ前のスタンドのワークロール粗さRN-1で表される下記(2)式の数値が0.5以上となるように圧延油をタンデム圧延機に供給する。
【数1】
【数2】