【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の発明者は、上記課題を解決するため種々検討を行った結果、以下の構成よりなる硬化性樹脂組成物を用いることによりこれを達成できることを見いだした。すなわち、
1.(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂100質量部に対し
(B)多価カルボン酸水和物 0.01〜5質量部
(C)エポキシ樹脂を硬化させる成分
但し、(B)多価カルボン酸水和物は除く 1〜50質量部
を含んでなる硬化性樹脂組成物である。
【0011】
また本発明は、より好ましい形態としてさらに、以下の構成を取ることができる。
2.前記(B)成分が、蓚酸二水和物であるところの、硬化性樹脂組成物。
3.前記硬化性樹脂組成物に、さらに(D)コアシェル型アクリル樹脂 1〜50質量部
を含んでなるところの、硬化性樹脂組成物。
4.前記硬化性樹脂組成物が、電機部品の封止に用いられるものであるところの、硬化性樹脂組成物。
5.前記電機部品が、継電器であるところの、硬化性樹脂組成物。
である。
【0012】
ここで、本発明の各構成に関して詳説する。
(A)
ビスフェノール型エポキシ樹脂について
本発明において使用できる
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては特に制限はなく、公知の
ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物よりなるエポキシ樹脂、ビスフェノールAのポリプロピレングリコール(PPG)付加物よりなるエポキシ樹脂等を用いることができ、これらのエポキシ樹脂は単独あるいは複数を混合して用いることも妨げない。原材料の入手容易性や接着強度担保のため、本発明においてはビスフェノール型
Aエポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。
【0013】
(B)多価カルボン酸水和物について
本発明において使用することができる多価カルボン酸水和物は、本発明の作用、すなわち良好な貯蔵安定性を発現させるために用いられる成分である。前記多価カルボン酸水和物としては公知の物質を用いることができる。例えば、脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸等の多価カルボン酸水和物を挙げることができる。
【0014】
上記脂肪族多価カルボン酸水和物としては、例えば、蓚酸、デカンジカルボン酸、アジピン酸、マレイン酸、マロン酸、エチルマロン酸、ブチルマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、グルタル酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、セバチン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、1,11−ウンデカン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンカルボン酸、3−iso−オクチルヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、クエン酸、トリカルバリン酸の水和物等を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸水和物としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジフェニルジカルボン酸、4、4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等のジカルボン酸類の水和物、1、2、3−ベンゼントリカルボン酸、1、2、4−ベンゼントリカルボン酸、1、3、5−ベンゼントリカルボン酸等のトリカルボン酸類の水和物、1、2、3、4−ベンゼンテトラカルボン酸、1、2、3、5−ベンゼンテトラカルボン酸、1、2、4、5−ベンゼンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸類の水和物等を挙げることができる。
【0015】
上記多価カルボン酸水和物としては、そのカルボン酸の価数に制限はないが、特に二価のカルボン酸水和物が好ましい。二価のカルボン酸水和物として望ましくは、脂肪族骨格を有し、脂肪族骨格中の炭素数が2〜5のもの、特に望ましくは蓚酸水和物である。
【0016】
上記多価カルボン酸水和物の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対し0.01〜5質量部であることが好ましく、より望ましくは0.05〜0.20質量部である。0.01質量部未満では、本発明の作用、すなわち良好な貯蔵安定性を発現させることができず、5質量部を越えると硬化性を低下させてしまう虞がある。
【0017】
本発明における多価カルボン酸水和物の作用機序は明確ではないが、エポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂、特にはビスフェノール型エポキシ樹脂の製造過程で生成する塩基性不純物と反応、中和することでこれが安定性に悪影響を及ぼすことを妨げているもの、と考えられる。
【0018】
なお従来より、エポキシ樹脂の硬化剤として多価カルボン酸、或いはカルボン酸の無水物をエポキシ樹脂と混合して用いる硬化性組成物が知られているが、これらの化合物はエポキシ樹脂中のエポキシ基と反応することによりエポキシ樹脂間を架橋させる硬化剤として作用するものである。これに対し、本発明で用いるカルボン酸水和物は、組成物中でエポキシ基と反応することなく安定に存在して、系の反応を抑制するというものであり、全く異なった作用を奏するものである。
【0019】
また、特開2001−247814号公報には、ビスフェノール型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂と多官能性カルボン酸化合物、ジシアンジアミドなどの熱硬化剤からなる硬化性樹脂組成物が開示されているが、当該公報に記載のカルボン酸化合物は組成物中で塩を形成して塗膜に艶消し作用を与えるものであって、前記多官能性カルボン酸化合物には水和物の例示も示唆もなく、さらにその作用効果も本発明とは全く異なっている。
【0020】
(C)エポキシ樹脂を硬化させる成分について
本発明において使用することができる、エポキシ樹脂を硬化させる成分は、エポキシ樹脂硬化剤として一般的に知られた物質を用いることができる
が、前記(B)多価カルボン酸水和物は除く。例えば、加熱により活性化しエポキシ樹脂と反応する潜在性硬化剤が好ましく、より望ましくはアミノ化合物もしくはアミド化合物を少なくとも含んでなる硬化剤、更に好ましくはジシアンジアミドを含んで成る硬化剤である。
【0021】
加熱により活性化する潜在性硬化剤としては、従来公知の各種物質を用いることができるが、特にその活性化温度が60〜180℃、さらに好適には80〜150℃のものが望ましい。このような物質として例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、マイクロカプセル型硬化剤、ヒドラジド化合物、アミンイミド、ポリアミンの塩、酸無水物、フェノールノボラック等の化合物が挙げられる。
【0022】
さらにこれらの化合物は、硬化剤と硬化促進剤の組合せとして、複数種を組み合わせて用いることもできる。本発明で用いることのできる硬化促進剤とは、室温ではエポキシ樹脂に対し活性を持たず、加熱等の刺激を加えることにより溶解、分解、転移反応などにより活性化し、硬化を促進する機能を有する化合物である。例えば常温で固体のイミダゾール化合物およびその誘導体、エポキシ化合物のアダクト体、各種アミンと酸との塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
上記の硬化剤、硬化促進剤としては、例えば以下のものなどが市販されている。
・ジシアンジアミド及びその誘導体:jERキュアDICY7、15、20、7A(以上、三菱化学社製品)、オミキュアDDA10、DDA50、DDA100、DDA5、CG−325、CG−1200、CG−1400、DICYNEX325、DICY−F、DICY−M(以上、CVCスペシャリティケミカルズ社製品)等。
・マイクロカプセル型硬化剤:ノバキュアHX−3721、3722、3741、3742、3748、3613、3088、3921HP、3941HP(以上、旭化成ケミカルズ社製品)等。
・ヒドラジド化合物:アミキュアVDH、VDH−J、UDH、UDH−J(以上、味の素ファインテクノ社製品)
・酸無水物:リカシッドHNA−100、MH−700、MH−700G、MH、TMEG−S、TMEG−100、TMEG−200、TMEG−500、TMEG−600、DDSA、OSA(以上、新日本理化社製品)、HN−2200、HN−2000、HN−5500、MHAC(以上、日立化成工業社製品)等。
・イミダゾール化合物およびその誘導体:キュアゾール2MZ、2PZ、2PHZ、2MZ−OK、2PZ−OK、2P4MHZ、2E4MZ、C11Z、C17Z、2MA−OK、1B2MZ(以上、四国化成工業社製品)、jERキュアIBMI−12、EMI−24、BMI−12(以上、三菱化学社製品)、ニチゴーイミダゾール2PI、2MI、2E4MI、1B2MI(以上、日本合成化学工業社製品)等。
・エポキシ化合物のアダクト体:アミキュアPN−23、MY−24、PN−D、MY−D、PN−H、MY−H(以上、味の素ファインテクノ社製品)等。
・アミンと酸との塩:1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7塩類(DBU塩類)としてU−CAT SA 1、U−CAT SA 102、U−CAT SA 506、U−CAT SA 603、U−CAT SA 810、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5塩類(DBN塩類)としてU−CAT SA 881(以上、サンアプロ社製品)等。
【0024】
本発明における硬化性樹脂組成物は、上記の硬化剤類と組み合わせて用いることで、一液加熱硬化性、場合により二液混合による加熱硬化性という特性を付与することができる。該加熱硬化性樹脂組成物は、60〜180℃程度、好ましくは80〜150℃で、0.1〜24時間、好ましくは0.5〜6時間加熱することにより硬化して硬化物を与える。この様な特性を与える上で、ジシアンジアミド及びその誘導体が、硬化物の特性ならびに入手容易性などの観点から特に好適に用いることができる。
【0025】
上記エポキシ樹脂を硬化させる成分の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂100質量部に対し1〜50質量部であることが好ましく、より望ましくは3〜20質量部である。1質量部未満では、硬化物の硬化度合いが不十分となり、所定の物性を発揮することができない虞があり、他方で50質量部を越えると、常温での貯蔵安定性を損なう虞がある。
【0026】
(D)コアシェル型アクリル樹脂について
さらに本発明においては、コアシェル構造を有したアクリル樹脂を用いることができる。本発明で言うところのコアシェル粒子とは、粒子のコア(核)の部分とシェル(殻)の部分が異なる性質を持つ重合体粒子を意味する。このようなものとしては公知のものを用いることができるが、ゴム状ポリマーのコアとガラス状ポリマーのシェルからなるコアシェル系微粒子がこのましい。このコアシェル構造粒子は、コア部に「弾力性」を有しシェル部に「硬質性」を有するものであって、液状樹脂中で溶解しないものである。「コア」を形成するポリマーは、実質的には周囲温度以下のガラス転移温度を有する。「シェル」を形成するポリマーは、実質的には周囲温度以上のガラス転移温度を有す。周囲温度は一般に、硬化性樹脂組成物が使用される温度範囲として画定される。
【0027】
また本発明においては、前記(D)コアシェル型アクリル樹脂をエポキシ樹脂中の分散体として用いることもできる。前記コアシェル型アクリル樹脂を分散するエポキシ樹脂としては、本発明における必須成分である前記(A)エポキシ樹脂と同一の化合物を用いることが、組成物の均一分散性の観点から特に好ましい。
【0028】
なお前記(D)コアシェル型アクリル樹脂は、本発明のエポキシ樹脂組成物の接着性並びに耐衝撃性を改善するために加えられるものであるが、欠点として液状態での貯蔵時において、粘度や流動特性を不安定にしてしまう、という問題が従来知られている。本発明における効果の一つは、この様な特性を有するコアシェル型アクリル樹脂を組成物中に含有していた場合においても、粘度や流動特性がほとんど変化しないようになる点にある。
【0029】
また本発明は所定の特性を発現させるための任意成分として、充填剤、可塑剤、老化防止剤、接着性付与剤、着色剤、揺変性付与剤、界面活性剤、反応性または非反応性希釈剤、可塑剤、湿潤剤、消泡剤等を更に加えることができる。
【0030】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグレシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、蝋石クレー、カオリンクレー、焼成クレー、カーボンブラック、雲母、及びこれらの表面を脂肪酸等で処理した処理物が挙げられる。
【0031】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
接着性付与剤としては、公知のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等を用いることができるが、組成物の安定性ならびに入手容易性などの観点からシランカップリング剤を特に好適に用いることができる。このようなシランカップリング剤として具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上組み合わせて用いても良い。
【0033】
着色剤としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。