(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置として、インクジェット式記録ヘッドを搭載したインクジェット式記録装置がある(例えば特許文献1参照)。ここで、インクジェット式記録ヘッドでは、圧力発生手段により圧力発生室内のインクに圧力を作用させることにより、ノズルプレートに形成されたノズル開口を介してインク滴を吐出させている。圧力発生手段としては、薄膜型の圧電アクチュエーターを用いたもの、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターを用いたもの、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターを用いたものなどが提案されている。
【0003】
このように、圧電アクチュエーターとして圧電アクチュエーターを用いる従来技術に係るインクジェット式記録ヘッドは、インク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、インクの貯留部である各圧力発生室に共通のマニホールドと、マニホールドから各圧力発生室に個別にインクを供給するインク供給路と、各圧力発生室に対応してノズルプレートに形成されてインク滴を吐出するノズル開口とを備えている。かくして、この種のインクジェット式記録ヘッドでは、各圧力発生室の一方側の開口を封止する封止板としても機能する可撓性部材である振動板を介して圧電アクチュエーターが発生する圧力を各圧力発生室のインクに付与している。ここで、前述の如く各圧力発生室の一方側の開口部を封止する振動板は、薄いフィルム状の部材で、通常は、金属板(例えばSUS等)で形成した支持薄膜の表面にPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルム等の樹脂で形成した絶縁性薄膜を積層して形成してあり、各圧力発生室の一方側の開口部を封止しつつ流路形成基板の表面に接着剤により貼付されている。接着剤は、インクの付着等により経時的に劣化する。一方、当該インクジェット記録ヘッドは、使用される環境等の熱の影響により変形する。この変形は流路形成基板等、当該インクジェット式記録ヘッドを構成する各部品におよぶ。この結果、圧力発生室と振動板との接合端面等にも変形に起因する歪が応力となって作用する。他にも圧電アクチュエーターの変位により振動板が振動するたびに圧力発生室と振動板との接合端面に所定の応力が作用する。このように応力が作用した状態で接着剤が劣化すると界面剥離を生起する。この界面剥離により振動板が流路形成部材の表面から剥離される。この結果、圧力発生室内のインクに所定の圧力が作用しなくなり、ノズル開口を介して吐出されるインク滴の速度が変化する結果、着弾ズレの原因となる。さらに剥離が進行すると吐出不良を生起し、ノズル抜けの原因となる。
【0004】
このように、界面剥離が生起された場合、印刷品質の劣化に直接繋がるので可及的に回避しなければならない。ここで、剥離量が少ない場合には、所定の印刷品質を確保し得る場合もある。
【0005】
さらに、かかる構造のインクジェット式記録ヘッドでは、通常、圧電アクチュエーターを保護する目的等のため、圧電アクチュエーターをケース部材の内部空間に収納する構造となっている。そこで、断面門型形状のケース部材の脚部の下面で振動板の端部を圧力発生室側に押圧して接着剤で固定している。
【0006】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドに限定されず、インク以外の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、振動板と流路形成基板との間の接着剤の界面剥離による流路形成基板に対する振動板の剥離を可及的に防止することができる液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の態様は、
シリコン単結晶基板からなる流路形成基板の一方向に沿い並設して複数個形成された複数の圧力発生室と、該圧力発生室の一方側の開口を封止する封止板としても機能する可撓性部材である振動板と、前記圧力発生室内に供給される液体に前記振動板を介して圧力を発生させる圧力発生手段と、前記圧力発生室に対し前記振動板の反対側に配設されたノズルプレートと、前記複数の圧力発生室に連通するマニホールドと、前記圧力発生手段により前記圧力発生室に発生させた圧力により前記液体を吐出するよう前記ノズルプレートに形成されたノズル開口とを有する液体噴射ヘッドであって、前記振動板は、前記流路形成基板に接着されており、前記圧力発生室の端部と前記マニホールドとの間の領域及び並設方向で隣接する前記圧力発生室間の隔壁の延長線上の領域では、長手方向に離間した2以上の接着領域を形成し、該接着領域を介して前記流路形成基板に接着させたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
本態様によれば、接着剤が経年劣化により界面剥離を生起しても、離間した一方の接着領域に剥離した振動板が至った時点で座屈し、それ以上の応力の伝達が遮断される。振動板は一部でも接着されていればその機能を発揮し得る場合があり、継続して圧電アクチュエーターの変位に伴う圧力を圧力発生室内の所定の液体に伝達することができる場合がある。この結果、長期に亘り安定的な液滴吐出の安定を図ることができる。また、前記接着領域は、並設方向で隣接する前記圧力発生室間の隔壁の延長戦上の領域である理由は次の通りである。すなわち、ヘッドの剥離現象として、インク等の加水現象により接着剤内部への浸食が接着力低下を招くため、インクに晒されている箇所が剥離しやすい箇所になる。また、壁面部分は接着している面積が小さい為、機械的な荷重が加わった際の力が同じであっても応力(単位面積当たりの抵抗力)が上がってしまい、破断応力以上になり易く、ここも剥がれ易い箇所となる。したがって、両者のワースト条件が当てはまるのがここの壁面間の接着部になり、凹部を設けるには機能的に疎外しない様に圧力室は避けた延長上の箇所とする。
なお、この種の液体噴射装置は、一般に圧力発生手段を内部空間に収納するケースを有する。このケースは、内部空間に収納した圧力発生手段を保護するとともに、脚部の下面で振動板の端部を圧力発生室側に押圧して固定している。この結果、かかるケースの熱膨張係数に基づく伸縮による変形も生起し、界面剥離の原因となる。したがって、本態様によれば、ケースの熱変形に伴う問題に対しても有効に対処し得る。
ここで、前記振動板は、樹脂フィルムと金属板とで形成されることが好ましい。
また、前記圧力発生手段を保護する空間である保持部を有する保護基板をさらに有し、前記振動板は、前記離間した2以上の接着領域で前記流路形成基板と接着される面と反対側の面に前記保護基板が接着されることが好ましい。
また、前記接着領域は、前記流路形成基板の前記振動板が接する面に形成した凹部で離隔されていることが好ましく、円形、矩形、三角形を含む任意形状の凸部または凹部で形成することもできる。かかる接着領域部分にまで振動板の剥離が進行して、接着部分で振動板が座屈することでそれ以降の応力の伝達が遮断されるからである。
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを搭載していることを特徴とする液体噴射装置にある。本態様によれば、振動板の剥離の速度を可及的に低減して長期に亘り安定的な所定の機能を継続して発揮させることができる。
また、他の態様は、流路形成基板の一方向に沿い並設して複数個形成された圧力発生室と、該圧力発生室の一方側の開口を封止する封止板としても機能する可撓性部材である振動板と、前記圧力発生室内に供給される液体に前記振動板を介して圧力を発生させる圧力発生手段と、前記圧力発生室に対し前記振動板の反対側に配設されたノズルプレートと、前記圧力発生手段により前記圧力発生室に発生させた圧力により前記液体を吐出するよう前記ノズルプレートに形成されたノズル開口とを有する液体噴射ヘッドであって、前記振動板は、前記圧力発生室の長手方向に関する前記圧力発生室の端部よりも外側の領域に、離間した2以上の接着領域を形成し、該接着領域を介して前記流路形成部材に接着させたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
本態様によれば、接着剤が経年劣化により界面剥離を生起しても、離間した一方の接着領域に剥離した振動板が至った時点で座屈し、それ以上の応力の伝達が遮断される。振動板は一部でも接着されていればその機能を発揮し得る場合があり、継続して圧電アクチュエーターの変位に伴う圧力を圧力発生室内の所定の液体に伝達することができる場合がある。この結果、長期に亘り安定的な液滴吐出の安定を図ることができる。
【0010】
なお、この種の液体噴射装置は、一般に圧力発生手段を内部空間に収納するケースを有する。このケースは、内部空間に収納した圧力発生手段を保護するとともに、脚部の下面で振動板の端部を圧力発生室側に押圧して固定している。この結果、かかるケースの熱膨張係数に基づく伸縮による変形も生起し、界面剥離の原因となる。したがって、本態様によれば、ケースの熱変形に伴う問題に対しても有効に対処し得る。
【0011】
ここで、前記接着領域は、前記流路形成基板の前記振動板が接する面に形成した凹部で離隔されるのが望ましい。複数の接着領域を簡単かつ確実に区分けることができるからである。また、前記接着領域は、円形、矩形、三角形を含む任意形状の凸部または凹部で形成することもできる。かかる接着領域部分にまで振動板の剥離が進行して、接着部分で振動板が座屈することでそれ以降の応力の伝達が遮断されるからである。さらに、前記接着領域は、並設方向で隣接する前記圧力発生室間の隔壁の延長戦上の領域であるのが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、ヘッドの剥離現象として、インク等の加水現象により接着剤内部への浸食が接着力低下を招くため、インクに晒されている箇所が剥離しやすい箇所になる。また、壁面部分は接着している面積が小さい為、機械的な荷重が加わった際の力が同じであっても応力(単位面積当たりの抵抗力)が上がってしまい、破断応力以上になり易く、ここも剥がれ易い箇所となる。したがって、両者のワースト条件が当てはまるのがここの壁面間の接着部になり、凹部を設けるには機能的に疎外しない様に圧力室は避けた延長上の箇所とするのが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを搭載していることを特徴とする液体噴射装置にある。本態様によれば、振動板の剥離の速度を可及的に低減して長期に亘り安定的な所定の機能を継続して発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、
図2は、インクジェット式記録ヘッドの液体分斜面側の平面図であり、
図3(a)は
図2のA−A′線断面図および同図(b)がその拡大図であり、
図5は、圧電アクチュエーター側から見た弾性膜を抽出・拡大して示す平面図である。
【0015】
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIは、ヘッド本体11、ケース部材40、カバーヘッド130等の複数の部材を備え、これら複数の部材が接着剤等によって接合されている。本実施形態では、ヘッド本体11は、流路形成基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、保護基板30と、コンプライアンス基板45と、を具備する。
【0016】
ヘッド本体11を構成する流路形成基板10は、本実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、当該流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称する。また、流路形成基板10には、圧力発生室12が第1の方向Xに並設された列が複数列、本実施形態では、2列設けられている。この圧力発生室12が第1の方向Xに沿って形成された圧力発生室12の列が複数列設された列設方向を、以降、第2の方向Yと称する。
図3(b)に示すように、このような流路形成基板10の一方の面には圧力発生室12の一方の開口を封止するように振動板51が接着剤で貼着されている。振動板51は、例えば、樹脂フィルム等の弾性部材からなる絶縁体膜55と、この絶縁体膜55を支持する、例えば、SUS等からなる金属板50との複合板で形成されており、金属板50側が流路形成基板10に接合されている。例えば、本実施形態では、絶縁体膜55は、厚さが数μm程度のPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムからなり、金属板50は、厚さが数十μm程度のステンレス鋼板(SUS)からなる。
【0017】
流路形成基板10のノズルプレート20側(振動板51とは反対側)には、連通板15が接合されている。連通板15には、各圧力発生室12に連通する複数のノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接合されている。連通板15には、圧力発生室12とノズル開口21とを繋ぐノズル連通路16が設けられている。連通板15は、流路形成基板10よりも大きな面積を有し、ノズルプレート20は流路形成基板10よりも小さい面積を有する。このようにノズルプレート20の面積を比較的小さくすることでコストの削減を図ることができる。なお、本実施形態では、ノズルプレート20のノズル開口21が開口して、インク滴が吐出される面を液体噴射面20aと称する。
【0018】
また、連通板15には、マニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と、第2マニホールド部18とが設けられている。
【0019】
第1マニホールド部17は、連通板15を厚さ方向(連通板15と流路形成基板10との積層方向)に貫通して設けられている。
【0020】
また、第2マニホールド部18は、連通板15を厚さ方向に貫通することなく、連通板15の液体噴射面20a側に開口して設けられている。
【0021】
さらに、連通板15には、圧力発生室12の第2の方向Yの一端部に連通するインク供給路19が、各圧力発生室12毎に独立して設けられている。このインク供給路19は、第2マニホールド部18と圧力発生室12とを連通する。
【0022】
このような連通板15としては、流路形成基板10と線膨張係数が同等の材料が好ましい。つまり、連通板15として流路形成基板10と線膨張係数が大きく異なる材料を用いた場合、加熱や冷却されることで、流路形成基板10と連通板15との線膨張係数の違いにより反りが生じてしまう。本実施形態では、連通板15として流路形成基板10と同じ材料、すなわち、シリコン単結晶基板を用いることで、熱による反りを抑制することができる。
【0023】
また、ノズルプレート20の材料も接着される連通板15と線膨張係数が同等の材料が好ましく、本実施形態では、ノズルプレート20としてシリコン単結晶基板を用いた。
【0024】
つまり、流路部材を構成する積層された基板が同一材料とは、線膨張係数が略同等の材料のことを言う。例えば、シリコン単結晶基板と線膨張係数が略同等な材料としては、鉄ニッケル合金などが挙げられる。
【0025】
一方、流路形成基板10に貼着された振動板51の絶縁膜である絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とからなる圧電アクチュエーター(圧力発生手段)300が設けられている。本実施形態では、第1電極60が複数の圧電アクチュエーター300に共通する共通電極として機能し、第2電極80が各圧電アクチュエーター300で独立する個別電極として機能する。
【0026】
また、第2電極80には、リード電極90の一端がそれぞれ接続されている。リード電極90の他端には、駆動回路120が設けられた配線基板121が接続されている。
【0027】
流路形成基板10の圧電アクチュエーター300側の面には、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電アクチュエーター300を保護するための空間である保持部31を有する。
【0028】
また、このような構成のヘッド本体11には、複数の圧力発生室12に連通するマニホールド100をヘッド本体11と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接着剤によって固定されると共に、上述した連通板15にも接着剤によって固定されている。具体的には、ケース部材40は、保護基板30側に流路形成基板10及び保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。この凹部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に流路形成基板10等が収容された状態で凹部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。これにより、流路形成基板10の外周部には、ケース部材40とヘッド本体11とによって第3マニホールド部42が画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、ケース部材40と流路形成基板10とによって画成された第3マニホールド部42とによって本実施形態のマニホールド100が構成されている。
【0029】
なお、保護基板30の材料は、保護基板30が接着される流路形成基板10と線膨張係数が同等の材料が好ましく、本実施形態では、シリコン単結晶基板を用いた。
【0030】
また、連通板15の第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が開口する液体噴射面20a側の面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の液体噴射面20a側の開口を封止している。
【0031】
このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、封止膜46と、固定基板47と、を具備する。封止膜46は、可撓性を有する薄膜(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やステンレス鋼(SUS)等により形成された厚さが20μm以下の薄膜)からなり、固定基板47は、ステンレス鋼(SUS)等の金属等の硬質の材料で形成される。この固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0032】
なお、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入路44が設けられている。また、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して配線基板121が挿通される接続口43が設けられている。
【0033】
このような構成のインクジェット式記録ヘッドIでは、インクを吐出する際に、インクカートリッジ等のインク貯留手段から導入路44を介してインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで流路内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの信号に従い、圧力発生室12に対応する各圧電アクチュエーター300に電圧を印加することにより、圧電アクチュエーター300と共に金属板50及び絶縁体膜55をたわみ変形させる。これにより、圧力発生室12内の圧力が高まり所定のノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0034】
また、ヘッド本体11の液体噴射面20a側には、本実施形態の固定板であるカバーヘッド130が設けられている。カバーヘッド130は、コンプライアンス基板45の連通板15とは反対面側に接着剤等により固定されており、コンプライアンス部49の流路(マニホールド100)とは反対側の空間を封止する。なお、カバーヘッド130には、ノズル開口21を露出する露出開口部131が設けられている。また、カバーヘッド130は、ヘッド本体11の側面を覆うように、端部が屈曲して設けられている。
【0035】
このようなインクジェット式記録ヘッドIの流路部材を構成する積層された基板は、互いに接着剤を介して接合されている。
【0036】
ここで、連通板15の貫通孔203(
図4参照)、流路形成基板10の貫通孔202(
図4参照)、振動板51,51A(
図5および
図6参照)の貫通孔204、保護基板30の貫通孔201(
図4参照)は順次連結されており、最後にケース部材40の貫通孔200(
図1〜
図3参照)を介して大気に開放されている。
【0037】
図5は実施形態1に係る振動板の一例を抽出・拡大して示す平面図である。同図に基づき、本実施形態1をさらに詳細に説明する。同図に示すように、本形態における振動板51は、矩形の点線で示す圧力発生室12の一方の開口を封止して流路形成基板10の表面に貼着される。このとき振動板51は圧力発生室12の長手方向に関し圧力発生室12の端部よりも外側の領域、すなわち
図5中において、上側に配設された圧力発生室12の場合は、各圧力発生室12上端から上方向の領域および各圧力発生室12下端から下方向の領域であり、下側に配設された圧力発生室12の場合は、各圧力発生室12下端から下方向の領域および各圧力発生室12上端から上方向の領域である。かかる各領域においてそれぞれ離間した2つの接着領域(110A,110B)、(111A,111B)、(112A,112B)、(113A,113B)を形成し、これらの接着領域110A〜113Bを介して流路形成基板10に振動板51を接着している。さらに詳述すると、本形態における接着領域(110A,110B)、(111A,111B)および接着領域(112A,112B)、(113A,113B)は圧力発生室12の並設方向に伸びる各2本の凹部として形成してある。したがって、実際には各凹部を除いた領域に接着剤が塗布される。かかる接着状態で振動板51が圧力発生室12の図中上側端面から、あるいは上方向に向けた剥離が発生した場合を考える。このときの振動板51が前記上方向に剥離されて接着領域110Aに至ると接着領域110Aの位置で座屈する結果、剥離が進行しない。このことにより、振動板51に剥離が発生しても、しばらくはそれ以上の剥離の進行を停止させることができる。したがって、その分安定した吐出動作を継続させることができる。他の接着領域(111A,111B)、(112A,112B)、(113A,113B)に関しても全く同様に考えることができる。
【0038】
図6は実施形態1に係る振動板の他の例を抽出・拡大して示す平面図である。同図に基づき、本例をさらに詳細に説明する。同図に示すように、本形態における振動板51Aも、矩形の点線で示す圧力発生室12の一方の開口を封止して流路形成基板10の表面に貼着される。このとき本例では、離間した2つの接着領域の形状が異なるだけで、他は
図5に示す場合と同様である。すなわち、接着領域(114A,114B)、(115A,115B)、(116A,116B)、(117A,117B)が形成してあるが、これらは圧力発生室12の並設方向で隣接する圧力発生室12間の隔壁の延長戦上の領域である。また、形状は円形である。円形の凸部であっても凹部であっても構わない。
【0039】
この場合も
図5に示す場合と全く同様に考えることができる。すなわち、接着領域(114A〜117Bのいずれかの位置まで剥離が進んだ場合には、振動板51は挫屈を生起するため応力がそれ以上伝達されない。
【0040】
ここで、接着領域は所定の領域に少なくとも2個形成されていれば良い。接着領域まで進行した振動板51のそれ以上の進行を抑制することができるからである。このとき、接着領域の形状は円形に限る必要は当然なく、矩形、三角形等であっても良好に所期の目的を達成させることができる。
【0041】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0042】
上述した実施形態1のインクジェット式記録ヘッドの他に、薄膜型の圧電アクチュエーターを用いたもの、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターを用いたもの、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターを用いたもの等に,同様に適用でき同様の作用効果を発揮させることができる。これらの圧電アクチュエーターを用いるインクジェット式記録ヘッドでは、圧電アクチュエーターを保護する目的等のため、圧電アクチュエーターをケース部材の内部空間に収納する構造となっているおり、断面門型形状のケース部材の脚部の下面で振動板の端部を圧力発生室側に押圧して接着剤で固定構造も共通しているからである。
【0043】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備するインクジェット式記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。
図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0044】
図7に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、複数のインクジェット式記録ヘッドIを有するインクジェット式記録ヘッドユニット1A、1B(以下、ヘッドユニット1A、1Bとも言う)は、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、このヘッドユニット1A、1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。このヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0045】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0046】
また、インクジェット式記録装置IIの非印字領域には、ノズル開口21を覆う吸引キャップ140が設けられており、この吸引キャップ140にチューブ142を介して、例えば、真空ポンプ等の吸引装置141が接続されている。吸引キャップ140は、カバーヘッドに当接する大きさを有し、吸引装置141によってカバーヘッドに密着した吸引キャップ140の内部の気体を吸引することで、ノズル開口21を介して圧力発生室12等の流路内のインクを吸引する吸引動作を行う。
【0047】
なお、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0048】
また、上述した例では、インクジェット式記録装置IIは、液体貯留手段であるインクカートリッジ2A、2Bがキャリッジ3に搭載された構成であるが、特にこれに限定されず、例えば、インクタンク等の液体貯留手段を装置本体4に固定して、貯留手段とインクジェット式記録ヘッドIとをチューブ等の供給管を介して接続してもよい。また、液体貯留手段がインクジェット式記録装置IIに搭載されていなくてもよい。
【0049】
なお、上記実施の形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。