特許第6241595号(P6241595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6241595
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20171127BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20171127BHJP
   B60H 3/00 20060101ALI20171127BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B60H1/22 651A
   B60H1/22 651C
   B60H1/32 624J
   B60H3/00 B
   F25B1/00 311C
   F25B1/00 371B
   F25B1/00 304L
   F25B1/00 371F
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-173585(P2013-173585)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-40019(P2015-40019A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙一
【審査官】 石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/121844(WO,A1)
【文献】 特開2013−002710(JP,A)
【文献】 特開2012−233676(JP,A)
【文献】 特開平01−121650(JP,A)
【文献】 特開2013−095347(JP,A)
【文献】 特開昭62−225865(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60H 1/32
B60H 3/00
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、
冷媒を吸熱させて前記車室内に供給する空気を冷却するための吸熱器と、
前記車室外に設けられて冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、
制御手段とを備え、
該制御手段により、前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、前記吸熱器と前記室外熱交換器、又は、前記吸熱器のみにて吸熱させることで前記車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房モードを実行する車両用空気調和装置において、
前記放熱器を出た冷媒の一部を分流して前記圧縮機に戻すインジェクション回路を備え、
前記制御手段は、前記除湿暖房モードにおいて、除湿能力が過剰となる所定の除湿能力過剰条件が成立した場合、前記インジェクション回路を動作させ、前記圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記制御手段は、目標放熱器温度と前記放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力と前記放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、前記吸熱器の温度が所定値C2以下に低下した場合、前記除湿能力過剰条件が成立と判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記制御手段は、起動から所定時間経過後、目標放熱器温度と前記放熱器の温度との差が所定値A1以上に大きくなり、且つ、目標放熱器圧力と前記放熱器の圧力との差が所定値B1以上に大きくなった場合、暖房能力が不足する所定の暖房能力不足条件が成立したと判定して、前記インジェクション回路を動作させ、前記圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記目標放熱器温度と前記放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、前記目標放熱器圧力と前記放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、目標吸熱器温度と前記吸熱器の温度との差が所定値C3以下に小さくなった場合、前記インジェクション回路の動作を停止することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
前記制御手段は、起動から所定時間経過する前に、外気温度が所定値T1より低く、且つ、前記車室内への目標吹出温度が所定値TA1より高い場合、低外気温度下での起動となる所定の低外気温起動条件が成立したと判定して、前記インジェクション回路を動作させ、前記圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
前記制御手段は、外気温度が所定値T2より高くなり、且つ、前記目標吹出温度が所定値TA2より低くなった場合、前記インジェクション回路の動作を停止することを特徴とする請求項5に記載の車両用空気調和装置。
【請求項7】
前記室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する室外膨張弁を備え、
該室外膨張弁の手前で冷媒を分流し、減圧した後、前記吸熱器に流すと共に、
前記制御手段は、前記放熱器の目標放熱器圧力に基づいて前記圧縮機の回転数を制御し、前記吸熱器の目標吸熱器温度に基づいて前記室外膨張弁の弁開度を制御することを特徴とする請求項1乃至請求項6のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調するヒートポンプ方式の車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の顕在化から、ハイブリッド自動車や電気自動車が普及するに至っている。そして、このような車両に適用することができる空気調和装置として、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室内側に設けられて冷媒を放熱させる放熱器(凝縮器)と、車室内側に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器(蒸発器)と、車室外側に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器等から構成される冷媒回路を備え、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させる暖房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を吸熱器と室外熱交換器、又は、吸熱器のみにおいて吸熱させる除湿暖房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる冷房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器及び室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる除湿冷房モードの各モードを実行するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、暖房モードにおいて放熱器から出た冷媒を分流し、この分流した冷媒を減圧した後、当該放熱器を出た冷媒と熱交換させ、圧縮機の圧縮途中に戻すインジェクション回路を設け、それにより圧縮機の吐出冷媒を増加させ、放熱器による暖房能力を向上させるものも開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−176660号公報
【特許文献2】特許第3985384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、室外熱交換器に流入する冷媒を室外膨張弁で減圧し、この室外膨張弁の手前で冷媒を分流し、減圧して吸熱器に流すと共に、目標放熱器圧力に基づいて圧縮機の回転数を制御し、目標吸熱器温度に基づいて室外膨張弁の弁回路を制御することで除湿暖房モードを実行する場合、室外膨張弁の弁開度が大きければ室外熱交換器への冷媒流量が増加し、小さければ吸熱器への冷媒流量が増加することになる。
【0006】
このような除湿暖房モードが外気温度が低い条件下で実行される場合、要求される暖房能力が大きくなるため、放熱器の温度及び圧力を高くしなければならないが、低外気下では吸熱器の温度も下がり易くなるため、暖房能力を上げるために圧縮機の回転数を高くすると、室外膨張弁の弁開度を大きくしても、吸熱器への冷媒量が過多となり、除湿能力が過剰となると共に、吸熱器には霜が発生してしまう。
【0007】
そのため、吸熱器への着霜を回避する理由から圧縮機の回転数を高くすることができなくなり、車室内の暖房能力が不足してしまうという問題があった。この問題は除湿暖房時に吸熱器のみで冷媒を吸熱させる場合も同様である。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、除湿暖房モードにおいて、吸熱器への着霜を回避しながら、放熱器による暖房能力を確保することができる車両用空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、冷媒を吸熱させて車室内に供給する空気を冷却するための吸熱器と、車室外に設けられて冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、制御手段とを備え、この制御手段により、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器と室外熱交換器、又は、吸熱器のみにて吸熱させることで車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房モードを実行するものであって、放熱器を出た冷媒の一部を分流して圧縮機に戻すインジェクション回路を備え、制御手段は、除湿暖房モードにおいて、除湿能力が過剰となる所定の除湿能力過剰条件が成立した場合、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御手段は、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、吸熱器の温度が所定値C2以下に低下した場合、除湿能力過剰条件が成立と判定することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御手段は、起動から所定時間経過後、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A1以上に大きくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B1以上に大きくなった場合、暖房能力が不足する所定の暖房能力不足条件が成立したと判定して、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明の車両用空気調和装置は、請求項2又は請求項3の発明において制御手段は、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、目標吸熱器温度と吸熱器の温度との差が所定値C3以下に小さくなった場合、インジェクション回路の動作を停止することを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御手段は、起動から所定時間経過する前に、外気温度が所定値T1より低く、且つ、車室内への目標吹出温度が所定値TA1より高い場合、低外気温度下での起動となる所定の低外気温起動条件が成立したと判定して、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御手段は、外気温度が所定値T2より高くなり、且つ、目標吹出温度が所定値TA2より低くなった場合、インジェクション回路の動作を停止することを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する室外膨張弁を備え、この室外膨張弁の手前で冷媒を分流し、減圧した後、吸熱器に流すと共に、制御手段は、放熱器の目標放熱器圧力に基づいて圧縮機の回転数を制御し、吸熱器の目標吸熱器温度に基づいて室外膨張弁の弁開度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、冷媒を吸熱させて車室内に供給する空気を冷却するための吸熱器と、車室外に設けられて冷媒を吸熱させるための室外熱交換器と、制御手段とを備え、この制御手段により、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を減圧した後、吸熱器と室外熱交換器、又は、吸熱器のみにて吸熱させることで車室内を除湿しながら暖房する除湿暖房モードを実行する車両用空気調和装置において、放熱器を出た冷媒の一部を分流して圧縮機に戻すインジェクション回路を備え、制御手段は、除湿暖房モードにおいて、除湿能力が過剰となる所定の除湿能力過剰条件が成立した場合、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すようにしたので、吸熱器による除湿能力が過剰となる場合、インジェクション回路を動作させることで、放熱器の暖房能力が向上し、それにより圧縮機の回転数も低下する。これにより、吸熱器への冷媒流量も減少するので、除湿能力を抑制することができるようになると共に、着霜も防止、若しくは、抑制されるようになる。
【0017】
これらにより、本発明によれば除湿暖房モードにおいて、放熱器と吸熱器の温度を適切に制御し、吸熱器への着霜を回避しながら、放熱器による暖房能力を確保することができるようになる。また、吸熱器への冷媒流量過多を回避することができるので、吸熱器の出口に設けられる蒸発能力制御弁を廃止することも可能となるものである。
【0018】
この場合、請求項2の発明の如く制御手段が、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、吸熱器の温度が所定値C2以下に低下した場合、除湿能力過剰条件が成立と判定することにより、的確に吸熱器の除湿能力が過剰となっていることを判定することができるようになる。
【0019】
また、これらに加えて請求項3の発明の如く制御手段が、起動から所定時間経過後、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A1以上に大きくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B1以上に大きくなった場合、暖房能力が不足する所定の暖房能力不足条件が成立したと判定して、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すようにすれば、放熱器の暖房能力が不足する場合、インジェクション回路により放熱器を出た冷媒の一部を圧縮機に戻し、放熱器による暖房能力を向上させることができるようになる。一方、インジェクション回路への分流により、吸熱器への冷媒流量は減少するので、吸熱器の着霜も防止、若しくは、抑制される。
【0020】
この場合、制御手段は、起動から所定時間経過後、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A1以上に大きくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B1以上に大きくなった場合、暖房能力が不足する所定の暖房能力不足条件が成立したと判定するので、的確に放熱器の暖房能力が不足していることを判定することができるようになる。
【0021】
これらにおいて、請求項4の発明の如く制御手段が、目標放熱器温度と放熱器の温度との差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力と放熱器の圧力との差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、目標吸熱器温度と吸熱器の温度との差が所定値C3以下に小さくなった場合、インジェクション回路の動作を停止することにより、吸熱器の除湿能力の過剰状態、及び、放熱器の暖房能力の不足状態が解消され、吸熱器の除湿能力が不足していることを判定してインジェクション回路の動作を停止させることができるようになる。
【0022】
また、外気温度が低い状況下で除湿暖房モードが行われる場合、暖房能力を上げるために圧縮機の回転数も高くなるが、上記各発明に加えて請求項5の発明の如く制御手段が、起動から所定時間経過する前に、外気温度が所定値T1より低く、且つ、車室内への目標吹出温度が所定値TA1より高い場合、低外気温度下での起動となる所定の低外気温起動条件が成立したと判定して、インジェクション回路を動作させ、圧縮機に冷媒を戻すことにより、更に放熱器による暖房能力の向上が図られると共に、同様に吸熱器への冷媒流量も減少することになるので、吸熱器の着霜も防止、若しくは、抑制することができるようになる。
【0023】
この場合、制御手段は、起動から所定時間経過する前に、外気温度が所定値T1より低く、且つ、車室内への目標吹出温度が所定値TA1より高い場合、低外気温度下での起動となる所定の低外気温起動条件が成立したと判定するので、低外気温度下での起動であることを的確に判定することができるようになる。
【0024】
そして、請求項6の発明の如く制御手段が、外気温度が所定値T2より高くなり、且つ、目標吹出温度が所定値TA2より低くなった場合、インジェクション回路の動作を停止することにより、低外気温度環境の解消を的確に判定してインジェクション回路の動作を停止させることができるようになる。
【0025】
特に、請求項7の発明の如く室外熱交換器に流入する冷媒を減圧する室外膨張弁を備え、この室外膨張弁の手前で冷媒を分流し、減圧した後、吸熱器に流すと共に、制御手段が、放熱器の目標放熱器圧力に基づいて圧縮機の回転数を制御し、吸熱器の目標吸熱器温度に基づいて室外膨張弁の弁開度を制御する場合に、以上の発明は極めて有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明を適用した一実施形態の車両用空気調和装置の構成図である。
図2図1の車両用空気調和装置のコントローラの電気回路のブロック図である。
図3図1の車両用空気調和装置のインジェクション時のP−h線図である。
図4図2のコントローラによる除湿暖房モードでの圧縮機制御に関する制御ブロック図である。
図5図2のコントローラによる目標吹出温度の決定を説明する図である。
図6図2のコントローラによる除湿暖房モードでの室外膨張弁制御に関する制御ブロック図である。
図7図2のコントローラによる除湿暖房モードでのインジェクション膨張弁制御に関する制御ブロック図である。
図8図2のコントローラの動作を説明するフローチャートである。
図9図2のコントローラによる除湿暖房モードでのインジェクション回路の目標インジェクション冷媒過熱度の決定に関する制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。この場合、本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)を有さない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものとする。即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房、除湿暖房、除湿冷房、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。
【0028】
尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能であることは云うまでもない。
【0029】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられて圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室外膨張弁6と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。尚、室外熱交換器7には、外気と冷媒とを熱交換させるための室外送風機15が設けられている。
【0030】
また、室外熱交換器7は冷媒下流側にレシーバドライヤ部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される電磁弁(開閉弁)17を介してレシーバドライヤ部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。尚、レシーバドライヤ部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0031】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0032】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁(開閉弁)21を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁(開閉弁)22を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0033】
また、室外膨張弁6には並列にバイパス配管13Jが接続されており、このバイパス配管13Jには、冷房モードにおいて開放され、室外膨張弁6をバイパスして冷媒を流すための電磁弁(開閉弁)20が介設されている。
【0034】
また、放熱器4を出た直後(冷媒配管13F、13Iに分岐する手前)の冷媒配管13Eは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Kはインジェクション制御用の電動弁から成るインジェクション膨張弁30を介して圧縮機2の圧縮途中に連通接続されている。そして、このインジェクション膨張弁30の出口側と圧縮機2間の冷媒配管13Kは、圧縮機2の吐出側に位置する冷媒配管13Gと熱交換関係に設けられ、両者で吐出側熱交換器35を構成している。
【0035】
これら冷媒配管13K、インジェクション膨張弁30、及び、吐出側熱交換器35からインジェクション回路40が構成される。このインジェクション回路40は、放熱器4から出た冷媒の一部を分流して圧縮機2の圧縮途中に戻す(ガスインジェクション)ための回路であり、このインジェクション回路40が動作する場合、インジェクション膨張弁30が開き、放熱器4から出た冷媒の一部が冷媒配管13Kに分流される。
【0036】
このインジェクション膨張弁30は冷媒配管13Kに流入した冷媒を減圧した後、吐出側熱交換器35に流入させる。吐出側熱交換器35に流入した冷媒は、圧縮機2から冷媒配管13Gに吐出され、放熱器4に流入する前の冷媒と熱交換し、冷媒配管13Gを流れる冷媒から吸熱して蒸発する構成とされている。吐出側熱交換器35で冷媒配管13Kに分流された冷媒が蒸発することで、圧縮機2へのガスインジェクションが行われることになる。
【0037】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0038】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット(乗員の足下に向けて吹き出す)、ベント(乗員の上半身に向けて吹き出す)、デフ(フロントガラスの内面に吹き出す)の各吹出口(図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0039】
次に、図2において32はマイクロコンピュータから構成された制御手段としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力を検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4から出た直後の温度、又は、放熱器4自体の温度、又は、放熱器4にて加熱された直後の空気の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9から出た直後の温度、又は、吸熱器9自体、又は、吸熱器9にて冷却された直後の空気の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や運転モードの切り換えを設定するための空調(エアコン)操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0040】
また、コントローラ32の入力には更に、インジェクション回路40の冷媒配管13Kに流入し、吐出側熱交換器35を経て圧縮機2の圧縮途中に戻るインジェクション冷媒の圧力を検出するインジェクション圧力センサ50と、該インジェクション冷媒の温度を検出するインジェクション温度センサ55の各出力も接続されている。
【0041】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁22、17、21、20と、インジェクション膨張弁30と、蒸発能力制御弁11が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0042】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モードと、除湿暖房モードと、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0043】
(1)暖房モードの冷媒の流れ
コントローラ32により(オート)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22及び電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経た後、放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0044】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、一部はインジェクション回路40の冷媒配管13Kに分流され、主には冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。尚、インジェクション回路40の機能作用については後述する。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(ヒートポンプ)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0045】
コントローラ32は、実施例では放熱器圧力センサ47(又は吐出圧力センサ42)が検出する放熱器4の冷媒圧力Pci(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器4の通過風量と後述する目標吹出温度に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。尚、室外膨張弁6の弁開度は、それらの代わりに或いはそれらに加えて放熱器4の温度や外気温度に基づいて制御してもよい。
【0046】
(2)除湿暖房モードの冷媒の流れ
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0047】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0048】
コントローラ32は実施例では放熱器圧力センサ47(又は吐出圧力センサ42)が検出する放熱器4の冷媒圧力Pci(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)と吸熱器9の温度の目標値である目標吸熱器温度TEOに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。尚、この除湿暖房モードにおけるインジェクション回路40によるガスインジェクションの制御については後述する。
【0049】
(3)内部サイクルモードの冷媒の流れ
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を全閉とする(全閉位置)と共に、電磁弁21も閉じる。この室外膨張弁6と電磁弁21が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入、及び、室外熱交換器7からの冷媒の流出は阻止されることになるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0050】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0051】
コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度によるか高圧圧力によるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。尚、この内部サイクルモードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0052】
(4)除湿冷房モードの冷媒の流れ
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経て放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0053】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0054】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0055】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0056】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力Pci)を制御する。尚、この除湿冷房モードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0057】
(5)冷房モードの冷媒の流れ
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において電磁弁20を開き(この場合、室外膨張弁6は全開(弁開度を制御上限)を含む何れの弁開度でもよい)、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風されない状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経て放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されないので、ここは通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て電磁弁20及び室外膨張弁6に至る。
【0058】
このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は室外膨張弁6を迂回してバイパス配管13Jを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0059】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却される。
【0060】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過すること無く吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。尚、この冷房モードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0061】
(6)運転モードの切換制御
コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて運転モードを選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各運転モードを選択し、切り換えていく。この場合、コントローラ32は基本的には暖房モードから除湿暖房モードへ、或いは、除湿暖房モードから暖房モードへと移行し、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ、或いは、除湿冷房モードから除湿暖房モードへと移行し、除湿冷房モードから冷房モードへ、或いは、冷房モードから除湿冷房モードへと移行するものであるが、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ移行する際、及び、除湿冷房モードから除湿暖房モードへ移行する際には、前記内部サイクルモードを経由して移行する。また、冷房モードから内部サイクルモードへ、内部サイクルモードから冷房モードへ移行する場合もある。
【0062】
(7)インジェクション回路によるガスインジェクション
次に、前記除湿暖房モードにおけるガスインジェクションについて説明する。図3は除湿暖房モードにおける本発明の車両用空気調和装置1のP−h線図を示している。インジェクション膨張弁30が開いているとき、放熱器4を出て冷媒配管13Eに入り、その後、分流されてインジェクション回路40の冷媒配管13Kに流入した冷媒は、インジェクション膨張弁30で減圧された後、吐出側熱交換器35に入り、そこで圧縮機2の吐出冷媒(圧縮機2から吐出されて放熱器4に流入する前の冷媒)と熱交換し、吸熱して蒸発する。蒸発したガス冷媒は、その後、圧縮機2の圧縮途中に戻り、アキュムレータ12から吸い込まれて圧縮されている冷媒と共に更に圧縮された後、再度圧縮機2から冷媒配管13Gに吐出されることになる。
【0063】
図3において35で示す線がインジェクション回路40の吐出側熱交換器35で蒸発した後、圧縮機2に戻される冷媒である。インジェクション回路40から圧縮機2の圧縮途中に冷媒を戻すことにより、圧縮機2から吐出される冷媒量が増大するので、放熱器4における暖房能力は向上する。また、インジェクション回路40に分流される分、室外熱交換器7や吸熱器9の冷媒流量は減少することになるので、吸熱器9の温度低下、及び、吸熱器9での除湿能力は抑制されることになる。
【0064】
一方、圧縮機2に液冷媒が戻ると液圧縮を引き起こしてしまうので、インジェクション回路40から圧縮機2に戻す冷媒はガスでなければならない。そのためにコントローラ32は、インジェクション圧力センサ50及びインジェクション温度センサ55がそれぞれ検出する吐出側熱交換器35後の冷媒の圧力及び温度から圧縮機2の圧縮途中に向かう冷媒の過熱度を監視しており、吐出冷媒との熱交換で所定の過熱度が付くようにインジェクション膨張弁30の弁開度を制御するものであるが、実施例では吐出側熱交換器35において、圧縮機2から吐出されて放熱器4に流入する前の極めて高温の冷媒とインジェクション回路40を流れる冷媒とを熱交換させているので、大きな熱交換量が得られる。従って、インジェクション膨張弁30の弁開度を大きくしてインジェクション量を増やしても、冷媒は吐出側熱交換器35において十分に蒸発することができ、必要な過熱度が得られることになる。
【0065】
これにより、従来の如く放熱器後の冷媒とインジェクション冷媒とを熱交換させる場合に比して、圧縮機2へのガスインジェクション量を十分に確保し、圧縮機2の吐出冷媒量を増大させて暖房能力の向上を図ることができるようになる。
【0066】
次に、図4乃至図9を参照しながら前記除湿暖房モードにおけるコントローラ32の圧縮機2、室外膨張弁6、インジェクション膨張弁30の制御ブロックについて説明する。
【0067】
(8)除湿暖房モードでの圧縮機の制御
図4は前記除湿暖房モード(暖房モードも同じ)用の圧縮機2の目標回転数(圧縮機目標回転数)TGNChを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F(フィードフォワード)操作量演算部58は外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、室内送風機27のブロワ電圧BLVと、SW=(TAO−Te)/(TH−Te)で得られるエアミックスダンパ28のエアミックスダンパ開度SWと、放熱器4の温度の目標値である目標放熱器温度TCOと、放熱器4の圧力の目標値である目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機目標回転数のF/F操作量TGNChffを演算する。
【0068】
尚、TAOは吹出口29からの空気温度の目標値である目標吹出温度、THは放熱器温度センサ46から得られる放熱器4の温度(放熱器温度)、Teは吸熱器温度センサ48から得られる吸熱器9の温度(吸熱器温度)であり、エアミックスダンパ開度SWは0≦SW≦1の範囲で変化し、0で放熱器4への通風をしないエアミックス全閉状態、1で空気流通路3内の全ての空気を放熱器4に通風するエアミックス全開状態となる。
【0069】
また、目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気温度の目標値であり、下記式(I)からコントローラ32が算出する。
TAO=(Tset−Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは図5に示すように外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0070】
また、コントローラ32は、上記目標吹出温度TAOから前記目標放熱器温度TCOを算出する。そして、前記目標放熱器圧力PCOはこの目標放熱器温度TCOに基づいて目標値演算部59が演算する。更に、F/B(フィードバック)操作量演算部60はこの目標放熱器圧力PCOと放熱器4の冷媒圧力である放熱器圧力Pciに基づいて圧縮機目標回転数のF/B操作量TGNChfbを演算する。そして、F/F操作量演算部58が演算したF/F操作量TGNChffとF/B操作量演算部60が演算したTGNChfbは加算器61で加算され、リミット設定部62で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、圧縮機目標回転数TGNChとして決定される。前記除湿暖房モード(暖房モードも同様)においては、コントローラ32はこの圧縮機目標回転数TGNChに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0071】
即ち、放熱器4に放熱させて車室内の暖房作用を奏する除湿暖房モード及び暖房モードでは、目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)と放熱器圧力Pciに基づいて圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNChを決定し、制御する。
【0072】
(9)除湿暖房モードでの室外膨張弁の制御
次に、図6は前記除湿暖房モード用の室外膨張弁6の目標開度(室外膨張弁目標開度)TGECCVteを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のF/F操作量演算部63は、目標吸熱器温度TEOと、目標放熱器温度TCOと、ブロワ電圧BLVと、外気温度Tamと、前記エアミックスダンパ開度SWに基づいて室外膨張弁目標開度のF/F操作量TGECCVteffを演算する。
【0073】
尚、コントローラ32には外気温度Tamと当該外気温度Tamの環境で必要な湿度を得るための吸熱器温度の関係を予め求めたデータテーブルが格納されており、上記目標吸熱器温度TEOはこのデータテーブルに基づいて決定される。
【0074】
また、F/B操作量演算部64は目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVtefbを演算する。そして、F/F操作量演算部63が演算したF/F操作量TGECCVteffとF/B操作量演算部64が演算したF/B操作量TGECCVtefbは加算器66で加算され、リミット設定部67で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、室外膨張弁目標開度TGECCVteとして決定される。除湿暖房モードにおいては、コントローラ32はこの室外膨張弁目標開度TGECCVteに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0075】
即ち、除湿暖房モードにおいては目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁6の室外膨張弁目標開度TGECCVteを決定し、制御する。
【0076】
(10)除湿暖房モードでのインジェクション膨張弁の制御
次に、図7は前記除湿暖房モード用のインジェクション回路40のインジェクション膨張弁30の目標開度(インジェクション膨張弁目標開度)TGECCVshを決定するコントローラ32の制御ブロック図である。コントローラ32のインジェクション冷媒過熱度演算部68は、インジェクション温度センサ55が検出するインジェクション冷媒の温度(インジェクション冷媒温度Tinj)と、飽和温度Tsatuinjの差に基づき、インジェクション回路40から圧縮機2の圧縮途中に戻されるインジェクション冷媒の過熱度(インジェクション冷媒過熱度)SHinjを算出する。
【0077】
次に、F/B操作量演算部69はインジェクション冷媒過熱度演算部68が算出したインジェクション冷媒過熱度SHinjと、インジェクション回路40から圧縮機2の圧縮途中に戻されるインジェクション冷媒の過熱度の目標値(目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinj)に基づいてインジェクション膨張弁目標開度のF/B操作量TGECCVshfbを演算する。尚、目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjの決定方法については後に詳述する。また、F/B操作量演算部69は、後述するインジェクション要求フラグfINJOnreqが「1」(セット)されているときに動作し、「0」(リセット)されているときには演算を停止する。
【0078】
そして、F/B操作量演算部69が演算したF/B操作量TGECCVshfbと、予め決定されているインジェクション膨張弁30のF/F操作量TGECCVshffが加算器71で加算され、リミット設定部72で制御上限値と制御下限値のリミットが付けられた後、インジェクション可否切換部73に入力される。このインジェクション可否切換部73には、更に「0」(インジェクション膨張弁30は全閉)が入力され、インジェクション要求フラグfINJOnreqが「1」(セット)のときは、リミット設定部72を経た値がインジェクション膨張弁目標開度TGECCVshとして決定され、出力される。
【0079】
尚、インジェクション可否切換部73は、インジェクション要求フラグfINJOnreqが「0」(リセット)のときは、「0」をインジェクション膨張弁目標開度TGECCVshとして出力する。即ち、インジェクション要求フラグfINJOnreqがセット「1」されているときには、コントローラ32はインジェクション冷媒の過熱度SHinjと目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjとに基づいてインジェクション膨張弁30のインジェクション膨張弁目標開度TGECCVshを決定し、その弁開度を制御すると共に、インジェクション要求フラグfINJOnreqがリセット「0」されているときは、インジェクション膨張弁30を閉じ(弁開度「0」の全閉)、インジェクション回路40によるガスインジェクションを停止する。
【0080】
(11)除湿暖房モードでのガスインジェクション制御
次に、コントローラ32による除湿暖房モードでの具体的なガスインジェクション制御について説明する。図8はこの場合のコントローラ32の動作を説明するフローチャートである。コントローラ32は図8のステップS1で各センサからデータを読み込み、ステップS2で現在が除湿暖房モードであるか判断し、除湿暖房モードであればステップS3に進んでガスインジェクション要求(INJON要求。インジェクション回路40を動作させるか否か)があるか否かの判定を行う。
【0081】
(11−1)ガスインジェクション要求判定
次に、ステップS3におけるコントローラ32によるガスインジェクション要求の判定について説明する。コントローラ32は、実施例では以下の(i)〜(iii)の3つの条件のうちの何れかが成立した場合にガスインジェクション要求あり(INJON要求あり)と判定し、前述したインジェクション要求フラグfINJOnreqを「1」(セット)とする。即ち、
【0082】
(i)暖房能力不足条件
この暖房能力不足条件は、放熱器4における暖房能力が不足しているか否かの判定基準であり、実施例では;
・(TCO−TH)≧A1
・(PCO−Pci)≧B1
・起動後経過時間≧t1
の全てが成立したときに暖房能力不足条件成立と判定する。即ち、起動から所定時間t1以上経過後、目標放熱器温度TCOと放熱器温度THとの差が所定値A1以上に大きくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciとの差が所定値B1以上に大きくなった場合、コントローラ32は暖房能力不足条件が成立と判定し、暖房能力不足フラグfHTRlackを「1」(セット)とする。尚、前記A1、B1は放熱器4の実際の温度や圧力とそれらの目標値との差が拡大して暖房能力の不足と判定できる所定のしきい値であり、例えばA1は5deg、B1は0.2MPaとする。また、t1は起動から運転状態が安定するまでは判断しないための時間であり、例えば5min程とする。
【0083】
(ii)除湿能力過剰条件
この除湿能力過剰条件は、吸熱器9における除湿能力が過剰となっているか否かの判断基準であり、実施例では;
・(TCO−TH)≦A2
・(PCOーPci)≦B2
・Te≦C2
の全てが成立したときに除湿能力過剰条件成立と判定する。即ち、目標放熱器温度TCOと放熱器温度THとの差が所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciとの差が所定値B2以下に小さくなり、且つ、吸熱器温度Teが所定値C2以下に低下した場合、コントローラ32は除湿能力過剰条件が成立と判定し、除湿能力過剰フラグfEVAoverを「1」(セット)とする。尚、前記A2、B2は放熱器4の実際の温度や圧力とそれらの目標値との差が縮小して暖房能力は足りていると判定できる所定のしきい値であり、例えばA2は2deg、B2は0.05MPaとする。また、C2は吸熱器9に着霜させない為の制御下限値であり、例えば+1℃程とする。
【0084】
(iii)低外気温起動条件
この低外気温起動条件は、低外気温度下での起動であるか否かの判断基準であり、実施例では;
・Tam<T1
・TAO>TA1
・起動後経過時間<t1
の全てが成立したときに低外気温起動条件成立と判定する。即ち、起動から所定時間t1経過する前であって、外気温度Tamが所定値T1より低く、且つ、車室内への目標吹出温度TAOが所定値TA1より高い場合、コントローラ32は低外気温起動条件が成立と判定し、低外気温起動フラグfHeatUpを「1」(セット)とする。尚、前記T1、TA1は外気温度が低く、車室内に吹き出す温風の温度も高い値が要求されていると判定できる所定のしきい値であり、例えばT1は+5℃、TA1は+60℃とする。また、T1は前述同様の5min程である。
【0085】
コントローラ32はステップS3で上記のように実施例では、暖房能力不足条件、除湿能力過剰条件、及び、低外気温起動条件の全てを判定し、何れかが成立して暖房能力不足フラグfHTRlack、除湿能力過剰フラグfEVAover、及び、低外気温起動フラグfHeatUpの何れかがセット(「1」)された場合、インジェクション要求フラグfINJOnreqをセット(「1」)する。
【0086】
コントローラ32は次にステップS4でインジェクション要求フラグfINJOnreqがセットされ、ガスインジェクション要求(INJON要求)があるか否か判断し、インジェクション要求フラグfINJOnreqがセットされている場合、ステップS5に進んで目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjを演算する。
【0087】
図9はこの場合のコントローラ32による目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjの決定に関する制御ブロック図である。コントローラ32の暖房能力不足時TGSH演算部76は、予め決定された暖房能力不足時TGSHテーブル(図9)に基づいて暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1を決定する。この場合、暖房能力不足時TGSH演算部76は、目標放熱器温度TCOと放熱器温度THとの差(TCO−TH)が前述したA2(2deg)以下で、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciとの差(PCOーPci)が前述したB2(0.05MPa)以下である場合、暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1を所定の高い値(TGSHHi:例えば50deg)とする。この冷媒過熱度が高いということは、ガスインジェクション量が少なくなることを意味する。
【0088】
また、TCO−THが前述したA1(5deg)以上で、PCOーPciが前述したB1(0.2MPa)以上である場合、暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1を所定の低い値(TGSHLo:例えば20deg)とする。この冷媒過熱度が低いということは、ガスインジェクション量が多くなることを意味する。
【0089】
そして、TCO−THがA2とA1の間、PCOーPciがB2とB1の間にある場合、所定のヒステリシスをもって暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1をTGSHHiとTGSHLoの間でリニアに変化させる。
【0090】
即ち、コントローラ32は放熱器4の目標放熱器温度TCOと放熱器温度THとの差(TCO−TH)と、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciとの差(PCOーPci)が小さいときはガスインジェクション量を少なくし、大きいときはガスインジェクション量を多くするように暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1を変化させる。
【0091】
また、コントローラ32の除湿能力過剰時TGSH演算部77は、予め決定された除湿能力過剰時TGSHテーブル(図9)に基づいて除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2を決定する。この場合、除湿能力過剰時TGSH演算部77は、吸熱器温度Teが前述したC2(+1℃)以下である場合、除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2を前記TGSHLoとする。
【0092】
また、吸熱器温度Teが所定の高い値C4(例えば、+7℃)以上である場合、除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2を前記TGSHHiとする。そして、TeがC2とC4の間にある場合、所定のヒステリシスをもって除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2をTGSHLoとTGSHHiの間でリニアに変化させる。
【0093】
即ち、コントローラ32は吸熱器9の吸熱器温度Teが低いときはガスインジェクション量を多くし、高いときはガスインジェクション量を少なくするように除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2を変化させる。
【0094】
これら暖房能力不足時TGSH演算部76が決定した暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1と、除湿能力過剰時TGSH演算部77が決定した除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2は、TGSH第1切換部78にそれぞれ入力され、前述した暖房能力不足フラグfHTRlackがセット(「1」)されている場合は暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1が、リセット(「0」)されている場合は(従って、除湿能力過剰フラグfEVAoverがセットされているとこの時点では推定される)、除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2がTGSH第1切換部78から出力され、TGSH第2切換部79に入力される。
【0095】
このTGSH第2切換部79には更に、低外気温時TGSH演算部81が決定した低外気温起動時目標インジェクション冷媒過熱度TGSHHeatUpが入力される。尚、起動時にはガスインジェクション量を多くしたいため、実施例ではこの低外気温起動時目標インジェクション冷媒過熱度TGSHHeatUpを20degに固定している。そして、前述した低外気温起動フラグfHeatUpがセット(「1」)されている場合、この低外気温起動時目標インジェクション冷媒過熱度TGSHHeatUp(20deg)が、リセット(「0」)されている場合は、暖房能力不足時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH1か除湿能力過剰時目標インジェクション冷媒過熱度TGSH2が第2切換部79から出力され、目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjとして算出される。
【0096】
そして、コントローラ32はステップS6で、インジェクション回路40を動作させた除湿暖房モードを実行する。即ち、図4で説明した如く目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)と放熱器圧力Pci(高圧圧力)に基づいて圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNChを決定し、圧縮機2の回転数をフィードバック制御し、図6で説明した如く目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁6の室外膨張弁目標開度TGECCVteを決定し、室外膨張弁6の弁開度をフィードバック制御する。そして、図9で決定した目標インジェクション冷媒過熱度TGSHinjに基づいて図7で説明した如くインジェクション膨張弁30のインジェクション膨張弁目標開度TGECCVshを決定し、インジェクション膨張弁30の弁開度をフィードバック制御して、圧縮機2の圧縮途中へのガスインジェクション量を制御する。
【0097】
尚、実施例ではガスインジェクション要求の判定に際して、暖房能力不足条件、除湿能力過剰条件、低外気温起動条件の三つの条件の全てを判定したが、それに限らず、何れか一つ、若しくは、それらの組み合わせでも良い。
【0098】
(11−2)ガスインジェクション要求解除判定
次に、コントローラ32はステップS7でガスインジェクション要求(INJON要求)の解除(インジェクション回路40の動作を停止)条件が成立しているか否かを判定する。次に、ステップS7におけるコントローラ32によるガスインジェクション要求解除の判定について説明する。コントローラ32は、実施例では以下の(iv)、(v)の2つの条件のうちの何れかが成立した場合にガスインジェクション要求解除(INJON解除)と判定し、前述したインジェクション要求フラグfINJOnreqを「0」(リセット)とする。即ち、
【0099】
(iv)外気温上昇条件
この外気温上昇条件は、外気温度が上昇して低外気温環境から脱したか否かの判断基準であり、実施例では;
・Tam>T2
・TAO<TA2
の全てが成立したときに外気温上昇条件成立と判定する。即ち、外気温度Tamが所定値T2より高くなり、且つ、車室内への目標吹出温度TAOが所定値TA2より低い場合、コントローラ32は外気温上昇条件が成立と判定し、外気温上昇フラグfTamUpを「1」(セット)とする。尚、前記T2、TA2は外気温度が高く、車室内に吹き出す温風の温度も低下してきたと判定できる所定のしきい値であり、例えばT2は+15℃、TA2は+50℃とする。
【0100】
(v)除湿能力不足条件
この除湿能力不足条件は、吸熱器9における除湿能力が不足しているか否かの判断基準であり、実施例では;
・(TCO−TH)≦A2
・(PCOーPci)≦B2
・(TEO−Te)≦C3
の全てが成立したときに除湿能力不足条件成立と判定する。即ち、目標放熱器温度TCOと放熱器温度THとの差が前記所定値A2以下に小さくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciとの差が前記所定値B2以下に小さくなり、且つ、目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teとの差(TEO−Te)が所定値C3以下に小さくなった場合、コントローラ32は除湿能力不足条件が成立と判定し、除湿能力不足フラグfEVAlackを「1」(セット)とする。尚、C3は吸熱器9の温度が不足(吸熱器温度Teが上昇)していることを判定できる所定のしきい値であり、例えば−1degとする。
【0101】
コントローラ32はステップS7で上記のように実施例では、外気温上昇条件、及び、除湿能力不足条件の全てを判定し、何れかが成立して外気温上昇フラグfTamUp、及び、除湿能力不足フラグfEVAlackの何れかがセット(「1」)された場合、インジェクション要求フラグfINJOnreqをリセット(「0」)する。
【0102】
尚、実施例ではガスインジェクション要求解除の判定に際して、外気温上昇条件、除湿能力不足条件の二つの条件の全てを判定したが、それに限らず、何れか一つでも良い。
【0103】
これにより、コントローラ32はステップS4からはステップS8に進むようになる。このステップS8では、インジェクション回路40を停止した除湿暖房モードを実行する。即ち、図4で説明した如く目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)と放熱器圧力Pci(高圧圧力)に基づいて圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNChを決定し、圧縮機2の回転数をフィードバック制御し、図6で説明した如く目標吸熱器温度TEOと吸熱器温度Teに基づいて室外膨張弁6の室外膨張弁目標開度TGECCVteを決定し、室外膨張弁6の弁開度をフィードバック制御することになる。
【0104】
以上詳述した如く本発明では、放熱器4を出た冷媒の一部を分流して圧縮機2に戻すインジェクション回路40を備えた車両用空気調和装置1において、コントローラ32は除湿暖房モードで、暖房能力が不足する所定の暖房能力不足条件、除湿能力が過剰となる所定の除湿能力過剰条件、低外気温度下での起動となる所定の低外気温起動条件が成立する場合、インジェクション回路40を動作させ、圧縮機2に冷媒を戻すようにしたので、放熱器4の暖房能力が不足する場合、インジェクション回路40により放熱器4を出た冷媒の一部を圧縮機2の圧縮途中に戻し、放熱器4による暖房能力を向上させることができるようになる。一方、インジェクション回路40への分流により、吸熱器9への冷媒流量は減少するので、吸熱器9の着霜も防止、若しくは、抑制される。
【0105】
また、吸熱器9による除湿能力が過剰となる場合、インジェクション回路40を動作させることで、放熱器4の暖房能力が向上するので、それにより圧縮機2の回転数も低下する。これにより、吸熱器9への冷媒流量も減少するので、除湿能力を抑制することができるようになると共に、着霜も防止、若しくは、抑制されるようになる。
【0106】
また、外気温度が低い状況下で除湿暖房モードが行われる場合、暖房能力を上げるために圧縮機2の回転数も高くなるが、インジェクション回路40を動作させることにより、更に放熱器4による暖房能力の向上が図られると共に、同様に吸熱器9への冷媒流量も減少することになるので、吸熱器9の着霜も防止、若しくは、抑制することができるようになる。
【0107】
これらにより、本発明によれば除湿暖房モードにおいて、放熱器4と吸熱器9の温度を適切に制御し、吸熱器9への着霜を回避しながら、放熱器4による暖房能力を確保することができるようになる。また、吸熱器9への冷媒流量過多を回避することができるので、吸熱器9の出口に設けられる蒸発能力制御弁11を廃止することも可能となる。
【0108】
また、ベントとフットに吹き出す所謂B/Lモードにおいて、放熱器4による暖房能力が不足する場合に有効であり、除湿暖房モードでのB/Lモードの有効範囲が拡大することにより、前述した内部サイクルモードを廃止できる効果も期待できる。
【0109】
この場合、コントローラ32は起動から所定時間経過後、目標放熱器温度TCOと放熱器4の放熱器温度THとの差が大きくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器4の放熱器圧力Pciとの差が大きくなった場合、暖房能力不足条件が成立と判定するので、的確に放熱器4の暖房能力が不足していることを判定することができるようになる。
【0110】
また、コントローラ32は、目標放熱器温度TCOと放熱器4の放熱器温度THとの差が小さくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器4の放熱器圧力Pciとの差が小さくなり、且つ、吸熱器9の吸熱器温度Teが低下した場合、除湿能力過剰条件が成立と判定するので、的確に吸熱器9の除湿能力が過剰となっていることを判定することができるようになる。
【0111】
そして、これらにおいてコントローラ32は、目標放熱器温度TCOと放熱器4の放熱器温度THとの差が小さくなり、且つ、目標放熱器圧力PCOと放熱器4の放熱器圧力Pciとの差が小さくなり、且つ、目標吸熱器温度TEOと吸熱器9の吸熱器温度Teとの差が小さくなった場合、インジェクション回路40の動作を停止するので、放熱器4の暖房能力の不足状態、及び、吸熱器9の除湿能力の過剰状態が解消され、逆に吸熱器9の除湿能力が不足していることを判定してインジェクション回路40の動作を停止させることができるようになる。
【0112】
また、コントローラ32は起動から所定時間以内に、外気温度Tamが低く、且つ、車室内への目標吹出温度TAOが高い場合、低外気温起動条件が成立と判定するので、低外気温度下での起動であることを的確に判定することができるようになる。
【0113】
そして、コントローラ32は、外気温度Tamが上昇し、且つ、目標吹出温度TAOが低下した場合、インジェクション回路40の動作を停止するので、低外気温度環境の解消を的確に判定してインジェクション回路40の動作を停止させることができるようになる。
【0114】
上記は特に、実施例の如く室外熱交換器7に流入する冷媒を減圧する室外膨張弁6を備え、この室外膨張弁6の手前で冷媒を分流し、減圧した後、吸熱器9に流すと共に、コントローラ32が、放熱器4の目標放熱器圧力PCOに基づいて圧縮機2の回転数を制御し、吸熱器9の目標吸熱器温度TEOに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する場合に極めて有効となる。
【0115】
尚、実施例では暖房モード、除湿暖房モード、除湿冷房モード、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する車両用空気調和装置1について本発明を適用したが、それに限らず、除湿暖房モードのみ行うものにも本発明は有効である。
【0116】
更に、上記実施例で説明した冷媒回路Rの構成や各数値はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0117】
1 車両用空気調和装置
2 圧縮機
3 空気流通路
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
8 室内膨張弁
9 吸熱器
11 蒸発能力制御弁
17、20、21、22 電磁弁
26 吸込切換ダンパ
27 室内送風機(ブロワファン)
28 エアミックスダンパ
32 コントローラ(制御手段)
30 インジェクション膨張弁
40 インジェクション回路
35 吐出側熱交換器
R 冷媒回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9